説明

ケーブル探査装置及びケーブル探査方法

【課題】探査対象ケーブルを流れる信号の向きを誤って判断することによる探査結果の誤判定を低減すると共に、構造物によって探査困難な場所において確実に探査可能とする
【解決手段】探査対象ケーブル4に探査信号を印加する送信機と、前記探査対象ケーブル4を流れる前記探査信号から放射する磁界を検出し電気信号に変換するサーチコイル1と、前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブル4であることを判定する受信機10とからなるケーブル探査装置であって、前記受信機10は前記検出信号の正負を反転する極性反転器12を備えることを特徴とするケーブル探査装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的導線を含むケーブル群の中に探査対象となるケーブルが含まれているか、或いはある地点のケーブルがその他の地点のケーブルと電気的連続性を有するかを特定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のプラントの工場や各種のビルや原子力発電所等の施設内には、施設の区画内にある多数の機器からの電気的導線を含むケーブルが、計画されたケーブル敷設経路に沿って、天井または壁からサポート材でサポートされたトレイ等に支持されて敷設されている。
【0003】
これらのケーブルは、高圧動力用ケーブル,低圧動力用ケーブル,制御用ケーブル,計装用ケーブル(計測用ケーブルとも言う)等の用途毎に分類されている。1つのトレイ内に敷設されているケーブルの本数は、例えば高圧動力用の場合、数本から十数本であり、低圧動力用の場合、十数本から数十本である。一方、制御用および計装用の場合、ケーブルが数百本程度となる。またケーブル1本当たりの長さは、数十mから数百m程度に及んでいる。
【0004】
以下に表記する特許文献1には、サーチコイルをアンテナとして用いて探査対象ケーブルを探査して特定する技術が開示されている。その技術は、探査したいケーブルである探査対象ケーブルに探査用の探査信号を流し、その流れた電流によって生じる電磁界をサーチコイルで検出信号として検出するもので、サーチコイルを用いることでケーブルトレイ上に敷設された複数のケーブルの中に探査対象ケーブルが含まれているか否かを探査可能としている。
【0005】
その特許文献1では、サーチコイルを用いて探査する際に図6の(b)図に示すようにサーチコイル1に付した矢印6と探査対象ケーブル4を流れる探査信号の電流の向き(探査信号の向き)、即ち図6の(b)図中に示す矢印、が一致するように設置する。これは探査対象ケーブル4かあるいはそれ以外のケーブルかを判定するために検出信号の極性情報を用いており、正しく探査するためにこのように設置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−324530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の特許文献1に記載の従来技術では、先に述べたように検出信号の極性情報、即ち信号の立ち上がりが正か負かで探査対象ケーブルから放射される電磁界か否かを判定する。
【0008】
これは、探査信号を交流信号として正相か逆相かの情報で判定する場合でも同様である。図6に示すサーチコイル1に付した矢印6と探査対象ケーブル4を流れる信号の向きを逆にして探査した場合、極性が本来と逆向きで検出されるため、探査対象ケーブル4の場合には探査対象ケーブルではないという判定結果となり、逆に探査対象ケーブル4以外を探査すると、探査対象ケーブルと判定されるため、いずれの場合でも誤った判定結果を得るという問題点がある。
【0009】
このような従来技術でも、サーチコイル1に付した矢印6と探査信号の向きを一致するようにして探査すれば問題ないが、特にプラントやビルでは、複数の階や部屋に渡ってケーブルが敷設されていると、ケーブルを探査する作業者は信号の向きがわからなくなる場合も多い。
【0010】
また、ケーブルはケーブルトレイ上に敷設されているが、そのトレイは例えば通路の壁際に設置されていたり、あるいは機器や配管などの構造物があってトレイの左右どちらかは物理的に空間が無いことが多い。このために、例えば図7に示すように壁などの構造物7が探査対象ケーブル4を収納しているトレイ3に近接していると、構造物側からサーチコイル1をかざすことができない。
【0011】
そのため、図6と同様に探査信号の向きとサーチコイル1の矢印6が一致するようにサーチコイル1をトレイ3上にかざすことができない場合が多々ある。つまりは探査ができないという新たな問題が生じる。なお、これらの問題点はサーチコイル1としてループアンテナやダイポールアンテナなどの他の形式のアンテナを用いる場合でも同様である。
【0012】
従って、本発明の目的は、探査対象ケーブルを流れる信号の向きを誤って判断することによる探査結果の誤判定を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明によるケーブル探査装置は、探査対象ケーブルに探査信号を印加する送信機と前記探査対象ケーブルを流れる前記探査信号から放射する磁界又は電界をアンテナで検出し電気信号に変換する手段と、前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブルであることを判定する受信機とからなるケーブル探査装置であることを基本的前提要件として備え、その前提要件の基での本発明の特徴要件は、前記受信機は前記検出信号の正負を反転する極性反転器を備えることである。
【0014】
他の本発明によるケーブル探査装置の特徴要件は、先の基本的前提要件の基で、前記アンテナは前記磁界の鎖交面に対して両側に把持部を備えることである。
【0015】
さらに他の本発明によるケーブル探査装置の特徴要件は、先の基本的前提要件の基で、前記受信機は前記検出信号の正負の情報を反転する負号演算処理を実施する演算手段を備えることである。
【0016】
上記した目的を達成する本発明によるケーブル探査方法は、探査対象ケーブルに探査信号を印加するステップと、前記探査対象ケーブルを流れる前記探査信号から放射する磁界又は磁界をアンテナで検出して電気信号に変換するステップと、前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブルであることを判定するステップとを有するケーブル探査方法であることを方法発明の基本的前提要件として備え、その前提要件の基での本発明の特徴要件は、前記探査信号と前記アンテナの向きが予め定めた向きと逆向きの場合に前記検出信号の正負を反転して前記探査対象ケーブルを探査するステップを備えることである。
【0017】
他の本発明によるケーブル探査方法の特徴要件は、先の方法発明の基本的前提要件の基で、前記アンテナは前記磁界の鎖交面に対して両側に把持部を備えるものを用い、片側の前記把持部を把持して前記探査対象ケーブルを探査すると前記探査信号と前記アンテナの向きが予め定めた向きと逆向きとなる場合に、他方の前記把持部を把持することによって、前記探査信号と前記アンテナの向きが予め定めた向きに正して前記探査対象ケーブルを探査するステップを備えることである。
【0018】
さらに他の本発明によるケーブル探査方法の特徴的要件は、先の方法発明の基本的前提要件の基で、前記探査信号と前記アンテナの向きが予め定めた向きと逆向きの場合に前記検出信号の正負の情報を反転する負号演算処理を加えて前記探査対象ケーブルを探査するステップを備えることである。
【0019】
さらに別の他の本発明は、先のいずれかの方法発明において、前記探査を実施する場所からみて前記探査信号の印加地点の方向を調査し、前記調査によって得られる前記印加地点の方向の情報を用いて前記アンテナの向きを前記予め定めた向きにして前記探査を行うステップを備えるケーブル探査方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、探査対象ケーブルを流れる探査信号と、その探査信号に基づく磁界を受けるアンテナの向きとの関係に起因する、探査対象ケーブルの存否に関する誤判定を防止でき、構造物によって探査困難な場所においても正確な探査対象ケーブルの探査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1によるケーブル探査装置を説明する図にして、(a)図は装置の構成ブロック図であり、(b)図は(a)図におけるサーチコイルとケーブルとの関係を示す上平面図である。
【図2】本発明の実施例2によるケーブル探査装置を説明する図にして、(a)図は装置の構成ブロック図であり、(b)図は(a)図におけるサーチコイルとケーブルとの関係を示す上平面図である。
【図3】本発明の実施例3によるケーブル探査装置を説明する図にして、(a)図は装置の構成ブロック図であり、(b)図は(a)図におけるサーチコイルとケーブルとの関係を示す上平面図である。
【図4】本発明の実施例によるケーブル探査実施前における調査のフローチャート図である。
【図5】本発明の実施例におけるアンテナの構造を示す概略説明図にして、(a)図はソレノイドコイルを用いた棒状のアンテナを、(b)図はループアンテナの例を示す図である。
【図6】従来技術によるケーブル探査装置のアンテナとケーブルとの関係を示す図にして、(a)図は立面配置図であり、(b)図は(a)図の上平面配置図である。
【図7】従来技術によるケーブルトレイとその近傍の構造物との関係を説明する図にして、(a)図は立面配置図を、(b)図は(a)図の上平面配置図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態を説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明の第1の実施例であり、極性反転器12および切替器11,切替手段18を備えた受信機10およびアンテナとしてのサーチコイル1からなる構成を示す図である。図示しないが探査対象ケーブル4には送信機を用いて探査信号を印加する。
【0024】
印加された探査信号は探査対象ケーブル4を流れ、これにより電界または磁界を探査対象ケーブル4近傍に放射し、サーチコイル1にて検出し電気信号に変換する。受信機10ではサーチコイル1から送る電気信号(以下、検出信号)の位相や極性情報を用いて探査対象ケーブル4であるか否かを判定する。
【0025】
即ち、位相情報を用いるのであれば検出する探査信号の位相が所定の範囲であれば探査対象ケーブル4が放射する電界または磁界を検出しているとし、所定の範囲を逸脱していれば探査対象ケーブルを含まないと判定する。探査対象ケーブル4に流れる探査信号に対し、誘導や回り込み等の要因で探査対象ケーブル以外のケーブル5を流れる信号は逆方向であるために放射する電磁界も逆位相になり、サーチコイル1の近傍にある複数のケーブルの中に探査対象ケーブル4が含まれているか否かを位相情報を用いることで判定可能となる。
【0026】
探査信号をパルス波形とする場合にはパルスの立ち上がりの極性で判定する。位相情報を用いる場合と同様に、探査対象ケーブル4に流れる探査信号に対し、探査対象ケーブル以外5に流れる探査信号は逆方向であるため検出信号のパルスの極性も逆になることで判定する。
【0027】
以下では、極性情報を用いる受信機10の構成について図3を用いて詳細に説明する。
図1(a)はトレイ3の断面及びサーチコイル1,受信機10の構成を示しており、図1(b)はトレイ3の上視図である。
【0028】
サーチコイル1は探査対象ケーブル4から放射する電界または磁界を検出し、電気信号に変換する。磁界を電気信号に変換する場合にはコイル状の素子で構成する。電界の場合には直線状の素子、たとえばダイポールで構成する。
【0029】
サーチコイル1が出力する検出信号は、受信機10の切替器11に送る。切替器11には切替手段18を備えており、切替器11の後段にある極性反転器12と増幅回路13のどちらに信号を送るか選択する。
【0030】
極性反転器12では入力する電気信号の正負を反転させて後段の増幅回路13に送り、増幅回路13でその電気信号の振幅を増幅してアナログ/ディジタル(A/D)変換機14に受信信号の情報としてデータ送信する。
【0031】
A/D変換機14でサンプリングしたデータについて、極性検出処理15で立ち上がりが正か負かを検出し、その結果を判定処理16に送り、判定処理16にて探査対象ケーブル4を含んでいるか否かを結果情報として出力する。これらの各処理はパソコンの信号処理ソフトウェア等、即ちコンピュータに設定したプログラムによる処理手順にて処理される。
【0032】
図3においてはA/D変換機14以降はディジタル信号処理としているがアナログ回路で構成しても良い。なお、切替手段18は探査に従事する作業者が操作する。また、極性反転器12や切替器11,切替手段18は必ずしも受信機10に備える必要は無く、サーチコイル1に備えても良い。サーチコイル1はループアンテナとしても良い。
【0033】
サーチコイル1には方向性があるため、例えば図1に示すように矢印6を付してある。
探査の際には矢印6、即ちアンテナの向きと探査対象ケーブル4を流れる探査信号の向き(図1の探査対象ケーブル4中に記載の矢印方向)が一致するように探査対象ケーブル4の近傍に近接させる。
【0034】
ただし、探査信号は正弦波からなるものとする場合には、時間と共に電流の向きが変化するため定めることができない。この場合には、探査信号を印加した位置を基準とする。
サーチコイル1の矢印6がケーブルと平行に、かつ、印加した位置と逆側の方向(以下、下流方向と称す)となるように近接させる。
【0035】
このようにサーチコイル1の矢印6の向きを探査信号の向き、あるいは下流方向に向けて近接させる場合は問題ないが、図1に示しているようにトレイ3の逆側からケーブルに近接させるとサーチコイル1に付した矢印6が下流方向と逆向きの上流方向を向く。
【0036】
サーチコイル1の向きが本来と逆方向を向いているので検出信号の位相は正しい方向、即ち下流側に向けている場合に対して180°反転する。極性で判定する場合でも同様で、逆の極性が検出される。そのため、極性または位相で判定処理した結果は、探査対象ケーブル4が含まれているにも関わらず探査対象ケーブル4無しと判定される。
【0037】
これに対し本発明においてはサーチコイル1に付した矢印6の向きが逆方向(上流方向)となる場合には、検出信号の極性を極性反転器12で反転させて、増幅回路13に送る。極性反転器12は例えば切替器11と接続する信号線のプラスとマイナスを入れ替える回路である。図3では、サーチコイル1で逆の極性で検出される検出信号を更に逆の極性とするため、本来の極性で増幅回路13に送られることとなる。そのため探査対象ケーブル4を含む場合にはそのような判定処理結果が得られる。
【0038】
次に本実施例の効果を説明する。プラント,ビル内では図7に示すようにケーブルのトレイ3の片側が壁や配管,機器等の構造物7でふさがっている場合がある。その際には、図1と同様にサーチコイル1をケーブルに近接させようとしても構造物7によって阻害されるために近接できず、つまりは探査ができない。あるいは、構造物7と逆側であればケーブルを近接させることは可能であるが、サーチコイル1に付した矢印が所定の向きと逆方向に向くため先に述べたように、正しい探査結果が取得できないという問題がある。
【0039】
本発明においては、構造物7により所定の向きでサーチコイル1をケーブルに近接できない場合には、逆側からサーチコイル1をケーブルに近接させ、極性反転器12により極性を反転させることで正しい探査結果を得ることができる。つまり従来方式では探査できない場所でも探査できるようになるという効果がある。
【0040】
なお、極性反転器12に信号を送るように切り替えている場合、所定の向き、つまりサーチコイル1に付した矢印6が下流側の向きとなるようにサーチコイル1をケーブルに近接させると、探査対象ケーブル4を含んでいる場合であっても含んでいないという誤った結果が得られることとなる。
【0041】
そのための対策として切替器11を極性反転器12側に切り替えた状態であることを作業者が気付かずに探査することが無いように、例えば、サーチコイル1に点灯表示式で互いに向きが反対となっている矢印を2個付し、切替器11の状態が極性反転器12に信号を送る状態の場合には、極性反転器12を通らない場合に点灯させる矢印と逆方向を示した矢印を点灯させ、作業者は表示される矢印の向きと下流方向が一致するようにサーチコイル1をケーブルに近接させることで誤り無く探査結果を得ることができる。または、切替器に連動して機械的に矢印の向きを変更しても良い。
【0042】
また、検出位相や極性はサーチコイル1を構成するコイルの巻き方向や、接続線の極性で変わるものである。上記で示したサーチコイルの向きと信号の流れる方向、および探査結果との関係はあくまで一例である。
【0043】
また、各図に示したサーチコイル1に黒帯の印を付しているが、これはサーチコイル1のアンテナ長さ方向の向きを明示する説明上のものであり、本発明の本質ではない。
【実施例2】
【0044】
本発明の第2の実施例について図2を用いて説明する。図2(a)はトレイ3の断面及びサーチコイル1,受信機10の構成を示しており、図2(b)はトレイ3の上視図である。図1の第1の実施例と比較すると極性反転器12,切替器11,切替手段18が無く、サーチコイル1の構造が異なる点で相違があり、以下この点について詳細に説明する。
【0045】
本実施例におけるサーチコイル1はA部及びB部の両方に取り付けおよび取り外し可能な機構を備え、支持部2をいずれかに取り付けても探査することが可能としてある。A部,B部に備える機構は、例えばねじ込み式でも良いし、支持部2に把持機構を備え、A部,B部に把持部を備えて把持しても良い。
【0046】
あるいは、作業者がサーチコイル1を把持しても良い。図1で示したように、サーチコイル1の矢印の向きを探査信号の向き、あるいは下流方向に向けて近接させることができる場合、即ち、図2のB部に支持部2を取り付けて探査できる場合は問題ないが、構造物7があるためにサーチコイル1の矢印6の向きを探査信号の向き、あるいは下流方向に向けて近接させることができない場合には、A部に支持部を取り付けてケーブルに近接させる。
【0047】
図5は、サーチコイル1のアンテナ構造を示している。図5の(a)は内部がソレノイドコイル30になっている場合であるが、斜線で示した鎖交磁束面31と略垂直の方向、即ちX方向で両側に支持部2を取り付けまたは把持できるようにする。
【0048】
また図5(b)はサーチコイルに代えて採用したループアンテナ32のアンテナ構造の場合であるが、同様にX方向でループアンテナ32を挟んで両側に支持部を取り付けまたは把持できるようにする。
【0049】
つまりいずれの場合も鎖交磁束面31,33の両側に把持部を備えるということである。鎖交磁束面31,33のどちらの面から磁束が鎖交するかで検出信号の極性や位相が反転するため、鎖交磁束面31,33が反転できるように機構を備えることが重要である。その他の技術的事項は第1の実施例と同様である。
【0050】
本実施例の効果を述べる。第1の実施例で示した効果に加えて、以下の効果がある。探査信号が比較的高周波、例えば100kHz以上になると、第1の実施例で示した切替器11や極性反転器12は高周波信号に対応させる、即ちインピーダンス整合や電磁シールドを施してサーチコイル1の検出信号に影響を与えないようにする必要があるため価格が上昇する。これに対し本実施例では高価な切替器11や極性反転器12が不要であるため価格を低減できる効果がある。
【実施例3】
【0051】
図3は本発明の第3の実施例を示す図であり、第1の実施例と比較すると極性反転器12,切替器11,切替手段18が無く、A/D変換機14の後段に負号演算処理22と切替処理20,選択手段21を備える点で異なるため、以下この点について詳細に説明する。
【0052】
サーチコイル1から送る検出信号は増幅回路13で増幅し、A/D変換機14でディジタル信号に変換する。A/D変換機14の後段はディジタル信号処理されるためFPGA(Field Programmable Gate Array)やDSP(Digital Signal Processor),パソコンの信号処理ソフトウェア等で構成する。選択手段21は切替処理の後に負号演算処理22するか否かを作業者が変更可能とするためのユーザインタフェースである。負号演算処理22ではA/D変換機14から送られるデータの正負を反転する処理である。
【0053】
サーチコイル1には方向性があり、実施例1と同様に、矢印6と探査対象ケーブルを流れる探査信号の向きが一致するようにケーブルに近接させる場合には、負号演算処理22は実施しない。一方、図5のようにサーチコイル1に付した矢印6が下流方向と異なる向き、即ち上流方向となる場合には選択手段21を操作して負号演算処理22にかけて極性検出処理15に送る。サーチコイル1の向きが逆方向を向いているので検出信号の極性は正しい方向、即ち下流側に向けている場合に対して反転するが、本発明においては負号演算処理22で極性を反転させるため、サーチコイル1から送る逆極性の検出信号を更に逆の極性とするため、本来の極性で極性検出処理15に送られる。そのため探査対象ケーブル4を含むのであればそのように判定処理結果を得ることができる。
【0054】
なお、本実施例ではA/D変換機14の後段で負号演算処理22にかけるが、必ずしもこれに限ったことではなく、例えば、極性検出処理15で出力される「正」または「負」の結果やあるいは出力される値の正負を反転しても良いし、あるいは出力される値が位相の場合には180°(またはπラジアン)加算しても良い。あるいは判定処理16で出力される「探査対象ケーブルを含む」または「含まない」という結果を反転させても良い。ここで反転とは、出力された結果と逆の結果にするということである。また、出力される値を反転その他の技術的事項は第1の実施例と同様である。
【0055】
次に本実施例の効果を述べる。第1の実施例で示した効果のほかに、新たに付加する電気回路を必要としないため、ハードウェアの構成を簡素化でき、価格や故障を低減できる効果がある。また、探査作業においては作業記録を残す場合があるが選択手段21によって選択された情報を判定処理16の処理結果や極性検出処理15の処理結果とともに記録することができるため、作業員の記録ミスを防ぎ、信頼性の高い探査作業とすることができる。
【0056】
図4は本発明の各実施例におけるケーブル探査作業の手順を示している。図4のステップ2,3,4は第1,2,3の各実施例において同様の手順で探査する点を示しており、ステップ1に示す上流方向の調査をする点が第1,2,3の各実施例の探査手順に加えられる。そのステップ1について以下に詳述する。
【0057】
なお、ステップ3の極性切替実施とは、第1の実施例であれば極性反転器12を通過するように切替器11を切り替えることであり、第2の実施例においてはサーチコイル1のA部に支持部2を取り付けることであり、第3の実施例においては負号演算処理22を実施するように選択することに相当する。
【0058】
図4のステップ1に示す上流方向の調査は、信号注入点、即ち探査対象ケーブル4への探査信号の印加地点の方向を明らかにするために実施するステップである。そのステップを実施する手段としてケーブル敷設時の工事図面を用いる方法がある。多くの場合は、ケーブルのトレイ3がその図面上に記載されているため信号注入点の位置と探査実施地点の位置を決定すると、その図面でトレイ3のルートを照合することで探査する位置においてどちらの方向が上流であるか明らかにすることができる。
【0059】
あるいは他の手段として探査作業員が信号注入点からケーブルのトレイ3にそって目視で確認して明らかにしても良い。
【0060】
あるいは他の手段として、サーチコイル1を2台用意し、それぞれをトレイ3のケーブル配線方向に離れて配置し、探査信号の検出時間差の情報で明らかにすることもできる。
これは、ケーブルを流れる探査信号は光速かそれ以下の伝播速度で伝搬していくため、上流側にあるサーチコイル1の方が早く信号を検出するので、早く検出する方向が上流方向であると判定することができることによる。
【0061】
このようなステップ1を各実施例に追加して行うことによれば、各実施例による効果2を加えて、次に述べる効果が得られる。即ち、本発明の各実施例では、探査信号の向きやあるいは探査信号の信号注入点の探査信号検出地点からみた方向を知ることが重要である。
【0062】
両地点間で壁を挟んだり階床が異なると方向が不明となって、探査作業者が方向を誤る場合がある。この場合には正しい探査結果を取得できない問題がある。
【0063】
図4のステップ1を各実施例に追加することで、予め探傷信号の上流方向を明らかにすることができるため、サーチコイル1に付した矢印6と探査信号の向きを一致させて近接可能か否かを確実に判定できるため誤り無く探査結果を一層確実に得られるという効果がある。
【0064】
以上のように、本発明の第1実施例では、探査対象ケーブル4に探査信号を印加する送信機と前記探査対象ケーブル4を流れる前記探査信号から放射する磁界を検出し電気信号に変換するサーチコイル1と前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブル4であることを判定する受信機10からなるケーブル探査装置を用いて、前記受信機10は前記検出信号の正負を電気回路で反転する極性反転器12を備えることを特徴とするケーブル探査装置が用いられ、構造物7などの障害によって、前記サーチコイル1を予め定めた向きと逆向きに設けざる得ない場合に、前記検出信号を前記極性反転器かけて前記検出信号の正負を反転した結果を用いて探査結果を誤判定無く正しく得ることを特徴とするケーブル探査方法が実施される。
【0065】
本発明の第2実施例では、探査対象ケーブル4に探査信号を印加する送信機と前記探査対象ケーブル4を流れる前記探査信号から放射する磁界を検出し電気信号に変換するサーチコイル1と前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブル4であることを判定する受信機10からなるケーブル探査装置であって、前記サーチコイル1は前記磁界の鎖交面に対して両側に把持部(A部及びB部)を備えることを特徴とするケーブル探査装置を用いて、A部及びB部の前記両把持部の内の片側の前記把持部を把持して前記探査対象ケーブル4にサーチコイル1を近接させると構造物7が障害となって前記サーチコイル1を予め定めた向きと逆向きとなる場合に、A部及びB部の前記両把持部の内の他方の前記把持部を把持してサーチコイル1の向きを物理的に反転させて探査信号とサーチコイル1の向きを予め定めた向きに正して用いることにより、探査結果を誤判定無く正しく得ることを特徴とするケーブル探査方法が実施される。
【0066】
本発明の第3実施例では、探査対象ケーブル4に探査信号を印加する送信機と前記探査対象ケーブル4を流れる前記探査信号から放射する磁界を検出し電気信号に変換するサーチコイル1と前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブル4であることを判定する受信機10からなるケーブル探査装置であって、前記受信機10は前記検出信号の正負を反転する負号演算処理をソフトウェア的に実行するコンピュータ等の演算処理手段を備えるケーブル探査装置を用い、構造物7の障害によって前記サーチコイルを予め定めた向きと逆向きに設けざる得ない場合に前記負号演算処理により前記検出信号の正負をソフトウェア処理で反転させて探査することで、探査結果を誤判定無く正しく得ることを特徴とするケーブル探査方法が実施される。
【0067】
いずれの実施例においても、予め探査信号の探査対象ケーブル1への信号注入(信号印加)点の方向を調査してその方向を明確にする必要性から、探査実施場所において信号注入点の方向を調査し、前記調査によって得られる信号注入点の方向の情報を認識し、その認識情報を用いて予め定めた向きにサーチコイル1の向きを定めて探査するステップを踏まえることが、探査結果を誤判定無く正しく得ることにより一層の実現性を担保できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、電力伝送ケーブルや信号伝送ケーブルのように電気的導線を含んだケーブルを複数本敷設してある中から撤去すべきケーブルなどの特定のケーブルの存否を確認する技術に利用可能性がある。
【符号の説明】
【0069】
1 サーチコイル
2 支持部
3 トレイ
4 探査対象ケーブル
5 ケーブル
6 矢印
7 構造物
10 受信機
11 切替器
12 極性反転器
13 増幅回路
14 A/D変換機
15 極性検出処理
16 判定処理
17 表示機
18 切替手段
20 切替処理
21 選択手段
22 負号演算処理
30 ソレノイドコイル
31,33 鎖交磁束面
32 ループアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探査対象ケーブルに探査信号を印加する送信機と、
前記探査対象ケーブルを流れる前記探査信号から放射する磁界又は電界をアンテナで検出し電気信号に変換する手段と、
前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブルであることを判定する受信機とからなるケーブル探査装置において、
前記受信機は前記検出信号の正負を反転する極性反転器を備えることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項2】
探査対象ケーブルに探査信号を印加する送信機と、
前記探査対象ケーブルを流れる前記探査信号から放射する磁界又は電界をアンテナで検出し電気信号に変換する手段と、
前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブルであることを判定する受信機とからなるケーブル探査装置において、
前記アンテナは前記磁界の鎖交面に対して両側に把持部を備えることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項3】
探査対象ケーブルに探査信号を印加する送信機と、
前記探査対象ケーブルを流れる前記探査信号から放射する磁界又は電界をアンテナで検出し電気信号に変換する手段と、
前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブルであることを判定する受信機とからなるケーブル探査装置において、
前記受信機は前記検出信号の正負の情報を反転する負号演算処理を実施する演算手段を備えることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項4】
探査対象ケーブルに探査信号を印加するステップと、
前記探査対象ケーブルを流れる前記探査信号から放射する磁界又は磁界をアンテナで検出して電気信号に変換するステップと、
前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブルであることを判定するステップを有するケーブル探査方法において、
前記探査信号と前記アンテナの向きが予め定めた向きと逆向きの場合に前記検出信号の正負を反転して前記探査対象ケーブルを探査するステップを備えることを特徴とするケーブル探査方法。
【請求項5】
探査対象ケーブルに探査信号を印加するステップと、
前記探査対象ケーブルを流れる前記探査信号から放射する磁界又は磁界をアンテナで検出して電気信号に変換するステップと、
前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブルであることを判定するステップを有するケーブル探査方法において、
前記アンテナは前記磁界の鎖交面に対して両側に把持部を備えるものを用い、
片側の前記把持部を把持して前記探査対象ケーブルを探査すると前記探査信号と前記アンテナの向きが予め定めた向きと逆向きとなる場合に、他方の前記把持部を把持することによって、前記探査信号と前記アンテナの向きが予め定めた向きに正して前記探査対象ケーブルを探査するステップを備えることを特徴とするケーブルの探査方法。
【請求項6】
探査対象ケーブルに探査信号を印加するステップと、
前記探査対象ケーブルを流れる前記探査信号から放射する磁界又は磁界をアンテナで検出して電気信号に変換するステップと、
前記電気信号の極性情報または位相情報を用いて前記探査対象ケーブルであることを判定するステップを有するケーブル探査方法において、
前記探査信号と前記アンテナの向きが予め定めた向きと逆向きの場合に前記検出信号の正負の情報を反転する負号演算処理を加えて前記探査対象ケーブルを探査するステップを備えることを特徴とするケーブル探査方法。
【請求項7】
請求項4又は請求項5又は請求項6において、
前記探査を実施する場所からみて前記探査信号の印加地点の方向を調査し、
前記調査によって得られる前記印加地点の方向の情報を用いて前記アンテナの向きを前記予め定めた向きにして前記探査を行うステップを有することを特徴とするケーブル探査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−227010(P2011−227010A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99356(P2010−99356)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】