説明

コモンレール及びコモンレールの製造方法

【課題】主管孔と分岐孔との境界である開口部の周縁の内圧疲労強度をより簡易な方法によって高めることのできるコモンレール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コモンレール10は、主管12及び分岐用筒部14を備えている。主管12の外周に分岐用筒部14が設けられており、主管12の内部に形成されている主管孔12aが分岐用筒部14の内部に形成されている分岐孔14aに連通している。分岐孔14aの一方の端部は、主管孔12aに向かって開口する開口部18となっている。分岐用筒部14は主管12の外周から取り外し可能となっているとともに、開口部18の周縁に機械的手段を用いて圧縮残留応力が付与されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール及びコモンレールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンにおける蓄圧式燃料噴射システムに使用されるコモンレールとして、特許文献1に記載されたコモンレールが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−195125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4は、従来のコモンレール100の断面図である。図4に示すように、従来のコモンレール100は、円筒状に形成された主管102と、その主管102の外周に一体に設けられた複数の円筒状の分岐用筒部104を備えている。主管102の内部には、その軸線方向に沿って主管孔102aが形成されている。分岐用筒部104の内部には、その軸線方向に沿って分岐孔104aが形成されている。分岐孔104aには、他の部分よりも径が小さいオリフィス部106が形成されており、このオリフィス部106を介して主管孔102aと分岐孔104aが連通している。また、分岐孔104aの一方の端部は、主管孔102aに向かって開口する略円形の開口部108となっている。
【0005】
主管孔102aの内部には、高圧のディーゼル燃料が一時的に貯留されるようになっている。この主管孔102aの内部に貯留されている高圧のディーゼル燃料は、オリフィス部106を通過した後に、各分岐孔104aに分配されるようになっている。各分岐孔104aに分配されたディーゼル燃料は、図示しないインジェクタに供給され、このインジェクタによってエンジンの燃焼室内に噴射されるようになっている。
【0006】
従来のコモンレール100において、主管孔102aの内部には高圧のディーゼル燃料が貯留されているために、主管孔102aの内壁には引張応力が常時作用した状態となっている。特に、主管孔102aとオリフィス部106が垂直に交差する開口部108の周縁には引張応力が集中した状態となっており、主管孔102aの内壁に金属疲労を原因とするひび割れ等が発生するおそれがあった。
【0007】
そこで、従来、主管孔102aの内壁に対して、例えば砥粒流動加工などの流体研磨によってエッジのバリ除去を施したりするなどの対策がなされていた。あるいは、主管102及び分岐用筒部104の材料として内圧疲労強度に優れる高価な材料を用いるなどの対策がなされていた。しかし、これらの対策は、いずれもコストが多くかかるという問題があった。
【0008】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであって、主管孔と分岐孔との境界である開口部の周縁の内圧疲労強度をより簡易な方法によって高めることのできるコモンレール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、主管の外周に分岐用筒部が設けられており、前記主管の内部に形成されている主管孔が前記分岐用筒部の内部に形成されている分岐孔に連通しているとともに、前記分岐孔の一方の端部が前記主管孔に向かって開口する開口部となっているコモンレールであって、前記分岐用筒部は前記主管の外周から取り外し可能となっているとともに、前記開口部の周縁に圧縮残留応力が付与されていることを特徴とするコモンレールである。
【0010】
本発明において、前記開口部の周縁には機械的手段を用いて圧縮残留応力が付与されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、主管の外周に分岐用筒部が設けられており、前記主管の内部に形成されている主管孔が前記分岐用筒部の内部に形成されている分岐孔に連通しており、前記分岐孔の一方の端部が前記主管孔に向かって開口する開口部となっているコモンレールの製造方法であって、前記開口部の周縁に機械的手段を用いて荷重を加える工程を含むことを特徴とするコモンレールの製造方法である。
【0012】
本発明によれば、コモンレールの主管孔と分岐孔との境界である開口部の周縁に機械的手段を用いて荷重を加えることが可能である。したがって、開口部の周縁の内圧疲労強度をより簡易な方法によって高めることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、主管孔と分岐孔との境界である開口部の周縁の内圧疲労強度をより簡易な方法によって高めることのできるコモンレール及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】コモンレールの断面図である。
【図2】主管の外周から分岐用筒部を取り外した状態のコモンレールを示す断面図である。
【図3】開口部の周縁に機械的手段を用いて荷重を加える工程について説明するための説明図である。
【図4】従来のコモンレールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1、図2に示すように、本実施形態のコモンレール10は、円筒状に形成された主管12と、その主管12の外周に設けられた複数の円筒状の分岐用筒部14を備えている(なお、図1及び図2では、1個の分岐用筒部14のみ示している)。主管12の内部には、その軸線方向に沿って主管孔12aが形成されている。分岐用筒部14の内部には、その軸線方向に沿って分岐孔14aが形成されている。分岐孔14aには、他の部分よりも径が小さいオリフィス部16が形成されている。このオリフィス部16を介して主管孔12aと分岐孔14aが連通している。また、分岐孔14a(オリフィス部16)の一方の端部は、主管孔12aに向かって開口する略円形の開口部18となっている。
【0016】
主管孔12aの内部には、高圧のディーゼル燃料が一時的に貯留されるようになっている。この主管孔12aに貯留されている高圧のディーゼル燃料が、オリフィス部16を通過した後に、各分岐孔14aに分配されるようになっている。各分岐孔14aに分配されたディーゼル燃料は、図示しないインジェクタに供給され、このインジェクタによってエンジンの燃焼室内に噴射されるようになっている。
【0017】
図2に示すように、分岐用筒部14は、主管12の外周から取り外すことが可能となっている。すなわち、主管12の外周には雌ネジ孔12bが形成されており、分岐用筒部14の外周には第1の雄ネジ部14bが形成されている。第1の雄ネジ部14bを雌ネジ孔12bに螺合することによって、主管12の外周に分岐用筒部14を着脱可能に取り付けることが可能となっている。
【0018】
図1、図2に示すように、分岐用筒部14の外周には、鍔状のフランジ部20が形成されている。フランジ部20の下面には、円環状の突起22が一体に形成されている。一方、主管12の外周には、フランジ部20よりもやや大きい略円形の凹部24が形成されている。雌ネジ孔12bに対して雄ネジ部14bを螺合したときには、凹部24に対してフランジ部20が嵌め込まれるとともに、凹部24の底面に対して突起22の下端部が接触した状態となる。これにより、凹部24とフランジ部20との間をシールすることが可能となっており、主管孔12aに貯留されている高圧のディーゼル燃料の漏出が防止されている。
【0019】
また、分岐用筒部14の外周には、第2の雄ネジ部14cが形成されている。この第2の雄ネジ部14cには、図示しないインジェクタへ燃料を供給するインジェクションパイプの一端が接続されるようになっている。すなわち、図示しないインジェクションパイプの一端にはアダプタが取り付けられており、このアダプタの内周に形成されている雌ネジ部を第2の雄ネジ部14cに螺合することによって、インジェクションパイプの一端を分岐用筒部14に接続することが可能となっている。
【0020】
主管12及び分岐用筒部14の材料としては、例えば、炭素鋼(S45Cなど)や、クロム鋼(SCr430など)、クロムモリブデン鋼(SCM435など)を用いることが可能である。主管12及び分岐用筒部14は、鋳造や切削加工などの公知の方法を用いて製造することが可能である。
【0021】
図3に示すように、分岐用筒部14を主管12の外周から取り外した状態において、分岐用筒部14の下面に開口している開口部18の周縁に対して、棒状の押圧部材30の先端部を下方から押し当てる。この押圧部材30は、分岐用筒部14と同じかそれよりもやや高い硬度の材料で形成されている。この押圧部材30の先端部は、例えば半球状に形成されており、開口部18の周縁に対して荷重を均等に加えることが可能となっている。これにより、開口部18の周縁に圧縮残留応力を均等に付与することが可能となっている。押圧部材30が、本発明の「機械的手段」に対応している。
【0022】
開口部18の周縁に圧縮残留応力を付与することによって、主管孔12aに貯留されたディーゼル燃料の内圧による引張応力を相殺することが可能であり、開口部18の周縁の内圧疲労強度を高めることが可能となる。
【0023】
本実施形態のコモンレール10及びその製造方法によれば、主管孔12aと分岐孔14aとの境界である開口部18の周縁に機械的手段を用いて荷重を加えることが可能である。したがって、開口部18の周縁の内圧疲労強度をより簡易な方法によって高めることが可能となる。
【0024】
また、本実施形態のコモンレール10及びその製造方法によれば、引張応力が集中する部位である開口部18の周縁の内圧疲労強度を高めることができるので、主管12及び分岐用筒部14の材料として耐圧疲労強度のあまり高くない安価な材料(例えばS45Cなどの炭素鋼)を用いることが可能となる。
【0025】
また、本実施形態のコモンレール10及びその製造方法によれば、引張応力が集中する部位である開口部18の周縁の内圧疲労強度を高めることができるので、自緊法(オートフレッテージ法)や熱処理を廃止することが可能である。
【0026】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では、押圧部材30が棒状に形成されている例を示したが、例えば球状の押圧部材を押圧することで開口部18の周縁に圧縮残留応力を付与することも可能である。
(2)上記実施形態ではフランジ部20の下面に環状の突起22が形成されている例を示したが、突起22が形成されていない場合であっても本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
10…コモンレール
12…主管
12a…主管孔
14a…分岐孔
14…分岐用筒部
16…オリフィス部
18…開口部
30…押圧部材(機械的手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管の外周に分岐用筒部が設けられており、前記主管の内部に形成されている主管孔が前記分岐用筒部の内部に形成されている分岐孔に連通しているとともに、前記分岐孔の一方の端部が前記主管孔に向かって開口する開口部となっているコモンレールであって、
前記分岐用筒部は前記主管の外周から取り外し可能となっているとともに、前記開口部の周縁に圧縮残留応力が付与されていることを特徴とするコモンレール。
【請求項2】
請求項1に記載のコモンレールであって、
前記開口部の周縁には機械的手段を用いて圧縮残留応力が付与されていることを特徴とするコモンレール。
【請求項3】
主管の外周に分岐用筒部が設けられており、前記主管の内部に形成されている主管孔が前記分岐用筒部の内部に形成されている分岐孔に連通しており、前記分岐孔の一方の端部が前記主管孔に向かって開口する開口部となっているコモンレールの製造方法であって、
前記開口部の周縁に機械的手段を用いて荷重を加える工程を含むことを特徴とするコモンレールの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−106397(P2011−106397A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264153(P2009−264153)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000185488)株式会社オティックス (305)
【Fターム(参考)】