説明

コア−シェルリチウム遷移金属酸化物

【課題】コア−シェルリチウム遷移金属酸化物を提供すること。
【解決手段】
粉体の一次粒子の表面がLiF層でコーティングされ、この層はフッ素含有ポリマー及び一次粒子の表面の反応生成物からなる、再充電可能な電池で使用されるリチウム遷移金属酸化物が開示されている。LiFのリチウムは一次粒子の表面に由来する。フッ素含有ポリマーの例はPVDF、PVDF−HFP及びPTFEのうちのいずれか1種である。リチウム遷移金属酸化物の例は−LiCo,(式中、MはMg及びTiのうちのいずれか一方又はその双方を表わし、e<0.02及びd+e=1である。)と、−Li1+aM’1−a2±b(式中、−0.03<a<0.06、b<0.02のいずれかであり、M’は、少なくとも95%がNi、Mn、Co、Mg及びTiの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなる遷移金属化合物を表わし、MはCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり、wt%で0≦k≦0.1であり;及び0≦m≦0.6(mはモル%で表される)である。);及び−Lia’NiCoM’’2±e(式中、0.9<a’<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;M’’はAl,Mg及びTiの群からのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり;AはS及びCのうちのいずれか一方又はその双方からなる。)のいずれか1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再充電可能なリチウム電池のための正極材料、特にフッ素含有ポリマーでコーティングされ、その後加熱処理されたリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LiCoOは再充電可能なリチウム電池にための正極材料として最も用いられてきた。しかしながら、近年、リチウムニッケル酸化物ベースの正極及びリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物によるLiCoOの代用が本格化している。
金属組成物の選択に依存するこれらの代替材料は、異なる制限が生じるか又は解決すべき課題がある。
簡略化のため、用語リチウムニッケル酸化物ベースの正極は「LNO」とも言い、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物は更に「LMNCO」とも言う。
【0003】
LNO材料の一例はLiNi0.80Co0.15Al0.05である。これは大容量であるが、しかし、この製造には、一般に二酸化炭素が無い大気(酸素)が必要であり、そして、炭酸リチウムの代わりに、炭酸塩の無い水酸化リチウムのような特別な前駆体が使用されるため、製造するのが困難である。
それゆえ、このような製造の制限は材料費を大幅に増大させる傾向にある。LNOは非常にデリケートな正極材料である。それは、空気中に完全に安定ではなく、大規模な電池の生産をより困難にし、そして、その熱力学的安定性の低さにより引き起こされる、実際の電池における安全性の証拠の欠如に関連する。結果、低含有量の可溶性塩基を用いるリチウムニッケル酸化物の生産は非常に困難である。
【0004】
「可溶性塩基」はその表面近傍に位置するリチウムを意味し、バルク中のリチウムが熱力学的に安定で溶解しない一方、可溶性塩基は熱力学的により不安定で溶液中に溶解する。
従って、表面での低い安定性及びバルク中のより高い安定性の間で、Liの安定性の勾配が存在する。
高い塩基含量は、しばしば電池製造の間の問題:スラリー製造及びコーティングの間、強い塩基がスラリーの分解(スラリーの不安定化、ゲル化)を引き起こすという問題にも関係があり、そして、強い塩基は、高温曝露の間の過剰なガスの発生(電池の膨張)のような、高温特性の低さにも関連することから、「可溶性塩基」の存在は都合が悪い。
イオン交換反応
(LiMO+δH←→Li1−δδMO+δLi)に基づく、pH滴定による「可溶性塩基」含量の決定により、Liの勾配が定められる。この反応の範囲は表面特性である。
【0005】
米国特許出願公開2009/022681(A1)号明細書で可溶性塩基の問題が更に議論されている。LiMOの正極材料は、混合された遷移金属水酸化物を前駆体として使用して製造される。これらは、LiMOの前駆体の製造のための最も安価な工業的手段である、遷移金属硫酸塩及びNaOHのような工業銘柄の塩基の共沈により得られる。この塩基は、混合された水酸化物中(混合された水酸化物は一般に0.1乃至1wt%のCO2−を含有する)で捕捉されるCO2−アニオンをNaCOの形態で含有する。
加えて、遷移金属前駆体、リチウム前駆体のLiCO又は少なくとも1wt%のLiCOを含有する工業銘柄のLiOHOが使用される。
高いニッケル正極LNOの場合、前記リチウム及び遷移金属の前駆体が高温、一般的に
は700℃を超える温度で反応する際、得られるリチウム遷移金属酸化物粉体中、特にその表面にLiCOの不純物が残留する。より高い純度の材料を使用した際、LiCOの不純物がより少なくなることが見出されるが、空気中のCOと反応してLiCOを形成するいくらかのLiOHの不純物が常に存在する。このような溶液は特開2003−142093号公報中に提案されているが、しかしながら、非常に高い純度の高価な前駆体の使用は好ましくない。
【0006】
LMNCOの例は、Li1+x1−x(式中、M=Mn1/3Ni1/3Co1/3を表し、マンガンとニッケルの含量はほぼ同じである)がよく知られている。
「LMNCO」正極は非常に堅牢で、製造が容易であり、比較的低いコバルト含量を有し、従って通常は費用が低くなる傾向にある。これらの主な欠点は、比較的低い可逆容量である。一般的に4.3乃至3.0Vの容量は、LNO正極の185−195mAh/gと比較して、約160mAh/gより少ないか同程度である。LNOと比較したLMNCOの更なる欠点は、結晶密度が比較的低いことであり、それゆえ容積も小さく、そして電気伝導率が比較的低い。
【0007】
我々は、LNO型材料及びLMNCO型材料の間に、「ニッケルが富化したリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物」Li1+x1−x(式中、M=Ni1−x−yMnCo、又はM=Ni1−x−y−zMnCoAlであり、Ni:Mnは1より大きく、1.5乃至3のNi:Mnの一般的な値を有し、そしてCo含量「y」は一般的に0.1乃至0.35である)を位置づけることができる。簡略化のため、我々はこの種類の材料を「LNMO」と言う。例えば、M=Ni0.5Mn0.3Co0.2、M=Ni0.67Mn0.22Co0.11、及びM=Ni0.6Mn0.2Co0.2である。
【0008】
LNOと比較して、LNMOは標準的な方法(LiCO前駆体を使用する)で製造され、特別なガス(上述した酸素ガスのような)は必要でない。LMNCOと比較して、LNMOは、はるかに大きい固有容量を有し、そして、場合により、高い温度において電解液(通常、Mnの溶液で特徴付けられる)と反応しにくい傾向を有する。従って、LNMOは場合により、LiCoOの代用において、主な役割を担うことが明らかになってきている。
通常、塩基含量が増大するとその安全性能がNi:Mnの比の増大とともに悪化する傾向にある。一方、高いMn含量は安全性を向上させることが広く受け入れられている。
【0009】
高い塩基含量は、感湿性に関連する。この観点において、LNMOはLNOより感湿性が低いが、LMNCOよりは感湿性が高い。製造直後は、十分に下処理されたLNMOの試料は、比較的低い表面の塩基含量を有し、そして、十分に下処理された場合、表面の塩基の多くはLiCO型の塩基でない。しかしながら、水分の存在下では、空気中のCO又は有機ラジカルがLiOH型塩基と反応し、LiCO型の塩基を形成する。同様に、消費されたLiOHはバルクからのLiによりゆっくりと再生成され、従って、塩基の総量(塩基の総量=LiCO型塩基+LiOH型塩基のモル)が増大する。それと同時に、水分(ppm HO)が増大する。これらの工程は、電池の作製にとって非常に都合の悪いものである。LiCO及び水分は深刻な膨潤を引き起こすことが知られており、そして、スラリーの安定性を悪化させる。ゆえに、LNMO材料及びLNO材料の感湿性を減少させることが望ましい。
【0010】
米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書には、LNO正極材料の環境安定性を改善する方法が記載されている。この特許文献には、非分解性ポリマーが単層である形態での、ニッケルベースの正極材料のポリマーコーティングが記載されている。該ポリマー(例えばPVDF)は、一般的にリチウムイオン電池の製造(電極コーテ
ィングのためのスラリー作製)で使用される結合剤から選択される。
【0011】
熱的安定性(安全性)は、電解液及び正極材料の間の界面の安定性に関連する。表面を改善する一般的な手段は、コーティングによるものである。多くの異なるコーティングの例が、文献、特に特許文献で入手できる。コーティングを分類する異なる方法が存在する。例えば、我々は、その場外(ex−situ)コーティングとその場(in−situ)コーティングを区別し得る。その場外(ex−situ)コーティングにおいて、粒子上にコーティング層がコーティングされる。該コーティングは乾式又は湿式のコーティングにより得られ得る。通常、該コーティングは、少なくともコーティング段階及び通常付加的な加熱段階を含む分離された工程に適用される。従って該工程の総費用は高い。
【0012】
その代わりになるものとして、場合により、その場(in−situ)コーティング又は自己組織化されたコーティングが可能である。この場合、コーティング材料は、加熱前のブレンドに添加され、そして加熱の間分離された相を形成し、好ましくはコーティング相は液体になり、そして、LiMOとコーティング相との間の湿潤が強い場合、薄くそして濃いコーティング相は、最終的に電気化学的に活性なLiMO相を被覆する。明らかに、その場(in−situ)コーティングは、コーティング相がコアを湿潤させる場合に唯一の効果的な手段である。
【0013】
カチオン性及びアニオン性のコーティングもまた区別され得る。カチオン性コーティングの例は、Alのコーティングである。アニオン性コーティングの例は、フッ化物、ホスフェート(phosphate)、シリケートのコーティングなどである。フッ化物のコーティングは、LiFの保護フィルムが形成されるため特に好ましい。
LiFは熱力学的に非常に安定であり電解液と反応せず、従ってLiFコーティングは非常に高い温度及び電圧において良好な安定性を達成することが期待できる。一般的な方法としては、例えばジャーナル オブ エレクトロケミカル ソサエティ、156(5)A349−A355(2009)中で、クロゲンネック(Croguennec)らにより使用されるような、保護性のLiFフィルムを達成するためにリチウム遷移金属酸化物にLiFを添加することである。しかしLiFの高い融点のため、及び低い湿潤特性のため、薄くそして濃いLiFフィルムを得ることは可能ではない。クロゲンネックは、コーティングの代わりに、LiMO粒子の粒界に小さい粒子又は「シート」が見出され得る旨を報告している。更なる可能な方法はMgF、AlF又はリチウム氷晶石の使用である。
【0014】
更には、無機及び有機コーティングも区別され得る。有機コーティングの例は、ポリマーコーティングである。ポリマーコーティングの1つの利点は弾性のコーティングを得ることが可能性であることである。一方、電気伝導度の低さ及びしばしばポリマー中のリチウムの移動性の低さから問題が生じる。通常、ポリマーコーティングは、多かれ少なかれ表面に接着するが、表面を化学的に変化させない。先行技術には、上述の手段がLNO材料及びLNMO材料の前述の問題を改善するのに効果的であることを示す如何なる実験データも見出すことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
要約すると:
1)LMNCOは堅牢な材料であるが、厳しい容量の限界を有する。
2)LNOの熱安定性が増大すること及び塩基含量が減少することが望ましい。
3)LNMOの熱安定性が増大すること及び塩基含量が減少することが望ましい。
本発明の目的は前述の問題を改良、更に克服し、そしてLMNCO材料の大きい容量の代替材料を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
まとめ
第一の局面から見ると、本発明は、LiFによってコーティングされた表面を有する一次粒子からなる、再充電可能な電池で使用するためのリチウム遷移金属(M)酸化物粉体であって、pH滴定で決定されたリチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量が、コーティングされていない一次粒子を有するリチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量の60%未満、好ましくは50%未満である、リチウム遷移金属(M)酸化物粉体を提供し得る。一つの態様において、前記リチウム遷移金属酸化物粉体の表面は実質的に水酸化リチウム及び炭酸リチウムを含まない。前記LiFの層はフッ素含有ポリマーと一次粒子の表面との反応生成物からなり、前記LiFのリチウムは一次粒子の表面に由来するものである。反応生成物LiF中のフッ素原子は、完全に分解したフッ素含有ポリマーに由来する。一つの態様において、LiFフィルムは少なくとも0.5nm、又は少なくとも0.8nm及び更に少なくとも1nmの厚さを有する。
【0017】
前記リチウム遷移金属酸化物の例は、次のうちいずれか1種であり得る。:
−LiCo(式中、MはMg及びTiのうちのいずれか一方又はその双方を表し、e<0.02及びd+e=1である。);
−Li1+aM’1−a2±b(式中、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M’は少なくとも95%がNi、Mn、Co、Mg及びTiの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなる遷移金属化合物であり、MはCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群のうちのいずれかの1種又はそれ以上の元素からなり、wt%で0≦k≦0.1であり、及び0≦m≦0.6(mはmol%で表される)である);及び
−Lia’NiCoM’’2±e(式中、0.9<a’<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;M’’は、Al、Mg及びTiの群からのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり、AはS及びCのうちのいずれか一方またはその双方からなる。)
【0018】
実施例の態様において、M’=Nia’’Mnb’’Coc’’(式中、a’’>0、b’’>0、c’’>0及びa’’+b’’+c’’=1;及びa’’/b’’>1)である。他の態様において、0.5≦a’’≦0.7、0.1<c’’<0.35及びa’’+b’’+c’’=1である。a’’/b’’>1である態様は、角形のリチウム−イオン電池又はポリマー電池での使用に特に好適である。
【0019】
他の正極材料の例においては、前記フッ素含有ポリマーは少なくとも50質量%のフッ素原子を含有する。このようなポリマーの一般的な例は、PVDFホモポリマー又はPVDFコポリマー(HYLAR(登録商標)又はSOLEF(登録商標)PVDFなど、双方ともベルギーのソルベイ(Solva)SA社製)である。他のPVDFに基づくコポリマーは、例えばPVDF−HFP(ヘキサフルオロプロピレン)である。このようなポリマーはしばしば「カイナー(Kynar、登録商標)」という名のもとで知られている。テフロン(登録商標)又はPTFEもまた前記ポリマーとして使用し得る。
【0020】
第二の局面から見て、本発明は、次の段階を含む、リチウム遷移金属(M)酸化物粉体をLiFコーティングによって被覆するための方法を与え得る、:
−遷移金属硫化物をNaOHなどの塩基と共沈することにより製造される、MOOHなどの遷移金属前駆体を準備する段階、
−双方とも炭酸塩の不純物を含有する、LiOHO及びLiNOのうちのいずれか1種のリチウム前駆体、又はLiCOである前記リチウム前駆体を準備する段階、
−前記遷移金属前駆体及び前記リチウム前駆体を600℃を超える温度で反応させ、それによって、LiCOの不純物を有する前記遷移金属(M)酸化物粉体を得る段階、
−前記粉体をフッ素含有ポリマーと混合する段階、及び、
−前記粉体−ポリマーの混合物を少なくとも140℃、最大で300℃、又は更に最大で210℃の、前記フッ素含有ポリマーの溶融温度を超える温度で加熱する段階。
【0021】
通常使用されるNaOHは、上述の理由のためにLNO材料と特に関連するカーボネートイオンの不純物もまた含有し、その存在は、本発明により提供される工程により中和もまた為される。
【0022】
この実施例の工程において、LiCOの不純物は、前述のポリマーと反応し、前記ポリマーは分解し、そしてLiFコーティングを前記遷移金属(M)酸化物粉体の表面上に形成する。特に、前記遷移金属酸化物粉体の表面上又はその近傍のLiCOは前記ポリマーと反応し、LiF層のためのリチウム及びCOガスを与える。
【0023】
実施例の工程の態様の例において、前記粉体−ポリマー混合物中のフッ素含有ポリマーの量は、0.1乃至2質量%である。他の態様においては0.2乃至0.5質量%である。他の例の態様において、LiFフィルムは、少なくとも0.5nm、又は少なくとも0.8nm、及び更には、少なくとも1nmの厚さを有する。
【0024】
PVDFのようなフッ素含有ポリマーを使用する工程において、前記粉体−ポリマー混合物は、325℃より高く、380℃未満の温度で少なくとも1時間加熱され、そして、特別な態様において、340乃至360℃で少なくとも1時間加熱する。
【0025】
前記工程中で使用されるリチウム遷移金属酸化物の例は、次のいずれか1種である。:−LiCoMeO(式中、MはMg及びTiのうちのいずれか一方又はその双方を表わし、e<0.02及びd+e=1である。);
−Li1+aM’i−a2±b(式中、−0.03<a<0.06、b<0.02、M’は、少なくとも95%がNi、Mn、Co及びTiの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなる遷移金属化合物であり;Mは、Ca、Sr、Y、La、Ce及びZrの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり、wt%で0≦k≦0.1であり;及び0≦m≦0.6(mはmol%で表わされる)である);及び
−Lia’NiCoM’’2±e(式中、0.9<a’<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1;M’’は、Al、Mg及びTiの群からのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり、AはS及びCのうちのいずれか一方又はその双方からなる。)
実施例の態様において、M’=Nia’’Mnb’’Coc’’(式中、a’’>0、b’’>0、c’’>0及びa’’+b’’+c’’=1;及びa’’/b’’>1である。)である。
他の態様において、0.5≦a’’≦0.7、0.1<c’’<0.35及びa’’+b’’+c’’=1である。
【0026】
図面の簡単な説明
図1.1は、1%PVDF+99%LiCoO混合物の350℃での熱処理後のSEMの顕微鏡写真を示す図である。
図1.2は、1%PVDF+99%LiCoO混合物の600℃での熱処理後のSEMの顕微鏡写真を示す図である。
図1.3は、熱処理後の1%PVDF−99%LiCoO混合物の放電電圧プロファイルを示す図である。
図2は、LiFによってコーティングされた試料とフッ素が無い参照とのコイン電池の性能の比較を示す図である。
図3.1は0.5w%PVDFコーティングの熱処理温度の関数としての電気化学性能を示す図である。
図3.2は、0.5w%PVDFコーティングの熱処理温度の関数としての空気曝露後の水分含量及び空気曝露前後の塩基含量を示す図である。
図3.3は、PVDF含量の関数としての350℃で処理した試料のコイン電池試験の結果を示す図である。
図3.4は、PVDF含量の関数としての350℃で処理した試料の炭素の不純物含量及び塩基含量を示す図である。
図3.5は、350℃で処理した0.5w%PVDFでコーティングした試料のコイン電池試験の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
単純な用語において、実施例の正極材料の構造は、例えばコア−シェル型として説明され得る。該シェルは、コーティングによって得ることはできず、初期のコーティングと該材料のコアの表面との間のその場での(in−situ)反応により得られる。下記に記載したように、反応は特定の加熱温度において起きる。初期のコーティングはポリマーの薄い層である。ポリマーは完全に分解及び反応し、フッ化リチウムの非常に薄い内部の層となりコア、例えばLNO又はLNMO材料の、を被覆する。前記LiFの層は、分解したポリマーとリチウム遷移金属酸化物のリチウム含有表面塩基との反応に由来する。例えばカイナー(Kyner、登録商標)などの通常のフッ化物含有ポリマーは加熱により単に溶融するが、遷移金属酸化物の表面上の(可溶性の)Li塩基との接触は、前記ポリマーを分解に導く化学反応を開始するということが証明され得る。この分解は、最終的には蒸発するガスの発生で終わり得、そして、残留した炭素は十分に高い温度においてよく分解し、驚くべきことに、前記粒子と反応してLiCO型の塩基を再生成(re−create)することが無い。LiFフィルムが粒子中でLiを保護し、これにより、LiCOを形成する炭素との反応を防ぐことが推測される。この「完全な」分解は、十分な熱が付与された場合にのみ起こり得ることは明らかである。前記シェルは次の機能を有する:薄いLiFベース層は反応性の表面塩基層を置き換え、これによりコアの表面における塩基含量がゼロに減少し、そして、安全性が改善される。
【0028】
表面がコーティングされたリチウム遷移金属酸化物の例は、上述の背景技術のコーティングの分類に対応していない。:実施例において、我々は、ポリマーの分解に由来する反応生成物の存在、及びシェルの形成を確認する。ゆえに、それは米国特許出願公開2009/0194747(A1)号明細書中に記載されているようなポリマーコーティングでない。また、高温においてLiFは結晶化することから、LiFによるコーティングが低温で起こるアニオン性のコーティングとも同じでない。結論としてそれはその場(in−situ)コーティングでもその場外(ex−situ)コーティングとも異なり、つまり、その間の何かである。
【0029】
リチウム遷移金属酸化物の被覆方法の例は、以下の段階を含む。:
1)LNO正極又はLNMO正極と少量の初期のポリマーとを混合する段階。
2)ポリマーの融点を超える温度に該混合物を加熱し、そして、ポリマーが正極粉体と反応するまで加熱を続ける段階。
3)該ポリマーが完全に分解するまで冷却する段階。
【0030】
実施例の工程における混合段階は、(1)湿式コーティング又は(2)乾式コーティングのいずれかからも成り得る。湿式コーティング工程において、ポリマーは溶媒に溶解し、そして粉体は溶液に浸され、そして、スラリー(又は湿った粉体)は乾燥される。乾式
コーティング工程において、ポリマー粉体は前記粉体と混合され、ポリマーの融点を超える温度に加熱され、そして、溶融したポリマーは表面を湿潤させる。乾式コーティングの1つの態様において、良好な表面の被覆を得るために、例えば1μを大きく下回る、小さい一次粒子径を有するポリマーが使用される。
【0031】
実施例の方法において、上記LNO/LNMO正極材料は、非常に薄いフィルム中でカプセル化される。フィルムが厚い場合、リチウムをそれに浸透させることが困難であり、従って、電気化学的特性の損失(低い容量及び低いレート特性)誘発する。LNO/LNMO正極が、高い多孔性を有する場合、孔(porosity)を充填せずにカプセル化することはより困難であり、表面をLiFによって被覆するのにより多くのポリマーを必要とする。実施例の態様において、ポリマーの量は質量に基づき0.1%乃至2%である。ポリマーの量(loading)が0.1%よりも少ない場合、良好なフィルムを達成することは困難である。2%を超える場合、粉体の容量はより低くなり得る。他の実施態様において、質量に基づいて0.2−0.5%のポリマーの量が使用される。
【0032】
LiF型シェルは、LNMO又はLNO正極粉体を、その製造の時からスラリー作製の時まで保護する。保護の機構は、コアの表面にLiが存在しない(全てのLiがそれから抽出され、LiFシェルが形成される)ことにより決定される。従って、(1)粉体により吸収される顕著な水分、(2)LiOH型塩基からLiCO型塩基への顕著な変換速度、及び(3)総塩基成分の水分の増大の促進は全て抑制される。最終的な正極電極の生産において、スラリー製造段階の間、LiF界面は残存する。
【0033】
上述の通り、コーティング段階の特定の態様は、ポリマーの融点より著しく高い温度の加熱工程が後に続く乾式コーティングである。融点を大きく上回る場合のみ、溶融したポリマーは表面の塩基と反応し、効果的にLNO/LNMO粒子の表面を湿潤させる。
【0034】
他の特定の工程の態様は、LNMO又はLNO、及びPVDFベースのポリマー粉体の粉体混合物の、300℃を超える処理温度での、PVDFの融点より高い(異なるPVDFは170℃を超える高い融点を有する)、少なくとも140℃での熱処理にある。さらなる他の特定の工程の態様においては、PVDFの熱処理温度は約350℃である。温度が300℃よりも低い場合、ポリマーは溶融するが完全には反応しない。温度が470−500℃を上回る場合、過剰な熱は費用が増大するのみであり、そして最終的には、単一のLiF層が破壊される。PTFEは330℃の周辺に融点を有することから、初期のポリマーとしてPTFEを使用した場合、LiF層を得るための加熱温度は少なくとも380℃になり得るのは明らかである。
【0035】
米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書(INCOに譲渡された)において、PVDFの結合材料は、その分解温度を下回る温度で使用され、従ってLiFフィルムが形成せず、そして全ての使用されたポリマーが存在したままであり、そして、化学的に変化しないこと述べられていることは適切である。
【0036】
INCOの特許は、ポリマーコーティング工程を液相で−又は高温で若しくは(好ましくは)溶解した形態で行う。INCOの特許では、ポリマー及び正極粉体の間の接着性が低いことが観測され、−そして、接着性を改善するために、そして特に、正極材料表面のすべてのLiOHを中和しPVDFとの反応を防ぐためにも、シュウ酸のようなルイス酸を加える。
【0037】
前で説明した被覆方法の態様は、異なる概念に従う。第一に、ポリマー及び正極の混合物は通常室温に置かれ、固体形状に形成される。そして、正極粉末の表面との反応によりポリマーの分解が開始する温度まで、該混合物を加熱する。熱処理の時間は、ポリマーが
、ポリマー−正極の界面で、十分に反応してLiFベースの界面フィルムを形成するのに十分な長さである。第二に、ルイス酸を加える必要が無い。驚くべきことに正極とポリマーの間の接着性の悪さは、低い加熱温度により引き起こされることが見出された。温度が高い場合、ポリマー及び正極の表面は化学反応を開始し、非常に強力接着性が得られる。事実、正極粉体粒子の表面に溶融したポリマーの良好な湿潤が観測される。良好な湿潤は、正極表面でポリマーが分解したことの証拠であることが信じられている。
【0038】
当然、LNMO正極材料は、円筒形電池にとっても興味深い。これは、これらの高い容量のために、及び、LNMCOの欠点であるガスの発生−塩基の含量と関連すると信じられている−のために、円筒形電池において扱いやすい(円筒形電池は非常に硬い容器を有する)からである。
現在のところ、膨潤を管理するのは容易でないため、円筒形電池への導入はより困難であり、そして、ポリマー電池では実際に不可能である。
本発明に従うLNMO正極材料は、LiFフィルムが表面塩基を置き換えるため、より低い塩基含量を有する。また、これらは、これらの正極を角形電池またはポリマー電池にすら導入することを許可し得る改善された安定性を有する。
【0039】
本発明は、例えば下記の異なる例の方法で実施され得る。
実施例1:
この実施例は、安定であり且つ濃いLiFの層の表面が、PDVFとの混合、それに続く約300−350℃の温度での熱処理により達成されることを明らかにする。この実施例は高い温度での熱処理後には、同様の表面コーティングが達成し得ないこともまた明らかにする。
【0040】
好適な「単純な」形態を有することから、LiCoOの大きな粒子が選択された。大きな粒子のLCOは小さな表面積を有し、そして大部分は、凝集していない粒子である。この場合、LiFの濃い表面層の存在が、コイン電池によって検出され得る。このような層が十分な厚さで存在する場合、正極材料は、高い抵抗性(電気的及びリチウムイオン)の表面層によって引き起こされる、非常に低い性能を有するであろう。
【0041】
この実施例は、1%のPVDFポリマーを添加することにより製造される試料の結果を示す。リチウムコバルト酸化物の大量生産の試料を正極の前駆体として使用した。その組成は、1mol%のMgがドープされ、17μmの平均粒子サイズを有するLiCoOであった。この前駆体の粉体1000g及びPVDF粉体10gをヘンシェル型ミキサーを使用して注意深く混合した。該混合物を150gずつバッチ(batch)で試料化した。これらのバッチは150℃−600℃の範囲の温度で9時間加熱処理された。得られた粉体を篩にかけた。該粉体はコイン電池試験及びSEMにより分析された。150−250℃においてポリマーはまだ存在している(該試料は疎水性である)のに対し、300℃及びそれ以上においては該試料は表面の特性が変化した(親水性になった)。我々はこれをLiF表面フィルムが形成されたことを意味するポリマーが存在しないことによるものと考える。
【0042】
図1.1及び1.2は、300℃及び600℃でコーティングされたLiCoOのSEMの顕微鏡写真を示す図である。図1.1の写真は、薄いフィルムが粒子を被覆していることを説明する。350℃でLiCoOは、コーティングされていない参照とほぼ同様に見え、LiFフィルムによる滑らかで均一なコーティングであることを説明する。図1.2の写真は、表面が変化し、小孔、及び、いくつか結晶が良好な形状の立方体の結晶を形成する大きな結晶が存在することを説明する。600℃で表面のフィルムは損傷し、そして、良好な形状の、おそらくLiFである結晶が生成した。結晶の生成は、高温ではLiFが表面を湿潤しないことを証明する。直接高温での合成によってLiFフィルムを
達成することは不可能であると思われる。明らかにLiFフィルムは表面から溶出し、再結晶した。これは、高すぎる温度での処理では安定なLiFが生成されず、維持し得ないことの強力な証拠である。低温でのLiFフィルムはLiCoO上のPVDFの湿潤に由来するが、(LiFの拡散ができる十分に高い温度において)LiFフィルムそれ自体はLiCoO表面を湿潤しないと推測される。
【0043】
加熱処理された試料は、コイン電池で試験された。表1.1は得られた結果をまとめたものである。
【表1】

【0044】
300及び350℃において非常に低い容量が観測されたのに対し、低い温度及び高い温度で高い容量が観測された。これは、LiF表面のフィルムの生成により容易に説明される。300℃より低い温度では、非常に薄いフィルムが形成されるのみであるが、一方高い温度ではフィルムは溶解し再結晶した。300及び350℃ではフィルムが厚く及び濃くなりすぎ、リチウムが粒子へ効果的に侵することができない。
【0045】
図1.3(正極の容量(mAh/g)に対する電圧(V))は、1%のPVDFで異なる温度(150、200、250、300、350及び600℃)にて製造された、表1.1中の試料の放電電圧のプロファイル(4.3−3.0V、0.1Cレート(rate))を示す。低い温度(150℃、200℃)で製造された試料は、類似した放電電圧のプロファイルを正確に示した。PVDFで処理されたサンプルのプロファイルは、類似しているが、しかし、予想通り、参照(データは示していない)よりもわずかに低い容量(約1%少ない)を有する。参照は、前駆体として使用された処理されていない試料である。比容量(specific capacity)は試料質量を使用するため(従ってそれはポリマーコーティングの質量を含む)、1%少ない容量が予測される。
【0046】
前記電圧のプロファイルは、4.1Vでの相転移が検出されないことから、高いLi:Coの比を有するLiCoOには通常である。250℃の試料は異なる電圧プロファイルを示し、該プロファイルは、低いレート特性を有するLiCoOには通常である。分極はより大きくなり(電圧の低下)そして放電の最後はあまり角形でなかった(より円形である)。この原因は、ポリマーコーティング及びLiCoO表面の間に形成された非常に薄い絶縁のLiFの界面の層にある。このLiF層は表面を完全に覆い、そして、低いレートの電圧プロファイルをもたらす低いイオン性及び電気伝導度を有する。
【0047】
温度(300℃、350℃)の上昇に伴って、容量は著しく悪化した。これは抵抗性のLiF層が、厚さが増大しながら形成することを明確に示す。しかしながらこれは、粉体−ポリマー混合物中のPVDFの量が0.2、また更には0.1wt%まで減少すること
によるレート特性の低さという不利益無しに、LiF層の存在の恩恵を受け得る。
【0048】
製造の温度がより高い600℃場合、ほぼ全容量に近い容量、改善されたレート特性(図示していない)及び4.1Vにおける明確な相転移が観測された。600℃におけるこれらのデータは、抵抗性のLiF表面の層が存在しないことを示す(通常は4.1Vの相転移はLiが不十分であるか又はLiCoOが化学量論である場合のみ観測される)。その容量の値は、提案された式
LiCoO+αF→αLiF+αCoO+ 1−α LiCoO
と一致している。
【0049】
明らかに、上昇した温度において、均一のLiF表面層は破壊され、表面の大きい破片(fraction)はもはやLiF層で被覆されていない。このデータは、損傷した表面及びより大きいLiFの結晶の生成、及び表面においてより大きな破片が被覆されずにLiFが凝集すること、を示すSEMと完全に一致した。
【0050】
実施例1の結論:200℃を下回るとLiFが存在しない。250℃では、絶縁性である薄いフィルムが形成される。300℃及び特に350℃においてLiFフィルムは、粒子をおおむね絶縁するように完全に発達し、ゆえに、非常に低い電気化学的特性を引き起こす。600℃においてLiFフィルムは溶解する。
【0051】
実施例2:
この実施例は、LiFコーティングされた試料は、明らかに参照の試料よりも良好な性能を示すことを説明する。この実施例の試料は次の通りである。:
(1)LiFによってコーティングされたLMNCO試料:CTD
(2)高温で製造されることにより得られるフッ素がドープされた試料:DPD
(3)フッ素が無い参照試料:REF
【0052】
混合した金属水酸化物MOOH(式中、M=Ni0.5Mn0.3Co0.2)(粒子サイズ分布において約10μmのD50の粒径を有する)、炭酸リチウム及びアルケマ社のカイナー(Kynar、登録商標)の大量生産物を前駆体として使用した。LiFによってコーティングされた試料として、適切な厚さのLiF表面層を達成するため0.3wt%のPVDFを使用した。同じ組成−特に結晶構造中で同じLi含量−並びに同じ結晶サイズ及び同様の形態である試料を達成するために、いくつかの系列の試料が製造された。最終的な試料は、ほぼ同一のBET表面領域、粒子サイズ(レーザー回折により計測)、形態(SEM)を有し、そして、X線回折パターンのリートベルト精密化パラメータもまたほぼ同一であった。
【0053】
製造の間、同じフッ素が蒸発することから、DPDおよびCTDの試料の表面で同じ量のフッ素(表面のフッ素の溶出後に液相クロマトグラフィーにより確認される)を達成するように、フッ素含量が異なっている。加えてフッ素含量の総量は、フッ素の酸中での分解及び好適な蒸留の後の液相クロマトグラフィーにより測定される。
【0054】
【表2】

【0055】
製造された試料はpH滴定(可溶性塩基含量)、BET,SEM X線、及び
XRDパターンのリートベルト精密化及びコイン電池試験により調査された。化学式単位LiMO当りの単位格子(Unit cell)のデータは、散乱度が0.1%未満であり、リートベルト精密化により得られた結晶化度は4%未満である。全ての試料のBET表面領域は同様に散乱度が4%未満である。
【0056】
可溶性塩基含量は、洗浄されたサンプルのpH滴定により決定される。:PVDFコーティングされた試料は、しばしば強力な疎水性であり、水溶液中のpH滴定を困難にする。それゆえ、7.5gの試料をまず10gのアセトンで湿潤させ、そして90gの水を加え、その後10分間撹拌する。濾過後、清浄な濾液中の可溶性塩基含量は、0.1MのHClを使用した標準的なpH滴定により滴定される。
【0057】
【表3】

明らかに、コーティングされた(CTD)試料は最高の成績を示した。それは、最も少ない塩基含量、及び4.5Vにおいて最高のサイクル安定性を有する。また、それは高い容量及び良好なレート特性を示す。
【0058】
図2は、参照REF(上段)と比較したLiFコーティングされた試料CTD(下段)のコイン電池試験の結果を説明する。CTDの最初の充電における、小さい「オーバーシュート」特性を注記する。このような「オーバーシュート」は、通常LiFによって処理された試料で観測されるが、フッ素が無い又はフッ素がドープされた試料では観測されない。これは、LiF表面が電気化学的に活性になる前に、活性化が起こることを示唆する。
【0059】
この実施例及び後の全ての実施例において、電気化学的特性は、25℃で、六フッ化リチウム(LiPF)型電解質中Liのホイルを対電極としたコイン型電池で評価された。電池は4.3Vまで充電され、そして3.0Vまで放電されレート特性及び容量が測定された。拡大されたサイクルの間の容量保持は4.5Vの充電電圧において測定された。160mAh/gの比容量(Specific capacity)は放電レートの定量から推測される。例えば、2Cの放電に、320mA/gの比電流(specific current)が使用される。これは評価の概要である。:
【0060】
【表4】

【0061】
次の定義は、データの解析に使用される。:(Q:容量、D;放電、C:充電)
不加逆容量Q(irr)は(QC1−QD1)/C1
100サイクル当りの減衰速度(0.1C):(1−QD31/QD7)100/23100サイクル当りの減衰速度(1.0C):(1−QD32/QD8)100/23エネルギー減衰:放電容量QDに代えて、放電エネルギー(容量×平均放電電圧)を使用した。
【0062】
図2において、−上段及び下段の双方とも−左のグラフは、上で与えられたような増大した放電レートを有する正極容量に対する、初めの6放電サイクルにおける循環電圧を説明する。ゆえに、サイクル1は、最も高い容量(最も右の線)であり、サイクル6は最も低い(最も左の線)。また、第一の充電曲線も与えられる。中間のグラフは右から左へ7、31、8及び32サイクルにおける放電曲線を説明する。右のグラフは、上のグラフ(小さい丸)が充電及び下のグラフ(大きい丸)は放電を表す、減衰速度(容量対サイクル数)を説明する。
【0063】
このデータは、次の仮説と強力に一致する。
−フッ素が無い試料はLiF保護フィルムを有さない。
−フッ素がドープされた試料DPDは、表面上に、場合により分割された結晶の形態でいくつかの保護的なLiFを含有するが、表面は部分的にしか被覆されていない。
−CTDの試料は薄い保護的なLiFフィルムを含有する。
【0064】
実施例3:
この実施例は、保護的な及び連続的なLiFフィルムが電池の性能を改善するという仮説を支持するための、X線光電子分光(XPS)を使用した、3種類の試料(Fが無い、Fがドープされた及びLiFコーティングされた)の調査に関する。この実施例は実施例2(REF、DPD、CTD)中で説明される通りに製造された試料の結果を示す。
【0065】
実施例は以下を説明する。:
1)粒子中で十分なFが得られるという事実にも関わらず、Fでドープされた試料DPDは連続的及び十分に厚いLiF層を粒子表面に形成しない。
2)F含有ポリマーコーティング、それに続く特定の温度範囲での熱処理に基づく工程は、Fポリマーコーティングの完全な分解により、明確で連続的なLiF層を達成することができる。
C,F及びLiのスペクトルの結果を表3.1中に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
表3.1のまとめは次の通りである。:
1 C 1s:
1.1 Fが無い試料ではCOは通常の量存在し、そして、Fがドープされた試料DPDではCOのレベルはわずかに低下した。
1.2 PVDFが加熱処理された試料CTDでは、COは大きく減少した。粒子表面の殆ど全てのCOが消費された。高温で少なくとも1時間加熱することにより、全てのLiCO表面塩基は取り除かれ得る。
1.3 CF−CFのピークが292.0evに存在しないことから、350℃(試料CTD)でFソースとして使用されるPVDFコーティングは完全に分解(そしてLiFに変換)することが証明される(データは表3.1に示されていない)。
【0068】
2 F 1s:
2.1 FがドープされたDPDは、Fでコーティングされた試料CTD(実施例2を参照)よりも全体的としてより多くのフッ素原子を含有するにも関わらず、コーティングされた試料CTDをXPSを使用して測定したFは、ドープされた試料と比較してかなり多かった。これは、XPSは通常の透過深さが〜5nmという表面を感知し易い技術であるという事実により容易に説明することができる。ゆえに、これは、DPD試料は、場合によりLiFの結晶による少しの被覆を有する表面を含有するのに対し、Fでコーティングされた試料CTDは真にFでコーティングされていることを証明する。
【0069】
3 Li 1s:
3.1 Fが無いREF及びFがドープされたDPDの試料において、LiはLiCO表面塩基として主に存在する。高いLi/Fの比率は、表面粒子上の全てのLiがLiFに変換するのとは限らないことを示唆する。
3.2 Fでコーティングされた試料CTDにおいて、LiがLiFとして存在することは、PVDFがLiFに変換することを示唆する。この工程はLiのソースとしてLiCOを使用する。Li/Fの比が1に非常に近いことは、表面粒子上の全てのLiがLiFに変換することを示唆している。
【0070】
表3.1において、LiFの厚さの計算は、ファン デル マレルらによるジャーナル
オブ バキューム サイエンス アンド テクノロジーズ A、23(5)1456−1470(2005)により説明される移動距離の関数としての光電子強度の標準的な指数関数的減弱に基づく。本発明の試料の層の構造は次のようであると仮定される:バルクMnOx、CoOx、NiOx、−CO中のC、及びLi残り(rest)/LiF中のLi及びF/有機C,有機F及びO−有機、そしてLiFが均一層を形成する。
【0071】
1.5nmの厚さを有する明確なLiFフィルムは、Fでコーティングされた試料にのみ形成する。Fドープされた試料の計算は、不十分な被覆により容易に説明される、0.3nmしかない非常に薄いLiF層を明らかに示す。この厚さは薄すぎて連続層を形成することができない。実施例2の結果と組み合わせて、効果的なLiFフィルムは少なくとも0.5nm又は少なくとも0.8nm、及び更には少なくとも1nmの厚さを有するべきである。
後に熱処理が続くPVDFコーティングの場合における、LiFの連続的な被覆層の形成は(試料CTD)、Oの信号の強力な減少により確認される(下記表3.2もまた参照)。Fがドープされた試料では、この減少は観測できず(小さな増加があるだけである)、これは形成されたLiFが非常に薄く、そして連続的でないことを示唆する。
【0072】
【表6】

Mn2p、Co2p、Ni2p及び酸素の1Sの信号は抑えられているため、このデータは、CTD試料の場合のみ、LiFフィルムにより粒子が連続的に被覆されていることを明らかに裏付ける。
【0073】
上述のXPSのデータは、Fの存在に基づく次のモデルを明らかに支持する。:
1.Fが無い:Fと反応しないと考えられ、ゆえに表面上で標準である高いCOレベルが観測された。
2.Fがドープされた:薄くそして連続的でないLiFの層が表面に形成された。この薄いLiF層の形成は、LiCO表面塩基を完全に除去するのに不十分である。
3.Fでコーティングされた:PVDFコーティングは、350℃で完全に分解し、そして、明確な厚さを有する、保護的な(連続的な)LiFコーティングを形成した。このLiF中のLiは粒子表面のLiCOの消費に由来する。故に、LiCO表面塩基の大きな減少が観測される。LiF層中のFはPVDFコーティングに由来し、そしてLiFは粒子を連続的な層で被覆する。
【0074】
実施例4:
この例は、前述のLiFコーティングが実際の商業的な大きさの電池の性能を改善することを説明する。特に、充電された電池の熱曝露の間の膨潤を減少させるのにLiFコーティングは非常に効果的である。この例は実施例1及び2の大スケールの試料の結果を再現する。これらの試料は付加的にポリマー型フル電池(full cell)で評価された。全ての実施例で、約1.0のLi:MであるLNMO(M=Ni0.5Mn0.3Co0.2)の量産生成物が前駆体として使用された。該前駆体は、0.145mol%のS及び142ppmのCaを更に含有する。
【0075】
実施例4a:300℃で0.3%のPVDF:50gのLNMOの量産生成物及び2.7gのPVDFの粉体を、コーヒーグラインダーを使用して2バッチを予備混合した。この混合物は、1.6kgのLNMOに添加され、そし2Lの容器を使用したヘンシェル型ミキサーで撹拌を続けた。この混合物を対流オーブン中300℃で5時間加熱処理し、その後篩にかけた。
【0076】
実施例4b:350℃で0.3%のPVDF:熱処理温度が350℃である以外は実施例4aと同様にした。
【0077】
試験は実施例1−3の方法と同様に実施し、更に800mAhの巻かれたパウチ型電池を組み立て、そして試験した(このような型の電池は例えば先行技術である米国特許7,585,589号明細書で述べられている)。表4.1に結果をまとめた。
【0078】
【表7】

QD:放電容量;速度:0.1Cに対する%、塩基:湿度室に曝す前及び後(50%の湿度、30℃で5日間曝露)、水分:湿度曝露後
【0079】
この表は、次の結論を認める。:
1)300℃で0.3%の試料:水分の安定性は許容でき、塩基の総量は少なく、参照の50%未満である。これは、LiFコーティング層が発達し、そして、ポリマーの分解が塩基の大部分を消費したことを示唆する。ユニットセル(unit cell)の電圧がわずかに減少したことが観測され、これはバルクからいくらかのリチウムが溶出したことと一致する。
2)350℃で0.3%の試料:水分の含量は300℃よりも良好である。
【0080】
表4.2は、パウチ型電池の試験結果をまとめたものである。高温での保管(4時間、90℃)後の膨潤が劇的に減少したことが観測された。膨潤は、試験前(冷たい)に測定した厚さと比較した、電池がまだ熱い(90℃)、4時間後に測定した電池の厚さの比である。異なる処理を行った試料でいくつかの更なる試験を行ったが、しかし、PVDFで処理した試料のみが、通常得られる数字である40−50%よりもかなり低い、劇的な膨潤の減少を示した。更に我々は、全てのPVDFで処理した電池は、安全性能が改善されたことを示す過充電試験に合格したことを観測した。過充電は700mAで5.5Vまで到達した。合格したことは、火災又は発煙事象が起きないことを意味する。直径2.5mmの鋭利な釘を使用し、1秒当り6.4mmの速度での釘刺試験を行った。合格は発煙や火災が発生しないことを意味する。
【0081】
【表8】

【0082】
実施例5:
この実施例は、高いニッケルベースの(LNO)正極材料(例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05)のLiFコーティングを示す。このような正極の場合いくつかの論点が実際に重要である。
(1)炭素の不純物の減少
(2)全ての可溶性塩基の低下
(3)水分安定性の改善
(4)サイクル安定性及び安全性の改善
この例はLiFコーティングがこれらの特性を劇的に改善することを説明し得る。
【0083】
LiNi0.8Co0.15Al0.05のパイロットプラントの試料を前駆体として使用した。正極はPVDF粉体と注意深く混合してブレンドされ、ブレンド中には0%、0.3%、0.5%及び1%のPVDFが使用された。ブレンドは、異なる温度で5時間、空気流の中で調整された。試料は150、200、250、300及び350℃にて製造された。水への浸漬は、300℃及び350℃で製造された試料が疎水性でないことを示し、従って、PVDFポリマーは完全に反応した。完全な反応は炭素硫黄分析により確認される。従って、これらの条件下、ポリマー中のフッ素原子はリチウムと反応してLiFフィルムを形成する。これとは反対に、200℃及び250℃で製造された試料はポリマーでコーティングされ、疎水性でありそしてポリマー及び正極を分離する非常に薄いLiFの界面フィルムのみを示す。
【0084】
得られた正極材料は次のように試験された。:
−可溶性塩基は(上述の通り)pH滴定により測定された。
−炭素硫黄分析による炭素含量。
−湿度室曝露(50%の湿度、30℃)5日後の塩基含量の再測定。
−コイン電池は(上述の通り)製造された正極から作製された。
【0085】
【表9】

【0086】
図3.1乃至3.4は、この表の幾つかの重要な結果を説明する。図3.1及び3.2は、PVDFの処理温度の関数としての重要な特性を示す。図3.3及び3.4はPVDF含量の関数としての重要な特性を示す。
【0087】
図3.1(左:熱処理温度に対する1Cでのエネルギー低下率−100サイクル後の%−;右:熱処理温度に対する放電容量)は、電気化学的評価の結果を示す:少量の容量の損失が観測されたが、処理温度の増大につれてサイクル安定性が劇的に改善した。
【0088】
図3.2(左:熱処理温度に対する湿度室曝露後の水分;右:熱処理温度に対する塩基含量、上の線は湿った空気曝露後、下の線は曝露前)は、湿度曝露試験に関連したデータを説明する。:
50%の湿度、30℃で5日間曝露した後に観測された水分含量は、処理温度とともに低下した。同様に、湿度曝露の前及び後の塩基含量も処理温度とともに減少した。
【0089】
図3.3(左:PVDFブレンド割合に対する、1Cにおけるエネルギー減衰割合―100サイクル後の%−;右:PVDFブレンド割合に対する放電容量)及び図3.4(左:PVDFブレンド割合に対する塩基含量、上の線は湿った空気曝露後、下の線は曝露前;右:PVDFブレンド割合に対する炭素含量)は、350℃の熱処理においてPVDF含量の増大により、4個のうち3個の重要な特性が改善されることを説明する。水分安定性が増大し、曝露前及び後で塩基含量が減少した。
しかしながら、PVDF含量の増大に伴い、可逆容量が著しく減少した。故に、0.5wt%のPVDFは、良好な妥協策である。
【0090】
明らかに350℃での処理では、低い塩基含量、高いサイクル安定性、良好な水分安定
性という優れた結果が得られた。PVDFの増大につれ可逆容量が減少することから、0.5wt%が性能の改善と容量の間の良好な妥協策である。
【0091】
図3.5は0.5wt%、350℃の試料のコイン電池試験の詳細を示し、4.5Vですら優れた安定性を示すことを注記する。このような結果は先行技術では報告されておらず、そして反対に、LiNi0.8Co0.15Al0.05はしばしば低いサイクル安定性を有するものとして言及される。図3.5中のそれぞれの線及びグラフの意味は、図2で議論されたものと同様である。
【0092】
改善された安定性は2つの効果が原因であると信じる。:
(1)粒の間に存在するLiCO及びLiOHの塩基性の塩の置き換え。この塩は電池中で高電位で分解し、そしてそれ故、正極は電気的接触が緩くなる。この反対にLiFは約6Vの非常に高い電圧まで安定である。並びに、
(2)電解液の直接的な還元攻撃を防ぐ、LiF表面フィルムによる表面の保護。
【0093】
電圧の注意深い観察は、重要な変化を明らかにする。:極性が増大しそして放電の終わりがより丸くなるという性質は改善された安定性を約束する。
【0094】
本発明は、以下の項目によってもまた説明され得る。
1.再充電可能な電池で使用するためのリチウム遷移金属酸化物粉体であって、LiFによってコーティングされた表面を有する一次粒子を含み、pH滴定により決定された前記リチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量が、LiFによってコーティングされていない一次粒子を有するリチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量の60%未満である、リチウム遷移金属酸化物粉体。
2.pH滴定によって決定されたリチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量が、コーティングされていない一次粒子を有するリチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量の50%未満である、第1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
3.前記リチウム遷移金属酸化物粉体の表面は、実質的に水酸化リチウム及び炭酸リチウムが存在しない第1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
4.前記リチウム遷移金属酸化物が、
−LiCo
(式中、MはMg又はTiのうちのいずれか一方又はその双方を表わし、e<0.02及びd+e=1である。)
−Li1+aM’1−a2±b
(式中、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M’は、少なくとも95%がNi、Mn、Co、Mg及びTiからなる群から選択される遷移金属化合物を表わし、MはCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり、wt%で0≦k≦0.1であり;及び0≦m≦0.6(mはモル%で表される)である。);及び
−Lia’NiCoM’’2±e
(式中、0.9<a’<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;M’’はAl,Mg及びTiの群からのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり;
AはS及びCのうちのいずれか一方又はその双方からなる。)
で表されるリチウム遷移金属化合物のいずれか1種である、第1項乃至第3項のいずれか1項に記載リチウム遷移金属酸化物粉体。
5.M’=Nia’’Mnb’’Coc’’(式中、a’’>0、b’’>0、c’’>0及びa’’+b’’+c’’=1;及びa’’/b’’>1)である第4項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
6. 0.5≦a’’≦0.7、0.1<c’’<0.35及びa’’+b’’+c’’
=1である第5項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
7.前記LiFコーティング層が少なくとも0.5nmの厚さを有する、第1項乃至第6項のいずれか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
8.前記LiFコーティング層が少なくとも0.8nmの厚さを有する、第1項乃至第7項のいずれか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
9.前記LiFコーティング層が少なくとも1nmの厚さを有する、第1項乃至第7項のいずれか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
【0095】
10.LiFコーティングでリチウム遷移金属(M)酸化物粉体を被覆する方法であって、
−遷移金属の硫酸塩と塩基との共沈により製造される遷移金属前駆体を準備する段階
−共に炭酸塩の不純物を含有するLiOHO及びLiNOのうちのいずれか1種のリチウム前駆体、又はLiCOであるリチウム前駆体を準備する工程、
−前記遷移金属前駆体及び前記リチウム前駆体を600℃を超える温度で反応させ、それによってLiCO不純物を有するリチウム遷移金属(M)酸化物粉体を得る段階、
−LiCO不純物を有する前記リチウム遷移金属(M)酸化物粉体をフッ素含有ポリマーと混合し、粉体−ポリマー混合物を形成する段階、及び
−前記粉体−ポリマー混合物を少なくとも140℃、最高で300℃の、前記フッ素含有ポリマーの融点を超える温度で加熱する段階、
を含む方法。
11.前記遷移金属前駆体がMOOHであり、前記塩基がNaOHである第10項に記載の方法。
12.前記粉体−ポリマー混合物中の前記フッ素含有ポリマーの量が、約0.1乃至約0.2wt%である第10項に記載の方法。
13.前記粉体−ポリマー混合物中の前記フッ素含有ポリマーの量が、約0.2乃至約0.5wt%である第11項に記載の方法。
14.前記フッ素含有ポリマーがPVDFであり、前記粉体−ポリマー混合物を約325℃より高く約380℃より低い温度で少なくとも1時間加熱する第10項又は第12項に記載の方法。
15.前記粉体−ポリマー混合物を約340℃乃至約360℃の温度で少なくとも1時間加熱する第12項又は第13項に記載の方法。
【0096】
16.前記リチウム遷移金属酸化物が
−LiCo
(式中、MはMg及びTiのうちのいずれか一方又はその双方を表わし、e<0.02及びd+e=1である。)
−Li1+aM’1−a2±b
(式中、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M’は、少なくとも95%がNi、Mn、Co、Mg及びTiの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなる遷移金属化合物を表わし、;MはCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群のいずれか1種又はそれ以上の元素からなり、wt%で0≦k≦0.1であり;及び0≦m≦0.6(mはモル%で表される)である。);及び
−Lia’NiCoM’’2±e
(式中、0.9<a’<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;M’’はAl,Mg及びTiの群からのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり;AはS及びCのうちのいずれか一方又はその双方からなる。)
のうちのいずれか1種である第10項乃至第15項のいずれか1項に記載の方法。
17. M’=Nia’’Mnb’’Coc’’
(式中、a’’>0、b’’>0、c’’>0及びa’’+b’’+c’’=1;及びa
’’/b’’>1)である第16項に記載の方法。
18. 0.5≦a’’≦0.7、0.1<c’’<0.35及びa’’+b’’+c’’=1である第16項に記載の方法。
19.前記LiFコーティング層が少なくとも0.5nmの厚さを有する第10項乃至第18項のいずれか1項に記載の方法。
20.前記LiFコーティング層が少なくとも1nmの厚さを有する第10項乃至第19項のいずれか1項に記載の方法。
【0097】
21.pH滴定により決定された前記コア−シェルリチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量が、コーティングされていない粒子を有するコア−シェルリチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量の60%未満である、コーティングされた表面を有する一次粒子を含むコア−シェルリチウム遷移金属酸化物粉体。
22.前記表面がLiFによってコーティングされる第21項に記載のコア−シェルリチウム遷移金属酸化物粉体。
23.前記コア−シェルリチウム遷移金属酸化物粉体の沈殿及び焼成後に一次粒子が形成される第21項に記載のコア−シェルリチウム遷移金属酸化物粉体。
24.二次粒子が凝集体であり、前記一次粒子及び前記二次粒子の双方ともコーティングされている二次粒子を更に含む、第21項に記載のコア−シェルリチウム遷移金属酸化物粉体。
25.二次粒子が形成される前に前記一次粒子が形成される第24項に記載のコア−シェルリチウム遷移金属酸化物粉体。
26.前記リチウム遷移金属酸化物が
−LiCo
(式中、MはMg及びTiのうちのいずれか一方又はその双方を含み、e<0.02及びd+e=1である。)
−Li1+aM’1−a2±b
(式中、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M’は、少なくとも95%が、Ni、Mn、Co、Mg及びTiの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素を含む遷移金属化合物を表わし、;MはCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群のうちの1種又はそれ以上の元素を含み、wt%で0≦k≦0.1であり;及び0≦m≦0.6(mはモル%で表される)である);及び
−Lia’NiCoM’’2±e
(式中、0.9<a’<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;M’’はAl,Mg及びTiの群からのいずれか1種又はそれ以上の元素を含み;AはS及びCのうちのいずれか一方又はその双方を含む。)のいずれか1種である、第21項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
【0098】
27.アニオン性コーティングによりリチウム遷移金属(M)酸化物粉体を被覆する方法であって、遷移金属の硫酸塩と塩基との共沈により遷移金属前駆体を準備する段階;
リチウム前駆体を添加する段階;
前記遷移金属前駆体及び前記リチウム前駆体を600℃を超える温度で反応させ、それによってLiCO不純物を有するリチウム遷移金属(M)酸化物粉体を得る段階;
LiCO不純物を有するリチウム遷移金属(M)酸化物粉体をフッ素含有ポリマーと混合し、粉体−ポリマー混合物を形成する段階;
前記粉体−ポリマー混合物を少なくとも140℃乃至300℃の、前記フッ素含有ポリマーの融点を超える温度に加熱する段階;
アニオン性コーティングによって前記リチウム遷移金属(M)酸化物粉体を被覆する段階、
を含む方法。
28.前記遷移金属前駆体がMOOHであり、前記塩基がNaOHである第27項に記載の方法。
29.前記リチウム前駆体が、炭酸塩の不純物を有するLiOHO、炭酸塩の不純物を有するLiNO、及びLiCOから成る群から選択される第27項に記載の方法。
30.前記アニオン性コーティングがLiFコーティングである第27項に記載の方法。
【0099】
31.コーティングされたリチウム遷移金属(M)酸化物粉体を形成する方法であって、遷移金属の硫酸塩と塩基との共沈により遷移金属前駆体を準備する段階;
炭酸塩の不純物を有するLiOHO、炭酸塩の不純物を有するLiNO、及びLiCOから成る群から選択されるリチウム前駆体を添加する段階;
前記遷移金属前駆体及び前記リチウム前駆体を600℃を超える温度で反応させる段階;LiCO不純物を有するコーティングされたリチウム遷移金属(M)酸化物粉体を得る段階;
LiCO不純物を有するコーティングされた前記リチウム遷移金属(M)酸化物粉体をフッ素含有ポリマーと混合し、粉体−ポリマー混合物を形成する段階;
前記粉体−ポリマー混合物を少なくとも140℃乃至300℃を超える、前記フッ素含有ポリマーの融点を超える温度で加熱する段階;
を含む方法。
32.コーティングされたリチウム遷移金属(M)酸化物粉体がコーティングされた一次粒子を含むものである、第31項に記載の方法。
33.前記一次粒子が最初に形成された粒子であり、そして二次粒子がその後に形成される粒子である、二次粒子を更に含む第32項に記載の方法。
【0100】
本発明の特定の態様及び/又は詳細が示され、そして本発明の主要な適用の説明を上で述べたが、この発明は、上記の原理から逸脱すること無く、請求項及び前記項目で更に十分に述べられた通りに、または、当業者よって他に知られた通り(いずれか及び全ての同等のものを含む)に具体化し得ることが理解できる。
【図1.1】

【図1.2】

【図1.3】

【図2】

【図3.1】

【図3.2】

【図3.3】

【図3.4】

【図3.5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
再充電可能な電池で使用するためのリチウム遷移金属酸化物粉体であって、LiFによってコーティングされた表面を有する一次粒子から構成され、pH滴定により決定された前記リチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量が、コーティングされていない一次粒子を有するリチウム遷移金属酸化物粉体の可溶性塩基含量の60%未満、好ましくは50%未満である、リチウム遷移金属酸化物粉体。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属酸化物粉体の表面は、実質的に水酸化リチウム及び炭酸リチウムが存在しない請求項1記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属酸化物が、
−LiCo
(式中、MはMg及びTiのうちのいずれか一方又はその双方を表わし、e<0.02及びd+e=1である。);
−Li1+aM’1−a2±b
(式中、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、
M’は、少なくとも95%がNi、Mn、Co、Mg及びTiの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなる遷移金属化合物を表わし、MはCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり、wt%で0≦k≦0.1であり;及び0≦m≦0.6(mはモル%で表される)である。);及び
−Lia’NiCoM’’2±e
(式中、0.9<a’<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;M’’はAl,Mg及びTiの群からのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり;AはS及びCのうちのいずれか一方又はその双方からなる。)
のうちのいずれか1種である、請求項1又は請求項2に記載リチウム遷移金属酸化物粉体。
【請求項4】
M’=Nia’’Mnb’’Coc’’
(式中、a’’>0、b’’>0、c’’>0及びa’’+b’’+c’’=1;及びa’’/b’’>1)である請求項3に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
【請求項5】
0.5≦a’’≦0.7、0.1<c’’<0.35及びa’’+b’’+c’’=1である請求項4に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
【請求項6】
前記LiFコーティング層が少なくとも0.5nm、好ましくは少なくとも0.8nm、そして最も好ましくは少なくとも1nmの厚さを有する、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉体。
【請求項7】
LiFコーティングによりリチウム遷移金属(M)酸化物粉体を被覆する方法であって、−遷移金属の硫酸塩とNaOHなどの塩基との共沈により製造されるMOOHなどの遷移金属前駆体を準備する段階、
−共に炭酸塩の不純物を含有するLiOHO及びLiNOのうちのいずれか1種のリチウム前駆体、又はLiCOである前記リチウム前駆体を準備する段階、
−前記遷移金属前駆体及び前記リチウム前駆体を600℃を超える温度で反応させ、それによってLiCO不純物を有するリチウム遷移金属(M)酸化物粉体を得る段階、
−前記粉体をフッ素含有ポリマーと混合する段階、及び
−前記粉体−ポリマー混合物を少なくとも140℃、最大で300℃の、前記フッ素含有ポリマーの融点を超える温度で加熱する段階、
を含む方法。
【請求項8】
前記粉体−ポリマー混合物中のフッ素含有ポリマーの量が0.1乃至2wt%、好ましくは0.2乃至0.5wt%である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記フッ素含有ポリマーがPVDFであり、そして前記粉体−ポリマー混合物を325℃より高く380℃より低い温度で、好ましくは340℃乃至360℃の温度で少なくとも1時間加熱する請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記リチウム遷移金属酸化物が
−LiCo
(式中、MはMg及びTiのうちのいずれか一方又はその双方を表わし、e<0.02及びd+e=1である。)
−Li1+aM’1−a2±b
(式中、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M’は、少なくとも95%がNi、Mn、Co、Mg及びTiの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなる遷移金属化合物を表わし、MはCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群のうちのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり、wt%で0≦k≦0.1であり;及び0≦m≦0.6(mはモル%で表される)である。);及び
−Lia’NiCoM’’2±e
(式中、0.9<a’<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;M’’はAl,Mg及びTiの群からのいずれか1種又はそれ以上の元素からなり;AはS及びCのうちのいずれか一方又はその双方からなる。)のうちのいずれか1種である請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
M’=Nia’’Mnb’’Coc’’
(式中、a’’>0、b’’>0、c’’>0及びa’’+b’’+c’’=1;及びa’’/b’’>1)である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
0.5≦a’’≦0.7、0.1<c’’<0.35及びa’’+b’’+c’’=1である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記LiFコーティング層が少なくとも0.5nm、好ましくは少なくとも0.8nm、そして、最も好ましくは少なくとも1nmの厚さを有する、請求項7乃至請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
リチウムイオン角形電池又はポリマー電池における、請求項4又は請求項5に記載の遷移金属酸化物粉体の使用。

【公表番号】特表2013−510393(P2013−510393A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537314(P2012−537314)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006352
【国際公開番号】WO2011/054441
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(502270497)
【Fターム(参考)】