説明

コネクタ

【課題】雄端子金具の挿入時にタブが型抜き空間に侵入するのを防止する。
【解決手段】コネクタAは、タブ15の挿通孔35とランス37の型抜き空間39を区画する仕切部40と、仮係止位置と本係止位置との間で揺動するリテーナ44と、リテーナ44を変位規制する係止部43と、係止部43を金型成形するために対向壁部41のうちリテーナ44より後方の領域41Rに形成され、対向壁部41のうちリテーナ44より前方の領域41Fに比べて雄端子金具10の挿入経路から退避した退避部50とを備える。リテーナ44は、仮係止位置において、雄端子金具10の後端側部分が退避部50側へ接近するように変位して雄端子金具10が姿勢を傾けるのを規制する規制部48を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、端子本体から細長いタブを前方へ突出させた形態の雄端子金具と、後方から雄端子金具を挿入させるための端子収容室が形成されたハウジングとを備えたコネクタが開示されている。雄端子金具が端子収容室に挿入された状態では、端子本体が前面壁に当接して雄端子金具が前止まりされるとともに、タブが前面壁の挿通孔に挿通され、端子本体がランスに係止されることで雄端子金具が抜止めされる。ランスを金型成形するために形成された型抜き空間は、端子収容室の前端部に連通するとともに、前面壁の前方へ開放されている。
【0003】
このコネクタは、小型化が図られているため、挿通孔の開口幅に比べて、ランスの幅、即ち型抜き空間の開口幅が大きくなっている。このような開口幅の違いがある場合において、もし、挿通孔と型抜き空間とを連通させてしまうと、挿通孔に挿通されたタブが型抜き空間側へ位置ずれする虞がある。そこで、このコネクタでは、前面壁に、型抜き空間と挿通孔とを非連通状に区画する仕切部が形成されている。
【0004】
また、特許文献2に記載されたコネクタは、端子収容室の内壁のうち雄端子金具を挟んでランスとは反対側の対向壁部に、取付孔が形成されている。そして、取付孔には、ヒンジを介して、端子収容室に対する雄端子金具の挿入動作を許容する仮係止位置と、端子収容室に挿入された雄端子金具に対して抜止め状態に係止する本係止位置との間で揺動可能とされたリテーナが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−135766号公報
【特許文献2】特開2000−260519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されたリテーナの形態を、特許文献1のコネクタに適用した場合、次のような問題が懸念される。特許文献2に記載のコネクタにおいては、取付孔の孔縁に、リテーナを係止させて揺動規制するための係止部が形成されている。そして、この係止部を金型成形するために、取付孔が形成されている対向壁部のうちリテーナよりも後方の領域は、対向壁部のうちリテーナよりも前方の領域に比べて雄端子金具の挿入経路から退避した形態となっている。つまり、この退避した領域では、端子収容室の内壁と雄端子金具との間のクリアランスが必要以上に大きくなっている。
【0007】
このクリアランスのために、雄端子金具を端子収容室に挿入する過程で、雄端子金具の姿勢がその後端側部分を退避領域側へ接近させるように斜めとなり、この姿勢の変化に伴って、タブの前端部が型抜き空間内に侵入することになる。タブが、本来、挿通されるべき挿通孔は、仕切部を介して型抜き空間から区画されているため、型抜き空間内にタブが進入してしまうと、そのままでは雄端子金具を正しい姿勢に戻すことはできない。したがって、雄端子金具を一旦後方へ戻し、姿勢を正してから、挿入作業をやり直す必要があり、作業性の低下を来すことになる。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、雄端子金具を端子収容室に挿入する際にタブが型抜き空間内に侵入するのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、端子本体から細長いタブを前方へ突出させた形態の雄端子金具と、前記雄端子金具を後方から挿入させるための端子収容室が形成されたハウジングと、前記端子収容室の前端に臨む前面壁と、前記前面壁を貫通した形態であって、前記雄端子金具が前記端子収容室に挿入された状態で前記タブを挿通させる挿通孔と、前記端子本体に係止することで、前記端子収容室に挿入された前記雄端子金具を抜止めするランスと、前記ランスを金型成形するために形成され、前記端子収容室に連通するとともに、前記前面壁の前方へ開口した形態の型抜き空間と、前記前面壁に形成され、前記型抜き空間と前記挿通孔とを非連通状態に区画する仕切部と、前記端子収容室の内壁のうち前記雄端子金具を挟んで前記ランスとは反対側の対向壁部に形成された取付孔と、前記取付孔を塞ぐように配され、前記端子収容室に対する前記雄端子金具の挿入動作を許容する仮係止位置と、前記端子収容室に挿入された前記雄端子金具に対して抜止め状態に係止する本係止位置との間で変位可能なリテーナと、前記取付孔の孔縁に形成され、前記リテーナを係止させることで変位規制する係止部と、前記係止部を金型成形するために前記対向壁部のうち前記取付孔よりも後方の領域に形成され、前記対向壁部のうち前記取付孔よりも前方の領域に比べて前記雄端子金具の挿入経路から退避した形態の退避部とを備えたコネクタであって、前記リテーナの前記端子収容室に臨む面から突出した形態であって、前記リテーナが前記仮係止位置にあるときに、前記雄端子金具の後端側部分が前記退避部側へ接近するように変位して前記雄端子金具の姿勢が不正に傾くのを規制する規制部を備えているところに特徴を有する。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記端子本体は、前記端子収容室の内壁のうち前記ランス側の摺接壁部に対し、前後に間隔を空けた2箇所の摺接部を摺接させることで、正規の挿入姿勢を保つようになっており、前記タブの前端が前記仕切部の後方近傍に位置しているときに、前記規制部は、前記端子本体のうち前記2箇所の摺接部の間の位置に当接することで前記雄端子金具の姿勢の傾きを規制するようになっているところに特徴を有する。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記リテーナが、前記ハウジング及び前記リテーナと一体をなすヒンジを支点として揺動変位可能とされており、幅方向における前記規制部の形成領域が、前記端子収容室の全幅のうちの中央部の範囲のみとされているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
<請求項1の発明>
雄端子金具を端子収容室に挿入する過程で雄端子金具の後端側部分が退避部側と対応した状態では、雄端子金具の後端側部分と退避部との間のクリアランスが大きい。そのため、雄端子金具の後端側部分が退避部側へ接近し、これに伴って雄端子金具が姿勢を傾け、この姿勢の傾きによってタブが型抜き空間内へ侵入することが懸念される。しかし、本発明では、雄端子金具の後端側部分が退避部側へ接近することは、リテーナに設けた規制部によって規制されているので、雄端子金具は正しい姿勢を保ちながら挿入される。これにより、雄端子金具の姿勢の傾きに起因するタブの型抜き空間への侵入が防止される。
【0012】
<請求項2の発明>
規制部が端子本体に当接する位置は、端子本体が姿勢を安定させるために摺接壁部に摺接する前後2箇所の摺接部の間の位置であるから、端子本体の姿勢の傾き、つまり雄端子金具の姿勢の傾きを確実に防止することができる。また、この状態では、タブの前端が仕切部の後方近傍に位置しているので、規制部による姿勢の安定化が保たれている状態で、タブが挿通孔内に挿入される。
【0013】
<請求項3の発明>
ヒンジがハウジング及びリテーナと一体に形成されている場合、金型成形する際に溶融樹脂はハウジングからヒンジを通過してリテーナに到達する。ここで、ヒンジは可撓性を高めるために肉薄とされているので、ヒンジにおける溶融樹脂の流動抵抗が大きくなることは避けられない。ヒンジの溶融樹脂の流れ難さを勘案した場合、成形効率を向上させるためには、リテーナの体積をできるだけ小さくすることが必要である。そこで、本願発明では、幅方向における規制部の形成領域を、端子収容室の全幅のうちの中央部の範囲のみとした。これにより、規制部を含むリテーナの体積を必要最小にすることが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1において雄端子金具が正規挿入されてリテーナが本係止位置にある状態をあらわす断面図
【図2】リテーナが仮係止位置にあって雄端子金具を挿入している途中の状態をあらわす断面図
【図3】リテーナが本体部の上方に位置する状態をあらわすハウジングの断面図
【図4】リテーナがハウジングの本体部の上方に位置する状態の部分拡大背面図
【図5】リテーナが本係止位置にある状態の部分拡大背面図
【図6】リテーナが仮係止位置にある状態の部分拡大背面図
【図7】規制部が形成されていないコネクタにおいて、雄端子金具が不正な姿勢に傾いてタブが型抜き空間内に侵入した状態をあらわす断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1〜図7を参照して説明する。図1,2に示すように、本実施形態のコネクタAは、全体として前後方向に細長い雄端子金具10と、後方から雄端子金具10を挿入させるための端子収容室33が形成されたハウジング30とを備えている。
【0016】
雄端子金具10は、端子本体11と、端子本体11の前端から前方へ突出する細長いタブ15と、端子本体11の後端から後方へ延出するオープンバレル状の電線圧着部16とを備えて構成されている。端子本体11は、概ね角筒状をなす箱部12と、箱部12の前端から前方に向かってテーパ状に縮径した形態で突出した支持部13と、箱部12の後端から後方へ延出する連結部14とから構成されている。タブ15は、支持部13の前端から前方へ突出している。電線圧着部16は、連結部14の後端から後方へ延出している。箱部12には、その前端部の下面を切欠した形態であって、後述するランス37を係止させるための係止孔17が形成されている。箱部12の後端部には、その下面壁を下方へ切り起こした形態の板状をなすスタビライザ18が形成されている。
【0017】
連結部14は、箱部12の下面と同じ高さ(面一状)の下面板と、下面板の左右両側縁から略直角に立ち上がる左右一対の側面板とから構成されている。側面板の上縁の高さは、箱部12の上面の高さよりも低く、この高低差により、箱部12の後端上縁部には、後述するリテーナ44を後方から係止させるための段差部19が形成されている。端子本体11の下面のうち、箱部12の前端部(係止孔17よりも前方の領域)と、連結部14の下面は、前後方向(後述する端子収容室33に対する雄端子金具10の挿入・脱抜方向と平行な方向)に間隔を空けた一対の摺接部20となっている。
【0018】
ハウジング30は、合成樹脂製であり、図1〜3に示すように、本体部31と、本体部31の前端から前方へ突出する角筒状のフード部32と、リテーナ44とを一体に形成して構成されている。本体部31内には、断面形状が略方形をなし、前後方向に長い端子収容室33が形成されている。端子収容室33の後端は、本体部31(ハウジング30)の後端面において端子挿入口として開口されている。本体部31は、後面を端子収容室33の前端に臨ませた前面壁34を有する。前面壁34には、雄端子金具10が端子収容室33に正規挿入されたときにタブ15を挿通させるための貫通形態の挿通孔35が形成されている。
【0019】
端子収容室33の内壁のうち底面壁は、端子本体11を摺接させるための摺接壁部36となっている。摺接壁部36の前端部は、前方へ片持ち状に延出した形態であって、上下方向(端子収容室33に対する雄端子金具10の挿入方向と交差する方向)へ弾性撓み可能なランス37となっている。本体部31には、ランス37が下方(端子収容室33から退避する方向)へ弾性撓みするのを許容するための撓み空間38が形成されている。本体部31は、ランス37と撓み空間38を金型成形するための金型を前方へ型抜きすることによって形成された型抜き空間39を有する。型抜き空間39は、前面壁34の前方に開口されているとともに、ランス37の前方において端子収容室33の前端部と連通している。
【0020】
本実施形態のコネクタAは小型化が図られているため、図4〜6に示すように、挿通孔35の開口幅に比べて、ランス37の幅(型抜き空間39の開口幅)が大きくなっている。このような寸法差がある場合において、挿通孔35と型抜き空間39とを連通させてしまうと、挿通孔35に挿通されたタブ15が、挿通孔35より幅広の型抜き空間39側へ位置ずれする虞がある。そこで、本実施形態では、前面壁34に、型抜き空間39と挿通孔35とを非連通状に区画する仕切部40が形成されている。
【0021】
図1〜3に示すように、端子収容室33の内壁のうち雄端子金具10を挟んでランス37とは上下反対側の上面壁は、摺接壁部36と対向する対向壁部41となっている。この対向壁部41は、端子収容室33を本体部31(ハウジング30)の外部から区画するための外壁部を兼ねている。そして、本体部31には、対向壁部41の内面(端子収容室33に臨む下面)を本体部31の外面(上面)に連通させるように開口する略方形の取付孔42が形成されている。この取付孔42は、端子収容室33に正規挿入された雄端子金具10を抜止めするためのリテーナ44によって閉塞されるようになっている。取付孔42の開口縁における前縁部は、リテーナ44の抜止め突起46を係止させるための係止部43となっている。上下方向における係止部43の形成領域は、対向壁部41の肉厚のほぼ全領域に亘っている。
【0022】
リテーナ44は、平板状をなす支持板部45と、支持板部45の内面(端子収容室33と対向する面)から突出する抜止め突起46と、抜止め突起46における端子収容室33との対向面47から突出する規制部48とを一体に形成して構成されている。支持板部45の後端縁には、左右方向(端子収容室33に対する雄端子金具10の挿入方向、及びランス37の弾性撓み方向の両方向に対して略直角に交差する方向)に細長いヒンジ49が連なっており、このヒンジ49は、取付孔42における後縁部に連なっている。つまり、リテーナ44は、ヒンジ49を介して本体部31(ハウジング30)に連なっている。ハウジング30を金型成形した直後の状態では、図3に示すように、リテーナ44の支持板部45が本体部31の上面(端子収容室33に対する雄端子金具10の挿入方向)と略直角をなし、取付孔42の全開口領域が開放され、端子収容室33内が本体部31の外部へ開放された状態となっている。かかるリテーナ44は、ヒンジ49を支点として図2に示す仮係止位置と図1に示す本係止位置との間で揺動変位し得るようになっている。
【0023】
図2に示すように、リテーナ44が仮係止位置にあるときには、抜止め突起46が取付孔42を閉塞して端子収容室33内に臨むように位置し、抜止め突起46の前面が係止部43に係止し、この係止作用によってリテーナ44が仮係止位置に保持される。また、抜止め突起46は、端子収容室33内における雄端子金具10の挿入経路から上方へ退避し、抜止め突起46の最下端は、対向壁部41のうち取付孔42(リテーナ44)よりも前方の領域41Fの下面(内面)とほぼ同じ高さとなっている。したがって、端子収容室33に対する雄端子金具10の挿入動作及び抜取り動作が行われるときに、リテーナ44の抜止め突起46が雄端子金具10と干渉する虞はない。また、支持板部45は、前方に向かって上り勾配となるように傾斜して、本体部31の外部へ突出し、抜止め突起46の対向面47(端子収容室33に臨む面)は、前方に向かって下り勾配となるように傾斜している。
【0024】
図1に示すように、リテーナ44が本係止位置にあるときには、抜止め突起46は、仮係止位置と同じく取付孔42を閉塞して端子収容室33内に臨むように位置する。そして、抜止め突起46の前面が係止部43に係止することにより、リテーナ44は本係止位置に保持される。リテーナ44が仮係止位置から本係止位置へ揺動するのにともない、リテーナ44は全体として下方(端子収容室33内の雄端子金具10に接近する方向)へ変位する。そして、支持板部45は、雄端子金具10の挿入方向(本体部31の上面)とほぼ平行となり、抜止め突起46は、端子収容室33内における雄端子金具10の挿入経路内へ進出する。つまり、抜止め突起46の最下端(前端部)は、対向壁部41のうち取付孔42(リテーナ44)よりも前方の領域41Fの下面(内面)から、端子収容室33内へ突き出す。
【0025】
雄端子金具10を端子収容室33に挿入する際には、予め、リテーナ44を仮係止位置に保持し、抜止め突起46を雄端子金具10の挿入経路外へ退避させておく。雄端子金具10の挿入過程では、ランス37が端子本体11と干渉して撓み空間38側へ弾性撓みする。そして、雄端子金具10が正規挿入されると、タブ15が挿通孔35を貫通して本体部31の前方へ突出し、ランス37が係止孔17に係止することにより、雄端子金具10が抜止めされる。雄端子金具10を正規挿入した後は、リテーナ44を仮係止位置から本係止位置へ押し込む。すると、抜止め突起46の前端部が段差部19に対して後方から係止することにより、雄端子金具10が確実に抜止めされた状態となる。
【0026】
さて、本実施形態のコネクタAでは、取付孔42の前縁に、リテーナ44を係止させて揺動規制するための係止部43が形成されているのであるが、この係止部43は、後方へ型抜きされる金型(図示省略)によって成形される。係止部43は、対向壁部41の肉厚の全領域に亘っており、対向壁部41の内面のうち取付孔42よりも後方の領域41Rは、型抜きの経路として凹んだ退避部50となっている。この退避部50の内面(下面)は、対向壁部41のうち取付孔42よりも前方の領域41Fに比べて、雄端子金具10の挿入経路から上方へ退避した形態となっている。その結果、この退避部50が形成されている領域41Rでは、端子収容室33の内壁(上面)と雄端子金具10との間の上下方向のクリアランスが必要以上に大きくなっている。
【0027】
したがって、クリアランスにより、雄端子金具10を端子収容室33に挿入する過程で、雄端子金具10の姿勢が、その後端側部分を退避部50側へ接近させて前下がりとなるように斜めに傾く虞がある。もし、雄端子金具10が前下がり状に傾くと、図7に示すコネクタBのように、タブ15の前端部が型抜き空間39内に侵入することになる。タブ15が、本来、挿通されるべき挿通孔35は、仕切部40を介して型抜き空間39から区画されているため、一旦型抜き空間39内にタブ15が進入してしまうと、そのままでは雄端子金具10を正しい姿勢に戻すことはできない。したがって、雄端子金具10を、一旦、後方へ戻し、正しい姿勢に直してから、挿入作業をやり直す必要があり、作業性の低下を来すことになる。
【0028】
この対策として、リテーナ44には、抜止め突起46の対向面47から突出した形態の規制部48を形成している。図1,2に示すように、前後方向における規制部48の形成領域は、抜止め突起46の前端部(雄端子金具10の段差部19に係止する部分)よりも後方の位置から、抜止め突起46の後端に近い位置に亘る範囲とされている。抜止め突起46の対向面47からの規制部48の突出寸法は、前後方向における略中央部分において最大であり、この最大突出部48Mから前方及び後方に向かって次第に小さくなる。つまり、側方から視た規制部48の形状は略三角形をなしている。そして、規制部48における端子収容室33と対向する面のうち、最大突出部48Mよりも前方の略平坦面領域は押さえ面48Fとなっており、最大突出部48Mよりも前方の略平坦面領域は誘導面48Rとなっている。また、図5,6に示すように、幅方向における規制部48の形成領域は、端子収容室33の全幅のうちの中央部の範囲のみとされている。
【0029】
図2に示すように、リテーナ44が仮係止位置にあるとき、規制部48は、抜止め突起46と同じく端子収容室33内における雄端子金具10の挿入経路から上方へ退避し、最大突出部48Mの最下端は、対向壁部41のうち取付孔42(リテーナ44)よりも前方の領域41Fの下面(内面)とほぼ同じ高さとなっている。したがって、端子収容室33に対する雄端子金具10の挿入動作及び抜取り動作が行われるときに、規制部48が雄端子金具10の挿抜動作を邪魔することはない。
【0030】
雄端子金具10の挿入過程では、規制部48が次のような機能を発揮する。雄端子金具10が前上がりの不正な斜め姿勢で端子収容室33に挿入されたときは、雄端子金具10の挿入が進むのに伴い、タブ15の前端が誘導面48Rに摺接することによって雄端子金具10の姿勢が矯正される。これにより、タブ15が規制部48の下方へ潜り込むように進み、雄端子金具10の円滑な挿入動作が行われる。
【0031】
タブ15の後端が最大突出部48Mを通過すると、これ以降は雄端子金具10が正規挿入されるまで、前後2箇所の摺接部20が摺接壁部36に摺接する状態を保ち、端子本体11の上面が最大突出部48Mと対応する状態となる。そして、タブ15の前端が仕切部40の後端に到達する前に、最大突出部48Mは、端子本体11の上面のうち前後2箇所の摺接部20の間の部分に対し、上から当接する状態又は接近して対向する状態となる。この状態では、端子本体11の下面が前後に間隔を空けた2箇所の摺接部20において摺接壁部36に当接するとともに、この2箇所の摺接部20の間において端子本体11の上面が規制部48と当接又は当接可能となっている。したがって、端子本体11は、前上がりと前下がりのいずれの姿勢へも傾くことがなく、正しい姿勢に保たれた状態で、挿入される。
【0032】
そして、雄端子金具10が正規の挿入位置に到達した後、リテーナ44を本係止位置へ変位させると、図1に示すように、規制部48の押さえ面48Fが電線圧着部16に対して上から当接又は接近して対向する状態となる。これにより、電線圧着部16の上方(退避部50へ接近する方向)への変位が規制される。つまり、雄端子金具10は、端子本体11より前方の位置(タブ15の後端部と挿通孔35との挿通部分)と端子本体11より後方の位置(電線圧着部16と押さえ面48Fとの対向部分)との2箇所において上下方向への姿勢の傾きを規制される。
【0033】
本実施形態のコネクタAは、端子収容室33の前端に臨む前面壁34と、前面壁34を貫通した形態であって雄端子金具10が端子収容室33に挿入された状態でタブ15を挿通させる挿通孔35と、端子収容室33に挿入された雄端子金具10を抜止めするランス37と、ランス37を金型成形するために形成されて、端子収容室33に連通するとともに、前面壁34の前方へ開口した形態の型抜き空間39とを備える。また、前面壁34には、型抜き空間39と挿通孔35とを非連通状態に区画する仕切部40が形成され、ハウジング30には、端子収容室33の内壁のうち雄端子金具10を挟んでランス37及び型抜き空間39とは反対側の対向壁部41に形成された取付孔42と、取付孔42を塞ぐように配されて仮係止位置と本係止位置との間で変位可能なリテーナ44と、取付孔42の孔縁に形成されてリテーナ44を変位規制する係止部43とが設けられている。さらに、対向壁部41のうち取付孔42よりも後方の領域41Rには、係止部43を金型成形するために、対向壁部41のうち取付孔42よりも前方の領域41Fに比べて雄端子金具10の挿入経路から退避した形態の退避部50が形成されている。
【0034】
この退避部50の存在は、雄端子金具10の姿勢を不正に傾ける原因となるため、その対策として、リテーナ44の端子収容室33に臨む面(抜止め突起46の対向面47)から突出した形態の規制部48を設けた。規制部48は、リテーナ44が仮係止位置にあるときに、雄端子金具10の後端側部分(雄端子金具10のうち端子本体11の後端側部分と電線圧着部16の前端側部分)が退避部50側へ接近するように変位して雄端子金具10の姿勢が不正に傾くのを規制する。これにより、雄端子金具10は正しい姿勢を保ちながら挿入されるので、雄端子金具10の姿勢の傾きに起因するタブ15の型抜き空間39への侵入が防止される。
【0035】
また、端子本体11は、端子収容室33の内壁のうちランス37側の摺接壁部36に対し、前後に間隔を空けた2箇所の摺接部20を摺接させることで、正規の挿入姿勢を保つようになっており、タブ15の前端が仕切部40の後方近傍に位置しているときに、規制部48は、端子本体11のうち2箇所の摺接部20の間の位置に当接することで雄端子金具10の姿勢の傾きを規制するようになっている。この構成によれば、規制部48が端子本体11に当接する位置は、端子本体11が姿勢を安定させるために摺接壁部36に摺接する前後2箇所の摺接部20の間の位置であるから、端子本体11の姿勢の傾き、つまり雄端子金具10の姿勢の傾きを確実に防止することができる。また、この状態では、タブ15の前端が仕切部40の後方近傍に位置しているので、規制部48による姿勢の安定化が保たれている状態で、タブ15が挿通孔35内に挿入される。
【0036】
また、リテーナ44は、ハウジング30及びリテーナ44と一体をなすヒンジ49を支点として揺動変位可能とされているのであるが、この場合、金型成形する際に溶融樹脂はハウジング30からヒンジ49を通過してリテーナ44に到達する。ここで、ヒンジ49は可撓性を高めるために肉薄とされているので、ヒンジ49における溶融樹脂の流動抵抗が大きくなることは避けられない。ヒンジ49の溶融樹脂の流れ難さを勘案した場合、成形効率を向上させるためには、リテーナ44の体積をできるだけ小さくすることが必要である。そこで、本実施形態では、幅方向における規制部48の形成領域を、端子収容室33の全幅のうちの中央部の範囲のみとした。これにより、規制部48を含むリテーナ44の体積を必要最小にすることが実現された。
【0037】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、リテーナを、ヒンジを介してハウジングと一体に形成したが、リテーナは、ハウジングとは別体部品としてもよい。この場合、リテーナを、その後端縁を支点として揺動可能に支持することができる。
(2)上記実施形態では、幅方向における規制部の形成領域を、端子収容室の全幅のうちの中央部の範囲のみとしたが、規制部の形成領域は、端子収容室の全幅に亘る範囲としてもよい。
(3)上記実施形態では、規制部が端子本体に当接することによって雄端子金具の姿勢の傾きを規制するようにしたが、規制部が、電線圧着部に当接することによって雄端子金具の姿勢の傾きを規制してもよい。
(4)上記実施形態では、規制部が雄端子金具の姿勢の傾きを規制する状態で、雄端子金具のうち端子本体の後端側部分と電線圧着部の前端側部分が、退避部と対応するようにしたが、規制部が雄端子金具の姿勢の傾きを規制する状態で、雄端子金具のうち端子本体のみが退避部と対応するようにしてもよく、雄端子金具のうち端子本体の後端側部分と電線圧着部の全体が退避部と対応するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
10…雄端子金具
11…端子本体
15…タブ
20…摺接部
30…ハウジング
33…端子収容室
34…前面壁
35…挿通孔
36…摺接壁部
37…ランス
39…型抜き空間
40…仕切部
41…対向壁部
41F…対向壁部のうち取付孔よりも前方の領域
41R…対向壁部のうち取付孔よりも後方の領域
42…取付孔
43…係止部
44…リテーナ
48…規制部
49…ヒンジ
50…退避部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子本体から細長いタブを前方へ突出させた形態の雄端子金具と、
前記雄端子金具を後方から挿入させるための端子収容室が形成されたハウジングと、
前記端子収容室の前端に臨む前面壁と、
前記前面壁を貫通した形態であって、前記雄端子金具が前記端子収容室に挿入された状態で前記タブを挿通させる挿通孔と、
前記端子本体に係止することで、前記端子収容室に挿入された前記雄端子金具を抜止めするランスと、
前記ランスを金型成形するために形成され、前記端子収容室に連通するとともに、前記前面壁の前方へ開口した形態の型抜き空間と、
前記前面壁に形成され、前記型抜き空間と前記挿通孔とを非連通状態に区画する仕切部と、
前記端子収容室の内壁のうち前記雄端子金具を挟んで前記ランスとは反対側の対向壁部に形成された取付孔と、
前記取付孔を塞ぐように配され、前記端子収容室に対する前記雄端子金具の挿入動作を許容する仮係止位置と、前記端子収容室に挿入された前記雄端子金具に対して抜止め状態に係止する本係止位置との間で変位可能なリテーナと、
前記取付孔の孔縁に形成され、前記リテーナを係止させることで変位規制する係止部と、
前記係止部を金型成形するために前記対向壁部のうち前記取付孔よりも後方の領域に形成され、前記対向壁部のうち前記取付孔よりも前方の領域に比べて前記雄端子金具の挿入経路から退避した形態の退避部とを備えたコネクタであって、
前記リテーナの前記端子収容室に臨む面から突出した形態であって、前記リテーナが前記仮係止位置にあるときに、前記雄端子金具の後端側部分が前記退避部側へ接近するように変位して前記雄端子金具の姿勢が不正に傾くのを規制する規制部を備えていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記端子本体は、前記端子収容室の内壁のうち前記ランス側の摺接壁部に対し、前後に間隔を空けた2箇所の摺接部を摺接させることで、正規の挿入姿勢を保つようになっており、
前記タブの前端が前記仕切部の後方近傍に位置しているときに、前記規制部は、前記端子本体のうち前記2箇所の摺接部の間の位置に当接することで前記雄端子金具の姿勢の傾きを規制するようになっていることを特徴とする請求項1記載のコネクタ。
【請求項3】
前記リテーナが、前記ハウジング及び前記リテーナと一体をなすヒンジを支点として揺動変位可能とされており、
幅方向における前記規制部の形成領域が、前記端子収容室の全幅のうちの中央部の範囲のみとされていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−38044(P2013−38044A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175653(P2011−175653)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】