説明

コイル縮径装置

【課題】量産に対応でき、かつ、形状が良好な形状記憶スプリングワッシャが得られる形状記憶スプリングワッシャのコイル縮径装置を提供する。
【解決手段】形状記憶合金からなる線材をコイル状に巻く巻取り工程、形状記憶処理工程、コイル形状に巻かれた該線材のコイル径を縮径させる縮径工程、及び、スプリングワッシャ形状に切断する切断工程よりなる形状記憶スプリングワッシャの製造方法に用いる形状記憶スプリングワッシャのコイル縮径装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリングワッシャーの製造に用いるコイル縮径装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リサイクル時代を迎え、電気機器などがリサイクルされるを前提に製造されるようになってきた。このような電気機器などの分解を容易にする技術として、本発明者等によって特開2005−16713公報によって提案された、形状記憶合金からなるスプリングワッシャ(以下「形状記憶スプリングワッシャ」と云う)を用いた構造が挙げられる。
【0003】
このような構造に用いられる形状記憶スプリングワッシャ(ばね座がね)は、通常は普通のスプリングワッシャ同様に用いられて、たとえば電化製品の組み立てに用いられるねじのゆるみ防止に寄与するが、所定の温度以上に加熱されると、その形状記憶性により拡径する。そのとき、ねじの頭の径よりも大きく拡径することにより、ねじをゆるめることなく、その電化製品を分解することができる。
【0004】
このような形状記憶スプリングワッシャは次のように製造されていた。
【0005】
まず、チタン・ニッケル合金等の形状記憶金属からなる線材を所定の太さ、断面形状となるように引き抜き成形、あるいはローラ延伸する。次いで、所定の内径(併用するねじの頭の径よりも大きい)でコイル状に巻き取り、切断する。切断では、通常のスプリングワッシャとは異なり、360°に達せず、側面から見たときに切り欠かけができるように(図6(a)参照)切断する。
【0006】
切断後、例えば300℃などの適切な温度で形状記憶処理を行う。このとき、温度条件等により縮径する場合があるので、その場合には上記コイル状に巻き取るときの径を若干大きくするよう調整しておく。
【0007】
形状記憶処理後に、通常のスプリングワッシャの形状(図6(b)参照)になるよう、縮径加工する。このとき、初期検討時にはペンチなどを用いて加工していたが、真円のドーナツ形状とならず、いびつなものとなり、締め付け性に劣ったり、加熱時でのねじの頭の通過ができない場合が生じたりし、また、1つずつしか加工できないので、専用の可動型を作成してこれにより縮径加工するようにしたため、数個の同時加工が可能となった。
【0008】
しかしながら、上記のような製造方法では生産性が低く、量産への対応が困難であり、将来予想される大量需要には対応しきれず、その改善が求められていた。
【特許文献1】特開2005−16713公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、量産に対応でき、かつ、加熱された時に対応するねじの頭が確実に通過できる形状となる、形状記憶スプリングワッシャの製造に用いるコイル縮径装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のコイル縮径装置よれば上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、
コイル形状に巻かれた線材のコイル径を縮径するための縮径部として前記線材のコイルの外周から圧接するためのローラを2つ以上備えたコイル縮径装置であって、
未縮コイル径の前記線材を前記縮径部へセットする時に、前記ローラ同士の距離の少なくとも一部を拡大させるローラ距離拡大手段を備えたコイル縮径装置。
【0011】
本発明のコイル縮径装置は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載のコイル縮径装置において、
少なくとも2以上のローラを一組とし、前記コイルと同軸で回転されるか、または前記コイルを回転させながら、前記コイルの未縮径部が前記ローラ間に供給されるように移動したことを特徴とする。
【0012】
本発明のコイル縮径装置は、請求項3に記載の通り、請求項1に記載のコイル縮径装置において、
前記コイルの軸にほぼ直交するとともに、未縮径部を供給するための供給孔を有する基板を、前記供給孔を含む分割線に沿って固定部と可動部に分割し、この固定部と可動部とにそれぞれ前記ローラを回転軸により支持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコイル縮径装置を用いた形状記憶スプリングワッシャの製造方法によれば、最終的に製品を得る工程である切断工程の直前までをコイル状のまま行うことができるので、生産性が高く、しかも、スプリングワッシャとして用いられる径に縮径させる縮径工程をコイル状のまま行うことができるので、歪みのない真円に近い形状のスプリングワッシャを得ることができる。
そのため、スプリングワッシャとしての機能が損なわれることもなく、また、加熱による拡径時には確実にねじの頭部が通過することができる。
【0014】
さらに、本発明のコイル縮径装置によれば、極めて生産性良くコイルの縮径が可能となり、特に熱処理後の縮径が必要な形状記憶スプリングワッシャの製造方法に応用した場合、極めて生産性良く形状記憶スプリングワッシャを得ることができる。
【0015】
このとき、ローラ同士の距離の少なくとも一部を一時的に拡大させる、ローラ距離拡大手段を備えることにより、装置へのコイルのセットがきわめて容易、かつ、確実とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】形状記憶合金からなる線材を引き抜き成形して、必要な太さ・形状とする工程を示すモデル断面図である。
【図2】形状記憶合金からなる線材をコイル状に巻き上げる巻き取り工程の異例を示すモデル図である。
【図3】コイル形状に巻かれた線材のコイル径を縮径させる縮径工程の一例を示すモデル図である。
【図4】形状記憶処理工程の一例を示すモデル図である。(a)正面図である。(b)側面図である。(c)縮径工程で用いるコイル縮径装置の主要部の正面図(縮径工程時)である。(d)(c)の側面図である。(e)縮径工程で用いるコイル縮径装置の主要部の正面図(コイルの装置へのセット時)である。
【図5】コイル形状に巻かれた線材をスプリングワッシャ形状に切断する切断工程を示すモデル図である。
【図6】従来技術に係る形状記憶スプリングワッシャの製造方法を説明するためのモデル図である。(a)縮径前の状態を示す図である。(b)縮径後の状態(製品)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のコイル縮径装置が用いられる形状記憶スプリングワッシャの製造方法にについて、図面を用いて説明する。
【0018】
本発明のコイル縮径装置で用いるスプリングワッシャの材料としては、所定の温度以上になったときに、予め決められた形状に戻る、一般に知られた形状記憶合金を用いる。このような物としては例えばチタン・ニッケル合金系(50原子%程度のニッケルを含有する)の形状記憶合金が挙げられる。チタン・ニッケル合金は加熱されることによりマルテンサイト相からオーステナイト相に相変化して、オーステナイトであったときに記憶されていた元の形状に復元する。
【0019】
このような形状記憶合金からなる線材を用いて必要に応じ、所定の太さ、断面形状となるように引き抜き成形し(図1に引き抜き成形時のモデル断面図を示す。なお、成形の結果、線材は図示するように図中α−αによる断面(α−α断面)から図中β−βによる断面(β−β断面)へと小径化している)、あるいは/及びローラ延伸する。
【0020】
なお、断面形状としては、扁平形状ないし、略長方形状とすることにより、最終製品であるスプリングワッシャとしての”すわり”を良くすることができ、また、座金の、ねじ止め部材(電化製品の筐体を想定するとプラスチックであることが多い)への食い込みによる、機能不全(温度が所定の温度以上に上がっても、形状記憶スプリングワッシャが筐体などの比較的柔らかいプラスチック素材の表面に食い込んでしまって拡径できない等)を防止することができる。
【0021】
次いで、所定の内径(併用するねじの頭の径よりも大きい)でコイル状(螺旋状)に巻き取る。例えば、図2に示すように形状記憶合金からなる線材Aを芯金Bに巻き付け、芯金Bを回転させることによりコイル状とすることができる。図中Cは加圧ローラであり、コイルの外周に圧接して、巻き上げ寸法を安定させている。
【0022】
その後、コイル状の状態のまま、形状記憶処理を行う。このような形状記憶処理としては通常熱処理を行う。例えばチタン・ニッケル合金を形状記憶合金として用いる場合には300℃程度の温度で行う。図3には、コイル状とした形状記憶合金からなる線材A’を、ベルトコンベアD上に載せて、加熱炉Eを通過させて行う加熱処理のモデル図を示す)。このとき、用いる合金の種類、温度処理条件によりコイルの内径が変化する場合があるので、その場合はコイル加工する条件(芯金の太さ等)を予め調整し、最終的に必要な形状の形状記憶スプリングワッシャが得られるようにする。
【0023】
上記形状記憶処理としての熱処理は通常、空気中で行うが、窒素、アルゴン等の不活性ガス内で行っても良く、また、処理後の冷却は通常、空気中での放置により行うが、送風機を用いる等により強制的に冷却しても良い。
【0024】
形状記憶処理後に、縮径工程でコイル形状に巻かれた線材のコイル径を縮径させる。図4(図4(a)は正面図、図4(b)は側面図)に示した例では形状記憶合金の線材からなるコイルA’の外周に3個の回転体としての回転ローラFを一組としてコイルA’と同軸で回転させながら、コイルA’の未縮径部を回転ローラF間に徐々に供給して圧接によって縮径させて、縮径化コイルA”を得ている。
【0025】
なお、この例では一組の回転ローラをコイルと同軸で回転させながら圧接したが、コイルの方を回転させても良い。このように、縮径工程がコイルの外周に接した2個以上の回転体によって行うことにより、生産性良く、容易に、均一に、かつ、安定して縮径させることができる。
【0026】
ここで、このようなコイル縮径装置の3個1組の回転ローラFを有する主要部にコイルA’をセットする場合、一時的に回転ローラF同士の距離を拡大させることにより、容易かつ迅速に行うことができる。
【0027】
図4(c)及び図4(d)には、このようなコイル縮径装置の回転ローラFを有する主要部の正面図及び側面図を、また、図4(e)にはコイルをセットするために回転ローラF同士の距離を部分的に、大きく変更したときの正面図をそれぞれモデル的に示す。
【0028】
主要部には、コイルA’の軸に直交する(この例では直交するが、ほぼ直交していれば(若干傾いても)良い)基板Gに設けられたローラFが3つ、それぞれの回転軸が正三角形の頂点となる位置に配されている。この正三角形の中央部には、この主要部にコイルA’の未縮径部を供給するための供給孔G1が設けてある。この例では基板Gは3つのローラFのうち2つを有する固定部G2と、他の1つを有する可動部G3とに供給孔を含む分割線G4で、蝶番部G5とロック部G6とによって必要時にのみ分割され、不必要時には固定可能となっている。
【0029】
このような主要部に未縮径コイルA’をセットする場合には図4(e)に示されるように可動部を蝶番部G5を用いて可動部G3を回動させて固定部G2から離間させることによって、3つのローラF同士の距離を部分的に拡大させる。未縮径コイルA’の主要部へのセット後に、図4(c)及び図4(d)に示すように、ローラFの距離を所定の縮径が可能な距離に戻して、縮径処理を行う。このようにこのコイル縮径装置は、コイルA’を縮径するための縮径部がコイルA’外周から圧接するための、2つ以上(より好ましくは3つ以上:均一な縮径がより確実に可能となる)のローラFを備えたコイル縮径装置であって、該ローラF同士の距離の少なくとも一部を一時的に拡大させる、ローラ距離拡大手段を備えたコイル縮径装置であり、距離拡大手段は上記分割線G4を有する基板G(あるいは、上記固定部G2及び可動部G3)と蝶番部G5とロック部G6とによって構成されている。
【0030】
縮径工程で所定の径に縮径した後、次工程である切断工程で、縮径されたコイルA”の切断を行って、本発明に係る形状記憶スプリングワッシャを得ることができる。図5には、切断状況、及び得られた本発明に係る形状記憶スプリングワッシャHをモデル的に示す。なお、このときの切断は通常のスプリングワッシャの製造のときの切断と同様に外刃H(図示)とコイル内側に配された内刃(図示しない)とにて実施され、本発明に係るコイル縮径装置を用いた形状記憶スプリングワッシャIが完成する。
【0031】
上記のように本発明に係るコイル縮径装置によれば、最終的に製品を得る工程である切断工程の直前までをコイル状のまま行うことができるので、生産性が高く、しかも、スプリングワッシャとして用いられる径に縮径させる縮径工程をコイル状のまま行うことができるので、歪みのない真円に近い形状のスプリングワッシャを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るコイル縮径装置を用いた形状記憶スプリングワッシャの製造方法によれば、電化製品の易分解化や熱アクチュエータなどの分野に用いられる良質な形状記憶スプリングワッシャの安定した量産・供給が可能となる。
【符号の説明】
【0033】
A 形状記憶合金からなる線材
A’ 形状記憶合金線材からなるコイル
A” 形状記憶合金線材からなる、縮径されたコイル
I 本発明に係る方法により製造された形状記憶スプリングワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル形状に巻かれた線材のコイル径を縮径するための縮径部として前記線材のコイルの外周から圧接するためのローラを2つ以上備えたコイル縮径装置であって、
未縮コイル径の前記線材を前記縮径部へセットする時に、前記ローラ同士の距離の少なくとも一部を拡大させるローラ距離拡大手段を備えたことを特徴とするコイル縮径装置。
【請求項2】
少なくとも2以上の前記ローラを一組とし、前記コイルと同軸で回転されるか、または前記コイルを回転させながら、前記コイルの未縮径部が前記ローラ間に供給されるように移動したことを特徴とする請求項1に記載のコイル縮径装置。
【請求項3】
前記コイルの軸にほぼ直交するとともに、前記コイルの未縮径部を供給するための供給孔を有する基板を、前記供給孔を含む分割線に沿って固定部と可動部に分割し、この固定部と可動部とにそれぞれ前記ローラを回転軸により支持したことを特徴とする請求項1に記載のコイル縮径装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−201508(P2010−201508A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134474(P2010−134474)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【分割の表示】特願2005−183177(P2005−183177)の分割
【原出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505237695)株式会社東京メタル (2)
【出願人】(500465444)株式会社ユニオン精密 (30)
【Fターム(参考)】