説明

コレステロールの定量方法

【課題】
リポタンパクなど種々の形で存在するコレステロールの定量を1段階の操作で可能にするような方法を提供すること。
【解決手段】
振動反応を利用したコレステロールの定量方法とする。また、この振動反応において、過酸化水素を含む第一の溶液を、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ及びコレステロールを含む第二の溶液に、半透膜を介して浸透させることによって行う反応であること、半透膜は透析膜若しくはミリポアフィルターであること、第二の溶液は、カタラーゼを0.01〜1mg/ml、コレステロールオキシダーゼを0.002〜0.02mg/mlの範囲で含有してなることも望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コレステロールの定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは、血清中ではアポタンパク質と結合し、リポタンパク質として存在している。リポタンパク質は物理的な形状の違いなどにより、カイロミクロン、VLDL、LDL、HDLなどに分類されている。LDLは動脈硬化を引き起こす物質の一つとして、一方HDLは抗動脈硬化をもつリポタンパク質として注目されている。
【0003】
これまでの各リポタンパク質中のコレステロールの定量として、超遠心法、電気泳動法、換算法、分画沈殿法などがある。しかしながらこれらは簡便な方法としては適当ではない。
これに対し、コレステロールオキシダーゼ等の酵素を用いた定量法もあり、例えば、コレステロールオキシダーゼを用いてコレステロールを酸化した際に生成する過酸化水素を定量し、それに基づいてコレステロールを定量する方法が下記特許文献1,2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−224397号公報
【特許文献2】特開2004−121185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記いずれの技術においても、コレステロールを酸化した際に生成する過酸化水素を定量し、それからコレステロールを定量するという2段階以上の操作が必要となる。
また通常、酵素と基質である反応物を一緒の容器に入れ反応させると、生成物が時間とともに単調に増加し、最終的には平衡状態になる。従来はこの方法を用いて反応物に特異的に作用する酵素を使い生体物質の定量を行ってきた。これまでの酵素反応を利用したコレステロールの定量も例外ではなくこのような方法を利用している。
しかし一方で、半透膜を用いて基質をゆっくりと酵素の溶液内に浸透させると、反応物や生成物の濃度が時間とともに周期的に増減する振動反応が起こる場合がある。例えば酵素としてカタラーゼを、基質として過酸化水素を用いると次の反応が起こって酸素が発生するがこの逆反応も起る。つまり溶存している酸素が振動する。但し、振動反応が起こるためには基質の適当な透過速度と生成物(この場合には酸素)の適度な排出が必要である。
【数1】

なお、この系にもう一つの酵素であるグルコースオキシダーゼとこの酵素の基質であるグルコースを添加しておくとグルコースの濃度とともに振動の周期が長くなり、ある濃度範囲ではグルコース濃度と振動の周期が直線関係で、グルコースの定量に利用できることがわかっている。しかし、もともと非線形現象である振動反応をコレステロールの定量にまで適用することについては記載はない。
【0006】
以上本発明は、上記を鑑みコレステロールの定量方法において、途中発生する定量を省略し、より少ない工程の定量を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は具体的に以下の手段を採用する。
まず、第一の手段として、振動反応を利用したコレステロールの定量方法とする。これまでのコレステロールオキシダーゼを利用した方法では、生成した過酸化水素をカタラーゼで分解させ生成した酸素量を測定するなど最低2段階の操作を必要とした。しかし振動反応を利用したこの方法では酸素量の振動を測定するだけで定量化が可能となる。また少量の試料で測定が可能であるという利点もある。
なおこの手段において、振動反応は、過酸化水素を含む第一の溶液を、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ及びコレステロールを含む第二の溶液に、半透膜を介して浸透させることによって行う反応であるとすること、半透膜は、透析膜若しくはミリポアフィルターであること、第二の溶液は、カタラーゼを0.01〜1mg/ml、コレステロールオキシダーゼを0.002〜0.02mg/mlの範囲で含有してなること、第二の溶液において、コレステロールはリン脂質若しくは界面活性剤によって分散していること、第二の溶液において、前記コレステロール濃度は、0.1〜1.6mg/mlの範囲内であることを特徴とすること、とするのも望ましい。これにより、もともと非線型現象である振動反応を直線関係に近似させ、定量化することができるようになる。
【0008】
また、第二の手段として、過酸化水素を含む第一の溶液を、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ及びコレステロールを含む第二の溶液に、半透膜を介して浸透させ、第二の溶液における溶存酸素の濃度変化の周期を求め、求めた溶存酸素の濃度変化の周期と、予め求めてある過酸化水素の濃度変化の周期とコレステロール濃度との関係に基づいて、第二の溶液に含まれるコレステロール濃度を算出するコレステロールの定量方法とする。
またこの手段において、半透膜は、透析膜若しくはミリポアフィルターであること、第二の溶液は、カタラーゼを0.01〜1mg/ml、コレステロールオキシダーゼを0.002〜0.02mg/mlの範囲で含有してなること、第二の溶液において、コレステロールはリン脂質若しくは界面活性剤によって分散していること、第二の溶液において、コレステロール濃度は、0.1〜1.6mg/mlの範囲内であること、とするのも望ましい。
【0009】
また、第三の手段として、過酸化水素を含有する第一の溶液を保持する第一の容器と、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ及びコレステロールを含む第二の溶液を保持すると第二の容器と、第一の容器と第二の容器との間に配置され、前記第一の溶液を前記第二の溶液に浸透させる半透膜と、第二の溶液に浸されるよう配置される酸素電極と、酸素電極に接続される溶存酸素計と、溶存酸素計に接続される情報処理装置とを有するコレステロールの定量装置とする。
【発明の効果】
【0010】
以上本発明によると、振動反応を用いて、その溶存酸素濃度を測ることで簡単にコレステロールの定量を行うことができるため、その他途中発生する定量を省略し、より少ない工程の定量を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明が利用する原理について図1を用いて説明する。
半透膜を挟んだ2つの容器の1つに、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼおよびコレステロールの溶液をいれ、もう1つの容器に過酸化水素水溶液を入れる。なおこの場合において、コレステロールは難溶性であるため、SDS等の界面活性剤やリン脂質を加え、ミセルを形成させておく必要がある。すると、過酸化水素水がゆっくりと半透膜を透過してカタラーゼと反応し、酸素を発生させ始める。一方、酸素が発生すると、コレステロールオキシダーゼがこの酸素を用いてコレステロールを酸化させ、過酸化水素を発生させる。そしてこの一連の流れが循環過程となり、しかもその過酸化水素水の濃度が振動する振動反応となる。この場合、酵素水溶液中に溶存している酸素の量を溶存酸素計で測定すると、溶存酸素の濃度は周期的に振動する。そしコレステロール等の諸条件がある濃度範囲にある場合は溶存酸素量の振動周期がコレステロールの濃度と直線関係になるため、この関係を用いてコレステロールの定量に利用することができるようになるのである。
なお、これを利用してコレステロールが含まれている種々の形状に対し、定量化が可能となる。たとえばカイロミクロン、高密度リポ蛋白、低密度リポ蛋白及び超低密度リポ蛋白中のコレステロールの量が測定できる。また尿中、血清中の総コレステロール量の測定も可能となる。
また振動のパターンの違いあるいは酵素の種類を変えることによってコレステロールが含まれているリポタンパクの種類の分別化も可能となると考えられる。
以下,この発明の実施形態を図面に示すモデル的実施態様に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0012】
図2に本発明の実施例に係る装置(以下単に「本装置」という。)の図を示す。
図2に示すように本装置は、第一の容器1、第二の容器2、第一の容器と第二の容器とを繋ぐ接続管3、その接続管3の中に配置された半透膜4、第二の容器に挿入される酸素電極5、この酸素電極5に電気的に接続された溶存酸素計6、この溶存酸素計6に電気的に接続された情報処理装置7、を有して構成されている。
【0013】
最初の状態において、第一の容器側には0.6%の過酸化水素水溶液20mlが、第二の容器側にはカタラーゼ2.5mg、コレステロールオキシダーゼ0.05mg、コレステロールを含む試料溶液0.1mlを含む水溶液25mlが入れてある(カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールを含んでなる溶液を以下単に「酵素溶液」という。)。なお第一の容器1、第二の容器2のいずれもガラスにより構成されており、それぞれは円筒形状に形成され、内径は3cmである。
【0014】
接続管3は、第一の容器1、第二の容器2の間に配置され、これらの容器内を接続する。本実施例ではガラスで構成されており、その内径は1cmである。
【0015】
半透膜4は、第一の容器1と第二の容器2との間に配置される流露3に設けられており、具体的には透析膜を用いた(材質:αセルロース、分画分子量12,000〜14,000)。
【0016】
酸素電極5は、第二の容器に挿入されており、かつ、第二の容器に入れられている酵素溶液に浸されるよう配置されている。酸素電極5は酸素溶液中の溶存酸素がこの電極上で還元されて水になるときに生じる電子の量に応じ電位を発生させる。
【0017】
溶存酸素計6は、この酸素電極5の電位の発生を受け、この電位の値に基づいて溶存酸素の濃度を算出する。
【0018】
情報処理装置7は、溶存酸素計7からの出力を受け、まずその出力から振動反応の周期を求める。具体的には、電位の値を経時的に取得し、時間に対する電位のデータを作成する。そしてこの経時的な電位のデータを解析することで振動反応の周期を計算する。そしてその周期と予め求めてある周期−コレステロールの関係からコレステロールの定量を行う。
本実施例では、情報処理装置として所謂パーソナルコンピュータを用いて上記処理を行う。より具体的には、本装置のパーソナルコンピュータは、溶存酸素計が測定する溶存酸素の濃度に対応するデータ(以下「溶存酸素濃度データ」という。)を受け付け、その溶存酸素濃度データをその濃度を示した時刻のデータ(以下「時刻データ」という。)とともに記録する溶存酸素データ取得手段と、その時刻データと溶存酸素濃度データとの関係に基づいて振動反応の周期を判断する周期判断手段と、コレステロールの濃度と振動反応の周期との関係を予め記憶してある周期−コレステロール関係記録手段と、振動反応の周期と、コレステロールの濃度と振動反応の周期との関係に基づいてコレステロールの定量を行うコレステロール定量手段と、を実施させるためのプログラムが記録媒体であるハードディスクに格納され、実行されることでコレステロールの定量を行うことができる。またこの場合において、コレステロールの濃度と振動反応の周期とは、界面活性剤やリン脂質の存在、カタラーゼやコレステロールオキシダーゼの濃度等によって直線の傾きや直線関係を示す範囲が異なるため、周期−コレステロール関係記録手段はその条件の入力を受付け、記録する機能をも有すること、更にはその入力に対応する条件に合致した振動の周期とコレステロールの濃度との関係を読み出すようにする(もちろん予め当該関係を記憶しておくことが必要である)ことがより望ましい。なおもちろん上記各手段は、記録媒体であればハードディスク以外の記録媒体であっても差し支えはなく、上記の機能を実行することができる限りにおいてプログラムでなくても良い。これは、種々操作の容易性の観点からプログラムが望ましい、という実施例を示したものである。
【0019】
そして以上の構成をもとに測定を行った。
この測定において、コレステロールの量(濃度)をさまざまに変化させて4種類の試料を用意し、そのそれぞれに対して測定を行った。なおコレステロールの量(濃度)以外は上述の条件として固定した。表1に加えたコレステロールの量及びコレステロールの濃度を示す。なお、コレステロールは、コレステロールを含む水溶液中に界面活性剤としてのリン脂質(エッグレシチン、濃度:0.6mg/ml)を加え、超音波を用いて分散させた。そしてその溶液中の0.1mlにおけるコレステロールの濃度を下記表1のように調整し、カタラーゼ等を混合した溶液に加え、全体として25mlの酵素溶液にした。表1に溶液に溶かしたコレステロールの量、濃度及び振動反応の周期を記載する。なお図3に、表1における試料溶液番号2の場合の溶存酸素量の時間変化を示す。図3において横軸は時間(時間)を、縦軸は溶存酸素量(mg/l)をそれぞれ示している。
【表1】

【0020】
表1の結果に対し、コレステロールの濃度に対する周期を求めたものを図4に示す。横軸はコレステロールの濃度を、縦軸は振動の周期を示す。
この結果、振動の周期とコレステロールの濃度との関係は直線によって非常によく説明することができた。特に、本実施例ではコレステロールの濃度は0.2〜0.8の範囲で非常によく説明できており、この値から概ね0.1〜1.0の範囲であれば十分直線によって近似することができると考えられる。
以上、所定のカタラーゼ及びコレステロールオキシダーゼの濃度下における周期とコレステロール濃度との関係を予めデータとして記憶しておき、上記所定のカタラーゼ及びコレステロールオキシダーゼの濃度の下で振動反応を行わせ、その周期を求めることで、コレステロールの濃度を定量することができる。
【実施例2】
【0021】
実施例1とほぼ同じ条件において、リン脂質の代わりにSDSを用い、また、コレステロール量(濃度)を変えてた以外は同じ条件で測定を行った。表2に上記表1と同様に調整した場合における条件及び周期を示す。なおSDSは濃度を0.05mol/lとしている。
【表2】

【0022】
表2の結果に対し、コレステロールの濃度に対する周期を図4と同様に求めたものを図5に示す。
この結果、SDSを用いた場合であっても振動の周期とコレステロールの濃度との関係は直線によって非常によく説明することができた。特に、0.2〜1.5mg/mlの本実施例の範囲では非常によい直線性を有しているため、概ね0.1〜1.6mg/mlの範囲においても、直線性を保つことができると考えられる。
なお本実施例によっても実施例1と同様に所定のカタラーゼ及びコレステロールオキシダーゼの濃度下における周期とコレステロール濃度との関係を予めデータとして記憶しておき、上記所定のカタラーゼ及びコレステロールオキシダーゼの濃度の下で振動反応を行わせ、その周期を求めることで、コレステロールの濃度を定量することができる。
なお、実施例1及び実施例2では、第一の容器1と第二の容器2、そしてその容器の間を繋げる流路3とを用いて構成されているが、容器形状はこれに限られず、例えば図6で示されるように、一つの容器を仕切板で仕切り、窓を開けて半透膜を配置する構成も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】振動反応の反応機構を示す図。
【図2】実施例1におけるコレステロールの定量装置の概略図。
【図3】実施例1における振動反応における溶存酸素量の時間変化を示す図。
【図4】実施例1におけるコレステロール濃度と周期との関係を示す図。
【図5】実施例2におけるコレステロール濃度と周期との関係を示す図。
【図6】コレステロールの定量装置における他の容器例を示す図。
【符号の説明】
【0024】
1…第一の容器、2…第二の容器、3…連絡管、4…半透膜、5…酸素電極、6…溶存酸素計、7…情報処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動反応を利用したコレステロールの定量方法
【請求項2】
前記振動反応は、過酸化水素を含む第一の溶液を、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ及びコレステロールを含む第二の溶液に、半透膜を介して浸透させることによって行う反応であることを特徴とする請求項1記載のコレステロールの定量方法。
【請求項3】
前記半透膜は、透析膜若しくはミリポアフィルターであることを特徴とする請求項2記載のコレステロールの定量方法。
【請求項4】
前記第二の溶液は、カタラーゼを0.01〜1mg/ml、コレステロールオキシダーゼを0.002〜0.02mg/mlの範囲で含有してなることを特徴とする請求項2記載のコレステロールの定量方法。
【請求項5】
前記第二の溶液において、前記コレステロールはリン脂質若しくは界面活性剤によって分散していることを特徴とする請求項2記載のコレステロールの定量方法。
【請求項6】
前記第二の溶液において、前記コレステロール濃度は、0.1〜1.6mg/mlの範囲内であることを特徴とする請求項4記載のコレステロールの定量方法。
【請求項7】
過酸化水素を含む第一の溶液を、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ及びコレステロールを含む第二の溶液に、半透膜を介して浸透させ、前記第二の溶液における溶存酸素の濃度変化に基づいて、前記第二の溶液に含まれるコレステロール濃度を算出するコレステロールの定量方法。
【請求項8】
前記半透膜は、透析膜若しくはミリポアフィルターであることを特徴とする請求項2記載のコレステロールの定量方法。
【請求項9】
前記第二の溶液は、カタラーゼを0.01〜1mg/ml、コレステロールオキシダーゼを0.002〜0.02mg/mlの範囲で含有してなることを特徴とする請求項7記載のコレステロールの定量方法。
【請求項10】
前記第二の溶液において、前記コレステロールはリン脂質若しくは界面活性剤によって分散していることを特徴とする請求項7記載のコレステロールの定量方法。
【請求項11】
前記第二の溶液において、前記コレステロール濃度は、0.1〜1.6mg/mlの範囲内であることを特徴とする請求項9記載のコレステロールの定量方法。
【請求項12】
過酸化水素を含有する第一の溶液を保持する第一の容器と、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ及びコレステロールを含む第二の溶液を保持すると第二の容器と、前記第一の容器と第二の容器との間に配置され、前記第一の溶液を前記第二の溶液に浸透させる半透膜と、前記第二の溶液に浸されるよう配置される酸素電極と、前記酸素電極に接続される溶存酸素計と、前記溶存酸素計に接続される情報処理装置と、を有するコレステロールの定量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−81492(P2006−81492A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271041(P2004−271041)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】