説明

ゲル状潤滑剤組成物及び焼結含油軸受用潤滑剤

【課題】 使用バルク温度領域では、グリースと同様に半固体ゲル状であり、油漏れを防止でき、グリースでは実現不可能な卓越した低摩擦特性を有することによリ、高級脂肪酸の吸着膜が一旦形成されると大幅な省エネ性能を示すゲル状潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】 鉱油系及び/又は合成系の液状潤滑油に、均一なゲルを生成する高級脂肪酸を配合したことからなり、好ましくは前記液状潤滑油100重量部に対して、高級脂肪酸を1〜200重量部配合したゲル状潤滑剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状潤滑剤組成物及び焼結含油軸受用潤滑剤に関する。特には、含浸して焼結含油軸受に用いたとき、油漏れや油分離が起こりにくく、かつ用途に応じて流動特性やちょう度などのゲル特性を広い範囲で調整でき、なおかつ所定温度以下で使用される限り、通常の潤滑剤に比べて大幅な低摩擦特性を示すゲル状潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤には、鉱物油や合成油などの基油を主成分とした常温で液状の潤滑油と、金属石けんやウレアなどの増ちょう剤を分散した半固体ゲル状のグリースがある。これら潤滑剤にはそれぞれ長所短所があり、使用される条件、環境、用途などによって使い分けられている。
【0003】
近年、機械はますます高度化、高性能化、高速化、小型化、ロングライフ化の傾向にある。そのため、特にこれらの機械に使用される軸受システムの摺動部では、潤滑条件が厳しくなっており、潤滑剤への要求性能も高まっている。安定した摺動特性、潤滑特性を長時間にわたって維持するためには、潤滑剤の消耗、損失、劣化などによる潤滑不良をできるだけ低減する必要がある。特に、DVD機器などでは、超高速で軸受が回転するため、遠心力によって油が飛散しやすいため、長期の安定稼働が課題となっている。また、これらの機械には複雑な電子制御回路が組み込まれていることが多く、漏れた潤滑剤、あるいは揮発成分によるシステム汚染を極力防止する必要がある。複写機、プリンターなどの紙を扱う精密機器内部における油漏れも、印刷用紙への油のしみ出し不良となるため、通常、無含油焼結軸受が用いられる。液状の潤滑油は濡れ性が大きいため拡がりやすく、カメラなどの小型精密機械に使用する場合は、必要に応じてシステム材表面に撥油処理を行うなど、油の飛散防止対策が必要になっている。
【0004】
さらに、プリンター、ファクシミリ、複写機などの事務機器では、比較的低速回転での軸受システムが多いが、軸受箇所が多いことから、低摩擦化による省エネルギー効果は高い。摺動部の低摩擦化による省エネルギーに対しては、液状潤滑油の低粘度化により対応することが考えられるが、低粘度油は油漏れによるシステム汚染や蒸発損失を起こしやすいばかりでなく、潤滑部位における油膜形成能が低下し潤滑不良が発生するために、低粘度化には限界があった。
【0005】
そこで、この種の用途、例えば、焼結含油軸受に含浸させる潤滑剤等では、半固体ゲル状のグリースを使用することが考えられ、確かにシステム汚染防止の面では優れている。しかし一般のグリースは高温に加熱しても含浸処理ができないことが多い。
【0006】
なお、接点用グリースとして、アミノ酸系のゲル化剤を用いることが提案されている(特許文献1参照)。しかし、非水系ゲル化剤には光学活性が求められることから、精製の容易さやコストの点で実用化されているゲル化剤の種類は決して多くはない(非特許文献1参照)。この数少ない非水系ゲル化剤であるトリアミド系化合物は潤滑性能がそれほど優れていないため、トリアミド化合物の種類と濃度調整だけでは充分な低摩擦特性を示すゲル状潤滑剤ができない、という問題があった。
また、パラフィンワックスや蜜ロウなどのワックス分を液状潤滑油に配合したことを特徴とした潤滑組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ワックス分を配合することで油漏れは防止できるものの、摩擦特性に関しては十分な性能は有していない課題があった。
【特許文献1】特開昭63−221198号公報
【特許文献2】特開平10−246230号公報
【非特許文献1】英 謙二、他:「表面」、36巻6号、291頁−301頁、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するもので、本発明の目的は、使用バルク温度領域では、グリースと同様に半固体ゲル状であるが、容易に焼結含油軸受に含浸できるだけでなく、グリースでは実現不可能な卓越した低摩擦特性を有することよリ、大幅な省エネ性能を示すゲル状潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、数十〜百数十℃の融点をもつ高級脂肪酸を基油に所定量配合することにより、グリースと類似した半固体状ゲルとなるため油モレを防止でき、高級脂肪酸の吸着膜が一旦形成されると、その融点以下の温度領域における高級脂肪酸の持つ低摩擦特性を活用することによリ、上記の課題を一挙に解決できると考えた。このアイディアに基づき鋭意検討を重ねた結果、想定通りの効果を発揮することが確認され、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、鉱油系及び/又は合成系の液状潤滑油に、均一ゲルを生成する高級脂肪酸を配合したことからなり、好ましくは前記液状潤滑油100重量部に対して、高級脂肪酸を1〜200重量部配合したゲル状潤滑剤組成物である。
【0010】
また、本発明は、上記ゲル状潤滑剤組成物からなる焼結含油軸受用潤滑剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゲル状潤滑剤組成物は、室温ではもちろんのこと、機械要素中のバルク温度ではグリースと同様に半固体ゲル状であるが、高級脂肪酸の融点以下では、グリースでは実現不可能な卓越した低摩擦特性が脂肪酸により実現されるため、大幅な省エネ設計が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のゲル状潤滑剤組成物は、液状潤滑油に高級脂肪酸を所定量配合し、脂肪酸の最高融点よりも5〜10℃程度高い温度で撹拌し均一溶解したことを確認後、自然放冷することにより得られる。
【0013】
本発明に用いる液状潤滑油としては、通常、潤滑油として使用されるものであれば、鉱油系、合成油系、あるいはそれらの混合物のいずれも使用することができる。潤滑油の物性としては、40℃における動粘度が3〜500mm/sのものが使用でき、8〜100mm/sのものがより好ましい。さらに、粘度指数は90以上、流動点は−10℃以下、引火点が150℃以上であることが好ましい。混合物の場合、該混合物として上記物性を満足するものであれば、混合前の油が引火点以外の上記物性の範囲を外れるものであっても使用することができる。
【0014】
鉱油系潤滑油は、一般に、原油を常圧蒸留し、あるいはさらに減圧蒸留して得られる留出油を各種の精製プロセスで精製した潤滑油留分を基油とし、これをそのまま、或いはこれに各種の添加剤等を調合して調製される。前記精製プロセスは、水素化精製、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、硫酸洗浄、白土処理などであり、これらを適宜の順序で組み合わせて処理して、本発明に好適な鉱油系潤滑油基油を得ることができる。異なる原油あるいは留出油を、異なるプロセスの組合せ、順序により得られた、性状の異なる複数の精製油の混合物も好適な基油とすることができる。
【0015】
合成油系潤滑油は、耐熱性の高い、例えばポリ−α−オレフィン(PAO)、低分子量エチレン・α−オレフィン共重合体、脂肪酸エステル、シリコーン油、フッ素化油、アルキルナフタレンなどを基油として用い、これをそのまま、或いはこれに各種の添加剤等を調合して調製される。
【0016】
本発明における高級脂肪酸としては、1価以上のカルボン酸基を有し、アルキル基が直鎖状及び/又は分枝状で、炭素数が7以上30以下、入手性やコスト面から、好ましくは8以上24以下が望ましい。例えば、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などが挙げられる。
【0017】
液状潤滑油に配合される高級脂肪酸の配合量は、液状潤滑油100重量部に対して1〜200重量部の範囲にあることが好ましい。1重量部以上とすることにより充分な低摩擦特性が得られ、200重量部以下とすることにより摺動部における液状潤滑油の量を十分に保持でき、摩擦の増大を防止できる。
【0018】
また本発明の潤滑剤組成物には、酸化防止剤、摩耗防止剤、錆止め剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、消泡剤など、潤滑油に一般的に使用される添加剤を必要に応じて含有できることは云うまでもない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0020】
以下に示す液状潤滑油、高級脂肪酸、及びワックスを表2に示す割合で混合して実施例、比較例の潤滑剤組成物を調製した。
1.液状潤滑油
表1に示す性状の液状潤滑油を用いた。なお、この潤滑油には、酸化防止剤などの添加剤があらかじめ所定量配合されており、潤滑油としての基本性能(酸化防止性など)を有している。
【0021】
【表1】

【0022】
2.高級脂肪酸
ステアリン酸[融点:70℃]
べヘン酸[融点:80℃]
【0023】
3.ワックス(比較例)
パラフィンワックス[融点:95℃]
【0024】
4.試験方法
上記液状潤滑油、高級脂肪酸、及びワックスを表2に示す割合(重量比)で配合し、融点以上に加熱し、撹拌後、均一に溶解したことを確認し、室温まで冷却して、実施例及び比較例の潤滑剤組成物を調製した。これら調製した潤滑剤組成物について、次に示した試験方法により、状態観察、ちょう度の試験を行い、さらに、青銅系焼結含油軸受に含浸させてその摩擦特性を測定し比較した。また、参考例として市販グリースであるLi系グリース2号についても同様に試験した。
【0025】
(状態観察)
液状潤滑油と高級脂肪酸を加熱溶解させて調製した潤滑剤組成物について、1日経過後の外観から、均一なゲル状を保っているか、層分離していないか、高級脂肪酸が沈降していないかなどを目視で確認した。
【0026】
(ちょう度)
JIS K2220に準拠し、不混和ちょう度を1/4ちょう度計で測定した。
【0027】
(焼結軸受への含浸及び摩擦特性)
ゲル状潤滑剤組成物を融点以上に加熱溶解し、青銅系焼結含油軸受[内径4.007mm]に真空下で含浸させた。なお、含油率は約20質量%である。含浸した軸受材に、鋼製シャフト[外径3.994mm]を通し、荷重[3.7kgf/cm]を上部より掛け、回転数100rpm及び4000rpmで摺動試験を行った。なお、摩擦特性は、摩擦係数で評価した。実験は、室温下で3回行い、定常となった摩擦係数の平均値を記録した。また、100rpm時での摩擦係数が定常になる時間(なじみ時間)も測定した。
【0028】
5.試験結果
実施例、比較例及び参考例を表2に示す。基油に高級脂肪酸を配合し、ゲル状組成物を調製した実施例は、いずれも均一のゲルを形成した。さらにこれらゲル状組成物は、適度なちょう度を有する半固体状であるため、液状の基油のみの場合に比べて油漏れ防止に有効であることが確認された。また、摩擦特性も基油のみの場合に比べて優れており、特に高級脂肪酸を配合することにより非常に優れた低摩擦化を実現できることがわかる。
また、パラフィンワックスを20重量部配合した比較例2も均一ゲルであった。実施例、及び比較例について、焼結軸受に真空含浸した軸受での摺動試験を実施した。その結果、比較例1の基油のみの場合に比べて、高級脂肪酸を配合することにより、実施例1〜4に示される様に大幅に摩擦係数が低減されることがわかる。一方、比較例2のパラフィンワックスの場合は、低速域では基油よりも摩擦係数は低いが高級脂肪酸(実施例)ほどは低くはなく、また高速域では基油と同等レベルの摩擦係数、すなわち実施例よりもはるかに大きい摩擦係数を示し、実用上充分な摩擦特性は得られなかった。また、参考例として示した市販のLi系グリースは、均一ゲルではあったが、熱可逆性を示さず、加熱により油とセッケン成分の分離が認められ、均一な状態で焼結軸受に真空含浸することができなかった。
【0029】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のゲル状潤滑剤組成物は、油漏れがほとんど起こらず、摺動部の低摩擦化を図ることができ、自動車や精密機械などの各種一般機械の焼結含油軸受用の潤滑剤として適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油系及び/又は合成系の液状潤滑油に、高級脂肪酸を配合したゲル状潤滑剤組成物。
【請求項2】
液状潤滑油100重量部に対して、高級脂肪酸を1〜200重量部配合したことを特徴とする請求項1に記載のゲル状潤滑剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゲル状潤滑剤組成物からなる焼結含油軸受用潤滑剤。

【公開番号】特開2006−117741(P2006−117741A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305166(P2004−305166)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(592128788)ポーライト株式会社 (16)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】