説明

ゲムシタビン水溶液製剤

【課題】エタノールなどを含有せず、かつ安定性および溶解性ともに良好なゲムシタビン水溶液製剤を提供すること。
【解決手段】本発明のゲムシタビン水溶液製剤は、ゲムシタビン塩酸塩と、塩化マグネシウムおよびマクロゴール400とを含有する。本発明の水溶液製剤は、ゲムシタビンの濃度が20mg/mL以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲムシタビン水溶液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲムシタビンは、デオキシシチジン誘導体であり、その塩酸塩は、強力で特異性の高い代謝拮抗作用を示す抗悪性腫瘍剤として用いられる。適応症は、非小細胞肺癌、膵癌、胆道癌、尿路上皮癌、手術不能または再発乳癌などがある。ゲムシタビン塩酸塩は凍結乾燥製剤として市販されている。凍結乾燥製剤は、生理食塩液に溶解し、ゲムシタビンとして体表面積あたり1000mgまたは1250mg(成人1人あたり約1600mgまたは2000mg)を30分かけて点滴静注される。
【0003】
ゲムシタビン塩酸塩の凍結乾燥製剤としては、ジェムザール(登録商標)注射用200mg製剤および1g製剤が市販されている。これらの製剤には、ゲムシタビン塩酸塩228mg(ゲムシタビンとして200mg)に対してD−マンニトールが200mg、無水酢酸ナトリウムが12.5mgの割合で含有されており、さらに適量のpH調節剤が添加されている。ゲムシタビン塩酸塩を生理食塩液に16mg/mLの濃度で溶解した場合、その溶液のpHは約3、そして浸透圧比は約2である。特許文献1には、ゲムシタビンの溶解度が、pH2.7〜3.3では38mg/mL、pH5付近では16mg/mL、pH7付近では15.3mg/mL、およびpH9付近では15.8mg/mLであることが記載されており、酸性では中性の2倍以上の溶解度を示すことがわかる。
【0004】
このように、ジェムザール(登録商標)注射用製剤は、使用に際して溶解操作を必要とし、複数本の製剤を使用しなければならない場合は、操作が煩雑化し、無菌性の確保に注意が割かれる。さらには、溶解操作時の医療従事者への抗癌剤曝露のリスクが高い。このため、医療現場ではゲムシタビン塩酸塩の液剤化が望まれていた。
【0005】
ゲムシタビン塩酸塩を生理食塩液に溶解すると、溶液は酸性となり、ゲムシタビンが加水分解を受け、安定性に問題が生じる。溶液のpHを中性にすると、加水分解は抑制されるが、ゲムシタビンが析出し、溶解性に問題が生じる。このように、ゲムシタビン塩酸塩を液剤化するうえで、溶液状態での安定性と溶解性とを両立させることが課題であった。
【0006】
安定性および溶解性ともに良好なゲムシタビン塩酸塩の液剤化製剤(38mgゲムシタビン/mL)が市販されている(非特許文献1)。しかし、この製剤は、溶解性の問題を解決するためにエタノールを50%(v/v)含有しており、この製剤をゲムシタビンとして2g投与する場合、ビールを約525mL投与する場合と同等のエタノール量(約21g)を静脈内に投与することになる。これほどのアルコールの投与は、中枢神経系への影響が強く、非常に危険性が高いうえ、アルコール過敏性患者に対しては注意が必要である(非特許文献2)。したがって、エタノールなどのアルコール類を含有せず、かつ安定性および溶解性ともに良好なゲムシタビン塩酸塩の水溶液製剤の開発が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0089329号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Public Assessment Report Decentralised Procedure, Gemcitabine NIDDA 38mg/ml Concentration for Solution for Infusion and Gemcitabine STADA 38mg/ml Concentration for Solution for Infusion, UK/H/1859-60/001/DC, UK Licence No: PL 11204/0215-6, STADA Arzneimittel AG, Medicines and Healthcare products Regulatory Agency
【非特許文献2】高木博司著、「図解薬理学(新版)」、中外医学社、1991年3月、p.43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、エタノールなどを含有せず、かつ安定性および溶解性ともに良好なゲムシタビン水溶液製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、添加剤として、塩化マグネシウムおよびマクロゴール400を用いることによって、あるいはさらにアセチルトリプトファン、ニコチンアミドもしくはアルギニンまたはこれらの混合物を用いることによって、ゲムシタビン水溶液製剤がエタノールなどを含有しないにもかかわらず溶解性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、ゲムシタビン水溶液製剤を提供し、該製剤は、ゲムシタビン塩酸塩と、塩化マグネシウムおよびマクロゴール400とを含有する。
【0012】
1つの実施態様では、上記製剤は、アセチルトリプトファン、ニコチンアミドおよびアルギニンからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含有する。
【0013】
1つの実施態様では、上記製剤は、pHが4〜9である。
【0014】
1つの実施態様では、上記ゲムシタビンの濃度は20mg/mL以上である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エタノールなどを含有せず、かつ安定性および溶解性ともに良好なゲムシタビン水溶液製剤を提供することができる。本製剤は、使用に際して溶解操作を必要としないため、点滴バッグへの混注作業にかかる労力が軽減され、点滴静注による投与が簡便となるうえ、医療従事者への抗癌剤曝露のリスクを低減できるため、医療従事者の負担が軽減される。また、無菌性の確保も容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のゲムシタビン水溶液製剤は、ゲムシタビン塩酸塩と、塩化マグネシウムおよびマクロゴール400とを含有する。好ましくは、アセチルトリプトファン、ニコチンアミドもしくはアルギニンまたはこれらの混合物をさらに含有する。
【0017】
本発明の水溶液は、エタノールなどを含まない。水溶液中には、溶質である固体の粒子(析出物)が認められない。
【0018】
ゲムシタビン(gemcitabine)は、抗癌剤として用いられる含フッ素ヌクレオシドの一種であり、シチジンのリボース環の2’位がフッ素2個で置換された構造を有する。ジェムザール(登録商標)(Gemzar)という商品名でゲムシタビン塩酸塩の凍結乾燥製剤が市販されている。ゲムシタビン塩酸塩は、白色〜微黄白色の結晶性の粉末である。ゲムシタビンの溶解度は、pH2.7〜3.3では38mg/mL、pH5付近では16mg/mL、pH7付近では15.3mg/mL、およびpH9付近では15.8mg/mLである(特許文献1)。ゲムシタビンは、抗癌剤として体表面積あたり1000mgまたは1250mg(成人1人あたり約1600mgまたは2000mg)が点滴静注にて投与される。
【0019】
塩化マグネシウムは、水に極めて溶けやすく、製剤において、安定化剤、矯味剤、湿潤剤、等張化剤、溶解補助剤などとして用いられる。静脈内注射の場合、最大使用量は213.6mgである。本発明において、塩化マグネシウムは、ゲムシタビンの溶解補助剤として、最大使用量の範囲内になるように製剤中に含有される。
【0020】
マクロゴールとは、日本薬局方(局方)または医薬品添加物規格(薬添規)に収載された規格を満たすポリエチレングリコールをいう。マクロゴール400は、平均分子量が400の分子で構成される常温で粘稠性の液体であり、製剤において、安定化剤、界面活性剤、可塑剤、滑沢剤、基剤、結合剤、光沢化剤、コーティング剤、溶解補助剤、乳化剤、崩壊剤、溶解補助剤などとして用いられる。静脈内注射の場合、最大使用量は4.8gである。本発明において、マクロゴール400は、ゲムシタビンの溶解補助剤として、最大使用量の範囲内になるように製剤中に含有される。
【0021】
アセチルトリプトファンは、白色または淡黄白色の粉末で水にほとんど溶けないが、製剤において、安定化剤などとして用いられる。静脈内注射に用いられ、最大使用量は461mgである。本発明において、アセチルトリプトファンは、ゲムシタビンの溶解補助剤として、最大使用量の範囲内になるように製剤中に含有される。
【0022】
ニコチンアミドは、白色粉末で水に溶けやすく、製剤において、安定化剤、等張化剤、溶解補助剤などとして用いられる。静脈内注射の場合、最大使用量は250mgである。本発明において、ニコチンアミドは、ゲムシタビンの溶解補助剤として、最大使用量の範囲内になるように製剤中に含有される。
【0023】
アルギニンは、アミノ酸の一種であり、白色粉末で水に溶けやすく、製剤において、安定化剤、可溶化剤、緩衝剤、溶解補助剤などとして用いられる。静脈内注射の場合、最大使用量は3.24gである。本発明において、アルギニンは、ゲムシタビンの溶解補助剤として、最大使用量の範囲内になるように製剤中に含有される。
【0024】
本発明の水溶液製剤は、上記の溶解補助剤に加えて、通常の製剤などに用いられる緩衝剤、pH調節剤、安定化剤などを必要に応じて含んでいてもよい。緩衝剤としては、例えば、リン酸水素二ナトリウム12水和物が挙げられるが、特に制限されない。
【0025】
本発明の水溶液製剤は、ゲムシタビン塩酸塩および上記溶解補助剤などを水に溶解することにより製造される。必要に応じて、適量のpH調節剤によりpHを調整する。
【0026】
本発明の水溶液製剤のpHは、通常4〜9であり、好ましくは5〜8である。pHが4未満では、ゲムシタビンが加水分解を受け、安定性に問題が生じる。pHが9を超える場合は、溶解性に問題が生じるとともに、安定性にも問題が生じる。
【0027】
本発明の水溶液製剤は、通常バイアルなどのガラス容器に封入されて、室温にて、好ましくは冷所にて保存される。
【0028】
本発明の水溶液製剤は、通常、ゲムシタビンを20mg/mL以上の濃度で含有する。本発明の水溶液製剤は、用時、生理食塩液で希釈して用いる。
【0029】
本発明の水溶液製剤は、例えば、非小細胞肺癌に適用する場合、点滴静脈内注射により、ゲムシタビンとして体表面積あたり1000mg(成人1人あたり約1600mg)が30分かけて投与される。点滴静注に際してゲムシタビンの量は適宜調整される。例えば、水溶液製剤中のゲムシタビンの濃度が20mg/mLである場合、成人1人あたり1600mgの点滴静注では、80mLを投与することになる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
蒸留水1mLに対して、ゲムシタビン塩酸塩(Chemagis社製)22.8mg(ゲムシタビンとして20mg)、塩化マグネシウム(関東化学株式会社、特級)2.3mgおよびマクロゴール400(関東化学株式会社、メーカー規格適合品)53mg、ならびにリン酸水素二ナトリウム12水和物(関東化学株式会社、特級)3.6mgを混合した。この混合液を室温にて攪拌しながら、適量の4mol/L水酸化ナトリウム溶液(水酸化ナトリウム(関東化学株式会社、特級)より局方に従い調製)を添加し、pHを測定した。得られた混合液は、pH7.92の水溶液(澄明)であった。
【0032】
このように調製した混合液を室温または冷所(5℃)にて1ヶ月保存し、ゲムシタビンの溶解性を目視観察により次の指標に基づいて評価した。結果を以下の表1に示す。
【0033】
(評価指標)
◎:冷所(5℃)にて1ヶ月以上析出物なし
○:室温にて1ヶ月以上析出物なし
×:室温にて1ヶ月以内に析出物あり
【0034】
得られた混合液は、室温にて1ヶ月以上析出物が認められなかった。すなわち、安定な水溶液製剤であることがわかった。
【0035】
(実施例2)
アセチルトリプトファン(Acros Organics社、メーカー規格適合品)1.2mgをさらに混合し、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0036】
得られた混合液は、pH6.96の水溶液(澄明)であり、室温にて1ヶ月以上析出物が認められなかった。すなわち、安定な水溶液製剤であることがわかった。
【0037】
(実施例3)
ゲムシタビン塩酸塩22.8mg(ゲムシタビンとして20mg)に代えてゲムシタビン塩酸塩28.5mg(ゲムシタビンとして25mg)を混合し、マクロゴール400 53mgに代えてマクロゴール400 66mgおよびアセチルトリプトファン1.5mgを混合し、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0038】
得られた混合液は、pH6.99の水溶液(澄明)であり、室温にて1ヶ月以上析出物が認められなかった。すなわち、安定な水溶液製剤であることがわかった。
【0039】
(実施例4)
塩化マグネシウム2.3mgに代えて塩化マグネシウム2.9mgを混合し、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0040】
得られた混合液は、pH6.97の水溶液(澄明)であり、室温にて1ヶ月以上析出物が認められなかった。すなわち、安定な水溶液製剤であることがわかった。
【0041】
(実施例5)
アセチルトリプトファン1.5mgに代えてニコチンアミド(和光純薬工業株式会社、和光特級)3.4mgおよびアルギニン(味の素株式会社、日本薬局方)3mgを混合し、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0042】
得られた混合液は、pH6.04の水溶液(澄明)であり、室温および冷所(5℃)にて1ヶ月以上析出物が認められなかった。すなわち、安定な水溶液製剤であることがわかった。
【0043】
(比較例1)
アセチルトリプトファン1.5mgを混合せず、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例4と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0044】
得られた混合液は、pH7.97の白濁液であった。すなわち、水溶液製剤が得られなかった。
【0045】
(比較例2)
マクロゴール400 66mgおよびアセチルトリプトファン1.5mgを混合せず、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0046】
得られた混合液は、pH6.96の水溶液(澄明)であったが、室温にて1日後に析出物が認められた。すなわち、安定な水溶液製剤が得られなかった。
【0047】
(比較例3)
塩化マグネシウム2.3mgを混合せず、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0048】
得られた混合液は、pH6.93の水溶液(澄明)であったが、室温にて1日後に析出物が認められた。すなわち、安定な水溶液製剤が得られなかった。
【0049】
(比較例4)
マクロゴール400 66mgを混合せず、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0050】
得られた混合液は、pH6.97の溶液であり、析出物が認められた。すなわち、水溶液製剤が得られなかった。
【0051】
(比較例5)
アセチルトリプトファン1.5mgを混合せず、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0052】
得られた混合液は、pH6.94の水溶液(澄明)であったが、室温にて1日後に析出物が認められた。すなわち、安定な水溶液製剤が得られなかった。
【0053】
(比較例6)
マクロゴール400 66mgを混合せず、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、比較例1と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0054】
得られた混合液は、pH7.95の溶液であり、析出物が認められた。すなわち、水溶液製剤が得られなかった。
【0055】
(比較例7)
マクロゴール400 66mgを混合せず、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、比較例1と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0056】
得られた混合液は、pH6.95の水溶液(澄明)であったが、室温にて1日後に析出物が認められた。すなわち、安定な水溶液製剤が得られなかった。
【0057】
(実施例6)
ゲムシタビン塩酸塩28.5mg(ゲムシタビンとして25mg)に代えてゲムシタビン塩酸塩31.4mg(ゲムシタビンとして27.5mg)を混合し、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例5と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0058】
得られた混合液は、pH6.06の水溶液(澄明)であり、室温にて1ヶ月以上析出物が認められなかった。すなわち、安定な水溶液製剤であることがわかった。
【0059】
(比較例8)
ニコチンアミド3.4mgおよびアルギニン3mgに代えてアセチルトリプトファン1.5mgを混合し、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例6と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0060】
得られた混合液は、pH6.98の水溶液(澄明)であったが、室温にてすぐに析出物が認められた。すなわち、安定な水溶液製剤が得られなかった。
【0061】
(比較例9)
ニコチンアミド3.4mgおよびアルギニン3mgに代えてアセチルトリプトファン1.5mgを混合し、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、実施例6と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0062】
得られた混合液は、pH6.02の水溶液(澄明)であったが、室温にて1日後に析出物が認められた。すなわち、安定な水溶液製剤が得られなかった。
【0063】
(比較例10)
アルギニン45mgをさらに混合し、そして水酸化ナトリウム溶液の添加量を変更したこと以外は、比較例8と同様にして、混合液を調製し、混合液のpHを測定し、そして混合液におけるゲムシタビンの溶解性を評価した。結果を以下の表1に併せて示す。
【0064】
得られた混合液は、析出物が認められた。すなわち、水溶液製剤が得られなかった。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、エタノールなどを含有せず、かつ安定性および溶解性ともに良好なゲムシタビン水溶液製剤を提供することができる。本製剤は、使用に際して溶解操作を必要としないため、点滴バッグへの混注作業にかかる労力が軽減され、点滴静注による投与が簡便となるうえ、医療従事者への抗癌剤曝露のリスクを低減できるため、医療従事者の負担が軽減される。また、無菌性の確保も容易となるため、薬液の菌による汚染も防ぐことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲムシタビン塩酸塩と、塩化マグネシウムおよびマクロゴール400とを含有するゲムシタビン水溶液製剤。
【請求項2】
アセチルトリプトファン、ニコチンアミドおよびアルギニンからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含有する、請求項1に記載の水溶液製剤。
【請求項3】
pHが4〜9である、請求項1または2に記載の水溶液製剤。
【請求項4】
前記ゲムシタビンの濃度が20mg/mL以上である、請求項1または2に記載の水溶液製剤。

【公開番号】特開2012−17308(P2012−17308A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156981(P2010−156981)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】