説明

コレステロールオキシダーゼ、クロモバクテリウム属の微生物、測定試薬、検査方法、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及びコレステロールオキシダーゼの製造方法

【課題】 耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を同時に有するコレステロールオキシダーゼを提供する。
【解決手段】
クロモバクテリウム・エスピーDS1(FERM P-21476)株により生産されるコレステロールオキシダーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酵素に係り、特にコレステロールオキシダーゼ、クロモバクテリウム属の微生物、測定試薬、検査方法、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及びコレステロールオキシダーゼの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロールオキシダーゼ(EC 1.1.3.6)は、バークホルデリア属(例えば特許文献1、2参照。)、ストレプトマイセス属(例えば特許文献3参照。)、ブレビバクテリウム属(例えば特許文献4参照。)、及びロードコッカス属(例えば特許文献5、6参照。)等の細菌が生産することが知られている。これらの細菌から生産されるコレステロールオキシダーゼは、血清あるいは血漿等の血液中の総コレステロール濃度を測定する際に用いられる臨床検査用試薬に用いられることができる。またコレステロールオキシダーゼは、遊離型コレステロールの測定(例えば特許文献7参照。)、コレステロール誘導体の製造(例えば特許文献8参照。)、バイオセンサ(例えば特許文献9参照。)、殺虫剤(例えば特許文献10参照。)、及び洗剤(例えば特許文献11参照。)等に利用することを目的としても研究されている。
【0003】
さらにコレステロールオキシダーゼは、食物試料に含まれるステロールの濃度分析や、3β‐ヒドロキシステロイドからの3‐ケトステロイドの調製にも用いられている。他に、コレステロールオキシダーゼ生産菌を利用した発酵食品中のコレステロールレベルの低減、あるいはコレステロールオキシダーゼの殺虫活性を利用した害虫抵抗性綿花の育種等、医療、食品、及び農業等の幅広い分野でコレステロールオキシダーゼの利用が検討されている。
【0004】
ここで、コレステロールは難水溶性である。したがってコレステロールオキシダーゼでコレステロールを酸化する際、酵素反応液中に界面活性剤や有機溶媒を添加し、コレステロールの溶解性を高め、酵素反応を効率化させる場合がある。そのため、界面活性剤耐性や有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼが望まれていた。また、界面活性剤耐性及び有機溶媒耐性を有すると共に、熱安定性も高いコレステロールオキシダーゼが望まれていた。界面活性剤や有機溶媒に耐性のコレステロールオキシダーゼ(例えば特許文献12参照。)、及び熱安定性が高いコレステロールオキシダーゼ(例えば特許文献13参照。)は報告されている。しかし、耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性の総てを有するコレステロールオキシダーゼは現在までに報告されていなかった。
【特許文献1】特開2002-65271号公報
【特許文献2】国際公開第99/45106号パンフレット
【特許文献3】特開昭62-285789号公報
【特許文献4】特開平4-218367号公報
【特許文献5】特表平3-503487号公報
【特許文献6】特開昭61-247381号公報
【特許文献7】特開平5-123189号公報
【特許文献8】特開平6-113883号公報
【特許文献9】特開2004-264247号公報
【特許文献10】米国特許第5,558,862号明細書
【特許文献11】国際公開第89/09813号パンフレット
【特許文献12】道久、青野、「アプライド・マイクロバイオロジ・アンド・バイオテクノロジ(Applied Microbiology and Biotechnology)」、2001年10月、第57巻、第1-2号、p.146-152
【特許文献13】M.タバタバイ(M. Tabatabaei)、他3名、「エンザイム・アンド・マイクロバイアル・テクノロジ(ENZYME AND MICROBIAL TECHNOLOGY)」、2001年、第28巻、第4-5号、p.410-414
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を同時に有するコレステロールオキシダーゼ、クロモバクテリウム属の微生物、測定試薬、検査方法、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及びコレステロールオキシダーゼの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の第1の特徴は、クロモバクテリウム・エスピーDS1株(FERM P-21476)により生産されるコレステロールオキシダーゼであることを要旨とする。
【0007】
本発明の第2の特徴は、コレステロールに作用してコレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オンに変換し、3β-ヒドロキシステロイドに基質特異的に作用し、至適pHが7.0乃至7.5で、安定pHが3乃至11であり、至適温度が約65℃で、安定温度が4乃至85℃である、耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼであることを要旨とする。
【0008】
本発明の第3の特徴は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼ、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼであることを要旨とする。
【0009】
本発明の第4の特徴は、コレステロールに作用してコレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オンに変換し、3β-ヒドロキシステロイドに基質特異的に作用し、至適pHが7.0乃至7.5で、安定pHが3乃至11であり、至適温度が約65℃で、安定温度が4乃至85℃である、耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼを生産するクロモバクテリウム属の微生物であることを要旨とする。
【0010】
本発明の第5の特徴は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼを生産するクロモバクテリウム属の微生物、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼを生産するクロモバクテリウム属の微生物であることを要旨とする。
【0011】
本発明の第6の特徴は、クロモバクテリウム・エスピーDS1株(FERM P-21476)により生産されるコレステロールオキシダーゼを備える、3β-ステロール類濃度の測定試薬であることを要旨とする。
【0012】
本発明の第7の特徴は、コレステロールに作用してコレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オンに変換し、3β-ヒドロキシステロイドに基質特異的に作用し、至適pHが7.0乃至7.5で、安定pHが3乃至11であり、至適温度が約65℃で、安定温度が4乃至85℃である、耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼを備える、3β-ステロール類濃度の測定試薬であることを要旨とする。
【0013】
本発明の第8の特徴は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼを備える3β-ステロール類濃度の測定試薬、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼを備える3β-ステロール類濃度の測定試薬であることを要旨とする。
【0014】
本発明の第9の特徴は、試料と、クロモバクテリウム・エスピーDS1株(FERM P-21476)により生産されるコレステロールオキシダーゼとを反応させ、生成する過酸化水素(H2O2)を測定する等により、試料に含まれる3β-ステロール類の濃度を測定することを含む検査方法であることを要旨とする。なお試料とは、ほ乳類から分離された試料、又は食品から分離された試料を含む。
【0015】
本発明の第10の特徴は、試料と、コレステロールに作用してコレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オンに変換し、3β-ヒドロキシステロイドに基質特異的に作用し、至適pHが7.0乃至7.5で、安定pHが3乃至11であり、至適温度が約65℃で、安定温度が4乃至85℃である、耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼとを反応させ、試料に含まれる3β-ステロール類の濃度を測定することを含む検査方法であることを要旨とする。
【0016】
本発明の第11の特徴は、試料と、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼとを反応させ、試料に含まれる3β-ステロール類の濃度を測定することを含む検査方法、又は試料と、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼとを反応させ、試料に含まれる3β-ステロール類の濃度を測定することを含む検査方法であることを要旨とする。
【0017】
本発明の第12の特徴は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子であることを要旨とする。
【0018】
本発明の第13の特徴は、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAを有する、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子、又は配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードするDNAを有する、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子であることを要旨とする。
【0019】
本発明の第14の特徴は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターであることを要旨とする。
【0020】
本発明の第15の特徴は、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードするDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターであることを要旨とする。
【0021】
本発明の第16の特徴は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む形質転換体、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む形質転換体であることを要旨とする。
【0022】
本発明の第17の特徴は、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む形質転換体、又は配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードするDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む形質転換体であることを要旨とする。
【0023】
本発明の第18の特徴は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む形質転換体を培養し、形質転換体が生産するコレステロールオキシダーゼを回収することを含むコレステロールオキシダーゼの製造方法であることを要旨とする。
【0024】
本発明の第19の特徴は、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードするDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む形質転換体を培養し、形質転換体が生産するコレステロールオキシダーゼを回収することを含むコレステロールオキシダーゼの製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を同時に有するコレステロールオキシダーゼ、クロモバクテリウム属の微生物、測定試薬、検査方法、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及びコレステロールオキシダーゼの製造方法を提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお以下の示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための方法等を例示するものであって、この発明の技術的思想を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0027】
さて、本発明者は種々検討した結果、クロモバクテリウム・エスピー(Chromobacterium sp.)DS1株(平成19年12月21日付けで独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD)(茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター)に寄託された。受託番号は、FERM P-21476である。)から生産されるコレステロールオキシダーゼを見いだし、単離及び精製することに成功した。本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼは、クロモバクテリウム・エスピーDS1株の培養液から、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水クロマトグラフィー法、あるいはゲル濾過法等のクロマトグラフィー法により精製可能である。
【0028】
クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、コレステロールに作用し、コレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オン(6β-hydroperoxycholest-4-en-3-one)に変換する。またクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、特に3β-ヒドロキシステロイドに対して基質特異的に作用し、至適pHは7.0〜7.5であり、安定pHは3〜11である。また至適温度は約65℃であり、安定温度は4〜85℃である。
【0029】
またクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、2-プロパノール、酢酸エチル、1-ブタノール、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、p-キシレン、あるいはシクロオクタン等の有機溶媒存在下において安定である。さらに、アシルポリオキシエチレンソルビタンエステル(商品名Tween20及びTween40)、ポリオキシエチレングリコールp-t-オクチルフェニルエーテル(商品名TritonX-100)、コール酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(商品名エマール20C及びエマール20Cm、花王製)、N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウリルベンゼン硫酸ナトリウム、あるいはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤存在下においても安定である。
【0030】
このようにクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、界面活性剤及び有機溶媒に対して耐性であり、さらに従来知られていたコレステロールオキシダーゼよりも高い熱安定性を示す。また幅広いpHで活性を示すという性質も有する。なおクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼの分子量は、SDS-PAGEによる測定で約58kDaであり、ミカエリス定数(Km:μM)と最大反応速度(Vmax:μmol/min/mg)の比Vmax/Kmの値は0.37である。
【0031】
(実施例1:コレステロールオキシダーゼの精製)
体積が12lのLB培地にて、培養温度30℃、撹拌速度130 rpm、及び通気速度10L/minの条件で、クロモバクテリウム・エスピーDS1株を16時間液体培養した。次に培養液を遠心分離し、菌体を除去した。続いて硫安沈澱法により、培養液の上清からタンパク質を回収し、さらにDEAE-セルロースカラムクロマトグラフィー、及びブチル−トヨパール(Butyl-Toyopearl)セルロースカラムクロマトグラフィーにより、コレステロールオキシダーゼを精製した。コレステロールオキシダーゼの回収率は14%であった。
【0032】
精製したコレステロールオキシダーゼの活性は、Allain氏らの方法により測定された。Allain氏らの方法とは、コレステロールオキシダーゼによりコレステロールが酸化される際に生じる過酸化水素を、ペルオキシダーゼにより4-アミノアンチピリン及びフェノールと反応させ、生じたキノンイミンの赤色光(波長500nm)の吸収を定量する方法である。
【0033】
具体的には、50mmol/lのリン酸2カリウム酸緩衝液(pH7.0)、64mmol/lのコール酸ナトリウム、体積濃度が0.34%のトライトンX-100、1.4mmol/lの4-アミノアンチピリン、21mmol/lのフェノール、0.89mmol/lのコレステロール、及び5ユニット(U)のセイヨウワサビペルオキシダーゼからなる組成の活性試験溶液を用意した。次に1mlの活性試験溶液中に、精製されたコレステロールオキシダーゼを含む50μlの溶液を加え、30℃で3分間、500nmの吸光度を測定した。この時、1分間に1μmolのコレステロールを酸化するために必要なコレステロールオキシダーゼの量を1Uと定義した。
【0034】
(実施例2:コレステロールオキシダーゼのpH依存性)
まず50mmol/lのリン酸1ナトリウム-リン酸2ナトリウム緩衝液、50mmol/lのトリス-塩酸緩衝液、及び50mmol/lの炭酸ナトリウム-炭酸水素ナトリウム緩衝液の3種類の緩衝液を用意した。次に3種類の緩衝液のそれぞれに、64mmol/lのコール酸ナトリウム及び0.89mmol/lのコレステロールを加え、それぞれ体積が1mlの3種類のpH依存性試験用反応液を調製した。また実施例1で調製した0.2U/mlのコレステロールオキシダーゼ及び10mmol/lのTris-HCl(pH 8.0)を含む50μlの酵素溶液を調製した。
【0035】
次に3種類のpH依存性試験用反応液のそれぞれに酵素溶液を加え、基質としてのコレステロールの酸化に伴う酸素の消費速度を30℃で3分間測定し、消費速度の初期速度から、コレステロールオキシダーゼの活性を算出した。なお酸素量の測定には、DOメーターTD-51(株式会社 東興化学研究所)を使用した。また1分間に1μmolのコレステロールを酸化させる活性を、コレステロールオキシダーゼ活性の1単位と定義した。ここで、pH7のときのコレステロールオキシダーゼ活性を100%とした場合の、コレステロールオキシダーゼのpH依存性を図1に示す。コレステロールオキシダーゼは、pH7.0〜7.5で強い活性を示した。
【0036】
(実施例3:コレステロールオキシダーゼの温度依存性)
50mmol/lのTris-HCl(pH8.0)、64mmol/lのコール酸ナトリウム、実施例1で調製した0.2U/mlのコレステロールオキシダーゼ、及び10mmol/lのTris-HCl(pH8.0)を含む475μlの温度依存性試験用反応液を、複数の温度条件下で15分間プレインキュベーションした。次にイソプロパノールに最終濃度が0.25mmol/lとなるようコレステロールを溶かした25μlのコレステロール溶液を温度依存性試験用反応液に加えて3分間反応させた後、温度依存性試験用反応液を100℃で5分間放置し、反応を停止させた。その後、温度依存性試験用反応液の吸光度A240を測定し、コレステロールオキシダーゼの活性を算出した。
【0037】
温度が65℃のときのコレステロールオキシダーゼ活性を100%とした場合の、コレステロールオキシダーゼの温度依存性を図2に示す。コレステロールオキシダーゼは、65℃で強い活性を示した。
【0038】
(実施例4:コレステロールオキシダーゼのpH安定性)
実施例1で調製したコレステロールオキシダーゼを複数のpH条件に30分供した後、基質としてコレステロールを用いて、Allain氏らの方法により30℃、pH7.0でコレステロールオキシダーゼの残存活性を測定した。図3に示すように、コレステロールオキシダーゼの活性は、pH3.0〜11.0で安定であった。
【0039】
(実施例5:コレステロールオキシダーゼの温度安定性)
実施例1で調製したコレステロールオキシダーゼを複数の温度条件に30分供した後、基質としてコレステロールを用いて、Allain氏らの方法により30℃、pH7.0でコレステロールオキシダーゼの残存活性を測定した。図4に示すように、コレステロールオキシダーゼの活性は、4℃から85℃の間で安定であった。
【0040】
(実施例6:コレステロールオキシダーゼの耐熱性)
クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来、シュードモナス・フルオレスセンス(Pseudomonas fluorescens)由来、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来、ノカルディア・エリスロポリス(Nocardia erythropolis)由来、ノカルディア・エスピー(Nocardia sp.)由来、及びストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)由来のコレステロールオキシダーゼを用意し、実施例5と同様に、各菌由来のコレステロールオキシダーゼの残存活性を測定した。すると図5に示すように、クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼが最も優れた耐熱性を示した。
【0041】
(実施例7:コレステロールオキシダーゼの基質特異性)
基質として、コレステロール、β-コレスタノール、β-シトステロール、β-スチグマステロール、エルゴステロール、プレグネノロン、エピアンドロステロン、及びデヒドロエピアンドロステロンを用意した。次に用意した複数の基質のそれぞれと、実施例1で調製したコレステロールオキシダーゼとを用いて、Allain氏らの方法により30℃、pH7.0でコレステロールオキシダーゼの活性を測定した。その結果、図6に示すように、クロモバクテリウム・エスピーDS1株のコレステロールオキシダーゼは、コレステロール、β-コレスタノール、β-シトステロール、及びプレグネノロン等の3β-ヒドロキシステロイドに対して特異的な基質特異性を示した。
【0042】
(実施例8:金属イオンの影響)
実施例1で調製したコレステロールオキシダーゼを含む溶液に、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化亜鉛、及び硝酸銀のいずれかを濃度が1mmol/lとなるよう添加した。その後、Allain氏らの方法により30℃、pH7.0でコレステロールオキシダーゼの活性を測定した。その結果、図7に示すように、クロモバクテリウム・エスピーDS1株のコレステロールオキシダーゼの活性は、塩化亜鉛を添加することにより、約51%にまで低下することが示された。
【0043】

(実施例9:界面活性剤の影響)
実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼと、シュードモナス・フルオレスセンス(Pfl: Pseudomonas fluorescens)、バークホルデリア・セパシア(Bur: Burkholderia cepacia)、ノカルディア・エリスロポリス(Ner: Nocardia erythropolis)、ノカルディア・エスピー(Nsp: Nocardia sp.)、及びストレプトマイセス・エスピー(Str: Streptomyces sp.)のそれぞれに由来するコレステロールオキシダーゼを用意した。
【0044】
次に、それぞれの株由来の0.2U/mlのコレステロールオキシダーゼ及び10mmol/lのTris-HCl(pH8.0)を含む酵素溶液に、界面活性剤を終濃度が0.5%となるよう加え、30℃、45℃、又は60℃で1時間静置し、Allain氏らの方法で酵素活性を測定した。なお界面活性剤としては、アシルポリオキシエチレンソルビタンエステル(商品名Tween20及びTween40)、ポリオキシエチレングリコールp-t-オクチルフェニルエーテル(商品名、TritonX-100)、コール酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(商品名、エマール20C及びエマール20Cm(花王製))、N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム(以下、「Sarcosyl」と略す。)、ラウリルベンゼン硫酸ナトリウム(以下、「LBS」と略す。)、ドデシル硫酸ナトリウム(以下、「SDS」と略す。)を用いた。
【0045】
30℃で静置した場合、総ての株由来の酵素が、Tween20、Tween40、TritonX-100、コール酸ナトリウム、エマール20C、エマール20Cm、又はSarcosylの存在下で、90%以上の残存活性を示した。また図8に示すように、実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、LBS又はSDSの存在下においても、比較的高い安定性を示した。しかし、クロモバクテリウム・エスピーDS1株以外の株由来のコレステロールオキシダーゼは、LBS又はSDSの存在下において、著しく失活した。
【0046】
また45℃で静置した場合、図9に示すように、エマール20C、エマール20Cm、Sarcosyl、又はLBS等の存在下において、ノカルディア・エリスロポリス、ノカルディア・エスピー、ストレプトマイセス・エスピー等由来のコレステロールオキシダーゼの活性は著しく低下した。これに対し、実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、比較的高い安定性を示した。
【0047】
また60℃で静置した場合、図10に示すように、エマール20C、エマール20Cm、Sarcosyl、又はLBS等の存在下において、実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株以外の株由来のコレステロールオキシダーゼの活性は著しく低下した。これに対し、実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、比較的高い安定性を示した。
【0048】
以上示したように、実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、シュードモナス・フルオレスセンス、バークホルデリア・セパシア、ノカルディア・エリスロポリス、ノカルディア・エスピー、及びストレプトマイセス・エスピー由来のコレステロールオキシダーゼよりも、高い界面活性剤耐性を示した。従来、このように高い界面活性剤耐性を示すコレステロールオキシダーゼはなかった。
【0049】
(実施例10:有機溶媒の影響)
実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼと、バークホルデリア・セパシア、シュードモナス・エスピー(Pse: Pseudomonas sp.)、ノカルディア・エリスロポリス、ストレプトマイセス・エスピー、及びブレビバクテリウム・エスピー(Bre: Brevibacterium sp.)のそれぞれに由来するコレステロールオキシダーゼを用意した。
【0050】
次に、それぞれの株由来の0.2U/mlのコレステロールオキシダーゼ及び10mmol/lのTris-HCl(pH8.0)を含む2mlの酵素溶液に、1mlの有機溶媒を加え、30℃で12時間、120rpmで振とうし、Allain氏らの方法で酵素活性を測定した。なお有機溶媒としては、アセトン、イソプロパノール、酢酸エチル、ブタノール、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、p-キシレン、又はシクロオクタンを用いた。
【0051】
図11に示すように、アセトン、イソプロパノール、酢酸エチル、ブタノール、及びクロロホルム等の存在下において、実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株以外の株由来のコレステロールオキシダーゼの活性は著しく低下した。これに対し、クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼの活性は、アセトンを除き、種々の有機溶媒の存在下にあっても安定であった。
【0052】
従来、バークホルデリア・セパシア由来のコレステロールオキシダーゼが、有機溶媒の存在下においても高い安定性を示すことが報告されていた(N.Doukyu and R. Aono. Appl. Microbiol. Biotechnol. 57:146-152 (2001))。しかし実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、バークホルデリア・セパシア由来のコレステロールオキシダーゼよりも、イソプロパノールあるいはブタノールの存在下において高い安定性を示した。また、その他の有機溶媒の存在下においても、クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、バークホルデリア・セパシア由来のコレステロールオキシダーゼと比較して、同等以上の安定性を示した。
【0053】
(実施例11:ミカエリス定数と最大反応速度)
実施例1で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼと、バークホルデリア・セパシア、シュードモナス・フルオレスセンス、ノカルディア・エリスロポリス、ノカルディア・エスピー、ストレプトマイセス・エスピーのそれぞれに由来するコレステロールオキシダーゼを用意した。
【0054】
次にそれぞれの株由来のコレステロールオキシダーゼについて、Allain氏らの方法を用いて、コレステロールの濃度を0mmol/lから1mmol/lに変化させた場合の酵素活性を測定した。さらにLineweaver-Burkの逆数プロットにより、コレステロールオキシダーゼのミカエリス定数(Km)及び最大反応速度(Vmax)を算出した。
【0055】
図12に示すように、クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼの最大反応速度は、他の株由来のコレステロールオキシダーゼと比較して高く、またVmax / Kmの値も最も高かった。したがってクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼの触媒効率が最も高いことが示された。クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼに匹敵する触媒効率を有するコレステロールオキシダーゼは、従来知られていなかった。
【0056】
(実施例12:コレステロールオキシダーゼの分解ペプチド)
実施例1で調製した20μgのクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼに、2μgのリジルエンドペプチダーゼを加え、37℃で24時間反応させ、コレステロールオキシダーゼの分解ペプチドを得た。
【0057】
(実施例13:N末端アミノ酸配列)
実施例12で得られた10μgのコレステロールオキシダーゼの分解ペプチドを、0.1%SDS-12.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。次に泳動された分解ペプチドをポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した後、PVDF膜をクーマシーブリリアントブルー(CBB)により染色した。その後、PVDF膜から未分解の分子量約58,000のペプチドに相当する領域と、分解された分子量約16,000のペプチドに相当する領域を切り取り、G1005A Protein Sequencing System(ヒューレットパッカード社製)を用いて、ペプチドのN末端アミノ酸配列を決定した。分子量約58,000のペプチドのN末端の決定されたアミノ酸配列は配列番号3で表され、分子量約16,000のペプチドのN末端の決定されたアミノ酸配列は配列番号4で表される。実施例12及び実施例13の一連の手順を、図13に示す。
【0058】
(実施例14:クロモバクテリウム・エスピーDS1株の染色体DNAの調製)
クロモバクテリウム・エスピーDS1株を100 mlのLB培地にて30℃、160 rpmの条件で24時間振とう培養した。その後、培養液を6,000x g、4℃で10分間遠心分離し、菌体を得た。さらに菌体をSaito-Miura法によって処理し、クロモバクテリウム・エスピーDS1株の染色体DNAを得た。
【0059】
(実施例15:プローブの調製)
実施例13で決定したアミノ酸配列をもとに、プライマーとして合成DNAを調製した。順方向プライマーの配列は配列番号5で表される配列とし、逆方向プライマーの配列は配列番号6で表される配列とした。ここで、Iはイノシン、YはC又はT、RはA又はG、KはG又はT、HはA又はT又はCである。
【0060】
次に0.2 mmol/lのdNTP混合物、0.5μmol/lの各プライマー、0.1μg/100μlの鋳型DNA、及び2.5U/100μlのEx Taq酵素(宝酒造社製)からなる組成のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)反応液を調製した。その後、実施例14で調製したDS1株の染色体DNAを鋳型とし、Gene Amp PCR System 2400(パーキンエルマー社製)を用いて、変性を96℃で1分、アニーリングを45℃で1分、及び伸長反応を72℃で1.5分のサイクルを30サイクル繰り返し、コレステロールオキシダーゼ遺伝子断片を増幅した。PCRにより増幅されたDNA断片は、アガロースゲル電気泳動で解析した結果、約1.2kbであった。
【0061】
次に、増幅されたDNA断片を核酸精製試薬(プラスミドミニキット、QIAGEN社製)を用いて回収した。その後、回収したDNA断片をDIG DNA Labeling kit(ベーリンガー社製)でジゴキシゲニン(Digoxinin)標識し、プローブを調製した。また調製したプライマーを用いて、ダイターミネーター法(dye terminator labeling)により、コレステロールオキシダーゼ遺伝子の一部の配列を決定した。実施例15の一連の手順を、図14に示す。
【0062】
(実施例16:制限酵素地図の作製)
実施例14で得られたクロモバクテリウム・エスピーDS1株の染色体DNAを、制限酵素SmaI、EcoRV、BstXI、EcoRI、NspV、PstI、SspI、MboII、及びSalIで切断した後、1.0%アガロースゲル電気泳動に供した。泳動後、DNA断片をニトロセルロース膜に転写した。その後、転写したニトロセルロース膜に、実施例15で得られたジゴキシゲニン標識プローブを結合させた。さらにニトロセルロース膜に、アルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体を結合させた。
【0063】
5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸(BCIP: 5-bromo-4-chloro-3-indolylphosphate)及びニトロブルーテトラゾリウム(nitrobluetetrazolium)を基質としてホスファターゼ反応をおこなうことによって、実施例15で決定されたコレステロールオキシダーゼ遺伝子内部配列と相補的なDNAを検出した。その結果を基にして、DS1株染色体のコレステロールオキシダーゼ遺伝子周辺の図15に示す制限酵素地図を作製した。
【0064】
(実施例17:コレステロールオキシダーゼ遺伝子のクローニングと塩基配列の決定)
実施例16で作製した制限酵素地図の結果から、制限酵素SmaIで染色体DNAを消化すると、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含む約3kbの断片が得られることがわかった。したがって図16に示すように、実施例14で調製したクロモバクテリウム・エスピーDS1株の染色体DNAをSmaIにより切断した。その後、切断されたDNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離し、核酸精製試薬(プラスミドミニキット、QIAGEN社製)を用いて、約3 kbpのDNA断片を回収した。さらにライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて、回収した断片をセルフライゲーションにより環状化した。
【0065】
次に実施例15で決定したコレステロールオキシダーゼ遺伝子の一部の配列に基づいて、コレステロールオキシダーゼ遺伝子の上流領域及び下流領域の図17に示す未解析部分の遺伝子配列を増幅できるように、配列番号7で表される配列のセンスプライマー及び配列番号8で表される配列のアンチセンスプライマーを作製し、PCR反応を行った。なおPCR反応には、0.2mmol/lのdNTP混合物、0.5μmol/lの各プライマー、0.1μg/100μlの鋳型DNA、及び2.5U/100μlのEx Taq酵素(宝酒造社製)からなる組成の反応液を用いた。実施例14で調製したDS1株の染色体DNAを鋳型とし、Gene Amp PCR System 2400(パーキンエルマー社製)を用いて、熱変性を96℃で1分、アニーリングを45℃で1分、及び伸長反応を72℃で1.5分のサイクルを30サイクル繰り返すことにより、コレステロールオキシダーゼ遺伝子断片が増幅された。増幅された遺伝子断片を回収し、ダイターミネーター法によって塩基配列を解析し、上流領域及び下流領域の未解析領域の塩基配列を決定した。この結果、配列番号2で表されるコレステロールオキシダーゼ遺伝子全領域の塩基配列が決定された。
【0066】
コレステロールオキシダーゼ遺伝子全領域の塩基配列を解析したところ、1758bpからなるオープンリーディングフレーム(ORF)中の構造遺伝子が存在することが明らかになった。また、最も高い相同性を示したのはBurkholderia cepacia ST-200のコレステロールオキシダーゼ遺伝子であったが、相同性は62.0%であった。したがって公知のコレステロールオキシダーゼ遺伝子とクロモバクテリウム・エスピーDS1株のコレステロールオキシダーゼ遺伝子との相同性は低い。よって、クロモバクテリウム・エスピーDS1株のコレステロールオキシダーゼ遺伝子の配列は、従来知られていなかった新規な配列である。
【0067】
(実施例18:形質転換体の作製)
実施例17の塩基配列解析により得られた配列に基づいて、シャイン・ダルガノ配列 (Shine-Dalgarno sequence)上流域から終止コドンまでを含むコレステロールオキシダーゼ遺伝子全領域を含むように、図18及び配列番号9で表されるセンスプライマーと、図19及び配列番号10で表されるアンチセンスプライマーを設計した。なお、図18に示すセンスプライマーの下線部はXba Iの認識部位を示し、図19に示すアンチセンスプライマーの下線部は、Kpn Iの認識部位を示す。
【0068】
次に図20に示すように、0.2mmol/lのdNTP混合物、0.5μmol/lのアンチセンスプライマー、0.5μmol/lのセンスプライマー、0.1μg/100μlの実施例14で調製したDS1株の染色体DNA、及び2.5U/100μlのEx Taq酵素(宝酒造社製)からなる組成の反応液を用意し、染色体DNAを鋳型DNAとして、Gene Amp PCR System 2400(パーキンエルマー社製)を用いて、熱変性を96℃で1分、アニーリングを45℃で1分、及び伸長反応を72℃で1.5分のサイクルを30サイクル繰り返し、コレステロールオキシダーゼ遺伝子の全領域をPCRにより増幅した。
【0069】
次に、得られたコレステロールオキシダーゼ遺伝子中のXbaI切断サイト及びKpnI切断サイトを制限酵素XbaI及び制限酵素KpnIで切断し、切断して得られたDNA断片をベクター(pBluescript II SK+, Stratagene社製)のXbaI部位及びKpnI部位にライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて挿入し、プラスミドを調製した。
【0070】
さらに調製したプラスミドを大腸菌DH5αに常法に従い導入し、アンピシリン(50μg/ml)耐性を指標として形質転換体を選択した。その後、選択した形質転換体をアンピシリン及びコレステロールを含むLB培地に接種して37℃で培養し、コロニーの周囲にコレステロール酸化に伴うハローが生じるか観察した。次に、ハローが生じた形質転換体をLB培地にて30℃、160rpmの条件で24時間振とう培養し、回収した菌体からプラスミドpBS-COXDS1をアルカリ-SDS法にて回収した。
【0071】
(実施例19:コレステロールオキシダーゼ組換えプラスミドの作製)
実施例18で調製したプラスミドpBS-COXDS1を鋳型とし、コレステロールオキシダーゼをコードする領域をPCRによって増幅するために、MetがコレステロールオキシダーゼのN-末端となるように、Nco I部位を導入した、図21及び配列番号11で表されるセンスプライマーを設計し、またBamHI部位を導入した、図22及び配列番号12で表されるアンチセンスプライマーを設計した。なお図21の下線部はNcoIの認識部位を示し、図22の下線部はBamHIの認識部位を示す。
【0072】
次に、0.2 mmol/lのdNTP混合物、0.5μmol/lのアンチセンスプライマー、0.5μmol/lのセンスプライマー、0.1μg/100μlの実施例14で調製したDS1株の染色体DNA、及び2.5U/100μlのEx Taq酵素(宝酒造社製)からなる組成の反応液を用意し、染色体DNAを鋳型DNAとして、Gene Amp PCR System 2400(パーキンエルマー社製)を用いて、熱変性を96℃で1分、アニーリングを45℃で1分、及び伸長反応を72℃で1.5分のサイクルを30サイクル繰り返し、コレステロールオキシダーゼ遺伝子断片をPCRにより増幅した。次に、PCR産物をベクター(pET21-d+)のNcoI部位及びBamHI部位に挿入し、プラスミドpET-COXDS1を作製した。
【0073】
(実施例20:大腸菌におけるコレステロールオキシダーゼの発現)
まず、プラスミドpBS-COXDS1が導入された大腸菌DH5αの形質転換体と、常法によりプラスミドpET-COXDS1が導入された大腸菌BL21の形質転換体を用意した。次に、50μg/mlアンピシリンを含む10 mlのLBG液体培地で、大腸菌DH5αの形質転換体及び大腸菌BL21の形質転換体のそれぞれを、30℃で20時間培養した。
【0074】
その後、大腸菌DH5αの形質転換体及び大腸菌BL21の形質転換体のそれぞれを培養した培養液を1mlずつ回収し、氷上で菌体を20kHzで1分間超音波破砕した。さらに菌体を破砕した菌液を用いて、Allain氏らの方法により、コレステロールオキシダーゼの活性を測定した。
【0075】
その結果、大腸菌DH5αの形質転換体由来のコレステロールオキシダーゼの活性は1.5U/mlであり、大腸菌BL21の形質転換体由来のコレステロールオキシダーゼの活性は6.3U/mlであった。これに対し、同条件で培養されたクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼの活性は0.054U/mlであった。
【0076】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。上述したように、クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは、既知のコレステロールオキシダーゼよりも優れた界面活性剤耐性、有機溶媒耐性、及び熱安定性を有している。従って、例えばクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼを血中コレステロール濃度測定用の臨床検査試薬等に用いることにより、安定性の高い臨床検査キットの開発が可能である。また有機溶媒存在下におけるコレステロール誘導体の合成にも、クロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼは有用である。さらにクロモバクテリウム・エスピーDS1株由来のコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を用いることにより、コレステロールオキシダーゼを安価に提供することができる。以上示したように、この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明からは妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼのpH依存性を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼの温度依存性を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼのpH安定性を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼの温度安定性を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼの耐熱性を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼの基質特異性を示す表である。
【図7】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼに対する金属イオンの影響を示す表である。
【図8】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼに対する界面活性剤の影響を示す第1の表である。
【図9】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼに対する界面活性剤の影響を示す第2の表である。
【図10】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼに対する界面活性剤の影響を示す第3の表である。
【図11】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼに対する有機溶媒の影響を示す表である。
【図12】本発明の実施の形態に係るコレステロールオキシダーゼのミカエリス定数及び最大反応速度を示す表である。
【図13】本発明の実施の形態に係る実施例の手順を示す第1の模式図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る実施例の手順を示す第2の模式図である。
【図15】本発明の実施の形態に係る制限酵素地図である。
【図16】本発明の実施の形態に係る実施例の手順を示す第3の模式図である。
【図17】本発明の実施の形態に係る実施例の手順を示す第4の模式図である。
【図18】本発明の実施の形態の実施例18に係るセンスプライマーの配列である。
【図19】本発明の実施の形態の実施例18に係るアンチセンスプライマーの配列である。
【図20】本発明の実施の形態に係る実施例の手順を示す第5の模式図である。
【図21】本発明の実施の形態の実施例19に係るセンスプライマーの配列である。
【図22】本発明の実施の形態の実施例19に係るアンチセンスプライマーの配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロモバクテリウム・エスピーDS1株(FERM P-21476)により生産されるコレステロールオキシダーゼ。
【請求項2】
コレステロールに作用して前記コレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オンに変換し、
3β-ヒドロキシステロイドに基質特異的に作用し、
至適pHが7.0乃至7.5で、安定pHが3乃至11であり、
至適温度が約65℃で、安定温度が4乃至85℃である、
耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼ。
【請求項3】
分子量が約58kDaである請求項1又は2に記載のコレステロールオキシダーゼ。
【請求項4】
ミカエリス定数(μmol/l)に対する最大反応速度(μmol/min/mg)の比が0.3以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコレステロールオキシダーゼ。
【請求項5】
以下の(a)又は(b)のコレステロールオキシダーゼ。
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼ
(b) アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼ。
【請求項6】
コレステロールに作用して前記コレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オンに変換し、
3β-ヒドロキシステロイドに基質特異的に作用し、
至適pHが7.0乃至7.5で、安定pHが3乃至11であり、
至適温度が約65℃で、安定温度が4乃至85℃である、
耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼ
を生産するクロモバクテリウム属の微生物。
【請求項7】
以下の(a)又は(b)のコレステロールオキシダーゼを生産するクロモバクテリウム属の微生物。
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼ
(b) アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼ。
【請求項8】
クロモバクテリウム・エスピーDS1株(FERM P-21476)により生産されるコレステロールオキシダーゼを備える、3β-ステロール類濃度の測定試薬。
【請求項9】
コレステロールに作用して前記コレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オンに変換し、
3β-ヒドロキシステロイドに基質特異的に作用し、
至適pHが7.0乃至7.5で、安定pHが3乃至11であり、
至適温度が約65℃で、安定温度が4乃至85℃である、
耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼ
を備える、3β-ステロール類濃度の測定試薬。
【請求項10】
以下の(a)又は(b)のコレステロールオキシダーゼを備える、3β-ステロール類濃度の測定試薬。
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼ
(b) アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼ。
【請求項11】
試料と、クロモバクテリウム・エスピーDS1株(FERM P-21476)により生産されるコレステロールオキシダーゼとを反応させ、前記試料に含まれる3β-ステロール類の濃度を測定することを含む検査方法。
【請求項12】
試料と、
コレステロールに作用して前記コレステロールを6β-ヒドロペルオキシコレスト-4-エン-3-オンに変換し、
3β-ヒドロキシステロイドに基質特異的に作用し、
至適pHが7.0乃至7.5で、安定pHが3乃至11であり、
至適温度が約65℃で、安定温度が4乃至85℃である、
耐熱性、界面活性剤耐性、及び有機溶媒耐性を有するコレステロールオキシダーゼとを反応させ、
前記試料に含まれる3β-ステロール類の濃度を測定することを含む検査方法。
【請求項13】
試料と、
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼ、又は(b)アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼとを反応させ、
前記試料に含まれる3β-ステロール類の濃度を測定することを含む検査方法。
【請求項14】
以下の(a)又は(b)のコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子。
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼ
(b) アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼ。
【請求項15】
以下の(a)又は(b)のDNAを有する、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子。
(a) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b) 塩基配列(a)において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードするDNA。
【請求項16】
以下の(a)又は(b)のコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター。
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼ
(b) アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼ。
【請求項17】
以下の(a)又は(b)のDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター。
(a) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b) 塩基配列(a)において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードするDNA。
【請求項18】
以下の(a)又は(b)のコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む、形質転換体。
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼ
(b) アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼ。
【請求項19】
以下の(a)又は(b)のDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む、形質転換体。
(a) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b) 塩基配列(a)において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードするDNA。
【請求項20】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は(b)アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む形質転換体を培養し、
前記形質転換体が生産するコレステロールオキシダーゼを回収すること
を含むコレステロールオキシダーゼの製造方法。
【請求項21】
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は(b)塩基配列(a)において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつコレステロールオキシダーゼ活性を有するコレステロールオキシダーゼをコードするDNAを有するコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを含む形質転換体を培養し、
前記形質転換体が生産するコレステロールオキシダーゼを回収すること
を含むコレステロールオキシダーゼの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−195146(P2009−195146A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39355(P2008−39355)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】