説明

コラーゲンゲル収縮剤

【課題】コラーゲンゲル収縮剤を提供する。
【解決手段】コラーゲンおよび線維芽細胞を含むコラーゲンゲルを収縮させる、コラーゲンゲル収縮剤であって、リンゴ抽出物を含むコラーゲンゲル収縮剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンゲル収縮剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、真皮組織モデルとして、コラーゲンゲルが、薬剤評価に利用されている。前記コ
ラーゲンゲルは、コラーゲン液に線維芽細胞を懸濁し、前記線維芽細胞の培養条件下でゲル化させたものである。前記線維芽細胞は、前記コラーゲンゲル内で三次元的に培養され、その形状は、単層培養と異なり、生体内と類似の二極化した紡錘状となる。また、前記コラーゲンは、ゲル化によりコラーゲン繊維が再配列し、真皮組織に似た構造となる。前記コラーゲンゲルは、in vivo試験との相関性が高く、また、再現性が高いことから、細胞毒性試験、in vitro眼刺激性試験に用いられ、近年は、皮膚の弾力性、たるみ、ハリ、しわ改善評価モデル(例えば、特許文献1)や、創傷治癒促進(例えば、特許文献2)または創収縮の評価モデル(例えば、特許文献3)としても、用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−176208号公報
【特許文献2】特開2001−064196号公報
【特許文献3】特開2004−35526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、コラーゲンおよび線維芽細胞を含むコラーゲンゲルを収縮させる、コラーゲンゲル収縮剤を提供する。創傷治癒促進や収縮の評価モデルなどに利用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
リンゴ抽出物に着目して、試験した結果コラーゲン収縮能があることを知見して、本発明に至った。更に、研究を進めた結果、リンゴ注出物には、シワ形成抑制機能、経皮水分蒸散量抑制機能、角質層水分量保持機能、表皮肥厚抑制機能があることを知見した。

1.コラーゲンおよび線維芽細胞を含むコラーゲンゲルを収縮させる、コラーゲンゲル収縮剤であって、リンゴ抽出物を有効成分とするコラーゲンゲル収縮剤。
2.前記リンゴ抽出物が、リンゴ由来のポリフェノールを含む、1.記載のコラーゲンゲル収縮剤。
3.前記リンゴ抽出物が、リンゴ幼果の抽出物である1.または2.記載のコラーゲン収縮剤。
4.1.〜3.に記載されたいずれかのコラーゲン収縮剤を有効成分とするシワ形成抑制剤。
5.紫外線被曝によるシワ形成を抑制する4.記載のシワ形成抑制剤。
6.1.〜3.に記載されたいずれかのコラーゲン収縮剤を有効成分とする経皮水分蒸散量抑制剤。
7.紫外線被曝による経皮水分蒸散を抑制する6.記載の経皮水分蒸散量抑制剤。
8.1.〜3.に記載されたいずれかのコラーゲン収縮剤を有効成分とする角質層水分量保持剤。
9.紫外線被曝による角質層水分量の減少を抑制する8.記載の角質層水分量保持剤。
10.1.〜3.に記載されたいずれかのコラーゲン収縮剤を有効成分とする表皮肥厚抑制剤。
11.紫外線被曝による表皮の肥厚を抑制する10.記載の表皮肥厚抑制剤。
12.リンゴ抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤。
13.リンゴ抽出物を有効成分とする経皮水分蒸散量抑制剤。
14.リンゴ抽出物を有効成分とする角質層水分量保持剤。
15.リンゴ抽出物を有効成分とする表皮肥厚抑制剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明のリンゴ抽出物は、コラーゲンゲル収縮剤によれば、コラーゲンおよび線維芽細胞を含むコラーゲンゲルを収縮させることができる。特に、リンゴ幼果抽出物に効果が認められた。更に、リンゴ抽出物は、シワ形成抑制、経皮水分蒸散量抑制、角質層水分量保持、表皮肥厚抑制に効果があることが認められた。これらの機能は、特に、日光などに含まれる紫外線被曝を原因とする障害に対して、有効な効果である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】各評価サンプルのコラーゲンゲル収縮率の結果を示すグラフである。
【図2】コントロールおよび本発明のコラーゲンゲル収縮剤のコラーゲンゲル収縮試験結果を示す写真である。
【図3】シワ体積率を示すグラフ。
【図4】経皮水分蒸散量 TEWLを示すグラフ。
【図5】角質層水分量 SC hydrationを示すグラフ。
【図6】表皮厚を示すグラフ。
【図7】DNA傷害(8-OH dG)を示すグラフ。
【図8】PCNA(細胞増殖マーカー)を示すグラフ。
【図9】皮膚Hyp(ヒドロキシプロリン)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のコラーゲンゲル収縮剤は、リンゴ抽出物を有効成分とする。本発明のコラーゲンゲル収縮剤において、前記リンゴ抽出物が、リンゴ果実の抽出物であるのが好ましい。特に、リンゴ幼果抽出物に含まれるポリフェノールを、主成分とすることが好ましい。
【0009】
リンゴ抽出物には、ポリフェノール、有機酸、アミノ酸などを含むことが知られている。
リンゴ抽出物は、血管機能改善作用を高めることが可能なBNP調節剤として抽出物を有効成分として含有してなるBNP調節剤、血行促進剤(特開2007−008837号公報、特開2006−265220号公報)や飲料(特開2004−305087号公報)、化粧料配合剤(特開2001−187724号公報)、消臭剤成分(特開平11−319051号公報)、香料成分(特開平08−023939号公報)などに用いられることが知られている。
しかしながら、リンゴ抽出物およびリンゴ由来のポリフェノールについて、コラーゲンゲル収縮効果は、未だ報告されていない。また、リンゴ抽出物には、シワ形成抑制、経皮水分蒸散量抑制、角質層水分量保持、表皮肥厚抑制作用があることを報告されていない。
【0010】
以下に、本発明のコラーゲンゲル収縮剤及びシワ形成抑制剤、経皮水分蒸散量抑制剤、角質層水分量保持剤、表皮肥厚抑制剤について、詳細に説明する。
本発明のコラーゲンゲル収縮剤は、コラーゲンおよび線維芽細胞を含むコラーゲンゲルを収縮させる、コラーゲンゲル収縮剤であって、リンゴ抽出物を有効成分とすることを特徴とする。リンゴ抽出物は、シワ形成抑制、経皮水分蒸散量抑制、角質層水分量保持、表皮肥厚抑制としても有効成分となる。特に、日光などに含まれる紫外線被曝を原因とするシワ形成、経皮水分蒸散、角質層水分量減少、表皮肥厚などの障害に対して抑制作用として有効に機能する。
【0011】
リンゴ抽出物において、リンゴ(Malus pumila)の品種は、例えば、ふじ、国光、王林、紅玉、ジョナゴールド、デリシャス、さんさ、千秋などが挙げられ、特に制限されない。リンゴの抽出部位は、特に制限されず、例えば、果実、葉、幹、花などが挙げられ、好ましくは、果実である。前記果実は、例えば、未熟果(幼果)でも良く、完熟果でも良く、特に制限されない。抽出に用いる前記果実の部位は、特に制限されず、例えば、全果、果肉、果皮、種などが挙げられる。リンゴ抽出物は、これらの部位を、単独で、または2種以上組み合わせて抽出しても良い。
【0012】
リンゴ抽出物を抽出する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を採用できる。抽出方法の具体例としては、例えば、以下のようであっても良い。まず、リンゴの全果を、水洗後、グラインダーなどにより粉砕する。この粉砕物を、ペクチナーゼ処理に供し、遠心分離後、抽出溶媒により分配ろ過して、リンゴ抽出物を調製しても良い。前記ペクチナーゼ処理としては、特に制限されないが、例えば、20〜60℃の温度条件化で、ペクチナーゼを10〜50ppm添加して行っても良い。抽出溶媒としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサン、クロロホルムなどの有機溶媒が挙げられる。
【0013】
本発明において、リンゴ抽出物は、例えば、市販のリンゴ抽出物を用いても良く、リンゴ果実から抽出して調製しても良く、特に制限されない。
本発明のコラーゲンゲル収縮剤中に含まれるリンゴ抽出物含量は、特に制限されないが、例えば、0.01〜99重量%、好ましくは、0.1〜50重量%である。
本発明のコラーゲンゲル収縮剤は、リンゴ由来のポリフェノールを含むリンゴ抽出物が好ましい。
【0014】
ポリフェノールの分画方法は、特に制限されず、従来公知の方法を採用できる。ポリフェノールは、例えば、リンゴ抽出物をカラムに通液後、カラムの吸着物を溶出し、この溶出画分を減圧留去濃縮して分画しても良い。また、さらに、この濃縮液に粉末助剤を添加し、凍結乾燥または噴霧乾燥して、ポリフェノール粉末を調製しても良い。
【0015】
本発明において、ポリフェノールは、例えば、市販のリンゴ由来のポリフェノール含有物を用いても良く、リンゴ果実から抽出および分画して調製しても良く、特に制限されない。本発明のコラーゲンゲル収縮剤中に含まれる前記ポリフェノール含量は、特に制限されないが、例えば、0.01〜99重量%、好ましくは、0.1〜50重量%である。
【0016】
本発明のコラーゲンゲル収縮剤は、コラーゲンおよび線維芽細胞を含むコラーゲンゲルを収縮させる。コラーゲンゲルの収縮とは、例えば、ゲルの大きさが小さくなることをいう。コラーゲンゲルの大きさの指標としては、特に制限されないが、例えば、コラーゲンゲルの直径、表面積、体積などが挙げられる。
【0017】
本発明において、コラーゲンゲルは、収縮可能な形状であれば良く、ゲル状以外に、例えば、固形状であっても良い。
【0018】
コラーゲンゲルに含まれるコラーゲンの種類は、特に制限されず、例えば、I型、II型、III型、IV型、V型コラーゲンなどが挙げられ、好ましくは、I型コラーゲンである。また、コラーゲンは、例えば、コラーゲンを加工処理したものであっても良い。加工処理としては、特に制限されないが、例えば、熱処理、酵素処理などが挙げられる。熱処理したコラーゲンとしては、例えば、ゼラチンなどが挙げられ、酵素処理したコラーゲンとしては、例えば、アテロコラーゲン、コラーゲンペプチドなどが挙げられる。コラーゲンゲル中の前記コラーゲン濃度は、特に制限されず、例えば、形状などに応じて、適宜設定可能である。
【0019】
コラーゲンゲルにおいて、線維芽細胞の由来組織は、特に制限されず、例えば、皮膚、
肺、心臓などが挙げられ、好ましくは、皮膚である。線維芽細胞の由来種は、特に制限されず、例えば、ヒト、ブタ、ウシ、ウサギ、ラット、マウスなどがあげられ、好ましくは、ヒトである。コラーゲンゲル中の線維芽細胞の細胞密度は、特に制限されず、適宜設定可能である。
【0020】
コラーゲンゲルは、例えば、コラーゲンおよび線維芽細胞以外のその他成分を含んでも良い。その他成分としては、特に制限されず、例えば、培養液、血清などが挙げられる。
【実施例1】
【0021】
[コラーゲン収縮試験]
本例では、コラーゲンゲル収縮剤として、アップルフェノンSH(アサヒフードアンドヘルスケア社製)を用い、以下のように、コラーゲンゲル収縮効果を測定した。なお、本例では、比較例として、アグニ乾燥エキス(E10063、アスク薬品株式会社製)、ホップ乾燥エキス(E10004、アスク薬品株式会社製)、ナリンギン(シグマ社製)、クロロゲン酸(ICNバイオマテリアルズ社製)を用い、陽性対象として、EXTRASOME(登録商標)CP7−L(日油株式会社製)を用い、アップルフェノンSHと同様にして、コラーゲン収縮効果を測定した。
【0022】
まず、10%ウシ胎児血清含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に、下記表1記載の各評価剤を、所定濃度になるように添加し、評価サンプルを調製した。
【0023】
【表1】

【0024】
つぎに、新生児由来皮膚繊維外細胞を、10%ウシ胎児血清含有DMEMに、6×10細胞/mLとなるように懸濁し、細胞懸濁液を調製した。氷冷下、下記表に示す組成のコラーゲン溶液20mLと前記細胞懸濁液4mLとを混合し、細胞コラーゲン液を調製した。細胞コラーゲン液を、平底12ウェルプレートの各ウェルに1mLずつ分注し、37℃、5%CO条件下で、6時間培養してゲル化させ、コラーゲンゲルを作製した。培養終了後、コラーゲンゲルを、滅菌スパチュラを用いて前記ウェルプレートから剥がした。このコラーゲンゲルに、各評価サンプル1mLを添加し、37℃、5%CO条件下で、7日間培養した。なお、培養期間中、1日おきに培地交換を行った。培養終了後、各ウェル中の培養液を除去し、前記コラーゲンゲルをPBSで洗浄した。このコラーゲンゲルを、10%中性ホルマリン液(和光純薬株式会社製)に24時間浸潤して固定後、さらに、1w/v% Triton−X(登録商標)溶液に浸漬して、前記ホルマリン液を置換した。なお、コントロールとして、前記評価サンプルに代えて、10%ウシ胎児血清含有DMEMを添加して培養した以外は同様にして、前記評価サンプル未処理のコラーゲンゲルを培養し、固定および置換した。
【0025】
(コラーゲン溶液の組成)
【表2】

【0026】
固定したコラーゲンゲルは、ウェルの形状と同様に真円状であった。そこで、以下のようにして、各評価サンプル処理または未処理のコラーゲンゲルについて、その直径を計測し、面積を算出した。すなわち、異なる2方向について、前記固定したコラーゲンゲルの直径を計測し、その平均値を算出した。平均値を1/2にして、コラーゲンゲル半径(r、cm)を算出し、得られたゲル半径(r、cm)を下記式(1)に代入し、ゲル面積(S、cm)を算出した。さらに、下記式(2)を用いて、各評価サンプルのコラーゲンゲル収縮率(%)を算出した。
【0027】
コラーゲンゲル面積(cm)=r×r×3.14 ・・・(1)
r=コラーゲンゲル半径(cm)
コラーゲンゲル収縮率(%)=(a−b)/a×100 ・・・(2)
a=評価サンプル未処理のゲル面積(cm
b=評価サンプル処理のコラーゲンゲル面積(cm
【0028】
[試験結果]
図1および下記表3に、各評価サンプルのコラーゲンゲル収縮率(%)の結果を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、コラーゲンゲル収縮率(%)であり、横軸に、各評価サンプル名およびその濃度を示している。同図および下記表3に示すように、0.1w/v%ホップ乾燥エキス処理群は、17.9%の収縮率を示し、0.1w/v% アグニ乾燥エキス処理群は、−33.2%の収縮率を示した。また、ナリンギン処理群の最大収縮率は、30μmol/Lにおける22.0%であり、クロロゲン酸処理群の最大収縮率は、30μmol/Lにおける24.5%であった。これに対して、本例のコラーゲン収縮剤であるアップルフェノンSHは、0.006w/v%処理群では24.1%の収縮率を示し、0.018w/v%処理群では47.1%の収縮率を示し、0.06w/v%処理群では82.1%の収縮率を示した。すなわち、前記アップルフェノンSHは、ポリフェノールであるナリンギンおよびクロロゲン酸よりも高いコラーゲン収縮活性を示し、特に、処理濃度0.1w/v%では、陽性対象であるEXTRASOME(登録商標)CP7よりも顕著なコラーゲン収縮活性を示した。
【0029】
【表3】

【0030】
図2に、アップルフェノンSH 0.06w/v%処理およびコントロールのコラーゲンゲル写真を示す。同図の写真において、左列の各ウェルは、コントロールのコラーゲンゲルを内包し、右列の各ウェルは、アップルフェノンSH 0.1w/v%処理のコラーゲンゲルを内包する。前記コントロールのコラーゲンゲルは、前記ウェルと同じ面積であり、収縮は確認されなかった。前記アップルフェノンSH 0.06w/v%処理のコラーゲンゲルは、矢印で示す、前記ウェル面積よりも著しく小さなゲルに収縮した。すなわち、アップルフェノンSH0.1%処理により、コラーゲンゲルの顕著な収縮が確認された。
【実施例2】
【0031】
[リンゴ抽出物による光老化抑制試験]
日光暴露(紫外線)による光老化とシワ、肌荒れ、シミ・ソバカス等の色素沈着との関係が指摘されている(Gilchrest著;Photodamage:Blackwell Science,Inc.,1995)。長期間太陽(紫外線)に当たり続けると、顔、首筋の深いシワを増加させ、更に皮膚の乾燥及び肌荒れやシミ、ソバカス等の色素沈着を起こすことが知られており、この光老化による肌のトラブル対策として、新たに知見したリンゴ抽出物が有するコラーゲン収縮能の活用試験を行った。すなわち、皮膚老化や皮膚の光老化現象を緩和、予防、抑制、改善する成分として、ポリフェノールを主成分とするリンゴ抽出物に着目して、試験を行った。
皮膚老化とは、加齢に伴う生理的老化と、日光暴露(紫外線)による光老化とが互いに影響しあって生じる生理的現象を一般的にいう。この皮膚老化現象について、真皮組織では真皮構成成分のコラーゲンが減少・酸化・糖化もしくは変性することで重力に皮膚構造が耐えられずにハリが無くなり皮膚のシワやたるみの主原因となり得る。また、そのコラーゲンの変性の主要因として紫外線の暴露に注目した。
【0032】
<試験方法>
UVA波およびUVB波をヘアレスマウスに照射させてシワを形成させる試験系において被験物質を経口摂取させてシワの抑制および皮膚老化抑制効果について検討を行った。
導入時6週齢のヘアレスマウス(Hos:HR−1雌)を用いて以下の1)〜11)の条件・方法で試験を行った。
【0033】
1)試験対象物の調製および投与
ヘアレスマウスの群分けは投与開始日に、一般状態が良好な動物を体重により、群間での差が無いように1群6匹に振り分けた。なお、各々の個体は1ゲージ/群で飼育とした。
マウス用飼料MF(オリエンタルバイオサービス製)に、表4に示すそれぞれ被験物質が均一に混ざるように混合処理を施し、混餌にて自由摂取させた。投与群の一覧を示す。リンゴ抽出物をして、ポマクティブHFV(フランスのヴァル・デ・ヴィル・バイオアクティブズ社(VVB社)製(日本代理店 ユニテックフーズ))を用いた。ポマクティブHFVは、フランス産シードル用リンゴを原料にしたリンゴポリフェノール製品。規格成分は全ポリフェノール90%以上(UV法で算出)である。プロシアニジン、ケルセチン(配糖体)、フロリジン、カテキン類を主成分とする。
混餌は動物搬入直後から解剖18時間前まで実施した。
【0034】
【表4】

【0035】
2)UV照射(表4;試験概要)
UV照射時は、動物を専用のケージに移し、1群ずつUVB20mJ/cmおよびUVA10J/cmを照射した。照射は週三回の月曜、水曜、金曜で10週間実施した。

3)経皮水分蒸散量(TEWL)の測定
経皮水分蒸散量の測定は、vapometer(キーストンサイエンティフィック製)を用い、背部の尾付け根より首に向かい2cm、腰椎から右側に0.5cm部位に端末をあてて測定した。測定日は、試験開始日に実施し各群のTEWL値にバラつきが無い事を確認し、その後、解剖直前に測定した。

4)角質層水分量の測定
角質層水分量の測定は、MoistureCheckerMY−808S(SCALAR 製)を用い、背部の尾付け根より首に向かい2cm、腰椎から右側に0.5cm部位に端末をあてて測定した。

5)解剖
各群、本飼育期間終了翌日より18時間絶食後、氷冷したAvertin(2,2,2−トリブロモエタノール)を0.5mg/kg体重腹腔内投与により麻酔を導入した。その後、皮膚背部の尾付け根より首に向かい2cm、腰椎から右側に0.5cm部位範囲で反射型レプリカ((有)アサヒバイオメッド製)を採取した。その後、回腹し解剖を行った。皮膚組織は10%中性ホルマリン浸潤、パラフィン包埋後にヘマトキシリン−エオシン染色した。

6)皮膚形態観察シワ体積率計測
皮膚表面部の写真撮影と採取したレプリカの判定を行った。シワ形成度合を指標としてASA−03RXD((有)アサヒバイオメッド製)を用いてシワ体積率%(μm/mm/100) を算出した。

7)表皮肥厚
「5)解剖」の項で実施した皮膚組織のヘマトキシリン−エオシン染色により、表皮の厚さを計測した。同一染色画像500μm中から任意に6箇所を選択し、それぞれの場所における表皮の厚さを計測し、その6点の平均値をその個体の表皮の厚さとした。

【0036】
8)8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8−OH dG)測定
免疫組織染色によりDNA傷害のバイオマーカーである8−OH dGの測定を表皮細胞に着目して実施した。
「5)解剖」の項で用意したパラフィン包埋済みの皮膚組織を5μm厚で切片を適宜作製し、脱パラフィン、親水化は公知の方法に基づいて実施した。抗原賦活化は0.01Mクエン酸緩衝液(pH6.0)沸騰中でマイクロウェーブ処理5分を実施した。室温まで冷却後、常温下0.3%過酸化水素含有メタノールで30分反応させて内因性ペルオキシダーゼを阻害した。水洗、10mMPBS(−)洗浄後、ウサギ血清75倍(希釈溶液はPBS(−))で30分間室温放置してブロッキング反応を行った。血清をスライドガラスから落として1次抗体(N45.1:日研ザイル(株)製)を5μg/mlで4℃1晩放置して1次抗体を反応させた。PBS(−)で2回洗浄し、ビオチン化二次抗体(ビオチン化ウサギ免疫グロブリンM;DAKO製)を300倍希釈したものを30分間室温にて2次抗体を反応させた。PBS(−)で2回洗浄し、ABC試薬(ABC−HRP;Vectastain製)を30分間室温にて反応させた。発色試薬としてDAB(3,3-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド:DAKO製)を用いて3分30秒常温下で反応させた。水洗後、公知の方法に基づいて脱水、封入処理を行った。顕微鏡下で皮膚組織の染色状況を観察し、以下の基準に基づいてスコア化した。スコア化の判別が困難なものはその中間値0.5を足し、各群のスコアを算出した。
【0037】
スコア
×;スコア3;表皮細胞よりも上層の細胞核が何層にも染色
△;スコア2;表皮細胞よりも上層の細胞核が染色
○;スコア1;表皮細胞の細胞核が染色
◎;スコア0; 表皮細胞の細胞核が点在する程度の染色
【0038】
9)Proliferation Cell Nuclear Antigen(PCNA;増殖細胞核抗原)測定
PCNAは細胞周期の細胞成長期後期からDNA合成期初期で発現が認められる核タンパク質であり、DNA損傷時にDNAポリメラーゼやRFC(複製因子C;クランプ装着因子)と複合体を形成し、新しくDNAを合成・修復する。しかしながら、微弱な紫外線の連続照射といった常時PCNAが発現している環境においては細胞周期が異常になり、引き続いて細胞増殖が過剰となり表皮細胞のターンオーバーが亢進して、角化不全や表皮肥厚を招き、最終的には光老化現象を引き起こすと考えられる。
免疫組織染色により細胞増殖のバイオマーカーであるPCNAの測定を表皮細胞に着目して実施した。
「5)解剖」の項で用意したパラフィン包埋済みの皮膚組織を5μm厚で切片を適宜作製し、脱パラフィン、親水化は公知の方法に基づいて実施した。抗原賦活化は0.01Mクエン酸緩衝液(pH6.0)沸騰中でマイクロウェーブ処理5分間を実施した。室温まで冷却後、常温下0.3%過酸化水素含有メタノールで20分反応させて内因性ペルオキシダーゼを阻害した。水洗、PBS(−)洗浄後、ウサギ血清75倍(希釈溶液はPBS(−))で30分間室温放置してブロッキング反応を行った。血清をスライドガラスから落として1次抗体(PC−10:Santa Cruz製)を1μg/mlで4℃1晩放置して1次抗体を反応させた。PBS(−)で2回洗浄し、ビオチン化二次抗体(ビオチン化ウサギ免疫グロブリンM;DAKO製)を300倍希釈したものを30分間室温にて2次抗体を反応させた。PBS(−)で2回洗浄し、ABC試薬(ABC−HRP;Vectastain製)を30分間室温にて反応させた。発色試薬としてDAB(3,3-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド:DAKO製)を用いて3分30秒常温下で反応させた。水洗後、公知の方法に基づいて脱水、封入処理を行った。顕微鏡下で皮膚組織の染色状況を観察し、以下の基準に基づいてスコア化した。スコア化の判別が困難なものはその中間値0.5を足し、各群のスコアを算出した。
【0039】
スコア
×;スコア3;表皮細胞よりも上層の細胞核が何層にも染色
△;スコア2;表皮細胞よりも上層の細胞核が染色
○;スコア1;表皮細胞の細胞核が染色
◎;スコア0; 表皮細胞の細胞核が点在する程度の染色
【0040】
10)皮膚ヒドロキシプロリン(Hyp)
皮膚タンパク質を塩酸加水分解し、LC/MS/MSによりヒドロキシプロリン量を測定した。
「5)解剖」の項で凍結保存しておいたマウス皮膚からコラーゲン測定用に10mgを切り出した。その皮膚片を鋏で細かく切りスクリューキャップ付の試験管に入れた後、6N 塩酸1mlを加え、110℃で24時間酸加水分解した。反応溶液をMilliQ水で50倍に希釈した後に、フィルターろ過(φ=0.45mm)し、更に、MilliQ水で100倍希釈したものをヒドロキシプロリン測定用のサンプルとした。
ヒドロキシプロリンはLC/MS/MSシステムのACQUITY(R) TQD(Waters)を使用して測定した。
LC条件
・カラム HSS T3 2.1X100mm(Waters製)
・流速 0.4mL/min
・カラム温度 50℃
・移動相 A:0.1%ギ酸
B:0.1%ギ酸、80%アセトニトリル
・グラジエント
【0041】
【表5】

【0042】
MS/MS条件
・イオン化 ESI+(Positive)
・キャピラリー電圧 0.5kV
・脱溶媒ガス 1,000L/Hr
・コーンガス 50L/Hr
・イオン源ヒーター 150℃
・モニター MRM
・プリカーサーイオン(m/z) 132.16
・プロダクトイオン(m/z) 86.1
・Dwell時間(秒) 0.05
・コーン電圧(V) 28
・コリジョンエネルギー(eV) 12
標準品のヒドロキシプロリン(Wako製)とのピークエリアを比較する事で皮膚コラーゲン中のヒドロキシプロリン量を算出した。
【0043】
11)統計処理
試験結果は平均値±標準偏差(mean ± S.D.)で表し、多重比較(Steel’s test)をエクセル統計2008の解析ソフトで有意差検定を行った。**⇒p<0.01、*⇒p<0.05とし、p<0.1については有意傾向として注意書きした。
【0044】
以下に、試験例2の結果を順次示す。
1.一般状態観察およびシワ体積率計測
紫外線照射第4週目頃よりUV照射動物において、頭部の皮膚の軽度褐色化や頸部のしわの深さならびに後肢背部のしわがUV非照射動物に比較して目立つようになった。
解剖時の外観観察では、UV照射動物で顔、頸部および後肢背部のしわが明瞭に確認されたが、UV照射においても高濃度(0.06%)、中濃度(0.012%)および低濃度(0.006%)摂取したマウスにおいてその症状は軽度であり、特に高濃度摂取動物のしわの深度が浅く、肉眼的にはしわの程度が皆無であった。また、リンゴ抽出物摂取動物は、コントロール群に比較して皮膚にしっとり感があり、特に高濃度摂取群でその症状は顕著に感じられた。
表6、図3のシワ体積率のグラフが示すように、紫外線照射により明確なシワの形成が認められ、同一紫外線照射条件下で 混餌群では濃度依存的にシワ抑制効果が有意に認められた。一方、混餌群ではシワの抑制効果は極僅かなものであり、有意差検定により、0.06%および0.012%混餌で有意にシワ体積率を抑制した。

2.体重推移
表6に示すように体重推移は、各群大きな差異は認められなかった。

3.摂餌量
表6に示すように摂餌量についても体重推移同様に大きな差異は認められなかった。摂食量は、体重増加が緩慢になった紫外線照射6週間から10週間における平均値から算出した。
「2.体重推移」および「3.摂餌量」からヒトが摂取した時の換算量を算出する事が出来る。体表面積換算では(体表面積)=(体重)2/3 (cm)の換算式からヒト(60kg体重)あたりの1日の摂取量を見積もる事ができる。一覧表を表8に示す。この結果から、シワ体積率の有意な抑制を示した0.06%および0.012%のマウスへの混餌投与はそれぞれヒト換算だと412.8mg/日/kgヒト60kg体重および82.75mg/日/kgヒト60kg体重となり、いずれもヒトが無理なく摂取できる量で光老化現象に伴うシワを抑制する事が出来ると考えられた。

4.肝臓重量
肝臓重量についても大きな差異は認められず異常な症状は観察されなかった。また、他の臓器についても異常は認められなかった。

5.経皮水分蒸散量(TEWL)
結果を表6に示す。
経皮水分蒸散量はその数値が高いほど、角質層から水分が蒸発し皮膚の乾燥状態を引き起こしていると考えられる。UV照射により経皮水分蒸散量の上昇が一般的に知られており、本試験でも解剖日の経皮水分蒸散量はUV−群に比較してUV+群では高くなり乾燥状態を裏付けていた。この時、UV+照射およびポマクティブHFV摂取群は低いTEWL値を示した。解剖日の測定においても、UV+照射群に比較してUV−群およびポマクティブHFVは0.06%、0.012%および0.006%混餌群で有意に低いTEWL値を示した。
【0045】
【表6】

【0046】
6.角質層水分量
結果を表7に示す。
角質層水分量はその数値が低いほど、角質層の水分もしくは水分保持に関わる天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor;NMF)が減少し、皮膚の乾燥状態を引き起こしていると考えられる。UV照射により角質層水分量が減少すると一般的に知られており、本試験でも解剖日の角質層水分量はUV−群に比較してUV+群では低くなり乾燥状態を裏付けていた。この時、UV照射+ ポマクティブHFV摂取群は角質層水分量の回復を示した。UV+照射群に比較してUV照射+ ポマクティブHFVは0.06%、0.012%および0.006%摂食群で有意に高い角質水分量を示した。

7.表皮肥厚
結果を表7に示す。
[UV+/コントロール食]群に対し、[UV−/コントロール食]群、ポマクティブHFV0.06%、0.012%混餌群で有意な表皮肥厚(アカントーシス)の抑制が証明された。

8.8−OHdG
結果を表7に示す。
[UV+/コントロール食]群に対し、[UV−/コントロール食]群、ポマクティブHFV0.06%混餌群で有意に8−OHdGを抑制した。またポマクティブHFV0.012%混餌群で有意傾向(p=0.0926)として8−OHdGが抑制されていた。
8−OHdGは細胞のDNA損傷の指標の一つであり、紫外線や放射線、化学汚染物質、タバコ煙など酸化ストレスの暴露によりDNAのグアニンが酸化されて形成する。本試験での紫外線照射によりマウス皮膚の基底細胞層に8−OHdGが増加していたのでDNA損傷が引き起こされた事およびポマクティブHFV0.06%混餌により有意に8−OHdGが抑制されていた事を示唆している。また、0.012%混餌で有意傾向(p=0.0926)として8−OHdGが抑制された。

9.PCNA
結果を表7に示す。
[UV+/コントロール食]群に対し、[UV−/コントロール食]群、ポマクティブHFV0.06%、0.012%および0.006%混餌群で有意にPCNAを抑制した。

10. 皮膚ヒドロキシプロリン(Hyp)
結果を表7に示す。
[UV+/コントロール食]群に対し、ポマクティブHFV0.06%および0.012%混餌群で有意にHypが増加した。Hyp上昇は皮膚組織におけるコラーゲン量の増加を示唆している。
本試験結果を総括すると、シワ体積率の有意な抑制を示したポマクティブHFVを0.06%および0.012%のマウスへの混餌投与はそれぞれヒト換算だと412.8mg/日/kgヒト60kg体重および82.75mg/日/kgヒト60kg体重となり、いずれもヒトが無理なく摂取できる量で光老化現象に伴うシワを抑制する事が出来ると考えられた。
【0047】
【表7】

【0048】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンおよび線維芽細胞を含むコラーゲンゲルを収縮させる、コラーゲンゲル収縮剤であって、リンゴ抽出物を有効成分とするコラーゲンゲル収縮剤。
【請求項2】
前記リンゴ抽出物が、リンゴ由来のポリフェノールを含む、請求項1記載のコラーゲンゲル収縮剤。
【請求項3】
前記リンゴ抽出物が、リンゴ幼果の抽出物である請求項1または2記載のコラーゲン収縮剤。
【請求項4】
請求項1〜3に記載されたいずれかのコラーゲン収縮剤を有効成分とするシワ形成抑制剤。
【請求項5】
紫外線被曝によるシワ形成を抑制する請求項4記載のシワ形成抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜3に記載されたいずれかのコラーゲン収縮剤を有効成分とする経皮水分蒸散量抑制剤。
【請求項7】
紫外線被曝による経皮水分蒸散を抑制する請求項6記載の経皮水分蒸散量抑制剤。
【請求項8】
請求項1〜3に記載されたいずれかのコラーゲン収縮剤を有効成分とする角質層水分量保持剤。
【請求項9】
紫外線被曝による角質層水分量の減少を抑制する請求項8記載の角質層水分量保持剤。
【請求項10】
請求項1〜3に記載されたいずれかのコラーゲン収縮剤を有効成分とする表皮肥厚抑制剤。
【請求項11】
紫外線被曝による表皮の肥厚を抑制する請求項10記載の表皮肥厚抑制剤。
【請求項12】
リンゴ抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤。
【請求項13】
リンゴ抽出物を有効成分とする経皮水分蒸散量抑制剤。
【請求項14】
リンゴ抽出物を有効成分とする角質層水分量保持剤。
【請求項15】
リンゴ抽出物を有効成分とする表皮肥厚抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−254667(P2010−254667A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14045(P2010−14045)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】