説明

コク味フレーバー化合物および使用

本発明は、消費財およびフレーバー組成物にコク味フレーバーを提供する式(I)の化合物、ならびにかかる化合物を含む消費財およびフレーバー組成物に関する。当該化合物を製造する酵素法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消費財におけるコク味フレーバー化合物の使用、およびかかる化合物を含むフレーバー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「コク味」は、フレーバー産業において、持続性、広がり(mouthfulness)、豊かさおよび厚みなどの特徴を表すために用いられる用語である。これに対して、基本的な味についての官能的用語は、塩味、甘味、酸味、苦味または旨味であり、後者は、グルタミン酸一ナトリウム(MSG)の味である。コク味は、独特な味覚特性であるか、またはむしろ、味覚増強特性であり、訓練を受けたパネリストによる官能テストによって簡単に検出および識別され得る。コク味を提供する化合物は通常水中で無味であるが、上記の特性に関して他の味物質と組み合わせて味を増強する。
【0003】
所望の官能特性に加えて、化合物は好ましくは、以下の特性の1または2以上を有するべきである:これらは製造するのが安価であり、長期保存中ならびに高温多湿および極端なpHを含み得る加工条件に対して安定であるべきである。
【発明の開示】
【0004】
本出願人は、S−またはO−カルボキシアルキル化ガンマグルタミルまたはベータアスパラギルペプチド類のエステル類の群に属し、消費財に「コク味」フレーバーを付与し、上記の要件を満たす、式Iの化合物を同定した。
【0005】
ベータアスパラギルペプチドの知覚特性に関する文献情報は存在しないが、特定のガンマグルタミルペプチドがフレーバー特性を付与することや、変化させることが知られている。Phe、Val、LeuおよびHisのガンマLグルタミルジペプチド誘導体は、本来のアミノ酸(Phe、Val、Leu、His)の苦味を低減することで知られている(Suzuki et al., J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 313-318)。
【0006】
アリイン((+)−S−アリル−L−システインスルホキシド)、シクロアリイン((3−(S)−メチル−1,4−チアザン−5−(R)−カルボン酸1−オキサイド)、MeCSO((+)−S−メチル−L−システインスルホキシド)、GACSO(ガンマ−L−グルタミル−S−アリル−L−システインスルホキシド)、GAC(ガンマ−L−グルタミル−S−アリル−L−システインスルホキシド)、およびGSH(グルタチオン、ガンマ−L−グルタミル−L−システイニル−グリシンまたはγ−Glu−Cys−Gly)を含むさまざまな含硫ペプチド類がグルタミン酸一ナトリウム(MSG)およびリボヌクレオチドを含む水性旨味溶液、または水性モデル牛肉抽出物に「コク味」を付与することが知られている(Ueda et al. Agric. Biol. Chem. 1990, 54, 163-169; Ueda et al., Biosci. Biotech. Biochem. 1997, 61, 1977-1980)。GSHおよび遊離SH基を含む他の化合物は、より小さい強度のコク味を提供する二亜硫酸を形成する傾向があり、またフレーバー組成物または消費財に存在する化合物と反応し得るため、より不安定である。さらに、GSHは水溶液に添加されると酸性に反応するので、したがってフレーバー組成物または消費財はpHを調整する必要がある。
【0007】
消費財に「コク味」を付与する代わりのまたは改良された化合物への必要性が依然として存在する。
【0008】
驚くべきことに、出願人は、コク味を付与し、水溶液のpHを著しく変更しない、非常に安定な式Iの化合物を見出した。これは、先行技術からは全く予測できないものであった。
【0009】
第1の側面において、本発明はしたがって、式Iの化合物またはその塩のフレーバーとしての使用を対象とし、
【0010】
【化1】

【0011】
式中、残基R、R、R、R、XおよびYは以下のように選択される:
は、−CH−;−CHCH−または−CHCHCH−から選択される残基であり;
【0012】
は、−OH、−O−CH、−O−CH−CH、−O−CHCHCH、−O−CH(CH)CH、−O−CHCH(CH、−O−CHCH(CH)(CHCH)、および−O−CHCHCH(CHを含む直鎖状または分岐状の−C〜Cアルコキシ残基から選択される残基、
【0013】
ならびにα−Ala、α−Gly、α−Val、α−Leu、α−Ile、α−Met、α−Pro、α−Phe、α−Trp、α−Ser、α−Thr、α−Asn、α−Gln、α−Tyr、α−Cys、α−Lys、α−Arg、α−His、α−Asp、α−Glu、β−Ala、およびガンマアミノ酪酸(GABA)からなる群から選択されるアミノ酸、ならびに4−ヒドロキシプロリン、ε−N,N,N−トリメチルリジン、3−メチルヒスチンジン、5−ヒドロキシリジン、O−ホスホセリン、ガンマ−カルボキシグルタミン酸塩、ε−N−アセチルリジン、ω−N−メチルアルギニン、N−アセチルセリン、N,N,N−トリメチルアラニン、N−ホルミルメチオニンを含む稀な(uncommon)アミノ酸の残基であり;
【0014】
は、γ−Glu(−CO−CH−CH−CH(NH)−COOH)、およびβ−Asp(−CO−CH−CH(NH)−COOH)の残基の群から選択される残基であり;
Xは、−S−または−O−から選択される残基であり;
【0015】
Yは、−CH−、−CHCH−、CHCHCH−、−CH(COOR)−、−C(COOR−、−C(CHCOOR−、−C(CHCOOR)(COOR)−、−C(CH(COOR)(COOR)−、−CH(CHCOOR)−、−CH(CHCHCOOR)−、−CH(CHCHCHCOOR)−、−CH(CH(COOR)−、−CH(CH(COOR)CH(COOR)−、−CH(CHCH(COOR)−、−CH(CH(COOR)CHCOOR)−、
−CH−CH(COOR)−、−CH−C(COOR−、−CH−C(CHCOOR−、−CH−C(CHCOOR)(COOR)−、−CH−C(CH(COOR)(COOR)−、−CH−CH(CHCOOR)−、−CH−CH(CHCHCOOR)−、−CH−CH(CHCHCHCOOR)−、−CH−CH(CH(COOR)−、−CH−CH(CH(COOR)CH(COOR)−、−CH−CH(CHCH(COOR)−、−CH−CH(CH(COOR)CHCOOR)−、
−CH(COOR)−CH−、−C(COOR−CH−、−C(CHCOOR−CH−、−C(CHCOOR)(COOR)−CH−、−C(CH(COOR)(COOR)−CH−、−CH(CHCOOR)−CH−、−CH(CHCHCOOR)−CH−、−CH(CHCHCHCOOR)−CH−、−CH(CH(COOR)−CH−、−CH(CH(COOR)CH(COOR)−CH−、−CH(CHCH(COOR)−CH−、−CH(CH(COOR)CHCOOR)−CH−からなる群から選択される残基であり;
【0016】
は、−CH、−CH−CH、−CHCHCH、−CH(CH)CH、−CHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、および−CHCHCH(CH
を含む直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基から選択され、
ここで、個々のR残基は、互いに独立して選択され、
ここで、2つより多くのR残基が存在するとき、少なくとも1つのR残基は、直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基であり、残りのR残基の1または2以上はHであってもよく、
ここで、R残基が、プロピル、ブチルまたはペンチル残基であるとき、他のR残基は、メチルもしくはエチルまたはHから選択される。
【0017】
アミノ酸についての標準的な略語を、本明細書を通じて用いて、遊離のアミノ酸よりも大きい化合物内のこれらの残基を特定し、たとえば、上記のRはγ−Gluまたはβ−Aspの残基であってもよい。
【0018】
式Iの化合物は、示した形態で、または対イオンを含むこのイオン性形態(その塩の形態)、例えばそのナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩などで存在し得る。
【0019】
別の側面において、本発明は、2または3以上の同一のR残基が存在する式Iの化合物の使用を対象とする。
別の側面において、本発明は、Rが−CH−および−CHCHから選択される式Iの化合物の使用を対象とする。
【0020】
別の側面において、本発明は、Rが−CH−および−CHCHである式Iの化合物の使用を対象とする。
別の側面において、本発明は、Rがγ−Gluである式Iの化合物の使用を対象とする。
【0021】
別の側面において、本発明は、Rが−CH、および−CH−CHから選択される式Iの化合物の使用を対象とする。
別の側面において、本発明は、XがSである式Iの化合物の使用を対象とする。
【0022】
別の側面において、本発明は、Yが、−CH−、−CH(COOR)−、−CH(COOR)CH−、−CH(CH(COOR)−、−CHCH−、−CHCHCH−、および−CH(CHCOOR)CHからなる群から選択される式Iの化合物の使用を対象とする。
【0023】
別の側面において、本発明は、Rがγ−Gluであり、Rが−CH、および−CH−CHから選択される、式Iの化合物の使用を対象とする。
別の側面において、本発明は、Rがγ−Gluであり、XがSである、式Iの化合物の使用を対象とする。
【0024】
別の側面において、本発明は、Rがγ−Gluであり、Yが−CH−、−CH(COOR)−、−CH(COOR)CH−、−CH(CH(COOR)−、−CHCH−、−CHCHCH−、および−CH(CHCOOR)CHからなる群から選択される式Iの化合物の使用を対象とする。
【0025】
別の側面において、本発明は、Rがγ−Gluであり、Rが−CH、および−CH−CHから選択され、XがSであり、Yが−CH−、−CH(COOR)−、−CH(COOR)CH−、−CH(CH(COOR)−、−CHCH−、−CHCHCH−、および−CH(CHCOOR)CHからなる群から選択される式Iの化合物の使用を対象とする。
【0026】
別の側面において、本発明は、2つより多くのR残基が存在し、少なくとも1つのR残基が、直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基であり、残りのR残基(単数または複数)の1または2以上がHである式Iの化合物の使用を対象とする。
【0027】
別の側面において、本発明は、2つより多くのR残基が存在し、少なくとも1つのR残基が直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基であり、残りのR残基(単数または複数)の2または3以上がHである式Iの化合物の使用を対象とする。
【0028】
2つより多くのR残基が存在し、少なくとも1つのR残基が直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基であり、残りのR残基(単数または複数)の1または2以上がHである化合物の使用は、コク味に加え、少なくとも2つのH残基を有するRでより顕著な、塩味の増強を提供する。これらの化合物は、組成物および消費財に塩味増強特性を提供する。塩は、NaClおよびまたはKCl、または対応する解離イオンを意味する。式Iの化合物は、塩味を促進し、これによって存在する塩の味がより顕著となり、消費財がより塩辛い味であるか、または減少したNaClおよび/またはKCl濃度において同一の塩味(等塩味(isosaltiness))を付与するために塩の濃度を低減することができる。消費財における増強の度合いは、例えば、さらに25%から100%(塩味が倍になる)まで、または200%以上であってもよい。したがって、ナトリウム含有量を半分以上(+100%)減らし、同じ塩味(またはKClを用いる場合それ以上)を達成することが可能である。
【0029】
上記の塩味増強化合物を加えることにより、ナトリウムまたは塩が適度な、減らされたまたは低い消費財を形成してもよい(ナトリウム濃度は以下のとおりである。塩の含有量を計算するには、2.5を掛ける)。100gまたはmlあたり250mg〜1250mgのナトリウムが適度な量であると通常考えられる一方、100gまたはmlあたり1250mgより上の消費財が多量であると考えられる。0〜250mg/100gまたはmlが低量であると考えられる。
【0030】
本発明の消費財は、例えば、以下のナトリウム濃度を有してもよい:5〜1250mg/100gまたはml、5〜600mg/100gまたはml、5〜250mg/100gまたはml、5〜200mg/100gまたはml、5〜140mg/100gまたはml、5〜100mg/100gまたはml、または5〜40mg/100gまたはml。5mgが有用な最低ナトリウム濃度である一方、より少ない塩味を達成する場合、より低濃度をさらに低く、例えば4、3、2または1mg/100gまたは100mlにしてもよい。さらに、非常に高度な塩味を達成する場合、より高い塩含有量を選択してもよい。
【0031】
これらの有用な群の部分群の例を、残基R〜R、XおよびYと共に列挙する。これらは、非常に良好なコク味活性を提供する。
【0032】
【表1】

【0033】
別の側面において、本発明は、上記式Iの1または2以上の化合物を含むフレーバー組成物を対象とする。
【0034】
別の側面において、本発明は、上記式Iの1または2以上の化合物またはその混合物を1〜25,000ppm(重量/重量)の濃度で含む消費財を対象とする。
用いる化合物の適切な濃度は、消費財のタイプおよび所望の味覚強度に依存する。例えば、本発明の化合物は、例えば、1〜10,000ppm、5〜25,000ppm、10〜10,000ppm、50〜5000ppm、および100〜1000ppm(重量ベース)の濃度で用いられてもよい。
【0035】
式Iの化合物は、以前に開示されていない。したがって、別の側面において、本発明は、本明細書で上述した、式Iの化合物を対象とする。
【0036】
別の側面において、本発明は、本明細書で上述した、式Iの化合物を消費財に添加することを含む、消費財にコク味を付与する方法を対象とする。当該化合物が生成された未精製の酵素反応混合物の形態で、かかる混合物の粗製の抽出物の形態で、植物抽出物の形態で、植物単離物の形態で、または精製された形態で加えてもよい。
【0037】
本発明において用いられる化合物は、当該技術分野で周知の方法にしたがって製造してもよい。
【0038】
商業的供給源を含むさまざまな供給源からの酵素を用いることは当該技術分野において周知であり、例えば、Suzuki et al., J. Mol. Catal. 1999, B6, 175-184;Suzuki et al., J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 313-318), Suzuki et al.; J. Agric. Food Chem.; 52 (2004);577-580; Strumeyer and Bloch, Biochem. Prep. 1962, 9, 52-55;Thompson and Meister, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 1975, 72, 1985-1988;Allison and Meister, J. Biol. Chem. 1981, 256, 2988-2992;Meister, The Enzymes B(Academi, New York), 3rd. Ed., Vol. 10, pp. 671-697;Strumeyer and Bloch, J. Biol. Chem. 1969, 235, 27;Thompson and Meister, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 1975, 72, 1985-1988;Oppenheimer et al., J. Biol. Chem. 1979, 254, 5184-5190;Tate and Meister, J. Biol. Chem., 1975, 250, 4619-4627により以前に開示されるように、特定の式Iのγ−グルタミルジペプチド類をガンマグルタミルトランスペプチターゼ酵素(GGTP)を用いて酵素的に調製することもできる。
【0039】
出発物質および酵素は、商業的に容易に入手できるか、または上記の参考文献に記載されているように得ることができる。
【0040】
別の可能性は、当該技術分野で周知のアミノ酸からのペプチドの化学合成である。非天然のアミノ酸は、望みどおりの側鎖を導入することにより形成することができ、これもまた当該技術分野において周知である。当該化合物のペプチドエステル成分は、当業者に明らかであるように合成してもよく、または商業的に購入してもよい。
【0041】
別の側面において、本発明は、上記の式Iの新規化合物を化学または酵素合成によって生成する方法を対象とする。
【0042】
形成した生成物を精製し、精製された形態でフレーバーとして用いてもよく、または粗製の形態(酵素反応混合物)でフレーバーとして、もしくは発酵からまたは単離酵素による酵素反応粗抽出物からの粗製の抽出物として用いてもよい。
【0043】
望ましい場合、生成物を以下のように精製してもよい:凍結乾燥、続いてクロマトグラフィー作業(work-up)、例えばゲル透過クロマトグラフィーを用いてもよい。クロマトグラフィーを、例えば固定相としてSephadex G-10 (Amersham Bioscience, Uppsalla, Sweden)を、移動相として水を用いて行うことができる。流出物を、例えば220nmにおいてUV検出器を用いてモニタリングする。生成物溶出液を、当該技術分野において周知の分析方法により、例えば液体クロマトグラフィーおよび質量分析法(LC−MS)および核磁気共鳴(NMR)分光法により、確認することができる。
【0044】
本発明において用いる化合物は、消費財にコク味を付与する。本明細書で用いられる消費財は、食品、飲料、オーラルケア商品、およびかかる製品への混和剤のための組成物、特にフレーバー組成物を含む。フレーバー組成物は、加工食品または飲料に、その加工の間に添加してもよく、またはそれ自体消費財、例えばソース類などの調味料であってもよい。
【0045】
本発明の化合物またはその混合物は、フレーバー組成物におけるフレーバー成分として使用してもよい。化合物または化合物の混合物は、前記組成物において他のフレーバー成分と混ぜ合わせてもよい。化合物または化合物の混合物は、あらゆる種類の消費財においてコク味を付与し、風味のある消費財において特に興味深い。
【0046】
消費財の例は、穀物製品、ベーカリー製品、パン製品、ガム類、チューイングガム類、酵母製品、塩およびスパイス製品、マスタード製品、酢製品、ソース類(調味料)、スープ類、加工食品、調理済果物および野菜製品、肉および肉製品、卵製品、牛乳および乳製品、チーズ製品、バターおよびバター代用製品、牛乳代用製品、大豆製品、食用油脂製品、薬剤、飲料、アルコール飲料、ビール、清涼飲料、食用抽出物、植物抽出物、肉抽出物、調味料、甘味料、栄養補助食品、医薬品および非医薬品用ガム、錠剤、トローチ剤、ドロップ、エマルジョン、エリキシル剤、シロップならびに飲料、即席飲料および発泡錠を製造するための他の調製物を含む。
【0047】
式Iの化合物のフレーバー物質(flavourant)品質は、広範囲の濃度にわたり確実であり得る。例えば、食品または飲料製品の場合において、化合物または化合物の混合物は、例えば1〜10,000ppm、5〜25,000ppm、10〜10,000ppm、50〜5000ppmおよび100〜1000ppm(重量ベース)の範囲内の濃度で存在し得る。当業者は、適切な濃度は、消費財、他のフレーバーの存在および所望のフレーバーの強度に依存することを理解する。当該濃度を、当業者により所望の効果に対して容易に調整することができる。
【0048】
当業者は、配合物および消費財は、当該技術分野において周知の種々の添加剤および賦形剤を含んでいてもよい追加の成分を含んでいてもよく、これには、凝結防止剤(anti-caking agent)、消泡剤、酸化防止剤、結合剤、着色料、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、封入剤(encapsulating agent)または配合物、酵素、脂肪、フレーバー増強剤、フレーバー剤、ガム、潤滑剤、多糖類、保存剤、タンパク質、可溶化剤、溶媒、安定剤、糖誘導体、界面活性剤、甘味剤、ビタミン類、ワックスなどが含まれることを理解する。用いることができる溶媒は、当業者に知られており、これには、例えば、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリアセチン、フタル酸ジエチルおよびフタル酸ジメチルが含まれる。カプセル材料およびガムには、マルトデキストリン、アラビアゴム、アルギン酸塩類、ゼラチン、加工デンプンおよび多糖類が含まれる。フレーバーまたはフレグランス化合物のための添加剤、賦形剤、担体、希釈剤または溶媒の例は、例えば、"Perfume and Flavor Materials of Natural Origin", S. Arctander, Ed., Elizabeth, N.J., 1960;"Perfume and Flavor Chemicals", S. Arctander, Ed., Vol. I & II, Allured Publishing Corporation, Carol Stream, USA, 1994;"Flavourings", E. Ziegler and H. Ziegler (ed.), Wiley-VCH Weinheim, 1998、および"CTFA Cosmetic Ingredient Handbook", J.M. Nikitakis (ed.), 1st ed., The Cosmetic, Toiletry and Fragrance Association, Inc., Washington, 1988において見出され得る。
【0049】
ここで、本発明を例示する一連の非限定的例を続ける。
【0050】
例1〜4
他に示さない限り、すべての官能試験は、3点比較法であり、“Amtliche Sammlung von Untersuchungsverfahren nach §35 LMBG (Lebensmittel- und Bedarfsgegenstaendegesetz)“; L 00.90 7 , Untersuchung von Lebensmitteln, Sensorische Pruefverfahren, Dreieckspruefung (Uebernahme der gleichnahmigen Deutschen Norm DIN ISO 4120, Ausgabe Januar 1995)中の指針に従って以下のように行う:
【0051】
官能パネリストを、文献(Wieser and Belitz, Z. Lebensm. Unters. Forsch., 1975, 159, 65-72)に記載されているように、3点比較法を用いることにより以下の標準味化合物の水溶液(各々4ml)の味を評価するように訓練する:甘味についてスクロース(40mmol/L);酸味についてクエン酸(5mmol/L);塩味についてNaCl(12mmol/L);苦味についてカフェイン(2mmol/L);および旨味についてグルタミン酸一ナトリウム(MSG)(6mmol/L)。コク味について、GSH(グルタチオン、10mmol/L)を希釈チキンブロス濃縮物(Goumet Bouillon Huhn, Maggi, Singen, Germany;3g/100gビン入り水(Evian(登録商標))に溶解した溶液を調製し、グルタチオンを加えていないチキンブロスの味と比較する。
官能パネリスト室中で22〜25℃にて、3つの異なる期間にわたり、8〜10人の個人の訓練されたパネリストにより、すべての官能分析を行う。
【0052】
味のプロファイルを記録するために、以下の例に示すように試料を調製する。試料の味のプロファイルを、3つの異なる期間において、3点比較法において決定する。パネリストは、期間の前少なくとも1時間にわたり飲食を控える。期間の開始時および各々の試行の前に、被験者は水でゆすぎ、吐き出した。参加者に、2つのブランクと1つの味試料との組を与える。液体試料を、口中で短時間旋回させ、吐き出す。固体試料を、20秒間かみ、次に吐き出す。いずれのガラスビンが異なる味の分析結果および識別の表現を示すかを示した後に、参加者に、2つのブランクと1つの味試料との他の試行組を与える。添加剤を含む各々の試料を、添加剤を含まない2つの参考試料と比較する。コク味強度を、0〜5(5が最も強い)のスケールにしたがって評価する。添加剤を消費財に添加し、試料を均質にする。試料は官能パネリストに均質化直後に提供される。全ての試験の官能パネリストは8人の訓練された個人を含んだ。
【0053】
下記の表は、試験された式Iの化合物を残基R〜R、XおよびYと共に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
例1
チキンブロス中の式Iで表される化合物の官能効果
官能試験(3点比較法)は、結果を確認するために、別の個人の官能パネリストを用いて、各々の化合物に関して少なくとも2度行われる。
【0056】
3gのチキンブロス濃縮物(Gourmet Bouillon Huhn; Maggi、Singen、Germany)を100mlの水(Evian)で希釈することにより、チキンブロスを調製する。添加剤を、以下の表に特定するように加える。
すべての試料のpH値を、ギ酸(0.1mol/L)または水酸化ナトリウム(0.1mol/L)を用いて6.5に調整する。GSHは、3.5のコク味強度を有すると決定される。
【0057】
試験の結果を、以下の表に示す。各々の試料に関して、コク味強度を評定し、パネリストに官能的特徴を表現するように求める。
【0058】
【表3】

【0059】
パネリストは、NaClを含む正の対照を負の対照よりも塩辛く、MSGを含む正の対照がより高い旨味(MSGの味)強度を有すると評価するが、味プロファイルの広がりおよび複雑さへの影響は観察されない。
【0060】
メチルまたはエチルを含む全ての試験化合物は、チキンブロスの広がり、複雑さ、および味覚の長続きを増加する。最も強いコク味効果は、γ−L−グルタミル−L−システイン誘導体に関して見出され、これは、GSHよりもさらに顕著なコク味効果を有する。
【0061】
例2
トマトジュース中のコク味化合物
以下の表に示された化合物を以下に示される濃度でトマトジュース(Albi、Germany)に添加した。
【0062】
【表4】

【0063】
S−(α,β−ジカルボキシエチルジエチルエステル)γ−L−グルタミル−L−システイニル−グリシン(1000ppm)は8人のパネリストのうち6人に好まれ、より強い、バランスのとれたコク味を有すると表現された。この効果は、濃度の上昇とともに増加した。
S−(α,β−ジカルボキシエチルジエチルエステル)γ−L−グルタミル−L−システイン(1000ppm)はさらに際だったコク味感を示し、全てのパネリストに好まれた。
【0064】
例3
クリームチーズ中のコク味化合物
以下の表に示された化合物をクリームチーズ(Philadelphia、Kraft)に1000ppmの最終濃度まで添加する。混合物を均質になるまで撹拌する。結果を以下の表に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
8人のパネリストのうち7人が、添加剤を含む試料が基準試料と異なり、好ましいことを見出す。両方の試料が、より広がりのある、豊かさ、およびコク味様の複雑さを有すると表現される。
【0067】
例4
ケチャップ中のコク味化合物
以下の表に示された化合物をケチャップ(Kraft)に2500ppmの最終濃度まで添加する。
【0068】
【表6】

【0069】
S−(α,β−ジカルボキシエチルジエチルエステル)γ−L−グルタミル−L−システイニル−グリシンおよびS−(α,β−ジカルボキシエチルジエチルエステル)γ−L−グルタミル−L−システインを有する試料は、8人のパネリストのうち7人に、より肉らしい、ブイヨン様の、強力な総合的な味を有すると示され、S−(α,β−ジカルボキシエチルジエチルエステル)γ−L−グルタミル−L−システイニル−グリシンに関する観測結果は、S−(α,β−ジカルボキシエチルジエチルエステル)γ−L−グルタミル−L−システインと比較して低い。
【0070】
例5
含硫ペプチド類のS−カルボキシアルキルエステル類の合成
チオール化合物(グルタチオン(H−γ−Glu−Cys−Gly−OH)、γ−L−グルタミル−システイン(H−γ−Glu−Cys−OH)、H−β−Asp−Cys−Gly−OH、β−L−Asp−Cys−OH)と少なくとも1つの二重結合を有する不飽和カルボン酸エステル(マレイン酸ジメチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、グルタコン酸ジメチルエステル、グルタコン酸ジエチルエステル、アクリル酸エチルエステル、2−ペンテン酸エチルエステル、アコニット酸トリエチルエステルなど)との間の反応は、以下のとおり、MorganおよびFriedmann (Biochemical Journal; 32 (1938); 733-742)によって報告された手順に従って行う:
【0071】
不飽和エステル化合物(10mmol)およびチオール化合物(10mmol)を水(100ml)に溶解し、試料のpHをNaOH(1mol/L)でpH7.4に調節し、試料を37℃で24時間インキュベートする。
凍結乾燥後、形成した反応生成物を、固定相としてSephadex G-10(Amersham Bioscience, Uppsalla, Sweden)および移動相として水を使用するゲル浸透クロマトグラフィーを用いて精製する。形成した反応生成物は、750〜800mLの移動相を溶出し、同一性および純度を、LC−MSおよびNMR分光法を用いて確認する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

式中、残基R、R、R、R、XおよびYは以下のように選択される:
は、−CH−;−CHCH−または−CHCHCH−から選択される残基であり;
は、−OH、−O−CH、−O−CH−CH、−O−CHCHCH、−O−CH(CH)CH、−O−CHCH(CH、−O−CHCH(CH)(CHCH)、および−O−CHCHCH(CHを含む直鎖状または分岐状の−C〜Cアルコキシ残基、
ならびにα−Ala、α−Gly、α−Val、α−Leu、α−Ile、α−Met、α−Pro、α−Phe、α−Trp、α−Ser、α−Thr、α−Asn、α−Gln、α−Tyr、α−Cys、α−Lys、α−Arg、α−His、α−Asp、α−Glu、β−Ala、およびガンマアミノ酪酸(GABA)からなる群から選択されるアミノ酸、ならびに4−ヒドロキシプロリン、ε−N,N,N−トリメチルリジン、3−メチルヒスチンジン、5−ヒドロキシリジン、O−ホスホセリン、ガンマ−カルボキシグルタミン酸塩、ε−N−アセチルリジン、ω−N−メチルアルギニン、N−アセチルセリン、N,N,N−トリメチルアラニン、N−ホルミルメチオニンを含む稀なアミノ酸の残基から選択される残基であり;
は、γ−Glu(−CO−CH−CH−CH(NH)−COOH)、およびβ−Asp(−CO−CH−CH(NH)−COOH)の残基の群から選択される残基であり;
Xは、−S−または−O−から選択される残基であり;
Yは、−CH−、−CHCH−、CHCHCH−、−CH(COOR)−、−C(COOR−、−C(CHCOOR−、−C(CHCOOR)(COOR)−、−C(CH(COOR)(COOR)−、−CH(CHCOOR)−、−CH(CHCHCOOR)−、−CH(CHCHCHCOOR)−、−CH(CH(COOR)−、−CH(CH(COOR)CH(COOR)−、−CH(CHCH(COOR)−、−CH(CH(COOR)CHCOOR)−、
−CH−CH(COOR)−、−CH−C(COOR−、−CH−C(CHCOOR−、−CH−C(CHCOOR)(COOR)−、−CH−C(CH(COOR)(COOR)−、−CH−CH(CHCOOR)−、−CH−CH(CHCHCOOR)−、−CH−CH(CHCHCHCOOR)−、−CH−CH(CH(COOR)−、−CH−CH(CH(COOR)CH(COOR)−、−CH−CH(CHCH(COOR)−、−CH−CH(CH(COOR)CHCOOR)−、
−CH(COOR)−CH−、−C(COOR−CH−、−C(CHCOOR−CH−、−C(CHCOOR)(COOR)−CH−、−C(CH(COOR)(COOR)−CH−、−CH(CHCOOR)−CH−、−CH(CHCHCOOR)−CH−、−CH(CHCHCHCOOR)−CH−、−CH(CH(COOR)−CH−、−CH(CH(COOR)CH(COOR)−CH−、−CH(CHCH(COOR)−CH−、−CH(CH(COOR)CHCOOR)−CH−からなる群から選択される残基であり;
は、−CH、−CH−CH、−CHCHCH、−CH(CH)CH、−CHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、および−CHCHCH(CH
を含む直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基から選択され、
ここで個々のR残基は、互いに独立して選択され、
ここで、2つより多くのR残基が存在するとき、少なくとも1つのR残基は、直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基であり、残りのR残基の1または2以上はHであってもよく、
ここで、R残基が、プロピル、ブチルまたはペンチル残基であるとき、他のR残基は、メチルもしくはエチルまたはHから選択される、
で表される少なくとも1つの化合物、またはその塩のフレーバーとしての使用。
【請求項2】
2または3以上の同一のR残基が存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
が、−CH−および−CHCHから選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
が−CH−および−CHCHである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
がγ−Gluである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
が、−CHおよび−CH−CHから選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
XがSである、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
Yが、−CH−、−CH(COOR)−、−CH(COOR)CH−、−CH(CH(COOR)−、−CHCH−、−CHCHCH−、および−CH(CHCOOR)CHからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
がγ−Gluであり、Rが−CHおよび−CH−CHから選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
がγ−Gluであり、XがSである、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
がγ−Gluであり、Yが−CH−、−CH(COOR)−、−CH(COOR)CH−、−CH(CH(COOR)−、−CHCH−、−CHCHCH−、および−CH(CHCOOR)CHからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
がγ−Gluであり、Rが−CH、および−CH−CHから選択され、XがSであり、Yが−CH−、−CH(COOR)−、−CH(COOR)CH−、−CH(CH(COOR)−、−CHCH−、−CHCHCH−、および−CH(CHCOOR)CHからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
2つより多くのR残基が存在し、少なくとも1つのR残基が、直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基であり、残りのR残基(単数または複数)の1または2以上がHである、請求項1に記載の使用。
【請求項14】
2つより多くのR残基が存在し、少なくとも1つのR残基が直鎖状または分岐状のC〜Cアルキル残基であり、残りのR残基(単数または複数)の2または3以上がHである、請求項1に記載の使用。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに定義される化合物。
【請求項16】
請求項15の化合物を形成する方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに定義される式Iで表される1または2以上の化合物、もしくはそれらの混合物を含むフレーバー組成物。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれかに定義される式(I)で表される1または2以上の式Iの化合物またはそれらの混合物を1〜25,000ppm(重量/重量)の濃度で含む消費財。
【請求項19】
コク味を付与するために十分な濃度で、請求項1〜14のいずれかに定義される1または2以上の化合物を消費財へ添加することを含む、消費財にコク味フレーバーを付与する方法。
【請求項20】
化合物を、当該化合物が生成された未精製の酵素反応混合物の形態で、かかる混合物の粗製の抽出物の形態で、植物抽出物の形態で、植物単離物の形態で、または精製された形態で加える、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2009−511031(P2009−511031A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534932(P2008−534932)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009839
【国際公開番号】WO2007/042288
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(508112221)
【氏名又は名称原語表記】THOMAS FRANK HOFMANN & ANDREAS DUNKEL
【住所又は居所原語表記】Institut fuer Lebensmittelchemie,Westfaelische Wilhelms−Universitaet,Corrensstr.45,48161 Muenster,Germany
【Fターム(参考)】