説明

コイルスプリング及びそれを利用したマットレス

【課題】 寝心地の柔らかさと安定感を確保しつつもコイルスプリングの全体の高さを従来よりも低くすることが可能なコイルスプリングを提供すると共に、そのようなコイルスプリングにより従来のものよりも厚みを薄くすることが可能なマットレス用のコイルスプリングを提供する。
【解決手段】 上端側1a若しくは下端側1cのいずれか一方又はその両方の端部付近のピッチ間隔と中央部1bのピッチ間隔とが異なる不等ピッチのコイルスプリング1において、中央部1bのピッチ間隔を上端側1a若しくは下端側1cのいずれか一方又はその両方の端部付近のピッチ間隔よりも広く形成すると共に、ピッチ間隔の広い中央部1bを熱処理1dしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルスプリング及びそれを利用したマットレスに関し、さらに詳しくは、両端側付近のピッチ間隔と中央部のピッチ間隔とが異なる不等ピッチのコイルスプリング及びそれを利用したマットレスに関する。
【背景技術】
【0002】
ベッドに求められる要求として、「寝心地の良いマットレス」、「寝ているときに体重を受け止めて体をしっかり保持してくれるマットレス」、「部屋の大きさは限られているので部屋を圧迫しない薄くてスリムなマットレス」、「価格が安いリーズナブルなマットレス」などがある。上記要求を満たすために様々なコイルスプリングを利用した各種のマットレスが提供されている。
【0003】
一般に、マットレスに使用されるコイルスプリングのピッチ間隔を狭く(小さく)すると撓み量が増えて柔らかな寝心地を与えるが、その反面、身体が局部的に沈み込み寝ている間に無理な姿勢をとり続けることになるので長時間の睡眠には適さない。一方、コイルスプリングのピッチ間隔を広く(大きく)すると撓み量が減って硬くなり安定感を与えるが、寝心地は良くない。そのため柔らかな寝心地と安定感の両方備えたマットレスが要望されていた。
【0004】
そのような要求を満たすためのベッド用のコイルスプリングの一つとして、例えば、不等ピッチを備えたコイルスプリングがある(特許文献1及び2)。文献2のコイルスプリングは、その図3から図8に示されているように、コイルスプリングの両端部と中間部におけるばね定数をピッチの大小によって異ならせて不等ピッチとしたものである。不等ピッチのコイルスプリングはピッチの狭い部分は柔らかく柔軟性がある一方、ピッチ幅の広い部分は硬く安定感がある。そのため、コイルスプリングの両端部側のピッチ幅を狭くし、中央部分のピッチ幅を広くすることで使用者がマットレスに寝転んだ瞬間はピッチ幅の狭い両端側の部分が使用者の身体を柔軟に受け止めて柔らかな寝心地を与えると共に、ピッチ幅の広い中央部が使用者の身体をしっかりと受け止めることによって安定感のあるマットレスを提供することが可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−332040号公報
【特許文献2】特表2001−519008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の不等ピッチのコイルスプリングは寝心地の柔らかさを与えるピッチ間隔の狭い部分と安定感を確保するためのピッチ間隔の広い部分が底付きすることなく確実に機能するようにするためにコイルスプリングの高さが高くなってしまうという問題があった。すなわち、コイルスプリングの全体の背の高さを低くしてしまうと底付きを起こす可能性があり、そうなると寝心地を全く損ねることになってしまう。しかしながら、コイルスプリングが高くなるとマットレスの厚みが厚くなり、容積が大きくなるとと共に物流コストが高いものとなってしまい、さらには「部屋の大きさは限られているので部屋を圧迫しない薄くてスリムなマットレス」という要望に応えることができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、寝心地の柔らかさと安定感を確保しつつもコイルスプリングの全体の高さを従来よりも低くすることが可能なコイルスプリングを提供することを目的とする。
また、本発明は、そのようなコイルスプリングを使用することにより、従来のものよりも厚みを薄くすることが可能なマットレス用のコイルスプリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、上端側若しくは下端側のいずれか一方又はその両方の端部付近のピッチ間隔と中央部のピッチ間隔とが異なる不等ピッチのコイルスプリングにおいて、中央部のピッチ間隔を上端側若しくは下端側のいずれか一方又はその両方の端部付近のピッチ間隔よりも広く形成すると共に、ピッチ間隔の広い中央部を熱処理したことを特徴とする。
中央部分にのみ熱処理を行うことで中部分を硬くし、同じ材料で同じ巻き数の場合よりも加重に対する耐力を強化し、それによって柔軟性と安定性を保持したままコイルスプリングの全体の背の高さを低く抑える。
【0009】
上記課題を解決するために請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコイルスプリングにおいて、中央部分が膨らんだ樽型形状としたことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために請求項3記載の発明は、請求項1記載のコイルスプリングにおいて、中央部のコイルの直径を両端部の直径よりも小さく形成したことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために請求項4記載の発明は、請求項1に記載のコイルスプリングにおいて、上端側若しくは下端側のいずれか一方又はその両方の端部付近のコイルスプリングの太さと中央部のコイルスプリングの太さが異なることを特徴とする
【0012】
上記課題を解決するために請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載のコイルスプリングを利用したベッド用マットレスを提供する。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係るコイルスプリング及びそれを利用したマットレス
によれば、コイルスプリングの全体の高さを従来よりも低くしつつも底付きを起こすことなく従来のような寝心地の柔らかさと安定感のいずれをも満足させることができるという効果がある。
【0014】
また、本発明に係るコイルスプリング及びそれを利用したマットレスによれば、従来のマットレスよりも厚みを薄くすることができるので物流コストをこれまでよりも抑えることができるという効果がある。
【0015】
さらに、本発明に係るコイルスプリング及びそれを利用したマットレスによれば、底付きを起こすことなくコイルスプリングの全体の高さを従来よりも低くすることができるので、コイルスプリングを形成するための材料の使用量が従来より少なくすることが可能となる。そのため、コイルスプリングの製造コスト、ひいてはマットレスの製造コストを低くすることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るコイルスプリング及びそれを利用したマットレスについて図面を参照しつつ説明する。図1は本発明に係るコイルスプリングの第一の実施形態を示す説明図である。
【0017】
初めに、図示されたコイルスプリング1は、概略として、上部側1aと下部側1cのピッチ間隔よりも中央部1bのピッチ間隔の方が広く形成された不等ピッチを有して構成されている。そして、コイルスプリング1の中央部1bの真ん中部分は熱処理が施された熱処理部1dとされている。ピッチ間隔を上から順にA〜Lとすると、図1に示すように、各ピッチ間隔は、(A=B=C)<(D=E=F=G=H=I)>(J=K=L)かつ(A=B=C)=(J=K=L)となっている。尚、径サイズは上部側1a、中央部1b、下部側1cともに同じとされたいわゆる筒型のコイルスプリングとなっている。
【0018】
コイルスプリング1を構成する線材の太さは1.0〜2.5mm程度の鋼材が用いられる。ピッチ間隔及び巻き数はマットレスの高さに応じて適宜のものを採用することができる。すなわち、マットレスの高さを高くしたい場合には巻き数を相対的に増やしたりピッチ間隔を広くすればよく、逆にマットレスの高さを低くしたい場合には巻き数を相対的に減らしたりピッチ間隔を狭くすればよい。その一例として、例えば、高さが190mm、巻き数が8.5巻き、ピッチ間隔(7間隔)、上部側1aと下部側1cのピッチ間隔は5mm、中央部1bのピッチ間隔のうち中央部のピッチ間隔が50mm、中央部の両側のピッチ間隔がそれぞれ45mm、としたものが考えられる。いうまでもないがこれは一例であり、種々のバリエーションが考えられる。
【0019】
また、中央部1bには熱処理が施された熱処理部1dを有している。鋼材に熱処理を行うことでその部分を硬くして強度を付加する。これにより長期間の使用によるコイルスプリング1のへたりを大幅に抑制することができる。例えば、ハイカーボンワイヤ(炭素鋼)の場合、250〜300℃の熱を加えることで適宜の硬さを付与することができる。熱処理としては、例えば、加熱後に急冷して硬化させる「焼き入れ処理」や「低温焼鈍」、または電気炉による「テンパー処理」などがあるが、本発明においてはコイルの所定の2カ所にそれぞれプラス電極とマイナス電極を取り付け、所定の時間通電することによって熱処理を行うことが便宜である。尚、加熱条件を適宜変えることで熱処理部1dの硬軟を変更することもできる。
【0020】
一方、コイルスプリング1の中央部1bを形成する線材の太さを一定ではなく異ならせることもできる。例えば、中央部1bに位置する部分の線材の太さを太くし、上部側1a及び下部側1cに位置する部分の線材の太さを細くすることで柔軟性と安定性の程度を適宜調整することができる。
【0021】
以上のようにして形成されたコイルスプリング1を不織布などで形成された独立した袋状のポケット内に収容し、それを平面状の複数連設することによってマットレスを形成する。各ポケットはそれぞれが独立しており、それによって使用者の体型に即してコイルスプリング1が各部位で押圧される。中央部1bには熱処理を行った熱処理部1dを備えているので従来よりもコイルスプリング1の高さを低く抑えることができる。そのため、マットレスの厚みが従来のものよりも薄くても底付きを起こすことなく柔軟性と安定性を備えたマットレスを提供することが可能となる。
【0022】
次に、図2に示すのは第二の実施形態のコイルスプリング2である。図示されたコイルスプリング2は、概略として、上部側2aのピッチ間隔よりも中央部2b及び下部側2cのピッチ間隔の方が広く形成された不等ピッチを備えて構成されている。そして、コイルスプリング2の中央部2bの真ん中部分は上述の実施形態と同様に熱処理が施された熱処理部2dとされている。ピッチ間隔を上からそれぞれA〜Jとすると、図示されているように、各ピッチ間隔は、(A=B=C)<(D=E=F=G=H=I=J)となっている。
【0023】
この構成により、ピッチ間隔の狭い上部側2aが柔軟性を付与し、ピッチ間隔の広い中央部2b及び下部側2cが安定性を付与することになる。また、中央部2bの中央部に施された熱処理部2dがコイルスプリング2の全体の背の高さを低くすることに貢献する。尚。本実施形態では熱処理部2dは中央部2bの真ん中部分に設けられているが、ピッチ間隔の等しい中央部2bと下部側1cに熱処理を行うことも可能である。
【0024】
また、本実施形態ではコイルスプリング2の上部側2aのピッチ間隔を中央部2b及び下部側2cよりも狭く形成しているが、下部側2cのピッチ間隔を狭くし、中央部2bと上部側2aのピッチ間隔を広くすることも可能である。
尚、それ以外の事項は上記の実施形態と同様であるため詳しい説明は省略する。
【0025】
次に、図3に示すのは第三の実施形態のコイルスプリング3である。図示されたコイルスプリング3は、上部側1aと下部側1cのピッチ間隔よりも中央部1bのピッチ間隔の方が広く形成された不等ピッチを備えて構成されており、また、コイルスプリング1の中央部1bの真ん中部分は熱処理が施された熱処理部1dとされている点では第一の実施形態と同様であるが、本実施形態では中央部1bが突出したいわゆる樽型とされている。尚、ピッチ間隔を上からそれぞれA〜Lとすると、図示されているように、各ピッチ間隔は、(A=B=C)<(D=E=F=G=H=I)>(J=K=L)かつ(A=B=C)=(J=K=L)である。
【0026】
コイルスプリング3は、中央部3bのコイル径を上から下へ行くにつれて次第に大きくしていき、真ん中部分からは次第に小さくするようにして形成されている。この構成によれば、筒型をした第一の実施形態のコイルスプリング1と比べて中央部の弾力を柔らかくすることができる。従って、中央部3b形状を樽型とすることで中央部分の弾力の調整を行うこと可能となる。この場合、中央部3bの径サイズを大きくすればより柔らかさがアップすることになる。
尚、それ以外の事項は上記の実施形態と同様であるため詳しい説明は省略する。
【0027】
次に、図4に示すのは第四の実施形態のコイルスプリング4である。図示されたコイルスプリング4は、上部側4aと下部側4cのピッチ間隔よりも中央部4bのピッチ間隔の方が広く形成された不等ピッチを備えて構成されており、また、コイルスプリング4の中央部4bの真ん中部分は熱処理が施された熱処理部4dとされているが、前述の第三の実施形態とは逆に、本実施形態では中央部4bのコイルの直径が両端部側の直径よりも小さく形成されている。尚、ピッチ間隔を上からそれぞれA〜Lとすると、図示されているように、各ピッチ間隔は、(A=B=C)<(D=E=F=G=H=I)>(J=K=L)かつ(A=B=C)=(J=K=L)である。
【0028】
コイルスプリング4は、中央部4bのコイル径を上から下へ行くにつれて次第に小さくしていき、真ん中部分からは次第に大きくするようにして形成されたいわゆる鼓型とされている。鼓型は筒型に比べて中央部4bの弾力が弱く柔らかくなるため鼓型とすることで中央部分の弾力の調整を行うこと可能となる。中央部の形状の違いによる弾力の強さの比較は筒型>鼓型>樽型となる。従って、中央部の形状を適宜選択することでコイルスプリングの安定性と柔らかさのバランスを調整することが可能となる。ここで、中央部分を鼓型や樽型とすることによる柔らかさの調整は、あくまでも中央部分のピッチ間隔を広くして且つ熱処理することによる安定性の確保の範囲内で行われるものであることはいうまでもない。また、熱処理はプリングを硬くすることになるが、へたり防止のためにも有効な処理であり、スプリングの形状(筒型、鼓型、樽型)との組み合わせによって適当な強度を選択決定することが好ましい。
尚、それ以外の事項は上記の実施形態と同様であるため詳しい説明は省略する。
【0029】
上述した第二から第四の実施形態のコイルスプリング2、3、4もいずれも不織布などで形成された独立した袋状のポケット内に収容し、それを平面状の複数連設することによってマットレスを形成することができる。そして、これらの実施形態によってもマットレスの厚みが従来のものよりも薄くても底付きを起こすことなく柔軟性と安定性を備えたマットレスを提供することが可能となる。
【0030】
以上のように、本発明に係るコイルスプリング及びそれを利用したマットレスによれば、マットレスの厚みが従来のものよりも薄くても底付きを起こすことなく柔軟性と安定性を備えたマットレスを提供することが可能となる。
【0031】
以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るコイルスプリングの第一の実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明に係るコイルスプリングの第二の実施形態を示す説明図である。
【図3】本発明に係るコイルスプリングの第三の実施形態を示す説明図である。
【図4】本発明に係るコイルスプリングの第四の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1、2、3、4 コイルスプリング
1a、2a、3a、4a 上部側
1b、2b、3b、4b 中央部
1c、2c、3c、4c 下部側
1d、2d、3d、4d 熱処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端側若しくは下端側のいずれか一方又はその両方の端部付近のピッチ間隔と中央部のピッチ間隔とが異なる不等ピッチのコイルスプリングにおいて、
前記中央部のピッチ間隔を前記上端側若しくは前記下端側のいずれか一方又はその両方の端部付近のピッチ間隔よりも広く形成すると共に、ピッチ間隔の広い前記中央部を熱処理したことを特徴とするコイルスプリング。
【請求項2】
請求項1に記載のコイルスプリングにおいて、
前記中央部分が膨らんだ樽型形状としたことを特徴とするコイルスプリング。
【請求項3】
請求項1記載のコイルスプリングにおいて、
前記中央部のコイルの直径を両端部の直径よりも小さく形成したことを特徴とするコイルスプリング。
【請求項4】
請求項1に記載のコイルスプリングにおいて、
上端側若しくは下端側のいずれか一方又はその両方の端部付近のコイルスプリングの太さと中央部のコイルスプリングの太さが異なることを特徴とする不等ピッチのコイルスプリング。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のコイルスプリングを利用したベッド用マットレス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−91058(P2010−91058A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263299(P2008−263299)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(508306727)ユニオンベッド製造株式会社 (2)
【出願人】(508306897)サンエイ コーポレーション マレーシア (1)
【出願人】(595016314)株式会社三栄コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】