説明

ケーブル結束用粘着テープ

【課題】端部剥れが生じ難いケーブル結束用粘着テープを製造する製造方法を提供する。
【解決手段】複数本のケーブルを結束するための粘着テープであって、基材2と前記基材2の一方面上に形成された粘着層3とを備え、前記粘着層3の表面が露出して粘着面3aを形成しており、前記基材2は樹脂フィルムであり、前記粘着層3は前記基材2の一方面2aにシリコーン系粘着剤が塗布されて形成されたものであり、前記基材2の他方面2bに対する前記粘着面3aの粘着力が2.0N/19mm以上であり、前記他方面2bの静摩擦係数が0.2以下であるケーブル結束用粘着テープ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル結束用粘着テープおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば図3に示すように、所定方向に延びる一対のコネクタ5が複数本のケーブル4で接続されたケーブルアセンブリを、2つの筐体6A,6Bを相対的に回動可能に連結するヒンジ部60を介して配設する場合、ケーブルアセンブリにおけるヒンジ部60を通過する部分にケーブル結束用粘着テープ10を巻き付けて、その部分のケーブル4を略円柱状に結束することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、ケーブル結束用粘着テープ10は、ケーブル4に対して、自背面上に粘着面が全面的に重なるようにロール状に巻き付けられたり、あるいは巻き付けを行う範囲が広い場合には自背面に対して粘着面がずれるように螺旋状に巻き付けられたりする。
【0004】
なお、ヒンジ部60は、図3中の矢印aで示すように2つの筐体6A,6Bを連結する方向に延びる軸回りの回動を可能にするものである場合もあるし、2つの筐体6A,6Bが折り畳まれた状態と開いた状態とになるような回動を可能にするものである場合もあるし、あるいはその双方を可能にするものである場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−184344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のケーブル結束用粘着テープ10では、一方の筐体6Aに対して他方の筐体6Bが回動させられることにより、ヒンジ部60に対応する位置でケーブル4が繰り返し捩られたり折れ曲げられたりすると、図3に示すように粘着テープ10が端部10aから剥れることがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、端部剥れが生じ難いケーブル結束用粘着テープおよびこのケーブル結束用粘着テープを得るための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、ケーブル結束用粘着テープの自背面を表面処理すれば、粘着面が自背面にしっかりとくっついて端部剥れが生じ難くなるのではないかと考えた。しかし、表面処理を施すと自背面に対する粘着面の粘着力は向上するものの、自背面の摩擦係数も上昇してしまう。自背面の摩擦係数が大きくなり過ぎると、当該自背面がヒンジ部を構成する部材上を滑り難く、ヒンジ部におけるケーブルの動きが悪くなる。本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、粘着テープの基材における粘着層が形成される一方面および自背面を構成する他方面にスパッタエッチング処理を施すことで、自背面の摩擦係数の過度の上昇を抑えつつ、粘着層の表面で構成される粘着面の自背面に対する粘着力を向上させることができることを見出した。
【0009】
本発明は、このような観点からなされたものであり、複数本のケーブルを結束するための粘着テープを製造する方法であって、基材の一方面および他方面にスパッタエッチング処理を施し、前記基材の前記一方面に粘着剤を塗布して粘着層を形成し、粘着テープを得るケーブル結束用粘着テープの製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、その適用対象が制限されるわけではないが、基材が樹脂フィルムであり、粘着層がシリコーン系粘着剤が塗布されて形成された粘着テープへの適用に適している。この粘着テープは、複数本のケーブルを結束するための粘着テープであって、基材と前記基材の一方面上に形成された粘着層とを備え、前記粘着層の表面が露出して粘着面を形成しており、前記基材は樹脂フィルムであり、前記粘着層は前記基材の一方面にシリコーン系粘着剤が塗布されて形成されたものであり、前記基材の他方面に対する前記粘着面の粘着力が2.0N/19mm以上であり、前記他方面の静摩擦係数が0.2以下であるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材の他方面に対する粘着面の粘着力が高く、基材の他方面の摩擦係数が低いケーブル結束用粘着テープを得ることができる。このような粘着テープをケーブルに巻き付ければ、ヒンジ部においてケーブルがスムーズに動くことができるだけでなく、ケーブルが繰り返し捩られたり折れ曲げられたりしても粘着テープの端部剥れが生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造方法により製造されるケーブル結束用粘着テープの断面図である。
【図2】図1の粘着テープが巻き回された状態を示す説明図である。
【図3】従来のケーブル結束用粘着テープを用いてケーブルを結束した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本発明の製造方法は、図1に示すようなケーブル結束用粘着テープ1(以下、単に「テープ1」という。)を製造する方法である。このテープ1は、複数本のケーブルを結束するためのものであり、基材2と、この基材2の一方面2a上に形成された粘着層3とを備えている。そして、粘着層3における基材2と反対側の露出する表面3aによって粘着面が構成され、基材2の他方面2bによって自背面が構成されている。
【0015】
本製造方法では、まず、基材2の一方面2aおよび他方面2bの両面にスパッタエッチング処理を施す。この処理は、スパッタリングによる粗面化処理であり、減圧雰囲気中で発生させたプラズマに基材2の表面を曝すことにより行われる。スパッタリングの条件は、特に制限されないが、例えば真空度0.075〜0.1Torrのアルゴンなどの希ガス雰囲気下で行えばよい。
【0016】
基材2としては、樹脂フィルムが適している。樹脂フィルムには、どのような市販のものを用いてもよいが、その材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)を用いることができる。また、樹脂フィルムには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマ(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマ(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマ(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などのフッ素樹脂を用いてもよい。フッ素樹脂フィルムは、撥水性などに優れた好ましい基材である。テープ1に柔軟性を付与するためには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、またはポリエチレン(PE)からなるフィルムを用いることが好ましい。PTFEは、耐熱性にも優れている好ましい基材材料である。
【0017】
基材2の厚さは、テープ1に適度な腰があって取り回し性が良好になるようにするために、10〜50μm、特に25〜30μmの範囲内にあることが望ましい。
【0018】
スパッタリング処理による一方面2aの粗面化は、その面への粘着層3の粘着力(換言すれば、一方面2aが粘着層2を保持する保持力)の向上に寄与する。基材2には、粘着層3が形成される一方面2aとともに自背面を構成する他方面2bにもスパッタエッチング処理が施されているため、複数本のケーブルを巻いて固定する際に必要となる粘着面(念着層3の表面3a)と自背面との粘着力が大きく向上するようになる。
【0019】
スパッタエッチング処理以外にも、表面処理の方法はある。しかし、処理液との接触を伴う表面処理(湿式処理)では、基材2の表面が変性してテープの自背面(基材2の他方面2b)の摩擦係数が大きくなるおそれが大きい。自背面の摩擦係数が大きくなると、自背面がヒンジ部を構成する部材上を滑り難く、ヒンジ部におけるケーブルの動きが悪くなる。このため、湿式処理は、複数本のケーブルを結束するためのテープの基材には適していない。これに対し、スパッタエッチングでは、基材2の表面が変性しないために、他方面2bの摩擦係数の上昇を抑えつつ他方面2bの粗面化を図ることができる。
【0020】
スパッタエッチング処理は、基材2の一方面2aおよび他方面2bに同一条件で施すことが好ましい。これらの表面2a,2bがほぼ同一の表面状態にあることが粘着面を自背面に固定する場合の粘着力の向上に望ましいからである。
【0021】
スパッタエッチング処理を行った後は、基材2の一方面2aに粘着剤を塗布して粘着層3を形成する。粘着剤としては、シリコーン系粘着剤が適している。シリコーン系粘着剤には、過酸化物架橋タイプ、付加架橋タイプがあるが、いずれも用いることができる。シリコーン系粘着剤は、フッ素樹脂に対して高い粘着力が得られるので、導線がフッ素樹脂によって被覆されたケーブルに対しては好適である。
【0022】
粘着剤を塗布する方法はどのような方法でも構わないが、例えば、粘着剤をトルエンなどの溶剤で、固形分ベースで15〜60重量%に希釈し、それをパターン塗工機などで基材2にコーティングしてもよい。また、粘着剤には、必要に応じて、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、SiH基含有の低分子量ジメチルシロキサンなどの架橋剤、白金系などの触媒、充填剤などを加えることができる。架橋剤の量は、固定分比で粘着剤100重量部に対して0.5〜5重量部程度である。
【0023】
粘着層3の厚みは、特に制限されるものではないが、厚すぎるとテープ1が幅方向にずれやすく、薄すぎると粘着性が低くなるので、10〜20μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは15μm程度である。
【0024】
以上のようにして、自背面(基材2の他方面2b)に対する粘着面の粘着力が2.0N/19mm以上であり、自背面の静摩擦係数が0.2以下であるテープ1を得ることができる。このように、テープ1では、基材2の他方面2bに対する粘着面の粘着力が高く、かつ、他方面2bの摩擦係数が低くなっているので、テープ1をケーブルに巻き付ければ、ヒンジ部においてケーブルがスムーズに動くことができるだけでなく、ケーブルが繰り返し捩られたり折れ曲げられたりしてもテープ1の端部剥れが生じ難くなる。
【0025】
なお、他方面2bに対する粘着面の粘着力が2.6N/19mm以上3.5N/19mm以下であることが好ましく、他方面2bの静摩擦係数および動摩擦係数が共に0.11〜0.16の範囲内にあることが好ましい。
【0026】
また、図2に示すように、テープ1を芯材の回りに巻き回して巻回体を構成するには、少なくとも一方面にフッ化シリコーンなどの離型剤が塗布されて離型層4が形成されたセパレータ5を粘着面に貼るようにしてもよい。この場合、粘着層3の表面3aと離型層5の表面とが接触するように基材2とセパレータ5とを積層し、この積層体を基材2の他方面2bとセパレータ5の他方面とが接触するように巻き回していけばよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。
【0028】
(実施例1)
ジメチルシロキサン構造のシリコーンガムとMQレジン構造のシリコーン樹脂を重量比で100/100に配合した粘着剤を、トルエンで固形分ベースで40重量%に希釈し、粘着剤の固形分100重量部に対して、架橋剤としてナイパーBO(日本油脂社製)を1.5重量部加えて十分攪拌して粘着剤溶液を得た。
【0029】
基材として厚さ30μmのPTFEフィルムを用い、その一方面および他方面の両面にスパッタエッチング処理を施した。このときの条件としては、導入ガスとしてアルゴンガスを用い、真空度0.085Torr、進行波電力8.0kW、処理速度8m/minとした。
【0030】
その後に、基材の一方面にアプリケータにて粘着剤溶剤を固形分で15μmの厚さになるように塗布し、80℃で3分間溶剤を乾燥した後に200℃で5分間キュアーして、両面にスパッタエッチング処理が施された基材の一方面に糊厚15μmの粘着層を有する粘着テープを得た。
【0031】
(比較例1)
基材の一方面にのみスパッタエッチング処理を施した以外は、実施例1と同様にして、未処理の他方面を有する基材のスパッタエッチング処理が施された一方面に糊厚15μmの粘着層を有する粘着テープを得た。
【0032】
(比較例2)
基材の両面にスパッタエッチング処理を施す代わりにナトリウム処理で基材を処理した以外は、実施例1同様にして、両面にナトリウム処理が施された基材の一方面に糊厚15μmの粘着層を有する粘着テープを得た。ここで、ナトリウム処理とは、芳香族系の溶剤中に金属ナトリウムを分散して錯塩とした溶液中に基材を浸透させてその表面を処理することをいう。
【0033】
(試験)
実施例1、比較例1、および比較例2の粘着テープに対して、引張試験機を用いて自背面(基材の他方面)およびステンレス板に対する粘着面の粘着力測定試験を行うとともに、バーデンレーベン型の摩擦係数測定機を用いて自背面の摩擦係数測定試験を行った。
【0034】
粘着力測定試験では、各粘着テープを幅19mm、長さ250mmに切断し、自背面またはステンレス板に粘着面を重ねた状態でその上から質量2kgのゴムローラを1往復させて接着を行った。接着してから20〜40分経過した後に、粘着テープを300mm/分の速度で剥離させながら引っ張って、その間の4点における引張力の平均値を算出した。これを3片について行い、さらにその平均値を算出した。
【0035】
摩擦係数測定試験では、直径10mmの鋼球を1.96Nの押付力で自背面に押し付けた状態で、鋼球を150mm/分の速度で摺動させて、静摩擦係数および動摩擦係数を測定した。
【0036】
試験の結果は、表1に示す通りであった。
【0037】
【表1】

【0038】
基材の他方面が表面処理されていない比較例1では、自背面の静摩擦係数および動摩擦係数が共に0.1を下回っているが、自背面に対する粘着面の粘着力が0.9N/19mmと極めて小さかった。
【0039】
一方、基材の他方面がナトリウム処理により表面処理された比較例2では、自背面に対する粘着面の粘着力が2.5N/19mmと改善されたが、静摩擦係数および動摩擦係数が大きく上昇し、特に静摩擦係数は0.47と非常に大きくなった。
【0040】
これに対し、基材の他方面がスパッタエッチング処理により表面処理された実施例1では、自背面に対する粘着面の粘着力が3.0N/19mmとナトリウム処理した場合よりも大きく改善されるとともに、動摩擦係数および静摩擦係数を共に小さく抑えられた。
【符号の説明】
【0041】
1 ケーブル結束用粘着テープ
2 基材
2a 一方面
2b 他方面(自背面)
3 粘着層
3a 表面(粘着面)
4 離型層
5 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のケーブルを結束するための粘着テープであって、
基材と前記基材の一方面上に形成された粘着層とを備え、前記粘着層の表面が露出して粘着面を形成しており、前記基材は樹脂フィルムであり、前記粘着層は前記基材の一方面にシリコーン系粘着剤が塗布されて形成されたものであり、
前記基材の他方面に対する前記粘着面の粘着力が2.0N/19mm以上であり、前記他方面の静摩擦係数が0.2以下であるケーブル結束用粘着テープ。
【請求項2】
前記基材の他方面は、スパッタエッチング処理により表面処理されている請求項1に記載のケーブル結束用粘着テープ。
【請求項3】
少なくとも一方面上に離型層が形成されたセパレータをさらに備え、前記粘着層の表面と前記離型層の表面とが接触するように前記基材と前記セパレータとが積層され、前記基材の他方面と前記セパレータの他方面とが接触するように巻き回された請求項2に記載のケーブル結束用粘着テープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−233189(P2012−233189A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106073(P2012−106073)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【分割の表示】特願2007−186102(P2007−186102)の分割
【原出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】