説明

コバルトフリーのアルカリ二次電池

【課題】正極及び負極の両方をコバルトフリー化したアルカリ二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明のアルカリ二次電池は、コバルトを含有しない正極材を有する正極と、コバルトを含有しない負極活物質を有する負極と、アルカリ水溶液からなる電解液と、セパレータとを備える。正極材は、炭素を表面に被覆させた正極活物質、特に、炭素を表面に被覆させた水酸化ニッケルであることが好ましい。負極活物質は、化学式1:RE1−xMgNiAl(REはアルカリ希土類元素であり;0.05≦x≦0.3、2.9≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3である)で表される水素吸蔵合金であることが好ましい。電解液は、水酸化カリウム及び水酸化リチウムを含有する水溶液であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極及び負極の活物質がコバルトを含有しないことを特徴とするアルカリ二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルカリ二次電池は、正極に水酸化ニッケルを用い、負極に水素吸蔵合金を用いたニッケル−水素電池が主流になっている。ニッケル−水素電池以外のアルカリ二次電池としては、ニッケル−鉄電池、ニッケル−亜鉛電池、又はニッケル−カドミウム電池がある。これらのアルカリ二次電池は、ニッケル−水素電池と比較すると、利用率が低い、サイクル寿命が短い、体積容量密度が低い、という問題をそれぞれ有している。1980年代までは、ニッケル−カドミウム電池が、代表的な充電式アルカリ電池として、二次電池のシェアを占めていた。しかし、ほぼ同等の電圧であり、容量が大きく、環境負荷も小さいニッケル−水素電池に置き換えられていった。
【0003】
ニッケル−水素電池は、小型機器又はハイブリッド自動車への利用に加え、鉄道車両又は地上蓄電設備のような大型産業機器への利用が進められている。従来、ニッケル−水素電池では、正極利用率を向上させる導電助剤として、正極材にコバルトが添加されてきた。ニッケル−水素電池では、合金の微粉化を抑制して、電極を長寿命化させる目的で、負極活物質にもコバルトが添加されてきた。
【0004】
コバルトは非常に高価な元素であり、電極の原料コストの半分程度を占める場合もある。このため、正極が導電助剤としてコバルトを全く含まず、負極活物質である合金にもコバルトを含まない、ニッケル水素電池のコバルトフリー化を実現することによって、コストの低減が期待される。さらに、コバルトは産出地が偏在しており、産出地の政情不安によって、供給不足又は価格高騰が生じる可能性が高い。特に、産業用大型電池は、多数の電極を必要とするため、材料となるコバルトの安定供給は必須であり、コバルトフリーのニッケル二次電池の開発が期待されている。
【0005】
コバルトフリーのアルカリ二次電池用正極組成物として、特許文献1は、活物質と、導電材と、樹脂成分とを含み、導電材がラマン分光法により分析した黒鉛化度0.3以上0.8以下の粒子状炭素材を開示している。特許文献1のアルカリ二次電池用組成物を用いる正極を備えるアルカリ二次電池は、過充電されてもサイクル寿命が損なわれないとされている。
【0006】
非特許文献1は、ニッケル正極の導電材として、耐酸化性炭素導電材を使用する技術を開示している。非特許文献2は、炭素材料を水酸化ニッケル粒子に均一に被覆させた炭素被覆水酸化ニッケル正極を開示している。非特許文献2の炭素被覆水酸化ニッケル正極は、汎用のコバルト被覆ニッケル正極と同等のサイクル特性及び出力特性を示している。非特許文献3は、ニッケル−水素電池用負極として使用されてきた従来合金の特性を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−54084号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】永島、堤、桧垣、森本、掛川;第72回電気化学会、特II-27 (2005).
【非特許文献2】斉藤、向井、境、高▲崎▼、西村、堤、木下、加納、長門;第51回電池討論会、2D-22 (2010).
【非特許文献3】T.Sakai, T. Hazama, H. Miyamura, N. Kuriyama, A. Kato, H. Ishikawa, Journal of the Less-Common Metals, vol.172-174, (1991) pp.1175-1184.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アルカリ二次電池において、コバルトを正極材又は負極活物質に添加した場合、正極又は負極のどちらからもコバルトが電解液中に溶出する。溶出したコバルトは、充電時に酸化されて正極近傍にオキシ水酸化コバルト(CoOOH)として再析出する。オキシ水酸化コバルトの再析出は、正極中の水酸化ニッケル粒子同士を繋ぐ導電ネットワークを形成するために重要な反応である。しかし、オキシ水酸化コバルトは、正極のみならず、セパレータにもその一部が析出する。
【0010】
その後、過放電が生じると、オキシ水酸化コバルトが水酸化コバルトに還元され、正極で導電ネットワークに寄与していたコバルトは、電解液中に溶出する。電解液中に溶出したコバルトは、充電時に酸化されて再析出するが、必ずしも正極に再析出して導電ネットワークを修復するわけではなく、利用率の大幅な低下が引き起こされる。さらに、セパレータにもコバルトが再析出して正極と負極の間に微小短絡経路を生じ、自己放電量の増大が引き起こされやすい。
【0011】
正極に添加するコバルトの形態としてはもう一種類ある。それは、正極活物質である水酸化ニッケルそのものに内部添加したものである。コバルトを内部添加すると、充電反応と競合する酸素発生が抑制され、充電効率が向上し得る。これによって、電池の劣化が抑制され、長期間の性能保持が可能となる。同様の効果は、亜鉛の内部添加によっても得られるので、亜鉛を添加する場合には、コバルトは添加されなくともよい。水酸化ニッケルに内部添加する場合は、亜鉛は0.1〜5mol%、コバルトは0.1〜1mol%となるように添加されれば十分である。内部添加されたコバルトは、水酸化ニッケルの結晶構造中に組み込まれており、溶解しにくく、正極の導電助剤として用いられる水酸化コバルト、又は負極活物質である合金に含まれるコバルトとは分けて考える必要がある。
【0012】
一方、負極活物質としては、Mm(Ni,Co,Mn,Al)系水素吸蔵合金が最も一般的に使用されている。Mmはミッシュメタルであり、La、Ce、Pr及びNdからなる軽希土類元素の混合物である。ここで、負極活物質に添加されるコバルトは、水素吸蔵合金の微粉化を防止して、負極のサイクル寿命を増大する役割を果たす。しかし、それでも充放電サイクルを繰り返すごとに少しずつ水素吸蔵合金の微粉化が進行して、新しい表面から電解液中へとコバルト及びマンガンが溶出する。溶出したコバルト及びマンガンは、セパレータに再析出し、微小短絡経路を形成して、自己放電量の増大が引き起こされる。
【0013】
上述したように、従来のニッケル−水素電池のようなアルカリ二次電池では、正極については導電助剤の目的で、負極については水素吸蔵合金の微粉化を防止して長寿命化する目的で、それぞれ活物質にコバルトを添加することが必須であった。しかし、アルカリ二次電池の充放電を繰り返すことによって、コバルトの溶出及び再析出によって電池特性が劣化する要因ともなっていた。このように、正極又は負極のどちらか一方をコバルトフリー化するだけでは、コバルトの電解液中への溶出は防げず、アルカリ二次電池が劣化する根本的な原因は解決し得ない。
【0014】
産業用大型電池は、バス及び電車をはじめとする公共インフラにおける使用を前提とされている。このような産業用大型電池は、民生用で使用される乾電池代替の円筒型電池の用途と比較して、過酷な状況において使用されることが予測される。さらに、産業用大型電池は、低コストであることが民生品以上に要求される。
【0015】
このような観点から、充電効率及び放電容量のような基本的な充放電特性を、少なくとも従来のニッケル−水素電池と同等以上に保ちつつ、出力、サイクル寿命、過充電耐性、過放電耐性及び自己放電抑制機能のような電池性能を向上させ、さらに電極材料から完全にコバルトを取り除くことが、今後のアルカリ二次電池に求められる必須条件と言える。特に、正極又は負極のどちらか一方にコバルトが使用されていれば、溶出と再析出による影響から過放電耐性及び低自己放電抑制機能が損なわれる可能性がある。
【0016】
本発明は、正極及び負極の両方をコバルトフリー化したアルカリ二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
アルカリ二次電池の正極をコバルトフリー化するためには、オキシ水酸化コバルトの代替となる導電助剤が必要である。本発明者等は、正極活物質の表面を炭素で被覆すれば、導電性が高くなり、充電時にも酸化されにくいため、高い放電容量(活物質利用率)を保持しつつ、サイクル寿命も長いアルカリ二次電池を得ることができると考えた。
【0018】
本発明者等は、アルカリ二次電池の負極もコバルトフリー化することによって、コバルトの電解液中への溶出をなくし、アルカリ二次電池が劣化する根本的な原因を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
具体的に、本発明は、
導電助剤としてコバルトを含有しない正極材を有する正極と、
コバルトを含有しない負極活物質を有する負極と、
アルカリ水溶液からなる電解液と、
セパレータと、
を備えるアルカリ二次電池に関する。
【0020】
本発明のアルカリ二次電池は、正極及び負極の両方をコバルトフリー化することによって、アルカリ電解液中にコバルトが溶出することがなくなり、微小短絡経路の形成による自己放電量の増大を防止し得る。
【0021】
正極材は、炭素を表面に被覆させた正極活物質であることが好ましい。
【0022】
正極活物質の表面を炭素で被覆することにより、コバルトフリーとした場合にも正極活物質に十分な導電性を付与することが可能となる。
【0023】
正極材は、
正極活物質からなる核粒子と、
炭素からなる導電材粒子とを含み、
核粒子の表面に、正極活物質と水酸イオンとの反応部と、導電材粒子によって覆われた導電部とが形成される構造であることが好ましい。
【0024】
核粒子は、炭素を介して2個以上結合していることが好ましい。
【0025】
導電材粒子は、核粒子よりも小さい粒径を有しており、核粒子の表面の一部が導電材粒子によって覆われていることが好ましい。この場合、核粒子の導電材粒子による表面被覆率は、10%以上95%以下であることが好ましい。
【0026】
導電材粒子は、黒鉛化度(G値)0.3以上0.8以下の炭素材料で形成されていることが好ましい。
【0027】
核粒子は、導電材粒子を付着させるバインダとして、エチレン系コポリマーを含有することが好ましい。この場合、バインダの添加量は、炭素との重量比で50質量%以上150質量%以下であり、正極活物質との重量比で0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明では、正極材が炭素を表面に被覆させた水酸化ニッケルであることが好ましい。
【0029】
本発明では、負極活物質が、化学式1:RE1−xMgNiAl
で表される水素吸蔵合金であることが好ましい:
ここで、REは希土類元素であり;
0.05≦x≦0.3、2.9≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3である。
【0030】
コバルトフリー合金である化学式1の水素吸蔵合金は、RENiとMgNiの格子が交互に積み重なった積層型の結晶を形成する。この積層型結晶は、コバルトを含有していなくても微粉化しにくく、電池用負極活物質として好適な結晶構造である。
【0031】
REは、(1) Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上の単体希土類元素;又は(2)主にLa、Ce、Pr及びNdからなる混合希土類であるMm(ミッシュメタル);又は (3) Pr及びNdからなる混合希土類であるDi(ジジム):の少なくとも1つを含んでいる。
【0032】
係数x、y及びzは、それぞれ、0.05≦x≦0.3、2.9≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3である(3.0≦y+z≦4.7)ことが好ましい。化学式1の水素吸蔵合金は、この組成範囲であればよいが、産業用途のアルカリ二次電池であれば、高出力特性及び長サイクル寿命特性に重点を置く必要がある。この場合には、3.9≦y+z≦4.2であることがより好ましい。
【0033】
本発明では、電解液は、水酸化カリウム及び水酸化リチウムを含有する水溶液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明のアルカリ二次電池は、正極及び負極がコバルトフリーであり、製造コストが低いにも拘わらず、従来と同等の放電容量を保持しつつ、放電電圧は高く、サイクル寿命も長く、耐過充電性も優れている。さらに、自己放電抑制機能及び耐過放電性も向上している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】炭素被覆された正極活物質の構造を表した模式図を示す。
【図2】図1の炭素被覆された正極活物質粉末の製造に用いられる流動層コーティング装置の一例を表す概略構成図を示す。
【図3】図2の流動層コーティング装置に用いられるノズルの断面図を示す。
【図4】炭素を表面に被覆させた水酸化ニッケル粉末のSEM像を示す。
【図5】実施例1〜3、及び比較例1の密閉型電池の1C及び10C放電の試験結果に関するグラフを示す。
【図6】実施例1〜3、及び比較例1の密閉型電池のサイクル特性(利用率とサイクル数との関係)に関するグラフを示す。
【図7】実施例1〜3、及び比較例1の密閉型電池用負極合金のリートベルト法による結晶構造解析を行った結果として得られた、合金に含有される結晶相の種類及び量に関するグラフを示す。
【図8】実施例1及び比較例1の密閉型電池について、充電後、45℃で1週間放置した後の放電曲線を示す。
【図9】実施例1及び比較例2の密閉型電池のサイクル耐久特性に関するグラフを示す。
【図10】実施例1及び比較例2の密閉型電池の高率放電特性に関するグラフを示す。
【図11】実施例4及び比較例3の開放型電池について、短絡日数と、45℃保管後の容量維持率との関係をプロットしたグラフを示す。
【図12】電池容量の200%に相当する放電を行った次の充放電サイクルにおける、実施例4及び比較例3の開放型電池の充放電曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参酌しながら説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0037】
<1.正極>
本発明のアルカリ二次電池は、正極材がコバルトを含有しないことを特徴としているが、具体的には、炭素を表面に被覆させた水酸化ニッケルを正極材(正極用粉末)として使用することが好ましい。
【0038】
本発明の正極材は、例えば、水酸化ニッケル、耐酸化性カーボン及びバインダを溶媒と共に均一に混合した合材を作製し、これを発泡状ニッケルのような基材に充填し、次いで、乾燥及びプレス処理することによって製造され得る。
【0039】
本発明の正極材(正極用粉末)は、流動層コーティング法によっても製造され得る。流動層コーティング法では、正極活物質(例えば、水酸化ニッケル)の粒子、炭素材料及びバインダを溶媒と共に混合する方法よりも、核粒子となる正極活物質の表面に、均一に炭素からなる導電材粒子を付着させることができる。
【0040】
流動層コーティング法によって、正極活物質粒子の表面に炭素を被覆させる場合には、炭素被覆された正極活物質粒子は、
正極活物質からなる核粒子と、
炭素からなる導電材粒子とを含み、
核粒子の表面に、正極活物質と水酸イオンとの反応部と、導電材粒子によって覆われた導電部とが形成される構造を有する。
【0041】
図1は、本発明で使用する正極材(正極用粉末)として好適な、炭素被覆された正極活物質粉末の構造を表した模式図を示す。図1では、正極活物質は水酸化ニッケルである。正極用粉末21において、正極活物質である水酸化ニッケルからなる核粒子31の表面に、炭素からなる導電材粒子33が付着している。導電材粒子33は、核粒子31の表面に均一な分布で付着しており、この導電材粒子33を介して核粒子31が互いに接触することにより、核粒子31間に導電ネットワークが形成されている。
【0042】
この正極用粉末21においては、核粒子31の表面に、核粒子31よりも小さい粒径を有する導電材粒子33が、バインダによって強固に付着して、核粒子31の表面の一部を被覆している。導電材粒子33によって被覆された部分は、高い導電性を有する導電部35を形成し、残りの部分は、正極活物質と水酸イオンとが反応する反応部37を形成する。
【0043】
正極活物質からなる核粒子の表面に、均一に炭素からなる導電材粒子が付着することにより、集電体から供給された電子は、核粒子全体に行き渡り、集電体と接触した核粒子の充放電効率が向上する。また、正極活物質間に強固な導電ネットワークが形成されるため、集電体と直接接触せず、集電体と接触した核粒子を経由して間接的に電子供給を受ける核粒子も、均一に充電されやすくなる。その結果、大電流によって急速充放電を行っても、活物質利用率が低下しにくい。
【0044】
炭素材料は、コバルト又はコバルト化合物よりも安価であるため、炭素材料を導電材として被覆された正極活物質(正極用粉末)を正極材として使用することにより、高出力特性を有するアルカリ二次電池を安価に製造することが可能となる。
【0045】
流動層コーティング法によって製造される炭素被覆された正極活物質(正極用粉末)を正極材として正極に使用する場合は、正極活物質と炭素とを混合して正極合材(スラリー)を作製する場合に必要となる有機溶媒を使用せず、水系の溶媒によって正極合材を作製することができるため、工程管理が容易となり、この点からもアルカリ二次電池の製造コスト低減が可能となる。
【0046】
一般的なアルカリ二次電池用正極としては、孔のサイズが100μmφ程度の発泡状ニッケル多孔体が集電体に用いられ、この集電体に直径が約10μmφの水酸化ニッケル粒子を充填したものが用いられる。このため、充填された水酸化ニッケル粒子には、集電体に直接接触しているものとそうでないものがある。
【0047】
流動層コーティング法によって製造される正極用粉末は、2個以上の活物質粒子が結合している場合がある。この結合体の大きさが100μmφ程度までであれば、発泡状ニッケル集電体の孔サイズと同程度であるから、充填に支障はなく、電池特性にも大きな問題はない。
【0048】
導電材粒子は、核粒子よりも小さい粒径を有しており、核粒子の表面の一部が導電材粒子によって被覆されていることが好ましい。この構成によれば、核粒子の表面に導電材粒子が存在することにより、十分な導電性を確保し得るとともに、核粒子表面の一部のみが導電材粒子によって覆われており、粒子表面に導電材粒子が存在しない部分が残されていることにより、正極活物質の反応面積が確保され、正極活物質の利用率の低下が抑制される。
【0049】
核粒子の導電材粒子による表面被覆率は、10%以上95%以下の範囲内にあることが好ましく、30%以上95%以下にあることがより好ましい。被覆率が10%より小さいと、核粒子同士を繋ぐ導電性ネットワークが充分に形成されず、充分に充電が行きとどかない核粒子があるため、高い利用率を得ることができない。一方、被覆率が95%より大きい場合、導電性は充分であるが、炭素の嵩高さが影響することによって活物質の基材への充填密度が低下し、体積あたりの電極容量が低下する。平均粒径が10mmφの水酸化ニッケル粒子において被覆率10%以上を得るためには、炭素添加量を2質量%以上にすることが好ましく、95%以下にとどめるためには、炭素添加量を8質量%以下にすることが好ましい。核粒子と導電性粒子の粒径比は、5:1〜100:1の範囲内にあることが好ましい。
【0050】
流動層コーティング法によって製造される正極用粉末は、導電性粒子が、黒鉛化度(G値)0.3以上0.8以下の炭素材料で形成されていることが好ましい。この構成によれば、正極活物質粒子に高い導電性が付与されるとともに、耐酸化性能が向上する。
【0051】
流動層コーティング法によって製造される正極用粉末は、核粒子に導電材粒子を付着させるバインダとして、エチレン系コポリマーを含有することが好ましい。この構成によれば、核粒子と導電性粒子とを安定的に、かつ均一に結着させることができる。
【0052】
炭素被覆された正極活物質(正極材)粉末の製造方法は、
正極活物質からなる核粒子の粉末に、下方から空気流を吹き付けて核粒子粉末を流動化させる流動化工程と、
炭素からなる導電材粒子とバインダを溶媒に分散させてコーティング液を作製するコーティング液作製工程と、
流動化した核粒子粉末に向けて、コーティング液を噴霧して、核粒子の表面に導電材粒子を付着させる噴霧工程と、
から構成される。
【0053】
このような構成によれば、流動層コーティングによって、正極活物質である核粒子の各表面に、均一に炭素からなる導電材粒子が付着する。その結果、活物質粒子同士、及び活物質と集電体との間に強固な導電ネットワークが形成され、電池の内部抵抗上昇が抑制される。その結果、炭素被覆された正極活物質の粉末を用いて、高出力特性を有するアルカリ二次電池を安価に製造することが可能となる。
【0054】
表面を炭素被覆された正極活物質(正極用粉末)の製造方法は、
流動化工程において、正極活物質として水酸化ニッケルを用い、
コーティング液作製工程において、バインダとしてエチレン系コポリマーを用いることが好ましい。
【0055】
このような構成によれば、溶媒中に炭素粒子を均一に分散させることができるので、正極活物質粒子の表面に炭素がきわめて均一に被覆される。
【0056】
正極用粉末の製造方法は、さらに、流動化工程における空気流を利用して、導電材料粒子が付着した核粒子を乾燥する乾燥工程を含んでいることが好ましい。
【0057】
このような構成によれば、粉末を流動化させるための空気流を利用して、効率的に粉末の乾燥を行うことができるので、一層低コストで正極用粉末を製造することが可能となる。特に、有機溶媒をコーティング液の溶媒として用いた場合、流動層乾燥を利用することで、乾燥後粉末の有機溶媒の残留量を少なくすることができるため、被覆後の粉末の保存安定性が向上し、ハンドリング面でも人体への有機溶媒の暴露を予防し得る。
【0058】
正極用粉末の好適な製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0059】
図1に示される正極用粉末(炭素被覆された正極活物質粉末)21は、活物質からなる核粒子31の表面に、流動層コーティングによって、炭素からなる導電材粒子33を付着させることにより製造される。図2は、図1の正極用粉末21の製造に用いられる流動層コーティング装置の一例を表す概略構成図を示す。
【0060】
図2(a)に示されるように、流動層コーティング装置41は、主要な構成要素として、流動層コーティングを行う空間を形成するほぼ筒状の流動槽43と、流動槽43の下方から流動槽43内へ、被コーティング粒子を流動化させるための空気流Aを送風する排風機45と、流動化した被コーティング粒子からなる流動層47に、コーティング粒子を含むコーティング液CLを噴霧する噴霧器49とを備えている。
【0061】
流動層コーティングは、この流動層コーティング装置41を用いて、流動槽43内で、被覆される粒子である核粒子31を排風機45による空気流Aによって流動化させて流動層47を形成し、核粒子31の流動層47に向けて、被覆粒子である導電材粒子33を含有するコーティング液CLを噴霧することにより、核粒子31の表面に導電材粒子33を付着させる方法である。
【0062】
まず、流動槽43内に導入された核粒子31の粉末に、排風機45によって下方から空気流Aを供給する。これによって、流動槽43内に、流動化した核粒子31の粉末からなる流動層47が形成される(流動化工程)。
【0063】
流動層コーティング装置41は、図2(b)に示されるように、底部にディスクロータ51を備える転動式のものが好ましい。この場合、底部のディスクロータ51による転動と、ディスクロータ51と壁面とのクリアランスから供給させる流動化空気流Aにより、流動層47が渦巻き状の循環流を形成している状態で、コーティング液CLが噴霧される。ディスクロータ51の回転速度及び流動槽43内の流動層47を形成する空気流量を調節することにより、流動層47の流動状態を精度よく制御することができるので、より望ましいコーティングが可能になる。
【0064】
流動槽43の底部には、正極活物質からなる粉体を装置41内に保持するとともに、流動層47を形成するための空気流Aを整流する部材として、空気分散板53が配置されている。具体的には、空気分散板53としては、多孔板として、いわゆるうち抜きプレートが使用可能であり、メッシュ類としては、織金網(関西金網(株)製)、ポアメット(富士フィルタ工業(株)製)又はポワフロー(ニチダイフィルタ(株)製)のような金属製メッシュが使用可能である。正極活物質の粒子径を考慮し、最適なメッシュを選択し得る。
【0065】
空気流Aの流量としては、空気分散板53の設置位置から上部5cmの位置の流動槽43の断面積を基準として、空塔速度(通過流量を断面積で除した値)を0.25〜1.4m/s、好ましくは0.28〜1.0m/s、さらに好ましくは0.30〜0.7m/sに設定する。空塔速度が小さすぎると流動化が不十分になる。空塔速度が大きすぎると、流動層47を空気流Aが吹き抜け、安定した流動層47を形成することができず、コーティングに好ましくない。
【0066】
ディスクロータ51の外周部の速度(回転周速度)としては、1〜20m/sが好ましく、2〜15m/sがより好ましい。回転周速度が遅すぎる場合には、ディスクロータ51上に粉体が堆積しやすくなり、回転周速度が早すぎる場合には、核粒子31表面に加わる摩擦力が大きくなりすぎて、核粒子31表面に付着した導電材粒子33が剥がれてしまうおそれがある。より望ましい流動層コーティング装置41の形態として、図2(c)に示されるように、ディスクロータ51の上部にインペラ55による解砕機構を備えてもよい。
【0067】
流動化工程を行う一方で、炭素からなる導電材粒子33とバインダとを溶媒に分散させてコーティング液CLを作製しておく(コーティング液作製工程)。正極における、活物質に対する導電材の添加量は、正極活物質に対して、導電材2質量%以上8質量%以下で添加するのが好ましく、導電材2.5質量%以上6質量%以下で添加するのがより好ましい。導電材の添加割合が2質量%よりも小さい場合には、十分な導電補助効果が得られず、活物質の利用率が低くなる。一方、導電材の添加割合が8質量%より大きい場合には、十分な電池のエネルギー密度が得られない。
【0068】
炭素材料としては、導電性を有し、かつ、電気化学的な酸化に耐え得る材料が好ましく、例えば、黒鉛化度(G値)が0.3以上0.8以下の炭素材料が好適に用いられる。
【0069】
この黒鉛化度(G値)は、次のようにして算出され得る。まず、粒子状炭素材をラマン分光法により分析し、これにより得られるラマンスペクトルをベースライン補正及びスムージング処理する。そして、これらの処理後のラマンスペクトルをさらにカーブフィッティングし、カーブフィッティング後のラマンスペクトルにおいて1360cm-1付近のグラファイト構造の乱れによるピークの積分強度(Ja)、及び1580cm-1付近のグラファイト構造に由来するピークの積分強度(Jb)を求める。目的の黒鉛化度は、ピーク積分強度(Ja)をピーク積分強度(Jb)で割った値(Ja/Jb)として求められる。因みに、上述のラマンスペクトルは、顕微ラマン分光装置を用い、粒子状炭素材を次の条件でラマン分光法により分析した場合に得られるものである。
【0070】
励起光:Arイオンレーザー/514.5nm
励起光出力:8mW
対物鏡倍率:50倍
積算回数:1回
照射時間:120秒
測定方法:180゜後方散乱
測定領域:1100〜1800cm-1
波数校正:シリコン
【0071】
黒鉛化度(G値)は、値が小さいほど、黒鉛としての結晶性が高い(すなわち、より黒鉛質である)ことを示している。従って、グラファイトの黒鉛化度(G値)は、0.3未満である。より具体的には、コークスを2800℃で黒鉛化して得られる人造黒鉛の黒鉛化度(G値)は、0.2程度である。
【0072】
このような粒子状炭素材は、通常、既存の粒子状炭素材(以下、粒子状炭素材原料という)、例えばカーボンブラックを熱処理すると調製することができる。因みに、カーボンブラックは、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びケッチェンブラックを含む概念である。ここでの熱処理温度は、粒子状炭素材原料の種類又は性状のような要因により一般的に規定できるものではないが、通常、1800℃以上2600℃以下に設定されるのが好ましい。当該温度範囲による熱処理時間は、熱処理時に用いる容器の大きさにもよるが、少なくとも2時間に設定されるのが好ましく、3時間以上に設定されるのがより好ましい。熱処理時間が2時間未満の場合は、内部まで均一に加熱されにくく、電解耐久性を示す粒子状炭素材が得られにくい場合がある。
【0073】
ここで用いられる粒子状炭素材原料は、次の条件Aまたは条件Bを満たすものが好ましい。
【0074】
(条件A)
平均粒径が20nm以上100nm以下、好ましくは30nm以上70nm以下。平均粒径が20nm未満の場合は、熱処理時にダメージを受けやすく、目的の粒子状炭素材が得られにくくなる可能性がある。逆に、100nmを超える場合、それにより得られる粒子状炭素材は、他の粒子状炭素材と同一重量を活物質に添加しても抵抗値を低下させにくい可能性がある。ここでの平均粒径は、透過型電子顕微鏡写真に基づいて測定した値である。
【0075】
(条件B)
ジブチルフタレート(DBP)の吸収量が100cm3/100g以上250cm3/100g以下、好ましくは120cm3/100g以上200cm3/100g以下。この吸収量が100cm3/100g未満の場合は、目的の粒子状炭素材が得られにくくなる可能性がある。逆に、250cm3/100gを超える場合は、熱処理後の粒子状炭素材を活物質と均一に混合するのが困難になる可能性がある。DBPの吸収量は、JIS K6217において規定された方法に準拠して測定された値である。具体的には、粒子状炭素材にDBPを添加したときの、粒子状炭素材100g当りのDBP吸収量を、アブソーブメーターを使用して測定した値である。
【0076】
粒子状炭素材原料は、上述の条件A及び条件Bの他、嵩密度が高めのものが好ましい。嵩密度が低い粒子状炭素材原料は、熱処理時に用いる容器内への投入量が少なくなるため、目的の粒子状炭素材の製造コストを高める可能性がある。ただし、嵩密度が高すぎると、その粒子状炭素材原料から得られる目的の粒子状炭素材は、活物質との均一混合が困難になるため、粉砕される必要がある。この理由から、粒子状炭素材原料としては、アセチレンブラック及びケッチェンブラックに比べて嵩密度が高い他のカーボンブラック、例えば、造粒したカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0077】
上述したような粒子状炭素材は、通常の炭素材、すなわち黒鉛化度(G値)が0.8を超える炭素質炭素材、及び黒鉛化度(G値)が0.3未満の黒鉛質炭素材とは異なる特有の耐酸化性を示す。具体的には、炭素質炭素材は、アルカリ二次電池の過充電時に発生する酸素ガスにより乾式酸化されやすく、黒鉛質炭素材は、アルカリ電解質により湿式酸化されやすい。これに対し、上述の粒子状炭素材は、炭素質炭素材及び黒鉛質炭素材のいずれにも区別できない特殊な性状を有するため、アルカリ二次電池内において乾式酸化及び湿式酸化のいずれも受けにくく、耐酸化性(電解耐久性)が高い。
【0078】
バインダを含有する導電材のコーティング液CLの溶媒は、活物質と反応することがなく、粘性が小さく、揮発し易い液体であれば特に限定することなく、水、エタノール、キシレン又はトルエンを使用可能であり、溶質若しくは分散質の溶解性及び分散性を考慮して選択される。
【0079】
バインダは、エチレンビニルアセテートのようなエチレン系コポリマー系樹脂、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、又はポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。バインダは、溶液、懸濁液、分散液又は乳化物いずれの形態でも用いることができる。
【0080】
炭素材は、溶媒に対して0.01質量%以上10質量%以下の割合で投入し、攪拌しながら混合される。溶媒に対する炭素材の割合が0.01質量%未満の場合は、後述する噴霧工程にかかる時間が長くなり、必要なコーティング液の量も多くなる。逆に、溶媒に対する炭素材の割合が10質量%を超える場合には、粘度が大きくなり、コーティング液の噴霧が困難となるとともに、均一に分散させることも困難となる。
【0081】
溶媒に添加するバインダ量は、炭素材と同量程度、具体的には炭素材量に対して50質量%以上150質量%以下であることが好ましい。バインダ量が50質量%よりも少ないと、炭素材の核粒子への密着性が充分でなく、炭素材が核粒子から剥離しやすい。一方、バインダ量が150質量%よりも多い場合は、炭素材の抵抗が高くなるため、充放電効率及び高率充放電性能の低下が引き起こされる。
【0082】
溶媒に対する炭素材の割合が0.01質量%に低い値であっても、一般的に炭素材の粉末はかさ密度が大きく、空気を取り込んでいるため、単に溶媒と攪拌及び混合したのみでは、溶媒中で均一に分散させることが難しい。そこで、溶媒に界面活性剤を添加して、表面張力を低くしておくことが好ましい。界面活性剤の添加量は、炭素材に対して、0.01質量%以上3質量%以下の範囲内に設定することが好ましい。界面活性剤の添加量が0.01質量%より少ない場合には、界面活性効果が十分に発揮されず、3質量%より大きい場合には、電池としての性能が低下することがある。
【0083】
炭素材の溶媒中の分散性を高めるために、分散剤をコーティング液に添加することも好ましい。分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸共重合体樹脂、セルロース系樹脂又は膠を使用することができる。分散剤の添加量は、炭素材に対して、0.01質量%以上2質量%以下の範囲内に設定することが好ましい。分散剤の添加量が0.01質量%より少ない場合には、分散効果が十分に発揮されず、2質量%より大きい場合には、電池としての性能が低下することがある。
【0084】
好適な正極活物質に対する導電材の添加量、炭素材料の黒鉛化度(G値)、溶媒の種類、バインダの種類及び配合量、界面活性剤の添加量、分散剤の種類及び添加量は、流動層コーティング法以外の方法によって、表面が炭素被覆された正極活物質(正極用粉末)を製造する場合においても同様である。
【0085】
水酸化ニッケル、耐酸化性カーボン及びバインダを溶媒と共に均一に混合した合材を作製し、これを発泡状ニッケルのような基材に充填する場合、流動層コーティンに用いるコーティング液よりも溶媒の配合量を大幅に減らす方が良い。溶媒の配合量を減らすことにより、合材中に含有されているバインダによる粘度増大効果が強くなり、比重の異なる各素材が互いに均一に分散するようになる。この合材を発泡基材に充填して、乾燥させることによって、水酸化ニッケル粒子の周囲に均一な炭素及びバインダのコーティング層が形成されるようになる。溶媒の配合量は、10〜40質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。配合量が10質量%未満の場合、合材の粘度が高すぎて基材への充填量にムラが生じやすくなる。一方、40質量%を超える場合、粘度が低下して、各材料の比重の影響で合材そのものが不均一なる他、発泡基材への充填密度が低下する。
【0086】
次に、作製されたコーティング液CLを、図2(a)の噴霧器49によって、流動槽43内の流動層47に向けて噴霧する(噴霧工程)。これにより、核粒子31の表面に炭素からなる導電材粒子33が付着する。
【0087】
コーティング液CLは、噴霧器49の先端のノズル57から流動槽43内に供給される。ノズル57の構成は、コーティング液CLをミストにして噴霧することができるノズルであれば特に限定されず、正極活物質からなる粉体の粒子径を考慮し、最適なノズルを選択することができる。先端に粉体が付着して閉塞するのを防止するため、図3に示されるノズル57の径方向中心部に設けられた気体供給口59と、気体供給口の外周部に設けられた液体供給口61とを備えて、外周からの圧縮空気により噴霧液をミスト化する二流体ノズル57を使用することが好ましい。
【0088】
二流体ノズル57の液体供給口61は、気体供給口59よりも、1mm以内の範囲で突出していることが好ましく、0.1mm〜1mmの範囲で突出していることがより好ましく、0.3mm〜1mmの範囲で突出していることがさらにより好ましい。電池活物質は、二粒体ノズルの先端において固着を起こしやすいので、液体供給口61が、気体供給口59よりも凹に構成されると、ノズル先端部において固着を起こしやすいからである。突出が微小であると、固着を回避しきれず、突出量が多すぎると、噴霧ノズルとしての微粒化性能が低下する。
【0089】
コーティング液CLの噴霧は、図2に示される流動槽43内で上方から下方に向けての噴霧(トップスプレー)でも、下方から上方にむけての噴霧(ボトムスプレー)でも、流動層47の側面から接線方向にむけての噴霧(接線スプレー)のいずれの方式でもよく、核粒子31の粒子径を考慮して選択され得る。一般的に粒子径が十数μmオーダー以下で、真比重が1g/cm3以上である正極活物質からなる核粒子31には、粉体に分散力を与えながら粒子表面に液滴を塗着させることのできる噴霧位置、すなわち接線又はボトムスプレーでの噴霧が好ましい。さらに、コーティング液CLは、これらの各方法を組み合わせて噴霧されてもよい。
【0090】
噴霧するコーティング液CLの送液速度は、流動槽43内の温度コントロールと密接な関係があり、コーティングに影響を与える。排気される空気の温度は、噴霧器49のコーティング液CLの送り速度と、空気流Aの流量及び温度とのバランスを考慮して設定され、概ね30℃〜45℃とするのが好ましい。水系のスラリーを用いる場合には、断熱飽和温度より少なくとも2℃以上、好ましくは3℃以上高くなるように、コーティング液CLが噴霧されることがより望ましい。排気温度が高すぎると、粉体にコーティング液CLが付着する前に、コーティング液CLの液滴中の溶媒が乾燥し、導電材粒子33が粉体に結着せず、導電材粒子33の結着効率が低下する。一方、排気温度が断熱飽和温度より低いと流動槽43内の核粒子31が濡れすぎて流動性が低下し、流動不良による凝集が発生することがある。従って、排気温度は断熱飽和温度より3〜12℃高くなるよう噴霧するコーティング液CLの送液速度を調整することが望ましい。例えば、流動化空気Aの温度が80℃の場合、排気温度は30℃〜40℃程度が適切である。
【0091】
次に、導電材粒子33が付着した核粒子31から溶媒を乾燥する(乾燥工程)。この場合、流動化工程における空気流Aを利用して乾燥を同時に行うことが効率的に好ましい。排風機45によって供給される空気流Aは、高温であること、具体的には、40℃〜120℃であることが好ましく、60℃〜110℃であることがより好ましく、70℃〜100℃であることがさらにより好ましい。空気流Aの流量を調整することにより、流動状態を調整することが可能である。
【0092】
正極用粉末の製造方法に用いられる流動層コーティング装置は、正極活物質からなる粉体の流動層47を形成し、バインダを含むコーティング液CLを噴霧できれば、流動層、転動流動層、噴流流動層又は解砕機構を備えた複合型流動層においても、特に限定されることなく各々の装置を使用し得る。対象となる粒子の粒子径を鑑み、最適な装置を選択し得るが、正極活物質からなる粉体の粒子径が十数ミクロン以下の微小粒子の場合には、噴流型又は転動流動型の流動層がより望ましい。
【0093】
装置上部には、正極活物質からなる粉体と流動化空気流Aとを分離するためのフィルタ65が設置されている。フィルタ65にはポリエステル製織布、ポリエステル製不織布又はメタルフィルタのような公知のフィルタを使用し得る。上記の機能を満足するものであれば材質又は形状に限定されることなく使用し得る。正極活物質からなる粉体の粒子径を考慮し、最適なフィルタ65を選択し得るが、正極活物質は、一般に10μm未満の粒子を多く含むため、メタルフィルタを利用することが好ましい。
【0094】
さらには、フィルタ65に捕集された正極活物質からなる粉体をフィルタ65から払い落とすための払落し機構67が設置されている。払落し機構67によりフィルタ65から払い落とされた粉体は、コーティング液CLが噴霧されている噴霧ゾーンに戻される。このような循環を繰り返すことにより、均等に導電材粒子33を核粒子31に付着させることが可能となる。このとき、払落し機構67は、フィルタ65の材質又は形状を考慮し、最適なものを選択し得る。例えば、シェーキング方式、又は高圧エアの逆に噴射によるパルスジェット方式が使用可能である。正極活物質の扱いにおいて特に好ましいのは、メタルフィルタとともに使用できるパルスジェット方式である。
【0095】
流動層コーティングによって製造される正極用粉末21の粒子は、図1に模式的に示されるように、流動層コーティングによって、正極活物質である核粒子31の各表面に、炭素からなる導電材粒子33が均一な分布で付着している。その結果、正極活物質間に強固な導電ネットワークが形成されるので、正極用粉末21を用いて、高出力特性を有する電池を安価に製造することができる。この正極用粉末21を用いた場合には、単に正極活物質と炭素とを混合して正極合材スラリーを作製する場合に必要となる有機溶媒を用いずに、水系の溶媒によって正極合材スラリーを作成することができる。
【0096】
<2.負極>
本発明のアルカリ二次電池は、負極活物質がコバルトを含有しないことを特徴としているが、具体的には、化学式1:RE1−xMgNiAlで表される水素吸蔵合金(REは希土類元素であり;0.05≦x≦0.3、2.9≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3である)を使用することが好ましい。上述したように、産業用途であれば、高出力特性及び長サイクル寿命特性に重点を置く必要があるため、3.0≦y + z≦4.7であることが好ましく、3.9 ≦y + z≦4.2であることがより好ましい。
【0097】
NiとAlの割合である「y+z」の大きさによって、化学式1の水素吸蔵合金の結晶構造が変化する。ここで、MgNi=L、CaCu型格子(従来のニッケル−水素電池用負極に用いられてきた水素吸蔵合金Mm(Ni,Co,Mn,Al)の結晶構造)=Cとすると、y+z=3のときは、「LCLC」パターンで積層したPuNi型又はCeNi型の結晶相が主相になるが、y+z=3.5のときは「LCCLCC」パターンで積層したGdCo型又はCeNi型相が主相になる。
【0098】
y+z>3.5のときには、「LCCCLCCC」パターンで積層したCeCo19型又はPrCo19型も含まれ、複数種類の積層結晶相が混在するようになる。さらに、y+z>3.7になると、積層相だけでなく、CaCu型相も混在するようになる。水素吸蔵合金中のNi含有割合が大きいと、水素解離圧を高い値に調整しやすく、密閉電池を構成した際に高い放電電圧を得やすい。高い放電電圧を得られる「y+z」の値としては、3.9以上4.7以下が良好である。CaCu型の水素吸蔵合金は、充放電時の微粉化を抑制し、長寿命化するために、Coをある程度含有させる必要があるが、積層相との混合相を形成している場合、Coが含有されていなくとも長寿命化を図ることが可能である。
【0099】
しかし、「y+z」の値が増大し過ぎると、CaCu型結晶相の割合が大きくなりすぎて、CaCu型結晶相のみからなる水素吸蔵合金の性質に近づき、サイクル寿命も低下する。高電圧放電およびサイクル寿命特性の両方を考慮すると、「y+z」の値は、3.9以上4.2以下がより好ましい。
【0100】
インゴット状の水素吸蔵合金を粉砕して得られた水素吸蔵合金粉末と、結着剤と、必要に応じて添加される導電性粉末とを混合することによって、ペースト状の合材が得られる。この合剤を集電体に塗布又は充填し、乾燥させた後、ローラプレスを用いて圧延することにより、本発明で使用される水素吸蔵合金からなる負極が製造され得る。
集電体の具体例は、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網のような二次元基板、箔状基板、板状基板、発泡金属基板、網状焼結繊維基板、織布若しくは不織布へ金属をめっきした三次元基板、及びニッケル正極で用いられる発泡状ニッケルである。
【0101】
結着剤の具体例は、ポリアクリル酸ソーダ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)である。このような結着剤は、水素吸蔵合金の質量に対して、0.1〜5質量%の割合で配合されることが好ましい。
【0102】
導電助剤は、導電性を有する粉末であればよい。導電助剤の具体例は、黒鉛粉末若しくはカーボンブラックのような炭素材料、又はニッケル若しくは銅のような金属粉末である。このような導電助剤は、水素吸蔵合金の質量に対して、0.1〜5質量%の割合で配合されることが好ましい。
【0103】
この他、PTFE又は炭素材は、疎水性を示すため、水素吸蔵合金負極の合材に添加されたり、負極表面に塗布されたりすることによって、負極表面で固相-液相-気相の三相界面を形成する。この三相界面は、過充電時に正極から発生した酸素ガスの吸収反応(2MH+1/2O→M+HO;Mは負極活物質であり、MHは水素を吸蔵した負極活物質である)を好適に促進する。
【0104】
<3.電解液>
本発明のアルカリ二次電池は、アルカリ水溶液からなる電解液を使用する。電解液としては、KOH、NaOH、LiOHの水溶液、又はこれら2つ以上の混合水溶液を使用し得る。3種類の中ではKOHの水溶液が最もイオン導電率が高く、特に6〜8N水溶液が高い導電率を示す。充電反応と競合して生じる酸素発生を抑えて充電効率を向上させるために、NaOH又はLiOHを適宜添加することが効果的である。LiOHは、酸素発生抑制及び充電効率向上の効果が高いが、KOH水溶液への溶解量は、それほど大きくない。充電効率向上を要求される用途であれば、LiOHのみならずNaOHも添加して補う必要がある。
【0105】
電解液の好適例は、KOH及びLiOHを含有する水溶液である。KOHの濃度は、6~8Nとすることが好ましく、LiOHの濃度は0.05~2Nとすることが好ましい。LiOHをKOH水溶液に添加した場合、充電効率が向上して電極の劣化が生じにくくなり、サイクル寿命の向上に効果がある。しかし、導電率がKOH又はNaOHよりも低いために、高出力特性が低下する可能性がある。
【0106】
高出力特性が重視される場合には、LiOH添加量を減らすか、又はLiOHを添加せず、替わりにNaOHを添加してもよい。この場合、KOHの濃度は3~8Nとすることが好ましく、NaOHの添加量は0.1〜3Nが好ましく、水酸化リチウムの濃度は0〜1Nが好ましい。
【0107】
<4.セパレータ>
セパレータ材料としては、電気絶縁性、補液性及びガス透過性を備えつつ、耐アルカリ性と耐酸化性も有する材料であれば特に限定されない。スルホン化処理によって親水性を向上させたポリプロピレン不織布などが好適に使用可能である。素材となるポリマーについては、ポリプロピレンの他、例えば、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、エチレンビニルアセテート、スチレン−ブチレン−エチレン−スチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンも使用可能である。セパレータの形態としては、不織布以外にも、織布、微多孔膜又はフィルムも使用可能である。複数のポリマー素材を用いて構成したセパレータも使用可能である。
【0108】
<5.電池構成>
電池は、その用途に応じて正極、負極、電解液又はセパレータの仕様を変更する必要がある。例えば、産業用電池は、一般的に大型車両を駆動させつつ、10年程度の長期間の使用に耐えなければならない。つまり、サイクル寿命及び高出力特性の両方を向上させる必要がある。
【0109】
サイクル寿命を向上させるためには、電解液としてLiOHを1.5mol/Lまで溶解させたKOH水溶液を用いることが好ましい。しかし、これではKOH単体を電解液とした場合よりも放電電圧が低下してしまい、1Cの放電電圧1.2Vを下回る場合もある。
【0110】
そこで、高出力特性を補うために、負極の合金組成を調整することが好ましい。具体的には、化学式1:RE1−xMgNiAlで表される水素吸蔵合金において3.9 ≦y + z≦4.2としておけば、電池寿命も維持しつつ、後述の図5に示すように、高出力特性を向上させることができる。
【0111】
このほかにも、正極活物質である水酸化ニッケルのニッケルサイトの一部を他元素で置換する方法によって、電池性能の調整が可能である。他元素は、具体的には、(1) 充電効率を向上させる効果を有する亜鉛又はコバルト;(2) 水酸化ニッケルの理論容量を1.2~1.5倍に向上させる効果を有するアルミニウム又はマンガン:である。
【0112】
亜鉛又はコバルトを水酸化ニッケルに内部添加すると、充電反応と競合する酸素発生を抑制し、充電効率を向上させることができる。これによって、電池の劣化を抑制し、長期間の性能保持が可能となる。電池温度があまり上昇せず、常温付近で充放電を繰り返す場合、亜鉛を0.1〜5mol%添加することで、十分に劣化抑制効果及び性能保持効果が得られる。この場合、コバルトは添加しなくともよいが、電池温度が40℃以上になる場合には、亜鉛と共にコバルトを少量添加することで、劣化抑制効果及び性能保持効果が得られる。コバルト添加量は0.1〜1mol%で十分である。
【0113】
この場合、コバルトは水酸化ニッケルの結晶中に組み込まれており、水酸化ニッケル表面にコーティングされた導電助剤であるコバルト化合物のように、電解液中には溶出しない。従って、本発明のアルカリ二次電池は、コバルトが内部添加された水酸化ニッケルを正極活物質として採用することが可能である。
【0114】
アルミニウム又はマンガンを添加すると、水酸化ニッケルが通常のβ型の結晶構造からα型の結晶構造に転移する。通常のβ型水酸化ニッケルの理論容量は289mAh/gであるが、α型水酸化ニッケルの理論容量は350~430mAh/g程度まで増大する可能性がある。このα型水酸化ニッケルを用いれば、電池を高容量化することができる。α型水酸化ニッケルであれば、基材への水酸化ニッケル充填量を減らして、高出力型の薄い電極を作製しつつ、電極容量の減少を抑えることも可能である。
【0115】
従来は、厚いセパレータが採用されることによって、電極からの元素溶出と、溶出した元素の再析出による微小短絡経路の形成によって引き起こされる自己放電が、ある程度防止されていた。しかし、コバルトフリー電池では、このような経路を形成する要素がないため、セパレータを薄くすることが可能である。従来の産業用電池では、厚さ200〜500μmのセパレータが用いられていたが、本発明のアルカリ二次電池では、150μm以下までセパレータを薄くできると考えられる。セパレータが薄くなった分だけ、搭載できる電極数が増大するので、電池の高容量化(体積エネルギー密度の向上)が可能である。正極と負極の距離が短くなることで、充放電反応がスムーズに進行するので、高出力特性の向上にもつながると考えられる。
【0116】
[正極の製造例]
(1.コバルトフリー正極用粉末の作製)
炭素からなる導電材粒子として、ラマン分光法により分析した黒鉛化度(G値)が0.33のカーボンブラックを用い、これとエチレンビニルアセテートバインダとを混合してカーボンブラック分散液(コーティング液)を調製した。このカーボンブラック分散液を転動式の流動層コーティング装置内で、水酸化ニッケル粒子に噴霧し、炭素被覆処理を施した。具体的な作製方法を以下に説明する。
【0117】
60℃に湯煎して加熱したキシレン95重量部中に、エチレンビニルアセテート樹脂50質量%とカーボン50質量%の混合物5重量部を、予め乳鉢にて予備粉砕してから溶解分散させ、所望のバインダを含有する導電材粒子33のコーティング液CLを調製した。次に、流動層コーティング装置((株)パウレック製、MP-01)に、予め湿式レーザ回折・散乱法(MICROTRAC社製、MT3000II)によって、全物質の平均粒子の屈折率1.81、分散溶媒の屈折率1.333で粒度分布を測定した正極活物質(水酸化ニッケル、D50=12μm)を1000g投入した。90℃に加熱した0.25m3/minの流動化空気と300min-1で回転させた流層底部のロータで、水酸化ニッケルからなる核粒子を転動及び流動化させた。
【0118】
流動層コーティング装置のメッシュには、平畳織り、110mesh、ろ過粒度150μmの金属製メッシュを使用した。フィルタには円筒状の綾畳織り2μmの金属製フィルタを使用した。払い落としは、パルスジェット方式により、フィルタ上部から0.5MPaの圧縮空気を、インターバル3秒間隔で、0.2秒間で噴射した。
【0119】
続いて、調製したバインダを含有する導電助剤のコーティング液CLを、マグネチッククスターラー(ヤマト科学(株)製、MAG MIXER)を用いて攪拌しながら、チュービングポンプ(ワトソンマーロ製505S)によって2~3g/minの割合で送液し、ミスト化装置(シュリック製、970-S23)によりミスト化し、流動層内に接線スプレーで噴霧した。
【0120】
このとき、コーティング液CLをミスト化する空気流量(アトマイズエア)を45L/minとした。正極活物質からなる粉体と分離されて、装置外に排気された空気(排気)の温度は37〜45℃であった。調製したコーティング液CLを噴霧し、投入した原料粉体に対してカーボンの重量割合が6質量%になったところで、コーティングを終了した。
【0121】
図4は、このようにして製造された、炭素を表面に被覆された水酸化ニッケル粉末(炭素被覆水酸化ニッケル)の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。図4に示されるように、水酸化ニッケルの核粒子の表面の一部は、この核粒子よりも小さい粒径を有する導電材粒子で覆われていた。この電子顕微鏡写真から測定した核粒子の導電材粒子による表面被覆率は、約30~50%であった。
【0122】
(2.コバルトフリー正極の作製)
得られた炭素被覆水酸化ニッケルは、CMC水溶液に分散させられ、水分量20質量%のスラリーが調製された。このスラリーは、厚さ0.65mmに調厚された発泡状ニッケル集電体に充填され、次いで乾燥され、ローラプレス機を用いて厚さ0.35mmにプレスされることによって、コバルトフリー正極が得られた。電極重量から発泡基材の重量を差し引き、正極容量を見積もったところ、580mAhであった。
【0123】
(3.コバルト被覆水酸化ニッケル正極の作製)
市販のコバルトコート水酸化ニッケル(田中化学研究所製CZ)に水酸化コバルト、CMC、及びPTFEをそれぞれ3質量%、0.2質量%、及び2質量%添加し、さらに水を加えて水分量20質量%としたスラリーが調製された。コバルトフリー正極の作製方法と同様にして、発泡状ニッケル基材にこのスラリーが充填され、プレスされることによって、コバルト被覆水酸化ニッケル正極が得られた。この正極の容量は、600mAhであった。
【0124】
[負極の製造例]
(1.コバルトフリー負極1の作製)
【0125】
得られた負極合金粉末と、SBRバインダと、ポリアクリル酸ソーダと、CMC増粘剤と、炭素粉末(ケッチェンブラック)とを、質量比で100:1.5:0.5:0.2:0.5の割合で混合した。混合物にイオン交換水を加えて、水分量22質量%のスラリーを調製した。このスラリーを厚さ0.05mmのパンチングメタル基材に塗布し、乾燥させた。その後、ローラプレス機を用いて厚さ0.35mmにプレスすることによって、コバルトフリー負極1とした。電極重量から基材の重量を差し引き、負極目付を見積もったところ、1750g/m2であった。
【0126】
(2.コバルトフリー負極2の作製)
【0127】
(3.コバルトフリー負極1の作製)
【0128】
(4.コバルト含有負極の作製)
【0129】
コバルトフリー正極及びコバルトフリー負極1は、セパレータとして厚さ120μmのスルホン化処理ポリプロピレン不織布を介して配置され、捲回されることによって電極群が得られた。この電極群は、Sub-Cサイズの円筒型電槽(直径23mmφ×高さ43mm)に配置された。この際、円筒型電槽と電極群との隙間には、ポリプロピレン製のスペーサが挿入され、電極群が固定された。6.5M-KOH/1.5M-LiOHの電解液3.5gが注入され、さらに封缶されることによって、実施例1の密閉型電池が得られた。実施例1の密閉型電池の電池容量は、760mAhであった。
【0130】
コバルトフリー負極1の代わりにコバルトフリー負極2が使用される以外、すべて実施例1と同様にして、実施例2の密閉型電池が得られた。実施例2の密閉型電池の電池容量は、760mAhであった。
【0131】
コバルトフリー負極1の代わりにコバルトフリー負極3が使用される以外、すべて実施例1と同様にして、実施例3の密閉型電池が得られた。実施例3の密閉型電池の電池容量は、760mAhであった。
【0132】
コバルトフリー負極1の代わりにコバルト含有負極が使用される以外、すべて実施例1と同様にして、比較例1の密閉型電池が得られた。比較例1の密閉型電池の電池容量は、760mAhであった。
【0133】
コバルトフリー正極の代わりにコバルト被覆水酸化ニッケル正極が使用される以外、すべて実施例1と同様にして、比較例2の密閉型電池が得られた。比較例2の密閉型電池の電池容量は、760mAhであった。
【0134】
(密閉型電池試験1/充放電試験)
実施例1〜3、及び比較例1の密閉型電池について、充放電試験を行った。充放電試験は、(a) 充電:1C、110%/放電:1C、終止電圧0.8V;及び(b) 充電1C、110%/放電:10C、終止電圧0.6V:の2通り実施された。試験環境温度は、25℃であった。
【0135】
図5は、実施例1〜3、及び比較例1の密閉型電池の充放電サイクル試験結果に関するグラフを示す。図5(a)は放電時1C/終止電圧0.8Vの場合、図5(b)は放電時10C/終止電圧0.6Vの場合である。1C及び10Cいずれの放電においても、コバルトフリーである実施例1〜3の密閉型電池(密閉型アルカリ二次電池)は、比較例1の密閉型電池よりも高い放電電圧を示した。その差は、1C放電において20~40mVであり、10C放電において0.2Vに達した。
【0136】
図5(a)及び(b)に示されるように、コバルトフリー負極を使用した密閉型電池は、負極合金の「y+z」の値が3.9以上4.7以下の範囲では、ほぼ同等の高い放電電圧を示したが、「y+z」の値が大きい方が、放電電圧も高くなる傾向が認められた。
【0137】
(密閉型電池試験2/サイクル特性試験)
図6は、実施例1〜3、及び比較例1の密閉型電池のサイクル特性に関するグラフを示す。実施例1の密閉型電池では、500サイクルを経たあたりから放電容量の低下が認められた。負極合金の「y+z」の値は、実施例1<実施例2<実施例3であるが、「y+z」の値が増大するにつれて、放電容量が低下し始めるサイクル数が減少する傾向が認められた。
【0138】
(負極合金の結晶構造解析)
実施例1〜3、及び比較例1で使用された負極合金について、高輝度放射光施設Spring-8のビームラインBL19B2を用いて、波長λ=0.412ÅのX線を用いて、粉末X線回折パターンを測定した。測定用合金粉末は、リンデマンガラス製のキャピラリ(0.2mmφ)に封入した。
【0139】
Rietveld法による結晶構造解析を行ったところ、実施例1〜3は、CaCu型相、CeCo19型相及びPrCo19型相の3種類を仮定することによって、回折ピークの強度及び形状を精度よく再現できることが確認された。同様に、比較例1の合金は、CaCu型相の単相で再現できた。結晶構造解析によって、各相の重量分率が導き出された。
【0140】
図7は、それぞれの負極合金に含有される積層相及び従来合金相の種類及び量(質量%)を示す。図7より、実施例で使用されているコバルトフリー負極合金の「y+z」の値が大きくなるにつれて、従来合金相であるCaCu型結晶相の割合が増大することが確認された。このために、「y+z」の値が大きくなるにつれて、コバルトフリー負極合金の性質は、従来のCaCu型結晶相単体の性質に近づき、Coを含有していないために充放電によって微粉化が進行し、サイクル寿命が低下しやすくなることが推察された。
【0141】
(密閉型電池試験3/自己放電試験)
実施例1及び比較例1の密閉型電池について、充放電サイクルを50回繰り返した。充電条件は、1C、110%であり、放電条件は1C、終止電圧0.8Vであった。試験環境温度は、25℃であった。その後、(1) 環境温度25℃において、1C、110%で充電;(2) 端子を外して、環境温度45℃で1週間保管;(3) 環境温度25℃において、1C、終止電圧0.6Vで放電させて、密閉型電池の自己放電量を確認した。
【0142】
図8は、実施例1及び比較例1の密閉型電池の上記(3)の時点における放電曲線を示す。実施例1については、(1)の充電後、10分経過後の放電曲線も図8中に示されている。図8に示されるように、実施例1の密閉型電池の方が、より高い放電容量を示した。実施例1及び比較例1の密閉型電池ともに、45℃の高温中に置かれたことにより、正極活物質の一部が充電状態のオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)から放電状態の水酸化ニッケル(Ni(OH)2)に戻ったことが、放電量減少の主な原因になったと推察された。比較例1の密閉型電池では、50回の充放電を繰り返す間及び45℃の保管中に、負極合金から溶出したコバルトがセパレータに再析出して微小短絡経路が形成されたために、実施例1の密閉型電池よりも自己放電量が大きくなったと推察された。
【0143】
(密閉型電池試験4/過充電時のサイクル耐久試験)
次に、実施例1及び比較例2の密閉型電池を用いて、過充電時のサイクル耐久試験を行った。充電条件は、1Cで0.9時間、及び0.3Cで2時間とし、合計150%充電した。放電条件は、1C、終止電圧1Vであり、50サイクル毎に0.2C、終止電圧1.0Vとした。試験環境温度は、25℃であった。
【0144】
図9は、実施例1及び比較例2の密閉型電池のサイクル耐久特性に関するグラフを示す。従来、炭素を導電助剤に用いた場合に過充電を行うと、炭素が酸化されて二酸化炭素のようなガスに変化してしまい、正極の性能が著しく低下することが知られている。しかし、図9より、耐酸化性炭素を導電助剤とした水酸化ニッケルを正極材として使用した実施例1の密閉型電池は、従来のコバルト被覆水酸化ニッケルを正極材として使用した比較例2の密閉型電池と比較して、ほぼ同等の高い容量維持率を示した。
【0145】
(密閉型電池試験5/高率放電試験)
実施例1及び比較例2の密閉型電池について、高率放電試験を行った。高率放電試験は、充電:1C、110%/放電:10C、終止電圧0.6V;という条件で行われた。試験環境温度は、25℃であった。
【0146】
図10は、実施例1及び比較例2の密閉型電池の高率放電試験に関するグラフを示す。図10に示されるように、コバルトフリー正極を使用した実施例1の密閉型電池は、コバルト被覆水酸化ニッケル正極を使用した比較例2の密閉型電池と比較して、より高い電圧を示すことが確認された。
【0147】
[実施例4]
コバルトフリー正極、コバルトフリー負極1、実施例1と同じセパレータ、及び実施例1と同じ電解液を使用して、実施例4の開放型電池が得られた。実施例4の開放型電池の電池容量は、120mAhであった。
【0148】
[比較例3]
コバルト被覆水酸化ニッケル正極、コバルトフリー負極1、実施例1と同じセパレータ、及び実施例1と同じ電解液を使用して、比較例3の開放型電池が得られた。比較例3の開放型電池の電池容量は、120mAhであった。
【0149】
(開放型電池試験1/強制短絡試験)
実施例4及び比較例3の開放型電池を用いて、強制短絡試験を行った。まず、(1) 0.25C、120%の条件で充電し;次に、(2) 0.25C、終止電圧1.0Vの条件で放電させた。充電及び放電時の環境温度は、25℃であった。その後、(3) 正極端子と負極端子を短絡させ、45℃の恒温槽内で一定日数保管した。
【0150】
図11は、実施例4及び比較例3の開放型電池について、短絡日数((3)の保管日数)と、45℃保管後の容量維持率との関係をプロットしたグラフを示す。図11に示されるように、コバルト被覆水酸化ニッケル正極を使用した比較例3の開放型電池は、短絡日数が長くなるにつれて容量維持率が低下し、6週間の保管後の容量維持率は初期の83%まで低下した。一方、コバルトフリー正極を使用した実施例4の開放型電池は、容量の低下が少なく、6週間の保管後の容量維持率は、初期の96%であった。
【0151】
(開放型電池試験2/強制過放電試験)
実施例4及び比較例3の開放型電池について、強制過放電試験を行った。まず、(1) 0.25C、120%の条件で充電し;次に、(2) 0.25C、10時間の条件で放電させた。(1)及び(2)の工程を繰り返し、電池容量の200%に相当する放電を行った。充電及び放電時の環境温度は、25℃であった。
【0152】
図12は、電池容量の200%に相当する放電を行った次の充放電サイクルにおける、実施例4及び比較例3の開放型電池の充放電曲線を示す。図12に示されるように、比較例3の開放型電池は、放電容量が初期の39%まで大幅に低下した。一方、実施例4の開放型電池は、強制過放電を経た次のサイクルにおいても、放電容量が初期の82%であった。
【0153】
正極−負極間を短絡して高温に保持する場合、又は強制的に過放電させた場合、導電ネットワークを形成していたオキシ水酸化コバルトは、水酸化コバルトに還元されてしまう。水酸化コバルトは導電性が低く、導電ネットワークとしては十分に機能しないうえ、その一部は電解液中に溶出してしまう。再度充電を行う際に、一部のコバルトは再析出して導電ネットワークを再構成するが、完全に元の状態には戻らず、セパレータに再析出してしまうものもある。このため、電池容量の低下といった電池性能の劣化が引き起こされると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0154】
図8、図11及び図12に示されるように、正極又は負極のどちらか一方の活物質にコバルトが含有されている場合には、電解液中へのコバルト溶出と、充電時のコバルト再析出が繰り返されるために、容量劣化及び自己放電量の増大が引き起こされる。バス又は電車のような公共交通機関、ガントリークレーンのような大型機械の駆動及び回生エネルギー利用、又は風力発電若しくは太陽光のような自然エネルギー発電のピークカットに使用される大型産業用電池は、従来の小型民生用電池と比べて、過酷な状況で長期間使用されることを前提としており、高出力特性、高容量特性、サイクル寿命特性、低自己放電性、過放電耐性及び過充電耐性といった、より多くの要求に応えなければならない。
【0155】
正極利用率を向上させる導電助剤、及び負極合金の微粉化防止剤として、従来は活物質に必須とされたコバルトであるが、本発明のコバルトフリーのアルカリ二次電池は、コバルトフリー正極及びコバルトフリー負極とを組み合わせることによって、正極及び負極の活物質をコバルトフリーの代替材料で置き換えることができるだけでなく、電極構成元素の溶出を抑え、自己放電抑制機能及び過放電耐性を大幅に向上させることが可能である。
【0156】
本発明のコバルトフリーのアルカリ二次電池は、様々な技術分野における大型産業用の二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0157】
21:正極用粉末(炭素被覆された正極活物質)
31:核粒子
33:炭素からなる導電材粒子
37:反応部
41:流動層コーティング装置
43:流動槽
45:排風機
47:流動層
49:噴霧器
51:ディスクロータ
53:空気分散板
55:インペラ
57:ノズル
59:気体供給口
61:液体供給口
65:フィルタ
67:払落し機構
A:空気流
CL: コーティング液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電助剤としてコバルトを含有しない正極材を有する正極と、
コバルトを含有しない負極活物質を有する負極と、
アルカリ水溶液からなる電解液と、
セパレータと、
を備えるアルカリ二次電池。
【請求項2】
前記正極材が、炭素を表面に被覆させた正極活物質である、請求項1に記載のアルカリ二次電池。
【請求項3】
前記正極材が、炭素を表面に被覆させた水酸化ニッケルである、請求項1又は2に記載のアルカリ二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質が、化学式1:RE1−xMgNiAl
で表される水素吸蔵合金である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルカリ二次電池:
ここで、REは希土類元素であり;
0.05≦x≦0.3、2.9≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3である。
【請求項5】
前記電解液が、水酸化カリウム及び水酸化リチウムを含有する水溶液である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルカリ二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−204177(P2012−204177A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68463(P2011−68463)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】