コンクリートの品質評価方法及び品質評価装置
【課題】コンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を確度の高い定量的評価が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供すること。
【解決手段】コンクリートの品質である物理的特性が既知であって互いに透過距離の異なる2個以上のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して印加電圧を変えて印加することにより発生した超音波を伝播させ、受振した波形と周波数特性から超音波伝播速度を表す速度指標、受振波のエネルギー特性を表す受振波エネルギー特性指標及び受振波の周波数特性を表す周波数特性指標を求め、超音波伝播距離及び印加電圧の値及び前記測定データを入力データとしコンクリート構造物又はコンクリート供試体の物理的特性を教師値とし、これらの入力データと教師値とをニューラルネットワークにより学習させて物理的特性が未知のコンクリート構造物に対して超音波測定を行い、物理的特性を予測評価する。
【解決手段】コンクリートの品質である物理的特性が既知であって互いに透過距離の異なる2個以上のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して印加電圧を変えて印加することにより発生した超音波を伝播させ、受振した波形と周波数特性から超音波伝播速度を表す速度指標、受振波のエネルギー特性を表す受振波エネルギー特性指標及び受振波の周波数特性を表す周波数特性指標を求め、超音波伝播距離及び印加電圧の値及び前記測定データを入力データとしコンクリート構造物又はコンクリート供試体の物理的特性を教師値とし、これらの入力データと教師値とをニューラルネットワークにより学習させて物理的特性が未知のコンクリート構造物に対して超音波測定を行い、物理的特性を予測評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存のコンクリート構造物の品質を非破壊試験により評価するコンクリートの品質評価方法及び品質評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊試験である超音波法をコンクリート構造物に対して用いる主な目的は、(1)コンクリート構造物内部の欠陥(ひび割れ、空洞など)を探すこと、(2)コンクリート構造物の圧縮強度や劣化状態を推定することにあるが、既設のコンクリート構造物を維持・管理する立場において、コンクリート構造物の圧縮強度を非破壊試験により推定する技術が近年重要視されるようになった。これは、既設のコンクリート構造物の維持管理を目的として、コンクリート構造物の圧縮強度を適切に評価することにより、コンクリート構造物の健全性を適切に評価しようとする期待である。
【0003】
このような状況下で、超音波法によるコンクリート構造物の品質を非破壊試験により評価する手法としては、例えば、コンクリート中を伝播する超音波の伝播速度が圧縮強度と相関性があるとの知見から、コンクリートの圧縮強度を超音波伝播速度から推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、社団法人日本建材産業協会では、「超音波によるコンクリートの圧縮強度試験方法」の規格において、受振波形の減衰傾向(後方錯乱波減衰係数)や周波数特性(伝達関数積分値)からコンクリート内の骨材の影響を考慮し、超音波伝播速度を補正することにより圧縮強度の推定精度を向上させる方法を提案している。
【0005】
また、超音波法によりコンクリートの圧縮強度を推定する方法として,受振した超音波パルスの縦波振幅,縦波音速,縦波受振周波数,横波振幅,横波音速,横波受振周波数を求め,これら6種類の超音波情報に基づいて圧縮強度を推定する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
一方、コンクリート構造物の健全性は圧縮強度のみならず、アルカリ骨材反応による劣化状況の把握や、圧縮強度を補完してコンクリート構造物の健全性を評価する尺度としての静弾性係数がある。
【0007】
材質劣化を模擬するためにアルカリ骨材反応による劣化を起こしたコンクリートコアを対象に、広帯域の周波数分布特性をもった弾性波法の有効性が検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0008】
また、縦波と横波の音速比を求めることによりコンクリート構造物の圧縮強度、アルカリ骨材反応の進行度、弾性定数又はポアソン比が推定できると提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
また、近年、あらかじめ非均質材料の試験サンプルの超音波測定を行い、測定によって得られる振幅、音速又は周波数のうち複数のパラメータを選び出し、これらのパラメータ及び/又はパラメータを演算処理した値を入力データとし、同じサンプルの物理的性質の測定結果を教師データとし、これらの入力データと教師データとを使って階層型ニューラルネットワークで学習を行うことで実験式を作成し、この実験式に検査対象となる非均質材料の超音波測定結果を入力して物理的性質を推定する非均質材料の物性検査方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0010】
一方、静弾性係数は、コンクリート構造物の健全性を評価するための必要なパラメータの一つであると考えられるが、超音波の伝播特性との相関が十分に検討されていないためか、超音波法により静弾性係数を推定する方法はほとんど検討されていない。
【特許文献1】特開2001−116731号公報
【特許文献2】特開平03−13859号公報(特許2740872号)
【特許文献3】特開2005−315622号公報
【特許文献4】特開2004−170099号公報
【非特許文献1】社団法人土木学会出版コンクリート技術シリーズ61、土木学会コンクリート委員会弾性波法の非破壊検査研究小委員会編「弾性波法によるコンクリートの非破壊検査に関する委員会報告およびシンポジウム論文集」、2004年8月出版、p281−288。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
超音波伝播速度はコンクリートが複合材料である影響を大きく受け、その結果、圧縮強度の推定精度はまだ低い。また、上述の社団法人日本建材産業協会が提案する規格は測定や解析方法が特殊であり実用に供されていない。
【0012】
超音波法による材料の品質を評価する手法は、特に配管肉厚部分の探傷を目的とする金属材料に対しては高精度で評価する技術が確立されているが、本発明者らの認識によれば、コンクリート構造物に対しては十分に正確に評価できる技術が確立されていないのが現状である。これは、コンクリート材料が主にセメントと骨材とからなる複合物であること、また、コンクリート構造物には微細な空洞が生じていること、配管肉厚に対してコンクリート構造物は評価対象の厚みが厚いので超音波減衰が大きくなることなどに起因していると考えられる。
【0013】
したがってコンクリート構造物の物理的特性や劣化状態と超音波伝播特性との関係は、多くの研究者により研究は進められているが、それらの関係を統合して予測する手法は確立されていない。既設のコンクリート構造物の長寿命化を考慮すれば、コンクリート構造物の健全性を非破壊により確度高く定量できる評価法が切望される。
【0014】
そこで、本発明の目的は、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、コンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を確度の高い定量的評価が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供するにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、圧縮強度と同様に重要な指標である静弾性係数の定量が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供するにある。
【0016】
また、本発明のさらなる目的は、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、既設コンクリート構造物の健全性を示す尺度である圧縮強度と静弾性係数との両指標を同時に定量できるコンクリート構造物の品質評価方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
超音波測定は、非破壊試験によりコンクリート構造物の物理的特性を推定する手法として優れている。また、超音波測定によれば、超音波の伝播速度に限らず受振した波形と周波数特性から、受振波の最大振幅、受振波第一波の振幅、ピーク強度、ピーク周波数、平均周波数などの様々な指標が抽出可能であり、また、抽出された各指標がコンクリート構造物の物理的特性と相関関係を有することが確認されているので、コンクリート構造物の物理的特性を推定する際にこれらの指標の全てを利用することが重要であると思われた。
【0018】
また、本発明者らによる解析(非特許文献1参照。)では、膨張率の変化に対する感度は、超音波伝播速度よりも最大振幅比及び第一波振幅比、ピーク強度比及び総エネルギー比、ピーク周波数、平均周波数などの他の指標の方が感度が高い場合があると報告されている。
【0019】
しかしながら、本発明者らの詳細な解析によれば、測定対象となるコンクリート構造物においては、構造物の厚さは一定ではなく超音波測定の際の透過距離は測定対象に対しては常に異なっていることが判明した。例えば、超音波伝播速度はコンクリートの厚み(透過距離)による影響が少ないのに対して受振波エネルギー指標(最大振幅など)は、物理的特性が同一のコンクリートでも透過距離が長いほど超音波が減衰し小さくなる。また,長い透過距離や劣化したコンクリートを測定する場合は,超音波振動子(又は発振子)に対する印加電圧を上げることによって発振エネルギーを増し,受振波を明確にすることが一般的に行われるが,この印加電圧によっても当然受振波エネルギー指標は違ってくる。
【0020】
それ故、コンクリート構造物の物理的特性に対して相関関係があるからといって、例えば、特許文献4に記載のとおり、一律の実験式を導き出す手法によってコンクリート構造物の物理的特性を推定するのは、特許文献4に記載の発明において具体的に開示されるような耐火物等の厚みが一定の画一された材料に対する推定は行えても、厚みがそれぞれの検査対象により異なるコンクリート構造物に対しては適切ではないと思料された。
【0021】
そこで、本発明者らは、超音波測定時の測定時条件である超音波伝播距離及び印加電圧の値を変化させて物理的特性としての教師値との関係を学習させれば、厚みが異なるコンクリート構造物の物理的特性を適切に評価できるのではないかと考えた。
【0022】
さらに、本発明者らはこの観点から既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、コンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を定量的に確度高く推定する手法について研究したところ、これらの指標を受振した波形と周波数特性から超音波伝播速度を表す速度指標、受振波のエネルギー特性を表す受振波エネルギー特性指標及び受振波の周波数特性を表す周波数特性指標に分類し、それらの分類された指標に複数の指標がある場合には、その複数の指標の少なくともひとつを利用することにより分類された全ての指標を利用するのがよいことを見いだした。
【0023】
また、本発明者らは、学習に供される入力データとして、異なる超音波伝播距離及び超音波を発振させるための振動子(又は発振子)に対する印加電圧の値を含めてこれらの分類された指標の全てを指標として利用することにより、従来にも増してコンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を定量的に確度高く推定することができることを見いだした。
【0024】
すなわち本発明は、コンクリートの品質である物理的特性が既知であって互いに透過距離の異なる2個以上のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して印加電圧を変えて印加することにより発生した超音波を伝播させ、受振した波形と周波数特性から超音波伝播速度を表す速度指標、受振波のエネルギー特性を表す受振波エネルギー特性指標及び受振波の周波数特性を表す周波数特性指標を求め、該超音波測定時の測定時条件である超音波伝播距離及び印加電圧の値及び前記測定データを入力データとし、前記コンクリート構造物又はコンクリート供試体の物理的特性を教師値とし、これらの入力データと教師値とをニューラルネットワークにより学習させて前記教師値と入力データとの相関関係を学習させ、コンクリートの品質である前記物理的特性が未知のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して超音波測定を行い、該測定結果及び前記学習結果よりコンクリートの品質である前記物理的特性を予測評価することを特徴とするコンクリート構造物の品質を非破壊試験により評価するコンクリートの品質評価方法である。
【0025】
本発明において、前記受振波エネルギー特性指標は、受振波の最大振幅、受振波第一波の振幅、ピーク強度及び受振波総エネルギーから選択された1種又は2種以上の指標が例示され、前記周波数特性指標は、ピーク周波数及び平均周波数から選択された1種以上の指標が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0026】
また、本発明において前記物理的特性としては、圧縮強度、静弾性係数、膨張率で代用できるアルカリ骨材反応を生じたコンクリートの膨張劣化状態などが例示されるがこれに限定されない。
【0027】
圧縮強度の評価はすでに一部が実用に供されているが、本発明者らの手法を採用することにより一層の推定精度の向上が図れる。
【0028】
また、静弾性係数の推定は一般的に行われていないが、本発明によれば、圧縮強度の推定と同時に静弾性係数も推定できる。静弾性係数は、圧縮強度と同様にコンクリート構造物の健全性を評価する指標として重要な指標であり、本発明においては、これらの圧縮強度及び静弾性係数が同時に推定できるという実用的に有用な作用効果を奏する。
【0029】
さらに、本発明においては、アルカリ骨材反応を生じたコンクリートの膨張劣化状態も、例えば、膨張率という指標により評価することができる。
【0030】
本発明においては、これらの圧縮強度、静弾性係数、膨張率などの物理的指標は同時に推定可能であるが、本発明においては、圧縮強度、静弾性係数又は膨張率の一つの指標ないしは二つの指標のみを推定する品質評価法としても利用できる。
【0031】
膨張率のみならず、その他の物理的指標を総合的に評価することによりアルカリ骨材反応を生じたコンクリートの膨張劣化状態を把握することもできる。
【0032】
また、本発明によれば、透過距離がそれぞれの検査対象に対して異なる既設のコンクリート構造物に対する評価に限定されずに、透過距離が一定のコンクリート構造物又はコンクリート供試体などの不均質材料へも応用が可能であることは容易に理解される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、コンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を確度の高い定量的評価が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供することができる。
【0034】
また、本発明によれば、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、圧縮強度と同様に重要な指標である静弾性係数の定量が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供することができる。
【0035】
また、本発明によれば、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、既設のコンクリート構造物の健全性を示す尺度である圧縮強度と静弾性係数との両指標を同時に定量できるコンクリート構造物の品質評価方法を提供することができる。
【0036】
これにより、本発明に従えば、既設のコンクリート構造物の健全性を適切に評価することにより既設のコンクリート構造物の寿命を延長させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例に従い本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
本発明者らは、非特許文献1においてすでにアルカリ骨材反応(以下、「ASR」という)によるコンクリート膨張劣化に関して、透過法による超音波測定から得られる受振波形や周波数特性等の超音波伝播特性が透過距離一定(25cm)の場合には、コンクリート構造物の物理的特性を評価する有効な指標となる可能性が高いことを確認している。
【0039】
そこでこの実施例では、超音波法によりコンクリート構造物の物理的特性(物性)を評価する手法の開発を目的として、以下に示すように予測手法の構築およびその有用性について検討した。
【0040】
(1)超音波透過距離の影響を考慮した供試体実験による超音波伝播特性の把握
(2)実験結果を基礎データとしたコンクリート物性予測手法の構築(実験結果を基礎データとして、透過法による超音波測定からコンクリートの圧縮強度および静弾性係数を予測する手法の構築)
(3)実構造物に対する超音波測定による予測手法の検証
[(1)超音波透過距離の影響を考慮した供試体実験による超音波伝播特性の把握]
ASR によるコンクリート膨張劣化に対する超音波伝播特性、圧縮強度および静弾性係数を把握するための実験を行った。また、本実施例では、超音波透過距離が一定とはならない実構造物への測定を想定して、コア長の異なる供試体を用いることにより透過距離の違いも考慮した。ここで、圧縮強度はJIS A 1108(1999)により、また静弾性係数はJIS A 1149(2001)により測定した。
(1.1) 膨張率の異なるコンクリート構造物(供試体)の製作
供試体は予め大型コンクリート供試体(縦60×横90×厚さ50cm)を製作し、材齢1 年4 ヶ月でコア抜き(φ10cm×コア長30、60、90cm、以下、円柱コア供試体(コア長60cm)「円柱コア供試体」という)した。使用したコンクリート配合を表1に示すが、粗骨材には骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法:JIS A 1145(2001))で「無害でない」と判定された反応性骨材(安山岩と流紋岩の混合)を使用し、練混ぜ水に塩化ナトリウムと水酸化カリウムを添加した。また、得られた供試体の材齢28日の初期物性値等を表2 に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
つぎに、円柱コア供試体に評点距離20cm間隔にリングを取り付け、デンマーク法を参考に、飽和塩化ナトリウム水溶液の入った容器に浸漬し、46℃の恒温槽内で促進養生させて供試体にASRによる劣化を生起させ供試体を膨張させた。
(1.2 )測定項目および測定方法
促進養生中、定期的にコンタクトゲージ法による長さ測定(JIS A 1129-2(2001))を行い、コア採取直後からの長さ変化量より膨張率を算出した。長さ測定と同時に透過法による超音波測定(1.3に詳述)を行った。また、大型コンクリート供試体から別途、円柱コア(φ10cm×コア長25cm×8 本)を採取し、順次所定の膨張率において両端を切断し長さ20cm に整形した後、圧縮強度試験(JIS A 1108(1999))および静弾性係数試験(JIS A 1149(2001))を行った。
(1.3 )超音波測定方法および伝播特性の指標
超音波測定は、円柱コア供試体の長さ方向に超音波を伝播させる透過法とした。表3に測定器仕様を示す。なお、印加電圧は30、150、350、500Vの4種類で測定し、受振増幅度は29〜60dB間の任意で測定したデータを測定後に全て60dB相当に換算した。
【0043】
【表3】
超音波伝播特性として評価する指標項目を図1、図2に示す。受振波からは超音波伝播速度、最大振幅および第一波振幅、また受振波をフーリエ変換した周波数スペクトルからは、スペクトル強度の最大値(ピーク強度と称する)およびその周波数(ピーク周波数と称する)、また0〜2500kHz 範囲の周波数スペクトル線と横軸(スペクトル強度0)とで囲まれた部分の面積(受振波総エネルギーと称する)、そして受振波総エネルギーの50%相当にあたる周波数(平均周波数と称する)の7項目とした。
(1.4 )測定結果例および伝播特性の考察
円柱コア供試体(コア長30cm)における膨張率と各超音波伝播特性との関係を図3に示す。なお、最大振幅、第一波振幅、ピーク強度および受振波総エネルギーは、各々において、膨張率が0.0%時の値との比として整理した。
【0044】
いずれの指標も膨張率の増加に伴い減少しているが、特に超音波伝播速度以外の各指標は膨張率の初期変化を敏感に捉えている。これらの傾向はコア長60、90cm 供試体においても同様であった。仮に実構造物の測定においては、コンクリート品質が健全な状態から膨張初期段階までの適切な評価が構造物早期診断として特に重要であると考えられるため、これら各超音波伝播特性による評価は有益と思われる。
【0045】
この点、特許文献3の特開2005−315622号公報には、アルカリ骨材反応による劣化状態を超音波法により測定する方法として、超音波測定により得られる音速(超音波伝播速度)から求めた比を指標とした検査方法が開示されている。この点、本発明者らによる研究に係る図3(a)により、アルカリ骨材反応による劣化状態は超音波測定により得られる音速より把握することは可能であるが、本発明者らの図3(b)〜(d)に示す結果によれば、その他の指標が,超音波伝播速度よりも膨張率の変化に対してより感度が高いことが確認された。
【0046】
ここで、本発明者らの判断によれば、アルカリ骨材反応によるコンクリート内部ひび割れ発生時期を膨張率0.1%程度と判断しており,0.1%以下の膨張率に対して感度の高い受振波振幅や周波数特性を指標とすることは,コンクリート構造物の早期劣化診断を目的とした場合,非常に有効であると考えられた。
【0047】
そこで、次に透過距離の影響を図4に最大振幅比、図5に平均周波数に関して比較検討した。図4(b)、図5(b)は各々図4(a)、図5(a) から膨張率0.0%と0.1%程度のときを表示したものである。
【0048】
なお、最大振幅はコア長30cm、膨張率0.0%での値との比として整理し、コア長60、90cm 供試体の膨張率は、各リング間の内で最大値とした。コア長(透過距離)が長くなるに従い、図4(b)に示した最大振幅比の減衰から超音波の伝播エネルギー量が大きく減少し、図5(b)に示した平均周波数から、伝播する高周波成分も減少していることがわかる。他の伝播特性も同傾向であり、透過距離は伝播特性に大きな影響を与えている。
(1.5 )コンクリート強度特性と膨張率
図6に円柱コア供試体(コア長25cm)の圧縮強度および静弾性係数と膨張率を比較した。膨張に伴い圧縮強度および静弾性係数が低下している。圧縮強度および静弾性係数と膨張率を本実験結果のみから関係づけることは尚早ではあるが、本実験結果からは、各超音波伝播特性と膨張率の関係、さらに膨張率と圧縮強度および静弾性係数との関係から、超音波測定により圧縮強度および静弾性係数を直接予測できる可能性が高いことがわかった。
[(2)実験結果を基礎データとしたコンクリート物性予測手法の構築]
超音波法により圧縮強度および静弾性係数等のコンクリート物性を予測するためには測定条件や各超音波伝播特性を総合的に判断する必要がある。相互に関連する複数の測定条件や各伝播特性を同時に考慮したコンクリート物性を予測する手法の構築にあたっては、非線形回帰手法であるニューラルネットワークを用いることとした。
【0049】
本発明では、円柱コア供試体による実験結果から蓄積した諸データを基礎データとし、測定条件や各伝播特性と圧縮強度および静弾性係数との関係をニューラルネットワークにより学習し、その学習結果を用いて、圧縮強度および静弾性係数を予測する手法を構築した。
(2.1) 学習条件
ニューラルネットワークは図7に示す階層型ネットワークとし、学習方法はバックプロパゲーション法にて行った。入力項目は図7に示す9 因子とし、学習する出力項目は圧縮強度および静弾性係数とした。しかし、円柱コア供試体(コア長30、60、90cm)の実験データ中には、超音波測定毎の圧縮強度および静弾性係数データはない。そこで、円柱コア供試体(コア長25cm)における圧縮強度および静弾性係数と膨張率との関係(図6)から図8に示す回帰式を求め、超音波測定毎の膨張率から換算した圧縮強度および静弾性係数を出力項目の教師値とした。
【0050】
その他主な条件を以下に示し、また、出力ユニットは1 ユニットとし、圧縮強度および静弾性係数を分けて学習させた。
【0051】
・入力データ数:314 データ
・出力関数 :シグモイド関数(勾配条件となる係数:1.0)
・学習率 :0.05
・学習回数 :2000 回
(2.2)学習結果
ニューラルネットワークによる学習結果状況を図9、図10に示す。図9(a)、図10(a)は教師値とした圧縮強度および静弾性係数(実験データにおける膨張率からの換算値)と学習によって入力データ(9 因子)から算出した値とを比較したものである。
【0052】
図9(b)、図10(b)は教師値と学習結果値から次式(1)に示した学習誤差を求め、その学習誤差分布状況を示したものである。
【0053】
(Pc−Pe ) / Pe × 100 … 式(1)
ここで、Pc は学習結果値、Pe は教師値である。
[(3)実構造物に対する超音波測定による予測手法の検証]
(3.1)実構造物の測定
構築した予測手法について現段階での妥当性を確認するために、以下の実構造物3 箇所(A〜C構造物)の測定を行った。超音波測定は、電磁波レーダを使って鉄筋位置を確認し、無筋部を透過法により、コンクリート構造物表面の塗装や仕上げモルタル等は撤去し、超音波センサが直接コンクリートに接するようにした。測定後、測定箇所からコア採取(φ10cm)を行い、圧縮強度および静弾性係数等を確認した。
【0054】
(A 構造物):ASR が生じている機械設備基礎:材齢30 年、鉄筋コンクリート構造、透過距離は20〜250cm
(B 構造物):ASR は生じていないが供用期間の長い解体直前の建築物:材齢50 年、鉄筋コンクリート構造、透過距離は25〜60cm
(C 構造物):ASR による劣化は見られない機械設備基礎:材齢35 年、鉄筋コンクリート構造、透過距離は17〜202cm
(3.2)予測結果について
図11に超音波測定結果から予測手法により算出した圧縮強度予測値と採取したコアの圧縮強度試験値を比較した結果を示す。
【0055】
ASR が生じているA 構造物の予測結果は、概ね実測値を捉えている。また、予測結果の誤差が大きい測定箇所の原因としては、透過距離が1m 以上であり、学習した最大透過距離(コア長90cm)を超えていること、またC 構造物はASRが生じていないこと等が考えられる。
【0056】
図12に静弾性係数について比較した結果を示す。
【0057】
静弾性係数は予測結果が実測値に対して低めとなっている。先の図6に示すように、ASRによる膨張に従い、静弾性係数は圧縮強度より大きく低下している。予測手法はこの傾向を学習しているため、ASR を生じていないコンクリート構造物に対しては、実際の静弾性係数より低めに予測したことが原因と考えられる。
【0058】
その他予測誤差の原因としては、予測手法構築のための基礎データとした円柱コア供試体に対して、実構造物の形状差、コンクリート配合、含水状態の違い等による伝播特性への影響、さらには基礎データとした教師値が膨張率を介していること等もあることが予想される。しかしながら圧縮強度、静弾性係数ともに、供試体実験より蓄積したデータから、まったく別の実構造物を予測したことからすれば、構築した予測手法の有用性は高いことが確認できた。
[(4)まとめ]
以上ASR が生じたコンクリート構造物を評価するために、超音波法によりコンクリート物性を予測する手法を検討し、本実施例により得られる結果を要約すると次のとおりである。
【0059】
(1)透過法による超音波測定から得られる各種伝播特性はASR による膨張を敏感に捉えており、膨張率と圧縮強度および静弾性係数との関係から、超音波法により圧縮強度および静弾性係数を直接評価できることが理解された。
【0060】
(2)透過距離は、受振波振幅等で示される超音波の伝播エネルギー量や周波数成分など超音波伝播特性に大きく影響する。
【0061】
(3)円柱コア供試体による実験結果をニューラルネットワークにより学習し、各種超音波伝播特性から圧縮強度および静弾性係数を予測する手法は、実構造物による検証の結果、静弾性係数は過小評価する傾向にあるが、ASR が生じたコンクリート構造物に対しては、本予測手法の有用性は高い。
【実施例2】
【0062】
実施例1で詳細に述べた円柱コア供試体による実験結果から蓄積した諸データを基礎データとし、圧縮強度および静弾性係数との関係を図7に示す階層構造に準じた中間層を4ユニットとした階層型ニューラルネットワーク(例えば、図1)により学習させ、その学習結果を用いて、実施例1と同一の予測対象に対して圧縮強度および静弾性係数をそれぞれ1ユニットとして予測させた。
【0063】
また、ニューラルネットワーク解析において、現段階では一般的な解析方法であるバックプロパゲーション法にて計算し、誤差計算における結合荷重(重み係数)の変化量として、学習は0.05とした。
【0064】
中間層及び出力層において計算されたネット値(しきい値)を出力する際の出力計算には、シグモイド関数(温度T=0)を用い、学習は2000回とした。
【0065】
諸データとして透過距離、印加電圧、伝播速度のみの3指標により予測した結果を図11(a)、(b)に、透過距離、印加電圧、伝播速度に加えて最大振幅、平均周波数の5指標を用いて予測した結果を図12(a)、(b)に、透過距離、印加電圧、伝播速度、総エネルギー、平均周波数の5指標を用いて予測した結果を図13(a)、(b)に、伝播速度、最大振幅、平均周波数の3指標を用いて予測した結果を図14(a)、(b)に示した。なお、これらの図中にプロットした実構造物データは,アルカリ骨材反応が生じた構造物のみ示している。
【0066】
以上の検討より,図11と図12(又は図13)との対比より、伝播速度だけで予測するよりも受振波エネルギー指標(最大振幅や総エネルギーなど)と周波数特性(平均周波数など)を考慮することによって予測精度が向上することが理解される。
【0067】
また、図12と図14との対比より、様々な大きさのコンクリート構造物を同時に測定するためには,透過距離や印加電圧を考慮する必要があることが理解される。
【0068】
また、図11と図12との対比より、最大振幅に代えて総エネルギーを用いても、本発明に係る5指標により予測すれば、予測精度の向上が図れることが理解される。
【0069】
よって,透過距離,印加電圧,伝播速度,受振波エネルギー指標(最大振幅,受振波総エネルギーなど),周波数特性(ピーク周波数,平均周波数など)の5指標を考慮することによって,任意のコンクリート構造物に対して圧縮強度や静弾性係数を予測できることが理解される。
【0070】
以上の結果より、コンクリート構造物の圧縮強度および静弾性係数を予測するために、以下に示す(a〜d)の予測手法がよいことが確認された。
【0071】
(a)コンクリート構造物の超音波測定
予測すべきコンクリート物性やコンクリートの劣化状況が判っているコンクリート構造物又は予測すべきコンクリート物性の測定又はコンクリート構造物の劣化状況の把握が可能な供試体であって透過距離の異なる2種以上のコンクリート構造体又はコンクリート供試体に対して透過法による超音波測定を行う。
【0072】
(b) 超音波伝播特性の把握
ステップ(a)で測定された超音波の受振波形と周波数特性から、超音波伝播速度を表す速度指標(1)、受振波の最大振幅、第一波の振幅、ピーク強度及び受振波総エネルギーから選択された1種又は2種以上の受振波エネルギー特性指標(2)、及びピーク周波数及び平均周波数から選択された1種以上の周波数特性指標(3)を求め、以上3指標を超音波伝播特性とする。
【0073】
(c) 複数の特性を同時に考慮した解析
測定条件(印加電圧、透過距離)、超音波伝播特性(3指標)を入力条件として予測すべきコンクリート物性やコンクリートの劣化状態を教師値とするニューラルネットワークによる解析を行う。
【0074】
(d) コンクリート物性又は劣化状況の予測
ニューラルネットワークの解析(学習結果)より得られた結合荷重(重み係数)、しきい値を用いて階層構造(例えば、図7)を通した認識計算を行い、圧縮強度、静弾性係数などのコンクリート物性又はコンクリートの劣化状況の予測をする。
【0075】
また、このような予測手法の予測精度を向上させるためには、学習した基礎データの範囲内で予想することが好ましい。この点、教師値を与える供試体としての円柱コアの長さは、測定すべき既設のコンクリート構造物の厚みが厚い場合にはコア長の長い円柱コア教師体により教師値を作成するのが望ましい。
【0076】
また、このような予測手法の予測精度を向上させるためには、教師値を与える供試体としての円柱コアと実構造物における各種伝播特性の違いを考慮した予測手法における入力データ項目の取捨選択などを検討するのがよいことが示唆される。
【0077】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0078】
例えば、以上の実施例では、教師値として圧縮強度及び静弾性係数を用いたが、例えば、アルカリ骨材反応の劣化状態を教師値とすることもできる。
【0079】
また、以上の実施例では、超音波測定は受振センサでコンクリートを挟むという透過法を用いているが、透過法の測定が困難な場合など、受振状態が良好であれば、例えば、反射法により超音波測定を行っても全く同様に本発明の作用効果が得られるであろうことは容易に推定される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明に係る階層型ネットワーク構造を説明する図である。
【図2】図2(a)は受振波より評価する指標を説明する図であり、図2(b)は 周波数スペクトルより評価する指標を説明する図である。
【図3】図3(a)〜(d)は、円柱コア供試体(コア長30cm)における膨張率と各超音波伝播特性との関係を示す図である。
【図4】図4(a)、(b)は、印加電圧が30Vのときの最大振幅比とコア長(透過距離)の関係を示す図である。
【図5】図5(a)、(b)は、印加電圧が30Vのときの平均周波数とコア長(透過距離)の関係を示す図である。
【図6】図6(a)、(b)は、コア長が25cmのときの圧縮強度及び静弾性係数と膨張率との関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施例に係る階層型ネットワーク構造を説明する図である。
【図8】図8は、圧縮強度及び静弾性係数と膨張率との関係を示す図である。
【図9】図9(a)、(b)は、圧縮強度の学習結果状況を示す図である。
【図10】図10(a)、(b)は、静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【図11】図11は、圧縮強度の予測結果を検証する図である。
【図12】図12は、静弾性係数の予測結果を検証する図である。
【図13】図13(a)、(b)は、それぞれ圧縮強度及び静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【図14】図14(a)、(b)は、それぞれ圧縮強度及び静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【図15】図15(a)、(b)は、それぞれ圧縮強度及び静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【図16】図16(a)、(b)は、それぞれ圧縮強度及び静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存のコンクリート構造物の品質を非破壊試験により評価するコンクリートの品質評価方法及び品質評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊試験である超音波法をコンクリート構造物に対して用いる主な目的は、(1)コンクリート構造物内部の欠陥(ひび割れ、空洞など)を探すこと、(2)コンクリート構造物の圧縮強度や劣化状態を推定することにあるが、既設のコンクリート構造物を維持・管理する立場において、コンクリート構造物の圧縮強度を非破壊試験により推定する技術が近年重要視されるようになった。これは、既設のコンクリート構造物の維持管理を目的として、コンクリート構造物の圧縮強度を適切に評価することにより、コンクリート構造物の健全性を適切に評価しようとする期待である。
【0003】
このような状況下で、超音波法によるコンクリート構造物の品質を非破壊試験により評価する手法としては、例えば、コンクリート中を伝播する超音波の伝播速度が圧縮強度と相関性があるとの知見から、コンクリートの圧縮強度を超音波伝播速度から推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、社団法人日本建材産業協会では、「超音波によるコンクリートの圧縮強度試験方法」の規格において、受振波形の減衰傾向(後方錯乱波減衰係数)や周波数特性(伝達関数積分値)からコンクリート内の骨材の影響を考慮し、超音波伝播速度を補正することにより圧縮強度の推定精度を向上させる方法を提案している。
【0005】
また、超音波法によりコンクリートの圧縮強度を推定する方法として,受振した超音波パルスの縦波振幅,縦波音速,縦波受振周波数,横波振幅,横波音速,横波受振周波数を求め,これら6種類の超音波情報に基づいて圧縮強度を推定する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
一方、コンクリート構造物の健全性は圧縮強度のみならず、アルカリ骨材反応による劣化状況の把握や、圧縮強度を補完してコンクリート構造物の健全性を評価する尺度としての静弾性係数がある。
【0007】
材質劣化を模擬するためにアルカリ骨材反応による劣化を起こしたコンクリートコアを対象に、広帯域の周波数分布特性をもった弾性波法の有効性が検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0008】
また、縦波と横波の音速比を求めることによりコンクリート構造物の圧縮強度、アルカリ骨材反応の進行度、弾性定数又はポアソン比が推定できると提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
また、近年、あらかじめ非均質材料の試験サンプルの超音波測定を行い、測定によって得られる振幅、音速又は周波数のうち複数のパラメータを選び出し、これらのパラメータ及び/又はパラメータを演算処理した値を入力データとし、同じサンプルの物理的性質の測定結果を教師データとし、これらの入力データと教師データとを使って階層型ニューラルネットワークで学習を行うことで実験式を作成し、この実験式に検査対象となる非均質材料の超音波測定結果を入力して物理的性質を推定する非均質材料の物性検査方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0010】
一方、静弾性係数は、コンクリート構造物の健全性を評価するための必要なパラメータの一つであると考えられるが、超音波の伝播特性との相関が十分に検討されていないためか、超音波法により静弾性係数を推定する方法はほとんど検討されていない。
【特許文献1】特開2001−116731号公報
【特許文献2】特開平03−13859号公報(特許2740872号)
【特許文献3】特開2005−315622号公報
【特許文献4】特開2004−170099号公報
【非特許文献1】社団法人土木学会出版コンクリート技術シリーズ61、土木学会コンクリート委員会弾性波法の非破壊検査研究小委員会編「弾性波法によるコンクリートの非破壊検査に関する委員会報告およびシンポジウム論文集」、2004年8月出版、p281−288。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
超音波伝播速度はコンクリートが複合材料である影響を大きく受け、その結果、圧縮強度の推定精度はまだ低い。また、上述の社団法人日本建材産業協会が提案する規格は測定や解析方法が特殊であり実用に供されていない。
【0012】
超音波法による材料の品質を評価する手法は、特に配管肉厚部分の探傷を目的とする金属材料に対しては高精度で評価する技術が確立されているが、本発明者らの認識によれば、コンクリート構造物に対しては十分に正確に評価できる技術が確立されていないのが現状である。これは、コンクリート材料が主にセメントと骨材とからなる複合物であること、また、コンクリート構造物には微細な空洞が生じていること、配管肉厚に対してコンクリート構造物は評価対象の厚みが厚いので超音波減衰が大きくなることなどに起因していると考えられる。
【0013】
したがってコンクリート構造物の物理的特性や劣化状態と超音波伝播特性との関係は、多くの研究者により研究は進められているが、それらの関係を統合して予測する手法は確立されていない。既設のコンクリート構造物の長寿命化を考慮すれば、コンクリート構造物の健全性を非破壊により確度高く定量できる評価法が切望される。
【0014】
そこで、本発明の目的は、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、コンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を確度の高い定量的評価が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供するにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、圧縮強度と同様に重要な指標である静弾性係数の定量が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供するにある。
【0016】
また、本発明のさらなる目的は、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、既設コンクリート構造物の健全性を示す尺度である圧縮強度と静弾性係数との両指標を同時に定量できるコンクリート構造物の品質評価方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
超音波測定は、非破壊試験によりコンクリート構造物の物理的特性を推定する手法として優れている。また、超音波測定によれば、超音波の伝播速度に限らず受振した波形と周波数特性から、受振波の最大振幅、受振波第一波の振幅、ピーク強度、ピーク周波数、平均周波数などの様々な指標が抽出可能であり、また、抽出された各指標がコンクリート構造物の物理的特性と相関関係を有することが確認されているので、コンクリート構造物の物理的特性を推定する際にこれらの指標の全てを利用することが重要であると思われた。
【0018】
また、本発明者らによる解析(非特許文献1参照。)では、膨張率の変化に対する感度は、超音波伝播速度よりも最大振幅比及び第一波振幅比、ピーク強度比及び総エネルギー比、ピーク周波数、平均周波数などの他の指標の方が感度が高い場合があると報告されている。
【0019】
しかしながら、本発明者らの詳細な解析によれば、測定対象となるコンクリート構造物においては、構造物の厚さは一定ではなく超音波測定の際の透過距離は測定対象に対しては常に異なっていることが判明した。例えば、超音波伝播速度はコンクリートの厚み(透過距離)による影響が少ないのに対して受振波エネルギー指標(最大振幅など)は、物理的特性が同一のコンクリートでも透過距離が長いほど超音波が減衰し小さくなる。また,長い透過距離や劣化したコンクリートを測定する場合は,超音波振動子(又は発振子)に対する印加電圧を上げることによって発振エネルギーを増し,受振波を明確にすることが一般的に行われるが,この印加電圧によっても当然受振波エネルギー指標は違ってくる。
【0020】
それ故、コンクリート構造物の物理的特性に対して相関関係があるからといって、例えば、特許文献4に記載のとおり、一律の実験式を導き出す手法によってコンクリート構造物の物理的特性を推定するのは、特許文献4に記載の発明において具体的に開示されるような耐火物等の厚みが一定の画一された材料に対する推定は行えても、厚みがそれぞれの検査対象により異なるコンクリート構造物に対しては適切ではないと思料された。
【0021】
そこで、本発明者らは、超音波測定時の測定時条件である超音波伝播距離及び印加電圧の値を変化させて物理的特性としての教師値との関係を学習させれば、厚みが異なるコンクリート構造物の物理的特性を適切に評価できるのではないかと考えた。
【0022】
さらに、本発明者らはこの観点から既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、コンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を定量的に確度高く推定する手法について研究したところ、これらの指標を受振した波形と周波数特性から超音波伝播速度を表す速度指標、受振波のエネルギー特性を表す受振波エネルギー特性指標及び受振波の周波数特性を表す周波数特性指標に分類し、それらの分類された指標に複数の指標がある場合には、その複数の指標の少なくともひとつを利用することにより分類された全ての指標を利用するのがよいことを見いだした。
【0023】
また、本発明者らは、学習に供される入力データとして、異なる超音波伝播距離及び超音波を発振させるための振動子(又は発振子)に対する印加電圧の値を含めてこれらの分類された指標の全てを指標として利用することにより、従来にも増してコンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を定量的に確度高く推定することができることを見いだした。
【0024】
すなわち本発明は、コンクリートの品質である物理的特性が既知であって互いに透過距離の異なる2個以上のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して印加電圧を変えて印加することにより発生した超音波を伝播させ、受振した波形と周波数特性から超音波伝播速度を表す速度指標、受振波のエネルギー特性を表す受振波エネルギー特性指標及び受振波の周波数特性を表す周波数特性指標を求め、該超音波測定時の測定時条件である超音波伝播距離及び印加電圧の値及び前記測定データを入力データとし、前記コンクリート構造物又はコンクリート供試体の物理的特性を教師値とし、これらの入力データと教師値とをニューラルネットワークにより学習させて前記教師値と入力データとの相関関係を学習させ、コンクリートの品質である前記物理的特性が未知のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して超音波測定を行い、該測定結果及び前記学習結果よりコンクリートの品質である前記物理的特性を予測評価することを特徴とするコンクリート構造物の品質を非破壊試験により評価するコンクリートの品質評価方法である。
【0025】
本発明において、前記受振波エネルギー特性指標は、受振波の最大振幅、受振波第一波の振幅、ピーク強度及び受振波総エネルギーから選択された1種又は2種以上の指標が例示され、前記周波数特性指標は、ピーク周波数及び平均周波数から選択された1種以上の指標が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0026】
また、本発明において前記物理的特性としては、圧縮強度、静弾性係数、膨張率で代用できるアルカリ骨材反応を生じたコンクリートの膨張劣化状態などが例示されるがこれに限定されない。
【0027】
圧縮強度の評価はすでに一部が実用に供されているが、本発明者らの手法を採用することにより一層の推定精度の向上が図れる。
【0028】
また、静弾性係数の推定は一般的に行われていないが、本発明によれば、圧縮強度の推定と同時に静弾性係数も推定できる。静弾性係数は、圧縮強度と同様にコンクリート構造物の健全性を評価する指標として重要な指標であり、本発明においては、これらの圧縮強度及び静弾性係数が同時に推定できるという実用的に有用な作用効果を奏する。
【0029】
さらに、本発明においては、アルカリ骨材反応を生じたコンクリートの膨張劣化状態も、例えば、膨張率という指標により評価することができる。
【0030】
本発明においては、これらの圧縮強度、静弾性係数、膨張率などの物理的指標は同時に推定可能であるが、本発明においては、圧縮強度、静弾性係数又は膨張率の一つの指標ないしは二つの指標のみを推定する品質評価法としても利用できる。
【0031】
膨張率のみならず、その他の物理的指標を総合的に評価することによりアルカリ骨材反応を生じたコンクリートの膨張劣化状態を把握することもできる。
【0032】
また、本発明によれば、透過距離がそれぞれの検査対象に対して異なる既設のコンクリート構造物に対する評価に限定されずに、透過距離が一定のコンクリート構造物又はコンクリート供試体などの不均質材料へも応用が可能であることは容易に理解される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、コンクリート構造物の物理的特性や劣化状態を確度の高い定量的評価が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供することができる。
【0034】
また、本発明によれば、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、圧縮強度と同様に重要な指標である静弾性係数の定量が行えるコンクリート構造物の品質評価方法を提供することができる。
【0035】
また、本発明によれば、既設のコンクリート構造物に対して超音波測定を行うことによって、既設のコンクリート構造物の健全性を示す尺度である圧縮強度と静弾性係数との両指標を同時に定量できるコンクリート構造物の品質評価方法を提供することができる。
【0036】
これにより、本発明に従えば、既設のコンクリート構造物の健全性を適切に評価することにより既設のコンクリート構造物の寿命を延長させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例に従い本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
本発明者らは、非特許文献1においてすでにアルカリ骨材反応(以下、「ASR」という)によるコンクリート膨張劣化に関して、透過法による超音波測定から得られる受振波形や周波数特性等の超音波伝播特性が透過距離一定(25cm)の場合には、コンクリート構造物の物理的特性を評価する有効な指標となる可能性が高いことを確認している。
【0039】
そこでこの実施例では、超音波法によりコンクリート構造物の物理的特性(物性)を評価する手法の開発を目的として、以下に示すように予測手法の構築およびその有用性について検討した。
【0040】
(1)超音波透過距離の影響を考慮した供試体実験による超音波伝播特性の把握
(2)実験結果を基礎データとしたコンクリート物性予測手法の構築(実験結果を基礎データとして、透過法による超音波測定からコンクリートの圧縮強度および静弾性係数を予測する手法の構築)
(3)実構造物に対する超音波測定による予測手法の検証
[(1)超音波透過距離の影響を考慮した供試体実験による超音波伝播特性の把握]
ASR によるコンクリート膨張劣化に対する超音波伝播特性、圧縮強度および静弾性係数を把握するための実験を行った。また、本実施例では、超音波透過距離が一定とはならない実構造物への測定を想定して、コア長の異なる供試体を用いることにより透過距離の違いも考慮した。ここで、圧縮強度はJIS A 1108(1999)により、また静弾性係数はJIS A 1149(2001)により測定した。
(1.1) 膨張率の異なるコンクリート構造物(供試体)の製作
供試体は予め大型コンクリート供試体(縦60×横90×厚さ50cm)を製作し、材齢1 年4 ヶ月でコア抜き(φ10cm×コア長30、60、90cm、以下、円柱コア供試体(コア長60cm)「円柱コア供試体」という)した。使用したコンクリート配合を表1に示すが、粗骨材には骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法:JIS A 1145(2001))で「無害でない」と判定された反応性骨材(安山岩と流紋岩の混合)を使用し、練混ぜ水に塩化ナトリウムと水酸化カリウムを添加した。また、得られた供試体の材齢28日の初期物性値等を表2 に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
つぎに、円柱コア供試体に評点距離20cm間隔にリングを取り付け、デンマーク法を参考に、飽和塩化ナトリウム水溶液の入った容器に浸漬し、46℃の恒温槽内で促進養生させて供試体にASRによる劣化を生起させ供試体を膨張させた。
(1.2 )測定項目および測定方法
促進養生中、定期的にコンタクトゲージ法による長さ測定(JIS A 1129-2(2001))を行い、コア採取直後からの長さ変化量より膨張率を算出した。長さ測定と同時に透過法による超音波測定(1.3に詳述)を行った。また、大型コンクリート供試体から別途、円柱コア(φ10cm×コア長25cm×8 本)を採取し、順次所定の膨張率において両端を切断し長さ20cm に整形した後、圧縮強度試験(JIS A 1108(1999))および静弾性係数試験(JIS A 1149(2001))を行った。
(1.3 )超音波測定方法および伝播特性の指標
超音波測定は、円柱コア供試体の長さ方向に超音波を伝播させる透過法とした。表3に測定器仕様を示す。なお、印加電圧は30、150、350、500Vの4種類で測定し、受振増幅度は29〜60dB間の任意で測定したデータを測定後に全て60dB相当に換算した。
【0043】
【表3】
超音波伝播特性として評価する指標項目を図1、図2に示す。受振波からは超音波伝播速度、最大振幅および第一波振幅、また受振波をフーリエ変換した周波数スペクトルからは、スペクトル強度の最大値(ピーク強度と称する)およびその周波数(ピーク周波数と称する)、また0〜2500kHz 範囲の周波数スペクトル線と横軸(スペクトル強度0)とで囲まれた部分の面積(受振波総エネルギーと称する)、そして受振波総エネルギーの50%相当にあたる周波数(平均周波数と称する)の7項目とした。
(1.4 )測定結果例および伝播特性の考察
円柱コア供試体(コア長30cm)における膨張率と各超音波伝播特性との関係を図3に示す。なお、最大振幅、第一波振幅、ピーク強度および受振波総エネルギーは、各々において、膨張率が0.0%時の値との比として整理した。
【0044】
いずれの指標も膨張率の増加に伴い減少しているが、特に超音波伝播速度以外の各指標は膨張率の初期変化を敏感に捉えている。これらの傾向はコア長60、90cm 供試体においても同様であった。仮に実構造物の測定においては、コンクリート品質が健全な状態から膨張初期段階までの適切な評価が構造物早期診断として特に重要であると考えられるため、これら各超音波伝播特性による評価は有益と思われる。
【0045】
この点、特許文献3の特開2005−315622号公報には、アルカリ骨材反応による劣化状態を超音波法により測定する方法として、超音波測定により得られる音速(超音波伝播速度)から求めた比を指標とした検査方法が開示されている。この点、本発明者らによる研究に係る図3(a)により、アルカリ骨材反応による劣化状態は超音波測定により得られる音速より把握することは可能であるが、本発明者らの図3(b)〜(d)に示す結果によれば、その他の指標が,超音波伝播速度よりも膨張率の変化に対してより感度が高いことが確認された。
【0046】
ここで、本発明者らの判断によれば、アルカリ骨材反応によるコンクリート内部ひび割れ発生時期を膨張率0.1%程度と判断しており,0.1%以下の膨張率に対して感度の高い受振波振幅や周波数特性を指標とすることは,コンクリート構造物の早期劣化診断を目的とした場合,非常に有効であると考えられた。
【0047】
そこで、次に透過距離の影響を図4に最大振幅比、図5に平均周波数に関して比較検討した。図4(b)、図5(b)は各々図4(a)、図5(a) から膨張率0.0%と0.1%程度のときを表示したものである。
【0048】
なお、最大振幅はコア長30cm、膨張率0.0%での値との比として整理し、コア長60、90cm 供試体の膨張率は、各リング間の内で最大値とした。コア長(透過距離)が長くなるに従い、図4(b)に示した最大振幅比の減衰から超音波の伝播エネルギー量が大きく減少し、図5(b)に示した平均周波数から、伝播する高周波成分も減少していることがわかる。他の伝播特性も同傾向であり、透過距離は伝播特性に大きな影響を与えている。
(1.5 )コンクリート強度特性と膨張率
図6に円柱コア供試体(コア長25cm)の圧縮強度および静弾性係数と膨張率を比較した。膨張に伴い圧縮強度および静弾性係数が低下している。圧縮強度および静弾性係数と膨張率を本実験結果のみから関係づけることは尚早ではあるが、本実験結果からは、各超音波伝播特性と膨張率の関係、さらに膨張率と圧縮強度および静弾性係数との関係から、超音波測定により圧縮強度および静弾性係数を直接予測できる可能性が高いことがわかった。
[(2)実験結果を基礎データとしたコンクリート物性予測手法の構築]
超音波法により圧縮強度および静弾性係数等のコンクリート物性を予測するためには測定条件や各超音波伝播特性を総合的に判断する必要がある。相互に関連する複数の測定条件や各伝播特性を同時に考慮したコンクリート物性を予測する手法の構築にあたっては、非線形回帰手法であるニューラルネットワークを用いることとした。
【0049】
本発明では、円柱コア供試体による実験結果から蓄積した諸データを基礎データとし、測定条件や各伝播特性と圧縮強度および静弾性係数との関係をニューラルネットワークにより学習し、その学習結果を用いて、圧縮強度および静弾性係数を予測する手法を構築した。
(2.1) 学習条件
ニューラルネットワークは図7に示す階層型ネットワークとし、学習方法はバックプロパゲーション法にて行った。入力項目は図7に示す9 因子とし、学習する出力項目は圧縮強度および静弾性係数とした。しかし、円柱コア供試体(コア長30、60、90cm)の実験データ中には、超音波測定毎の圧縮強度および静弾性係数データはない。そこで、円柱コア供試体(コア長25cm)における圧縮強度および静弾性係数と膨張率との関係(図6)から図8に示す回帰式を求め、超音波測定毎の膨張率から換算した圧縮強度および静弾性係数を出力項目の教師値とした。
【0050】
その他主な条件を以下に示し、また、出力ユニットは1 ユニットとし、圧縮強度および静弾性係数を分けて学習させた。
【0051】
・入力データ数:314 データ
・出力関数 :シグモイド関数(勾配条件となる係数:1.0)
・学習率 :0.05
・学習回数 :2000 回
(2.2)学習結果
ニューラルネットワークによる学習結果状況を図9、図10に示す。図9(a)、図10(a)は教師値とした圧縮強度および静弾性係数(実験データにおける膨張率からの換算値)と学習によって入力データ(9 因子)から算出した値とを比較したものである。
【0052】
図9(b)、図10(b)は教師値と学習結果値から次式(1)に示した学習誤差を求め、その学習誤差分布状況を示したものである。
【0053】
(Pc−Pe ) / Pe × 100 … 式(1)
ここで、Pc は学習結果値、Pe は教師値である。
[(3)実構造物に対する超音波測定による予測手法の検証]
(3.1)実構造物の測定
構築した予測手法について現段階での妥当性を確認するために、以下の実構造物3 箇所(A〜C構造物)の測定を行った。超音波測定は、電磁波レーダを使って鉄筋位置を確認し、無筋部を透過法により、コンクリート構造物表面の塗装や仕上げモルタル等は撤去し、超音波センサが直接コンクリートに接するようにした。測定後、測定箇所からコア採取(φ10cm)を行い、圧縮強度および静弾性係数等を確認した。
【0054】
(A 構造物):ASR が生じている機械設備基礎:材齢30 年、鉄筋コンクリート構造、透過距離は20〜250cm
(B 構造物):ASR は生じていないが供用期間の長い解体直前の建築物:材齢50 年、鉄筋コンクリート構造、透過距離は25〜60cm
(C 構造物):ASR による劣化は見られない機械設備基礎:材齢35 年、鉄筋コンクリート構造、透過距離は17〜202cm
(3.2)予測結果について
図11に超音波測定結果から予測手法により算出した圧縮強度予測値と採取したコアの圧縮強度試験値を比較した結果を示す。
【0055】
ASR が生じているA 構造物の予測結果は、概ね実測値を捉えている。また、予測結果の誤差が大きい測定箇所の原因としては、透過距離が1m 以上であり、学習した最大透過距離(コア長90cm)を超えていること、またC 構造物はASRが生じていないこと等が考えられる。
【0056】
図12に静弾性係数について比較した結果を示す。
【0057】
静弾性係数は予測結果が実測値に対して低めとなっている。先の図6に示すように、ASRによる膨張に従い、静弾性係数は圧縮強度より大きく低下している。予測手法はこの傾向を学習しているため、ASR を生じていないコンクリート構造物に対しては、実際の静弾性係数より低めに予測したことが原因と考えられる。
【0058】
その他予測誤差の原因としては、予測手法構築のための基礎データとした円柱コア供試体に対して、実構造物の形状差、コンクリート配合、含水状態の違い等による伝播特性への影響、さらには基礎データとした教師値が膨張率を介していること等もあることが予想される。しかしながら圧縮強度、静弾性係数ともに、供試体実験より蓄積したデータから、まったく別の実構造物を予測したことからすれば、構築した予測手法の有用性は高いことが確認できた。
[(4)まとめ]
以上ASR が生じたコンクリート構造物を評価するために、超音波法によりコンクリート物性を予測する手法を検討し、本実施例により得られる結果を要約すると次のとおりである。
【0059】
(1)透過法による超音波測定から得られる各種伝播特性はASR による膨張を敏感に捉えており、膨張率と圧縮強度および静弾性係数との関係から、超音波法により圧縮強度および静弾性係数を直接評価できることが理解された。
【0060】
(2)透過距離は、受振波振幅等で示される超音波の伝播エネルギー量や周波数成分など超音波伝播特性に大きく影響する。
【0061】
(3)円柱コア供試体による実験結果をニューラルネットワークにより学習し、各種超音波伝播特性から圧縮強度および静弾性係数を予測する手法は、実構造物による検証の結果、静弾性係数は過小評価する傾向にあるが、ASR が生じたコンクリート構造物に対しては、本予測手法の有用性は高い。
【実施例2】
【0062】
実施例1で詳細に述べた円柱コア供試体による実験結果から蓄積した諸データを基礎データとし、圧縮強度および静弾性係数との関係を図7に示す階層構造に準じた中間層を4ユニットとした階層型ニューラルネットワーク(例えば、図1)により学習させ、その学習結果を用いて、実施例1と同一の予測対象に対して圧縮強度および静弾性係数をそれぞれ1ユニットとして予測させた。
【0063】
また、ニューラルネットワーク解析において、現段階では一般的な解析方法であるバックプロパゲーション法にて計算し、誤差計算における結合荷重(重み係数)の変化量として、学習は0.05とした。
【0064】
中間層及び出力層において計算されたネット値(しきい値)を出力する際の出力計算には、シグモイド関数(温度T=0)を用い、学習は2000回とした。
【0065】
諸データとして透過距離、印加電圧、伝播速度のみの3指標により予測した結果を図11(a)、(b)に、透過距離、印加電圧、伝播速度に加えて最大振幅、平均周波数の5指標を用いて予測した結果を図12(a)、(b)に、透過距離、印加電圧、伝播速度、総エネルギー、平均周波数の5指標を用いて予測した結果を図13(a)、(b)に、伝播速度、最大振幅、平均周波数の3指標を用いて予測した結果を図14(a)、(b)に示した。なお、これらの図中にプロットした実構造物データは,アルカリ骨材反応が生じた構造物のみ示している。
【0066】
以上の検討より,図11と図12(又は図13)との対比より、伝播速度だけで予測するよりも受振波エネルギー指標(最大振幅や総エネルギーなど)と周波数特性(平均周波数など)を考慮することによって予測精度が向上することが理解される。
【0067】
また、図12と図14との対比より、様々な大きさのコンクリート構造物を同時に測定するためには,透過距離や印加電圧を考慮する必要があることが理解される。
【0068】
また、図11と図12との対比より、最大振幅に代えて総エネルギーを用いても、本発明に係る5指標により予測すれば、予測精度の向上が図れることが理解される。
【0069】
よって,透過距離,印加電圧,伝播速度,受振波エネルギー指標(最大振幅,受振波総エネルギーなど),周波数特性(ピーク周波数,平均周波数など)の5指標を考慮することによって,任意のコンクリート構造物に対して圧縮強度や静弾性係数を予測できることが理解される。
【0070】
以上の結果より、コンクリート構造物の圧縮強度および静弾性係数を予測するために、以下に示す(a〜d)の予測手法がよいことが確認された。
【0071】
(a)コンクリート構造物の超音波測定
予測すべきコンクリート物性やコンクリートの劣化状況が判っているコンクリート構造物又は予測すべきコンクリート物性の測定又はコンクリート構造物の劣化状況の把握が可能な供試体であって透過距離の異なる2種以上のコンクリート構造体又はコンクリート供試体に対して透過法による超音波測定を行う。
【0072】
(b) 超音波伝播特性の把握
ステップ(a)で測定された超音波の受振波形と周波数特性から、超音波伝播速度を表す速度指標(1)、受振波の最大振幅、第一波の振幅、ピーク強度及び受振波総エネルギーから選択された1種又は2種以上の受振波エネルギー特性指標(2)、及びピーク周波数及び平均周波数から選択された1種以上の周波数特性指標(3)を求め、以上3指標を超音波伝播特性とする。
【0073】
(c) 複数の特性を同時に考慮した解析
測定条件(印加電圧、透過距離)、超音波伝播特性(3指標)を入力条件として予測すべきコンクリート物性やコンクリートの劣化状態を教師値とするニューラルネットワークによる解析を行う。
【0074】
(d) コンクリート物性又は劣化状況の予測
ニューラルネットワークの解析(学習結果)より得られた結合荷重(重み係数)、しきい値を用いて階層構造(例えば、図7)を通した認識計算を行い、圧縮強度、静弾性係数などのコンクリート物性又はコンクリートの劣化状況の予測をする。
【0075】
また、このような予測手法の予測精度を向上させるためには、学習した基礎データの範囲内で予想することが好ましい。この点、教師値を与える供試体としての円柱コアの長さは、測定すべき既設のコンクリート構造物の厚みが厚い場合にはコア長の長い円柱コア教師体により教師値を作成するのが望ましい。
【0076】
また、このような予測手法の予測精度を向上させるためには、教師値を与える供試体としての円柱コアと実構造物における各種伝播特性の違いを考慮した予測手法における入力データ項目の取捨選択などを検討するのがよいことが示唆される。
【0077】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0078】
例えば、以上の実施例では、教師値として圧縮強度及び静弾性係数を用いたが、例えば、アルカリ骨材反応の劣化状態を教師値とすることもできる。
【0079】
また、以上の実施例では、超音波測定は受振センサでコンクリートを挟むという透過法を用いているが、透過法の測定が困難な場合など、受振状態が良好であれば、例えば、反射法により超音波測定を行っても全く同様に本発明の作用効果が得られるであろうことは容易に推定される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明に係る階層型ネットワーク構造を説明する図である。
【図2】図2(a)は受振波より評価する指標を説明する図であり、図2(b)は 周波数スペクトルより評価する指標を説明する図である。
【図3】図3(a)〜(d)は、円柱コア供試体(コア長30cm)における膨張率と各超音波伝播特性との関係を示す図である。
【図4】図4(a)、(b)は、印加電圧が30Vのときの最大振幅比とコア長(透過距離)の関係を示す図である。
【図5】図5(a)、(b)は、印加電圧が30Vのときの平均周波数とコア長(透過距離)の関係を示す図である。
【図6】図6(a)、(b)は、コア長が25cmのときの圧縮強度及び静弾性係数と膨張率との関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施例に係る階層型ネットワーク構造を説明する図である。
【図8】図8は、圧縮強度及び静弾性係数と膨張率との関係を示す図である。
【図9】図9(a)、(b)は、圧縮強度の学習結果状況を示す図である。
【図10】図10(a)、(b)は、静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【図11】図11は、圧縮強度の予測結果を検証する図である。
【図12】図12は、静弾性係数の予測結果を検証する図である。
【図13】図13(a)、(b)は、それぞれ圧縮強度及び静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【図14】図14(a)、(b)は、それぞれ圧縮強度及び静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【図15】図15(a)、(b)は、それぞれ圧縮強度及び静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【図16】図16(a)、(b)は、それぞれ圧縮強度及び静弾性係数の学習結果状況を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの品質である物理的特性が既知であって互いに透過距離の異なる2個以上のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して印加電圧を変えて印加することにより発生した超音波を伝播させ、
受振した波形と周波数特性から超音波伝播速度を表す速度指標、受振波のエネルギー特性を表す受振波エネルギー特性指標及び受振波の周波数特性を表す周波数特性指標を求め、該超音波測定時の測定時条件である超音波伝播距離及び印加電圧の値及び前記測定データを入力データとし、
前記コンクリート構造物又はコンクリート供試体の物理的特性を教師値とし、これらの入力データと教師値とをニューラルネットワークにより学習させて前記教師値と入力データとの相関関係を学習させ、
コンクリートの品質である前記物理的特性が未知のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して超音波測定を行い、該測定結果及び前記学習結果よりコンクリートの品質である前記物理的特性を予測評価することを特徴とするコンクリート構造物の品質を非破壊試験により評価することを特徴とするコンクリートの品質評価方法。
【請求項2】
前記物理的特性は、圧縮強度、静弾性係数又はアルカリ骨材反応を生じたコンクリートの膨張劣化状態の少なくとも一つの特性であることを特徴とする請求項1記載のコンクリートの品質評価方法。
【請求項3】
前記物理的特性は、圧縮強度及び静弾性係数であることを特徴とする請求項1記載のコンクリートの品質評価方法。
【請求項4】
前記受振波エネルギー特性指標は、受振波の最大振幅、受振波第一波の振幅、ピーク強度及び受振波総エネルギーから選択された1種又は2種以上の指標であり、
前記周波数特性指標は、ピーク周波数及び平均周波数から選択された1種以上の指標であることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリートの品質評価方法。
【請求項5】
請求項1に記載のコンクリートの品質評価方法に用いられる装置であって、
物理的特性が未知のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して行われた超音波測定の測定結果が入力された場合に該測定結果及び請求項1に記載の学習結果よりコンクリートの品質である物理的特性を予測評価するプログラミングが入力されたことを特徴とするコンクリートの品質評価装置。
【請求項1】
コンクリートの品質である物理的特性が既知であって互いに透過距離の異なる2個以上のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して印加電圧を変えて印加することにより発生した超音波を伝播させ、
受振した波形と周波数特性から超音波伝播速度を表す速度指標、受振波のエネルギー特性を表す受振波エネルギー特性指標及び受振波の周波数特性を表す周波数特性指標を求め、該超音波測定時の測定時条件である超音波伝播距離及び印加電圧の値及び前記測定データを入力データとし、
前記コンクリート構造物又はコンクリート供試体の物理的特性を教師値とし、これらの入力データと教師値とをニューラルネットワークにより学習させて前記教師値と入力データとの相関関係を学習させ、
コンクリートの品質である前記物理的特性が未知のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して超音波測定を行い、該測定結果及び前記学習結果よりコンクリートの品質である前記物理的特性を予測評価することを特徴とするコンクリート構造物の品質を非破壊試験により評価することを特徴とするコンクリートの品質評価方法。
【請求項2】
前記物理的特性は、圧縮強度、静弾性係数又はアルカリ骨材反応を生じたコンクリートの膨張劣化状態の少なくとも一つの特性であることを特徴とする請求項1記載のコンクリートの品質評価方法。
【請求項3】
前記物理的特性は、圧縮強度及び静弾性係数であることを特徴とする請求項1記載のコンクリートの品質評価方法。
【請求項4】
前記受振波エネルギー特性指標は、受振波の最大振幅、受振波第一波の振幅、ピーク強度及び受振波総エネルギーから選択された1種又は2種以上の指標であり、
前記周波数特性指標は、ピーク周波数及び平均周波数から選択された1種以上の指標であることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリートの品質評価方法。
【請求項5】
請求項1に記載のコンクリートの品質評価方法に用いられる装置であって、
物理的特性が未知のコンクリート構造物又はコンクリート供試体に対して行われた超音波測定の測定結果が入力された場合に該測定結果及び請求項1に記載の学習結果よりコンクリートの品質である物理的特性を予測評価するプログラミングが入力されたことを特徴とするコンクリートの品質評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−333498(P2007−333498A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164251(P2006−164251)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]