説明

コンクリートの打継面処理装置及びシステム

【課題】 重機と併用せずともコンクリート打継面を効率的に処理する。
【解決手段】本発明に係るコンクリートの打継面処理装置1は、コンクリート打継面3を覆うことが可能なケーシング4と、該ケーシングの底部に貫通配置されたジョイント部材5と、該ジョイント部材のケーシング側端部に連結された高圧水噴射ノズル機構6とを備える。高圧水噴射ノズル機構6は、シャフト8の先端から左右2方向に2本のアーム9a,9bを延設するとともに、シャフト8の基端側をジョイント部材5に設けられた軸受7に保持させることで、シャフト8の材軸Aの廻りに全体が回転自在となるように構成してあり、アーム9a,9bにはそれぞれ噴射ノズル10a,10bを設けてある。噴射ノズル10a,10bは、それらの噴射方向が、材軸Aの方向ではなく、その方向に対し、アーム9a,9bの材軸廻りに角度θだけ回転させた方向を向くように構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの打継面、特に鉛直打継面の処理に適したコンクリートの打継面処理装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を構築するにあたっては、コンクリートの打設時期が異なることに起因する境界が打継目として生じるが、かかる打継目の発生自体を回避することは一般的には困難である。
【0003】
そのため、できるだけせん断力の小さな箇所に打継目がくるように施工計画を立てるとともに、施工時においては、打継目がコールドジョイントにならないよう、先行コンクリートの表層部に存在する品質の悪いコンクリートを除去するとともに打継面を粗面にする必要がある。
【0004】
ここで、コンクリートの打継面を処理する方法として、ワイヤブラシによる切削、砂や金属粒体を研磨材としたショットブラスト、工具を用いたチッピング等が知られているが、コンクリート打設を終えてから時間が経過すると、コンクリートの硬化が徐々に進行し、上述した方法によるコンクリート表層部の除去作業が困難になる。加えて、チッピングによる方法では、粉塵や騒音を伴うため、良好な作業環境を確保することが難しく、周辺への影響も懸念される。
【0005】
そのため、グルコン酸ナトリウム等を主成分とする遅延剤を用いてコンクリート表層部の硬化を遅延させる方法が広く採用されている。
【0006】
具体的には、水平打継目の場合、先行コンクリートの打設直後に遅延剤を散布し、下層部分が硬化した適当な時期にコンクリート表面を高圧水で洗浄することにより、鉛直打継目の場合には、型枠を構成する堰板内面に遅延剤を予め塗布しておき、かかる状態でコンクリートを打設した後、適当な時期に型枠を脱型するとともに、露出面を高圧水で洗浄することにより、それぞれ先行コンクリートの表層部を除去するとともに打継面を粗面にする。
【0007】
かかる方法によれば、遅延剤による作業時間の確保と高圧水噴射による作業の容易化とが相俟って、打継面が広い場合であっても、効率よく処理することが可能になる。
【0008】
一方、高圧水噴射によってコンクリート斫りを行ったり、レイタンス処理を行うことが可能な各種装置がが知られている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−77621号公報
【特許文献2】特開2000−141354号公報
【特許文献3】特開2002−177903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらのうち、特許文献1記載のグリーンカット装置においては、回転ノズルユニットによって均一なレイタンス除去が可能になる。また、特許文献2記載のコンクリート表面研掃装置においては、回転ノズル機構によって均一なコンクリート斫りが可能になるとともに、回転ノズル機構をケーシング内に収容することによって、斫りガラや洗浄水の飛散を防止し、さらにケーシングに取り付けられた真空吸引機構によってそれらを回収することも可能となる。
【0011】
しかしながら、これらの装置は、いずれも油圧モータによって回転ノズルユニットや回転ノズル機構を駆動するようになっているため、装置の大型化を余儀なくされ、それに伴って重量も大きくなる。
【0012】
そのため、上述の装置は、いずれも重機の併用が可能でかつ処理面積が大きい場合に限られ、重機を用いることが困難な場合、例えば狭隘な箇所や空頭制限がある場所、あるいは重機併用がかえって非効率になる場合、例えば処理面積が比較的小さい場合には適さないという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、重機と併用せずともコンクリート打継面を効率的に処理することが可能なコンクリートの打継面処理装置及びシステムを提供することを目的とする。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリートの打継面処理装置は請求項1に記載したように、開口周縁に沿ってシール材が設けられ該シール材が処理対象となるコンクリート打継面に当接されるようにして該コンクリート面を覆うことが可能なボックス状のケーシングと、該ケーシングに貫通配置されたジョイント部材と、該ジョイント部材のケーシング側端部に連結された高圧水噴射ノズル機構とを備えるとともに、前記高圧水噴射ノズル機構を、材軸廻りに回転自在となるように前記ジョイント部材に基端側が保持されたシャフトと、該シャフトの先端から放射方向に向けて延設されたアームと、該アームに設けられた噴射ノズルとで構成し、該高圧水噴射ノズル機構に連通する高圧水供給口を前記ジョイント部材の反対側端部に設けて該高圧水供給口に高圧水供給ポンプを接続できるように構成するとともに、前記ケーシングの内部空間に連通する排水口を該ケーシングに設けて該排水口に真空ポンプを接続できるように構成し、前記噴射ノズルからの噴射方向が、前記シャフトの材軸方向に対して前記アームの材軸廻りに所定角度だけ回転させた方向となるように前記噴射ノズルを構成することにより、前記高圧水噴射ノズル機構を高圧水の噴射力で前記シャフトの材軸廻りに回転させるようになっているものである。
【0015】
また、本発明に係るコンクリートの打継面処理装置は、前記アームを放射方向が互いに異なる複数のアームで構成するとともに、該各アームにそれぞれ設けられた噴射ノズルの前記シャフトからの偏心距離が互いに異なる寸法となるように前記各噴射ノズルを位置決めしたものである。
【0016】
また、本発明に係るコンクリートの打継面処理装置は、前記ジョイント部材の反対側端部に把持部を連結するとともに該把持部に前記高圧水供給口を設けたものである。
【0017】
また、本発明に係るコンクリートの打継面処理装置は、前記ケーシングで前記コンクリート打継面を覆ったときに該コンクリート打継面の切削深さを計測する非接触型の距離センサを、前記コンクリート打継面に対向するようにかつ前記シャフトの材軸近傍となるように、前記シャフトの先端又は前記アームに取り付けるとともに、該距離センサで計測された切削深さデータを取得表示する表示手段を備えたものである。
【0018】
また、本発明に係るコンクリートの打継面処理装置は、前記コンクリート打継面上を走行する走行車輪を走行枠体に取り付けるとともに該走行枠体を前記ケーシングに連結し、前記走行車輪の駆動軸を所定の動力伝達機構を介して前記シャフトに連結したものである。
【0019】
また、本発明に係るコンクリートの打継目処理システムは請求項6に記載したように、開口周縁に沿ってシール材が設けられ該シール材が処理対象となるコンクリート打継面に当接されるようにして該コンクリート面を覆うことが可能なボックス状のケーシングと、該ケーシングに貫通配置されたジョイント部材と、該ジョイント部材のケーシング側端部に連結された高圧水噴射ノズル機構と、該高圧水噴射ノズル機構に連通するように前記ジョイント部材の反対側端部に設けられた高圧水供給口に接続された高圧水供給ポンプと、前記ケーシングの内部空間に連通するように該ケーシングに設けられた排水口に接続された真空ポンプとを備えるとともに、前記高圧水噴射ノズル機構を、材軸廻りに回転自在となるように前記ジョイント部材に基端側が保持されたシャフトと、該シャフトの先端から放射方向に向けて延設されたアームと、該アームに設けられた噴射ノズルとで構成し、前記噴射ノズルからの噴射方向が、前記シャフトの材軸方向に対して前記アームの材軸廻りに所定角度だけ回転させた方向となるように前記噴射ノズルを構成することにより、前記高圧水噴射ノズル機構を高圧水の噴射力で前記シャフトの材軸廻りに回転させるようになっているものである。
【0020】
また、本発明に係るコンクリートの打継目処理システムは、前記排水口と前記真空ポンプとをつなぐ排水ホースに空気導入用開口を設けるとともに、該空気導入用開口をその開口面積が調整自在となるように構成したものである。
【0021】
本発明に係るコンクリートの打継面処理装置及びシステムを用いてコンクリートの打継面を処理するには、まず、ボックス状のケーシングの開口周縁に沿って設けられたシール材が処理対象となるコンクリートの打継面に当接されるようにして該ケーシングを打継面に押し当て、該打継面をケーシングで覆う。
【0022】
かかる状態においては、ケーシングとコンクリート打継面との間で水密性が確保される。
【0023】
次に、ジョイント部材の反対側端部(ケーシング側とは反対の側)に設けられた高圧水供給口に高圧水供給ポンプを接続する。
【0024】
このようにすると、高圧水供給ポンプが高圧水噴射ノズル機構に連通されるため、高圧水供給ポンプから供給される高圧水は、ジョイント部材を経て、高圧水噴射ノズル機構のシャフトからアームへと流れた後、噴射ノズルから噴射されるとともに、処理対象となるコンクリートの打継面を洗浄する。
【0025】
洗浄に用いた水や洗浄によって除去されたコンクリート表層部については、ケーシングとコンクリート打継面との水密性によって外部に飛散することなく、ケーシングに設けられた排水口に接続された真空ポンプによってケーシングの外に吸引される。
【0026】
ここで、噴射ノズルを、その噴射方向が、シャフトの材軸方向に対し、アームの材軸廻りに所定角度だけ回転させた方向となるように構成してあるので、高圧水が噴射される際、その反作用として、シャフトの材軸廻りに回転する方向の反力成分がアームに作用する。
【0027】
そして、シャフトがその材軸廻りに回転自在となるようにジョイント部材に保持されているため、噴射による反力成分は、高圧水噴射ノズル機構にトルクとして作用し、該高圧水噴射ノズル機構をそのシャフトの材軸廻りに回転させる。
【0028】
すなわち、本発明によれば、油圧モータや電動モータといった回転駆動手段を別途備えずとも、高圧水が噴射される際の反作用によって高圧水噴射ノズル機構を回転させ、それによって、コンクリートの打継面を、シャフトの材軸を中心とした広い範囲にわたって洗浄処理することが可能となる。
【0029】
アームの具体的な構成は任意であって、シャフトの先端から該シャフトに直交する方向にT字状に分岐する構成、シャフトの材軸方向から見た場合には、シャフトを中心とした直線状の構成が典型的な構成となるほか、シャフトから例えば120゜あるいは90゜おきに放射状に延びるように構成することが可能であるとともに、噴射ノズルの位置や個数も任意であるが、前記アームを放射方向が互いに異なる複数のアームで構成するとともに、該各アームにそれぞれ設けられた噴射ノズルの前記シャフトからの偏心距離が互いに異なる寸法となるように前記各噴射ノズルを位置決めしたならば、各噴射ノズルがカバーするコンクリート打継面上の範囲は、シャフトの材軸を中心とした同心円状の環状領域となり、噴射時の拡がり角度やコンクリート打継面までの距離を調整することにより、コンクリート打継面を余すところなく大きな円領域として処理することが可能となる。
【0030】
噴射ノズルの噴射方向角度は、例えば1゜〜45゜、望ましくは1゜〜30゜とするのがよい。シャフトの材軸方向がコンクリート打継面に直交するようにケーシングを該コンクリート打継面に押し付ける場合、1゜未満だと、噴射時の反作用として、シャフトの材軸廻りに回転する方向の反力成分がほとんど発生しないからであり、45゜を上回ると、コンクリート打継面への噴射エネルギーが大幅に低下するからである。
【0031】
コンクリート打継面を処理する際、その切削深さをどのように把握するかは任意であって、例えば高圧水の噴射時間や打設されたコンクリートの性質を考慮しつつ経験的に推定したり、高圧水の噴射を停止してケーシングをいったんコンクリート打継面から離間させ、それによって露出したコンクリート打継面における切削深さをを目視によって確認したりといった方法を採用することが可能であるが、前記ケーシングで前記コンクリート打継面を覆ったときに該コンクリート打継面の切削深さを計測する非接触型の距離センサを、前記コンクリート打継面に対向するようにかつ前記シャフトの材軸近傍となるように、前記シャフトの先端又は前記アームに取り付けるとともに、該距離センサで計測された切削深さデータを取得表示する表示手段を備えたならば、打継面処理を中断することなくしかも客観的に切削深さを把握することができるとともに、非接触型の距離センサをシャフトの材軸近傍に配置することで、高圧水噴射による影響を受けずに計測を行うことも可能となる。
【0032】
本発明に係るコンクリートの打継面処理装置は、水平打継面の処理にも鉛直打継面の処理にも適用可能であるが、ジョイント部材の反対側端部に把持部を連結するとともに該把持部に高圧水供給口を設けた構成とするならば、シャフトの材軸が概ね水平になるように把持部を持つことで、鉛直打継面に対する処理の作業性が格段に向上する。
【0033】
ここで、コンクリート打継面上を走行する走行車輪を走行枠体に取り付けるとともに該走行枠体をケーシングに連結し、走行車輪の駆動軸を所定の動力伝達機構を介してシャフトに連結したならば、高圧水の流体エネルギーを使って装置全体を移動させることができるとともに、鉛直打継面の場合、装置全体の走行方向に注意するだけで足り、作業員は、その自重を支える必要がない。
【0034】
動力伝達機構は、プーリー、ベルト、チェーン、ロッド、各種歯車、クラッチその他公知の動力伝達要素を適宜組み合わせて構成することが可能である。
【0035】
なお、鉛直打継面の場合、装置全体が自重で落下することなく鉛直打継面に押し付けられかつその押付け力が横方向に水平移動できる程度の大きさにとどまるよう、ケーシング内の負圧を調整する。
【0036】
ここで、排水口と真空ポンプとをつなぐ排水ホースに空気導入用開口を設けるとともに、該空気導入用開口をその開口面積が調整自在となるように構成したならば、真空ポンプを操作せずとも、手元でケーシング内の負圧の大きさを調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施形態に係る打継面処理装置1及びシステム2の概略図。
【図2】高圧水噴射ノズル機構6の回転原理を示した説明図であり、(a)はB−B線方向から見た矢視図、(b)は力のベクトル図、(c)はC−C線方向から見た矢視図。
【図3】排水ホース17に空気導入用開口31とその開口面積を制限する調整リング32を設けた様子を示した図であり、(a)は側面図、(b)はD−D線方向に沿った断面図。
【図4】コンクリートの打継面処理装置1と高圧水供給ポンプ13との間に把持部としての噴射ガン41を介在させた様子を示した全体図。
【図5】アームの配置変形パターンを示した図。
【図6】非接触型の距離センサ61とその切削深さデータを取得表示する液晶パネル62の配置図。
【図7】変形例に係るコンクリートの打継面処理装置の図であり、(a)は水平断面図、(b)はE−E線方向から見た矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係るコンクリートの打継面処理装置及びシステムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
図1は、本実施形態に係るコンクリートの打継面処理装置1及びそのシステム2を示した図である。同図でわかるように、本実施形態に係るコンクリートの打継面処理装置1は、処理対象となるコンクリート打継面3を覆うことが可能な有底円筒状のケーシング4と、該ケーシングの底部に貫通配置されたジョイント部材5と、該ジョイント部材のケーシング側端部に連結された高圧水噴射ノズル機構6とを備える。
【0040】
高圧水噴射ノズル機構6は、シャフト8がその材軸廻りに回転自在となるように該シャフトの基端側をジョイント部材5に設けられた軸受7に保持させてあるとともに、シャフト8の先端から放射方向、本実施形態では左右2方向に2本のアーム9a,9bを延設してT字状に形成し、該アームに噴射ノズル10a,10bをそれぞれ設けてなり、軸受7の回転軸線、すなわちシャフト8の材軸Aの廻りに全体が回転できるようになっている。
【0041】
ジョイント部材5の反対側端部には、高圧水噴射ノズル機構6に連通する高圧水供給口11を設けてあり、該高圧水供給口に高圧ホース12を介して高圧水供給ポンプ13を接続することにより、清水槽14に貯留された清水を高圧水噴射ノズル機構6の噴射ノズル10a,10bからコンクリート打継面3に向けて噴射できるようになっている。
【0042】
高圧水供給ポンプ13は例えば、圧力が1〜20MPa、流量が2〜10L/分程度のものを選択することができる。
【0043】
ケーシング4にはその開口内周縁に沿ってシール材15を設けてあり、該シール材がコンクリート打継面3に当接されるようにケーシング4をコンクリート打継面3に押し付けることにより、その内部空間を水密な状態に保持した状態で、コンクリート打継面3を覆うことができるようになっている。
【0044】
また、ケーシング4には、その内部空間に連通する排水口16を設けてあり、該排水口に排水ホース17を介して真空ポンプ18を接続することで、ケーシング4内に噴射された洗浄水や該洗浄水によって除去されたコンクリートガラを飛散させることなく、ケーシング4の外に吸引して固液分離器19で固形分を分離するとともに、分離水については、必要に応じて細粒分を除去した後、清水槽14に戻して循環使用するようになっている。
【0045】
真空ポンプ18は、例えば流量が10L/分、タンク容量が50L程度のものを選択することができる。
【0046】
なお、ケーシング4にはその開口外周縁に沿って飛散防止用ブラシ20を設けてあり、シール材15を抜けてきたコンクリートガラがあったとしても、これをケーシング4内にとどめて外方への飛散を確実に防止するようになっている。
【0047】
図2(a)は、噴射ノズル10a,10bを図1のB−B線方向から見た矢視図である。同図でわかるように、コンクリートの打継面処理装置1をシャフト8の材軸Aがコンクリート打継面3と直交するように保持した際、噴射ノズル10a,10bの噴射方向が、材軸Aの方向ではなく、その方向に対し、アーム9a,9bの材軸廻りに角度θだけ回転させた方向、すなわちアーム9a,9bの端部から見たときの噴射ノズル10a,10bの各噴射方向が、それぞれ材軸Aから時計廻りに角度θだけ回転した方向を向くように、噴射ノズル10a,10bを構成してある。
【0048】
噴射ノズル10a,10bの噴射方向角度θは、例えば1゜〜45゜、望ましくは1゜〜30゜とするのがよい。シャフト8の材軸Aがコンクリート打継面3に直交するようにケーシング4を該コンクリート打継面に押し付ける場合、1゜未満だと、噴射時の反作用として、ジョイント部材5の材軸廻りに回転する方向の反力成分がほとんど発生しないからであり、45゜を上回ると、コンクリート打継面3への噴射エネルギーが大幅に低下し、本来の目的であるコンクリート表層部の除去ができないからである。
【0049】
噴射ノズル10a,10bは、それらの噴射方向をアーム9a,9bの材軸廻りに回転自在に構成することで、上述の角度θを任意に設定できるようにしておくのが望ましい。
【0050】
本実施形態に係るコンクリートの打継面処理装置1を用いてコンクリートの打継面3を処理するにあたり、予め、ジョイント部材5の反対側端部に設けられた高圧水供給口11に高圧ホース12を介して高圧水供給ポンプ13を接続するとともに、ケーシング4に設けられた排水口16に排水ホース17を介して真空ポンプ18を接続することにより、高圧水の供給、コンクリート打継面3への高圧水の噴射洗浄、洗浄水及びコンクリートガラの回収という一連の処理が可能なコンクリートの打継面処理システム2を構築する。
【0051】
一方、処理対象となる打継面については、先行コンクリートを打設するに先立ち、型枠を構成する堰板の内面に遅延剤を予め貼付あるいは塗布しておくことにより、型枠脱型後も、露出コンクリート面の表層部がすぐに硬化しないようにしておく。
【0052】
遅延剤としては、三光株式会社が「リタメイト」の商品名で製造販売しているフィルムタイプのものや、三信工業株式会社が「ヒーバウ」の商品名で製造販売している塗布タイプのものを用いることができる。
【0053】
次に、コンクリートの打継面処理装置1を、そのシャフト8の材軸Aがコンクリート打継面3と直交するように保持しつつ、ケーシング4の開口周縁に沿って設けられたシール材15がコンクリート打継面3に当接されるように該ケーシングをコンクリート打継面3に押し当てることで、該打継面をケーシング4で覆う。
【0054】
かかる状態においては、ケーシング4とコンクリート打継面3との間で水密性が確保される。
【0055】
次に、高圧水供給ポンプ13を駆動することで、清水槽14に貯留された清水を高圧ホース12で圧送し、これを高圧水としてコンクリートの打継面処理装置1のジョイント部材5に供給する。
【0056】
このようにすると、高圧水は、ジョイント部材5の内部に形成された流路を流れた後、高圧水噴射ノズル機構6のシャフト8からアーム9a,9bを経て、噴射ノズル10a,10bから噴射される。
【0057】
ここで、噴射ノズル10a,10bから噴射された高圧水は、コンクリート打継面3に衝突し、その際の衝突エネルギーにより、コンクリート打継面3の表層部が除去されるが、噴射ノズル10a,10bは上述したように、シャフト8の材軸Aに対し、アーム9a,9bの材軸廻りに角度θだけ回転させた方向にそれらの噴射方向を傾けてある。
【0058】
そのため、高圧水が噴射される際の反作用としてアーム9a,9bに働く反力Pは、図2(b)に示すように材軸Aに平行でかつ材軸Aと逆向きの成分PVのみならず、材軸Aに直交する向きの成分PHも発生する。
【0059】
そして、反力成分PHは同図(c)に示すように、材軸A廻りのトルクTを発生させ、かかるトルクTによって、高圧水噴射ノズル機構6は、同図矢印に示すように回転する。
【0060】
すなわち、高圧水噴射ノズル機構6は、噴射ノズル10a,10bから噴射される高圧水の反作用によって自ら材軸Aの廻りに回転しながら、コンクリート打継面3を高圧水で洗浄する。
【0061】
一方、上述した高圧水による洗浄を行っている間、真空ポンプ18を同時に作動させることで、ケーシング4内の使用済み洗浄水やそれによって生じたコンクリートガラをケーシング4の外に吸引し、固液分離器19でコンクリートガラを分離除去するとともに、水については、清水槽14に戻して再利用する。
【0062】
ここで、ケーシング4は、シール材15による密封作用と真空ポンプ18による負圧押付け作用とが相俟って、内部空間の水密性が確保されており、洗浄水やコンクリートガラがケーシング4の外に飛散するおそれはない。
【0063】
上述した高圧水による洗浄は、ケーシング4を適宜縦横にずらしながら継続して行うようにすればよい。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係るコンクリートの打継面処理装置1及び打継面処理システム2によれば、油圧モータや電動モータといった回転駆動手段を別途備えずとも、高圧水が噴射される際の反作用によって高圧水噴射ノズル機構6を回転させ、それによって、コンクリート打継面3を広範囲に洗浄処理することが可能となる。
【0065】
したがって、洗浄処理の機能を落とすことなく、装置全体を大幅に軽量化することが可能となり、その結果、ケーシング4内の空気圧と大気圧の差圧で装置全体の自重を支持することが可能となる。
【0066】
そのため、洗浄処理の間は軽く手を添えているだけで足りることとなり、鉛直打継面を処理する際の作業性が格段に向上する。
【0067】
本実施形態では、シール材15をケーシング4の開口内周縁に取り付けるようにしたが、ケーシング4を移動させる際にコンクリート打継面3との摩擦によって剥がれたり外れたりするおそれがある場合には、ケーシング4の肉厚断面中心に沿って形成された溝に貫入する構成をはじめ、より強固な取付け方法を適宜選択すればよい。
【0068】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、ケーシング4を縦横にずらす際、負圧が大きいためにケーシング4をずらしにくい場合には、図3に示すように排水ホース17に長孔状の空気導入用開口31を設けるとともに、該空気導入用開口を取り囲むようにホース材軸廻りに回動自在な調整リング32を設けることで、空気導入用開口31の開口面積を調整できるように構成し、コンクリート打継面3に対してケーシング4をずらしたいときには、調整リング32を廻して空気導入用開口31を開き、該空気導入用開口から空気を導入して真空ポンプ18による引抜き力を下げ、ケーシング4内の負圧を小さくすればよい。
【0069】
また、本実施形態では、説明の便宜上、真空ポンプ18の操作を本体側で行うものとして説明したが、これに代えて、図4に示すようにジョイント部材5の高圧水供給口11に把持部としての噴射ガン41を接続し、該噴射ガンの高圧水供給口42に高圧ホース12を接続するようにしてもよい。
【0070】
かかる構成においては、噴射ガン41を操作することで、噴射のオンオフを切り替えたり噴射圧を調整したりすることができる。なお、噴射ガン41については、高圧水に用いられている公知の噴射ガンあるいは洗浄ガンを転用することが可能であり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0071】
また、本実施形態では、シャフト8からの噴射ノズル10a,10bの偏心距離を同一としたが、これを異なる寸法とすることにより、図5(a)に示すように、同心円状をなす2つの環状領域51a,51bにわたってコンクリート打継面3を洗浄することができる。
【0072】
さらに、アームの本数は任意であって、同図(b)に示すように、シャフト8の先端から120゜間隔で計3本のアーム52a,52b,52cを放射状に延設する構成としたり、同図(c)に示すように、90゜間隔で計4本のアーム53a,53b,53c,53dを放射状に延設する構成が可能である。
【0073】
なお、かかるアーム構成においても同図に示した通り、噴射ノズル54a,54b,54cのシャフト8からの偏心距離、あるいは噴射ノズル55a,55b,55c,55dのシャフト8からの偏心距離をそれぞれ順次ずらすことにより、コンクリート打継面3をあますところなく、あるいは互いに重複させながら確実にカバーすることができる。
【0074】
噴射ノズル54a,54b,54cの位置や、噴射ノズル55a,55b,55c,55dの位置は、アーム52a,52b,52cや、アーム53a,53b,53c,53dの材軸に沿って可変に構成するのが望ましい。この点、上述した実施形態でも同様であり、噴射ノズル10a,10bの位置を、アーム9a,9bの材軸に沿って可変に構成しておくのが望ましい。
【0075】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、コンクリート打継面3の切削深さを計測することで正確な打継面処理を行いたいときには、図6に示すように、コンクリート打継面3の切削深さを計測する非接触型の距離センサ61をシャフト8の先端であって該シャフトの材軸A近傍に取り付けるとともに、該距離センサで計測された切削深さデータを取得表示する表示手段としての液晶パネル62をケーシング4に取り付けるようにすればよい。距離センサ61は、例えばレーザーや超音波を用いたセンサで構成することが可能である。
【0076】
かかる構成によれば、打継面処理を中断することなくしかも客観的に切削深さを把握することができるとともに、非接触型の距離センサ61をシャフト8の材軸A近傍に配置することで、高圧水噴射による影響を受けずに計測を行うことも可能となる。
【0077】
また、本実施形態では、コンクリート打継面3に対し、ケーシング4をずらすことで、処理対象領域を移動させていくことを前提としたが、ケーシング4内の負圧が大きい場合、既に述べたようにケーシング4がコンクリート打継面3にぴったりと密着し、ケーシング4をずらせない場合が生じる。
【0078】
また、これを回避するために負圧を小さくすると、ケーシング4内の空気圧と大気圧の差圧で装置全体の自重を支持することが困難となり、打継面処理装置1が鉛直打継面から落下することも懸念される。
【0079】
このような場合、図7に示すように、コンクリート打継面3上を走行する走行車輪72及び走行車輪73,73を走行枠体71に取り付けるとともに、ボルト、ナットその他の連結手段(図示せず)を適宜用いることで、走行枠体71をケーシング4に連結し、走行車輪73,73の駆動軸80を動力伝達機構81を介してシャフト8に連結するようにすればよい。
【0080】
動力伝達機構81は、走行車輪73,73の駆動軸80にその中央近傍において歯車74を配置し、該歯車に連結ロッド76の一端に取り付けられたウォーム歯車75を噛合させるとともに、該連結ロッドの他端にプーリー77を取り付け、該プーリーとシャフト8に固定されたプーリー78にベルト79を掛けて構成してある。
【0081】
かかる構成においては、ケーシング4内の空気圧と大気圧の差圧が、走行枠体71を介して走行車輪72及び走行車輪73,73に伝達し、次いで、接地圧としてコンクリート打継面3に作用する。そのため、コンクリートの打継面処理装置1は、鉛直壁であるコンクリート打継面3に保持される。
【0082】
一方、高圧水を高圧水噴射ノズル機構6に送り込むと、噴射ノズル10a,10bから噴射される際の反作用で高圧水噴射ノズル機構6が回転し、その回転力は、シャフト8から動力伝達機構81に伝達された後、駆動軸80に伝達されて走行車輪73,73を回転させ、走行枠体71は、それに連結されたケーシング4とともにコンクリート打継面3上を移動する。
【0083】
かかる変形例によれば、コンクリート打継面3を洗浄するためだけに高圧水の力を用いるのではなく、コンクリート打継面3上を走行移動させる動力としても利用されることとなり、高圧水のさらなる有効利用が可能になるとともに、真空ポンプ18の引抜きによって発生する負圧が大きい場合にも、その負圧を走行車輪72及び走行車輪73,73を介してコンクリート打継面3に作用させるので、ケーシング4を介してコンクリート打継面3に作用させる場合に比べ、走行時の抵抗がはるかに小さくなり、負圧が大きい場合でも、ケーシング4をスムーズに横移動させることが可能となる。
【0084】
加えて、ケーシング4をスムーズに横移動させることができることにより、高圧水噴射ノズル機構6を用いたコンクリート打継面3の洗浄を広い範囲にわたって連続的に行うことが可能となり、打継面の処理を均一にかつ迅速に行うことができる。
【0085】
また、本実施形態では、コンクリートガラがシール材15を抜けて外方に飛散することがなきよう、ケーシング4の開口外周縁に沿って飛散防止用ブラシ20を設けるようにしたが、シール材15によってコンクリートガラの飛散を十分に防止できるのであれば、飛散防止用ブラシ20を省略してもかまわない。
【符号の説明】
【0086】
1 コンクリートの打継面処理装置
2 コンクリートの打継面処理システム
3 コンクリート打継面
4 ケーシング
5 ジョイント部材
6 高圧水噴射ノズル機構
8 シャフト(高圧水噴射ノズル機構)
9a,9b,52a,52b,52c,53a,53b,53c,53d
アーム(高圧水噴射ノズル機構)
10a,10b,54a,54b,54c,55a,55b,55c,55d
噴射ノズル(高圧水噴射ノズル機構)
11 高圧水供給口
12 高圧ホース
13 高圧水供給ポンプ
15 シール材
16 排水口
17 排水ホース
18 真空ポンプ
31 空気導入用開口
41 噴射ガン(把持部)
61 距離センサ
62 液晶パネル(表示手段)
71 走行枠体
72,73 走行車輪
80 駆動軸
81 動力伝達機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口周縁に沿ってシール材が設けられ該シール材が処理対象となるコンクリート打継面に当接されるようにして該コンクリート面を覆うことが可能なボックス状のケーシングと、該ケーシングに貫通配置されたジョイント部材と、該ジョイント部材のケーシング側端部に連結された高圧水噴射ノズル機構とを備えるとともに、前記高圧水噴射ノズル機構を、材軸廻りに回転自在となるように前記ジョイント部材に基端側が保持されたシャフトと、該シャフトの先端から放射方向に向けて延設されたアームと、該アームに設けられた噴射ノズルとで構成し、該高圧水噴射ノズル機構に連通する高圧水供給口を前記ジョイント部材の反対側端部に設けて該高圧水供給口に高圧水供給ポンプを接続できるように構成するとともに、前記ケーシングの内部空間に連通する排水口を該ケーシングに設けて該排水口に真空ポンプを接続できるように構成し、前記噴射ノズルからの噴射方向が、前記シャフトの材軸方向に対して前記アームの材軸廻りに所定角度だけ回転させた方向となるように前記噴射ノズルを構成することにより、前記高圧水噴射ノズル機構を高圧水の噴射力で前記シャフトの材軸廻りに回転させるようになっていることを特徴とするコンクリートの打継面処理装置。
【請求項2】
前記アームを放射方向が互いに異なる複数のアームで構成するとともに、該各アームにそれぞれ設けられた噴射ノズルの前記シャフトからの偏心距離が互いに異なる寸法となるように前記各噴射ノズルを位置決めした請求項1記載のコンクリートの打継面処理装置。
【請求項3】
前記ジョイント部材の反対側端部に把持部を連結するとともに該把持部に前記高圧水供給口を設けた請求項1記載のコンクリートの打継面処理装置。
【請求項4】
前記ケーシングで前記コンクリート打継面を覆ったときに該コンクリート打継面の切削深さを計測する非接触型の距離センサを、前記コンクリート打継面に対向するようにかつ前記シャフトの材軸近傍となるように、前記シャフトの先端又は前記アームに取り付けるとともに、該距離センサで計測された切削深さデータを取得表示する表示手段を備えた請求項1記載のコンクリートの打継面処理装置。
【請求項5】
前記コンクリート打継面上を走行する走行車輪を走行枠体に取り付けるとともに該走行枠体を前記ケーシングに連結し、前記走行車輪の駆動軸を所定の動力伝達機構を介して前記シャフトに連結した請求項1乃至請求項4のいずれか一記載のコンクリートの打継面処理装置。
【請求項6】
開口周縁に沿ってシール材が設けられ該シール材が処理対象となるコンクリート打継面に当接されるようにして該コンクリート面を覆うことが可能なボックス状のケーシングと、該ケーシングに貫通配置されたジョイント部材と、該ジョイント部材のケーシング側端部に連結された高圧水噴射ノズル機構と、該高圧水噴射ノズル機構に連通するように前記ジョイント部材の反対側端部に設けられた高圧水供給口に接続された高圧水供給ポンプと、前記ケーシングの内部空間に連通するように該ケーシングに設けられた排水口に接続された真空ポンプとを備えるとともに、前記高圧水噴射ノズル機構を、材軸廻りに回転自在となるように前記ジョイント部材に基端側が保持されたシャフトと、該シャフトの先端から放射方向に向けて延設されたアームと、該アームに設けられた噴射ノズルとで構成し、前記噴射ノズルからの噴射方向が、前記シャフトの材軸方向に対して前記アームの材軸廻りに所定角度だけ回転させた方向となるように前記噴射ノズルを構成することにより、前記高圧水噴射ノズル機構を高圧水の噴射力で前記シャフトの材軸廻りに回転させるようになっていることを特徴とするコンクリートの打継面処理システム。
【請求項7】
前記排水口と前記真空ポンプとをつなぐ排水ホースに空気導入用開口を設けるとともに、該空気導入用開口をその開口面積が調整自在となるように構成した請求項6記載のコンクリートの打継面処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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