説明

コネクタ

【課題】小型化によるランス保持力の低下に対し、端子金具の保持力向上を図りつつ、端子挿入時の抵抗力増加を生じさせないコネクタを得る。
【解決手段】端子金具を収容する端子収容室17の底壁23に基端が片持ち状に支持されて弾性変形可能となり端子収容室17に挿入される端子金具を自由端29に係止する可撓係止片19を備えるコネクタ11であって、可撓係止片19は、自由端寄りの可撓部41と基端寄りの固定部43とからなり、固定部43が端子収容室17の側壁45に連接される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子収容室に片持ち状の可撓係止片が設けられて、端子収容室に挿入される端子金具がその自由端に係止されるコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
可撓係止片を端子金具に係止して端子収容室に保持させるコネクタでは、小型化により可撓係止片の剛性が低下するため、端子金具を抜止めする機能の信頼性低下が懸念される。このような問題を解消しようとしたものに例えば特許文献1に開示されるコネクタがある。図7に示すこのコネクタは、可撓係止片(「ランス」とも称する。)501の前端側が幅の狭い等幅部503で、残りの部分が、基端に向けて次第に幅が広くなったテーパ部505とされる。ランス501の下面すなわち撓み空間と対向する面には、幅方向の中央部において補強ビード507が形成される。
【0003】
補強ビード507は、ランス501の等幅部503とほぼ等しい幅を有し、ランス501のテーパ部505の始端位置よりも少し後方に入った位置を始端とし、ランス501から端子収容室を形成するキャビティ509の下面壁511の外面上を後方に延びて形成される。ランス501の撓み支点となる基端側が幅広とされ、さらに補強ビード507も幅広にできることで高い剛性を得ることができ、大きな弾発力が得られて端子を抜止めする機能の信頼性が高められる。また、補強ビード507の幅が広範囲にわたって変更でき、ランス501の剛性を広範囲にわたって調整できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−220354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、コネクタにおいて、可撓係止片は、コネクタ小型化を進める中、その端子保持力低下が問題となる。ランスサイズが小さくなることは、そのまま保持力の低下を意味するため、小型化と保持力維持の双方の両立が課題となっている。上記した従来のコネクタは、小型化によるランス保持力の低下に対し、補強ビード507を設けて保持力向上を図っているが、端子挿入時の抵抗力が増大してしまう新たな問題が生じる。端子挿入時の抵抗力が増大することは、単に作業性が悪くなるのみならず、係止時の確認が分かりにくくなる問題も包含する。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、小型化によるランス保持力の低下に対し、端子金具の保持力向上を図りつつ、挿入時の抵抗力増加を生じさせないコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 端子金具を収容する端子収容室の底壁に基端が片持ち状に支持されて弾性変形可能となり前記端子収容室に挿入される端子金具を自由端に係止する可撓係止片を備えるコネクタであって、前記可撓係止片は、自由端寄りの可撓部と基端寄りの固定部とからなり、前記固定部が前記端子収容室の側壁に連接されていることを特徴とするコネクタ。
【0008】
このコネクタによれば、可撓係止片が、底壁に接続する基端を中心とした撓み方向の弾性に加え、側壁に連接される連接部も可撓係止片の変位に伴って弾性変形する構造となる。このような構成とすることで、基端での応力集中を側壁に分散させることができる。簡単に言えば、バネ部材を追加するのと同様の作用が得られる。したがって、単に可撓係止片の断面積を増やし、変形のしづらさである剛性を高める場合に比べ、挿入時の抵抗力増加を抑止しながら、元の位置への戻り性が高まり、保持性を向上させることが可能となる。
【0009】
(2) (1)のコネクタであって、前記可撓係止片の両側が、左右対称に一対の連接部によって左右の前記側壁に連接されていることを特徴とするコネクタ。
【0010】
このコネクタによれば、端子金具が挿入される際、連接部によって可撓係止片に付加されるバネ性が、可撓係止片の左右で均等に加えられ、自由端に傾斜変位等が生じず、弾性復帰する可撓係止片の自由端を端子金具へ確実に係止できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るコネクタによれば、小型化によるランス保持力の低下に対し、端子金具の保持力向上を図りつつ、端子挿入時の抵抗力増加を生じさせないコネクタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るコネクタの一部分を切り欠いた斜視図である。
【図2】図1に示したコネクタの外観斜視図である。
【図3】可撓係止片の近傍の平面図である。
【図4】(a)は図3のA−A断面図、(b)はその四角枠で囲った部分の要部拡大図である。
【図5】端子金具の挿入された端子収容室の断面図である。
【図6】(a)は変形前の可撓係止片を端子金具の挿入方向と反対側から見た正面図、(b)は変形後の可撓係止片を端子金具の挿入方向と反対側から見た正面図である。
【図7】(a)は従来のコネクタの平面図、(b)はその丸枠で囲った部分の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るコネクタの一部分を切り欠いた斜視図、図2は図1に示したコネクタの外観斜視図である。
本実施の形態に係るコネクタ11は、直方体に形成されるコネクタハウジング13の長手方向の一端面に、図示しない相手側コネクタの雄端子を受け入れる端子受入口15を複数開口させている。端子受入口15は、コネクタハウジング13の内部に画成されている複数の端子収容室17のそれぞれに連通する。本明細書では説明の都合上、コネクタ11の端子受入口15を前、その反対側を後と称する。
【0014】
図3は可撓係止片19の近傍の平面図、図4(a)は図3のA−A断面図、(b)はその四角枠で囲った部分の要部拡大図、図5は端子金具21の挿入された端子収容室17の断面図である。
端子収容室17は、下段の端子収容室17との間が底壁23によって仕切られている。端子収容室17には、コネクタハウジング13の後部に開口する端子装着口25から雌型の端子金具21が挿入される。なお、雌型の端子金具21は一例であり、端子金具21は雄型であってもよい。この端子金具21が装着される空間には可撓係止片19が突出している。可撓係止片19は、合成樹脂材料によりコネクタハウジング13と一体に成形されている。基端27が底壁23に接続された可撓係止片19は、先端が自由端29となる。可撓係止片19は、底壁23に基端27が片持ち状に支持されて弾性変形可能となる。可撓係止片19の下方には、底壁23との間に退避空間17aが形成されている。
【0015】
可撓係止片19は、自由端29の近傍の上面に、凸部31が形成されている。凸部31は、後部が傾斜面33となり、前部が係止部35となる。傾斜面33は、端子金具21が挿入される際、端子金具21の電気接触部先端37(図5参照)が当たり、可撓係止片19を退避空間17aへ押し下げる分力を生じさせる。係止部35は、可撓係止片19が弾性復帰して元の位置に戻ったとき、端子金具21の係止穴39(図5参照)に係止して、端子金具21の後方への離脱を規制する。
【0016】
このように、可撓係止片19は、端子収容室17に端子金具21が挿入されると、基端27を中心に、自由端29が、端子収容室17から退避する方向に変形する。可撓係止片19は、自由端寄りの可撓部41と基端寄りの固定部43とからなる。ここで、固定部43は、端子収容室17の側壁45に連接されている。すなわち、図3に示すように、固定部43は、左右から張り出す翼状の連接部47を介して左右の側壁45に連接される。連接部47は、コネクタハウジング13の成形時に可撓係止片19や側壁45と一体に成形される。この連接部47は、可撓係止片19の変形に伴って自身も変形するが、変形時の応力を側壁45にも伝達する。側壁45も一体成形される合成樹脂材からなり、完全な剛体ではないので、連接部47からの応力を受けることで、少なからず変形することとなる。
【0017】
端子金具21が挿入され、可撓係止片19が変形すると、可撓係止片19の応力の一部は連接部47に伝わり、側壁45にも伝わる。これらの応力は可撓係止片19、連接部47、側壁45を順番に変形させるエネルギーとして費やされて消失することとなる。この際、可撓係止片19から伝わる応力による連接部47と側壁45との変形はいずれも弾性範囲内となっている。つまり、可撓係止片19、連接部47、側壁45は、弾性復元性を備えたリンク構造に近似する構成となる。可撓係止片19が変形すれば、連接部47、側壁45が協働して合成の弾性復元力を生じさせることとなる。
【0018】
この弾性復元力によって可撓係止片19は良好な戻り性が得られる。つまり、バネ性が持続してへたり等による戻り性の低下がない。すなわち、弾性限度から離れたところに降伏点が位置することとなる。その結果、単に剛性を高めたときの、降伏点が弾性限度の近くに位置するへたり易い可撓係止片19に比べ、戻り性が良好となり保持性が向上することとなる。
【0019】
また、本実施の形態では、可撓係止片19の両側は、左右対称に一対の連接部47によって左右の側壁45に連接されている。端子金具21が挿入される際、連接部47によって可撓係止片19に付加されるバネ性が、可撓係止片19の左右で均等に加えられる。これにより、自由端29に傾斜変位等が生じず、弾性復帰する可撓係止片19の自由端29を端子金具21へ確実に係止できるようになされている。
【0020】
次に、上記構成を有するコネクタ11の作用を説明する。
図6(a)は変形前の可撓係止片19を端子金具21の挿入方向と反対側から見た正面図、(b)は変形後の可撓係止片19を端子金具21の挿入方向と反対側から見た正面図である。
端子金具21の装着時、端子金具21がコネクタハウジング13の後部の端子装着口25から挿入されると、可撓係止片19の傾斜面33に端子金具21の先端が当接する。端子金具21が更に挿入されると、傾斜面33の押圧された可撓係止片19は、自由端29が退避空間17aに移動する方向に力Fで撓められて弾性変形する。
【0021】
可撓係止片19は基端27を中心に変形するが、この際、同時に固定部43に連接した連接部47も可撓係止片19の変位によって変形する。端子金具21が挿入される時、可撓係止片19は端子金具21の挿入に必要な変位量分曲がり、その応力は可撓係止片19の基端27へと伝わる。可撓係止片19は、基端27のみが底壁23と接続されている従来構造と違い、固定部43が連接部47を介して側壁45にも繋がっている。これにより伝達された応力は直接底壁のみに掛かるのではなく、側壁45へも伝えられる。また、側壁45は、完全な剛体ではないため、微少量撓むことで、可撓係止片19に生じた反力を分散し、従来の可撓係止片19よりも低い挿入力で端子金具21を挿入可能とする。
【0022】
端子金具21が所定位置まで挿入されると、係止穴39が係止部35に一致し、可撓係止片19が弾性復元力によって元の位置に戻り、端子金具21は、係止部35が係止穴39に進入した係止状態となる。係止穴39に係止部35が係止した端子金具21は、コネクタハウジング13の後部からの離脱が規制されることとなる。
【0023】
保持力向上のためには、ランスサイズを大きくする必要があるが、このとき、ランスサイズを大きくすることにより、ランスの撓みに対する抵抗力も増加することになり、挿入力も大きなものとなる。本構成では、可撓係止片19を可撓部41と固定部43に分けることで、実質の可撓係止片19の性能として剛性を高めずに戻り性を良好にできる。剛性を高めることで保持性を確保した場合の挿入抵抗力の増大が抑止可能となる。
【0024】
このように、コネクタ11では、可撓係止片19が、底壁23に接続する基端27を中心とした撓み方向の弾性に加え、側壁45に連接される連接部47も可撓係止片19の変位に伴って弾性変形する構造となることで、基端27での応力集中を側壁45に分散させることができ、バネ部材を追加するのと同様の作用が得られる。したがって、単に可撓係止片19の断面積を増やし、変形のしづらさである剛性を高める場合に比べ、挿入時の抵抗力増加を抑止しながら、元の位置への戻り性が高まり、保持性を向上させることが可能となる。
【0025】
したがって、本実施の形態に係るコネクタ11によれば、小型化によるランス保持力の低下に対し、端子金具21の保持力向上を図りつつ、端子挿入時の抵抗力増加を生じさせないコネクタ11を得ることができる。
【符号の説明】
【0026】
11 コネクタ
17 端子収容室
19 可撓係止片
21 端子金具
23 底壁
27 基端
29 自由端
41 可撓部
43 固定部
45 側壁
47 連接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具を収容する端子収容室の底壁に基端が片持ち状に支持されて弾性変形可能となり前記端子収容室に挿入される端子金具を自由端に係止する可撓係止片を備えるコネクタであって、
前記可撓係止片は、自由端寄りの可撓部と基端寄りの固定部とからなり、
前記固定部が前記端子収容室の側壁に連接されていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
請求項1記載のコネクタであって、
前記可撓係止片の両側が、左右対称に一対の連接部によって左右の前記側壁に連接されていることを特徴とするコネクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−49082(P2012−49082A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192425(P2010−192425)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】