説明

ゲート電圧源を用いたバイオポリマの共鳴トンネル効果

【課題】スメアリングの作用を排除すること
【解決手段】本発明はバイオポリマの配列を決定し、それを同定するための装置および方法を提供する。本発明は、第一の電極(7)、第二の電極(9)、第一のゲート電極(12)、第二のゲート電極(14)、ゲート電圧源(17)、及び電位手段(11)を提供する。ゲート電極は、電圧源によりランプされ、第一の電極、バイオポリマ、及び第二の電極間で共鳴レベルを探索して決定することができる。第一の電極及び第二の電極と電気接続する電位手段は、固定電位に維持される。バイオポリマの配列を決定して同定する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してバイオポリマの分野に関し、より具体的には、ナノポア構造体を用いてバイオポリマの配列を決定(シークエンシング)し、同定するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧勾配により、一本鎖のポリヌクレオチドが、ナノメートルの直径の膜透過チャンネル、即ちナノポアを通るように駆動され得ることが、明らかにされている(非特許文献1を参照)。その移動プロセス中に、伸長されたポリヌクレオチド分子は、別の開いているナノポアチャンネルのかなりの部分をブロックする。このブロックは、ポリヌクレオチドの移動中に、ナノポアを介した緩衝液のイオン電流フローの減少につながる。移動中の減少したイオン電流フローの大きさを測定することにより、単一ポリヌクレオチドの通過をモニターすることができる。これは、移動時間および阻止(blockage)電流を記録し、特徴的な検出パターンを有するプロットを生成することにより行われる。理論的には、移動条件を制御することにより、較正された移動時間から、個々のポリヌクレオチド分子の長さを決定することができる。さらに、理論的には、ポリヌクレオチド鎖を構成する個々の塩基の異なる物理的および化学的特性が、移動するポリヌクレオチドの特定の塩基配列の同定を可能にする、測定可能で再現可能な阻止電流の変調を生じる(非特許文献1及び2を参照)。この方法は、単一塩基の解像度を提供するための適切なバンド幅で非常に小さい電流の測定に関する基本的な問題を有する。また、ナノポアチャンネルの性質そのものが、ある塩基を別の塩基と識別するために適切なレベルの特異性を提供する能力を有するかどうか不明確である。
【0003】
ナノポアを移動するポリヌクレオチドを検出する別の手段が、提案されている。これは、下にある基材の同じ表面上のナノポアに隣接して配置された一対の金属電極の間を鎖が通過する際に、移動する鎖の近接した塩基を通る量子力学的トンネル電流に基づいている。トンネル電流の大きさの測定は、移動する分子の存在を検出するための電子的方法であり、条件が適切に制御され、測定が十分に高感度であったならば、構成要素を成す塩基の配列を決定することができる。この手法の主要な動機付けの一つは、走査トンネル顕微鏡の典型的なトンネル電流が、1〜10ナノアンプのオーダーであるということである。これは、ポリマが2ナノメートルのナノポアを移動する間に観測されるイオン電流よりも、2〜3桁大きい。しかしながら、トンネル電流は、トンネル現象の過程に対する量子力学的電位壁の高さと幅に対して、指数関数的な依存性を有することがよく知られている。この依存性は、移動する分子のナノポアにおける正確な場所に非常に敏感であることを意味する。立体特性、及びトンネル電極に対する物理的近接性の両方により、理想的な条件下での異なる塩基種間において期待される本質的な差をはるかに超えるトンネル電流の大きさの変化が生じる可能性がある。このため、この最も単純なトンネル構造が、シークエンシングを行うのに必要な特異性を有すると期待するのは難しい。
【特許文献1】米国特許出願第10/352,675号
【非特許文献1】Kasianowicz,J.J.他著、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93」、13770−13773、1996年
【非特許文献2】Akeson,M.他著「Biophys.J.77」、3227−3233、1999年
【非特許文献3】Li他著、「Ion Beam Sculpting at Nanometer Length Scales」、Nature,412、166-169、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、トンネル電流によって塩基を適切に区別するために、塩基がポアを移動する際にそれぞれ個々の塩基の内部エネルギー準位構造を特定することが必要であるということが提唱された。これは、ナノポアを取り囲み、且つ下にある基材の両側にある金属リングからなる二つの電極を有する構造でもって達成され得る。バイオポリマがポアを移動する際に、二つの電極間に印加されるトンネル電圧は、単一のヌクレオチドがポアチャンネルを通過する速度よりもかなり速い速度で、周期的にランプされる。チャンネルの中央に近い塩基については、トンネル電流は、それぞれが電極のエネルギー準位と特定の塩基の相対的な内部エネルギー準位との一致に対応する一連の別個のピークを経る。このトンネル効果の増加は、よく知られた共鳴量子トンネル現象である。それぞれの塩基について測定された共鳴ピークのパターンは、塩基スペクトルライブラリー及び同定された塩基配列と比較される。この共鳴トンネル効果の測定方式に特定の電極構成が必要である理由は、効率的な共鳴量子トンネル効果を行うために、特定の空間要件が満たされなければならないからである。この共鳴トンネル現象の過程に伴う一つの特定の問題は、バイオポリマが、移動して特性を明らかにされる際に、ナノポアにおいて様々な空間位置を取るかもしれないという事実である。トンネル電極に対する分子の位置におけるこの変動性は、関連するトンネル電位の変動性を生じる。これから説明するように、このトンネル電位の変動性は、効率的な共鳴量子トンネル効果をもたらす共鳴条件を達成するのに必要な所要の印加電圧の変動性、ひいては測定されるスペクトル結果のスメアリング(不鮮明にすること)につながる。従って、このスメアリングの作用を排除することができる新しい技術および方法論が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、バイオポリマの特性を明らかにし、且つその配列を決定するための装置および方法を提供する。この装置は、第一のリング電極、第一のリング電極に隣接する第二のリング電極、第一のリング電極および第二のリング電極に電気接続する電位手段、ゲート電極、及びゲート電極に電気接続するゲート電圧源を含む。ゲート電圧源は、ナノポアを移動するバイオポリマの一部のエネルギー準位をスキャンするためにゲート電極に電位を印加するように設計される。ナノポアは、第一のリング電極および第二のリング電極に隣接して配置され、バイオポリマの特性を明らかにし、及び/又はその配列を決定することを可能にする。電位手段は、第一のリング電極からナノポア内のバイオポリマの一部を通って第二のリング電極まで固定電位を印加するために、第一のリング電極および第二のリング電極に電気接続する。
【0006】
また、本発明は、ナノポアを通って移動するバイオポリマを同定するための方法も提供し、この方法は、ナノポア内に配置されたバイオポリマの一部を同定するためにゲート電圧源からのランプ電位をゲート電極の両端に印加することを含む。また、固定電位を、第一のリング電極および第二のリング電極に印加してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ナノポアを通って移動するバイオポリマの配列を決定する装置および方法において、従来の測定様式に固有の「スペクトル拡散作用」が、最小限に抑えられ、ひいてはスメアリングの作用を排除することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
さて、図1〜図3を参照する。本発明は、バイオポリマ5を同定および/またはその配列を決定することができるバイオポリマ同定装置1を提供する。バイオポリマ同定装置1は、第一の電極7、第二の電極9、第一のゲート電極12、第二のゲート電極14、及び電位手段11を含む。ある実施形態では、一つのゲート電極12のみを用いてもよい。どちらにしても、ゲート電圧源17が、第一のゲート電極12及び/又は第二のゲート電極14とともに使用される。ゲート電圧源17は、ナノポア3を移動するバイオポリマ5の一部を同定および/またはその特性を明らかにするためのランプ電位を供給するために、第一のゲート電極12及び/又は第二のゲート電極14に電気接続する。
【0009】
第一の電極および第二の電極はそれぞれ、リング形状とすることができる。第一の電極7及び第二の電極9は、電位手段11、第一のゲート電極12、及び第二のゲート電極14に電気接続する。第一のゲート電極12及び第二のゲート電極14は、ゲート電圧源17に電気接続する。第一の電極7は、第二の電極9、第一のゲート電極12、及び第二のゲート電極14に隣接している。ある実施形態では、第一の電極7及び第二の電極9は、第一のゲート電極12と第二のゲート電極14との間に配置される。ナノポア3は、第一の電極7及び第二の電極9を貫通することができる。しかしながら、これは、本発明の要件ではない。任意の基材8を使用する場合、ナノポア3は、任意の基材8も貫通することができる。ナノポア3は、バイオポリマ5を受け入れるように設計される。バイオポリマ5は、ナノポア3の中を通って移動してもよいし、しなくてもよい。任意の基材8を使用する場合は、第一の電極7及び第二の電極9は、その基材上に配置されてもよいし、又はその任意の基材8の一部からなってもよい。本発明のこの実施形態では、ナノポア3も、任意の基材8を貫通する。第一のゲート電極12及び/又は第二のゲート電極14は、独立型でもよいし、又は一つ又は複数の任意の基材(図示されていない基材)の一部からなってもよい。
【0010】
バイオポリマ5は、様々な形状、サイズ、及び材料からなることができる。例えば、バイオポリマは、炭水化物、タンパク質、核酸、脂質、グリカン、ポリヌクレオチド、プロテオグリカン、及びポリペプチド等とすることができる。その分子の形状またはサイズは重要でないが、ナノポア3の中を通って移動できなければならない。例えば、一本鎖および二本鎖RNA、DNA、及び核酸が挙げられる。また、バイオポリマ5は、帯電した基または官能基からなることができる。さらに、金属または材料を、バイオポリマ5に添加、混入、又は挿入してもよい。このような添加された材料は、正味の双極子または電荷を提供する、又はバイオポリマを介した伝導性を可能にする。バイオポリマの材料は、電極間で電気的に突き抜けることができるものでなければならない。
【0011】
第一の電極7は、様々な導電性の材料からなることができる。このような材料は、導電性金属、並びに錫、銅、亜鉛、鉄、マグネシウム、コバルト、ニッケル及びバナジウムの合金からなる。当該技術分野でよく知られた導電性を与える他の材料も使用することができる。第一の電極7が任意の基材8の一部に堆積される、又は任意の基材8の一部からなる場合は、第二の電極9に対して任意の場所に配置され得る。それは、第一の電極7と第二の電極9との間に電位を確立することができるように、配置されなければならない。さらに、バイオポリマ5は、その一部を同定、又はその配列を決定することができるように、十分近くに配置されなければならない。即ち、第一の電極7、第二の電極9、第一のゲート電極12、及び第二のゲート電極14は、バイオポリマ5を同定、又はその配列を決定することができるように、間隔をおいて配置されなければならない。これは、図面に示された実施形態が、本発明の範囲を多少なりとも制限することを意味すると解釈されるべきではない。第一の電極7は、様々な形状およびサイズで設計され得る。当該技術分野でよく知られた他の電極の形状を使用することができる。しかしながら、該設計は、第一の電極7、ナノポア3及び第二の電極9にわたって固定電位を確立することができなければならない。さらに、第一のゲート電極12及び第二のゲート電極14は、それらにランプ電圧を印加するために、ゲート電圧源17に電気接続する。
【0012】
全ての電極は、上記で説明し明らかにしたように、同じ材料または類似した材料からなることができる。上述のように、ゲート電極12及び14の形状、サイズ、及び配置は、第一の電極7、第二の電極9、及びナノポア3に対して変更され得る。
【0013】
任意の基材8は、基材およびナノポアを設計するための、当該技術分野で知られた様々な材料からなることができる。任意の基材8は、固体材料からなるか、又はならなくてもよい。例えば、任意の基材8は、メッシュ、ワイヤー、又はナノポアを構築することができる他の材料からなることができる。このような材料は、シリコン、シリカ、Si炭素ベースの材料のような固体材料、プラスチック、金属、又は半導体をエッチング又は製造するための当該技術分野で知られた他の材料、もしくは導電性材料からなることができる。任意の基材8は、様々な形状およびサイズからなることができるが、それを通してナノポア3を形成することができる十分な大きさと十分な幅でなければならない。
【0014】
ナノポア3は、任意の基材8上に、又はそれを貫通して、どこにでも配置され得る。また、上述したように、ナノポア3は、第一の電極7と第二の電極9(平面的または非平面的な構成で)との間に、間隔をおいて配置することによって、確立されてもよい。基材8を使用する場合には、それは、第一の電極7、第二の電極9、第一のゲート電極12、及び第二のゲート電極14に隣接して配置されるべきである。ナノポアのサイズは、1nmから300nm程度までの範囲にわたることができる。ほとんどの場合、バイオポリマの同定およびその配列決定を行うのに有効なナノポアは、約2〜20nmの範囲内となるであろう。これらのサイズのナノポアは、まさにバイオポリマの移動を可能にするのに十分な大きさである。ナノポア3は、当該技術分野でよく知られた任意の方法を用いて確立され得る。例えば、ナノポア3は、アルゴンイオンビームスパッタリング、エッチング、フォトリソグラフィー、又は当該技術分野でよく知られた他の方法および技術を用いて、任意の基材8に形作られてもよい。
【0015】
第一のゲート電極12及び第二のゲート電極14は、移動するバイオポリマ5の様々なエネルギー準位をスキャンすることができるように、電圧をランプする(傾斜をつける)ように設計される。バイオポリマ5のエネルギー準位(例えば、伝導帯エネルギー)が、図3に概略的に示されたように、電極7における電子のエネルギーと一致する場合に、共鳴が得られる。共鳴は、第一の電極7、第二の電極9、及びバイオポリマ5との間の電気抵抗を減少させる。ゲート電圧源17をランプすることにより、エネルギー準位がスキャンされ、その測定されたトンネル電流スペクトルと、個々の移動するバイオポリマのセグメントに関するスペクトルのリストとを突き合わせることにより、バイオポリマ5の配列を決定することができる。さらに、第一の電極7及び第二の電極9に電気接続する電位手段11を固定し、ゲート電圧源17を用いて第一のゲート電極12及び第二のゲート電極14でもって様々なエネルギー準位をスキャンすることにより、様々な検出パターンの「スメアリングアウト(スメアリングによる消失)」を回避することができる。即ち、この技術は、特徴的な検出パターン及びピークのきれいな分離を可能にする。第一のゲート電極12及び第二のゲート電極14は、ナノポア3の周りのどこにでも配置され得る。しかしながら、多くの場合、第一のゲート電極12及び第二のゲート電極14は、第一の電極7、バイオポリマ3、及び第二の電極9に隣接して配置され得る。様々なゲート電極を本発明と共に使用することができる。説明される実施形態は、決して本発明の範囲を制限しない。
【0016】
ゲート電圧源17は、任意の基材8、ナノポア3、第一の電極7、及び第二の電極9に対してどこにでも配置され得る。ゲート電圧源17は、第一のゲート電極12及び第二のゲート電極14に印加される電圧をランプするように設計される。電位手段11は、第一の電極7と第二の電極9との間に固定電圧を確立することができなければならない。様々なゲート電圧源17及び電位手段11を本発明と共に使用することができる。電位手段11だけによって、第一の電極7及び第二の電極9をランプする発明と対照をなす参考文献および図面については、Curt Floryによる、「Apparatus and Method for Biopolymer Identification During Translocation Through a Nanopore」と題する特許文献1を参照されたい。
【0017】
電位手段11は、任意の基材8、ナノポア3、第一の電極7、及び第二の電極9に対してどこにでも配置され得る。電位手段11は、第一の電極7と第二の電極9との間に固定電圧を確立することができなければならない。様々な電位手段11を本発明と共に使用することができる。
【0018】
バイオポリマ5、ゲート電極12及び14、電極7及び9、及び電位手段11から生成される信号を検出するために、任意の信号検出手段を使用することができる。信号検出手段は、当該技術分野で知られている任意の多数の装置からなることができる。基本的には、該装置は、バイオポリマ5から求められたスペクトル及びデータを格納するために、データ記憶ができるものでなければならない。さらに、この装置は、未知のスペクトル又は化学成分を決定するために、このデータとスペクトルを、前もって決定されて較正された多数のスペクトルと比較することができるものでなければならない。
【0019】
上述したように、バイオポリマの配列決定および同定に対する、従来の共鳴トンネル手法は、達成され得るものに比べて低い信号対雑音比をもたらす、測定されるヌクレオチドスペクトルにおけるピークを広げるアーチファクトを有する。この作用は、最大の共鳴量子トンネル効果について、二つの条件を満たさなければならないという要件に由来する。第一の条件は、入射電子エネルギーとヌクレオチドの結合状態のエネルギーが一致することである。第二の条件は、その二つのトンネル障壁が同等の強度を有していなくてはならないことであり、この場合、その障壁強度Bは、以下の式により定義される。
【0020】
【数1】

【0021】
ここで、x(x)は、V(x)で表されるl−dポテンシャル障壁の最初(最後)の点である。異なるトンネルバイアス電圧に関して、二つのトンネル障壁が、ヌクレオチドの移動プロセス中に、異なる位置で均等化された強度を有するという事実から困難が生じる(また、逆に、移動プロセス中に異なる位置に関して、入射電子エネルギーとヌクレオチドの結合状態のエネルギーが、異なるトンネルバイアス電圧により一致する)。これは図3に簡単に示され、図3は、ヌクレオチドの位置が空間に固定される場合に、異なる印加されたトンネルバイアス電圧に対して、異なる障壁のミスマッチを強調するために斜線をつけた有効なトンネル障壁を示す(この場合、両方のトンネル電極は等距離である)。バイアス電圧のそれぞれについて均等化された障壁強度を有するために、障壁空間の幅は、移動プロセス中のヌクレオチドの異なる空間位置に対応した異なる比を有さなければならないことが明らかになる。これが図4に示される。従って、ヌクレオチドスペクトルのそれぞれの特定の要素からの優勢な信号の寄与は、トンネル障壁がその特定の電圧に対しておおよそ対称的である間、移動軌道の特定の部分にわたって生じる。また、障壁の幅が変化する際に、それぞれの障壁の両端の電圧降下の比が変化することが、図面から分かる。これは、共鳴が起こるトンネル電圧が、電極に関して、ヌクレオチドの相対的な空間位置にも依存していることを意味する。障壁が正確に対称的である場合、各スペクトル要素に対して優勢な寄与が生じるが、障壁が対称的から程遠くない場合、軌道の連続した部分からのやや優勢な寄与がある。上述したように、局所的な空間分布にわたって発生するこれらの寄与は、ゼロでないトンネル電圧範囲にわたってスペクトル要素を分散させる。このスペクトル要素の拡散は、本発明により排除されるべき作用である。
【0022】
図1及び図2は、本発明の実施形態を示す。本発明は、第一の電極7及び第二の電極9に隣接して配置され得る、一つ又は複数のゲート電極を含む。ゲート電極12及び14は、移動する分子のスペクトルをスキャンする、時間に依存するゲート電圧を提供するように設計される。トンネル電極間に印加されるトンネル電圧は、小さい固定値Vに保持される。この回路における測定されたトンネル電流のばらつきは、変化するゲート電圧Vgateが塩基共鳴エネルギーを連続して電極の電子エネルギーと一致させる際の、これらの電極と移動する塩基との間の共鳴量子トンネル効果に起因する。このプロセスを図5に示す。塩基共鳴エネルギーは、電極間(即ち、トンネル障壁幅)の塩基の位置とは無関係な値における電極の電子エネルギーとそろうように生じる。従って、塩基がトンネル電極間の領域を移動し、ゲート電圧が、その移動時間よりもかなり短い時間で連続的にサイクル動作される際に、トンネル障壁が等しい場合に、各サイクル中に軌道の一部において電流の優位性が測定されながら、不変の共鳴トンネルスペクトルが測定される。これらのサイクルのそれぞれからの寄与のスペクトル分布(大きさではない)は、空間的な位置とは関係がなく、従って、従来の測定様式に固有の「スペクトル拡散作用」は、最小限に抑えられる。
【0023】
この装置の一般的で例示的な動作の値は、当該トンネル効果なしのナノポア装置を使用した測定値に基づくことができる。トンネル電極間に印加された固定トンネル電圧は、0.1〜0.2ボルトの公称の範囲内であるべきである。しかしながら、この範囲は限定されず、用途に応じてもっと広くされてもよい。時間依存性ゲート電圧の期間は、個々の塩基の移動時間よりもずっと短くなくてはならず、現在、マイクロ秒のオーダーであるべきであると推定される。従って、ゲート電圧の周波数は、約10MHzよりも大きくなくてはならない。この電圧の振幅は、移動する塩基の内部エネルギースペクトルの感知できるほどのセグメントをスキャンするのに十分であるべきである。この電圧の典型的な振幅は、0.1〜1.0ボルトの範囲内であるべきであるが、この範囲に限定されない。
【0024】
この装置の電極は、上述したような様々な材料からなることができる。電極および/またはゲート電極でイオン性流体の短絡作用を最小限にするために、イオンの伝導を遮るが、共鳴量子トンネル現象中のトンネル電流に対してほとんど影響を及ぼさない薄い絶縁膜で、電極を包んでもよい。一つの考えられる実施形態は、電極金属に自然酸化物の層を作成することである。別の態様は、製造プロセス中に、トンネル電極にわたって薄い絶縁層を堆積することである。これらの絶縁層は、このプロセス中に使用される、任意の数の一般的な材料からなることができる。例えば、これは、二酸化ケイ素、又はフォトレジストからなることができる。絶縁層の堆積は、原子層堆積により有利に行われ得る。
【0025】
さて、本発明の方法を説明する。本発明の方法は、ナノポア内に配置されたバイオポリマの一部を同定するために、一つ又は複数のゲート電極の両端に、ランプ電位を印加することを含む。さらに、第一の電極7及び第二の電極9は、電位手段11により一定の電圧に維持され得る。これにより、第一のゲート電極12、第二のゲート電極14、及びゲート電圧源17が、エネルギー準位をスキャンすることが可能になる。
【0026】
最初に、バイオポリマ5を、ナノポア3を通して移動させる。さらに、バイオポリマ5は、第一の電極7と第二の電極9との間を通過する。これらの電極は、電位手段11により、固定電位に維持される。同時に、第一の電極7及び第二の電極9に隣接する一つ又は複数のゲート電極を使用することができる。次いで、第一のゲート電極12及び第二のゲート電極14は、第一の電極7と第二の電極9との間のナノポア3内に配置されたバイオポリマ5の一部の内部エネルギースペクトルをスキャンするために、電圧源17によりランプされ得る。生成された信号は、それぞれの特定のヌクレオチド塩基について前もって決定されているスペクトルと比較される。信号のそれぞれの主要部分を比較して、実際のヌクレオチド塩基を決定することができる。ナノポア3、及び第一の電極7と第二の電極9との間を通過するそれぞれの塩基について、この操作を繰り返す。
【実施例1】
【0027】
本発明は、当該技術分野で知られている様々な技術および手段を使用して形成され得る。本発明は、この実施例に限定されると解釈されるべきではない。実施例は、説明のために提供される。ナノポアは、シリコンフレーム上で支持された、薄い(500nm)独立した窒化ケイ素(SiN)膜中に作成され得る。集束イオンビーム(FIB)装置を用いて、直径約500nmの最初の単一ポアを膜に形成することができる。次いで、ポア領域に、3KeVのアルゴンイオンビームを照射して、材料をスパタリングし、直径約2nmの所望の寸法まで、ゆっくりと穴をふさぐ(非特許文献3を参照)。金属電極は、SiN膜の対向する表面上に、蒸着または他の堆積手段により形成される。電圧源をトンネル電極に接続して、固定電圧に維持する。ワイヤーをトンネル電極に結合することにより、電圧源とトンネル電流システムが接続される。一実施形態では、ゲート電極は、塩化銀または同様のタイプの材料、又は金属からなることができる。次いで、これらの電極は、ナノポアを支持している膜の両側の緩衝液中に沈められる。ゲート電極にゲート電圧を印加する。AC電源を用いて、30〜50MHzで約3〜5ボルトの適度な要件で、バイアスを印加する。トンネル電流は、ナノアンプ範囲内であることが予想され、市販のパッチクランプ増幅器およびヘッドステージ(Axopatch 200B及びCV203BU、Axon Instruments、Foster City,CA)を使用して、測定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態の全般的な透視図である。
【図2】本発明の同じ実施形態の断面図である。
【図3】一般的なエネルギーウェル、及び本発明を使用して、それらをどのように調節できるかを示す図である。
【図4】固定された空間位置におけるウェル及びエネルギー準位を示す図である。
【図5】空間位置が変化する際の、ウェル及びエネルギー準位を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 バイオポリマ同定装置
3 ナノポア
5 バイオポリマ
7 第一の電極
9 第二の電極
11 電位手段
12 第一のゲート電極
14 第二のゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第一のリング電極と、
(b)前記第一のリング電極に隣接する第二のリング電極と、
(c)バイオポリマのエネルギースペクトルをスキャンするために、前記第一のリング電極および前記第二のリング電極に電気接続する第一のゲート電極と、
(d)前記バイオポリマのエネルギースペクトルをスキャンするために、前記第一のリング電極および前記第二のリング電極に電気接続する第二のゲート電極と、
(e)前記第一のリング電極および前記第二のリング電極に隣接し、前記バイオポリマが前記第一のリング電極と前記第二のリング電極との中に配置されることを可能にするように配置されたナノポアと、
(f)前記第一のリング電極から前記ナノポア内の前記バイオポリマの一部を通って前記第二のリング電極に固定電位を印加して、前記バイオポリマの一部を示す信号を生成するために、前記第一のリング電極および前記第二のリング電極に電気接続する電位手段と、及び
(g)前記第一のゲート電極および前記第二のゲート電極にランプ電圧を印加するために、前記第一のゲート電極および前記第二のゲート電極に電気接続するゲート電圧源とを備える、ナノポア内のバイオポリマを検出するための装置。
【請求項2】
前記第一の電極および前記第二の電極を配置するための基材をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第一の電極を配置するための少なくとも第一の基材をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第二の電極を配置するための少なくとも第二の基材をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
ナノポアを配置するための少なくとも第一の基材をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記バイオポリマの一部から生成される信号を検出するための信号検出手段をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記バイオポリマが帯電したポリマである、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記バイオポリマが、炭水化物、タンパク質、核酸、脂質、グリカン、ポリヌクレオチド、プロテオグリカン、及びポリペプチドからなるグループから選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
(a)ナノポア内に配置されたバイオポリマの一部を同定するために、一対のゲート電極にわたってランプ電圧を印加して、トンネル電流を検出することを含む、ナノポアを通って移動するバイオポリマを同定するための方法。
【請求項10】
前記電流が、前記バイオポリマの一部の少なくとも一つの伝導帯エネルギーと一致するエネルギー準位を有するトンネル電流を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
移動する前記バイオポリマのそれぞれの部分を同定するために、前記ナノポアを通して前記バイオポリマを移動させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記トンネル電流が、前記バイオポリマの一部の伝導帯エネルギーに共鳴する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
(a)第一のナノポアを有する第一の電極と、
(b)前記第一の電極に隣接して、第二のナノポアを有する第二の電極であって、バイオポリマが、前記第一のナノポア及び前記第二のナノポアを通って移動できるように、前記第一の電極の前記第一のナノポアが、前記第二の電極の前記第二のナノポアと共に配置される、第二の電極と、
(c)前記バイオポリマのエネルギー準位をスキャンするために、前記第一の電極および前記第二の電極に電気接続するゲート電極と、
(d)前記第一の電極から前記バイオポリマの一部を通って前記第二の電極に固定電位を印加して、前記第一のナノポア及び前記第二のナノポアを移動する前記バイオポリマの一部を示す検出可能な信号を生成させるために、前記第一の電極と前記第二の電極を電気接続するための電位手段と、
(e)前記ゲート電極にランプ電圧を印加するために、前記ゲート電極に電気接続するゲート電圧源とを備える、ナノポアを移動するバイオポリマを検出するための装置。
【請求項14】
前記第一の電極の前記ナノポアが中心点を有し、且つ前記第二の電極の前記ナノポアが中心点を有し、前記第一の電極の中心点が、前記第二の電極の中心点と同軸上に配置される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記第一の電極が、前記第二の電極の上に配置される、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記第一の電極と前記第二の電極を配置するための基材をさらに含む、請求項13に記載の装置。
【請求項17】
前記第二の電極を配置するための第二の基材をさらに含む、請求項13に記載の装置。
【請求項18】
(a)第一の電極と、
(b)前記第一の電極と第二の電極との間にナノポアを画定するために、前記第一の電極から間隔をおいて配置される第二の電極であって、前記ナノポアが、移動するバイオポリマを受け入れるように設計され、前記第一の電極が前記第二の電極に電気接続する、第二の電極と、
(c)前記第一の電極および前記第二の電極に電気接続するゲート電極と、
(d)前記バイオポリマにわたって前記第二の電極に固定電位を印加して、前記ナノポアを移動する前記バイオポリマの一部を示す変調信号を生成するために、前記第一の電極と前記第二の電極を電気接続するための電位手段と、
(e)前記ゲート電極にランプ電圧を印加するために、前記ゲート電極に電気接続するゲート電圧源とを備える、ナノポアを移動するバイオポリマの一部を検出するための装置。
【請求項19】
前記第一の電極と前記第二の電極との間に画定された前記ナノポアを通して、前記バイオポリマを段階的に移動させる、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
ゲート電極に電気接続した第一の電極と第二の電極との間に画定されたナノポア内のバイオポリマを同定する方法であって、前記第一の電極から前記バイオポリマの一部を通って前記第二の電極に固定電位を印加し、前記第一の電極、前記バイオポリマ、及び前記第二の電極のエネルギー準位が、共鳴して、前記ナノポア内に配置された前記バイオポリマの一部を同定するための検出可能な信号を生成する固定電位になるまで、ゲート電極にわたってランプ電圧を印加することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−105985(P2006−105985A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283300(P2005−283300)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】