説明

コア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法

【課題】発光強度が向上したコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法を提供すること。
【解決手段】コア粒子との格子不整合が10%以下で、且つバンドギャップがコア粒子より大きいシェル原料を反応ガスとして供給して噴霧熱分解法によりシェルが形成されることを特徴とするコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
噴霧熱分解法を用いた微粒子作製技術は、無機化合物粒子の作製方法の1つとして知られている。噴霧熱分解法とは、原料となる溶液を何らかの方法により噴霧して微小液滴を形成し、液滴の溶媒を蒸発、熱分解することにより、目的とする原料粒子の粉末を得る方法である。噴霧熱分解法を用いた蛍光体作製方法として、前駆体コア粒子に液体シェル原料を噴霧してシェル形成をし、またはシェル原料に微粒子を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この技術では、液体シェル原料や微粒子シェル原料を用いることで厚いシェル形成は可能となり、表面欠陥や外部因子による劣化防止にはなるが、液体シェル原料を用いた際、シェル材料同士の凝集が起こり、または微粒子シェル原料を用いた際、シェル厚はコア粒子周辺に付着する微粒子の数に依存することより、シェル厚の制御が非常に難しい。また、厚いシェル膜にすることで粒子全体を一様な結晶性に制御することが難しく、結晶性の向上が難しいと考えられる。
【0004】
また、コアとシェルの格子不整合について考慮しておらず、この点においても結晶性の向上という観点で不十分である。また、実施例記載のシェル厚について、静置炉使用時と未使用時ともにシェル厚200nmとなっており、静置炉では粒子が密接に接しているためミクロン粒子となる。
【0005】
蛍光体原料を含有する原料溶液を同伴気体中に噴霧、微液滴化させ、微液滴を乾燥させて固体状蛍光体原料となし、かかる固体状蛍光体原料を加熱して、蛍光体前駆体とし、これから蛍光体の結晶相を主相とする蛍光体粒子の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この技術では蛍光体粒子はコア・シェル構造を有していなく、シェル構造が無いことから、コア・シェル間で量子井戸構造による電子閉じ込め効果が起こらないため、形成試料はコア・シェル構造を有する蛍光体より輝度は低いと考えられる。更にシェルによるコア・シェル界面の結晶性が向上し、且つエピタキシャル成長を考慮している本発明と比べて結晶性が低くなると予想される。
【0007】
また、コア・シェル構造を有していない粒子であり、シェル構造が無いことからコア・シェル間で量子井戸構造による電子閉じ込め効果が起こらないため、形成試料はコア・シェル構造を有する蛍光体より輝度は低いと考えられる。更に同様に結晶性は低くなると予想される。
【0008】
蛍光体原料を含有する原料溶液を液滴化させ、火炎内に導入し、火炎の温度を制御して微粒子を生成させる技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
この技術では蛍光体コア粒子のみの形成が行われており、コア粒子の発光は市販品の数割落ちた発光強度となっており、コアのみでは発光強度が足らないことが見て取れる。また、発光強度においては電気炉を用いた噴霧焼成の結果も載せており、火炎法での形成粒子の発光強度結果よりも悪い値で示されている。これら両者ともコア粒子のみの構造となっており、これらの形成時において、表面欠陥もしくは内部欠陥、更には複合成分であるので組成の不均一性などが起こっていると考察される。
【0010】
火炎法という高温下による微粒子の作製は、試料形成を行うにあたって滞留時間を短くすることができ、熱による微粒子化の変化が非常に早いなどの利点が挙げられるが、高温下から急速に冷却することにより形成粒子内、もしくは表面において欠陥が生じてしまい、結晶性の悪い形成粒子ができる恐れがある。また、反応場中で原料が融解することにより凝集が起こりやすいという現象も起こす。実際にこの手法で得られた粒子は、サブミクロンオーダー、つまり数百nmと凝集されてしまっていることが伺え、ナノ粒子は形成されない。
【0011】
また、蛍光体粒子に対して反応ガスを用いている技術が知られている(例えば、特許文献4参照)が、蛍光体形成時に起こる表面欠陥や結晶性について、反応ガスと不活性ガスを用いることで改善し、蛍光体の高寿命化、つまり発光特性の経時変化に観点が絞られている。また、ナノ粒子蛍光体などの粒径にほとんど触れていない。
【特許文献1】特開2006−232919号公報
【特許文献2】特開2003−27050号公報
【特許文献3】特開2005−120283号公報
【特許文献4】国際公開第04/31323号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、発光強度が向上したコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
【0014】
1.コア粒子との格子不整合が10%以下で、且つバンドギャップがコア粒子より大きいシェル原料を反応ガスとして供給して噴霧熱分解法によりシェルが形成されることを特徴とするコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。
【0015】
2.前記コア粒子との格子不整合が6.0%以下であることを特徴とする前記1に記載のコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。
【0016】
3.前記コア粒子との格子不整合が2.0%以下であることを特徴とする前記2に記載のコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。
【0017】
4.前記シェルの形成がエピタキシャル成長であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、発光強度が向上したコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳述する。
【0020】
噴霧熱分解法において、粒子形成に大きく関わる主な因子である焼成温度や滞留時間などの焼成条件を変化させ蛍光体が形成されるが、市販品と比べ発光強度が数割低い粒子が形成されている。実験条件の他因子を変化させることで今後発光強度を飛躍的に向上させるのは難しく、他の形成条件(技術)を組み合わせることが重要であると考えている。
【0021】
本発明は、原料前駆体を含んだ溶液または原料溶液を噴霧させた状態において、シェル原料となる反応性ガスにより反応場へ搬入し、まず乾燥または熱分解によりコア粒子の形成を行い、その後コア粒子と反応ガスの反応によりコアの周りにシェルが形成、焼成されることで量子井戸形成、またはコア粒子の結晶情報によるシェルのエピタキシャル成長が可能となる特徴を備えている。
【0022】
エピタキシャル成長とは、単結晶基板上に結晶方位が揃った単結晶の薄膜を成長させる方法のことである。エピタキシャル成長が起こるには格子定数のほぼ等しい、即ち格子不整合が小さい結晶を選ぶ必要がある。
【0023】
仮に自然酸化されてコアが何の処方を取らずにもコア・シェル構造を有したとしても、自然酸化の構造は非常に荒いと考えられ、高純度酸素ガスなどを用いて設計されたコア・シェル構造を持つ試料と比べ結晶性などが悪いことは容易に想像がつくことから、自然酸化など自然にできるシェル膜などは、本発明で言うコア・シェル構造のシェルに値しないことを明示しておく。
【0024】
コア粒子の形成のみに留まらず、シェル材料に反応ガスである酸素ガス、窒素ガス、シランガス、TM系ガス(有機ガス)などを用いて、コア粒子の周囲にシェルの形成を行う。その際、ガス種の選択はコア粒子と格子不整合が小さくなる材料が形成されるガスを選ぶことが好ましい。
【0025】
ここで、格子不整合とは2つの結晶の格子定数の差を示す指標であり、例えば、表1において、コアがSiの格子定数は5.431、シェルがSiO2の格子定数は4.900の組み合わせの時、その差は0.531、格子定数の大きい5.431に対してその%は9.8%となる。他の組み合わせも同様にして、計算した結果が表1である。
【0026】
格子不整合が小さくすることにより、コア、シェル間での格子の歪みによる欠陥が低減され、コアの格子情報を元としてシェル組成の結晶化が進むエピタキシャル成長が起こりやすくなるためである。
【0027】
エピタキシャル成長は、現状、MOCVDなどでの量産装置では、実験条件にもよるが、膜状でのエピタキシャル成長速度は数・m/hであるという。この成長速度は大凡10〜200nm/min.の成長速度であり、滞留時間が短いと懸念される噴霧熱分解装置においても、十分なエピタキシャル成長したシェル膜を形成できることが言える。
【0028】
このことから、この技術を用いれば特許文献3記載の発光強度が市販品同等、もしくはそれ以上の発光強度を示すことも期待できる。また、シェルのバンドギャップがコアのバンドギャップよりもより大きい材料を用いることが重要である。このことでコア、シェル間で量子井戸構造が構築され、コア内での電子の動きをシェルの高いバンドギャップにより閉じ込めることで、よりコア粒子の発光に関与することで発光効率の改善により発光強度が向上すると考えられる。
【0029】
原料前駆体粒子とはコア・シェル構造を有する粒子のコア部のことであり、半導体、金属、導電体などの単体、もしくは塩、もしくはイオンを表す。特に本発明に係る製造方法は、原料前駆体粒子による量子サイズ効果の発現で可視光を得ることに有効的であるため、Si、Ge、InN、InP、GaAs、AlSb、CdSe、AlAs、GaP、ZnTe、CdTe、InAsなどの半導体が好ましく適用される。特にSi、Ge、InN、InPがより好ましく適用される。
【0030】
シェルの組成は、II−VI族、III−V族、IV族の無機半導体であることを特徴とする。シェルの組成は、Si、Ge、InN、InP、GaAs、AlSb、CdSe、AlAs、GaP、ZnTe、CdTe、InAsなどの各コア無機材料よりバンドギャップが大きく、格子定数のずれが大きくないものに該当する全ての材料を指し、毒性を有さない材料が好ましい。
【0031】
本発明のコア・シェル型蛍光体微粒子は、粒径が0.1〜100nmであることが好ましく、0.1〜50nmであることがより好ましく、0.1〜10nmであることが特に好ましい。
【0032】
噴霧原料の溶媒の種類は粘性が低く、蛍光体形成の阻害因子が含まれておらず、表面張力が低い材料が望ましく、それに該当する全ての溶媒を使用することができる。噴霧原料の溶媒としては、水、またはアルコールなどの有機溶媒が沸点が低いため反応炉内での乾燥に適しており望ましく、それに該当する全ての溶媒を使用することができる。水が沸点が低いため、反応炉内での乾燥に適していることからより望ましい。
【0033】
反応場の加熱温度は瞬時乾燥、形成粒子の結晶化の促進が望まれるため、200〜1600℃が好ましく、600〜1600℃がより好ましく、1100〜1600℃が特に好ましい。
【0034】
本発明に係るキャリアガスは、Ar、Ne、Xe、Kr、N2、O2、H2、NH3のいずれかを1つ以上を用いることが好ましい。より好ましくは、Ar、Ne、Xe、Krのいずれかを1つ以上を用いることである。
【0035】
注入ガス流量は流量により反応炉での滞留時間を変化させることで、反応場中における乾燥粒子の滞留時間を操作できるため、1〜1000ml/min.が好ましく、1〜300ml/min.がより好ましく、1〜50ml/min.が最も好ましい。
【0036】
作製試料の捕集方法は、液中捕集、静電捕集、サイクロン、バクフィルタ、冷却捕集などのいずれか1つ以上の手法が好ましい。液中捕集、静電捕集、冷却捕集のいずれか1つ以上の手法が微粒子の捕獲率が高いためより好ましい。
【0037】
噴霧熱分解は各温度制御が可能な5つのヒーターを設け、実験で所望する温度パターン設定により、反応管の外部から熱エネルギー付与を行う。
【0038】
表1にコアとシェルの格子不整合の例を示す。BGはバンドギャップを表す。
【0039】
【表1】

【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0041】
比較例1 コア・シェルの格子不整合が10%以上の場合
コア形成素材としてInNナノ粒子前駆体を用い、シェル形成素材としてNH3ガスとTMAl(トリメチルアルミニウム)を用いて両者を反応部へ搬入し、噴霧熱分解することでInN/AlNのコア・シェル構造を形成した。
【0042】
バンドギャップはコアが2.05eVであり、シェルが6.28eVである。コア・シェル間での格子不整合は11.9%である。
【0043】
この形成粒子の結晶性をTEM観察により、発光強度を蛍光光度計より測定した結果、コア・シェル間においてエピタキシャル成長<非結晶部分となっている。この比較例1で得られた粒子の発光強度を、他の作製条件で得られた粒子の発光強度と比較するため比較基準の発光強度と定める。
【0044】
比較例2 コア・シェルの格子不整合が10%以上の場合
コア形成素材としてGeナノ粒子前駆体を用い、シェル形成素材としてSiH4と高純度O2ガスを用いて両者を反応部へ搬入し、噴霧熱分解することでGe/SiO2のコア・シェル構造を形成した。
【0045】
バンドギャップはコアが0.67eVであり、シェルが10eVである。コア・シェル間での格子不整合は13.4%である。
【0046】
この形成粒子の結晶性をTEM観察により、発光強度を蛍光光度計より測定した結果、コア・シェル間においてエピタキシャル成長<非結晶部分となっており、更に比較例粒子1の形成粒子から得られた発光強度の0.86倍の発光強度を得ることができた。
【0047】
実施例1 コア・シェルの格子不整合が10%以下の場合
コア形成素材としてSiナノ粒子前駆体を用い、シェル形成素材としてTMZn(トリメル亜鉛)とH2Sを用いて両者を反応部へ搬入し、噴霧熱分解することでSi/ZnSのコア・シェル構造を形成した。
【0048】
バンドギャップはコアが1.1eVであり、シェルが3.6eVである。コア・シェル間での格子不整合は0.4%である。
【0049】
この形成粒子の結晶性をTEM観察により、発光強度を蛍光光度計より測定した結果、コア・シェル間においてエピタキシャル成長が起こっており、更に比較例粒子1の形成粒子から得られた発光強度の1.84倍の発光強度を得ることができた。
【0050】
実施例2 コア・シェルの格子不整合が6%以下の場合
コア形成素材としてGaNナノ粒子前駆体を用い、シェル形成素材としてNH3ガスとTMAlを用いて両者を反応部へ搬入し、噴霧熱分解することでGaN/AlNのコア・シェル構造を形成した。
【0051】
バンドギャップはコアが3.2eVであり、シェルが6.28eVである。コア・シェル間での格子不整合は3.9%である。
【0052】
この形成粒子の結晶性をTEM観察により、発光強度を蛍光光度計より測定した結果、コア・シェル間においてエピタキシャル成長>非結晶部分となっており、更に比較例粒子1の形成粒子から得られた発光強度の1.53倍の発光強度を得ることができた。
【0053】
実施例3 コア・シェルの格子不整合が2%以下の場合
コア形成素材としてSiナノ粒子前駆体を用い、シェル形成素材として高純度O2ガスを用いて両者を反応部へ搬入し、噴霧熱分解することでSi/SiO2のコア・シェル構造を形成した。
【0054】
バンドギャップはコアが1.1eVであり、シェルが10eVである。コア・シェル間での格子不整合は9.8%である。
【0055】
この形成粒子の結晶性をTEM観察により、発光強度を蛍光光度計より測定した結果、コア・シェル間においてエピタキシャル成長>非結晶部分となっており、更に比較例粒子1の形成粒子から得られた発光強度の1.21倍の発光強度を得ることができた。
【0056】
【表2】

【0057】
比較例1、2、実施例1〜3の結果から、比較例1と比較例2の格子不整合の大きさから、結晶間でのひずみなどが起きていると考えられ、その結果、発光強度が本発明の実施例1〜3の結果よりも劣っていることが見て取れる。
【0058】
また、コア・シェル間の結晶状態も、格子不整合が大きくなるにつれて非結晶状態に近づくことも見て取れる。即ち、格子不整合が小さいとエピタキシャル成長が優先し、結果的に発光強度が向上する。このことから、形成されるコア・シェル構造粒子はその界面の格子不整合により結晶構造に影響を与え、その結果、発光強度にも影響を及ぼすことが言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子との格子不整合が10%以下で、且つバンドギャップがコア粒子より大きいシェル原料を反応ガスとして供給して噴霧熱分解法によりシェルが形成されることを特徴とするコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。
【請求項2】
前記コア粒子との格子不整合が6.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載のコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。
【請求項3】
前記コア粒子との格子不整合が2.0%以下であることを特徴とする請求項2に記載のコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。
【請求項4】
前記シェルの形成がエピタキシャル成長であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコア・シェル型蛍光体微粒子の作製方法。

【公開番号】特開2009−221288(P2009−221288A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65531(P2008−65531)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】