説明

ケーブルシース剥取工具

【課題】シースの内側の軟銅テープを傷つけることなく、シースを容易に剥ぎ取ることのできるケーブルシース剥取工具を提供する。
【解決手段】本発明のケーブルシース剥取工具1は、平面視円形の金属製回転盤4を具備し、該回転盤4は周縁部の厚さが0.3〜1.0mmで、周面が回転軸31に平行な円筒状の平滑面をなすように形成され、この回転盤4を回転させて、上記周面をケーブル9のシース96に押し当てることにより、回転盤4とシース96との摩擦熱でシース96の表面を軟化させつつシース96を削り取るように構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧電力用ケーブルの端末処理に際してシース(外側保護被覆)を剥ぎ取るための工具に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧電力を輸送するための配電ケーブルには、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル(CVケーブル)をはじめとするプラスチック系ケーブルが最も広く利用されている。図3は、比較的単純な内部構造を有する単心ケーブル9の断面図である。中心側から順に、銅線を束ねた導体91、内部半導電層92、架橋ポリエチレン等からなる絶縁体93、軟銅テープ94、紙テープ95、ポリ塩化ビニルや耐熱ポリエチレン等からなるシース(外側保護被覆)96を同心状に積層した構造になっている。
【0003】
この種の高圧電力用ケーブル(以下、単に「ケーブル」と称する。)の布設工事においては、ケーブルの端末を接続する際に、シース96を周方向及び延長軸方向に切開して剥ぎ取り、露出した紙テープ95及び軟銅テープ94の一部をめくり、さらに絶縁体93の一部を剥ぎ取る必要がある。かかる端末処理作業に使用される工具としては、電工ナイフのほか、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。これらの工具は、グリップと一体に設けた略C字状のケーブル把持部にケーブルを挿入して、ケーブル把持部の内側に設けた回転刃によりケーブルを挟圧しながら、工具をケーブルの周方向に回転させることにり、シースを一定の深さで周方向に切開できるように構成されたものである。回転刃は、グリップ内に設けた支持手段によってケーブルの径方向に進退し、切り込み深さを調節することができる。ケーブル把持部の内側には、ケーブルの周面に当接するガイドローラが複数個取り付けられて、工具の回転操作を円滑にする。さらに、回転刃の切開方向を90度回動させて、ケーブル把持部に挿入したケーブルを延長軸方向にも切開することができるようにしたものも公知である。
【特許文献1】実開昭55−64829号公報
【特許文献2】実開昭55−98111号公報
【特許文献3】特開平5−219619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シースを切開するときに、電工ナイフや回転刃の刃先で軟銅テープの表面が傷つけられると、高圧電流によって損傷箇所に局所的な発熱が生じ、ケーブルが焼失したり、接地端と非接地端との間に生じる大きな電位差が損傷箇所のトラッキング劣化を招いて絶縁破壊に至るといった重大事故を招く。そのため、ケーブルの端末処理を行う作業員には技能検定が義務づけられているが、強靱な素材からなるシースを精度良く切開するのは、技能を有する作業者にとっても困難な作業である。
【0005】
また、シースの厚さは、厳密には均一でなく、ケーブルの種類によって十分の数ミリ程度のばらつきがある。さらに、連続する1本のケーブルでも、切開する位置によってシースの厚さは微妙に変化する。上記従来の工具は、回転刃の切り込み深さを調節しうるように構成されてはいるが、回転刃をシースに食い込ませたときに刃先がどこまで達しているかを視認することはできないので、軟銅テープを傷つけないぎりぎりの深さに刃先位置を調節するのは、現実的には困難である。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、軟銅テープを傷つけずにシースを容易に剥ぎ取ることのできるケーブルシース剥取工具を提供し、もってケーブルの端末処理作業における施工品質や作業性、安全性等を向上させようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明のケーブルシース剥取工具は、平面視円形の金属製回転盤を具備し、該回転盤は周縁部の厚さが0.3〜1.0mmで、周面が回転軸に平行な円筒状の平滑面をなすように形成され、この回転盤を回転させて、上記周面をケーブルのシースに押し当てることにより、回転盤とシースとの摩擦熱でシースの表面を軟化させつつシースを削り取るように構成される。
【0008】
この発明は、適当な厚みを有する金属製の板体と、ポリ塩化ビニルや耐熱ポリエチレン等からなるシースとの高速摩擦によって、シースが好適に切削されることを見出してなされたものである。鋭利な刃先でシースを切開するのではないから、シースの内側にある軟銅テープを傷つけないでシースを剥ぎ取ることができる。
【0009】
回転盤の回転速度については、実用性の検証を経て、周速20〜50m/秒で回転するのが好ましいことを確認した。上記範囲を超える速度になると、切削速度が速すぎて扱いにくくなるとともに、軟銅テープを傷つけやすくなる。一方、上記範囲よりも遅い速度になると、十分な摩擦力が得られず、施工性が低下する。
【0010】
上記発明において、回転盤の片面に複数枚の羽根片を突設し、上記羽根片によって生じる渦流とともにシースの削り屑を集塵袋内に回収するように構成すれば、施工性はさらに向上する。
【発明の効果】
【0011】
上述のように構成される本発明のケーブルシース剥取工具は、鋭利な刃先を有する刃体ではなく、円筒状の平滑な周面を有する回転盤によってシースを削り取るように構成されているので、シースの内側にある軟銅テープを傷つけずにシースを剥ぎ取ることができる。これにより、ケーブルの端末処理作業における施工品質や作業性、安全性等が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2は本発明の実施形態に係るケーブルシース剥取工具の正面形状及び側面形状を一部破断して示す図である。このケーブルシース剥取工具1は、全体として、ハンディタイプのディスクグラインダを小型化したような形状に類似している。主要な構成要素は、グリップ部2、電動モータ(図示せず)を内蔵した回転駆動部3、円形の金属製回転盤4、回転盤4を覆う集塵カバー5及び集塵袋6である。
【0013】
グリップ部2は、片手で把持しうる程度の細長い形状をなしている。回転駆動部3はグリップ部2の先端に設けられており、その回転軸31はグリップ部2の軸方向と略直交している。回転駆動部3の駆動力には充電池又は交流電源が利用される。
【0014】
回転盤4は、例えば亜鉛メッキ鋼板、銅板、アルマイト処理したアルミ板等の金属板からなる平板体で、直径が概ね5〜8cm、厚さが0.3〜1.0mmとなるように形成されている。回転盤4は、その中心が回転軸31に結合されて一方向(図2における反時計回り方向)に回転する。回転盤4の一部はグリップ部2の先端方向に突出しており、この突出した周縁部でシースを切削する。回転盤4の周面は、回転軸31に平行な円筒状の平滑面となっている。つまり、この回転盤4は鋭利な刃を有していない。周縁部のエッジは略直角に形成されているが、このエッジは多少丸みを帯びていてもよい。
【0015】
回転盤4の片面には、回転盤4を構成する板体を切り起こして形成した略矩形の羽根片41が複数枚(例示形態では8枚)、突設されている。さらに、回転盤4は、一対の側板51、52と、略渦巻状の流路を形成する内外の湾曲板53、54とからなる集塵カバー5によって囲まれており、内外の湾曲板53、54の下端部の間から回転盤4の周縁部のが一部、露出している。回転盤4が回転したときに羽根片41は図2中に鎖線で示すような渦流を起こし、この渦流が内外の湾曲板の間を経由して後部へと押し流される。この流路の後部には集塵袋6が取り付けられている。
【0016】
ケーブル9のシース96を剥ぎ取る際には、グリップ部2を把持して、回転している回転盤4の周面をシース96に押し当てる。シース96の材料であるポリ塩化ビニルや耐熱ポリエチレンの軟化温度は80〜100℃前後なので、適度な圧力で数秒間、回転盤4をシース96に押し当てると、その摩擦熱でシース96が程よく軟化し、シース96が徐々に削り取られる。
【0017】
回転盤4の回転速度は、回転盤4の大きさ及び厚さ、剥ぎ取るシースの径や厚さ、また夏季と冬季で異なるシースの硬さに応じて、適切に設定されるのが望ましい。実験的検証によって得られた好適な回転速度は、夏季条件下で、直径5〜6cm・厚さ0.3〜0.5の回転盤4を、交流電圧100V・定格出力80Wの電動モータで駆動したときに8000〜10000rpm(周速に換算して20〜30m/秒)、また冬季条件下で、直径7〜8cm・厚さ0.5〜0.8mmの回転盤4を、交流電圧100V・定格出力100Wの電動モータで駆動したときに10000〜12000rpm(周速に換算して36〜50m/秒)となった。
【0018】
シース96の削り屑は、回転盤4が生じる渦流によって集塵袋6に回収される。シース96の残厚が僅かになれば、摩擦熱によって軟化しているシース96を容易に剥ぎ取ることができる。したがって、通常の注意深さを持って作業している限り、回転盤4の周面は、シース96の内側にある紙テープ95に達することはあっても、その内側にある軟銅テープ94にまで達することはない。こうして、軟銅テープ94が安全に保護される。なお、図示した使用状態は、シース96を延長軸方向に切削する場合を示しているが、シース96を輪切り方向に切削する場合も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るケーブルシース剥取工具の一部破断正面図である。
【図2】同じく、ケーブルシース剥取工具の一部破断側面図である。
【図3】ケーブルの内部構造を簡略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ケーブルシース剥取工具
2 グリップ部
3 回転駆動部
4 回転盤
41 羽根片
5 集塵カバー
6 集塵袋
9 ケーブル
96 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視円形の金属製回転盤を具備し、該回転盤は周縁部の厚さが0.3〜1.0mmで、周面が回転軸に平行な円筒状の平滑面をなすように形成され、この回転盤を回転させて、上記周面をケーブルのシースに押し当てることにより、回転盤とシースとの摩擦熱でシースの表面を軟化させつつシースを削り取るように構成されたケーブルシース剥取工具。
【請求項2】
回転盤は、周速20〜50m/秒で回転するように構成された請求項1記載のケーブルシース剥取工具。
【請求項3】
回転盤の片面に複数枚の羽根片が突設され、上記羽根片によって生じる渦流とともにシースの削り屑を集塵袋内に回収するように構成された請求項1に記載のケーブルシース剥取工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−195275(P2007−195275A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8730(P2006−8730)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000163419)株式会社きんでん (37)
【Fターム(参考)】