説明

コンクリート中へのICタグの設置方法

【課題】
ICタグをわざわざコンクリート中へ埋設したり、型枠等に固定したり、配置したりする工程を特に設ける必要なく、容易に所望する位置にICタグを設置することができる、作業性に優れた簡易なコンクリート中へのICタグの設置方法を提供する。
【解決手段】
エアモルタル中に、エアモルタルよりも比重が大きいICタグを投入し、該ICタグよりも比重が大きいベースコンクリートが硬化する前に、該ICタグが投入されている該エアモルタルを打設することにより、コンクリート中へICタグを設置する設置方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中へのICタグの設置方法に関し、特に、ICタグを所定の位置に容易にコンクリート内に設置することができる、コンクリート中へのICタグの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モルタル・コンクリートのトレーサビリティを確保するために、ICタグ等の非接触通信媒体を用いた管理が行われ始めている。
特に、特開2008−139173号公報(特許文献1)に示すように、モルタル・コンクリートの品質管理試験などに使用される供試体(テストピース)に、コンクリート中にICタグ等を挿入あるいは貼付するなどして、現場名や配合種類などの情報をICタグ等に記憶させ、供試体と当該情報とを確実に関連付け、試験データの信頼性を向上させる方法が提案され、一部で実用化されている。
【0003】
コンクリート中へのICタグを固定する方法としては、コンクリート外面へICタグを貼り付けする方法や、コンクリート内部へ内挿する方法がある。
コンクリート外面へICタグを貼り付けする方法では、コンクリートからの脱落が生じたり、紫外線により劣化したり、更には悪意による取り外しや、また、貼付したICタグの差し替え等、データを偽装することも可能となり、問題が生じる。
【0004】
ICタグをコンクリート中に内挿する方法では、コンクリートの影響によりICタグの通信感度が低減することから、コンクリート表面から10〜20mm程度の位置にICタグを設置することが望ましい。
そのために、後から埋め込みをする方法、コンクリート中に設置される鉄筋に予めICタグを固定する方法や、型枠にICタグを仮固定してからコンクリートを打設する方法等により、ICタグをコンクリート中に内挿する方法が提案されている。
【0005】
しかし、上記方法では、ICタグを予め鉄筋や型枠に固定するための作業が必要となり、また、固定や仮固定したICタグがコンクリート打設中に脱落してしまう可能性がある。
この場合、コンクリート硬化後にICタグによる読み取り不良等の通信状態の不良が生じ、かかる通信状態の悪化によりはじめてコンクリート中の所望する位置にICタグが設置されていないことが判明する等の問題がある。
また、後からICタグを埋め込む方法は、追加工程が必要になるほか、コンクリート構造体を損傷するという問題がある。
【0006】
特開2007−216527号公報(特許文献2)では、(1)予めICタグの周囲および背面をセメント材料または他の成形材料で固める工程と、(2)コンクリート型枠面に、当該成形材料で固められたICタグを接着剤または粘着剤を用いて仮固定する工程と、(3)当該コンクリート型枠を用いてICタグ側にコンクリートを打設する工程と、(4)コンクリートが固まった後に、ICタグをコンクリート構造体表面に残して当該コンクリート型枠を脱型する工程と、からなることを特徴とする、ICタグをコンクリート構造体表面に組み込む方法が記載されており、ICタグは、コンクリート型枠を貫通する複数本のボルトとICタグ背面のプラスチック製ねじ穴付きフランジ板により仮固定してもよいことも記載されている。
【0007】
特開2008−70392号公報(特許文献3)では、型枠にコンクリートを突き固めながら注入した後、タグを設置し、その上にベースとなるコンクリートよりも圧縮強度の弱いキャッピングコンクリートを流し込んで、タグを備えるコンクリート片を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−139173号公報
【特許文献2】特開2007−216527号公報
【特許文献3】特開2008−070392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した問題を解決し、ICタグをコンクリート中に簡易な方法で設置することができる、コンクリート中へのICタグの設置方法を提供することである。
具体的には、ICタグをコンクリート中へ配置、埋設したり、型枠等に固定したりする工程を設ける必要なく、容易に所望する位置にICタグを配置することができる、作業性に優れたコンクリート中へのICタグの設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のコンクリート中へのICタグの設置方法は、ベースとなるコンクリート(以下、ベースコンクリートという)、エアモルタル及びICタグの比重の差を利用することで、ICタグを設置する工程を必要とすることなく、ICタグをコンクリート中の所望の位置に設置することができることにより達成された。
【0011】
本発明のコンクリート中のICタグの設置方法は、エアモルタル中に、エアモルタルよりも比重が大きいICタグを投入し、該ICタグよりも比重が大きいベースコンクリートを打設した後に、その上にICタグが投入されている該エアモルタルを打設して硬化させることを特徴とする、コンクリート中のICタグの設置方法である。
【0012】
好適には、上記本発明のコンクリート中のICタグの設置方法において、前記エアモルタルに投入されているICタグは、ベースコンクリートとエアモルタルとの界面付近に位置することを特徴とする。
【0013】
更に好適には、上記本発明のコンクリート中のICタグの設置方法において、ICタグが投入されているエアモルタルは、ベースコンクリートが硬化する前に打設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコンクリート中へのICタグの設置方法により、ICタグをわざわざコンクリート中に配置や埋設したり、型枠に固定等したりする工程を必要とせず、コンクリート中の所望する位置に容易にICタグを設置することができる。
このように、本発明のコンクリート中へのICタグの設置方法は、作業性に優れ、極めて簡便な方法でコンクリート中へICタグを設置することを可能とする。
またかかる簡易な方法によって、コンクリート中の所望する位置にICタグを設置することができるので、電波を吸収又は減衰させることなく、良好な作動環境を得ることができ、ICタグの情報を確実に読み取ることができる。
【0015】
また、ICタグは、ベースコンクリートとエアモルタルとの比重差を利用して位置することができるため、得られるコンクリート体のエアモルタルやベースコンクリートの厚みを変化させることで、コンクリート体中のICタグの設置位置を設計することができる。
【0016】
さらに、ベースコンクリートが固化する前に、ICタグが投入されているエアモルタルを打設するため、ICタグはベースコンクリート及びエアモルタルの双方と良好に接着設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のコンクリート中へのICタグの設置方法の一例を模式的に表した工程図である。
【図2】本発明のコンクリート中へのICタグの設置方法により得られた、ICタグ内蔵コンクリート体の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のコンクリート中のICタグの設置方法は、エアモルタル中に、エアモルタルよりも比重が大きいICタグを投入し、該ICタグよりも比重が大きいベースコンクリートを打設した後に、その上にICタグが投入されている該エアモルタルを打設して硬化させる、コンクリート中のICタグの設置方法である。
かかる設置方法は、ベースコンクリートとエアモルタルとICタグとの比重の差を利用して、コンクリート中の所望する位置に、ICタグを設置することができるものである。
【0019】
本発明のコンクリート中のICタグの設置方法を、図面を参照しながら一例を挙げて説明するが、これらに限定されるものではない。
図1は、本発明のコンクリート中へのICタグの設置方法の一例を模式的に表した工程図である。
まずICタグ2をエアモルタル1中に投入する(図1(a))。エアモルタル1としては、特に限定されず、公知のエアモルタルを使用することができるが、本発明においては、使用するエアモルタル1の比重は、ICタグ2の比重よりも小さいものとする。
これにより、ICタグ2が投入されたエアモルタル1を打設した際に、エアモルタル部分1の下部であり、ベースコンクリート3の上部となる、エアモルタル1とベースコンクリート3の界面にICタグ2を位置させることができる。
【0020】
また、別途、ベースコンクリート3を型枠4内に打設する(図1(b))。本発明に用いるベースコンクリート3は、その種類は特に限定されず、公知のコンクリート組成物を使用することができる。
ベースコンクリート3の比重は、設置するICタグ2の比重より大きいものとする。
これにより、ICタグ2が投入されたエアモルタル1を打設した際に、ベースコンクリート3の上部であって、エアモルタル1の下部となる、ベースコンクリート3とエアモルタル1との界面付近にICタグ2を位置させることができる。
【0021】
型枠4にベースコンクリート3を打設した後、該ベースコンクリート3が硬化する前に、好ましくはベースコンクリート3の打設後すぐに、上記ICタグ2が投入されている前記エアモルタル1を、該ICタグ2とともに該型枠4内に打設する(図1(c)・(d))。
これにより、エアモルタル1中に含まれるICタグ2は、ベースコンクリート3とエアモルタル1の界面付近に移動した後、養生固化する工程において、ベースコンクリート3及びエアモルタル1の両者と良好に接着されることができる。
ここでベースコンクリート3は、打設後、エアモルタル1を打設する前に、へら等でその表面を平坦にするように処理してもよい。
【0022】
ベースコンクリート3の上部に打設されたエアモルタル1は、ICタグ2が含まれており、静置して養生することによって、比重差により、ICタグ2は、ベースコンクリート3とエアモルタル1との界面付近に自動的に位置することとなる(図1(e))。
すなわち、ICタグ2は上記したように、ベースコンクリート3の比重よりも小さい比重を有し、かつエアモルタル1よりも大きい比重を有するため、ちょうどこれらの界面付近に移動して位置し、ベースコンクリート3やエアモルタル1が養生硬化することによって、当該位置でICタグ2が設置されることとなる。従って、ベースコンクリートを打設した後にICタグ2を設置したり、型枠にICタグを固定・仮固定したりする工程は、本発明においては必要ない。
【0023】
その後ベースコンクリート3及びエアモルタル1が硬化した後、前記型枠4からコンクリート体5を脱型することによって、コンクリート中の所望する位置にICタグが配置されたコンクリート体を得ることができる(図2)。
【0024】
このように、本発明のICタグの設置方法によれば、電波を吸収又は減衰させることなく、ICタグの情報を確実に読み取ることができる良好な作動環境を得るために、コンクリート体の外表面からどの程度の位置にICタグを位置させるか等の設計を容易に行なうことができることとなる。
【0025】
本発明によればICタグはベースコンクリートとエアモルタルとの界面付近に位置するため、コンクリート体におけるベースコンクリートやエアモルタルの厚み、即ち打設するベースコンクリートやエアモルタルの量を調整することにより、コンクリート体中のICタグの位置を予め設計することができるようになる。
【実施例】
【0026】
本発明の一例を以下の実施例により説明する。
(ベースコンクリートの調製)
以下の表1に記載の配合割合により、ベースコンクリート組成物を調製した。
ベースコンクリート組成物用のセメント粉体としては、商品名:フィルコンR(プレミクスタイプ)住友大阪セメント株式会社製を使用し、混練水には水道水を使用した。
前記セメント粉体と水道水とをW/C18.0質量%の割合で配合して均一に混練することによりベースコンクリート組成物を調製した。
得られたベースコンクリート組成物の設計密度は2.21g/cmである。
【0027】
【表1】

【0028】
(エアモルタルの調製)
以下の表2に記載の配合割合により、エアモルタルを調製した。
具体的には、エアモルタル用のセメント粉体としては、商品名:BB(住友大阪セメント株式会社製高炉セメント)を使用し、気泡剤としては、商品名:スミシールドAS−1(住友大阪セメント株式会社製)を使用し、混練水には水道水を使用した。
前記セメント粉体と前記気泡剤と水道水とを、表2に示す割合で配合して均一に混練することにより、エアモルタル調製した。
得られたエアモルタルの設計密度は0.52g/cmである。
【0029】
【表2】

【0030】
(ICタグ)
ICタグとして以下のものを使用した。
・凸版印刷製「TOPPAN RFID Uシリーズ プラスティック対応タイプ」
寸法 78.4mm×17.5mm×3.1mm、
重量 3.5g(密度0.82g/cm
【0031】
(実施例)
上記ICタグを上記エアモルタル中に投入した。
次いで、内寸26cm×26cm×Xcm(Xは、高さを示し、打設するベースコンクリートの高さと、打設するエアモルタルのそれぞれの高さの合計によって適宜決定する)の各型枠に高さ3cmまで上記ベースコンクリート組成物を打設し、該ベースコンクリート打設直後に、前記ベースコンクリートの上に上記エアモルタル(ICタグが投入されている)を打設して、養生硬化させて、ICタグが内蔵されたコンクリート体を得た。
なお、ベースコンクリート上にエアモルタルを高さ6mmで打設したICタグ内蔵コンクリート体、高さ7mm、8mm、・・・88mmまで1mmきざみで各種の高さで打設した、ICタグ内蔵コンクリート体をそれぞれ得た。
得られた各ICタグ内蔵コンクリート体を破砕して、ICタグの設置位置を確認したところ、すべて、ICタグはベースコンクリートとエアモルタルの境界面に設置されていることが確認できた。
【0032】
(比較例)
内寸26cm×26cm×Xcm(Xは、高さを示し、打設するベースコンクリートの高さと、打設するエアモルタルのそれぞれの高さの合計によって適宜決定する)の各型枠に高さ3cmまで上記ベースコンクリート組成物を打設して、該ベースコンクリートを硬化させた。硬化したベースコンクリート体に上記ICタグを配置して、その上からJISモルタルを打設して、養生硬化させて、ICタグが内蔵された各コンクリート体を得た。
なお、硬化したコンクリート上に上記ICタグを設置した後、該ベースコンクリートの上にJISモルタルを高さ6mmで打設したICタグ内蔵コンクリート体、高さ7mm、8mm、・・・33mmまで1mmきざみで各種の高さで打設した、ICタグ内蔵コンクリート体を得た。
なおJISモルタルを調製する際に使用したセメントは、普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)である。
得られた各ICタグ内蔵コンクリート体を破砕して、ICタグの設置位置を確認したところ、すべて、ICタグはベースコンクリートとエアモルタルの境界面に設置されていることが確認できた。
【0033】
(試験例)
上記実施例及び比較例で得られた各ICタグ内蔵コンクリート体中のICタグの信号の強度を下記測定装置を用いて測定した。その結果を表3に示す。
・測定機器:マイクロカード製ハンディリーダ「MRW570」
UHF帯使用(950MHz)
【0034】
コンクリート内に設置されたICタグからの信号の読み取りが可能か否かを、表3に示す各UHFでの読み取り可能な深さで表した。
具体的には、上記実施例及び比較例において、エアモルタル又はJISモルタルを6mm以上で1mmきざみに打設した各コンクリート体において、特定の信号の強さの読み取り可能な深さを、コンクリート中に設置されたICタグの位置で、すわなちコンクリート体の表面(打設したエアモルタルまたはJISモルタルの表面)から設置されたICタグの深さで表した。
【0035】
なお、表3中、エアモルタル(ICタグが投入されている)の高さが6mmと記載されている実施例は上記実施例においてエアモルタルを6mmの高さで打設したもの、13mmの実施例は上記実施例においてエアモルタルを13mmの高さで打設したもの、24mmの実施例は上記実施例においてエアモルタルを24mmの高さで打設したもの、45mmの実施例は上記実施例においてエアモルタルを45mmの高さで打設したもの、85mmの実施例は上記実施例においてエアモルタルを85mmの高さで打設したものに対応している。
【0036】
またJISモルタルを打設した比較例では、ICタグをベースコンクリート体上に配置しているため、打設したJISモルタルの厚さが、ICタグの読み取り深さに対応しており、高さが6mmと記載されている比較例は上記比較例においてJISモルタルを6mmの高さで打設したもの、高さが12mmと記載されている比較例は上記比較例においてJISモルタルを12mmの高さで打設したもの、高さが21mmと記載されている比較例は上記比較例においてJISモルタルを21mmの高さで打設したもの、高さが32mmと記載されている比較例は上記比較例においてJISモルタルを32mmの高さで打設したものに対応している。
【0037】
【表3】

【0038】
上記表3より、実施例において、5dBの信号強さは、ICタグ(厚み約3mm)がコンクリート体の表面より深さ3〜6mmのところに位置する、ICタグ内蔵コンクリート体で信号の読み取りが可能であったことを示し、また25dBの信号強さは、ICタグがコンクリート体の表面より最大深さ82〜85mmのところに位置するものまで信号の読み取りが可能であったことを表している。
また比較例においては、5dBの信号強さは、ICタグがコンクリート体の表面より深さ3〜6mmのところに位置するものでは信号の読み取りが不可能であったことを示し、また25dBの信号強さは、ICタグがコンクリート体の表面より最大で深さ29〜32mmのところに位置するものまで信号の読み取りが可能であったことを表している。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明によれば、極めて簡便な方法でICタグを内蔵したコンクリート体を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1・・・エアモルタル
2・・・ICタグ
3・・・ベースコンクリート
4・・・型枠
5・・・コンクリート体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアモルタル中に、エアモルタルよりも比重が大きいICタグを投入し、該ICタグよりも比重が大きいベースコンクリートを打設した後に、その上にICタグが投入されている該エアモルタルを打設して硬化させることを特徴とする、コンクリート中のICタグの設置方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート中のICタグの設置方法において、前記エアモルタルに投入されているICタグはコンクリートとエアモルタルとの界面付近に位置することを特徴とする、コンクリート中のICタグの設置方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコンクリート中のICタグの設置方法において、ICタグが投入されているエアモルタルは、ベースコンクリートが硬化する前に打設されることを特徴とする、コンクリート中のICタグの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−73826(P2012−73826A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218243(P2010−218243)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】