コロナウィルスの遺伝子を切断するリボザイム
【課題】 コロナウィルスの遺伝子を切断するリボザイムおよびコロナウィルス感染症の治療薬の提供。
【解決手段】 SARS-CoVおよびMHV等のコロナウィルスにおける共通塩基配列を検索し、相補的な塩基配列を含むリボザイムを設計した。さらに、このリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬を得た。
【解決手段】 SARS-CoVおよびMHV等のコロナウィルスにおける共通塩基配列を検索し、相補的な塩基配列を含むリボザイムを設計した。さらに、このリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬を得た。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコロナウィルスの遺伝子を切断するリボザイムに関する。さらにこのリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
2002年11月から2003年2月までに、中国広東省で新興感染症の異型肺炎(患者305名、うち死者5名)が報告された。この異型肺炎は「重症急性呼吸器症候群」(Severe Acute Respiratory Syndrome、以下SARSとする)と呼ばれ、高い死亡率 と感染拡大の速さから、感染発生国のみならず全世界を震撼させた。3月25日米国CDCがコロナウィルス科の新しいウィルスがあることを発見し、4月12日にはカナダの研究グループがこのコロナウィルスの全遺伝子配列を突き止め、4月16日、WHOはこれがSARSの原因ウイルスであると断定した。SARSウイルスはコロナウィルスの1つで動物からヒトへの人畜感染をおこす。
SARSは、2003年7月5日、8カ月弱の経過で終息したが、世界30か国以上で8400名を越える症例と約800名の 死者がWHOに報告された。7月の終息後の新たな集団発生はないが、今後もSARSの発生の可能性がある。
【0003】
SARSの原因ウィルスは、従来とは異なるタイプの新たなコロナウィルス(SARS コロナウィルス、以下SARS-CoVとする)であることが明らかにされ、ゲノム全長の約30000塩基の配列が決定されている。SARS-CoVは、発見されてから日が浅く、その多様な側面が分かっている訳ではないが、ウィルス学的には、他のコロナウィルスと類似点が多いと考えられる。コロナウィルス属のウィルスは、抗原的交差(塩基配列およびアミノ酸配列の相同性)から、図1に示すように3グループに分けられる。各々のグループに属するウィルス間の相同性は、グループの異なるウィルスと比べ有意に高いが、SARS-CoVは1〜3のいずれにも相同性が低く、第4番目のグループに属すると考えられる(グループ2へ分類する研究者もいる)。
【0004】
SARSに対する治療薬として、現在、ワクチン等の開発が各国ですすめられている。また、黄金、クチナシ、金銀花、レンギョウ、地黄、生石膏、野菊花、貫衆、桔梗、ハッカ、牛旁子および甘草から構成される煎じ薬(例えば、特許文献1参照)等も開発されているが、SARSに対する有効な治療薬が得られたという報告は未だなされていない。一方で、SARSのようなウィルス性疾患の治療方法の一つとして、近年、リボザイムによる遺伝子治療が注目を集めている。
【0005】
リボザイムはRNA切断活性を有するRNA核酸であり、図2に示すようにヘアピン型、ハンマーヘッド型などの構造をとる。ターゲットmRNAに相補的な塩基配列を有するStem I、Stem IIIが、ターゲットmRNAと結合し、保存配列のRNA切断酵素活性により、ターゲットmRNAのGUC配列の後を切断する。リボザイムはターゲット遺伝子への特異性が高く、一度mRNAを切断すると、リボザイムはそのmRNAから離れて別のmRNAにハイブリッドし切断を繰り返す。ターゲット遺伝子への特異性が高く、このようなリボザイムは、現在、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)等に対して多く開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、SARS等のコロナウィルスに対して、このようなリボザイムは得られていない。SARS以外のコロナウィルスとして、ヒトに風邪の症状を起こすヒトコロナウィルス、ブタに胃腸炎を起こすブタ伝染性胃腸炎ウィルス、イヌに下痢の症状を起こすイヌコロナウィルスまたはマウスに肝炎、下痢の症状を起こすマウス肝炎ウィルス等が知られているが、いずれもリボザイムは得られていない。従って、SARS等のコロナウィルス感染症に対して治療に有効なリボザイムの開発が望まれている。
【特許文献1】特開2005-2084号公報
【特許文献2】特表2003-507037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コロナウィルスの遺伝子のループ構造を切断するリボザイムの提供を課題とする。さらにこのリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、SARS等のコロナウィルス感染症に対するリボザイムを開発するために、SARS-CoVおよびマウス肝炎ウィルス(Mouse hepatitis virus:以下MHVとする)等のコロナウィルスにおける共通塩基配列を検索し、これに相補的な塩基配列を含むリボザイムを設計することで、これらのコロナウィルスのループ構造を切断するリボザイムを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、このリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)〜(9)のコロナウィルスの遺伝子を切断するリボザイムおよびコロナウィルス感染症の治療薬に関する。
(1)コロナウィルス科に属するウィルスの遺伝子を切断することを特徴とするリボザイム。
(2)コロナウィルス科に属するウィルスの遺伝子の特定の塩基配列を認識して切断することを特徴とする上記(1)に記載のリボザイム。
(3)特定の塩基配列がGUCを含む塩基配列である上記(2)に記載のリボザイム。
(4)特定の塩基配列がループ構造に含まれる上記(2)または(3)に記載のリボザイム。
(5)配列表配列番号1に記載のリボザイム。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のリボザイムであって、RNA/DNAキメラ型であるリボザイム。
(7)コロナウィルスの特定の塩基配列を選択し、その塩基配列に相補的な配列を含むことを特徴とするリボザイムの設計方法。
(8)特定の塩基配列の選択が、以下1)〜3)の2つ以上の組み合わせによる、リボザイムの設計方法。
1)コロナウィルスの保存領域の塩基配列を選択する
2)コロナウィルスの共通領域の塩基配列を選択する
3)コロナウィルスの遺伝子のループ構造を含む塩基配列を選択する
(9)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明により確立されたコロナウィルスの遺伝子を切断するリボザイムおよびこのリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬を利用することにより、SARS等のコロナウィルスによる感染症に対して有効な治療を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のリボザイムにおいて、切断の対象となるターゲットmRNAはコロナウィルスのmRNAである。例えば、重篤な疾患であるSARSをヒトに起こすSARS-CoVのmRNA、MHVのmRNAが挙げられる。
また、コロナウィルス以外でも本リボザイムによって認識され、切断され、その発現が抑制される遺伝子であれば本発明の対象とすることができ、コロナウィルスには限られない。例えば、コロナウィルスの保存領域や共通領域の塩基配列によりリボザイムを設計した場合、その保存領域や共通領域の塩基配列により認識され、切断され、その発現が抑制される遺伝子であれば、その遺伝子についても本発明の対象とすることができる。
【0012】
コロナウィルス粒子はSARS-CoVを含め、約20nmの特徴的なスパイクを持つエンベロープウィルスで直径約100から200nmの円形、楕円形および多形性の形状を示す。粒子表面のスパイクはS蛋白からなる。また、エンベロープには、その他に、膜(M)蛋白、エンベロープ(E)蛋白が存在する。エンベロープに囲まれてゲノムRNAが存在し、それに核(N)蛋白が結合し、螺旋状のヌクレオキャプシドを形成している。SARS-CoVを含むコロナウィルスは、現在知られるウィルスRNAとしては最大の約30kbの(+)鎖ゲノムRNAを持つ。ゲノムRNA5'末端にはcap構造、3'末端にはpoly(A)が存在する。30kbからなるゲノム5'末端には約70ベースからなるleader sequenceがあり、その下流にRNApolymerase (open reading flame: ORF 1a、1b)、S、E、M、Nの順で存在する。このうち、SARS-CoVは図3に示すように、M、N遺伝子間に他のコロナウィルスにはみられない数個のORF(X3、X4およびX5)を持つ。
【0013】
一般にコロナウィルスは種特異性が高く、固有宿主以外の動物に感染することはないが、SARS-CoVはヒト以外にもサル、ネコ、フェレット(参考文献1、2)やマウス、ラットなどにも感染する。SARS-CoVの高い病原性は、ウィルスの増殖に伴う直接的な細胞損傷というより、ウィルスが誘発する宿主反応が大きく影響していると考えられている(参考文献3、4)。SARS-CoV感染でみられる肺炎は、1997年に発生したインフルエンザH5N1感染と同様、cytokineによる強い炎症反応に類似し、大量のcytokineが産生され(cytokine storm)、その結果宿主の異常なまでの強い炎症反応を誘発した結果ではないかと考えられる。
参考文献1 Fouchier RAM, Kuiken T, Schutten M et al. Koch's postulates fulfilled for SARS virus. Nature 423: 240-, 2003.
参考文献2 Martina BEE, Haagmans BL, Kuiken T et al. SARS virus infection of cats and ferrets. Nature 425: 915, 2003.
参考文献3 Nicholls JM, Poon LM, Lee KC et al. Lung pathology of fatal severe acute respiratory syndrome. Lancet 361: 1773-1778, 2003.
参考文献4 Peiris JSM, Chu CM, Cheng VCC et al. (2003) Clinical progression and viral load in a community outbreak of coronavirus-associated SARS pneumonia; a prospective study. Lancet. 361: 1767-1772, 2003.
【0014】
また、MHVはコロナウィルス科に属すエンベロープを有するRNAウィルスで、ウィルス粒子周囲にスパイク様構造物をもつ。本ウィルスには病原性、抗原性などの性状を若干異にする多くの分離株が知られている。例えば、A−59、JHM、MHV-2、S、nu-67などである。これらのウィルス株はDBT、NCTC−1469など種々の株化細胞で増殖し、その際、多くの株は合胞体性巨細胞形成といった特徴的な細胞変性効果を示す。
【0015】
本発明のリボザイムは、切断の対象となるターゲットmRNAの特定の塩基配列を認識することが好ましい。例えば、図2に示すようなターゲットmRNAと結合するためのターゲットmRNAに相補的な塩基配列(Stem I、Stem III)と、ターゲットmRNAを切断するためのRNA切断酵素活性を有する保存配列を有することが好ましい。
これらの塩基配列より、切断の対象となるターゲットmRNAに特異的にリボザイムが結合し、保存配列のRNA切断酵素活性によりターゲットmRNAを切断することができる。
【0016】
ターゲットmRNAの切断のために認識される塩基配列はGUC配列であることが好ましい。本発明のリボザイムは、このGUC配列を認識し、その後続のmRNAの塩基配列を切断することが好ましい。
リボザイムがターゲットmRNAに結合するための塩基配列は、ターゲットmRNAの特定配列と相補的な配列であって、これらの塩基配列を十分に認識し、結合できる塩基配列であれば、一部の塩基が欠失、置換、挿入されているものを用いることもできる。
さらに本発明のリボザイムが切断する対象となるターゲットmRNAの塩基配列は、その切断される塩基配列がループ構造の一部であることが好ましい。本発明のループ構造とは、図4に示すように対象となるターゲットmRNAが二次構造を取った場合において、ループ状の構造を示す部分のことをいう。なお、ループ状以外の構造を示す部分はステム構造という。
切断される塩基配列がループ構造の一部であることが好ましいのは、対象となるターゲットmRNAがリボザイムによって切断された場合に、ループ構造を切断されたターゲットmRNAは3次構造が著明に変化し、ターゲットmRNAの機能が抑制されるが、ステム構造を切断されたターゲットmRNAは3次構造があまり変化せず、ターゲットmRNAの機能が抑制されない場合もある。
本発明のリボザイムの長さは特に問わないが、全体で30塩基以上、35〜40塩基であることが好ましい。
【0017】
本発明のリボザイムの設計において、コロナウィルスのループ構造を切断するリボザイムを設計する場合には、コロナウィルスに属する数種のウィルスの塩基配列を用い、特定の塩基配列次の1)〜3)の選択方法の少なくとも2つ以上の組み合わせによって選択し、設計することができる。
1)コロナウィルスの保存領域の塩基配列を選択する、
2)コロナウィルスの共通領域の塩基配列を選択する、
3)コロナウィルスの遺伝子のループ構造を含む塩基配列を選択する。
さらに、本発明リボザイムの設計において、図2に示すように、ターゲットmRNAに相補的な塩基配列(Stem I、Stem III)は各々同じか、または数塩基異なる程度の長さの塩基配列からなり、保存配列を含むStem IIが中心になるように設計することが好ましい。
【0018】
例えば、コロナウィルスとしてSARS-CoVの保存領域のRNA塩基配列について、二次構造をコンピューター解析し、GUC配列を含むループ構造を検索することでSARS-CoVを認識し、切断するリボザイムを設計することができる。また、SARS-CoVとMHVの各々の保存領域の塩基配列より共通塩基配列を探し、二次構造をコンピューター解析し、GUC配列を含むループ構造を検索することでSARS-CoVおよびMHVを認識し、切断するリボザイムを設計することができる。この設計方法はコロナウィルス以外の遺伝子についても行うことができる。
また、この方法によって選択される結合するための塩基配列がターゲットmRNAによって異なるため、ターゲットmRNAを特異的に認識し、切断することができる。リボザイムは一般的にRNA核酸であるが、体内に存在するRNA切断酵素による分解を防ぐため、RNA/DNAキメラ型構造にすることができる。今回設計したSARSコロナウイルスに対するリボザイムは図5の如く、保存配列のみRNA構造で他をDNA構造とし、さらに3'側2塩基間をphosphorothioate型に化学修飾し、RNA分解酵素に耐性とし、生体内の投与で分解されにくくした。
本発明により設計された好ましいリボザイムとしては、例えば、コロナウィルスとしてSARS-CoVおよびMHVを認識し、切断し、これらの発現を抑制できるリボザイムとして、配列表配列番号1に記載のリボザイムなどを用いることができる。
【0019】
本発明により、設計されたリボザイムは、従来から知られているいずれの方法を用いても大量に得ることができる。例えばUhlenbeck(参考文献5)の方法に基づき、T7 RNAポリメラーゼプロモーターに連結した鋳型DNAにT7 RNAポリメラーゼを添加することで、RNAとしてのリボザイムが得られる。一方、RNAシンセサイザーにても合成する事ができる。得られたリボザイムの有効性は、従来から知られている方法を用いて、切断の対象となるウィルスまたは遺伝子の一部または全部を切断するか否かの確認や、そのウィルスまたは遺伝子の発現を抑制するか否かの確認によって行うことができる。
参考文献5 Uhlenbeck OC. A small catalytic oligoribonucleotide. Nature 328:596-600、1987.
【0020】
本発明のリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬としては、本発明のリボザイムを有効成分として含む治療薬であればいずれのものも用いることができる。コロナウィルス感染症としては、特にSARS、MHVによる疾病等を対象とすることが好ましい。本発明の治療薬はリボザイムの有効成分に加えて、安定化剤等を含んでもよい。治療薬の形態は特に問わないが、SARSウィルスを対象とする場合、吸入剤であることが特に好ましい。
【0021】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
<リボザイムの作製>
1.MHV、SARS-CoVに対するリボザイムの分子設計
MHV、SARS-CoVの共通塩基配列を探し、二次構造をコンピューター解析し、図4に示すようにGUC配列を含むループ構造を検索した。図5に示すようにこの領域に相補的なハンマーヘッド型リボザイムを設計し、コントロールとして酵素活性を持つ保存配列を三塩基置換したミスマッチリボザイムを設計した。
【0023】
2.リボザイムの合成
1)Uhlenbeckの方法に基づき、T7 RNAポリメラーゼプロモーターに連結した鋳型DNAにT7 RNAポリメラーゼを添加することで、RNAとしてのリボザイムを得た。
2)T7 RNAの鋳型DNAを下記および配列表配列番号2および3に示した。
5'- TAATACGACTCACTATA -3'
3'- ATTATGCTGAGTGATATCNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN -5'
+1
+1はCになっておりT7 RNAポリメラーゼが働きやすい。+2からはリボザイムRNAの鋳型DNA構造で、これに基づきリボザイムRNAが合成される。実際5'側から3'側 (+1まで)へのリボザイムRNAの鋳型DNA構造は配列表配列番号4に示した。これはMHVの15648-15654およびSARSウイルスの15454-15470に相当する。
3)T7とリボザイムの鋳型DNAを3μg/μlずつ混ぜ、90度3分熱し、すぐに4度に冷却した。
4)300UのT7ポリメラーゼ、5μlのα-32P-CTP(3000Ci/mmol)、50UのRNase inhibitor、50μl Transcription reaction buffer(40mM Tris-HCl pH8.0,0.5mM rNTP,8mM MgCl2,5mM DTT,2mM spermidine)を加えて4時間37度でincubateした。
5)100μlのphenol、chloroformを加えてvortexした。
6)16000rpmで30秒遠心し、上清を移した。
7)chloroformとisoamyl alcoholを加えてvortexし、16000rpmで30秒遠心し上清を移した。
8)100% ethanolを200μl加えて16000rpmで15分遠心し上清を捨てた。
9)RNA pelletを2回75% ethanolで洗い、5μlのDEPC waterに溶解し、リボザイムを合成した。
【実施例2】
【0024】
<MHV RNA切断実験>
3.リボザイムのターゲットRNAの切断確認
1)ターゲットRNAの合成
MHV RNAのリボザイムを切断する部分を含む100base程度をターゲットRNAとした。ターゲットRNAはT7 RNAポリメラーゼプロモーターに連結したターゲットRNAの鋳型DNAにT7 RNAポリメラーゼを添加し、リボザイムの合成と同様に、ターゲットRNAを合成した。
【0025】
2)リボザイムを用いたターゲットRNAの切断
a)ラベルした2.4μMリボザイム、および2.4μMミスマッチリボザイム1μlと240nMターゲットRNAを50 mM Tris HCl (pH8.0)に混ぜ90度1分インキュベートし30分室温に放置した。
b)250mM MgCl2を加えた。
c)1時間、4時間、8時間 37度インキュベートした。
d)Blue duce10μlを加えて90度2分インキュベートし冷却した。
e)6%のpolyacrylamide gelで電気泳動した。
【0026】
3.結果
図6に示すように、Mg2+存在下でリボザイム(40bases)はターゲットRNA(90bases)を1時間、4時間、8時間のいずれのインキュベート時間でも61basesと29basesに切断した。しかしミスマッチリボザイムでは切断されなかった。
【実施例3】
【0027】
<MHV RNA発現抑制実験>
1) MHV RNAでリボザイムを切断する部分を含む100 base程度についてPCR primerをPrimer 3 input(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)で選択した。この切断する部分を含むオリゴヌクレオチドの配列を配列表配列番号5に示した。また、選択したプライマーの配列は配列表配列番号6、配列番号7に示した。
2) primerが挟む領域の5'-→3’オリゴと相補3'-→5’オリゴとprimerを合成した。
3) 5'-→3'オリゴと相補3'-→5'オリゴをanealingさせ、これを鋳型にPCRをかけた。
4) PCR産物を電気泳動し100 baseのバンドを切り出し精製した。
5) pcDNA3.1のマニュアルにのっとり、PCR産物をpcDNA3.1(図7)に挿入した。
6) Competent E.coliに挿入した。
7) Ampicilin入り培地でコロニーを確認した。
8) Colony PCRをいってreconstitutionを確認した。
9) Direct sequenceでMHV RNA fragmentを確認した。
10)MHV RNA発現ベクターを3T3細胞にlipofectinで導入し1時間incubateした。
11) lipofectinで10-9、10-8、10-7Mのリボザイム、ミスマッチリボザイムを導入し18時間incubateした。
12)TRIZOL ReagentでRNAを抽出し、MHV RNA fragmentのRT-PCRを行った。
13) リボザイムによるMHV RNA flagment mRNAの抑制を電気泳動、バイオアナライザーを用いて確認した。
【0028】
結果
図8に示すように、リボザイムではMHVmRNA発現は有意に抑制されたが、ミスマッチリボザイムでは抑制されなかった。さらに図9に示すように、リボザイムでの発現抑制は濃度依存性であった。
【実施例4】
【0029】
<リボザイムによるMHVのDBT細胞での抑制>
1)DBT細胞を24wellプレートに2.8×105/0.5 ml/wellで準備した。
2)24時間後 1.0μMのミスマッチリボザイム、リボザイムを各々デリバリー試薬である20kDa polyethylenemine (ExGen500)でデリバリーした。
3)2時間後MHV(0.01MOI)を感染させ、45分後上清を除いて2回洗い、新しい培養液にかえた。
4)12時間後の上清を保存した。
5)保存した上清を新たにDBT細胞にまき、合胞体性巨細胞数で上清中のMHV量を測定した。
【0030】
結果
図10に示すように、12時間後の上清中のMHVによる合胞体性巨細胞数はコントロール群とミスマッチリボザイム群では有意差を認めなかったが、コントロール群とリボザイム群、ミスマッチリボザイム群とリボザイム群ではリボザイム投与群が有意に抑制されていた。なおFITCラベルリボザイムを用いてのExGen 500によるDBT細胞への導入効率は約60%であった。
【実施例5】
【0031】
<SARS virus RNA切断実験>
1) SARS-CoV RNAでリボザイムを切断する部分を含む100base程度についてPCR primerをPrimer 3 input(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi) で選択した。この切断する部分を含むオリゴヌクレオチドの配列を配列表配列番号8に示した。また、選択したプライマーの配列は配列表配列番号9、配列番号10に示した。
2) primerが挟む領域の5'-→3’オリゴと相補3'-→5’オリゴとprimerを合成した。
3) 5'-→3'オリゴと相補3'-→5'オリゴをanealingさせ、これを鋳型にPCRをかけた。
4) PCR産物を電気泳動し100 baseのバンドを切り出し精製した。
5) pcDNA3.1のマニュアルにのっとり、PCR産物をpcDNA3.1に挿入した。
6) Competent E.coliに挿入した。
7) Ampicilin入り培地でコロニーを確認した。
8) Colony PCRを行ってreconstitutionを確認した。
9) Direct sequenceでSARS-CoV RNA fragmentを確認した。
10) SARS-CoV RNA発現ベクターを制限酵素で切断した。
11) template 1μgに30UのT7ポリメラーゼ、5μlのα-32P-UTP(800Ci/mmol)、10mMATP 1μl、10mMCTP 1μl、10mMGTP 1μl、9μl Transcription reaction buffer(with DTT)を加えて37度で20分 incubateした。
12)100μMリボザイム、およびミスマッチリボザイム9μlと、ラベルした240nMターゲットRNA、10mM MgCl21μlを50mM Tris HCl(pH7.5)に混ぜ90度1分インキュベートし、すぐに冷却した。
13)37度で2時間incubateした。
14)Blue duce 10μlを加えて90度2分インキュベートし冷却した。
15)5%のpolyacrylamide gelで電気泳動した。
【0032】
結果
図11に示すように、80 basesのターゲットRNAはコントロール、ミスマッチリボザイムでは切断されなかったが、リボザイム投与ではターゲットRNAが切断されて減少し、cleaved fragmentが出現した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のリボザイムをコロナウィルス感染症の治療薬の有効成分として用いることにより、SARS等のコロナウィルスノ感染症に対して有効な治療を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】コロナウィルスの進化系統樹を示した図である。
【図2】リボザイムの基本構造を示した図である。
【図3】SARS-CoVの遺伝子構造を示した図である。
【図4】MHVとSARS-CoVの共通部位RNAの2次構造を示した図である(実施例1)。
【図5】コロナウィルスのリボザイム及びミスマッチリボザイムを示した図である(実施例1)。
【図6】リボザイムのMHV RNAの切断を確認した図である(実施例2)。
【図7】pcDNA3.1の詳細を示した図である(実施例3)。
【図8】MHVmRNAに対するリボザイムの作用を示した図である(実施例3)。
【図9】MHVmRNAに対するリボザイムの作用を示した図である(実施例3)。
【図10】リボザイムによるMHVの発現抑制結果を示した図である(実施例4)。
【図11】リボザイムのSARS-CoV RNAの切断を確認した図である(実施例5)。
【技術分野】
【0001】
本発明はコロナウィルスの遺伝子を切断するリボザイムに関する。さらにこのリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
2002年11月から2003年2月までに、中国広東省で新興感染症の異型肺炎(患者305名、うち死者5名)が報告された。この異型肺炎は「重症急性呼吸器症候群」(Severe Acute Respiratory Syndrome、以下SARSとする)と呼ばれ、高い死亡率 と感染拡大の速さから、感染発生国のみならず全世界を震撼させた。3月25日米国CDCがコロナウィルス科の新しいウィルスがあることを発見し、4月12日にはカナダの研究グループがこのコロナウィルスの全遺伝子配列を突き止め、4月16日、WHOはこれがSARSの原因ウイルスであると断定した。SARSウイルスはコロナウィルスの1つで動物からヒトへの人畜感染をおこす。
SARSは、2003年7月5日、8カ月弱の経過で終息したが、世界30か国以上で8400名を越える症例と約800名の 死者がWHOに報告された。7月の終息後の新たな集団発生はないが、今後もSARSの発生の可能性がある。
【0003】
SARSの原因ウィルスは、従来とは異なるタイプの新たなコロナウィルス(SARS コロナウィルス、以下SARS-CoVとする)であることが明らかにされ、ゲノム全長の約30000塩基の配列が決定されている。SARS-CoVは、発見されてから日が浅く、その多様な側面が分かっている訳ではないが、ウィルス学的には、他のコロナウィルスと類似点が多いと考えられる。コロナウィルス属のウィルスは、抗原的交差(塩基配列およびアミノ酸配列の相同性)から、図1に示すように3グループに分けられる。各々のグループに属するウィルス間の相同性は、グループの異なるウィルスと比べ有意に高いが、SARS-CoVは1〜3のいずれにも相同性が低く、第4番目のグループに属すると考えられる(グループ2へ分類する研究者もいる)。
【0004】
SARSに対する治療薬として、現在、ワクチン等の開発が各国ですすめられている。また、黄金、クチナシ、金銀花、レンギョウ、地黄、生石膏、野菊花、貫衆、桔梗、ハッカ、牛旁子および甘草から構成される煎じ薬(例えば、特許文献1参照)等も開発されているが、SARSに対する有効な治療薬が得られたという報告は未だなされていない。一方で、SARSのようなウィルス性疾患の治療方法の一つとして、近年、リボザイムによる遺伝子治療が注目を集めている。
【0005】
リボザイムはRNA切断活性を有するRNA核酸であり、図2に示すようにヘアピン型、ハンマーヘッド型などの構造をとる。ターゲットmRNAに相補的な塩基配列を有するStem I、Stem IIIが、ターゲットmRNAと結合し、保存配列のRNA切断酵素活性により、ターゲットmRNAのGUC配列の後を切断する。リボザイムはターゲット遺伝子への特異性が高く、一度mRNAを切断すると、リボザイムはそのmRNAから離れて別のmRNAにハイブリッドし切断を繰り返す。ターゲット遺伝子への特異性が高く、このようなリボザイムは、現在、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)等に対して多く開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、SARS等のコロナウィルスに対して、このようなリボザイムは得られていない。SARS以外のコロナウィルスとして、ヒトに風邪の症状を起こすヒトコロナウィルス、ブタに胃腸炎を起こすブタ伝染性胃腸炎ウィルス、イヌに下痢の症状を起こすイヌコロナウィルスまたはマウスに肝炎、下痢の症状を起こすマウス肝炎ウィルス等が知られているが、いずれもリボザイムは得られていない。従って、SARS等のコロナウィルス感染症に対して治療に有効なリボザイムの開発が望まれている。
【特許文献1】特開2005-2084号公報
【特許文献2】特表2003-507037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コロナウィルスの遺伝子のループ構造を切断するリボザイムの提供を課題とする。さらにこのリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、SARS等のコロナウィルス感染症に対するリボザイムを開発するために、SARS-CoVおよびマウス肝炎ウィルス(Mouse hepatitis virus:以下MHVとする)等のコロナウィルスにおける共通塩基配列を検索し、これに相補的な塩基配列を含むリボザイムを設計することで、これらのコロナウィルスのループ構造を切断するリボザイムを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、このリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)〜(9)のコロナウィルスの遺伝子を切断するリボザイムおよびコロナウィルス感染症の治療薬に関する。
(1)コロナウィルス科に属するウィルスの遺伝子を切断することを特徴とするリボザイム。
(2)コロナウィルス科に属するウィルスの遺伝子の特定の塩基配列を認識して切断することを特徴とする上記(1)に記載のリボザイム。
(3)特定の塩基配列がGUCを含む塩基配列である上記(2)に記載のリボザイム。
(4)特定の塩基配列がループ構造に含まれる上記(2)または(3)に記載のリボザイム。
(5)配列表配列番号1に記載のリボザイム。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のリボザイムであって、RNA/DNAキメラ型であるリボザイム。
(7)コロナウィルスの特定の塩基配列を選択し、その塩基配列に相補的な配列を含むことを特徴とするリボザイムの設計方法。
(8)特定の塩基配列の選択が、以下1)〜3)の2つ以上の組み合わせによる、リボザイムの設計方法。
1)コロナウィルスの保存領域の塩基配列を選択する
2)コロナウィルスの共通領域の塩基配列を選択する
3)コロナウィルスの遺伝子のループ構造を含む塩基配列を選択する
(9)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明により確立されたコロナウィルスの遺伝子を切断するリボザイムおよびこのリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬を利用することにより、SARS等のコロナウィルスによる感染症に対して有効な治療を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のリボザイムにおいて、切断の対象となるターゲットmRNAはコロナウィルスのmRNAである。例えば、重篤な疾患であるSARSをヒトに起こすSARS-CoVのmRNA、MHVのmRNAが挙げられる。
また、コロナウィルス以外でも本リボザイムによって認識され、切断され、その発現が抑制される遺伝子であれば本発明の対象とすることができ、コロナウィルスには限られない。例えば、コロナウィルスの保存領域や共通領域の塩基配列によりリボザイムを設計した場合、その保存領域や共通領域の塩基配列により認識され、切断され、その発現が抑制される遺伝子であれば、その遺伝子についても本発明の対象とすることができる。
【0012】
コロナウィルス粒子はSARS-CoVを含め、約20nmの特徴的なスパイクを持つエンベロープウィルスで直径約100から200nmの円形、楕円形および多形性の形状を示す。粒子表面のスパイクはS蛋白からなる。また、エンベロープには、その他に、膜(M)蛋白、エンベロープ(E)蛋白が存在する。エンベロープに囲まれてゲノムRNAが存在し、それに核(N)蛋白が結合し、螺旋状のヌクレオキャプシドを形成している。SARS-CoVを含むコロナウィルスは、現在知られるウィルスRNAとしては最大の約30kbの(+)鎖ゲノムRNAを持つ。ゲノムRNA5'末端にはcap構造、3'末端にはpoly(A)が存在する。30kbからなるゲノム5'末端には約70ベースからなるleader sequenceがあり、その下流にRNApolymerase (open reading flame: ORF 1a、1b)、S、E、M、Nの順で存在する。このうち、SARS-CoVは図3に示すように、M、N遺伝子間に他のコロナウィルスにはみられない数個のORF(X3、X4およびX5)を持つ。
【0013】
一般にコロナウィルスは種特異性が高く、固有宿主以外の動物に感染することはないが、SARS-CoVはヒト以外にもサル、ネコ、フェレット(参考文献1、2)やマウス、ラットなどにも感染する。SARS-CoVの高い病原性は、ウィルスの増殖に伴う直接的な細胞損傷というより、ウィルスが誘発する宿主反応が大きく影響していると考えられている(参考文献3、4)。SARS-CoV感染でみられる肺炎は、1997年に発生したインフルエンザH5N1感染と同様、cytokineによる強い炎症反応に類似し、大量のcytokineが産生され(cytokine storm)、その結果宿主の異常なまでの強い炎症反応を誘発した結果ではないかと考えられる。
参考文献1 Fouchier RAM, Kuiken T, Schutten M et al. Koch's postulates fulfilled for SARS virus. Nature 423: 240-, 2003.
参考文献2 Martina BEE, Haagmans BL, Kuiken T et al. SARS virus infection of cats and ferrets. Nature 425: 915, 2003.
参考文献3 Nicholls JM, Poon LM, Lee KC et al. Lung pathology of fatal severe acute respiratory syndrome. Lancet 361: 1773-1778, 2003.
参考文献4 Peiris JSM, Chu CM, Cheng VCC et al. (2003) Clinical progression and viral load in a community outbreak of coronavirus-associated SARS pneumonia; a prospective study. Lancet. 361: 1767-1772, 2003.
【0014】
また、MHVはコロナウィルス科に属すエンベロープを有するRNAウィルスで、ウィルス粒子周囲にスパイク様構造物をもつ。本ウィルスには病原性、抗原性などの性状を若干異にする多くの分離株が知られている。例えば、A−59、JHM、MHV-2、S、nu-67などである。これらのウィルス株はDBT、NCTC−1469など種々の株化細胞で増殖し、その際、多くの株は合胞体性巨細胞形成といった特徴的な細胞変性効果を示す。
【0015】
本発明のリボザイムは、切断の対象となるターゲットmRNAの特定の塩基配列を認識することが好ましい。例えば、図2に示すようなターゲットmRNAと結合するためのターゲットmRNAに相補的な塩基配列(Stem I、Stem III)と、ターゲットmRNAを切断するためのRNA切断酵素活性を有する保存配列を有することが好ましい。
これらの塩基配列より、切断の対象となるターゲットmRNAに特異的にリボザイムが結合し、保存配列のRNA切断酵素活性によりターゲットmRNAを切断することができる。
【0016】
ターゲットmRNAの切断のために認識される塩基配列はGUC配列であることが好ましい。本発明のリボザイムは、このGUC配列を認識し、その後続のmRNAの塩基配列を切断することが好ましい。
リボザイムがターゲットmRNAに結合するための塩基配列は、ターゲットmRNAの特定配列と相補的な配列であって、これらの塩基配列を十分に認識し、結合できる塩基配列であれば、一部の塩基が欠失、置換、挿入されているものを用いることもできる。
さらに本発明のリボザイムが切断する対象となるターゲットmRNAの塩基配列は、その切断される塩基配列がループ構造の一部であることが好ましい。本発明のループ構造とは、図4に示すように対象となるターゲットmRNAが二次構造を取った場合において、ループ状の構造を示す部分のことをいう。なお、ループ状以外の構造を示す部分はステム構造という。
切断される塩基配列がループ構造の一部であることが好ましいのは、対象となるターゲットmRNAがリボザイムによって切断された場合に、ループ構造を切断されたターゲットmRNAは3次構造が著明に変化し、ターゲットmRNAの機能が抑制されるが、ステム構造を切断されたターゲットmRNAは3次構造があまり変化せず、ターゲットmRNAの機能が抑制されない場合もある。
本発明のリボザイムの長さは特に問わないが、全体で30塩基以上、35〜40塩基であることが好ましい。
【0017】
本発明のリボザイムの設計において、コロナウィルスのループ構造を切断するリボザイムを設計する場合には、コロナウィルスに属する数種のウィルスの塩基配列を用い、特定の塩基配列次の1)〜3)の選択方法の少なくとも2つ以上の組み合わせによって選択し、設計することができる。
1)コロナウィルスの保存領域の塩基配列を選択する、
2)コロナウィルスの共通領域の塩基配列を選択する、
3)コロナウィルスの遺伝子のループ構造を含む塩基配列を選択する。
さらに、本発明リボザイムの設計において、図2に示すように、ターゲットmRNAに相補的な塩基配列(Stem I、Stem III)は各々同じか、または数塩基異なる程度の長さの塩基配列からなり、保存配列を含むStem IIが中心になるように設計することが好ましい。
【0018】
例えば、コロナウィルスとしてSARS-CoVの保存領域のRNA塩基配列について、二次構造をコンピューター解析し、GUC配列を含むループ構造を検索することでSARS-CoVを認識し、切断するリボザイムを設計することができる。また、SARS-CoVとMHVの各々の保存領域の塩基配列より共通塩基配列を探し、二次構造をコンピューター解析し、GUC配列を含むループ構造を検索することでSARS-CoVおよびMHVを認識し、切断するリボザイムを設計することができる。この設計方法はコロナウィルス以外の遺伝子についても行うことができる。
また、この方法によって選択される結合するための塩基配列がターゲットmRNAによって異なるため、ターゲットmRNAを特異的に認識し、切断することができる。リボザイムは一般的にRNA核酸であるが、体内に存在するRNA切断酵素による分解を防ぐため、RNA/DNAキメラ型構造にすることができる。今回設計したSARSコロナウイルスに対するリボザイムは図5の如く、保存配列のみRNA構造で他をDNA構造とし、さらに3'側2塩基間をphosphorothioate型に化学修飾し、RNA分解酵素に耐性とし、生体内の投与で分解されにくくした。
本発明により設計された好ましいリボザイムとしては、例えば、コロナウィルスとしてSARS-CoVおよびMHVを認識し、切断し、これらの発現を抑制できるリボザイムとして、配列表配列番号1に記載のリボザイムなどを用いることができる。
【0019】
本発明により、設計されたリボザイムは、従来から知られているいずれの方法を用いても大量に得ることができる。例えばUhlenbeck(参考文献5)の方法に基づき、T7 RNAポリメラーゼプロモーターに連結した鋳型DNAにT7 RNAポリメラーゼを添加することで、RNAとしてのリボザイムが得られる。一方、RNAシンセサイザーにても合成する事ができる。得られたリボザイムの有効性は、従来から知られている方法を用いて、切断の対象となるウィルスまたは遺伝子の一部または全部を切断するか否かの確認や、そのウィルスまたは遺伝子の発現を抑制するか否かの確認によって行うことができる。
参考文献5 Uhlenbeck OC. A small catalytic oligoribonucleotide. Nature 328:596-600、1987.
【0020】
本発明のリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬としては、本発明のリボザイムを有効成分として含む治療薬であればいずれのものも用いることができる。コロナウィルス感染症としては、特にSARS、MHVによる疾病等を対象とすることが好ましい。本発明の治療薬はリボザイムの有効成分に加えて、安定化剤等を含んでもよい。治療薬の形態は特に問わないが、SARSウィルスを対象とする場合、吸入剤であることが特に好ましい。
【0021】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
<リボザイムの作製>
1.MHV、SARS-CoVに対するリボザイムの分子設計
MHV、SARS-CoVの共通塩基配列を探し、二次構造をコンピューター解析し、図4に示すようにGUC配列を含むループ構造を検索した。図5に示すようにこの領域に相補的なハンマーヘッド型リボザイムを設計し、コントロールとして酵素活性を持つ保存配列を三塩基置換したミスマッチリボザイムを設計した。
【0023】
2.リボザイムの合成
1)Uhlenbeckの方法に基づき、T7 RNAポリメラーゼプロモーターに連結した鋳型DNAにT7 RNAポリメラーゼを添加することで、RNAとしてのリボザイムを得た。
2)T7 RNAの鋳型DNAを下記および配列表配列番号2および3に示した。
5'- TAATACGACTCACTATA -3'
3'- ATTATGCTGAGTGATATCNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN -5'
+1
+1はCになっておりT7 RNAポリメラーゼが働きやすい。+2からはリボザイムRNAの鋳型DNA構造で、これに基づきリボザイムRNAが合成される。実際5'側から3'側 (+1まで)へのリボザイムRNAの鋳型DNA構造は配列表配列番号4に示した。これはMHVの15648-15654およびSARSウイルスの15454-15470に相当する。
3)T7とリボザイムの鋳型DNAを3μg/μlずつ混ぜ、90度3分熱し、すぐに4度に冷却した。
4)300UのT7ポリメラーゼ、5μlのα-32P-CTP(3000Ci/mmol)、50UのRNase inhibitor、50μl Transcription reaction buffer(40mM Tris-HCl pH8.0,0.5mM rNTP,8mM MgCl2,5mM DTT,2mM spermidine)を加えて4時間37度でincubateした。
5)100μlのphenol、chloroformを加えてvortexした。
6)16000rpmで30秒遠心し、上清を移した。
7)chloroformとisoamyl alcoholを加えてvortexし、16000rpmで30秒遠心し上清を移した。
8)100% ethanolを200μl加えて16000rpmで15分遠心し上清を捨てた。
9)RNA pelletを2回75% ethanolで洗い、5μlのDEPC waterに溶解し、リボザイムを合成した。
【実施例2】
【0024】
<MHV RNA切断実験>
3.リボザイムのターゲットRNAの切断確認
1)ターゲットRNAの合成
MHV RNAのリボザイムを切断する部分を含む100base程度をターゲットRNAとした。ターゲットRNAはT7 RNAポリメラーゼプロモーターに連結したターゲットRNAの鋳型DNAにT7 RNAポリメラーゼを添加し、リボザイムの合成と同様に、ターゲットRNAを合成した。
【0025】
2)リボザイムを用いたターゲットRNAの切断
a)ラベルした2.4μMリボザイム、および2.4μMミスマッチリボザイム1μlと240nMターゲットRNAを50 mM Tris HCl (pH8.0)に混ぜ90度1分インキュベートし30分室温に放置した。
b)250mM MgCl2を加えた。
c)1時間、4時間、8時間 37度インキュベートした。
d)Blue duce10μlを加えて90度2分インキュベートし冷却した。
e)6%のpolyacrylamide gelで電気泳動した。
【0026】
3.結果
図6に示すように、Mg2+存在下でリボザイム(40bases)はターゲットRNA(90bases)を1時間、4時間、8時間のいずれのインキュベート時間でも61basesと29basesに切断した。しかしミスマッチリボザイムでは切断されなかった。
【実施例3】
【0027】
<MHV RNA発現抑制実験>
1) MHV RNAでリボザイムを切断する部分を含む100 base程度についてPCR primerをPrimer 3 input(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)で選択した。この切断する部分を含むオリゴヌクレオチドの配列を配列表配列番号5に示した。また、選択したプライマーの配列は配列表配列番号6、配列番号7に示した。
2) primerが挟む領域の5'-→3’オリゴと相補3'-→5’オリゴとprimerを合成した。
3) 5'-→3'オリゴと相補3'-→5'オリゴをanealingさせ、これを鋳型にPCRをかけた。
4) PCR産物を電気泳動し100 baseのバンドを切り出し精製した。
5) pcDNA3.1のマニュアルにのっとり、PCR産物をpcDNA3.1(図7)に挿入した。
6) Competent E.coliに挿入した。
7) Ampicilin入り培地でコロニーを確認した。
8) Colony PCRをいってreconstitutionを確認した。
9) Direct sequenceでMHV RNA fragmentを確認した。
10)MHV RNA発現ベクターを3T3細胞にlipofectinで導入し1時間incubateした。
11) lipofectinで10-9、10-8、10-7Mのリボザイム、ミスマッチリボザイムを導入し18時間incubateした。
12)TRIZOL ReagentでRNAを抽出し、MHV RNA fragmentのRT-PCRを行った。
13) リボザイムによるMHV RNA flagment mRNAの抑制を電気泳動、バイオアナライザーを用いて確認した。
【0028】
結果
図8に示すように、リボザイムではMHVmRNA発現は有意に抑制されたが、ミスマッチリボザイムでは抑制されなかった。さらに図9に示すように、リボザイムでの発現抑制は濃度依存性であった。
【実施例4】
【0029】
<リボザイムによるMHVのDBT細胞での抑制>
1)DBT細胞を24wellプレートに2.8×105/0.5 ml/wellで準備した。
2)24時間後 1.0μMのミスマッチリボザイム、リボザイムを各々デリバリー試薬である20kDa polyethylenemine (ExGen500)でデリバリーした。
3)2時間後MHV(0.01MOI)を感染させ、45分後上清を除いて2回洗い、新しい培養液にかえた。
4)12時間後の上清を保存した。
5)保存した上清を新たにDBT細胞にまき、合胞体性巨細胞数で上清中のMHV量を測定した。
【0030】
結果
図10に示すように、12時間後の上清中のMHVによる合胞体性巨細胞数はコントロール群とミスマッチリボザイム群では有意差を認めなかったが、コントロール群とリボザイム群、ミスマッチリボザイム群とリボザイム群ではリボザイム投与群が有意に抑制されていた。なおFITCラベルリボザイムを用いてのExGen 500によるDBT細胞への導入効率は約60%であった。
【実施例5】
【0031】
<SARS virus RNA切断実験>
1) SARS-CoV RNAでリボザイムを切断する部分を含む100base程度についてPCR primerをPrimer 3 input(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi) で選択した。この切断する部分を含むオリゴヌクレオチドの配列を配列表配列番号8に示した。また、選択したプライマーの配列は配列表配列番号9、配列番号10に示した。
2) primerが挟む領域の5'-→3’オリゴと相補3'-→5’オリゴとprimerを合成した。
3) 5'-→3'オリゴと相補3'-→5'オリゴをanealingさせ、これを鋳型にPCRをかけた。
4) PCR産物を電気泳動し100 baseのバンドを切り出し精製した。
5) pcDNA3.1のマニュアルにのっとり、PCR産物をpcDNA3.1に挿入した。
6) Competent E.coliに挿入した。
7) Ampicilin入り培地でコロニーを確認した。
8) Colony PCRを行ってreconstitutionを確認した。
9) Direct sequenceでSARS-CoV RNA fragmentを確認した。
10) SARS-CoV RNA発現ベクターを制限酵素で切断した。
11) template 1μgに30UのT7ポリメラーゼ、5μlのα-32P-UTP(800Ci/mmol)、10mMATP 1μl、10mMCTP 1μl、10mMGTP 1μl、9μl Transcription reaction buffer(with DTT)を加えて37度で20分 incubateした。
12)100μMリボザイム、およびミスマッチリボザイム9μlと、ラベルした240nMターゲットRNA、10mM MgCl21μlを50mM Tris HCl(pH7.5)に混ぜ90度1分インキュベートし、すぐに冷却した。
13)37度で2時間incubateした。
14)Blue duce 10μlを加えて90度2分インキュベートし冷却した。
15)5%のpolyacrylamide gelで電気泳動した。
【0032】
結果
図11に示すように、80 basesのターゲットRNAはコントロール、ミスマッチリボザイムでは切断されなかったが、リボザイム投与ではターゲットRNAが切断されて減少し、cleaved fragmentが出現した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のリボザイムをコロナウィルス感染症の治療薬の有効成分として用いることにより、SARS等のコロナウィルスノ感染症に対して有効な治療を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】コロナウィルスの進化系統樹を示した図である。
【図2】リボザイムの基本構造を示した図である。
【図3】SARS-CoVの遺伝子構造を示した図である。
【図4】MHVとSARS-CoVの共通部位RNAの2次構造を示した図である(実施例1)。
【図5】コロナウィルスのリボザイム及びミスマッチリボザイムを示した図である(実施例1)。
【図6】リボザイムのMHV RNAの切断を確認した図である(実施例2)。
【図7】pcDNA3.1の詳細を示した図である(実施例3)。
【図8】MHVmRNAに対するリボザイムの作用を示した図である(実施例3)。
【図9】MHVmRNAに対するリボザイムの作用を示した図である(実施例3)。
【図10】リボザイムによるMHVの発現抑制結果を示した図である(実施例4)。
【図11】リボザイムのSARS-CoV RNAの切断を確認した図である(実施例5)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウィルス科に属するウィルスの遺伝子を切断することを特徴とするリボザイム。
【請求項2】
コロナウィルス科に属するウィルスの遺伝子の特定の塩基配列を認識して切断することを特徴とする請求項1に記載のリボザイム。
【請求項3】
特定の塩基配列がGUCを含む塩基配列である請求項2に記載のリボザイム。
【請求項4】
特定の塩基配列がループ構造に含まれる請求項2または3に記載のリボザイム。
【請求項5】
配列表配列番号1に記載のリボザイム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のリボザイムであって、RNA/DNAキメラ型であるリボザイム。
【請求項7】
コロナウィルスの特定の塩基配列を選択し、その塩基配列に相補的な配列を含むことを特徴とするリボザイムの設計方法。
【請求項8】
特定の塩基配列の選択が、以下1)〜3)の少なくとも2つ以上の組み合わせによる、リボザイムの設計方法。
1)コロナウィルスの保存領域の塩基配列を選択する
2)コロナウィルスの共通領域の塩基配列を選択する
3)コロナウィルスの遺伝子のループ構造を含む塩基配列を選択する
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬。
【請求項1】
コロナウィルス科に属するウィルスの遺伝子を切断することを特徴とするリボザイム。
【請求項2】
コロナウィルス科に属するウィルスの遺伝子の特定の塩基配列を認識して切断することを特徴とする請求項1に記載のリボザイム。
【請求項3】
特定の塩基配列がGUCを含む塩基配列である請求項2に記載のリボザイム。
【請求項4】
特定の塩基配列がループ構造に含まれる請求項2または3に記載のリボザイム。
【請求項5】
配列表配列番号1に記載のリボザイム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のリボザイムであって、RNA/DNAキメラ型であるリボザイム。
【請求項7】
コロナウィルスの特定の塩基配列を選択し、その塩基配列に相補的な配列を含むことを特徴とするリボザイムの設計方法。
【請求項8】
特定の塩基配列の選択が、以下1)〜3)の少なくとも2つ以上の組み合わせによる、リボザイムの設計方法。
1)コロナウィルスの保存領域の塩基配列を選択する
2)コロナウィルスの共通領域の塩基配列を選択する
3)コロナウィルスの遺伝子のループ構造を含む塩基配列を選択する
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のリボザイムを含むコロナウィルス感染症の治療薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−43942(P2007−43942A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231051(P2005−231051)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(505300139)ジェンティア・バイオシステムズ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(505300139)ジェンティア・バイオシステムズ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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