説明

コレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤及びこれを含む食品

【課題】 コレステロール及び中性脂肪の吸収を抑制する効果が高く、新規な天然物由来のコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤及びこれを含む食品を提供すること。
【解決手段】 コレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤は、サングレ・デ・グラードの樹脂又はそのメタノール抽出物から成る。コレステロール及び中性脂肪の吸収を抑制する食品は、サングレ・デ・グラードの樹脂又はそのメタノール抽出物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤及びこれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロール及び中性脂肪の過剰な蓄積は、様々な生活習慣病を引き起こすことが知られている。このような生活習慣病としては、高脂血症が挙げられるが、これは動脈硬化、ひいては虚血性心疾患などを発症させる危険因子となり得る。
血液中のコレステロール濃度及び中性脂肪濃度を低下させる組成物として、キトサン、低分子アルギン酸ナトリウム、サイリウム種皮由来植物繊維、ミズナラ及びコナラ樹木種実粉末(特許文献1参照)、タマリンドの種皮(特許文献2参照)などいくつかの素材が知られているが、より効果の高い素材が求められている。
【0003】
サングレ・デ・グラード(現地名Sangre de Grado/Drago、学名Croton lechleri)は、トウダイグサ(Euphorbiaceae)科、クロトン(Croton)属に属する高さが20mほどにもなるペルー、エクアドル、コロンビア等の比較的標高が高いアッパーアマゾンに自生する植物であって、その樹皮や樹液がアマゾン熱帯雨林において伝統的に生薬として利用されてきた。
サングレ・デ・グラードの樹皮や樹液等は、抗酸化作用、抗炎症作用、止血作用、抗ウィルス作用、抗菌作用、抗下痢作用などの効能を有することが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。しかし、サングレ・デ・グラードにコレステロール及び中性脂肪の吸収抑制効果があることは全く知られていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−299451号公報
【特許文献2】特開平9−291039号公報
【非特許文献1】Perdue GP,et al.South American plants II:taspine isolation and anti−inflammatory activity.J Pharm Sci,1979 Jan.
【非特許文献2】Chen ZP,et al.Studies on the anti−tumour,anti−bacterial,and wound−healing properties of dragon’s blood・Planta Med,1994 Des.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、コレステロール及び中性脂肪の吸収を抑制する効果が高く、新規な天然物由来のコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤及びこれを含む食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、様々な薬効で知られているサングレ・デ・グラードの樹脂に、コレステロール及び中性脂肪の吸収を抑制する作用があることを発見した。
即ち、本発明のコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤は、サングレ・デ・グラードの樹脂を有効成分とする。更に詳しくは、本発明のコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤は、サングレ・デ・グラードの樹脂のメタノール抽出物を有効成分とする。また、本発明の食品は、サングレ・デ・グラードの樹脂又はそのメタノール抽出物を含有する。
サングレ・デ・グラードの樹液には、プロアンソシアニジン、フェノール類、ジテルペン、フィトステロール、タスピン、リグナン・ジメチルセルロシン等の様々な植物化学成分が含有されているが、サングレ・デ・グラードの樹液が固化してなる樹脂の中で、如何なる成分がコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤として作用しているのかは明らかでない。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来から伝統薬として知られていたサングレ・デ・グラードを利用して、コレステロール及び中性脂肪の吸収を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤は、サングレ・デ・グラードの樹液を固化してなる樹脂を有効成分とする。
サングレ・デ・グラードとは、現地名Sangre de Grado/Drago、学名Croton lechleriをさし、トウダイグサ(Euphorbiaceae)科、クロトン(Croton)属に属する。
サングレ・デ・グラードの樹脂は、樹木の表面に傷を付け、この傷跡から滲出する樹液を固化したもので、従来より公知のものであり、既に商品として販売されている。
本発明に係るサングレ・デ・グラードの樹脂のメタノール抽出物とは、上記公知の樹脂をメタノールで抽出して得られた化合物である。メタノール抽出は一般的な方法で行う。例えば、樹脂を粉末状に粉砕した粉末樹脂にメタノールを加え、室温〜70℃程度で数時間から数日放置し、その抽出液に濾過、遠心分離等の操作を加え、濃縮する。
【0009】
樹脂を粉末状にすると、メタノールとの接触面積が増大し抽出を効率的に行うことができるが、粉末状の樹脂でなくても良い。また、樹脂から有効成分を溶出させる溶媒は、メタノールに限定されるものではなく、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等の類似した他の有機溶媒等を用いることもできる。
さらに、水抽出、熱水抽出、酸性下での抽出、アルカリ性下での抽出で得られたサングレ・デ・グラードの樹脂の抽出物でも、同様の作用を発揮し得るものである。
また、浸漬する時間は、樹脂の大きさ、抽出雰囲気の温度によって異なるが、粉末状の樹脂であれば、通常の室温下では一昼夜の浸漬で十分である。
【0010】
サングレ・デ・グラードの樹脂及びそのメタノール抽出物は、常法に従って従来公知の医薬用無毒性担体と組み合わせることにより、種々の剤形に製剤化できる。
経口投与剤としては、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤や、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤や、凍結乾燥製剤が挙げられる。非経口投与剤としては、注射剤のほか、座薬、噴霧剤、経皮吸収剤が挙げられる。これらの製剤は、製剤上の常套手段により調製することができる。
【0011】
医薬用無毒性担体としては、グルコース、乳糖、蔗糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、コレステロール酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンコレステロール酸エステル、アミノ酸、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。
サングレ・デ・グラード樹脂の投与量は、被投与者の年齢、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態等により適宜選択・決定されるが、一日当たり、0.01〜10g/kg体重程度とされ、一日数回に分けて投与しても良い。
【0012】
サングレ・デ・グラードは、食経験もあることから安全性が高いと考えられ、本発明のコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤を食品として摂取することもできる。
本発明のサングレ・デ・グラード樹脂に適当な助剤を添加し、慣用の手段を用いて食用に適した形態、例えば粒状、顆粒状、ペースト状に形成し機能性食品として、これを直接供するか、ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、乳製品、菓子、水、酒類、清涼飲料水等の種々の飲食物に添加し飲食品として、これを直接供することもできる。
サングレ・デ・グラードの樹脂を含む食品の摂取量は、摂取者の年齢、体重、症状、疾患の程度、食品の形態等により適宜選択・決定されるが、サングレ・デ・グラード抽出物の摂取量が、一日当たり0.01〜10g/kg体重程度になるようにする。
【実施例1】
【0013】
(試験1)
サングレ・デ・グラードの樹脂のコレステロール吸収抑制作用を調べるために、次のような試験を行った。
9週齢、雌のddyマウスを、コントロール群(n=8)とサングレ・デ・グラード投与群(n=8)とに分け、両群の尾採血を行った。
コントロール群には、水0.5ml、コレステロール146mg/kg体重、コール酸ナトリウム36mg/kg体重、及び、オリーブ油0.5mlの混合物を同時に経口投与した。
サングレ・デ・グラード投与群には、サングレ・デ・グラード樹脂粉末水溶液(1000mg/kg)0.5ml、コレステロール146mg/kg体重、コール酸ナトリウム36mg/kg体重、及び、オリーブ油0.5mlの混合物を同時に経口投与した。
投与後3時間経過してから、再び両群の尾採血を行った。尾採血によって得られた血液を遠心分離した後、血漿部を2μlずつ取り出して、コレステロールテストワコーEを用いて血中コレステロール濃度を測定した。
試験1の結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1において、数値は平均値±標準誤差(mg/dl)であり、カッコ内はサングレ・デ・グラード投与群のコントロール群に対する有意差を示す。
表1の結果から、サングレ・デ・グラードの樹脂に、コレステロール吸収抑制効果のあることがわかった。
【実施例2】
【0016】
(製法)
サングレ・デ・グラードの樹脂を乾燥して粉砕した粉末8gを150mlのメタノールに浸漬し、一昼夜抽出した後、ろ過し、ろ液を乾固して、サングレ・デ・グラードの樹脂のメタノール抽出物6.4gを得た。
【0017】
(試験2)
サングレ・デ・グラードの樹脂のメタノール抽出物によるコレステロール吸収抑制作用を調べるために、以下のような実験を行った。
8週齢、雌のddyマウスを、コントロール群(n=8)とサングレ・デ・グラード投与群(n=8)とに分け、両群の尾採血を行った。
コントロール群には、水0.5ml、コレステロール146mg/kg体重、コール酸ナトリウム36mg/kg体重、及び、オリーブ油0.5mlの混合物を同時に経口投与した。
サングレ・デ・グラード投与群には、上記製法で得たサングレ・デ・グラードのメタノール抽出物水溶液(300ml/kg)0.5ml、コレステロール146mg/kg体重、コール酸ナトリウム36mg/kg体重、及び、オリーブ油0.5mlの混合物を同時に経口投与した。
投与後、2時間、4時間、6時間及び8時間経過後にそれぞれ両群の尾採血を行った。 尾採血によって得られた血液を遠心分離した後、血漿部を2μl取り出し、コレステロールテストワコーEを用いて血中コレステロール濃度の経時変化を測定した。
試験2の結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
(試験3)
サングレ・デ・グラードの樹脂のメタノール抽出物による中性脂肪吸収抑制作用を調べるために、以下のような実験を行った。
8週齢、雌のddyマウスを、コントロール群(n=8)とサングレ・デ・グラード投与群(n=8)とに分け、両群の尾採血を行った。
コントロール群には、水0.5ml、コレステロール146mg/kg体重、コール酸ナトリウム36mg/kg体重、及び、オリーブ油0.5mlの混合物を同時に経口投与した。
サングレ・デ・グラード投与群には、上記製法で得たサングレ・デ・グラードのメタノール抽出物水溶液(300ml/kg)0.5ml、コレステロール146mg/kg体重、コール酸ナトリウム36mg/kg体重、及び、オリーブ油0.5mlの混合物を同時に経口投与した。
投与後、3時間及び6時間経過後にそれぞれ両群の尾採血を行った。尾採血で得られた血液を遠心分離した後、血漿部を2μl取り出し、トリグルセライドEテストワコーを用いて血中中性脂肪濃度の経時変化を測定した。
試験3の結果を表3に示す。
【0020】
【表3】

【0021】
表2及び表3において、数値は平均値±標準誤差(mg/dl)であり、カッコ内はサングレ・デ・グラード投与群のコントロール群に対する有意差を示す。
表2及び表3から明らかなように、サングレ・デ・グラードの樹脂のメタノール抽出物は、コレステロール及び中性脂肪の吸収を顕著に抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サングレ・デ・グラードの樹脂を有効成分とするコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤。
【請求項2】
該抽出物がサングレ・デ・グラードの樹脂のメタノール抽出物より成ることを特徴とする請求項1に記載のコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコレステロール及び中性脂肪吸収抑制剤を含む食品。

【公開番号】特開2006−232752(P2006−232752A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50835(P2005−50835)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(504054516)株式会社キノス (8)
【Fターム(参考)】