ケーブルの風荷重低減装置
【課題】構成が簡単で且つケーブルの外表面に容易に設置できて風荷重の低減を図れるようにしたケーブルの風荷重低減装置を提供する。
【解決手段】ケーブルの外表面に巻き回してケーブルの外表面に周方向の突条を形成する環状ゴム線1と、環状ゴム線1をケーブルの外表面に装着するためのS字フック2とを有するケーブルの風荷重低減装置である。
【解決手段】ケーブルの外表面に巻き回してケーブルの外表面に周方向の突条を形成する環状ゴム線1と、環状ゴム線1をケーブルの外表面に装着するためのS字フック2とを有するケーブルの風荷重低減装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成が簡単で且つ断面積が小さく傾斜ケーブルの任意の位置に容易に設置できてケーブルの風荷重の低減が図れるケーブルの風荷重低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吊り橋は、主塔と主塔の間にメインケーブルが張設されており、該メインケーブルに対し複数のハンガーケーブルを介して主桁が吊り下げられている。又、斜張橋は、主塔と橋桁との間に設置された傾斜ケーブルにより橋桁を支えている。このような橋梁に用いられるメインケーブル、ハンガーケーブル、傾斜ケーブル等のケーブルは、複数の鋼線又は鋼線のより線を束ねた鋼線束からなり、鋼線の腐食を防止するために、通常は鋼線束の外面を高密度ポリエチレン製等の保護管により覆った構成を有している。
【0003】
上記ケーブルにおいて、断面が小さいケーブルの場合には、工場等において鋼線束の外面を保護管で覆い、これをリールに巻き取ってドラム状にしたものを現場まで運搬して設置することが一般に行われており、又、断面が大きいケーブルの場合には、全長にわたって保護管を装着したものを巻き取ることが困難であり、又、搬送時に保護管が傷付く可能性があることなどから、現場において、鋼線束の外面に所要の長さの高密度ポリエチレン管を嵌合させて接合することにより保護管を形成している場合がある。
【0004】
上記したような橋梁に用いられるケーブルにおいては、風による振動や橋梁を走行する車両等による振動が問題となっており、このために種々の振動防止対策が用いられている。又、特に前記傾斜ケーブルの場合には、風雨によって傾斜ケーブルがレインバイブレーションと称される振動を生じることが知られている。前記傾斜ケーブルに風が吹き付けるのみの場合には、風が傾斜ケーブル表面から剥離した後に、カルマン渦が規則正しく形成されることで比較的安定しているが、雨を含む風が吹き付けた場合には、傾斜ケーブル表面の上部及び下部の風の剥離点に雨滴が集まることによって水路が形成され、風の剥離点がケーブルの振動し易い位置に固定されることにより傾斜ケーブルが空力的に不安定な断面となって振動が生じる。そして、レインバイブレーションが発生すると傾斜ケーブルと橋桁及び主塔との接合部に繰り返し負荷を生じさせ、傾斜ケーブルと橋桁及び主塔との接合部の劣化を進行させるおそれがある。
【0005】
尚、上記レインバイブレーションは傾斜ケーブルを有する斜張橋に必ず発生するというものではなく、斜張橋が設置される場所の気象条件や斜張橋の規模等において風と雨の条件が合ったときに発生するものであるが、このような傾斜ケーブルのレインバイブレーションが予測される斜張橋に対しては、レインバイブレーションの発生を防止するための装置を設置する必要がある。
【0006】
従来から、前記傾斜ケーブルにおけるレインバイブレーション及びその他の振動を防止するための装置としては、各傾斜ケーブルにダンパー装置を設置し、傾斜ケーブルの振動をダンパー装置によって抑制するようにしたものがある(特許文献1、2等参照)。
【0007】
しかし、特許文献1、2に示すようなダンパー装置は構造が複雑で高価となり、更に、維持・管理のためにメンテナンスを継続して実施していく必要があるという問題がある。又、特許文献1に示されるような油圧ダンパーの場合には制御が必要になるという問題がある。
【0008】
一方、レインバイブレーションの発生を簡単な構成で効果的に防止するために、前記した如く風と雨によって傾斜ケーブルの表面にできる水路の形成を、保護管の表面に設けた突起によって阻害することによりレインバイブレーションの発生を防止するようにしたものがある(特許文献3、4参照)。例えば、特許文献3では前記保護管の表面に螺旋状(ヘリカル)の突起を設けており、又、特許文献4では前記保護管の表面に保護管の長手方向に延びる突起を設けている。
【0009】
又、特許文献5に示すように、鋼線束の外側に設けられる所要長さの保護管の端部同士を接続するために、保護管の突き当て端部の凸部の外側にスリーブを嵌合し、このスリーブによって環状の突起を形成したものがある。
【0010】
又、特許文献6に示すように、三角部と突部が外周に形成され且つテンションストラップを備えたダンパーバンドを備え、該ダンパーバンドを傾斜ケーブルの外周面に巻き付けて固定するために、前記テンションストラップの一端と他端に設けた雄と雌を嵌合して固定する固定具、或いはテンションストラップを引っ張ってダンパーバンドに固定する固定具を備えたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−172618号公報
【特許文献2】特開平07−003720号公報
【特許文献3】特開平05−071104号公報
【特許文献4】特開2005−155286号公報
【特許文献5】特開2002−333084号公報
【特許文献6】US6386526号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、前記特許文献3、4に示すように、保護管の外面に突起を備えるようにしたものは、保護管の成形に手間がかかり、製造コストが増加するという問題がある。又、ケーブルに作用する風荷重は小さいことが好ましいが、ケーブルの外表面に突起等を有する場合には風荷重が増加する場合があることが知られており、従って、特許文献3、4のように保護管の全外周面に比較的高い突起を備えた構成では風荷重が増加するという問題がある。又、特許文献3に示すヘリカルの突起を保護管の外面に巻き付けて形成する場合には、巻き付けて取り付ける作業が大変であると共に、巻き方(方向)によっては期待した効果が発揮できなくなる場合があることが知られている。
【0013】
又、特許文献5の場合には、保護管の端部同士を強度を保持して固定するためにスリーブが外部に突出した形状となっており、このために風荷重が増加するおそれがある。
【0014】
一方、特許文献6に示すダンパーバンドは、保護管の外面の任意の位置に容易に設置することができる。
【0015】
しかし、上記特許文献6に記載のダンパーバンドは、断面形状が三角部と突部を有し且つテンションストラップを有しており、更に、ダンパーバンドを前記テンションストラップを介して傾斜ケーブルの外面に固定するための固定具を備えた構造であるため、ダンパーバンドの構成が非常に複雑となって高価であり、このようなダンパーバンドを多数の傾斜ケーブルに対して所要の間隔で多数配置することは、装置全体が非常に高価になるという問題がある。
【0016】
又、特許文献6のダンパーバンドは、強度を保持するために三角部と突部を備えた大きな断面形状となっているために、風荷重を増加させるおそれがある。
【0017】
上記したような橋梁に用いられるケーブルを設計する場合は、ケーブルの振動防止の対策を図った上で、ケーブルの風荷重を考慮した強度設計等を行っている。従って、前記特許文献1〜6のようなケーブルの振動防止装置を備えることによって風荷重が増加してしまうことは、橋梁の設計においては不利となる。
【0018】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなしたもので、構成が簡単で且つ断面積が小さく傾斜ケーブルの任意の位置に容易に設置できてケーブルの風荷重の低減が図れるケーブルの風荷重低減装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、ケーブルの外表面に巻き回してケーブルの外表面に周方向の突条を形成する線材と、前記ケーブルの外表面に巻き回した線材の対向端部を互いに固定するための固定手段とを有することを特徴とするケーブルの風荷重低減装置、に係るものである。
【0020】
上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記線材が環状に形成された環状ゴム線であり、前記固定手段がS字フックであることは好ましい。
【0021】
又、上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記線材が必要長さの切断ゴム線であり、前記固定手段が前記切断ゴム線の端部に設けて互いに係止可能な係止具であることは好ましい。
【0022】
又、上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記線材は、クロロプレンゴム、エチレン・プレンゴム、ウレタンゴムのいずれかであってもよい。
【0023】
又、上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記線材が必要長さの金属線又は金属ワイヤであり、前記固定手段が前記線材の端部を互いにボルトにより締め付けて固定可能な締結具であることは好ましい。
【0024】
又、上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記ケーブルが傾斜ケーブルであり、前記線材の配置により前記傾斜ケーブルのレインバイブレーションの防止を兼ねることは好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のケーブルの風荷重低減装置は、構成が簡単で傾斜ケーブルの任意の位置に容易に設置することができ、且つ断面積が小さい突条によって風荷重を低減できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の風荷重低減装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】本発明の風荷重低減装置の他の実施例を示す正面図である。
【図3】(a)は図2に示す係止具の斜視図、(b)は(a)のX−X方向矢視図、(c)は係止具を変形してゴム線を拘束した状態の説明図である。
【図4】本発明の風荷重低減装置の別の実施例を示す正面図である。
【図5】(a)は本発明の風荷重低減装置の更に別の実施例を示す側面図、(b)は(a)のVB−VB方向断面図である。
【図6】本発明の風荷重低減装置をケーブルに装着した状態を示す切断正面図である。
【図7】本発明の風荷重低減装置を設置した円柱の場合と、ケーブルの表面が平滑な従来の円柱の場合と、従来のヘリカルリブの突起を備えた円柱の場合とにおいて風速を変化させてレイノルズ数を変えたときの抗力係数(風荷重)を測定した試験結果を示すグラフである。
【図8】傾斜ケーブルに風と雨が当たって雨の水路ができる状態を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の風荷重低減装置を傾斜ケーブルに設置することにより水路の形成が阻害される状態を示す側面図である。
【図10】表面が平滑な従来の標準の傾斜ケーブルでの雨なしの場合と雨ありの場合とにおいてレインバイブレーションの発生を計測した試験結果を示す線図である。
【図11】表面が平滑な従来の標準の傾斜ケーブルにおける雨ありの場合と、本発明の風荷重低減装置を装着した傾斜ケーブルにおける雨ありの場合とにおいてレインバイブレーションの発生を計測した試験結果を比較して示した線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0028】
図1は本発明のケーブルの風荷重低減装置の一実施例を示す正面図であり、図1中、100はケーブルの外表面に巻き回して取り付けるための線材であり、この線材100は、環状(輪ゴム状)を有する環状ゴム線1の場合を示している。図1中、200は前記環状ゴム線1からなる線材100を図6に示すケーブル3の外表面に装着するための固定手段であり、この固定手段200は、S字フック2からなる場合を示している。そして、環状ゴム線1の所要位置にS字フック2の一方の引っ掛け部2aを引っ掛け、該S字フック2を掛けた位置から最も遠い位置の環状ゴム線1と前記S字フック2とを手指で把持して、図6に示すケーブル3の外表面に巻き回す。この時、ケーブル3に巻かれる環状ゴム線1は二重になる。そして、前記巻き回しによってS字フック2に接近した環状ゴム線1の対向端部に前記S字フック2の他方の引っ掛け部2bを引っ掛けることにより、環状ゴム線1は弾性によってケーブル3の外表面に密着する。
【0029】
ここで、前記環状ゴム線1としては、伸縮性に富み且つ屋外での劣化(紫外線や空気中のバクテリヤによる変性)に対して強い材質のものを用いて形成することが好ましく、具体的な材料としては、クロロプレン(ネオプレン)ゴム、エチレン・プレンゴム、ウレタンゴム等を用いることができる。又、前記環状ゴム線1は断面径が3ミリメートル以上であることが好ましい。
【0030】
図1の環状ゴム線1は二重になるようにケーブル3に巻き回され、しかも所要の弾力を有してケーブル3に固定される必要があるため、環状ゴム線1の周長は、装着するケーブル3の周長に対して、S字フック2の係止長さ(引っ掛け部2a,2b間の距離)+絞め代分だけ短い長さになるように、図1の環状の径を設定している。即ち、ケーブル3の周長が600mm、S字フック2の係止長さが30mm、絞め代分が40mmの場合には、(600−70)×2=1060mmの長さを有する図1に示す環状ゴム線1としている。
【0031】
従って、図1の実施例では、図6に示すケーブル3の種々の径に対応した径の環状ゴム線1を用意しておくことにより、ケーブル3の外周に対して、S字フック2を介して環状ゴム線1を所要の締め付け強度で装着することができる。前記環状ゴム線1をケーブル3の外表面に装着すると、ケーブル3の外表面には、例えば3ミリメートルの高さTを有する周方向の突条が形成される。
【0032】
図2は本発明のケーブルの風荷重低減装置の他の実施例を示す正面図であり、この実施例では線材100に長尺のゴム線を切断した切断ゴム線4を用いた場合を示している。この切断ゴム線4も前記実施例と同様にクロロプレンゴム、エチレン・プレンゴム、ウレタンゴム等によって製造しており、又、前記切断ゴム線4の断面径も前記実施例と同様に3ミリメートル以上のものを用いることが好ましい。
【0033】
図2の実施例では、長尺のゴム線を図6のケーブル3の径に応じて必要な長さに切断することにより切断ゴム線4とし、この切断ゴム線4の両端に、互いに係止が可能な係止具5からなる固定手段200を備えた場合を示している。
【0034】
上記係止具5は、図3(a)に示すように、部材本体6の一端側には、左右の側壁7,8と該側壁7,8の中間に備えた係止突片9とにより平面U字状の拘束室10が形成されており、部材本体6の他端側には係止フック11が備えられている。上記係止具5は硬質のプラスチック材料によって形成している。そして、前記切断ゴム線4の端部を180゜に折り曲げて、U字状の拘束室10の側壁7と係止突片9の間、及び、側壁8と係止突片9の間に挿入している。この時、前記切断ゴム線4が気密に挿入されるようにU字状の拘束室10は形成されている。更に、前記U字状の拘束室10に切断ゴム線4を挿入した後に、図3(b)に示す側壁7,8の端部を、図3(c)に示すように変形させるようにしている。ここで、前記係止具5,5間に設けられる切断ゴム線4の長さは、図6のケーブル3の周長に対して、係止具5,5による係止に必要な長さ+絞め代分だけ短い長さに対し、前記したように両端部を180゜に折り曲げる長さ分だけ加算した長さになるように、ゴム線4を予め切断する。
【0035】
従って、図2に示す実施例では、図6に示すケーブル3の種々の径に対応した長さに切断した切断ゴム線4の両端部に係止具5を取り付けておくことにより、ケーブル3の外周に対して、係止具5を介して切断ゴム線4を所要の締め付け強度で装着することができる。前記切断ゴム線4をケーブル3の外表面に装着すると、ケーブル3の外表面には、例えば3ミリメートルの高さTを有する周方向の突条が形成される。
【0036】
図4は本発明のケーブルの風荷重低減装置の別の実施例を示す正面図であり、この実施例では、線材100に金属線又は金属ワイヤからなる金属線材12を用い、固定手段200には、前記金属線材12の端部を互いにボルト13により締め付けて固定するようにした締結具14を用いた場合を示している。図4の構成は、ホースバンドの一例と知られているワイヤバンドと同様の構成を有しており、ボルト13には支持駒15が螺合しており、更にボルト13の先端部には押部材16が固定されていと共に、該押部材16の前方には突出部17が形成されている。前記金属線材12は、所定の長さに切断したものを長手方向中心で折り曲げることで折返し部18を備えた平行な二本線12a,12bを形成している。前記折返し部18は前記突出部17に掛けられ、二本線12a,12bが、前記ボルト13に沿うように折り曲げた折曲部19を有し、更に、図6のケーブル3の外周に沿うように湾曲させた円弧部20を有している。又、前記円弧部20を形成した二本線12a,12bの各先端部には、前記ボルト13側から突出部17側へ向かうように180゜に折り曲げた折曲部21を形成しており、該折曲部21を有する二本線12a,12bの先端部が前記折曲部19に近い二本線12a,12bを挟むようにして前記折曲部21の先端を、単前記支持駒15に設けた孔22にボルト13方向から挿通して固定している。
【0037】
図4の構成では、前記支持駒15は折曲部21に固定されているため、ボルト13を支持駒15に対して捩じ込む方向に回転すると、ボルト13先端の押部材16が折返し部18を押して、該折返し部18と支持駒15との間隔が増加され、これにより円弧部20の長さが短くなって、金属線材12は図6のケーブル3外表面に締付け装着される。この時、前記金属線材12は、3ミリメートル以上の高さTを確保するために3ミリメートル以上の径のものを用いることが好ましい。
【0038】
図5は本発明のケーブルの風荷重低減装置の更に別の実施例を示す側面図であり、この実施例では従来から一般に用いられているホースバンドに類似した構成としている。即ち、金属板状のバンド23の一端23aに固定した締結具24のボルト25を回転すると、締結具24に備えられた図示しないネジ山がバンド23の他端23bに等間隔で形成した孔26に係合して他端23bを引込むことにより締め付けを行うようになっている。又、前記バンド23の両端部23a,23bを除く長さ方向中間部分は幅が狭くなったベルト部27となっており、このベルト部27は、図5(b)に示すように、例えば山形に折り曲げた折曲げ形状を有しており、この山形形状によって、薄い板厚のベルト部27においても3ミリメートル以上の高さTを容易に達成できるようにしている。
【0039】
前記図4、図5に示す線材100と固定手段200は、錆の発生を抑制できるステンレス系金属材料で構成されることが好ましい。
【0040】
上記図1〜図5に示した線材100と固定手段200からなる風荷重低減装置は、ケーブル3の直径Dに対して3〜4倍程度の設置間隔で配置することができ、好ましくは3.5倍程度、即ち3.5D程度の間隔でケーブル3の外周面に配置することにより、ケーブル3に作用する風荷重を効果的に低減することができた。図1〜図5に示した風荷重低減装置は構成が簡単であり、種々の建造物及び装置に備えられるケーブル3の外周面の任意の位置に容易に装着することができ、小さな断面積の線材100によってケーブル3に作用する風荷重が低減できる。
【0041】
前記本発明の線材100と固定手段200からなる風荷重低減装置は、吊り橋に備えられるメインケーブルやハンガーケーブル、及び、斜張橋に備えられる傾斜ケーブル等に装着することにより、これらのケーブル3の風荷重を効果的に低減することができる。
【0042】
又、上記した橋梁に備えられるケーブルの他に、送電用ケーブル、或いは、大気中に張設されているクレーン等のケーブルにも適用して、風荷重を低減することができる。
【0043】
本発明者らは、前記本発明の風荷重低減装置を設置した円柱の場合Iと、従来のケーブルの表面が平滑な円柱の場合IIと、従来のヘリカルリブの突起を備えた円柱の場合IIIとにおいて、風速を変化させてレイノルズ数を変えたときの抗力係数(風荷重)を測定する試験を実施し、その結果を図7に示した。前記レイノルズ数Reは、Re=UD/νであり、ここで、Uは風速、Dはケーブル直径、νは空気の動粘性係数である。
【0044】
図6のような円柱のケーブル3に軸と交差する方向から風を吹き付けて、風速を徐々に高めて(レイノルズ数が増加して)いくと、亜臨界から臨界を経て超臨界となる。ここで、風速が限界風速を超える臨界域になると、風荷重が急激に低下する現象(ドラッグクライシス現象)が生じることが知られている。
【0045】
図7によれば、臨界よりも小さい亜臨界の風速では、本発明の風荷重低減装置の場合Iと従来のヘリカルリブ付きの場合IIIは、従来の平滑な平面をもつ場合IIに比して風荷重を小さく抑えられることが判明した。
【0046】
また、本発明の風荷重低減装置の場合Iと従来の平滑な平面をもつ場合IIでは、風速が臨界域に達すると夫々風荷重が急激に低下するドラッグクライシス現象が発生した。しかし、従来のヘリカルリブ付きの場合IIIでは、臨界域になっても風荷重は殆ど低下することがなく、亜臨界の風速の時と同等の高い風荷重を示した。
【0047】
このように、臨界域においてドラッグクライシス現象が生じることなく高い風荷重が作用し続ける従来のヘリカルリブ付きの場合IIIは、ケーブルを設計する上で不利となる場合があるが、本発明の風荷重低減装置の場合Iでは、亜臨界の風速では風荷重を小さく保持でき、しかも、臨界域ではドラッグクライシス現象により風荷重が大幅に低下するので、風荷重が総合的に低下し、よってケーブルの設計が有利に行えるようになる。
【0048】
又、本発明者らは、図8、図9に示すように、傾斜角45゜とした傾斜ケーブル3'に風と雨を当てて、傾斜ケーブル3'の外周に水路Wが形成されるように風速と雨量を調整できる試験装置を用いて、図8のように表面が平滑な従来の標準の傾斜ケーブル3'の場合と、図9に示すように、傾斜ケーブル3'の外周面に図2に示した切断ゴム線4を装着した場合とにおけるレインバイブレーション(振幅)の発生を調査する試験を実施した。
【0049】
図10は、表面が平滑な従来の標準の傾斜ケーブル3'において、雨なしAの場合と雨ありBの場合について風速を変化させた時のレインバイブレーションの発生を計測した試験結果を示す線図である。図10から明らかな如く、標準の傾斜ケーブル3'の場合には、雨なしAの場合は殆どレインバイブレーションを発生しないが、雨ありBの場合には所定の風速域において大きなレインバイブレーションVが発生した。
【0050】
図11は、表面が平滑な前記標準の傾斜ケーブル3'での雨ありBの場合と、図2に示した本発明の切断ゴム線4を傾斜ケーブル3'の表面に装着した場合Cの雨ありでのレインバイブレーションの発生を計測した試験結果を比較して示した線図である。この時、切断ゴム線4の径からなる装着時の高さTは3ミリメートルであり、切断ゴム線4を傾斜ケーブル3'の径Dに対して3.5倍、即ち3.5Dの間隔で装着した。図11から明らかな如く、標準ケーブルの雨ありBの場合においては大きなレインバイブレーションVが発生していたのに対し、本発明の切断ゴム線4を装着した場合Cにおいては、レインバイブレーションの発生を防止することができた。
【0051】
尚、上記試験において、傾斜ケーブル3'に装着する前記切断ゴム線4の径による高さTが3ミリメートルであると、レインバイブレーションの発生を効果的に防止できることが判明した。切断ゴム線4の径を3ミリメートルよりも大きくした場合にも、切断ゴム線4の径を3ミリメートルとした場合と同等の高いレインバイブレーションの防止効果が予想される。しかし、傾斜ケーブル3'に作用する風荷重を増大させないためには、切断ゴム線4による突条の突出高さは小さい方が好ましいので、切断ゴム線4は断面径を最小3ミリメートルとした。
【0052】
又、前記したように、ケーブル3の外周面に配置する切断ゴム線4の設置間隔Hは、ケーブル3の直径Dに対して3〜4倍程度の間隔とすることができ、好ましくは3.5倍程度、即ち3.5D程度の間隔とすることが好ましいことが判明した。
【0053】
又、図2に示した前記切断ゴム線4に代えて、図1の環状ゴム線1、図4の金属線材12、図5のベルト部27を有する風荷重低減装置を傾斜ケーブル3'に装着した場合にも、前記と同様のレインバイブレーションの防止効果を得ることができることが予想される。
【0054】
尚、前記傾斜ケーブル3'に、図1〜図5に示した風荷重低減装置を設置することにより、レインバイブレーションを防止できると共に、雨が無いときには前記傾斜ケーブル3'に対する風荷重の低減を図ることができる。
【0055】
上記した線材100を固定手段200によってケーブル3或いは傾斜ケーブル3'の外周面に装着するようにした風荷重低減装置は、簡単な構成で安価に製造することができ、更に、ケーブル3或いは傾斜ケーブル3'に対する取り付けが極めて簡単且つ短時間に行える効果がある。更に、前記風荷重低減装置は、上記したようにケーブル3或いは傾斜ケーブル3'に対する取り付けが容易であるため、既存の橋梁のケーブル、送電用ケーブル及びクレーンのケーブル等に容易に適用することができ、又、ダンパー装置の設置を計画している橋梁などにおいて、ダンパー装置設置までの仮の風荷重低減装置として用いることもできる。
【0056】
尚、本発明のケーブルの風荷重低減装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、前記S字フック2、係止具5、締結具14,24の形状等は図示例のものに限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 環状ゴム線(線材)
2 S字フック(固定手段)
3 ケーブル
3' 傾斜ケーブル
4 切断ゴム線(線材)
5 係止具(固定手段)
14 締結具(固定手段)
24 締結具(固定手段)
100 線材
200 固定手段
T 高さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成が簡単で且つ断面積が小さく傾斜ケーブルの任意の位置に容易に設置できてケーブルの風荷重の低減が図れるケーブルの風荷重低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吊り橋は、主塔と主塔の間にメインケーブルが張設されており、該メインケーブルに対し複数のハンガーケーブルを介して主桁が吊り下げられている。又、斜張橋は、主塔と橋桁との間に設置された傾斜ケーブルにより橋桁を支えている。このような橋梁に用いられるメインケーブル、ハンガーケーブル、傾斜ケーブル等のケーブルは、複数の鋼線又は鋼線のより線を束ねた鋼線束からなり、鋼線の腐食を防止するために、通常は鋼線束の外面を高密度ポリエチレン製等の保護管により覆った構成を有している。
【0003】
上記ケーブルにおいて、断面が小さいケーブルの場合には、工場等において鋼線束の外面を保護管で覆い、これをリールに巻き取ってドラム状にしたものを現場まで運搬して設置することが一般に行われており、又、断面が大きいケーブルの場合には、全長にわたって保護管を装着したものを巻き取ることが困難であり、又、搬送時に保護管が傷付く可能性があることなどから、現場において、鋼線束の外面に所要の長さの高密度ポリエチレン管を嵌合させて接合することにより保護管を形成している場合がある。
【0004】
上記したような橋梁に用いられるケーブルにおいては、風による振動や橋梁を走行する車両等による振動が問題となっており、このために種々の振動防止対策が用いられている。又、特に前記傾斜ケーブルの場合には、風雨によって傾斜ケーブルがレインバイブレーションと称される振動を生じることが知られている。前記傾斜ケーブルに風が吹き付けるのみの場合には、風が傾斜ケーブル表面から剥離した後に、カルマン渦が規則正しく形成されることで比較的安定しているが、雨を含む風が吹き付けた場合には、傾斜ケーブル表面の上部及び下部の風の剥離点に雨滴が集まることによって水路が形成され、風の剥離点がケーブルの振動し易い位置に固定されることにより傾斜ケーブルが空力的に不安定な断面となって振動が生じる。そして、レインバイブレーションが発生すると傾斜ケーブルと橋桁及び主塔との接合部に繰り返し負荷を生じさせ、傾斜ケーブルと橋桁及び主塔との接合部の劣化を進行させるおそれがある。
【0005】
尚、上記レインバイブレーションは傾斜ケーブルを有する斜張橋に必ず発生するというものではなく、斜張橋が設置される場所の気象条件や斜張橋の規模等において風と雨の条件が合ったときに発生するものであるが、このような傾斜ケーブルのレインバイブレーションが予測される斜張橋に対しては、レインバイブレーションの発生を防止するための装置を設置する必要がある。
【0006】
従来から、前記傾斜ケーブルにおけるレインバイブレーション及びその他の振動を防止するための装置としては、各傾斜ケーブルにダンパー装置を設置し、傾斜ケーブルの振動をダンパー装置によって抑制するようにしたものがある(特許文献1、2等参照)。
【0007】
しかし、特許文献1、2に示すようなダンパー装置は構造が複雑で高価となり、更に、維持・管理のためにメンテナンスを継続して実施していく必要があるという問題がある。又、特許文献1に示されるような油圧ダンパーの場合には制御が必要になるという問題がある。
【0008】
一方、レインバイブレーションの発生を簡単な構成で効果的に防止するために、前記した如く風と雨によって傾斜ケーブルの表面にできる水路の形成を、保護管の表面に設けた突起によって阻害することによりレインバイブレーションの発生を防止するようにしたものがある(特許文献3、4参照)。例えば、特許文献3では前記保護管の表面に螺旋状(ヘリカル)の突起を設けており、又、特許文献4では前記保護管の表面に保護管の長手方向に延びる突起を設けている。
【0009】
又、特許文献5に示すように、鋼線束の外側に設けられる所要長さの保護管の端部同士を接続するために、保護管の突き当て端部の凸部の外側にスリーブを嵌合し、このスリーブによって環状の突起を形成したものがある。
【0010】
又、特許文献6に示すように、三角部と突部が外周に形成され且つテンションストラップを備えたダンパーバンドを備え、該ダンパーバンドを傾斜ケーブルの外周面に巻き付けて固定するために、前記テンションストラップの一端と他端に設けた雄と雌を嵌合して固定する固定具、或いはテンションストラップを引っ張ってダンパーバンドに固定する固定具を備えたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−172618号公報
【特許文献2】特開平07−003720号公報
【特許文献3】特開平05−071104号公報
【特許文献4】特開2005−155286号公報
【特許文献5】特開2002−333084号公報
【特許文献6】US6386526号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、前記特許文献3、4に示すように、保護管の外面に突起を備えるようにしたものは、保護管の成形に手間がかかり、製造コストが増加するという問題がある。又、ケーブルに作用する風荷重は小さいことが好ましいが、ケーブルの外表面に突起等を有する場合には風荷重が増加する場合があることが知られており、従って、特許文献3、4のように保護管の全外周面に比較的高い突起を備えた構成では風荷重が増加するという問題がある。又、特許文献3に示すヘリカルの突起を保護管の外面に巻き付けて形成する場合には、巻き付けて取り付ける作業が大変であると共に、巻き方(方向)によっては期待した効果が発揮できなくなる場合があることが知られている。
【0013】
又、特許文献5の場合には、保護管の端部同士を強度を保持して固定するためにスリーブが外部に突出した形状となっており、このために風荷重が増加するおそれがある。
【0014】
一方、特許文献6に示すダンパーバンドは、保護管の外面の任意の位置に容易に設置することができる。
【0015】
しかし、上記特許文献6に記載のダンパーバンドは、断面形状が三角部と突部を有し且つテンションストラップを有しており、更に、ダンパーバンドを前記テンションストラップを介して傾斜ケーブルの外面に固定するための固定具を備えた構造であるため、ダンパーバンドの構成が非常に複雑となって高価であり、このようなダンパーバンドを多数の傾斜ケーブルに対して所要の間隔で多数配置することは、装置全体が非常に高価になるという問題がある。
【0016】
又、特許文献6のダンパーバンドは、強度を保持するために三角部と突部を備えた大きな断面形状となっているために、風荷重を増加させるおそれがある。
【0017】
上記したような橋梁に用いられるケーブルを設計する場合は、ケーブルの振動防止の対策を図った上で、ケーブルの風荷重を考慮した強度設計等を行っている。従って、前記特許文献1〜6のようなケーブルの振動防止装置を備えることによって風荷重が増加してしまうことは、橋梁の設計においては不利となる。
【0018】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなしたもので、構成が簡単で且つ断面積が小さく傾斜ケーブルの任意の位置に容易に設置できてケーブルの風荷重の低減が図れるケーブルの風荷重低減装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、ケーブルの外表面に巻き回してケーブルの外表面に周方向の突条を形成する線材と、前記ケーブルの外表面に巻き回した線材の対向端部を互いに固定するための固定手段とを有することを特徴とするケーブルの風荷重低減装置、に係るものである。
【0020】
上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記線材が環状に形成された環状ゴム線であり、前記固定手段がS字フックであることは好ましい。
【0021】
又、上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記線材が必要長さの切断ゴム線であり、前記固定手段が前記切断ゴム線の端部に設けて互いに係止可能な係止具であることは好ましい。
【0022】
又、上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記線材は、クロロプレンゴム、エチレン・プレンゴム、ウレタンゴムのいずれかであってもよい。
【0023】
又、上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記線材が必要長さの金属線又は金属ワイヤであり、前記固定手段が前記線材の端部を互いにボルトにより締め付けて固定可能な締結具であることは好ましい。
【0024】
又、上記ケーブルの風荷重低減装置において、前記ケーブルが傾斜ケーブルであり、前記線材の配置により前記傾斜ケーブルのレインバイブレーションの防止を兼ねることは好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のケーブルの風荷重低減装置は、構成が簡単で傾斜ケーブルの任意の位置に容易に設置することができ、且つ断面積が小さい突条によって風荷重を低減できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の風荷重低減装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】本発明の風荷重低減装置の他の実施例を示す正面図である。
【図3】(a)は図2に示す係止具の斜視図、(b)は(a)のX−X方向矢視図、(c)は係止具を変形してゴム線を拘束した状態の説明図である。
【図4】本発明の風荷重低減装置の別の実施例を示す正面図である。
【図5】(a)は本発明の風荷重低減装置の更に別の実施例を示す側面図、(b)は(a)のVB−VB方向断面図である。
【図6】本発明の風荷重低減装置をケーブルに装着した状態を示す切断正面図である。
【図7】本発明の風荷重低減装置を設置した円柱の場合と、ケーブルの表面が平滑な従来の円柱の場合と、従来のヘリカルリブの突起を備えた円柱の場合とにおいて風速を変化させてレイノルズ数を変えたときの抗力係数(風荷重)を測定した試験結果を示すグラフである。
【図8】傾斜ケーブルに風と雨が当たって雨の水路ができる状態を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の風荷重低減装置を傾斜ケーブルに設置することにより水路の形成が阻害される状態を示す側面図である。
【図10】表面が平滑な従来の標準の傾斜ケーブルでの雨なしの場合と雨ありの場合とにおいてレインバイブレーションの発生を計測した試験結果を示す線図である。
【図11】表面が平滑な従来の標準の傾斜ケーブルにおける雨ありの場合と、本発明の風荷重低減装置を装着した傾斜ケーブルにおける雨ありの場合とにおいてレインバイブレーションの発生を計測した試験結果を比較して示した線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0028】
図1は本発明のケーブルの風荷重低減装置の一実施例を示す正面図であり、図1中、100はケーブルの外表面に巻き回して取り付けるための線材であり、この線材100は、環状(輪ゴム状)を有する環状ゴム線1の場合を示している。図1中、200は前記環状ゴム線1からなる線材100を図6に示すケーブル3の外表面に装着するための固定手段であり、この固定手段200は、S字フック2からなる場合を示している。そして、環状ゴム線1の所要位置にS字フック2の一方の引っ掛け部2aを引っ掛け、該S字フック2を掛けた位置から最も遠い位置の環状ゴム線1と前記S字フック2とを手指で把持して、図6に示すケーブル3の外表面に巻き回す。この時、ケーブル3に巻かれる環状ゴム線1は二重になる。そして、前記巻き回しによってS字フック2に接近した環状ゴム線1の対向端部に前記S字フック2の他方の引っ掛け部2bを引っ掛けることにより、環状ゴム線1は弾性によってケーブル3の外表面に密着する。
【0029】
ここで、前記環状ゴム線1としては、伸縮性に富み且つ屋外での劣化(紫外線や空気中のバクテリヤによる変性)に対して強い材質のものを用いて形成することが好ましく、具体的な材料としては、クロロプレン(ネオプレン)ゴム、エチレン・プレンゴム、ウレタンゴム等を用いることができる。又、前記環状ゴム線1は断面径が3ミリメートル以上であることが好ましい。
【0030】
図1の環状ゴム線1は二重になるようにケーブル3に巻き回され、しかも所要の弾力を有してケーブル3に固定される必要があるため、環状ゴム線1の周長は、装着するケーブル3の周長に対して、S字フック2の係止長さ(引っ掛け部2a,2b間の距離)+絞め代分だけ短い長さになるように、図1の環状の径を設定している。即ち、ケーブル3の周長が600mm、S字フック2の係止長さが30mm、絞め代分が40mmの場合には、(600−70)×2=1060mmの長さを有する図1に示す環状ゴム線1としている。
【0031】
従って、図1の実施例では、図6に示すケーブル3の種々の径に対応した径の環状ゴム線1を用意しておくことにより、ケーブル3の外周に対して、S字フック2を介して環状ゴム線1を所要の締め付け強度で装着することができる。前記環状ゴム線1をケーブル3の外表面に装着すると、ケーブル3の外表面には、例えば3ミリメートルの高さTを有する周方向の突条が形成される。
【0032】
図2は本発明のケーブルの風荷重低減装置の他の実施例を示す正面図であり、この実施例では線材100に長尺のゴム線を切断した切断ゴム線4を用いた場合を示している。この切断ゴム線4も前記実施例と同様にクロロプレンゴム、エチレン・プレンゴム、ウレタンゴム等によって製造しており、又、前記切断ゴム線4の断面径も前記実施例と同様に3ミリメートル以上のものを用いることが好ましい。
【0033】
図2の実施例では、長尺のゴム線を図6のケーブル3の径に応じて必要な長さに切断することにより切断ゴム線4とし、この切断ゴム線4の両端に、互いに係止が可能な係止具5からなる固定手段200を備えた場合を示している。
【0034】
上記係止具5は、図3(a)に示すように、部材本体6の一端側には、左右の側壁7,8と該側壁7,8の中間に備えた係止突片9とにより平面U字状の拘束室10が形成されており、部材本体6の他端側には係止フック11が備えられている。上記係止具5は硬質のプラスチック材料によって形成している。そして、前記切断ゴム線4の端部を180゜に折り曲げて、U字状の拘束室10の側壁7と係止突片9の間、及び、側壁8と係止突片9の間に挿入している。この時、前記切断ゴム線4が気密に挿入されるようにU字状の拘束室10は形成されている。更に、前記U字状の拘束室10に切断ゴム線4を挿入した後に、図3(b)に示す側壁7,8の端部を、図3(c)に示すように変形させるようにしている。ここで、前記係止具5,5間に設けられる切断ゴム線4の長さは、図6のケーブル3の周長に対して、係止具5,5による係止に必要な長さ+絞め代分だけ短い長さに対し、前記したように両端部を180゜に折り曲げる長さ分だけ加算した長さになるように、ゴム線4を予め切断する。
【0035】
従って、図2に示す実施例では、図6に示すケーブル3の種々の径に対応した長さに切断した切断ゴム線4の両端部に係止具5を取り付けておくことにより、ケーブル3の外周に対して、係止具5を介して切断ゴム線4を所要の締め付け強度で装着することができる。前記切断ゴム線4をケーブル3の外表面に装着すると、ケーブル3の外表面には、例えば3ミリメートルの高さTを有する周方向の突条が形成される。
【0036】
図4は本発明のケーブルの風荷重低減装置の別の実施例を示す正面図であり、この実施例では、線材100に金属線又は金属ワイヤからなる金属線材12を用い、固定手段200には、前記金属線材12の端部を互いにボルト13により締め付けて固定するようにした締結具14を用いた場合を示している。図4の構成は、ホースバンドの一例と知られているワイヤバンドと同様の構成を有しており、ボルト13には支持駒15が螺合しており、更にボルト13の先端部には押部材16が固定されていと共に、該押部材16の前方には突出部17が形成されている。前記金属線材12は、所定の長さに切断したものを長手方向中心で折り曲げることで折返し部18を備えた平行な二本線12a,12bを形成している。前記折返し部18は前記突出部17に掛けられ、二本線12a,12bが、前記ボルト13に沿うように折り曲げた折曲部19を有し、更に、図6のケーブル3の外周に沿うように湾曲させた円弧部20を有している。又、前記円弧部20を形成した二本線12a,12bの各先端部には、前記ボルト13側から突出部17側へ向かうように180゜に折り曲げた折曲部21を形成しており、該折曲部21を有する二本線12a,12bの先端部が前記折曲部19に近い二本線12a,12bを挟むようにして前記折曲部21の先端を、単前記支持駒15に設けた孔22にボルト13方向から挿通して固定している。
【0037】
図4の構成では、前記支持駒15は折曲部21に固定されているため、ボルト13を支持駒15に対して捩じ込む方向に回転すると、ボルト13先端の押部材16が折返し部18を押して、該折返し部18と支持駒15との間隔が増加され、これにより円弧部20の長さが短くなって、金属線材12は図6のケーブル3外表面に締付け装着される。この時、前記金属線材12は、3ミリメートル以上の高さTを確保するために3ミリメートル以上の径のものを用いることが好ましい。
【0038】
図5は本発明のケーブルの風荷重低減装置の更に別の実施例を示す側面図であり、この実施例では従来から一般に用いられているホースバンドに類似した構成としている。即ち、金属板状のバンド23の一端23aに固定した締結具24のボルト25を回転すると、締結具24に備えられた図示しないネジ山がバンド23の他端23bに等間隔で形成した孔26に係合して他端23bを引込むことにより締め付けを行うようになっている。又、前記バンド23の両端部23a,23bを除く長さ方向中間部分は幅が狭くなったベルト部27となっており、このベルト部27は、図5(b)に示すように、例えば山形に折り曲げた折曲げ形状を有しており、この山形形状によって、薄い板厚のベルト部27においても3ミリメートル以上の高さTを容易に達成できるようにしている。
【0039】
前記図4、図5に示す線材100と固定手段200は、錆の発生を抑制できるステンレス系金属材料で構成されることが好ましい。
【0040】
上記図1〜図5に示した線材100と固定手段200からなる風荷重低減装置は、ケーブル3の直径Dに対して3〜4倍程度の設置間隔で配置することができ、好ましくは3.5倍程度、即ち3.5D程度の間隔でケーブル3の外周面に配置することにより、ケーブル3に作用する風荷重を効果的に低減することができた。図1〜図5に示した風荷重低減装置は構成が簡単であり、種々の建造物及び装置に備えられるケーブル3の外周面の任意の位置に容易に装着することができ、小さな断面積の線材100によってケーブル3に作用する風荷重が低減できる。
【0041】
前記本発明の線材100と固定手段200からなる風荷重低減装置は、吊り橋に備えられるメインケーブルやハンガーケーブル、及び、斜張橋に備えられる傾斜ケーブル等に装着することにより、これらのケーブル3の風荷重を効果的に低減することができる。
【0042】
又、上記した橋梁に備えられるケーブルの他に、送電用ケーブル、或いは、大気中に張設されているクレーン等のケーブルにも適用して、風荷重を低減することができる。
【0043】
本発明者らは、前記本発明の風荷重低減装置を設置した円柱の場合Iと、従来のケーブルの表面が平滑な円柱の場合IIと、従来のヘリカルリブの突起を備えた円柱の場合IIIとにおいて、風速を変化させてレイノルズ数を変えたときの抗力係数(風荷重)を測定する試験を実施し、その結果を図7に示した。前記レイノルズ数Reは、Re=UD/νであり、ここで、Uは風速、Dはケーブル直径、νは空気の動粘性係数である。
【0044】
図6のような円柱のケーブル3に軸と交差する方向から風を吹き付けて、風速を徐々に高めて(レイノルズ数が増加して)いくと、亜臨界から臨界を経て超臨界となる。ここで、風速が限界風速を超える臨界域になると、風荷重が急激に低下する現象(ドラッグクライシス現象)が生じることが知られている。
【0045】
図7によれば、臨界よりも小さい亜臨界の風速では、本発明の風荷重低減装置の場合Iと従来のヘリカルリブ付きの場合IIIは、従来の平滑な平面をもつ場合IIに比して風荷重を小さく抑えられることが判明した。
【0046】
また、本発明の風荷重低減装置の場合Iと従来の平滑な平面をもつ場合IIでは、風速が臨界域に達すると夫々風荷重が急激に低下するドラッグクライシス現象が発生した。しかし、従来のヘリカルリブ付きの場合IIIでは、臨界域になっても風荷重は殆ど低下することがなく、亜臨界の風速の時と同等の高い風荷重を示した。
【0047】
このように、臨界域においてドラッグクライシス現象が生じることなく高い風荷重が作用し続ける従来のヘリカルリブ付きの場合IIIは、ケーブルを設計する上で不利となる場合があるが、本発明の風荷重低減装置の場合Iでは、亜臨界の風速では風荷重を小さく保持でき、しかも、臨界域ではドラッグクライシス現象により風荷重が大幅に低下するので、風荷重が総合的に低下し、よってケーブルの設計が有利に行えるようになる。
【0048】
又、本発明者らは、図8、図9に示すように、傾斜角45゜とした傾斜ケーブル3'に風と雨を当てて、傾斜ケーブル3'の外周に水路Wが形成されるように風速と雨量を調整できる試験装置を用いて、図8のように表面が平滑な従来の標準の傾斜ケーブル3'の場合と、図9に示すように、傾斜ケーブル3'の外周面に図2に示した切断ゴム線4を装着した場合とにおけるレインバイブレーション(振幅)の発生を調査する試験を実施した。
【0049】
図10は、表面が平滑な従来の標準の傾斜ケーブル3'において、雨なしAの場合と雨ありBの場合について風速を変化させた時のレインバイブレーションの発生を計測した試験結果を示す線図である。図10から明らかな如く、標準の傾斜ケーブル3'の場合には、雨なしAの場合は殆どレインバイブレーションを発生しないが、雨ありBの場合には所定の風速域において大きなレインバイブレーションVが発生した。
【0050】
図11は、表面が平滑な前記標準の傾斜ケーブル3'での雨ありBの場合と、図2に示した本発明の切断ゴム線4を傾斜ケーブル3'の表面に装着した場合Cの雨ありでのレインバイブレーションの発生を計測した試験結果を比較して示した線図である。この時、切断ゴム線4の径からなる装着時の高さTは3ミリメートルであり、切断ゴム線4を傾斜ケーブル3'の径Dに対して3.5倍、即ち3.5Dの間隔で装着した。図11から明らかな如く、標準ケーブルの雨ありBの場合においては大きなレインバイブレーションVが発生していたのに対し、本発明の切断ゴム線4を装着した場合Cにおいては、レインバイブレーションの発生を防止することができた。
【0051】
尚、上記試験において、傾斜ケーブル3'に装着する前記切断ゴム線4の径による高さTが3ミリメートルであると、レインバイブレーションの発生を効果的に防止できることが判明した。切断ゴム線4の径を3ミリメートルよりも大きくした場合にも、切断ゴム線4の径を3ミリメートルとした場合と同等の高いレインバイブレーションの防止効果が予想される。しかし、傾斜ケーブル3'に作用する風荷重を増大させないためには、切断ゴム線4による突条の突出高さは小さい方が好ましいので、切断ゴム線4は断面径を最小3ミリメートルとした。
【0052】
又、前記したように、ケーブル3の外周面に配置する切断ゴム線4の設置間隔Hは、ケーブル3の直径Dに対して3〜4倍程度の間隔とすることができ、好ましくは3.5倍程度、即ち3.5D程度の間隔とすることが好ましいことが判明した。
【0053】
又、図2に示した前記切断ゴム線4に代えて、図1の環状ゴム線1、図4の金属線材12、図5のベルト部27を有する風荷重低減装置を傾斜ケーブル3'に装着した場合にも、前記と同様のレインバイブレーションの防止効果を得ることができることが予想される。
【0054】
尚、前記傾斜ケーブル3'に、図1〜図5に示した風荷重低減装置を設置することにより、レインバイブレーションを防止できると共に、雨が無いときには前記傾斜ケーブル3'に対する風荷重の低減を図ることができる。
【0055】
上記した線材100を固定手段200によってケーブル3或いは傾斜ケーブル3'の外周面に装着するようにした風荷重低減装置は、簡単な構成で安価に製造することができ、更に、ケーブル3或いは傾斜ケーブル3'に対する取り付けが極めて簡単且つ短時間に行える効果がある。更に、前記風荷重低減装置は、上記したようにケーブル3或いは傾斜ケーブル3'に対する取り付けが容易であるため、既存の橋梁のケーブル、送電用ケーブル及びクレーンのケーブル等に容易に適用することができ、又、ダンパー装置の設置を計画している橋梁などにおいて、ダンパー装置設置までの仮の風荷重低減装置として用いることもできる。
【0056】
尚、本発明のケーブルの風荷重低減装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、前記S字フック2、係止具5、締結具14,24の形状等は図示例のものに限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 環状ゴム線(線材)
2 S字フック(固定手段)
3 ケーブル
3' 傾斜ケーブル
4 切断ゴム線(線材)
5 係止具(固定手段)
14 締結具(固定手段)
24 締結具(固定手段)
100 線材
200 固定手段
T 高さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルの外表面に巻き回してケーブルの外表面に周方向の突条を形成する線材と、前記ケーブルの外表面に巻き回した線材の対向端部を互いに固定するための固定手段とを有することを特徴とするケーブルの風荷重低減装置。
【請求項2】
前記線材が環状に形成された環状ゴム線であり、前記固定手段がS字フックであることを特徴とする請求項1に記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項3】
前記線材が必要長さの切断ゴム線であり、前記固定手段が前記切断ゴム線の端部に設けて互いに係止可能な係止具であることを特徴とする請求項1に記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項4】
前記線材が、クロロプレンゴム、エチレプレンゴム、ウレタンゴムのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項5】
前記線材が必要長さの金属線又は金属ワイヤであり、前記固定手段が前記線材の端部を互いにボルトにより締め付けて固定可能な締結具であることを特徴とする請求項1に記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項6】
前記ケーブルが傾斜ケーブルであり、前記線材の配置により前記傾斜ケーブルのレインバイブレーションの防止を兼ねることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項1】
ケーブルの外表面に巻き回してケーブルの外表面に周方向の突条を形成する線材と、前記ケーブルの外表面に巻き回した線材の対向端部を互いに固定するための固定手段とを有することを特徴とするケーブルの風荷重低減装置。
【請求項2】
前記線材が環状に形成された環状ゴム線であり、前記固定手段がS字フックであることを特徴とする請求項1に記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項3】
前記線材が必要長さの切断ゴム線であり、前記固定手段が前記切断ゴム線の端部に設けて互いに係止可能な係止具であることを特徴とする請求項1に記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項4】
前記線材が、クロロプレンゴム、エチレプレンゴム、ウレタンゴムのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項5】
前記線材が必要長さの金属線又は金属ワイヤであり、前記固定手段が前記線材の端部を互いにボルトにより締め付けて固定可能な締結具であることを特徴とする請求項1に記載のケーブルの風荷重低減装置。
【請求項6】
前記ケーブルが傾斜ケーブルであり、前記線材の配置により前記傾斜ケーブルのレインバイブレーションの防止を兼ねることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のケーブルの風荷重低減装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−72642(P2012−72642A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150048(P2011−150048)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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