説明

コイル内蔵基板および電子部品モジュール

【課題】コイルを内蔵する基板において、コイルのインダクタンスを大きくしつつ基板の絶縁特性を十分に大きくすることが困難であった。
【解決手段】複数の磁性体層を積層してなり、表面に電子部品が実装される実装領域を有する積層基板と、積層基板の表面および内部の少なくとも一方に配設された、電子部品に電気的に接続される配線導体と、積層基板の内部に埋設された、電子部品に電気的に接続されるコイル状の内部導体と、積層基板を構成する材料よりも高い絶縁性を有する材料からなり、配線導体と内部導体との間に位置して、積層基板に埋設されるとともに内部導体を囲むように位置する絶縁部材と、を備えたコイル内蔵基板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル状の内部導体が内部に埋設されたコイル内蔵基板に関するものである。このようなコイル内蔵基板は、電子部品を実装することによって電子部品モジュールとして用いることができる。電子部品モジュールは、産業用電子機器および民生用電気製品に代表される多種多様な電子機器において、例えばインダクタ、トランス、コイル部品、LC部品または貫通コンデンサを備えたモジュール部品として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
コイル状の内部導体が内部に埋設されたコイル内蔵基板としては、例えば、特許文献1に記載の多層セラミック基板が知られている。特許文献1に記載の多層セラミック基板では、複数のセラミック層および配線導体を有する積層体に受動部品としてインダクタが内蔵されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−87918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の多層セラミック基板においては、積層体を構成するセラミック層としてアルミナのような非磁性体を用いている。そのため、コイルのインダクタンスを十分に大きくすることが難しくなる。また、このようなセラミック層として磁性体層を用いた場合、コイルのインダクタンスが大きくなる一方で、絶縁特性を十分に大きくすることが難しくなるので、積層体の内部および表面に配設された配線導体にコイルからの電流が漏れる可能性がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、コイルのインダクタンスを十分に大きくしつつも、コイルからの電流の漏れを抑制することのできるコイル内蔵基板およびこれを用いた電子部品モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかるコイル内蔵基板は、複数の磁性体層を積層してなり、表面に電子部品が実装される実装領域を有する積層基板と、該積層基板の表面および内部の少なくとも一方に配設された、前記電子部品に電気的に接続される配線導体と、前記積層基板の内部に埋設された、前記電子部品に電気的に接続されるコイル状の内部導体と、前記積層基板を構成する材料よりも高い絶縁性を有する材料からなり、前記配線導体と前記内部導体との間に位置して、前記積層基板に埋設されるとともに前記内部導体を囲むように位置する絶縁部材と、を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
上記の態様に基づくコイル内蔵基板は、複数の磁性体層を積層してなる積層基板にコイル状の内部導体が埋設されていることから、この内部導体のインダクタンスを大きくすることができる。また、この内部導体を囲むように絶縁部材が位置している、言い換えれば、コイル状の内部導体と配線導体との間に絶縁部材が位置していることから、コイルから電流が漏れた場合であっても、このコイルからの電流の漏れによる影響が配線導体に及ぶことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一実施形態のコイル内蔵基板および電子部品モジュールを示す斜視断面図である。
【図2】図1に示すコイル内蔵基板の分解斜視図である。
【図3】図2に示す電子部品モジュールにおけるA−A断面図である。
【図4】図3に示す電子部品モジュールの変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態のコイル内蔵基板および電子部品モジュールについて、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、下記の実施形態を構成する部材のうち、特徴的な構成を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、本実施形態のコイル内蔵基板は、本明細書が参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0010】
図1〜3に示すように、本実施形態のコイル内蔵基板1は、複数の磁性体層3を積層してなり、表面に電子部品5が実装される実装領域を有する積層基板7と、積層基板7の表面および内部の少なくとも一方に配設された、電子部品5に電気的に接続される配線導体9と、積層基板7の内部に埋設された、電子部品5に電気的に接続されるコイル状の内部導体11と、積層基板7を構成する材料よりも高い絶縁性を有する材料からなり、配線導体9と内部導体11との間に位置して、積層基板7に埋設されるとともに内部導体11を囲むように位置する絶縁部材13と、を備えている。
【0011】
このように複数の磁性体層3を積層してなる積層基板7にコイル状の内部導体11が埋設されていることから、このコイル状の内部導体11のインダクタンスを大きくすることができる。また、この内部導体11を囲むように絶縁部材13が位置している。言い換えれば、コイル状の内部導体11と配線導体9との間に絶縁部材13が位置している。そのため、コイル状の内部導体11から電流が漏れた場合であっても、内部導体11からの電流の漏れによる影響が配線導体9に及ぶことを抑制できる。
【0012】
積層基板7を構成する複数の磁性体層3としては、コイル状の内部導体11のインダクタンスを大きくするため、具体的には例えば、Ni−Cu−Zn系フェライトのようなフェライトから成る材料やフェライト等の磁性材料を含有していることが好ましい。このような磁性体層3を複数積層することによって積層基板7を形成して一体焼成することによって形成してもよい。
【0013】
積層基板7の表面(図1〜3においては上面)には電子部品5が実装される実装領域が形成されている。この実装領域に電子部品5を実装することによって、本実施形態のコイル内蔵基板1を備えた電子部品モジュール101とすることができる。例えば、電子部品5としてDC−DCコンバータ用ICとコンデンサや抵抗等の周辺部品を実装した場合、DC−DCコンバータモジュールを実現できる。また、電子部品5としてコンデンサを実装した場合、特性の良い共振器モジュールやフィルタモジュールを実現できる。
【0014】
なお、本実施形態における積層基板7は、平面視した場合の外周形状が矩形状となっているが特にこれに限られるものではない。例えば、平面視した場合の外周形状が、六角形または八角形のような多角形状、或いは、楕円形状または円形状のような曲面形状であってもよい。
【0015】
積層基板7の表面および内部の少なくとも一方には、電子部品5に電気的に接続される配線導体9が配設されている。このような配線導体9が電子部品5に電気的に接続されて
いることによって、電子部品5から配線導体9を介して外部に電気信号を取り出すことができる。
【0016】
配線導体9としては、導電性の良好な部材を用いることが好ましい。例えば、銅、銀、金、白金あるいはニッケルのような金属材料の粉末に積層基板7との密着性を加えるためのガラス質を添加した導体を内部導体11として用いることができる。上記の金属材料は単一で用いてもよく、また、合金、混合物として用いてもよい。
【0017】
また、配線導体9の積層基板7から露出する表面には、メッキを形成することが好ましい。配線導体9におけるこの部位が外部に露出することによって劣化することを抑制できるからである。また、リード端子などを介して配線導体9と外部配線(不図示)とを電気的に接続する場合には、配線導体9とリード端子との接合性を高めることができる。メッキとしては、例えば、ニッケルメッキ、銅メッキ、銀メッキ、金メッキまたは錫めっきを用いることができる。一例として、配線導体9の積層基板7から露出する表面にニッケルメッキを形成した後、さらにニッケルメッキの表面に金メッキを形成すればよい。
【0018】
本実施形態のコイル内蔵基板1は、積層基板7の内部に埋設されたコイル状の内部導体11を備えている。このコイル状の内部導体11は、接続導体19を介して電子部品5の実装領域まで引き出されており、電子部品5に電気的に接続される。
【0019】
内部導体11は、積層基板7の積層方向に向かって巻回するように形成されている。このように内部導体11がコイル状に巻回されていることによって内部導体11をインダクタとして作用させることができる。なお、本実施形態における内部導体11は、積層基板7の積層方向に向かって巻回されているが、これに限られるものではない。例えば、積層基板7の側面方向に向かって巻回するように形成されていてもよい。
【0020】
コイル状の内部導体11は、積層方向に垂直な方向に延設された複数のコイル導体部15および積層方向に隣り合うコイル導体部15を接続するビア導体部17を有している。ビア導体部17としては、磁性体層3に貫通孔を設けるとともに、この貫通孔に埋設することによって配設すればよい。また、コイル導体部15は複数の磁性体層3の間に配設してもよいが、例えば、コイル導体部15の形状に対応するように磁性体層3に貫通孔を形成して、この貫通孔にコイル導体部15を配設しても何ら問題ない。
【0021】
積層方向に隣り合うコイル導体部15が電気的に接続されることによってコイル状の内部導体11を形成していることから、それぞれのコイル導体部15がコイル形状であることを意味するものに限られない。それぞれのコイル導体部15が、1つの線分からなる直線形状、2つの線分からなるL形状、3つの線分からなるコ字形状、あるいは、複数の線分からなる略四角形や、複数の線分からなる多角形状であってもよい。また、コイル導体部15として、平面視した場合の形状が線分形状の部位のみからなる構成ではなく、部分的に曲線形状の部位を有していてもよい。
【0022】
コイル状の内部導体11としては、導電性の良好な部材を用いることが好ましい。例えば、配線導体9と同様の金属材料粉末に積層基板7との密着性を加えるためのガラス質を添加した導体を内部導体11として用いることができる。上記の金属材料は単一で用いてもよく、また、合金、混合物として用いてもよい。
【0023】
なお、本実施形態におけるコイル状の内部導体11として、複数のコイル導体部15および複数のビア導体部17を有する構成を例示したが、特にこれに限られるものではない。コイル形状の導体であればよく、例えば、渦巻状のコイル形状となるように一本の導線を積層基板7に埋設してもよい。
【0024】
本実施形態のコイル内蔵基板1は、配線導体9と内部導体11との間に位置して、積層基板7に埋設されるとともに内部導体11を囲むように位置する絶縁部材13を備えている。この絶縁部材13は、積層基板7を構成する材料よりも高い絶縁性を有する材料からなっている。このように積層基板7を構成する磁性体層3よりも絶縁性の良好な絶縁部材13によって、内部導体11が囲まれていることから、コイルからの磁界によって配線導体9に影響が及ぶことを抑制できる。
【0025】
また、積層基板7自体は、このような絶縁部材13によって構成されているのではなく、磁性体層3によって構成されていることから、コイル状の内部導体11のインダクタンスが小さくなることを抑制できる。
【0026】
絶縁部材13としては、アルミナ(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化硼素(B)およびガラスセラミックスを用いることができる。
【0027】
コイル状内部導体11としては、図3に示すように、絶縁部材13がコイル状の内部導体11と接していても良いが、図4に示すように、内部導体11が絶縁部材13から離隔していることが好ましい。内部導体11と絶縁部材13との間に磁性体層3が存在することによって、内部導体11のインダクタンスを大きくすることができるからである。
【0028】
尚、焼結済みのコイル部分が未焼結積層絶縁体に設けられた内部空間に、前記内部空間表面に配置された導通用電極部分と、前記未焼結積層絶縁体が焼結することにより接合するよう構造であっても良い。
【0029】
次に、上記実施形態にかかるコイル内蔵基板1の製造方法について説明する。
【0030】
まず、積層基板7を構成する磁性体層3として、Ni−Cu−Zn系フェライトのようなフェライトから成る材料またはフェライト等の磁性材料を含有するグリーンシートを複数準備する。これらのグリーンシートを複数積層することによって積層基板7となる生積層体を作製することができる。
【0031】
また、このようにして形成される生積層体の内部および表面に、配線導体9となる導電ペーストを配設する。生積層体の内部に導電ペースト配設する方法としては、磁性体層3となるグリーンシート間に上記の導電ペーストを配設する、或いは、グリーンシートに貫通孔を形成するとともに、この貫通孔に導電ペーストを配設すればよい。
【0032】
上記の導電ペーストとしては、例えば、タングステン、モリブデン、ニッケル、銅、銀および金のような金属材料からなる金属粉末に、有機溶剤並びにバインダを混ぜた金属ペーストを用いればよい。グリーンシートの表面に導電ペーストを配設する方法としては、例えば、スクリーン印刷法を用いればよい。
【0033】
コイル状の内部導体11は、焼成することによって磁性体層3となるグリーンシートの上面に、この内部導体11となる金属ペーストを配設することによって形成することができる。金属ペーストとしては、配線導体9として用いた導電ペーストを用いればよい。この金属ペーストを焼成することによりコイル状の内部導体11が形成される。また、既に示したように、コイル状の内部導体11となる金属ペーストを単にグリーンシートの上面に配設してもよいが、例えば、内部導体11の形状に対応するようにグリーンシートに貫通孔を形成して、この貫通孔に金属ペーストを配設することによって内部導体11を形成しても何ら問題ない。
【0034】
次に、絶縁部材13となるセラミックグリーンシートを作製する。具体的には、ガラス粉末およびセラミック粉末を含有する原料粉末、有機溶剤ならびにバインダを混ぜることにより混合部材を作製する。原料粉末としては、例えば、アルミナ(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化硼素(B)およびガラスセラミックスを用いることができる。混合部材をシート状に成形することによりセラミックグリーンシートを作製することができる。
【0035】
このような絶縁部材13を磁性体層3となるグリーンシートの上面に配設することによって、内部導体11の上面側および下面側に絶縁部材13を位置させることができる。また、内部導体11のそれぞれの側面に位置する絶縁部材13の形状に対応するように磁性体層3となるグリーンシートに貫通孔を形成して、この貫通孔に絶縁部材13となる混合部材を配設する。これにより、内部導体11のそれぞれの側面に絶縁部材13を位置させることができる。このようにして、内部導体11を囲むように絶縁部材13を配設することができる。
【0036】
上記の通り作製された生積層体を焼成することによって、本実施形態のコイル内蔵基板1を作製することができる。磁性体層3となるグリーンシート、絶縁部材13となるセラミックグリーンシートおよび導体ペーストとして用いる材料によって最適な焼成温度は異なるが、本実施形態のコイル内蔵基板1の製造方法においては約850℃〜1150℃の温度で焼成すればよい。また、このようにして形成されたコイル内蔵基板1における、積層基板7の表面における実装領域に電子部品5を実装することによって電子部品モジュール101を作製することができる。
【0037】
なお、配線導体9の積層基板7から露出する表面にメッキを形成する場合には、焼成済みの積層基板7の表面に配設された配線導体9にメッキを形成すればよい。具体的には、例えば、配線導体9の積層基板7から露出する表面をニッケルメッキで被膜した後、さらにニッケルメッキの表面を金メッキで被膜すればよい。
【0038】
また、上記する構成を有する生積層体が複数併設された生積層体の集合体を形成してもよい。このような生積層体の集合体を作製した後、それぞれの生積層体に分割するとともにそれぞれの生積層体を焼成することによって複数のコイル内蔵基板1を同時に作製することができる。また、上記する生積層体の集合体を同時焼成した後に、それぞれのコイル内蔵基板1に分割してもよい。
【0039】
上述の通り、本実施形態のコイル内蔵基板1について説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば、種々の変更や実施の形態の組み合わせを施すことは何等差し支えない。
【符号の説明】
【0040】
1・・・コイル内蔵基板
101・・・電子部品モジュール
3・・・磁性体層
5・・・電子部品
7・・・積層基板
9・・・配線導体
11・・・内部導体
13・・・絶縁部材
15・・・コイル導体部
17・・・ビア導体部
19・・・接続導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁性体層を積層してなり、表面に電子部品が実装される実装領域を有する積層基板と、
該積層基板の表面および内部の少なくとも一方に配設された、前記電子部品に電気的に接続される配線導体と、
前記積層基板の内部に埋設された、前記電子部品に電気的に接続されるコイル状の内部導体と、
前記積層基板を構成する材料よりも高い絶縁性を有する材料からなり、前記配線導体と前記内部導体との間に位置して、前記積層基板に埋設されるとともに前記内部導体を囲むように位置する絶縁部材と、を備えたコイル内蔵基板。
【請求項2】
前記絶縁部材は、ガラスセラミックスを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のコイル内蔵基板。
【請求項3】
前記絶縁部材は、前記積層基板を構成する材料を含有していることを特徴とする請求項2に記載のコイル内蔵基板。
【請求項4】
前記内部導体は、前記絶縁部材から離隔していることを特徴とする請求項1に記載のコイル内蔵基板。
【請求項5】
請求項1に記載のコイル内蔵基板と、
該コイル内蔵基板の前記実装領域に実装されるとともに前記配線導体と電気的に接続された電子部品と、を備えた電子部品モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−160604(P2012−160604A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19622(P2011−19622)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】