説明

ケーソン式港湾施設の耐震補強工法と工法に使用する円筒構造体。

【課題】岸壁を休止することなく,レベル2地震動における捨石マウンドの挙動にも対応するケーソン岸壁の耐震補強工法を提供する。
【解決手段】ケーソン岸壁の天端で,ガイドパイプ7b設置工,基礎捨石の所定の位置までのプレボーリング工,円筒構造体8bの貫入工等を行う。円筒構造体8bはケーソン壁体1の底版と頂部を支点とする突起となる張出し部を持つ連続梁を構成する。岸壁供用時には,前記工法間で工事を中断し円筒構造体8b等の天端に仮復旧用キャップ17を取り付けてエプロン5を解放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾施設におけるケーソン式岸壁や護岸等の耐震補強工法及び構造に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の主要港の重力式港湾施設の耐震性能については,先の兵庫県南部地震の教訓が生かされている。一つは係留施設に致命的な被害をもたらした主な要因は,砂地盤の液状化に伴う側方流動であった。このことから液状化対策もかなり進み,供用期間中に1〜2度発生の可能性のある地震(レベル1地震動)に対しては概ね耐震性能を有する構造となってきた。今一つは,施設の供用期間中に発生する確率が低い大規模地震(レベル2地震動)に対しても供用できる耐震性能を高めた施設,特にコンテナ船用係船岸の整備である。すなわちコンテナ船用の健全性を確保した耐震強化岸壁の整備が進められている。耐震強化岸壁は新設ばかりではなく,既設岸壁の強化という方法でも進められている。
【0003】
ケーソン式岸壁,護岸は重力式施設の代表的なもので、重力式施設の安定はケーソン壁体に作用する全鉛直力Wと全水平力P及び基礎支持力の力関係から決まる。重力式施設の安定の特徴は,壁体の転倒の安全率が非常に大きいのに対して,滑り出しが極めて小さいことにある。滑り出しの安全率の算定は次式で与えられる。
安全率 F=fW/P
ここでfは壁体底面と基礎との静止摩擦係数で,基礎が捨石の場合はf=0.6である。滑り出しの安全率が不足している場合,第一に,全鉛直力Wを大きくする壁体重量の増加方法が考えられる。しかし地震時において,壁体質量が増加した分慣性力も増加するので,レベル2地震動のような大規模地震では悪循環となり解決にはならない。これは地盤の沈下や液状化の心配のない良好な地盤であっても重力式施設の耐震性能を高める場合は,極めて厄介な課題として残されている。重力式施設の耐震補強の主な対策は,壁体の滑動抵抗の増大,あるいは壁体滑り出しの原因の一つである地震時土圧の軽減にある。大型重力式施設の対策は,地震時土圧の軽減だけでは困難のようである。
【0004】
現在の岸壁法線及び水深を確保する条件で,既設ケーソン岸壁の滑動抵抗の不足分を負担する方法は,従来の主な工法には二つある。一つはケーソン岸壁前面に鋼管杭等を海底面まで打設し,杭頭部でケーソン岸壁の滑動抵抗の不足分を支える自立式杭の補強工法がある。今一つはケーソン岸壁のケーソン本体にアースアンカーを取る方法で,アンカーの取る方向で二つに分けられる。一つはケーソン壁体の背面斜め下方にアンカーを取り,壁体に作用する全水平力Pの一部を負担する補強工法で,この方法は施工性からアンカー頭部をケーソン頂版付近の後壁にとることが多いようである。今一つは最近提案されたものでケーソン壁体の天端から鉛直下方にアンカーを取り,ケーソン壁体に作用する全鉛直力Wの増大を図る補強工法で,この方法は、壁体質量の増加がないので地震時の慣性力の増加分もないとした考えのものである。(特許文献1参照)
【0005】
【特許文献1】 特許公開2006−70436
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ケーソン岸壁に使用されるケーソンの概要は,当初,蓋のない箱型の鉄筋コンクリート構造物で,製作ヤードで制作され岸壁が建設される海域まで浮体としてえい航され,所定の位置で沈設されてケーソン壁体を形成する。ケーソンは前壁,後壁,側壁,と底版から構成されている。大型のものは内部を格子状に仕切った隔壁で補強されている。内部空間は一般に中詰め材に砂を投入して重力式構造物としての安定を図っている。
第1の課題は,ケーソンの静止摩擦による滑動抵抗力(ケーソン壁体に作用する全鉛直力Wと壁体底面と基礎との静止摩擦係数fの積)と他の滑り出し補強対策工法の滑動防止力とがいかに同時機能させることができるかにある。ここで留意すべきことは、ケーソン壁体底面と捨て石の摩擦係数は静止摩擦係数でf=0.6であるが動摩擦係数は大幅に低下することにある。すなわち,ケーソン壁体がわずかでも滑りだしたならば,壁体に作用する全水平力Pのほとんどは補強工法が受け持たねばならない。
第2の課題は,大型ケーソン式岸壁は,海底地盤に捨石をして台形断面の捨石マウンド構築し,その上にケーソンを設置してケーソン壁体を形成する混成堤形式のものが多い。捨石マウンドは,地震時においては繰り返し水平せん断変位と圧縮沈下が生じる。レベル2地震動に対する補強工法は,この問題を避けることは出来ない。なお,捨石はケーソン壁体を支える意味で使う場合は基礎捨石と称する。
第3の課題は,大型コンテナ岸壁は国際海運物流に組み込まれており,耐震補強のためとはいえ供用休止することは国際海運競争から脱落する。これの対策は,代替岸壁を用意することであるが現実として非常に困難である。
【0007】
従来工法である自立式杭の補強工法は,杭頭が自由端となっているので杭頭部に水平外力が作用した場合,杭は撓み,杭頭部には水平外力に見合った水平変位が生じる。従って自立式杭補強工法は,事前にケーソンの滑動抵抗力に見合う杭頭部変位を与えて,杭頭反力をケーソン壁体に伝達させる必要がある。しかし,大きな杭頭部変位は地盤のクリープ現象により経時と共に地盤反力は減少する。特に支持地盤が粘性土の場合は顕著である。このため自立式杭補強工法は大型岸壁には不向きである。また,補強工事には岸壁の供用休止が必要である。
【0008】
アースアンカーをケーソン壁体斜め下方に取る補強工法は,これの頭部はケーソン壁体に取り付ける。一般にはケーソン頂版付近の後壁で,後壁は取り付けのための補強を必要とする。アンカー引張部には事前に引張力を導入し,定着部は基盤(硬土盤)に固定される。基盤は地震時も不動と見なされる。ところで,ケーソン壁体の滑り出しとは,例えば混成堤形式の岸壁の場合,ケーソン壁体の底面と捨石マウンドの天端の境界面を滑り面とする相対変位である。地震時において混成堤形式の捨石マウンドには,繰り返し水平せん断変位が発生し,基盤と捨石マウンドの天端との相対水平変位は極めて大きな量となる。この時の混成堤形式のケーソン壁体は,捨石マウンドと共に水平変位運動をする。すなわち,ケーソン壁体の底面と捨石マウンドの天端との相対変位は起きてない。このような状態でケーソン壁体と基盤が,アースアンカーで連結されていれば,アースアンカーにはケーソン壁体に作用する全水平力Pの一部では無く,全部を負担しなければならない。例えば設計震度Kh=0.20を0.25に上げる場合,ケーソン壁体の慣性力でいえば,増加分負担は25%であるが全部負担では125%である。このため斜め下方のアースアンカー補強工法は混成堤形式の大型岸壁には不向きである。また,補強工事には岸壁の供用休止が必要である。
【0009】
アースアンカーをケーソン壁体の鉛直方向に取る補強工法は,これの頭部はケーソン壁体に取り付ける。一般にはケーソン壁体の頂版で,頂版は取り付けのための補強を必要とする。アンカー引張部には事前に引張力を導入し,定着部は基盤(硬土盤)に固定される。混成堤形式の岸壁の場合,捨石マウンドは,地震時には繰り返し水平せん断変位と圧縮沈下が生じる。圧縮沈下に対して,アンカー引張部の引張力は低減ないし消滅する。このため鉛直方向のアースアンカー補強工法は混成堤形式の大型岸壁には不向きである。また,補強工事には岸壁の供用休止が必要である。
いずれにせよアースアンカー補強工法は混成堤形式の大型岸壁には不向きである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のケーソン式港湾施設の耐震補強工法は,次の滑り出し安定の2点と作業性の1点,計3点を解決の基本としている。▲1▼問題となるケーソン壁体の滑り出しは,捨石マウンドの天端との相対変位,ズレでありこれを防止する。▲2▼滑り出しの安定は,耐震補強工法の滑動防止力に全部ではなく一部負担させる場合は,ケーソン壁体の静止滑動抵抗力と一体として機能させる。▲3▼岸壁が供用状態でも耐震補強工事を可能な工法とする。
【0011】
解決の基本▲1▼,▲2▼の滑り出し安定の解決手段には二つの方法がある。ここでは,ケーソン壁体の突起を形成する円筒構造体のケーソン底版から下の張り出し部を以降,突起(短突起,又は長突起)と称する。
第1解決手段として,ケーソン壁体内の後部底面に一列に複数の短突起を次の条件で設ける。
複数の短突起は,ケーソン壁体に作用する全水平力Pの全部を負担する。短突起の長さは,個々の捨石の厚さ一般には50cm未満であるので50cmを基本長とする。短突起はケーソン底版を下部支点とし,ケーソン壁体の頂部に上部支点を設けた一本の連続梁の張り出し部とする。短突起はケーソン壁体と一体で,剛性を大きくして変形はない。複数の短突起の間隔は,ケーソン壁体と捨石マウンドの滑り面が複数の短突起の先端を連ねる平面となるようにする。なお,ここでは基本長50cm以下の突起を短突起あるいは短突起形式と称する。
今,短突起の断面を円形とし,有効外径Dを80cm,長さLを50cm程度,配置をケーソン壁体内の後壁に沿って一列,一定間隔とする。間隔は3D〜4Dに収まるのが適当である。短突起を新設するためには,ケーソン底版を円筒状に削孔する。問題は間隔の幅で,ケーソン底版の強度上あまり幅を狭くすることはできない。上記の間隔で収まるかどうかは,新設短突起の本数で決まり,これは既設ケーソン壁体の鉄筋コンクリート構造物として与えられた条件とこれに作用する全水平力Pの大きさで決まる。この方法は,既設のケーソン壁体が構造的に短突起の必要な本数の新設が可能な場合に限定される。
【0012】
第2解決手段として,短突起の必要な本数が確保できない場合,ケーソン壁体内の後部底面に一列に複数の長突起を次の条件で設ける。
複数の長突起は,ケーソン壁体に作用する全水平力Pの増加分を負担する。長突起の長さと本数は,捨石マウンドの水平方向地盤反力が全水平力Pの増加分に見合うものとする。長突起はケーソン底版を下部支点とし,ケーソン壁体の頂部に上部支点を設けた一本の連続梁の張り出し部とする。長突起はケーソン壁体と一体で,根元部の剛性は大きくして変形は生じないが先端部に向けて小さくする。そして長突起は,地震時の捨石マウンドの水平変位には追随できるようなものする。なお,ここでは基本長50cmを超える突起を長突起あるいは長突起形式と称する。
【0013】
解決の基本▲3▼の第3解決手段として,耐震補強工事がどこで分断されても支障が出ないようにする。
国際海運物流に組み込まれている大型コンテナ岸壁とはいえ,24時間365日,係船による占用状態ということはない。少なくとも累積1年の半分以上の時間は空きの状態である。交互にやって来る占用と空きの時間サイクルはいろいろであるが,係船の占用時間は0.5〜2.0日,空き時間はこれよりも長い傾向のようである。しかもコンテナ岸壁の使用のスケジュールは数ヶ月前から確認できる。 本発明の耐震補強工法の基本となる工種は,プレボーリング工とケーソン壁体の突起を形成する円筒構造体の建込み工及び貫入工である。入り組んだ複雑な作業工程ではない。また,補強工事の作業スペースは,ケーソン壁体の上部工表面のエプロンと呼んでいる荷役スペースである。従って耐震補強工法を構成する各部分工法は,単位時間で完結する独立工法とし。各部分工法を組み合わせたサイクルで工程を計画し,各部分工法のいかなるところでも工事を中断してエプロンを開放して岸壁の供用状態を維持できるようにする。
【発明の効果】
【0014】
第1の解決手段,短突起形式の効果は,滑り出し防止の安定は,ケーソン壁体の底面と捨石マウンドの天端部分とのズレを対象としているので,地震時の捨石マウンドの水平剪断変位に対し無理がない。次に地震時のケーソン壁体の滑り出し面が,捨石マウンドの天端ではなく短突起の先端を連ねる水平面,すなわちケーソン壁体下50cm程度(短突起の長さ)の捨石内部の水平面である。このときの静止摩擦係数は捨石と捨石でf=0.8で,壁体底面と捨石のf=0.6に対して33%の増加である。これに対して設計震度Kh=0.20を0.25に上げた場合は,ケーソン壁体の地震時慣性力の増加は25%であるが,静止摩擦係数の増加はこれを大きく上回っている。
本発明のこの方法の滑り出し面は,短突起先端からの水平面で上向きにはならない。これの理由は,上向きになろためにはケーソン壁体を押し上げる必要があるが,静止摩擦係数が1未満で壁体の転倒の安全率が非常に大きいため,押し上げのない滑りになる。滑り出し面が,連続壁体でない短突起の先端を連ねる水平面となるのは,一定間隔に配列された短突起に対して,捨石が水平のアーチアクション作用を起こすことによる。また,滑り出し面から上の捨石はケーソン壁体に作用する全鉛直力Wに組み込まれ,滑り出しの安定に有利に働く。また,短突起をケーソン壁体内の後部に設けることの意味は,全鉛直力Wを有効に活用すること,さらには一般にケーソン壁体にはフーチングが有り,ケーソン底版に短突起を形成する円筒構造体の支点を設けるにあたり構造的に有利な位置であることによる。
【0015】
第2の解決手段,長突起形式の効果は,滑り出し防止の安定は,短突起形式の効果と同様である。次にケーソン壁体の滑り出しの異種工法対策は,ケーソン壁体の滑動抵抗力と異なる補強の滑動防止力とを互いに阻害させずに機能させ,全水平力Pの増加分のみを負担したことにある。例えば,ケーソン壁体内後部の長突起が,捨石の水平地盤反力を得るために前面の捨石を押し出して前方捨石に応力を及ぼし,ケーソン壁体底面がその捨石に摩擦抵抗力を求める。これは阻害させた例である。これに対して本発明の方法は,長突起の根元部の剛性は大きく変形は生じないが先端部に向かって小さく地震時の捨石マウンドの水平変位に追随できるようになっている。すなわち,長突起全体の剛性が大きいのではないので,全水平力Pが集中することなく,必要な水平方向地盤反力は確保しつつ,前方の捨石に有害な応力を伝えることはない。また, 長突起をケーソン壁体内の後部に設けることの意味は,地震時のケーソン壁体底面の地盤反力分布は,前面側に偏った三角形分布になることが多く,背面側はケーソン壁体の摩擦抵抗力にはほとんど寄与されていない。この領域に長突起を設けることは相互阻害の危険を回避することが容易であること,さらには構造的に有利な位置であることは短突起形式と同様である。
長突起の方法は,短突起と異なり,全水平力Pの増加分のみを負担するので,必要本数が減少し,長突起の間隔Dを広げることができる。このため,既設ケーソン壁体の構造条件に制約を受けることが少なく,ほとんどの混成堤形式のケーソン岸壁に適用できる。
なお,短突起,長突起のいずれの方法でも耐震補強が可能な場合,どちらが優れているかは一概にはいえない。既設ケーソン壁体の構造条件とこれに作用する全水平力Pの大きさ,施工条件,工期,工事費等総合的に判断される。
【0016】
第3の解決手段の効果は,岸壁の供用を休止しないで耐震補強工事が実現できることにある。
本発明の耐震補強工法の基本となる部分工法は,▲1▼ガイドパイプのプレボーリング工及び設置工,▲2▼円筒構造体のプレボーリング工,▲3▼円筒構造体の建込み貫入工の3種類である。作業サイクルは,この3部分工法のこの順序の組み合わせたものでシンプルである。岸壁を供用する場合は,適当な部分工法の完了で中断して,ガイドパイプあるいは円筒構造体の天端に仮復旧用のキャップを取り付けてエプロンを速やかに解放し岸壁を供用の状態を維持する。本発明の工法は,工程管理が容易であるため岸壁使用予定の変更にも臨機応変に実施出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,本発明の耐震補強工法の実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明のケーソン式岸壁の耐震補強工法を示す断面図で,ケーソン壁体1のケーソン底版1dに突起が新設された状態を示す横断面図である。
本発明の耐震補強工法には,短突起形式と長突起方式がある。ここの例は長突起方式であるが施工方法は同じである。
図に基づき詳しく説明すると,符号1はケーソン壁体,1aはケーソン前壁,1bはケーソン後壁,1cはケーソン側壁(図2に示す),1dはケーソン底版,1eはケーソンフーチング,1fはケーソン頂版,1gはケーソン隔壁,2は中詰材,3は捨石マウンド,4は上部路盤工,5はエプロン(エプロン舗装),6は基盤,8bは円筒構造体,11は裏込め石,12は埋立て地盤,13は置換砂,14は海底地盤,15は海面である。
図1は,円筒構造体8bをケーソン壁体1の後壁1bの内側に一列に配置して長突起を新設した断面図である。長突起はケーソン底版1dを下部支点Aに,頂部(ここではケーソン頂版)に上部支点Bを設けて,ケーソン壁体1と一体となった一本の連続梁の張り出し部としている。
【0019】
図2はケーソン壁体1の中間高さにおける平面図である。符号1cはケーソン側壁である。円筒構造体8bのケーソン底版1dの平面配置は,ケーソン後壁1bとケーソン側壁1cの隅各部を選定している。これは突起を形成する円筒構造体8bを設置するにあたり,ケーソン底版1dを円筒状に削孔するが,遇各部は構造的に強い部分であり,また下部支点としては背面のケーソンフーチング1eが支点桁の役目を果たし好適である。
【0020】
図3はケーソン底版1dの突起を新設する施工説明図である。本発明の補強工法は,突起を形成する円筒構造体8bを所定の位置に建込み貫入するにあたりプレボーリング(先行掘)を行う。対象はエプロン5,上部路盤工4,ケーソン頂版1f,中詰材2(通常は砂),ケーソン底版1d,基礎捨石3である。
プレボーリングの削孔には,二重回転式の削孔掘進機が使われる。この削孔掘進機は,先端に刃先を持つケーシングとその中のスクリューが逆回転する機構で,反動トルクを打ち消し,強力な削孔力と鉛直精度の高さが特徴である。この削孔掘進機の削孔断面の直径は,ケーシングに対して若干大きめな径であり,コンクリートの削孔壁面はなめらかな仕上がりとなる。この削孔掘進機は,岩盤層,礫層の削孔や地下の障害物となる鉄筋コンクリートスラブ,梁等の削孔撤去に実績がある。また,本発明の補強工法は,削孔掘進機のケーシングを孔壁崩壊防止として利用せず,プレボーリング後撤去する。これは削孔掘進機のケーシングを利用すると,円筒構造体8bの直径はこれより当然小さくなり,削孔径との隙間がそれだけ大きくなる。これを防ぐため,円筒構造体8bの外径をケーシングを同じものとする。このためプレボーリングは,ケーシングの径を変えて2段階で行われる。
【0021】
図3の(1)は1段階目のプレボーリング工で,ガイドパイプ7bのガイドパイププレボーリング7aである。ケーシングの径は,円筒構造体8bの外径よりも大きめなものである。削孔の対象はエプロン5,上部路盤工4,ケーソン頂版1fである。
図3の(2)はガイドパイプ7b設置工である。ガイドパイプ7bの内径は円筒構造体8bの外径よりも若干大きなものである。すなわち,円筒構造体8bのプレボーリングのケーシングが挿入可能な径である。
ガイドパイプ7bには三つの役割がある。一つ目はケーソン壁体1の突起位置及び垂直性を確保する。これは次の円筒構造体8bのプレボーリング工の補助工法となるものである。二つ目は上部路盤工4の孔壁崩壊防止,三つ目は円筒構造体8bの上部支点の確保である。これは,ケーソン頂版1fはもともと軸力を持たせる構造では無いので,上部路盤工4を含めた全体で支点反力を確保させるものである。
図3の(3)は2段階目のプレボーリング工で,円筒構造体8bの円筒構造体プレボーリング8aである。削孔径は円筒構造体8bの外径よりも若干大きめなものである。すなわち,ケーシング径を円筒構造体8bと同じ大きさのものである。削孔の対象は中詰材2,ケーソン底版1d,基礎捨石3である。
図3の(4)は円筒構造体8bの建込みにおけるパイロットパイプ9aによる補助工法である。円筒構造体8bをケーソン底版1dの削孔断面の中心に挿入するには数cm単位の精度を要する。ガイドパイプ7bがあっても難しい場合に利用される。パイロットパイプ9aは直径が小さく先端部挿入は容易で,削孔断面の中心の位置決めはこれの頭部形状で誘導する。
図3の(5)は円筒構造体8bの建込み貫入工で,ガイドパイプ7bの効果で所定位置の中心に直接挿入出来る場合は直接建込む。できない場合はパイロットパイプ9aを使用する。その方法はパイロットパイプ9aをガイドとし,円筒構造体8bに内挿するように建込む。
図3の(6)は円筒構造体8bを所定の位置に貫入し,パイロットパイプ9aを撤去し,エプロン舗装5を復旧して突起新設工が完了した状態である。符号10はエプロン舗装復旧工である。また,図の符号A,B,Cは,ケーソン壁体1に図の右から左方向に水平力が作用したとき,円筒構造体8bが梁として受ける基礎捨石の地盤反力Cと下部支点A,上部支点Bの支点反力の方向を示したものである。
【0022】
図5はパイロットパイプ9aの断面図である。パイロットパイプ頭部9bには鋼板の三角形状羽根が4枚付けてある。パイロットパイプ頭部9bがケーソン底版1dの円筒状削孔部分に貫入されると中心位置が確定される。なお,パイロットパイプ9aの貫入には頭部の羽目が邪魔なので回転は使わない。プレボーリング工により回転を必要としない。
【0023】
図6は円筒構造体下部間詰材8c,円筒構造体上部間詰材8dが巻きたてられている円筒構造体8bの断面図である。
円筒構造体8bとケーソン底版1dの円筒構造体プレボーリング8a(円筒状プレボーリング部分)及びガイドパイプ7bには隙間ができる。それぞれの箇所は,円筒構造体8bの下部支点A,上部支点Bとなる位置である。従って,支点を確保するためにはこの隙間を確実に間詰めする必要がある。特に下部支点Aは,水中でケーソン底版1dが切断されて鉄筋の断面が露出する箇所である。このような場合,従来は硬化材の注入等による間詰めが事後にとられる。しかし隙間に間詰材を行き渡らせることは困難であり,その確かな確認方法も無い。
そこで円筒構造体8bが所定の位置に貫入設置された時,前記隙間を所定の強度と水密性を確保して間詰めすることを目的に,予め,円筒構造体8bがケーソン底版1d及びガイドパイプ7bと重なり支点となる所定の位置に,所定の幅,余裕代のある厚さ,強度,水密性を有する円筒構造体下部間詰材8c,円筒構造体上部間詰材8dを巻きたてられている円筒構造体8bを用意するものである。
ここで間詰材の厚さは,対象断面径に合わせてある。関係断面径の比較は、円筒構造体上部間詰材8dの径>ガイドパイプ7b内径。これは間詰材の余裕代の分が大きい。ガイドパイプ7b内径>円筒構造体下部間詰材8dの径>ケーソン底版1dの削孔径。ここも間詰材の余裕代の分が大きい。
円筒構造体8bの所定の位置までの貫入は,これを回転させながら圧入または振動打設する。このとき,隙間の対象面は鋼またはコンクリートである。間詰材の余裕代の分は削りそぎ落とされる。ここで間詰材の所定の強度とは,間詰材として必要な強度を保持し且つケーソン底版1dのコンクリート強度よりも小さい強度をいう。これにより,円筒構造体8bの隙間の間詰めは,これの貫入工と同時に実施するものである。
【0024】
図4は事前にガイドパイプ間詰め材7cが巻き立てられているガイドパイプ7bの断面図である。ガイドパイプ7bとガイドパイププレボーリング7aには隙間ができる。上部路盤工4,ケーソン頂版1fに円筒構造体8bの上部支点Bを確保するにあたり,円筒構造体8bの隙間対策と同様の手法をガイドパイプ7bのケーソン頂版1fの位置に用いる
【0025】
図7は円筒構造体8bの頭部及び周辺の施工時の状態を示す断面図である。ガイドパイプ7bとガイドパイププレボーリング7aの隙間対策は,上部路盤工4の位置がのこされている。ここの削孔は,隙間は大きく表面も粗くなる。これの対策はモルタル等の間詰材を投入する。ケーソン上部工なので施工管理は容易である。図の符号16はモルタルが,路盤材の間隙にも充填された状態を示す。
【0026】
図7の符号17はエプロン舗装5の仮復旧用の円筒キャップ17である。本発明の耐震補強工法は,岸壁の供用を休止しないで耐震補強工事が実施できることを意図したものである。
本発明の耐震補強工法の基本となる工法は,図3の(1)〜(2)におけるガイドパイププレボーリング7aとガイドパイプ7bの設置工,(3)における円筒構造体プレボーリング8a,(4)〜(5)における円筒構造体8bの貫入,間詰め工の3種類である。
作業サイクルは,この3工法をこの順序で組み合わせたものでシンプルである。また,これらの各工法は,比較的短時間で完結し,荷役作業のエプロン供用に対して,それぞれの工法間が分断可能な部分工法であり,エプロン復旧が容易になっている。例えば単位作業時間の視点では,長突起形式で高さ20mのケーソン壁体の場合,最も作業時間を要する円筒構造体プレボーリング8aは,2〜3時間,ガイドパイププレボーリング7aとガイドパイプ7b設置工は2時間,円筒構造体8bの貫入工は2時間程度である。また,施工時間短縮及び分断可能な部分工法の視点では,円筒構造体8bに関する隙間の間詰め対策として,間詰材が巻きたてられている円筒構造体8bを用いて貫入工と同時に間詰め工が完了となる工法の実現。さらにはガイドパイプ7bの役割の一つである上部路盤工4の孔壁崩壊防止の働きから,円筒キャップ17によるエプロン舗装5の簡便な仮復旧工が挙げられる。これらのことが図3の(2)〜(6)における各部分工法のいかなるところでも工事を中断してエプロンの迅速な復旧を可能にした。
本発明の補強工法は,岸壁の空き時間の予定とケーソン壁体1の必要な突起数から,各部分工法のサイクルが決められる。また,プレボーリングは,ケーシングの径を変えて2段階で行われる。従って,基本作業パーテーは2パーテーとするのが効率的である。本発明の補強工法は,上部工の撤去作業もなく,ガイドパイプ7bが設置されれば,各部分工法のいかなるところでも工事中断して常に岸壁の供用状態を持続させるものである。
【0027】
本発明の耐震補強工法には,工費は増大するが工期を短縮する方法がある。プレボーリング工の掘進機のケーシングと,円筒構造体8bを兼用して,作業サイクルのプレボーリング工を省略する方法である。前記ケーシングには予め所定の位置に,所定の幅,余裕代のある厚さ、強度、水密性,膨張性を有する間詰め材を巻きたて,これを円筒構造体8bとして使用する。ここで,膨張性を有する間詰め材とするのは,円筒構造体8bとしてのケーシングには,円筒構造体下部間詰材8c,円筒構造体上部間詰材8dが巻きたてられる。円筒構造体下部間詰材8cは,円筒構造体8bの貫入時に上部支点となるケーソン壁体の削孔断面位置で,余裕代の分はそぎ落とされる。従って下部支点では水密性が失われる恐れがありこれの対策である。
【0028】
図8は従来のケーソン式岸壁の耐震補強工法を示す横断面図である。図において符号18は自立式杭,19は斜め下方アースアンカー,20は鉛直方向アースアンカー補強工法である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のケーソン式岸壁の耐震補強工法を示す断面図で,ケーソン壁体1のケーソン底版1dに突起が新設された状態を示す横断面図である。
【図2】ケーソン壁体1の中間高さにおける平面図である。
【図3】ケーソン底版1dの突起を新設する施工説明図である。
【図4】間詰め材7cが巻き立てられているガイドパイプ7bの断面図である。
【図5】パイロットパイプ9aの断面図である。
【図6】事前に下部間詰材8c,上部間詰材8dが巻きたて固着されている円筒構造体8bの断面図である。
【図7】円筒構造体8bの頭部及び周辺の施工時の状態を示す断面図である。
【図8】従来のケーソン式岸壁の耐震補強工法を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ケーソン壁体
1a ケーソン前壁
1b ケーソン後壁
1c ケーソン側壁
1d ケーソン底版
1e ケーソンフーチング
1f ケーソン頂版
3 捨石マウンド
4 上部路盤工
5 エプロン(エプロン舗装)
6 基盤
7b ガイドパイプ
8b 円筒構造体
8c 円筒構造体下部間詰材
8d 円筒構造体上部間詰材
17 円筒キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーソン式港湾施設の耐震補強の滑り出し防止方法において,ケーソン壁体の天端より,ケーソン壁体内を抜けてケーソン底版下の基礎捨石,必要に応じて海底地盤の所定の位置まで所定の大きさの円筒状にプレボーリングする工程と,前記プレボーリング部分に,所定の寸法の円筒構造体を貫入する工程とケーソン底版及びケーソン壁体の頂部(ケーソン頂版等)のプレボーリング部分と前記円筒構造体との隙間を所定の強度と水密性を確保した間詰めをする工程を備えることで,円筒構造体がケーソン底版とケーソン壁体の頂部を支点とする張出し部を持つ連続梁を構成して,ケーソン壁体と一体化したケーソン突起を新設することを特徴とするケーソン式港湾施設の耐震補強工法。
【請求項2】
請求項1の耐震補強工法において,円筒構造体が所定の位置に貫入された時,円筒構造体の支点となるケーソン壁体部分と円筒状プレボーリング部分との隙間を所定の強度と水密性を確保した間詰めとなることを目的に,予め所定の位置に,所定の幅,余裕代のある厚さ,強度,水密性を有する間詰め材を巻きたてた円筒構造体を使用して,円筒構造体の貫入と間詰めを同時に行うことを特徴としたケーソン式港湾施設の耐震補強工法とこの工法に使用する間詰め材を巻きたてた円筒構造体。
【請求項3】
請求項1及び請求項2の耐震補強工法において,複数のケーソン突起の新設作業サイクルを構成する各工程の最初のガイドパイプのプレボーリング工とこのガイドパイプの設置工,2番目の円筒構造体のプレボーリング工,3番目の円筒構造体の貫入及び間詰め工は,それぞれの工法間の分断が可能な部分工法として,岸壁供用時に適当な部分工法の完了で工事を中断し,ガイドパイプあるいは円筒構造体の天端に仮復工用のキャップを取り付けてエプロンを復工し,岸壁の供用を休止させることのないことを特徴とするケーソン式港湾施設の耐震補強工法。
【請求項4】
請求項1及び請求項3の耐震補強工法において,プレボーリング工の掘進機のケーシングに予め所定の位置に,所定の幅,余裕代のある厚さ、強度、水密性,膨張性を有する間詰め材を巻きたて,これを円筒構造体として兼用して,作業サイクルのプレボーリング工を省略して工期を短縮することを特徴とするケーソン式港湾施設の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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