説明

コンクリートから有害物質を溶出させる方法およびその溶出量を測定する方法

【課題】 コンクリートを破砕することなく、コンクリートから有害物質を速やかに溶出させることが可能な方法を提供する
【解決手段】 純水を収容する水槽14にコンクリート試験片12を浸漬し、その両側に陽極側電極板22および陰極側電極板24を配設する。直流電源28により電極板22,24間に電位差を与えることで、コンクリート試験片12に電界を作用させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンクリートから有害物質を溶出させる方法に係り、特に、コンクリートからの有害物質の溶出量を正確かつ速やかに判定するうえで好適な有害物質の溶出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】コンクリートの骨材として、下水汚泥や都市ごみの焼却灰等の廃棄物が用いられる場合がある。このような廃棄物には、例えば鉛や六価クロム等の有害物質が含まれている。このため、廃棄物を骨材としたコンクリートによって例えば護岸等の構造物を構築する場合には、廃棄物に含まれる有害物質がコンクリートから溶出する量が規制値以下となるように、その溶出量を予め判定しておくことが必要である。コンクリートからの有害物質の溶出量を判定する方法として、従来より、コンクリートを粒状に破砕して、その破砕物を純粋に浸漬した際に溶出する有害成分量を測定することが行われている。有害物質の溶出はコンクリート表面からの物質の拡散現象と考えられるため、コンクリートを破砕して溶出面積を大きくすることで、有害物質を速やかに溶出させることが可能となる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、コンクリートが破砕された状態は、コンクリートが構造物として用いられる状態とは大きく異なっている。このため、上記の方法では、構造物としてのコンクリートから実際に溶出する有害物質の量を適正に判定することができない。その一方、コンクリートを塊のまま水中に浸漬したのでは、溶出面積が小さくなるために溶出速度は極めて遅くなり、実用的な溶出試験を行うことができない。
【0004】本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、コンクリートを破砕することなく、コンクリートから有害物質を速やかに溶出させることが可能な方法およびその溶出量を測定する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、請求項1に記載のコンクリートから有害物質を溶出させる方法は、コンクリート試験片を水中に浸漬し、この浸漬したコンクリート試験片に電界を作用させることを特徴とする。
【0006】本発明によれば、水中に浸漬したコンクリート試験片に電界を作用させることで、コンクリート中に含まれるイオン化した有害物質が、電気的に移動させられる。このため、コンクリート試験片を粉砕することなく、コンクリートからの有害物質の溶出を促進することできる。
【0007】また、請求項2に記載する如く、請求項1記載の方法によりコンクリートから有害物質を溶出させながら、前記水中での有害物質の濃度の時間変化を測定することとしてもよい。
【0008】請求項2記載の発明によれば、コンクリートから水中に溶出した有害物質の濃度の時間変化を測定することで、コンクリート中の有害物質の移動速度を推定することができる。このため、コンクリート構造物から長期間にわたる有害物質の溶出状況を予測することが可能となる。また、この試験では一部の水和鉱物が溶解するのでコンクリート中の水和鉱物に取り込まれた有害物質も電界の作用で溶出するが、その移動速度はイオンに比べて小さいため、イオン化している有害物質よりも遅れたタイミングで溶出する。このため、水中に溶出した有害物質の濃度の時間変化を測定することで、細孔溶液中に溶解してイオン化した有害物質の量と水和鉱物中に取り込まれた有害物質の量を区別して判定することも可能となる。
【0009】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の一実施形態に係わる有害物質溶出装置10の概略構成図である。本実施形態では、有害物質溶出装置10により、コンクリート試験片12からその内部に含まれる有害物質を溶出させる。図1に示す如く、有害物質溶出装置10は、純水が収容された水槽14を備えている。水槽14には、コンクリート試験片12が浸漬されている。コンクリート試験片12は、アクリル板等の非透水性板16と共に隔壁を構成しており、水槽14を第1室18と第2室20とに区画している。
【0010】第1室18には、例えばプラチナ製である陽極側電極板22が設けられている。また、第2室20には、例えばステンレス製である陰極側電極板24が設けられている。電極板22,24は、両者がコンクリート試験片12を隔てて互いに対向するように配置されている。電極板22,24には、それぞれ、配線26,28を介して直流電源28の陽極端子28aおよび陰極端子28bが接続されている。配線28には、電流計30が配設されている。
【0011】コンクリート試験片12内部の細孔溶液中には、例えば、鉛、6価クロム、砒素、セレン等の有害物質がイオン化した状態で溶解している。上記した有害物質溶出装置10の構成によれば、電極板22,24間に位置するコンクリート試験片12に、電極板22,24間の電位差に応じた電界が作用する。このため、コンクリート試験片12に含まれる陰イオンは陽極側電極板22へ向けて、また、陽イオンは陰極側電極板24へ向けて、それぞれ電気的に吸引される。したがって、コンクリート試験片12の細孔溶液中に溶解したイオン化有害物質は、電界によって電気的に移動させられることにより水中へ迅速に溶出することとなる。そして、水中の各有害物質の濃度を測定することで、有害物質の溶出量を判定することができる。
【0012】本発明者が、コンクリートの細孔溶液中に含まれるイオンCaの移動速度を、コンクリートに10V/cmの電界を作用させた場合と、電界を作用させなかった場合とについて測定したところ、前者の場合の移動速度は、後者の場合に比べて約60倍になるという結果が得られた。この結果から、電極板22,24間に電位差を与えてコンクリート試験片12に10V/cm程度の電界を作用させることにより、コンクリート試験片12からの有害物質の溶出速度を数十倍に促進できるものと推定される。
【0013】このように、本実施形態の有害物質溶出装置10によれば、コンクリート試験片12を単に水中に浸漬しただけの場合に比べて、コンクリート試験片12に含まれる有害物質を極めて速やかに水中に溶出させることができる。このため、従前の如くコンクリート試験片12を破砕することなく、有害物質の溶出量を短時間で判定することが可能となる。すなわち、コンクリートの実際の使用形態であるコンクリート構造物からの有害物質の溶出量を正確に、かつ、迅速に判定することができる。
【0014】また、コンクリート試験片12中でのイオン化物質の移動速度は、物質の種類によって相違するが、同じイオンについては、コンクリート試験片12に大きな電界を作用させるほど(つまり、電極板22,24間に大きな電位差を与えるほど)移動速度は大きくなる。図2は、電極板22,24間に所与の電位差を与えた場合に、有害物質A〜Cの濃度の時間変化を夫々測定した結果の一例を示す。図2に示すような濃度の時間変化から各有害物質の溶出速度を求め、さらに、この溶出速度から各有害物質のコンクリート中での移動速度を求めることができる。各イオン化有害物質のコンクリート中での移動速度はその拡散係数と密接な関係にあるので、上記のようにして求められた移動速度からコンクリート中での拡散係数を求めることができる。従って、例えば、電極板22,24間に種々の電位差を与え、各電位差の下で求められた拡散係数から、電位差がゼロの状況下での拡散係数を推定することにより、コンクリートの実際の使用条件下での長期にわたる有害物質の溶出挙動を予測することが可能になる。例えば、護岸等のコンクリート構造物から、どのような有害物質がいつ頃どの位の量だけ溶出するかを予想することが可能になるのである。
【0015】更に、コンクリート試験片12に電界を作用させると、コンクリート中の水和鉱物が溶解してくることで、細孔溶液中に溶解した有害物質のみならず、水和鉱物に取り込まれた有害物質も水中に溶出するようになる。この場合、同じ有害物質であっても、細孔溶液中に溶解したものの方が、水和鉱物に取り込まれたものよりも大きな速度で移動し、したがって、水中にも早い時期に溶出する。例えば、図2に示す物質Aの濃度曲線において、時刻t1付近までは、細孔溶液中に溶解した有害物質が溶出したことを示し、時刻t1以降は、水和鉱物に取り込まれた有害物質が溶出したことを示している。したがって、各有害物質について、図2に示すような濃度の時間変化を測定することで、細孔溶液中に溶解した量と水和鉱物に取り込まれた量とを区別して判定することが可能となる。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、水中に浸漬したコンクリート試験片に電界を作用させることで、コンクリート中に含まれるイオン化した有害物質を電気的に移動させることができる。このため、コンクリート試験片を粉砕することなく、コンクリートからの有害物質の溶出を促進することができる。したがって、本発明によれば、コンクリートの実際の使用形態であるコンクリート構造物からの有害物質の溶出量を正確に、かつ、迅速に判定することが可能となる。
【0017】さらに、請求項2記載の発明によれば、水中での有害物質の濃度の時間変化を測定することにより、コンクリート中の有害物質の移動速度を推定できる。このため、長期間にわたるコンクリート構造物からの有害物質の溶出状況を予測することが可能となる。また、コンクリート中の水和鉱物に取り込まれた有害物質も電界の作用で溶出するが、その移動速度はイオンに比べて小さいので、イオン化有害物質よりも遅れた時期に溶出する。このため、水中での有害物質の濃度の時間変化を測定することにより、細孔溶液中に溶解した有害物質の量と水和鉱物中に取り込まれた有害物質の量を区別して判定することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である有害物質溶出装置の構成図である。
【図2】コンクリートから溶出した各種有害物質の濃度の時間変化の一例を示す図である。
【符号の説明】
10 有害物質溶出装置
12 コンクリート試験片
14 水槽
22 陽極側電極板
24 陰極側電極板
28 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コンクリート試験片を水中に浸漬し、この浸漬したコンクリート試験片に電界を作用させることを特徴とするコンクリートから有害物質を溶出させる方法。
【請求項2】 請求項1記載の方法によりコンクリートから有害物質を溶出させながら、前記水中での有害物質の濃度の時間変化を測定することを特徴とするコンクリートからの有害物質の溶出量を測定する方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開2001−249122(P2001−249122A)
【公開日】平成13年9月14日(2001.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−58519(P2000−58519)
【出願日】平成12年3月3日(2000.3.3)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】