説明

コロイド結晶ゲル、コロイド結晶ゲルを製造する方法、および、素子

【課題】 長期的に安定、かつ、任意の格子定数を有するコロイド結晶ゲル、および、水または水性溶媒を液体媒質としたコロイド結晶ゲルに基づいて長期的に安定、かつ、任意の格子定数を有するコロイド結晶ゲルを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明によるコロイド結晶ゲルは、コロイド粒子と高分子網目と分散媒とを含み、分散媒は、水を溶解し、かつ、水の揮発性よりも低い揮発性を有する有機溶媒であり、有機溶媒は、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含み、第1の有機材料は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される多価アルコールであり、第2の有機材料は、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される多価アルコールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたって格子定数が安定なコロイド結晶ゲル、その製造方法、および、それを用いた素子に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子が液体媒質に分散された微粒子分散液において、微粒子の単分散性(粒径の均一性)が高く、かつ、粒子濃度が所定の濃度を超えると、微粒子分散液中の微粒子(コロイド粒子)は、自己組織的に周期配列した状態をとることが知られている。このような状態にある微粒子分散液はコロイド結晶と呼ばれる。
【0003】
コロイド結晶を形成する微粒子の粒径は、通常、数十nm〜数μmの範囲であり、形成されるコロイド結晶の格子定数もまた、同様の空間尺度であり得る。コロイド結晶は、通常の結晶性物質がX線に対して結晶の周期構造に起因した回折現象を呈するのと同様に、コロイド結晶の格子定数と同程度の波長を有する電磁波に対して、微粒子のつくる周期構造に起因した回折現象を呈する。
【0004】
また、コロイド結晶は、電磁波に対する回折能に起因する特異な特性(フォトニックバンドギャップの形成、群速度の異常分散等)を発現することから、フォトニック結晶の性質を利用した光学素子への応用が期待され得る。このような光学素子は、特定波長帯を遮断する光フィルタ、特定波長帯を反射するミラー、光スイッチ、高分散プリズム、分散補償素子、光パルス変形素子等であり得る。
【0005】
また、このような光学素子は、可視光域において美しく輝くため、装飾的な利用も可能であり得る。
【0006】
このようなコロイド結晶は、液体中に微粒子が分散した状態の流体であるため、振動および温度変化等の環境からの外乱により粒子配列が乱されやすい。この問題を解決するために、コロイド結晶中の微粒子の位置を高分子ゲルで固定したコロイド結晶ゲルまたはゲル化コロイド結晶が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1は、微粒子分散液にゲル化剤を添加し、重合、加熱、または、紫外線の照射によりゲル化コロイド結晶を製造する技術を開示している。
【0007】
このようにして得られるコロイド結晶ゲル(ゲル化コロイド結晶)には、配列している微粒子の間隙に重合高分子網目(ネットワーク)が形成されており、微粒子の配列構造が外乱によって乱されることはない。このようなコロイド結晶ゲルの出現により、コロイド結晶の実用化が促進され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コロイド結晶ゲルの光学特性は、コロイド結晶の格子定数に依存している。したがって、格子定数を長期的に安定に維持することが重要である。しかしながら、上記特許文献1に記載のコロイド結晶ゲルの液体媒質は、水あるいは水性溶媒(水を主体とした溶媒)である。水は蒸発しやすいため、水分の減少に応じてコロイド結晶ゲルが収縮し得る。その結果、格子定数が経時的に変化し、所望の光学特性が得られない場合がある。
【0009】
また、このようなコロイド結晶ゲルは、容器にパッケージングすることによって、使用され得る。この際、水分が蒸発しないように、パッケージ材質としてシリカガラス等の非透湿性の無機材料が用いられ得る。しかしながら、成型性が悪く大量生産に適さないため、コストを要する。
【0010】
また、パッケージの封止剤として有機高分子材料を用いると、有機高分子材料が透湿性を有するため、水分が有機高分子を介して蒸発する可能性がある。
【0011】
一方、液体媒質として水あるいは水性溶媒を使うことは、コロイド結晶作製およびコロイド結晶のゲル固定の容易さから、非常に有利性の大きい選択である。つまり、コロイド結晶ゲルの合成においては、液体媒質として水あるいは水性溶媒以外の溶媒を選択することは、コロイド結晶ゲル合成自体を困難にするという問題が生ずる。
【0012】
上述したようにコロイド結晶ゲルの光学特性は、コロイド結晶の格子定数に依存しているため、用途に応じて種々の格子定数を有するコロイド結晶ゲルが要求され得る。上記特許文献1に記載のコロイド結晶ゲルの格子定数は、選択された微粒子の粒径と、仕込み粒子濃度とによって決定される。したがって、目的の格子定数を有するコロイド結晶ゲルを得るためには、材料の仕込み段階において、選択された微粒子の粒径と、仕込み粒子濃度とを調整する必要がある。このような作業は、労力を要するとともにコストもかかる。
【0013】
本発明の目的は、長期的に安定、かつ、任意の格子定数を有するコロイド結晶ゲル、および、水または水性溶媒を液体媒質としたコロイド結晶ゲルに基づいて長期的に安定、かつ、任意の格子定数を有するコロイド結晶ゲルを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によるコロイド結晶ゲルは、コロイド粒子と、前記コロイド粒子の位置を固定化する、水溶性分子の重合体が形成する高分子網目と、前記コロイド粒子および前記高分子網目における間隙を埋める分散媒とを含み、前記分散媒は、水を溶解し、かつ、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有する有機溶媒であり、前記有機溶媒は、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含み、前記第1の有機材料は、前記水を溶解し、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有し、常温常圧下において液体であり、前記第2の有機材料は、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有し、前記第1の有機材料に可溶であり、前記第1の有機材料は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される多価アルコールであり、前記第2の有機材料は、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される多価アルコールであり、これにより上記目的を達成する。
前記コロイド粒子は、前記有機溶媒の屈折率と±5%以上異なる屈折率を有する材質を含んでもよい。
前記有機溶媒を前記水で置換した場合に、前記コロイド結晶ゲルの粒子体積分率は、前記水に対する平衡膨潤状態において20%以下であってもよい。
本発明によるコロイド結晶ゲルを製造する方法は、水または水性溶媒と前記水または前記水性溶媒中に所定の間隔で配列されたコロイド粒子とを含むコロイド結晶を提供する工程と、前記コロイド結晶中の前記コロイド粒子の位置を、水溶性分子の重合体が形成する高分子網目を用いて固定化する工程と、前記コロイド粒子の位置が固定化されたコロイド結晶における前記水を、前記水を溶解し、かつ、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有する有機溶媒と置換する工程とを包含し、前記有機溶媒は、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含み、前記第1の有機材料は、前記水を溶解し、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有し、常温常圧下において液体であり、前記第2の有機材料は、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有し、前記第1の有機材料に可溶であり、前記第1の有機材料は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される多価アルコールであり、前記第2の有機材料は、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される多価アルコールであり、これにより上記目的を達成する。
前記コロイド粒子は、前記有機溶媒の屈折率と±5%以上異なる屈折率を有する材質を含んでもよい。
前記固定化する工程は、前記コロイド粒子の位置が固定化されたコロイド結晶の粒子体積分率が、前記水に対する平衡膨潤状態において20%以下となってもよい。
本発明による素子は、容器と、前記容器に収容された、上述のコロイド結晶ゲルとを含み、これにより上記目的を達成する。
前記容器は、透明プラスチック材料からなってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるコロイド結晶ゲルは、コロイド粒子と、コロイド粒子の位置を固定化する、水溶性分子の重合体が形成する高分子網目と、コロイド粒子および高分子網目における間隙を埋める分散媒として有機溶媒を含む。上記有機溶媒は、水の揮発性よりも低い揮発性を有する。上記有機溶媒は、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含み、第1の有機材料は、水を溶解し、水の揮発性よりも低い揮発性を有し、常温常圧下において液体であり、第2の有機材料は、水の揮発性よりも低い揮発性を有し、第1の有機材料に可溶であり、第1の有機材料は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される多価アルコールであり、第2の有機材料は、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される多価アルコールである。このように第1の有機材料と第2の有機材料とが混合された有機溶媒を用いるので、種々の格子定数および種々の粒子濃度を有するコロイド結晶ゲルが得られる。また、第1の有機材料と第2の有機材料とは、水の揮発性よりも低い揮発性を有しているため、水の蒸発によって生じるコロイド結晶ゲルの格子定数の変化が防がれるので、長期的に安定な格子定数を有するコロイド結晶ゲルが提供され得る。
【0016】
本発明によるコロイド結晶ゲルを製造する方法は、水または水性溶媒と水または水性溶媒中に所定の間隔で配列されたコロイド粒子とを含むコロイド結晶を提供する工程と、コロイド結晶中のコロイド粒子の位置を、水溶性分子の重合体が形成する高分子網目を用いて固定化する工程とを包含する。このように、本発明によれば、初期工程において液体媒質として水または水性溶媒を用いているため、コロイド粒子が良好に周期配列したコロイド結晶が容易に得られる。
【0017】
本発明による方法は、コロイド粒子の位置が固定化されたコロイド結晶における水を、水を溶解し、かつ、水の揮発性よりも低い揮発性を有する有機溶媒と置換する工程とを包含する。ここで、有機溶媒は、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含み、第1の有機材料は、水を溶解し、水の揮発性よりも低い揮発性を有し、常温常圧下において液体であり、第2の有機材料は、水の揮発性よりも低い揮発性を有し、第1の有機材料に可溶であり、第1の有機材料は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される多価アルコールであり、第2の有機材料は、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される多価アルコールである。このように、水を溶解する有機溶媒を用いているので、容易に水または水性溶媒を用いたコロイド結晶ゲル中の水を、有機溶媒で置換することができる。このように第1の有機材料と第2の有機材料とが混合された有機溶媒を用いるので、種々の格子定数および種々の粒子濃度を有するコロイド結晶ゲルが得られる。また、このような有機溶媒は、水の揮発性よりも低い揮発性を有するので、水の蒸発によって生じるコロイド結晶ゲルの格子定数の変化が防がれる。
【0018】
この結果、コロイド粒子の良好な周期配列を維持したまま、長期的に安定かつ任意の格子定数を有する格子定数を有するコロイド結晶ゲルが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態1によるコロイド結晶ゲルの模式図
【図2】実施の形態1によるコロイド結晶ゲルを製造する工程を説明するフローチャート
【図3】実施の形態2によるコロイド結晶ゲル300の模式図
【図4】実施の形態2によるコロイド結晶ゲルを製造する工程を説明するフローチャート
【図5】本発明によるコロイド結晶ゲルを用いた素子の模式図
【図6】エチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコールによって置換されたコロイド結晶ゲルの透過スペクトルを示す図
【図7】コロイド結晶ゲルの格子定数のポリエチレングリコール濃度依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1によるコロイド結晶ゲルの模式図を示す。
本発明によるコロイド結晶ゲル100は、粒子110と、粒子の位置を固定化する高分子網目120と、粒子110および高分子網目120における間隙を埋める有機溶媒130とを含む。
【0022】
粒子110は、コロイド粒子とも呼ばれ、例えば、シリカ粒子、ポリスチレン粒子、高分子テラックス粒子、二酸化チタン等の酸化物粒子、金属粒子、異なる材料を組み合わせた複合粒子であるが、これらに限定されない。なお、複合粒子とは、2種類以上の異なる材料(材質)を組み合わせて構成されており、例えば、一方の材料が他方の材料でカプセル化されて、1つの粒子を形成しているもの、一方の材料が他方の材料に貫入して1つの粒子を形成しているもの、半球状の異なる材料が結合して1つの粒子を形成しているもの等を意味する。粒子110は、Bragg反射条件を満たすように配置されている。
【0023】
高分子網目120は、水溶性分子の重合体によって形成されており、架橋によってネットワーク構造を有した線状の高分子である。高分子網目120は、例えば、アクリルアミド重合体であるが、これらに限定されない。なお、本明細書において、特に断りを入れない限り、「高分子網目」とは、水溶性分子の重合体によって形成された高分子網目を意図するものとすることに留意されたい。
【0024】
有機溶媒130は、水を溶解し、水の揮発性よりも低い揮発性を有する有機溶媒である。このように本発明によれば、分散媒として水の代わりに、有機溶媒130を用いることにより、長期間にわたって格子定数の安定なコロイド結晶ゲルを提供することができる。有機溶媒130は、好ましくは、多価アルコールを含み、より好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、および、これらの混合物からなる群から選択される。
【0025】
なお、本明細書において、「水の揮発性よりも低い」とは、水の沸点よりも高く、および/または、水の蒸気圧よりも高いことを言う。
【0026】
表1にこれら好ましい多価アルコールの特性を示す。これらの多価アルコールは、室温を含む広い温度範囲において液体であり、水の揮発性よりも低い揮発性を有する。また、これらの多価アルコールは、水と任意の割合で相互に溶解し得る。これらの多価アルコールは、いずれも食品添加物および化粧品添加物等として使用されるので、人体に対する有害性はほとんどない。
【表1】



【0027】
粒子110は、より好ましくは、有機溶媒130の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有する材質を含む。このことは、フォトニック結晶の性能に有利であり得る。例えば、表1に示される多価アルコールの屈折率は、水(屈折率が約1.33)より高く、1.43〜1.47の範囲にある。この屈折率の値は、シリカの屈折率(約1.45)の値とほぼ一致する。したがって、表1に示される多価アルコールとシリカ粒子との組み合わせは、フォトニック結晶の性能を利用する場合、好ましくないが、上述の多価アルコールとシリカ粒子とを用いた場合であっても、フォトニック結晶としての性能は劣るものの、本願の効果を奏することができることに留意されたい。
【0028】
なお、粒子110が単一材料(材質)である場合、その単一材質が有機溶媒130の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有していればよい。また、粒子110が複合粒子である場合、粒子110は、粒子110を構成する材料(材質)のうち、有機溶媒130の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有する材料を含んでいればよい。
【0029】
次に実施の形態1によるコロイド結晶ゲル100を製造する方法を説明する。
図2は、実施の形態1によるコロイド結晶ゲルを製造する工程を説明するフローチャートである。各工程を説明する。
【0030】
工程S210:コロイド結晶を提供する。コロイド結晶の作製には、任意の公知の方法が用いられ得る。例えば、脱塩法(イオン交換樹脂などにより不純物塩を除去する方法)および濃縮法(溶媒の蒸発や遠心分離などにより粒子濃度を上昇させる方法)であるが、これらに限定されない。コロイド粒子は、例えば、シリカ粒子、ポリスチレン粒子、高分子テラックス粒子、二酸化チタン等の酸化物粒子、金属粒子、異なる材料を組み合わせた複合粒子であるが、これらに限定されない。コロイド結晶の分散媒は水または水性溶媒である。粒子は、分散媒中においてBragg反射条件を満たすように配列されている。このように、分散媒として水または水性溶媒を用いているので、粒子が良好に周期配列したコロイド結晶が得られる。
【0031】
工程S220:工程S210で得られたコロイド結晶中の粒子の位置を、水溶性分子の重合体が形成する高分子網目を用いて固定化する。このような網目構造がコロイド結晶の粒子間で構築されることにより、粒子の位置が固定化される。
【0032】
なお、このように粒子の位置が固定化されたコロイド結晶を本明細書ではコロイド結晶ゲルまたはゲル化コロイド結晶と呼び、特に、分散媒が水または水性溶媒であるコロイド結晶ゲルを出発コロイド結晶ゲルと呼ぶ。工程S210で得られた粒子の良好な周期配列は維持され得る。
【0033】
高分子網目は、例えば、水溶性モノマーであるアクリルアミドまたはその誘導体と、水溶性架橋剤であるビスアクリルアミドと、光重合開始剤であるカンファーキノンとを用いて光照射、重合することによって形成される。これらは単なる例示にすぎず、水溶性を有する、任意の重合可能なモノマーと架橋剤とを用いて高分子網目を構成することができる。なお、光照射の代わりに加熱または放射線照射などの公知の重合開始手段によって重合させてもよい。なお、工程S210において高分子網目を構成する材料を予めコロイド分散液に混ぜておくことが望ましい。
【0034】
工程S220で得られたコロイド結晶ゲルの粒子濃度は、好ましくは、平衡膨潤状態において0%より大きく20%以下である。この範囲の粒子濃度を有すれば、コロイド結晶ゲル内で粒子が凝集することなく、単結晶化が容易である。また、後述するコロイド結晶ゲルの格子定数の可変幅を大きく設定することができるので、材料設計が有利であり得る。
【0035】
工程S230:工程S220で得られた粒子の位置が固定化されたコロイド結晶中の水分を有機溶媒と置換する。有機溶媒は、水を溶解し、かつ、水の揮発性よりも低い揮発性を有する。水と有機溶媒との置換は、工程S220で得られた出発コロイド結晶ゲルを上記有機溶媒に浸漬させることにより、容易に行われ得る。
【0036】
置換された有機溶媒は、水の揮発性よりも低い揮発性を有するため、出発コロイド結晶ゲルに比べて、分散媒の揮発が抑えられ、格子定数が変化しにくい。したがって、長期間にわたって格子定数の安定なコロイド結晶ゲルを提供することができる。また、工程S220で得られた出発コロイド結晶ゲル中の水のみが有機溶媒で置換されるので、工程S210で得られた粒子の良好な周期配列は維持され得る。
【0037】
このような有機溶媒は、好ましくは、多価アルコールを含み、より好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、および、これらの混合物からなる群から選択される。有機溶媒は、より好ましくは、粒子の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有するように選択される。上述したように、粒子が単一材料(材質)である場合、その単一材質が有機溶媒の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有していればよいし、粒子が複合粒子である場合、粒子は、その粒子を構成する材料(材質)のうち、有機溶媒の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有する材料を含んでいればよい。
【0038】
これらの多価アルコールによって置換された本発明によるコロイド結晶ゲルの平衡膨潤度と、出発コロイド結晶ゲルの平衡膨潤度とは、実質的に同じである。
【0039】
ここでコロイド結晶ゲルの平衡膨潤度とは、当該コロイド結晶ゲルが吸収可能な量以上の量の当該溶媒中で平衡状態に到達したとき(これを平衡膨潤状態と呼ぶ)の膨潤の度合いを意味する。
【0040】
異なる溶媒に対する平衡膨潤度を定量的に比較するために、溶媒が水のときの平衡膨潤状態にあるコロイド結晶ゲルの体積の立方根の値Aを基準として、そのコロイド結晶ゲルが当該溶媒中で平衡膨潤状態にあるときの体積の立方根の値Bを、それに対する比率として表したもの、つまり、B/Aの値を、当該溶媒に対する上記コロイド結晶ゲルの線形膨潤度と定義し、これを用いる。
【0041】
平衡膨潤度が工程S230によって実質的に変化しないため、本発明によるコロイド結晶ゲルは、出発コロイド結晶ゲルの格子定数と実質的に同じ格子定数を有し、かつ、分散媒(液体媒質)の蒸発により格子定数が経時変化する可能性は小さい。なお、本明細書において、実質的に同じ格子定数とは、出発コロイド結晶ゲルの格子定数と本発明によるコロイド結晶ゲルの格子定数との差が、20%以内であることをいう。
【0042】
なお、有機溶媒は、上述の多価アルコールに限定されない。上述と異なる有機溶媒を用いて、出発コロイド結晶ゲルの格子定数よりも小さな格子定数を有するコロイド結晶ゲルを得てもよい。
【0043】
以上説明してきたように、本発明によるコロイド結晶ゲルの製造方法によれば、液体媒体として水または水性溶媒を用いたコロイド結晶ゲルを介して、上述の有機溶媒を用いたコロイド結晶ゲルを得る。
【0044】
これにより、直接有機溶媒を液体媒質として用いたコロイド結晶ゲルを得る場合に比べて、粒子が良好に周期配列したコロイド結晶ゲルを容易に得ることができる。
【0045】
また、上述の有機溶媒は、水の揮発性よりも低い揮発性を有しているので、有機溶媒によって置換されたコロイド結晶ゲルは、長期的に安定な格子定数を有する。
【0046】
[実施の形態2]
図3は、実施の形態2によるコロイド結晶ゲル300の模式図を示す。図1と同様の要素には同様の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0047】
コロイド結晶ゲル300は、粒子110と、粒子の位置を固定化する高分子網目120と、粒子110および高分子網目120における間隙を埋める有機溶媒310とを含む。
【0048】
有機溶媒310は、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含む。第1の有機材料は、水を溶解し、水の揮発性よりも低い揮発性を有し、常温常圧下において液体である。
【0049】
本明細書において「常温常圧」とは、20〜30℃の温度範囲であり、かつ、0.8〜1.2気圧の圧力範囲である。第2の有機材料は、水の揮発性よりも低い揮発性を有し、かつ、第1の有機材料に可溶である。
【0050】
第1の有機材料は、好ましくは、多価アルコールであり、より好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される。
【0051】
第2の有機材料は、好ましくは、第1の有機材料と異なる多価アルコールである。第2の有機材料は、より好ましくは、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される。
【0052】
表2にこれら好ましい第2の有機材料の特性を示す。これら第2の有機材料は、疎水基が大きく、高分子網目120を収縮させることができる。また、これら第2の有機材料は、第1の有機材料に溶解し、かつ、水の揮発性よりも低く、人体に対する有害性はほとんどない。また、第2の有機材料は、第1の有機材料に可溶である限り、液体または固体を問わない。第2の有機材料として、高級アルコール、ポリプロピレングリコールも適用可能であり得る。
【表2】

【0053】
上述の第2の有機材料は一例に過ぎない。一般に、有機化合物は疎水基を有するので、高分子網目に対する親和性は、水よりも悪くなる。したがって、有機化合物は、一般に、高分子網目を収縮させる能力を有しており、可能な第2の有機材料の候補は多く存在し得る。また、第1の有機材料が多価アルコールである場合、多くの有機化合物が多価アルコールに溶解するため、第2の有機材料の選択に有利であり得る。
【0054】
第1の有機材料と第2の有機材料との組み合わせ、および/または、第1の有機材料と第2の有機材料との所定の割合によって、種々の格子定数を有するコロイド結晶ゲル300が提供され得る。
【0055】
本発明によるコロイド結晶ゲル300中の上述の第1の有機材料は、実施の形態1で説明したように、出発コロイド結晶ゲルの格子定数を実質的に変化させない性質を有する。
【0056】
一方、本発明によるコロイド結晶ゲル300中の上述の第2の有機材料は、高分子網目120を収縮させる性質を有する。このような収縮率の大きさは、第2の有機材料の種類によって異なり得る。
【0057】
したがって、第1の有機材料に対する第2の有機材料の割合を多くすることによってより格子定数の小さなコロイド結晶ゲル300が得られる。なお、所定の割合とは、選択された第1の有機材料と第2の有機材料とによって得られる所望の格子定数によって決定される割合値である。さらに、コロイド結晶ゲル300は、より小さな格子定数を有するだけでなく、従来に比べてより高い粒子濃度を有し得る。
【0058】
以上より、第1の有機材料と第2の有機材料とが所定の割合で混合された有機溶媒310を用いることによって、種々の格子定数、および、種々の粒子濃度を有するコロイド結晶ゲル300が得られ得る。また、第1の有機材料と第2の有機材料とは、それぞれ、水の揮発性よりも低い揮発性を有しているため、長期間にわたって格子定数の安定なコロイド結晶ゲルを提供することができる。
【0059】
また、実施の形態1で説明したように、粒子110は、より好ましくは、第1の有機材料および第2の有機材料を含む有機溶媒310の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有する材質を含む。このことは、フォトニック結晶の性能に有利であり得る。この場合も、実施の形態1と同様に、粒子が単一材料(材質)である場合、その単一材質が有機溶媒の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有していればよいし、粒子が複合粒子である場合、粒子は、その粒子を構成する材料(材質)のうち、有機溶媒の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有する材料を含んでいればよい。有機溶媒310が上記屈折率差を満たすように、第1の有機材料および第2の有機材料は、適宜選択され得る。
【0060】
次に実施の形態2によるコロイド結晶ゲル300を製造する方法を説明する。
図4は、実施の形態2によるコロイド結晶ゲルを製造する工程を説明するフローチャートである。工程S410と工程S420とは、それぞれ、図2の工程S210と工程S220と同一であるため説明を省略する。
【0061】
工程S430:工程S420で得られた粒子の位置が固定化されたコロイド結晶中の水を、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含む有機溶媒と置換する。第1の有機材料は、水を溶解し、水の揮発性よりも低い揮発性を有し、常温常圧下において液体である。第2の有機材料は、水の揮発性よりも低い揮発性を有し、かつ、第1の有機材料に可溶である。
【0062】
第1の有機材料は、好ましくは、多価アルコールであり、より好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される。
【0063】
第2の有機材料は、好ましくは、第1の有機材料と異なる多価アルコールであり、より好ましくは、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される。第2の有機材料は、第1の有機材料に比べて高分子網目の膨潤度を低くする特性を有していればよい。これによってコロイド結晶ゲルの膨潤体積を制御し、コロイド結晶ゲルの格子定数、および、コロイド結晶ゲルの粒子濃度を変化させ得る。
【0064】
第1の有機材料および第2の有機材料を含む有機溶媒は、好ましくは、粒子の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有するように選択される。上述したように、粒子が単一材料(材質)である場合、その単一材質が有機溶媒の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有していればよいし、粒子が複合粒子である場合、粒子は、その粒子を構成する材料(材質)のうち、有機溶媒の屈折率に対して±5%以上異なる屈折率を有する材料を含んでいればよい。
【0065】
工程S430は、具体的には、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で混合する。この際、高分子網目の収縮率に関するデータを参照して、所望の格子定数を有するように第1の有機材料と第2の有機材料との割合を調整してもよい。工程S420で得られた出発コロイド結晶ゲルを調整された有機溶媒に浸漬させることにより、有機溶媒は容易に水と置換し得る。
【0066】
実施の形態2によれば、高分子網目を収縮させて出発コロイド結晶ゲルの格子定数、および、粒子濃度を変化させるので、より広範に格子定数および粒子濃度を変化させるためには、工程S420における出発コロイド結晶ゲルの粒子濃度は可能な限り小さい方がよい。高分子網目を収縮させて達成可能な最大粒子濃度は74%である。工程S420における粒子濃度は、好ましくは、平衡膨潤状態において20%以下である。工程S420における粒子濃度が20%以下であれば、工程S430における置換による高分子網目の収縮によって、格子定数を約35%以上収縮させることができる。このことは、工程S420における出発コロイド結晶ゲルが赤色光の波長をBragg反射する場合に、可視光のほぼ全域、または、それ以上の波長範囲に対応したコロイド結晶ゲルすべてを、工程S420の出発コロイド結晶ゲルに基づいて作製することができることを意味する。
【0067】
また、従来技術において大型の高粒子濃度を有するコロイド結晶ゲルを製造することは困難であった。しかしながら、本発明の実施の形態2による方法によれば、大型の低粒子濃度を有する出発コロイド結晶ゲルを作製し、出発コロイド結晶ゲル中の分散媒を有機溶媒で置換するだけで、容易に大型の高粒子濃度を有するコロイド結晶ゲルを製造することができる。このように、格子定数とともに粒子濃度を変化させることによって、コロイド結晶ゲルは多様な光学特性を達成することができる。
【0068】
[実施の形態3]
図5は、本発明によるコロイド結晶ゲルを用いた素子の模式図である。図1および図3と同様の要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0069】
本発明による素子500は、容器510と、容器510に収容された実施の形態1または実施の形態2で作製されたコロイド結晶ゲル100、300とを含む。素子500は、余剰の有機溶媒130、310をさらに含んでもよいし、素子500は、コロイド結晶ゲル100、300で満たされ密閉されていてもよい。
【0070】
容器510は、コロイド結晶100、300の分散媒である有機溶媒130、310が水に比べて蒸発しにくいため、シリカガラスよりも水および有機溶媒などの溶媒透過性の高い有機高分子材料から構成されてもよい。このような有機高分子材料として、例えば、透明プラスチック材料があり得る。透明プラスチック材料は、成形性がよく、容器の大量生産が可能であるため、コストを削減することができる。
【0071】
本発明によれば、水に比べて揮発性の低い有機溶媒130、310を分散媒として用いているため、長期的に安定な格子定数を有するコロイド結晶ゲル100、300が提供され得る。したがって、コロイド結晶ゲル100、300を収容する容器510の材料として選択範囲を広げることができ、容器510として任意の材料を用いることができる。
【0072】
このような素子500の動作を説明する。
素子500に複数の波長λ1、λ2およびλ3を有する光を入射させる。素子500のコロイド結晶ゲル100、300は、例えば、特定の波長λ3に対してBragg反射することが分かっているとする。この結果、入射された光のうち波長λ3を有する光のみが回折され、波長λ1およびλ2を有する光のみが素子500を透過し得る。
【0073】
素子500を複数個並べて、所望の波長を有する光のみを抽出するようにすることもできる(図示せず)。また、この場合、素子500の組み合わせはユーザの要求に応じて為され得る。
【0074】
実施の形態3では、特定の波長を有する光を遮断するフィルタとして素子500を説明したが、素子500はフィルタに限定されない。素子500は、素子500に含まれるコロイド結晶ゲル100、300のBragg反射を利用する任意のアプリケーションに適用可能であることを理解されたい。
【0075】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0076】
粒径198nmのポリスチレン粒子が水に分散された粒子分散液(Duke Scientific社製、型番5020B)をイオン交換樹脂により脱塩し、コロイド結晶状態にした。次いで、アクリルアミド系の高分子網目を形成するモノマーと、架橋剤としてビスアクリルアミドと、光重合開始剤であるカンファーキノンとを加えて、粒子体積分率濃度が10%となるように調整した。コロイド結晶状態にした粒子分散液を、平行な2枚のガラス板から構成される平板状の空間に保持した。
【0077】
次いで、保持された粒子分散液を光照射により重合ゲル化し、分散媒が水である出発コロイド結晶ゲルを調製した。出発コロイド結晶ゲルを直径約8mmの円形のシート状に切り出し、純水中に浸し、ゲルのサイズが変化しない平衡膨潤状態になったところでゲルサイズ(円形の直径)を測定した。
【0078】
次いで、この出発コロイド結晶ゲルをエチレングリコールに浸漬させた。この結果、出発コロイド結晶ゲル中の水がエチレングリコールに溶け出し、水がエチレングリコールと置換された。この溶媒置換により、ゲルサイズが僅かに縮んだ。ゲルサイズが変化しない平衡膨潤状態になったところで、ゲルの直径を測定し、純水中での直径に対する比として線形膨潤度を決定した。
【0079】
ゲルの収縮は等方的であるので、このようにして決定された線形膨潤度は、先に定義したそれと等価であることに留意されたい。コロイド結晶ゲルの格子定数はゲルサイズに比例するので、以上のようにして決定された線形膨潤度から格子定数の変化率は、格子定数の変化率=1−線形膨潤度に等しい。ただし、ここで言う格子定数の変化率とは、溶媒置換前の格子定数から溶媒置換後の格子定数を減じた値の、溶媒置換前の格子定数の値に対する比率を意味している。
表3に、エチレングリコールで置換した場合の線形膨潤度と格子定数の変化率とを示す。
【実施例2】
【0080】
有機溶媒としてエチレングリコールの代わりにジエチレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
表3に、ジエチレングリコールで置換した場合の線形膨潤度と格子定数の変化率とを示す。
【実施例3】
【0081】
有機溶媒としてエチレングリコールの代わりにプロピレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
表3に、プロピレングリコールで置換した場合の線形膨潤度と格子定数の変化率とを示す。
【実施例4】
【0082】
有機溶媒としてエチレングリコールの代わりにグリセリンを用いた以外は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
表3に、グリセリンで置換した場合の線形膨潤度と格子定数の変化率とを示す。
【実施例5】
【0083】
有機溶媒としてエチレングリコールの代わりに分子量の異なるポリエチレングリコール(平均分子量200、300、400)を用いた以外は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
表3に、ポリエチレングリコールで置換した場合の線形膨潤度と格子定数の変化率とを示す。
【実施例6】
【0084】
有機溶媒としてエチレングリコールの代わりにトリメチレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
表3に、トリメチレングリコールで置換した場合の線形膨潤度と格子定数の変化率とを示す。
【実施例7】
【0085】
有機溶媒としてエチレングリコールの代わりに1,3ブチレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
表3に、1,3ブチレングリコールで置換した場合の線形膨潤度と格子定数の変化率とを示す。
【表3】




【0086】
表3に示されるように、実施例1〜4のいずれの線形膨潤度も出発コロイド結晶ゲルの80%以内である。高分子網目の膨潤度は、通常、分散媒の熱力学的特性に基づいて説明される。すなわち、ある2種類の異なる溶媒が、特定の高分子網目に対して実質的に同じ膨潤度を提供する場合、その2種類の溶媒は、膨潤現象の観点から見て、熱力学的に類似していることを意味する。溶媒の熱力学的特性は、溶媒の固有の性質であるから、異なる高分子網目に対しても、その2種類の溶媒は、同様の膨潤度を提供することができる。つまり、実施例1〜4に示される多価アルコールは、アクリルアミド系の高分子網目以外にも適用可能であり得る。
【0087】
表3に示されるように、実施例1〜4のいずれも格子定数の変化率は20%以内であった。線形膨潤度および格子定数の変化率から、実施例1〜4で得られたコロイド結晶ゲルは、出発コロイド結晶ゲルと実質的な同じ格子定数を有していることが分かった。
【0088】
実施例1〜4では単一の有機溶媒を用いたが、同様の線形膨潤度および格子定数変化率を有する有機溶媒であれば、複数を組み合わせてもよい。
実施例5〜7のいずれの線形膨潤度も、実施例1〜4の線形膨潤度に比べて小さい値を示した。同様に、格子定数の変化率も35%を越える大きな値を示した。実施例5〜7のコロイド結晶ゲルは、出発コロイド結晶ゲルの格子定数に比べて小さな格子定数を有する。
【実施例8】
【0089】
有機溶媒として、第1の有機材料と第2の有機材料との混合溶媒とし、第1の有機材料としてエチレングリコールを、第2の有機材料としてポリエチレングリコール(平均分子量400)を用いた以外は、実施例1と同様である。エチレングリコールに対するポリエチレングリコールの体積百分率濃度は、それぞれ、(a)20%、(b)40%、(c)60%、(d)80%である。
【0090】
図6は、エチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコールによって置換されたコロイド結晶ゲルの透過スペクトルを示す図である。ここで、透過スペクトルの測定は、平面分光測定装置ImSpectorV10、KawasakiSteel Techno−research Corp.、Chiba、Japanを用いた。測定条件は、波長分解能が1nmであった。
【0091】
図6に、(a)20%〜(d)80%に加えて、ポリエチレングリコールが0%の場合の結果(実施例1)と、ポリエチレングリコールが100%の場合の結果(実施例5)とを加えて示す。
図6に示される透過率が急激に低下する波長は、コロイド結晶ゲルの面心立方構造の111面による垂直入射Bragg波長λに相当する。この波長から各濃度のコロイド結晶ゲルの格子定数が算出される。図6より、透過率が低下する波長は、ポリエチレングリコールの増大とともに短波長側へシフトしていっていることが分かる。このことから、ポリエチレングリコールの増大にともなって、格子定数が変化することが示される。
【0092】
次に、垂直入射Bragg波長λから格子定数aを以下(数1)に示す式に基づいて算出した。
【数1】



ここで、nは、置換後のコロイド結晶ゲルの屈折率であり、分散媒、粒子および高分子網目の屈折率の体積平均値として求められる。λは真空中換算の値である。
【0093】
図7は、コロイド結晶ゲルの格子定数のポリエチレングリコール濃度依存性を示す図である。ただし、上式を用いて、各ポリエチレングリコール濃度におけるコロイド結晶ゲルの格子定数を算出し、ポリエチレングリコール濃度0%(実施例1)の場合の格子定数を1とした相対値として表されている。同様の値が、ゲルサイズの変化の測定から求められるが、5%程度の誤差範囲で良い一致を示した。
【0094】
図7に示されるように、ポリエチレングリコール濃度を増大するにしたがって、連続的に格子定数を変化させることができることが分かった。このような関係に基づいて、所望の格子定数を得るように、第1の有機材料(実施例7ではエチレングリコール)と第2の有機材料(実施例7ではポリエチレングリコール)とを所定の割合に調整すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、粒子と、粒子の位置を固定化する、水溶性分子の重合体が形成する高分子網目と、粒子および高分子網目における間隙を埋め、水を溶解し、かつ、水の揮発性よりも低い揮発性を有する、有機溶媒とを含むコロイド結晶ゲルが提供される。このようなコロイド結晶ゲルは、長期的に安定な格子定数を有するので長寿命の素子を提供することができる。また、上記有機溶媒の組み合わせによって、長期的に安定な所望の格子定数を有するコロイド結晶ゲルが容易に提供される。このようにして得られたコロイド結晶ゲルは、光フィルタ、ミラー、光スイッチ、高分散プリズム、分散補償素子、光パルス変形素子に適用され得る。また、コロイド結晶ゲルは、可視光域において美しく輝くため、装飾的な利用も可能であり得る。
【符号の説明】
【0096】
100、300 コロイド結晶ゲル
110 粒子
120 高分子網目
130、310 有機溶媒
500 素子
510 容器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0097】
【特許文献1】特許第3533442号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド粒子と、
前記コロイド粒子の位置を固定化する、水溶性分子の重合体が形成する高分子網目と、
前記コロイド粒子および前記高分子網目における間隙を埋める分散媒と
を含み、
前記分散媒は、水を溶解し、かつ、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有する有機溶媒であり、
前記有機溶媒は、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含み、前記第1の有機材料は、前記水を溶解し、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有し、常温常圧下において液体であり、前記第2の有機材料は、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有し、前記第1の有機材料に可溶であり、
前記第1の有機材料は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される多価アルコールであり、
前記第2の有機材料は、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される多価アルコールである、コロイド結晶ゲル。
【請求項2】
前記コロイド粒子は、前記有機溶媒の屈折率と±5%以上異なる屈折率を有する材質を含む、請求項1に記載のコロイド結晶ゲル。
【請求項3】
前記有機溶媒を前記水で置換した場合に、前記コロイド結晶ゲルの粒子体積分率は、前記水に対する平衡膨潤状態において20%以下である、請求項1に記載のコロイド結晶ゲル。
【請求項4】
コロイド結晶ゲルを製造する方法であって、
水または水性溶媒と前記水または前記水性溶媒中に所定の間隔で配列されたコロイド粒子とを含むコロイド結晶を提供する工程と、
前記コロイド結晶中の前記コロイド粒子の位置を、水溶性分子の重合体が形成する高分子網目を用いて固定化する工程と、
前記コロイド粒子の位置が固定化されたコロイド結晶における前記水を、前記水を溶解し、かつ、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有する有機溶媒と置換する工程と
を包含し、
前記有機溶媒は、第1の有機材料と第2の有機材料とを所定の割合で含み、前記第1の有機材料は、前記水を溶解し、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有し、常温常圧下において液体であり、前記第2の有機材料は、前記水の揮発性よりも低い揮発性を有し、前記第1の有機材料に可溶であり、
前記第1の有機材料は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、および、グリセリンからなる群から選択される多価アルコールであり、
前記第2の有機材料は、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、および、ブチレングリコールからなる群から選択される多価アルコールである、方法。
【請求項5】
前記コロイド粒子は、前記有機溶媒の屈折率と±5%以上異なる屈折率を有する材質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記固定化する工程は、前記コロイド粒子の位置が固定化されたコロイド結晶の粒子体積分率が、前記水に対する平衡膨潤状態において20%以下となる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
容器と、
前記容器に収容された、請求項1〜3に記載のコロイド結晶ゲルと
を含む素子。
【請求項8】
前記容器は、透明プラスチック材料からなる、請求項7に記載の素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−116991(P2011−116991A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8462(P2011−8462)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【分割の表示】特願2004−315146(P2004−315146)の分割
【原出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】