説明

コイン型非水電解質二次電池

【課題】充電効率及び放電容量などの電気特性に優れた耐リフロー加熱性の高い電気化学セルの提供。
【解決手段】本発明のコイン型非水電解質二次電池は、正極201と、負極206と、支持塩と非水溶媒とからなる電解液209と、ガスケット208とセパレータ207を備えたコイン型非水電解質二次電池であって、前記セパレータ207のクレム吸水度が20mm以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフローハンダ付け可能なコイン型非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コイン型非水電解質二次電池は、従来、時計機能のバックアップ電源や半導体のメモリのバックアップ電源やマイクロコンピュータやICメモリ等の電子装置予備電源やソーラ時計の電池やモーター駆動用の電源などとして使用されており、近年は電気自動車の電源やエネルギー変換・貯蔵システムの補助貯電ユニットなどとしても検討されている。
【0003】
また近年は、半導体メモリの不揮発化、時計機能素子の低消費電力化により、容量、電流とも大きなものの必要性が減ってきている。むしろ、薄型やリフローハンダ付け対応可能なものに対する要求が強くなっている。
【0004】
該コイン型非水電解質二次電池のセパレータは、ポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン微多孔膜が一般に使われていた。しかし、ポリプロピレンの熱軟化温度は100℃から120℃であり、リフロー炉を通過する際に熱軟化温度よりも大幅に高い温度に曝され、セパレータは熱による損傷を受けてしまう。
【0005】
そこで近年のリフローハンダ付け可能なコイン型非水電解質二次電池には耐熱特性(熱溶融、熱収縮率等)、透過特性(イオン透過性、空気透過性等)、機械特性(引っ張り強度等)を有したポリフェニレンサルファイド(PPS)やガラス繊維の使用が報告されている。(例えば特許文献1及び特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004‐087229号公報
【特許文献2】特開2002‐063942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リフローハンダ付け工程において、コイン型非水電解質二次電池は200〜260℃もの高温に晒されることになる。特に、近年は環境問題から鉛フリーハンダが採用されハンダの融点が上昇したために260℃でのリフロー炉の使用が一般的である。
【0008】
リフロー用コイン型非水電解質二次電池においては全ての部品において260℃耐熱の材料が用いられているが、熱による特性の劣化を完全に抑えることは実質上困難である。リフロー用コイン型非水電解質二次電池においては、電解液と活物質あるいは導電剤とのリフロー加熱時の化学反応を完全に抑えることはできないため、電池内に気体が発生してしまう。また、リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタの負極においては、活物質と電解液において反応がおこり活物質にSEI(Solid Electrolyte Interface)膜が生成され、本SEI膜が電池の安定性に寄与している。しかし、同様な反応がリフロー加熱によって更に促進されるため、電池内に気体が発生し、滞留してしまう。
【0009】
一方で、正極と負極のショートを防ぐセパレータは、一般的には正極と負極の間に存在している。リフロー加熱により電池内に発生した気体の滞留場所が正極と負極の間に存在した場合、それによってセパレータが乾いた状態になる。その結果、コイン型非水電解質二次電池の電気特性である内部抵抗値が大きくなり、充電効率を下げ、放電容量を減らすという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するための本発明は、以下の構成を採用した。
請求項1に記載の発明は、正極と、負極と、支持塩と非水溶媒とからなる電解液と、ガスケットとセパレータを備えたコイン型非水電解質二次電池であって、前記セパレータのクレム吸水度が20mm以上であることを特徴とするコイン型非水電解質二次電池であることを要旨とする。
請求項1に記載のコイン型非水電解質二次電池によれば、クレム吸水度が20mm以上のセパレータを用いることで、セパレータが乾燥することなく、正極と負極に十分な電解液を保持することができる。そのため、耐リフロー加熱性の高いコイン型非水電解質二次電池の提供を可能にしている。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記非水溶媒が、ラクトン、グライム、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エーテルのうち、少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1に記載のコイン型非水電解質二次電池であることを要旨とする。
請求項2に記載のコイン型非水電解質二次電池によれば、リフロー加熱による気体の発生を抑制し、且つセパレータによる吸水が可能な粘度にすることができる。そのため、耐リフロー加熱性の高いコイン型非水電解質二次電池の提供を可能にしている。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記負極が合金系負極であることを特徴とする請求項1もしくは2に記載のコイン型非水電解質二次電池であることを要旨とする。
請求項3に記載のコイン型非水電解質二次電池よれば、合金系負極とクレム吸水度が20mm以上のセパレータを用いることで、耐リフロー加熱性の高いコイン型非水電解質二次電池の提供を可能にしている。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記負極の活物質がSiO、Li−Al合金から選ばれる少なくとも一種以上の活物質であることを特徴とする請求項1もしくは2に記載のコイン型非水電解質二次電池であることを要旨とする。
請求項4に記載のコイン型非水電解質二次電池よれば、負極の活物質をSiO、Li−Al合金から選ばれる一種以上の活物質と、クレム吸水度が20mm以上のセパレータを用いることで、耐リフロー加熱性の高いコイン型非水電解質二次電池の提供を可能にしている。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記セパレータはガラス繊維、セルロース、ポリフェニレンサルファイドから選ばれる少なくとも一種以上からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のコイン型非水電解質二次電池であることを要旨とする。
請求項5に記載のコイン型非水電解質二次電池よれば、ガラス繊維、セルロース、ポリフェニレンサルファイドをセパレータに用いることで、耐リフロー加熱性の高いコイン型非水電解質二次電池の提供を可能にしている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内部抵抗値の小さい、充電効率及び放電容量などの電気特性に優れた耐リフロー加熱性の高い電気化学セルの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のコイン型非水電解質二次電池の例を示す概略断面図である。
【図2】本発明のコイン型非水電解質二次電池の別の例を示す概略断面図である。
【図3】JISP8141に準拠した吸水度試験方法であるクレム法を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明について、本発明形態であるコイン型非水電解質二次電池の概略断面図である図1、図2を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1において、コイン型非水電解質二次電池は、有底円筒状に形成された正極ケース203とハット状に形成された負極ケース205と、正極ケース203と負極ケース205との間に挟入されたガスケット208と、を有している。また、この負極ケース205は負極集電体を兼ねているが、図2に示すように、負極ケース306とは別に負極集電体305を設けてもかまわない。正極ケース203は、ガスケット208を介して負極ケース205にかしめ封口し、正極ケース203と負極ケース205との間に密閉された収容室Sを形成する。
【0019】
収容室Sには、正極ケース203の底面側から順に、正極集電体202、正極201、セパレータ207、負極206が配されて、電解液209が充填されている。
【0020】
正極201には、リチウム含有マンガン酸化物、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有チタン酸化物、三酸化モリブデン、五酸化ニオブなど、従来から知られている活物質に適当な結着剤と導電剤であるグラファイト等を混合したものを用いることができる。
【0021】
また、負極206には、炭素、リチウム−アルミニウムなどの合金系負極、シリコンやシリコン酸化物など従来から知られている活物質に適当なバインダーと導電助剤であるグラファイト等を混合したものを用いることができる。特に負極として、合金系負極を用いることが好ましい。また、SiO、Li−Al合金から選ばれる少なくとも一種以上の活物質を用いることも好ましい。これらを用いることで、より一層耐リフロー加熱性の高いコイン型非水電解質二次電池の提供を可能にしている。
【0022】
本願発明のセパレーター207は、クレム吸水度が20mm以上であることを特徴とする。また、より好ましくは30mm以上である。クレム吸水度が20mm以上のセパレータを用いることで、セパレータが乾燥することなく、正極と負極に十分な電解液を保持することができる。そのため、耐リフロー加熱性の高いコイン型非水電解質二次電池の提供を可能にしている。
【0023】
クレム吸水度はJISP8141に準拠した吸水度試験方法であるクレム法を用いて試験することができる。
【0024】
以下にJISP8141に準拠した吸水度試験方法であるクレム法を図3を用いて詳細に説明する。
【0025】
セパレータ試験片101は、幅15±1mm、長さ200mm以上とし、必要ならば、縦方向・横方向に採取する。採取にあたっては、吊り下げに必要な長さを余分の確保する必要がある。それぞれのセパレータ試験片101の短辺から15mmのところに平行に鉛筆で標線102を引く、その標線102と短辺の間に、電解液105に浸漬させるためのおもり103を取り付ける。
【0026】
装置を水平に調節し、吊り下げ具104にセパレータ試験片101を吊り下げる。一度の複数の試験を行う場合は、各セパレータ試験片101の標線が水平一直線になっていることが必要である。
【0027】
次に標線102まで、すばやく電解液105を入れてタイマーをスタートさせる。10分±10秒間に電解液105が上昇した高さをmm単位で読み取る。本試験は23℃±1℃において行う。本高さをクレム吸水度とした。
【0028】
JISP8141において、試験の溶液は水を用いているが、本発明においてはコイン型非水電解質二次電池で用いる電解液を使用している。これは、コイン型非水電解質二次電池の評価として正しい評価を得られるからである。しかしながらコイン型非水電解質二次電池の電解液においては、測定温度23℃において揮発する成分を含んでいるものもある。この場合は、試験毎に新しい電解液を用いること、試験周りの温度、風量に留意して毎回の試験において電解液の組成が同じ状態になるように留意する必要がある。
【0029】
セパレータ207は使用する状態での試験が望ましい。すなわち、コイン型非水電解質二次電池の製造においてセパレータを乾燥あるいは他の目的で熱処理を行うのであれば、本試験前に熱処理を行うことでより有意義なクレム吸水度を得ることができる。
【0030】
リフローハンダ付け可能なコイン型非水電解質二次電池に使用されるセパレータに要求される主な特性としては、一般的に要求される、機械特性(引っ張り強度等)、透過特性(イオン透過性、空気透過性等熱特性)のほか、熱特性(溶融、熱収縮率等)などが挙げられる。本特性を満足させることができるセパレータとしては、ガラス繊維、セルロース、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、アラミド、フッ素樹脂やセラミックス等用いることが出来る。
【0031】
しかしながら、実際のセパレータの特性はこれら材料の繊維径・粒径の大きさと分布、空隙率、厚み、層数など物理形状によって大きく異なる。
【0032】
本発明は260℃での耐熱性が十分な材料であれば、材料に限定されることはない。材料の表面特性とセパレータの物理形状によって決定されるであろうクレム吸水度でセパレータを選択できることに特徴がある。
【0033】
電解液209は溶質と溶媒の混合溶液からなり、溶質としては、例えばリチウムパーフルオロメチルスルホニルイミドなどの公知の電解液を用いることができる。
【0034】
電解液209の溶媒としては、リチウムイオンあるいは4級アンモニウム塩などを十分に溶解でき、また十分なイオンの移動速度が得られる比誘電率、双極子モーメント、ドナー数、アクセプタ数を持つものから選ばれる。更に実使用における粘度はイオンの移動速度への影響が大きい。加えて使用電圧おいて分解されることがなく安定であることが求められ、かつリフロー温度にも電極とも組み合わせにおいて化学的に安定であることが求められる。カルモボニル基をもつエステル化合物は比誘電率が高く、エーテル結合をもつエーテルは粘度が低い傾向がある。このため、溶媒としては、ラクトン、グライム、鎖状エーテル、スルホン化合物、環状カーボネート、鎖状カーボネートのうち、少なくとも1種からなることが望ましい。
【0035】
更に好ましくは、ラクトンとしてはγ‐ブチルラクトン、グライム、鎖状エーテルとしてはジメトキシエタン、メトキシエトキシエタン、ジエトキシエタン、エチレングリコールジエチルエーテル、ジメチルカーボネート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、スルホン化合物としてはスルホラン、メチルスルホラン、エチルメチルスルホン、環状カーボネートとしてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、鎖状カーボネートしてはプロピオン酸メチル、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートから選ばれる2種類以上の混合溶媒が望ましい。
【0036】
これらの溶媒を用いることで、リフロー加熱による気体の発生を抑制し、且つセパレータによる吸水が可能な粘度にすることができる。そのため、耐リフロー加熱性の高いコイン型非水電解質二次電池の提供を可能にしている。
【0037】
ガスケット208は、正極ケース203の内周面に沿う円環状に形成されている。ガスケットには、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)などの高い耐熱性を有した硬質エンジニアリングプラスチックを用いることができる。また、ガスケット208の環状溝の内側面には、シール剤を塗布してもよい。シール剤には、アスファルト、エポキシ樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチルゴム系接着剤などを用いることができる。このシール剤は、環状溝の内部に塗布した後、乾燥させて用いる。
【0038】
本発明が課題解決に至るメカニズムの詳細は不明であるが、次のようなモデルが考えられる。
【0039】
組立後の電解液は、正極、負極、セパレータおよびケース内の空隙に存在する。通常の電気化学セルにおいては、ケース内の空間すべてにおいて固体・液体で満たされることはない。これは組立上の制限ではなく、気体をダンパーとして組立時及び組立後の外圧による変形及び温度変化による内圧の変化を吸収する必要があるからである。電解液は、正極、負極、セパレータの吸水のしやすさ、およびケース内空隙形状による表面張力により、ケース内の存在位置が決定されている。
【0040】
コイン型非水電解質二次電池、すなわち化学的に活性な電極と非水電解液が存在しているセルケースをリフロー加熱すると、電極と非水電解液の化学反応により電解液の分解が起こり気体が発生する。このため組立後の電気化学セルに存在位置を決定していた電解液は、新たな気体発生によりその存在位置を移動されることになる。電極とセパレータの吸水しやすさを比較すると、密度の高く活性の高い電極の方が吸水性は高い。従ってリフロー加熱後のコイン型非水電解質二次電池では、表面張力で位置が決定されていたケース内隙間と、セパレータで電解液の取り合いが起こると考えられる。
【0041】
クレム吸水度の高いセパレータは、ケース内隙間の電解液を取り込みやすく、セパレータに安定に電解液を保持することが可能である。このため、本発明のセパレータを用いたコイン型非水電解質二次電池は、耐リフロー加熱性に優れると考えられる。
【0042】
負極が合金系負極である場合、負極が粉末ペレットあるいは電極シートである場合に比べて本発明の効果が大きい。これは、負極が合金系負極であるため、粉末ペレットあるいは電極シートである場合に比べて、負極がセパレータより吸水しにくい。そのため、セパレータに電解液が存在しやすくなり、本発明の効果がより表れるためと考えられる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
図1で示した構造のコイン型非水電解質二次電池を実施例1として作製した。作製したコイン型非水電解質二次電池の大きさは、外形4.8mm、厚さ1.4mmである。
【0044】
まず、ステンレスからなる正極ケース203とステンレスと硬質アルミニウムからなる負極ケース205を得た。負極ケース205は、ステンレス層2051と硬質アルミニウム層2052の2層構造になっている。詳述すると、負極ケース205は、ステンレスと硬質アルミニウムを圧延加工にて貼り合わせたものであって、ステンレス層2051が外側に硬質アルミニウム層2052が内側になるように成形されている。そして、このように成形された負極ケース205に対して、硬質アルミニウム層2052側に、負極206として直径2mm、厚さ0.22mmに打ち抜かれたリチウムフォイルが圧着されている。このようにして負極ユニットを作製した。
【0045】
次いで、リチウム含有マンガン酸化物、導電剤であるグラファイト、結着剤であるポリアクリル酸樹脂とを、それぞれ重量比が、リチウム含有マンガン酸化物:グラファイト:ポリアクリル酸樹脂=90:7:3の割合で混合して正極合剤とした。その後、7.5mgの正極合剤を2ton/cm2で加圧して、直径2.2mmのペレットを成形し、正極201を得た。
【0046】
そして、正極201は、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤からなる正極集電体202を用いて、正極201を正極ケース203に接着させ、正極201と正極ケース203を一体化(ユニット化)した。このようにして正極ユニットを作製した。その後、その正極ユニットは280℃8時間の条件で減圧加熱乾燥を行った。
【0047】
クレム吸水度が38mmであるガラス繊維からなる不織布を乾燥した後、φ3mmに打ち抜き、セパレータ207を得た。
【0048】
電解液209には、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEG)、ジエトキシエタン(DEE)をそれぞれ体積比率でTEG:DEE=60:40とした混合溶媒に、リチウムパーフルオロメチルスルホニルイミドを1.5mol/l溶解したものを準備した。
ガスケット208は、ポリエーテルエーテルケトン製のものを用いた。
【0049】
次に、ブチルゴム系接着剤(ブチルゴム30重量%、トルエン70重量%)とブローン
アスファルトをトルエンに溶かしてシール剤を得た。シール剤を正極ケース203の内側縁に塗布して120℃のドライルーム内で加熱乾燥した。また、シール剤の塗布された正極ケース203の内側縁にガスケット208を嵌入し、ガスケット208の環状溝の内側にシール剤を塗布して120℃のドライルーム内で加熱乾燥した。
【0050】
そして、正極201と負極206の間にセパレータ207を配し、5μlの電解液209を収容室Sに注入した後、ガスケット208の環状溝に負極ケース205を挿入し、正極ユニットと負極ユニットを重ねかしめ封口した。
これによって、実施例1のコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0051】
(実施例2)
実施例1と異なる繊維径、厚みのセルロースセパレータを用意した。クレム吸水度を測定したところ、32mmであった。このセパレータを用いて実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0052】
(実施例3)
実施例1と異なる繊維径、厚みのセルロースセパレータを用意した。クレム吸水度を測定したところ、25mmであった。このセパレータを用いて実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0053】
(比較例1)
実施例1と異なる繊維径、厚みのセルロースセパレータを用意した。クレム吸水度を測定したところ、19mmであった。このセパレータを用いて実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0054】
(比較例2)
実施例1と異なる繊維径、厚みのセルロースセパレータを用意した。クレム吸水度を測定したところ、18mmであった。このセパレータを用いて実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0055】
(実施例4)
図2で示した構造のコイン型非水電解質二次電池を実施例4として作製した。作製したコイン型非水電解質二次電池の大きさは、外形4.8mm、厚さ1.4mmである。
まず、ステンレスからなる正極ケース303とステンレスからなる負極ケース306を得た。
【0056】
次いで、市販のSiOを粉砕したものを活物質として、導電剤であるグラファイト、結着剤であるポリアクリル酸をそれぞれ45:40:15の重量比で混合して負極合剤とした。その後、2.6mgの負極合剤を2ton/cm2で加圧成形し、直径2.4mmのペレットを成形し。そしてペレットはその後、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤からなる負極集電体305を用いて負極ケース306に接着し一体化(ユニット化)した。その後、250℃8時間の条件で減圧加熱乾燥した。さらに、ペレット上にリチウムフォイル307を直径2mm、厚さ0.22mmに打ち抜いたものを圧着した。このリチウム−負極ペレット積層電極を負極304とした。このようにして負極ユニットを作製した。
【0057】
次いで、リチウム含有マンガン酸化物、導電剤であるグラファイト、結着剤であるポリアクリル酸とを、それぞれ重量比が、リチウム含有マンガン酸化物:グラファイト:ポリアクリル酸樹脂=90:7:3の割合で混合して正極合剤とした。その後、5mgの正極合剤を2ton/cm2で加圧して、直径2.4mmのペレットを成形し、正極301を得た。
【0058】
そして、正極301は、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤からなる正極集電体302を用いて、正極301を正極ケース303に接着させ、正極302と正極ケース303を一体化(ユニット化)した。その後、250℃8時間の条件で減圧加熱乾燥を行った。このようにして正極ユニットを作製した。
【0059】
クレム吸水度が28mmであるセルロースからなる不織布を乾燥した後、φ3mmに打ち抜き、セパレータ308を得た。
【0060】
電解液310には、γブチルラクトン、エチレンカーボネート(EC)をそれぞれ体積比率でγブチルラクトン:EC=50:50とした混合溶媒に、リチウムテトラフルオロボレートを1mol/l溶解したものを準備した。
ガスケット309は、ポリエーテルエーテルケトン製のものを用いた。
【0061】
次に、ブチルゴム系接着剤(ブチルゴム30重量%、トルエン70重量%)とブローン
アスファルトをトルエンに溶かしてシール剤を得た。シール剤を正極ケース303の内側縁に塗布して120℃のドライルーム内で加熱乾燥した。また、シール剤の塗布された正極ケース303の内側縁にガスケット309を嵌入し、ガスケット309の環状溝の内側にシール剤を塗布して120℃のドライルーム内で加熱乾燥した。
【0062】
そして、正極301と負極304の間にセパレータ308を配し、5μlの電解液310を収容室Sに注入した後、ガスケット309の環状溝に負極ケース306を挿入し、正極ユニットと負極ユニットを重ねかしめ封口した。
これによって、実施例4のコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0063】
(実施例5)
実施例4と異なる繊維径、厚みのポリフェニレンサルファイド(PPS)セパレータを用意した。クレム吸水度を測定したところ、25mmであった。このセパレータを用いて実施例4と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0064】
(実施例6)
実施例4と異なる繊維径、厚みのポリフェニレンサルファイド(PPS)セパレータを用意した。クレム吸水度を測定したところ、20mmであった。このセパレータを用いて実施例4と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
(比較例3)
実施例4と異なる繊維径、厚みのポリフェニレンサルファイド(PPS)セパレータを用意した。クレム吸水度を測定したところ、16mmであった。このセパレータを用いて実施例4と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
(比較例4)
実施例4と異なる繊維径、厚みのポリフェニレンサルファイド(PPS)セパレータを用意した。クレム吸水度を測定したところ、14mmであった。このセパレータを用いて実施例4と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0067】
以上の様に作製した実施例1から6及び比較例1から4の各30個のコイン型非水電解質二次電池を10日間室温保存を行い、電池電圧が安定したことを確認した後に、リフロー前の内部抵抗値及び容量値を得た。一方、実施例1から6及び比較例1から4の各30個を、リフロー炉により、予備加熱180℃10分、最高加熱温度260℃20秒の条件で熱処理を3回行なった。熱処理後のコイン型非水電解質二次電池を室温まで冷却した後、リフロー後の内部抵抗値及び容量値を得た。リフロー前の抵抗値および容量値を100%としたときのリフロー後の抵抗値及び容量値を求め、それぞれリフロー前後の抵抗変化率、リフロー前後の容量保持率とした。リフロー前後の抵抗変化率の値が大きいほどリフロー後の内部抵抗が上昇し、リフロー前後の容量保持率の値が小さいほど容量劣化が大きくなる。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示した結果は、合金系負極を用いた実施例1から3、比較例1から2の結果である。クレム吸水度の値が小さくなるにつれて、リフロー前後の抵抗変化率が大きくなり、容量保持率が小さくなっていることがわかる。抵抗変化率の増加と容量保持率の減少は、リフローによる非水電解質二次電池の特性劣化を示している。表1からわかるようにクレム吸水度20mmより大きい本発明の実施例1から3までは抵抗増加が抑えられると同時に容量の劣化が抑えられているが、クレム吸水度20mmより小さい比較例1及び2においては抵抗が倍になり容量劣化が7割にもいたっている。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示した結果は、表1とは負極、電解液、セパレータが異なるコイン型非水電解質二次電池の結果である。本結果においてもクレム吸水度の値が小さくなるにつれて、リフロー前後の抵抗変化率が大きくなり、容量保持率が小さくなっていることがわかる。表2からもわかるように、クレム吸水度20mmより大きい本発明の実施例4から6は抵抗増加が抑えられると同時に容量の劣化が抑えられているが、クレム吸水度20mmより小さい比較例3及び4においてはリフロー後の内部抵抗が大きくなり、容量劣化大きい。
【0072】
表1及び表2からわかるように、クレム吸水度が20mm以上のセパレータを用いた場合は、正極、負極、電解液、セパレータに依らず同様な良好な結果が得られており、本発明が正極、負極、電解液、セパレータの種類に限定されるものでないことを示している。一方、実施例3及び5、比較例1と実施例6はそれぞれ同等なクレム吸水度を示すが、容量前後の内部抵抗の増加及び容量の劣化は実施例3、比較例1の方が大きいことがわかる。このことから、粉末を圧縮して成形した負極よりも、合金系負極をコイン型非水電解質二次電池に用いた方が、本発明の効果が大きいことを示している。
【0073】
また、実施例において、コイン型非水電解質二次電池におけるセパレータの効果のみを示したが、これに限定されるものではない。例えば、溶接により封止されるチップ型の非水電解質二次電池に応用することも可能である。
【符号の説明】
【0074】
101 セパレータ試験片
102 標線
103 おもり
104 吊り下げ具
105 電解液
201、301 正極
202、302 正極集電体
203、303 正極ケース
205、306 負極ケース
2051 ステンレス層
2052 硬質アルミニウム層
206、304 負極
207、308 セパレータ
208、309 ガスケット
209、310 電解液
305 負極集電体
S 収容室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、支持塩と非水溶媒とからなる電解液と、ガスケットとセパレータを備えたコイン型非水電解質二次電池であって、
前記セパレータのクレム吸水度が20mm以上であることを特徴とするコイン型非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記非水溶媒が、ラクトン、グライム、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エーテルのうち、少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1に記載のコイン型非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記負極が合金系負極であることを特徴とする請求項1もしくは2に記載のコイン型非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極の活物質がSiO、Li−Al合金から選ばれる少なくとも一種以上の活物質であることを特徴とする請求項1もしくは2に記載のコイン型非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記セパレータはガラス繊維、セルロース、ポリフェニレンサルファイドから選ばれる少なくとも一種以上からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のコイン型非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−190729(P2012−190729A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54896(P2011−54896)
【出願日】平成23年3月13日(2011.3.13)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】