説明

コンクリート劣化因子検出方法

【課題】コンクリート表面の劣化因子の濃度を精度よく検出可能なコンクリート劣化因子検出方法を提供する。
【解決手段】測定対象となるコンクリート表面の測定位置に光を照射し、コンクリート表面からの反射光を分光器に入射して、分光器にて反射光のスペクトルを測定し、測定した反射光のスペクトルを基に、測定位置での劣化因子の濃度を検出し、測定位置を移動させながら劣化因子の濃度の検出を繰返して、コンクリート表面での劣化因子濃度分布を検出するコンクリート劣化因子検出方法において、少なくとも1箇所以上の測定位置で劣化因子の濃度を実測し、その劣化因子の濃度の実測値に基づき、コンクリート表面での劣化因子濃度分布を補正するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光分析によりコンクリート表面の劣化因子の濃度を検出するコンクリート劣化因子検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートにおける塩化物イオン濃度などの劣化因子の濃度を測定する際には、図3に示すような分光分析装置111が用いられている。
【0003】
図3に示すように、従来の分光分析装置111は、近赤外光を出射する光源112と、測定対象となるコンクリート表面に配置され、光源112から出射用光ファイバ113を介して入射された光をコンクリート表面に照射し、その反射光を入射用光ファイバ114に入射させるプローブヘッド115と、入射用光ファイバ114に入射された反射光のスペクトルを測定する分光器116と、分光器116で測定した反射光のスペクトルを基に劣化因子の濃度を演算する演算手段(図示せず)とを備えている。近赤外光を出射する光源112としては、ハロゲンランプが一般に用いられている。
【0004】
この分光分析装置111を用いて劣化因子の濃度を測定する際には、作業者がプローブヘッド115をコンクリート表面の測定位置に配置し、光源112から出射された近赤外光を出射用光ファイバ113の出射端からコンクリート表面に出射すると共に、入射用光ファイバ114の入射端より入射されたコンクリート表面からの反射光を、入射用光ファイバ114を介して分光器116に入射し、分光器116にて反射光のスペクトルを測定し、その測定した反射光のスペクトルを基に劣化因子の濃度を検出する。測定位置を移動させながら劣化因子の濃度の検出を繰返すことで、測定対象となるコンクリート表面の劣化因子濃度分布を検出することができる。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−156809号公報
【特許文献2】特開2007−78657号公報
【特許文献3】特許第4108013号公報
【特許文献4】特開2009−139098号公報
【特許文献5】特開2005−77350号公報
【特許文献6】特開2008−224649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、反射光のスペクトルから劣化因子の濃度を求める方法としては、ケモメトリックス手法(特許文献1)や差スペクトル法(特許文献2)など様々な方法が提案されているが、いずれの手法においても、予め求めておいた検量線を用いて劣化因子の濃度を求める点は共通している。
【0008】
検量線の方式(検量線のパラメータ)は採用する手法により若干異なるが、例えば、最も一般的なものとして、検出する劣化因子に応じた特定波長の吸光度(例えば、塩化物イオン濃度を検出する場合には、波長2260nm付近の吸光度)と劣化因子の濃度の関係を示すものがある。検量線は、一般的なコンクリート(例えば、普通ポルトランドセメントを用いた水セメント比40〜60程度のコンクリート)を用いて実験を行い、予め求めておくのが通常である。
【0009】
しかしながら、検量線を求める際に用いたコンクリートと、測定対象のコンクリートとは、セメントの種類や配合比等が異なるのが一般的であり、測定対象のコンクリートがどのようなセメントを用いているか、あるいはどのような配合比であるかは不明であることも多い。セメントの種類や配合比等が異なると、特定波長の吸光度と劣化因子の濃度の関係等が変化し検量線が異なってくるため、上述の予め求めた検量線を用いて劣化因子の濃度を検出すると、誤差が大きくなってしまうという問題が生じる。
【0010】
つまり、従来技術では、測定対象となるコンクリートと種類の異なるコンクリートを用いて作成した検量線を用いて評価を行っていることとなり、このような方法では、相対的な評価は行うことができるものの、コンクリート表面の劣化因子の濃度の絶対的な値を精度よく検出することはできない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み為されたものであり、コンクリート表面の劣化因子の濃度を精度よく検出可能なコンクリート劣化因子検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、測定対象となるコンクリート表面の測定位置に光を照射し、前記コンクリート表面からの反射光を分光器に入射して、前記分光器にて反射光のスペクトルを測定し、測定した反射光のスペクトルを基に、前記測定位置での劣化因子の濃度を検出し、前記測定位置を移動させながら劣化因子の濃度の検出を繰返して、前記コンクリート表面での劣化因子濃度分布を検出するコンクリート劣化因子検出方法において、少なくとも1箇所以上の前記測定位置で前記劣化因子の濃度を実測し、その前記劣化因子の濃度の実測値に基づき、前記コンクリート表面での劣化因子濃度分布を補正するようにしたコンクリート劣化因子検出方法である。
【0013】
前記劣化因子の濃度の実測は、前記測定位置の前記コンクリート表面を削り、その削り粉に含まれる劣化因子の濃度を測定することにより行うとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンクリート表面の劣化因子の濃度を精度よく検出可能なコンクリート劣化因子検出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係るコンクリート劣化因子検出方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明において、補正前と補正後の劣化因子濃度分布を示すグラフ図である。
【図3】従来の分光分析装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るコンクリート劣化因子検出方法の手順を示すフローチャートである。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係るコンクリート劣化因子検出方法では、まず、ステップS1にて、測定対象となるコンクリート表面において測定位置を移動させつつ分光分析を行い、コンクリート表面での劣化因子濃度分布を検出する。
【0019】
より具体的には、測定対象となるコンクリート表面の測定位置に近赤外光を照射し、コンクリート表面からの反射光を分光器に入射して、分光器にて反射光のスペクトルを測定し、測定した反射光のスペクトルを基に、ケモメトリックス手法や差スペクトル法など公知の方法を用いて測定位置での劣化因子の濃度を検出し、測定位置を移動させながら劣化因子の濃度の検出を繰返して、コンクリート表面での劣化因子濃度分布を検出する。ここでは、一般的なコンクリート(例えば、普通ポルトランドセメントを用いた水セメント比40〜60程度のコンクリート)を用いて予め求めた検量線を基に、反射光のスペクトルから劣化因子の濃度を検出するようにした。
【0020】
コンクリートの劣化要因としては、例えば、塩害、中性化、アルカリ骨材反応、化学的劣化などが挙げられる。検出する劣化因子の濃度は、塩害を診断する場合は塩化物イオン濃度、中性化を診断する場合は炭酸カルシウム濃度(中性化度)となる。また、アルカリ骨材反応を診断する場合は、例えばアルカリ度やシリカ成分などの濃度、化学的劣化を診断する場合は、例えば酸性成分の濃度や硫酸成分の濃度を、劣化因子の濃度として測定することになる。ここでは、一例としてコンクリート表面の塩化物イオン濃度を検出する場合を説明する。
【0021】
ステップS1にて得た劣化因子濃度分布は、検量線を求める際に用いたコンクリートと測定対象のコンクリートの違い(例えば、セメントの種類や配合比等の違い)を考慮しておらず、誤差を含んだ相対的なものであるから、ここでは、仮の劣化因子濃度分布と呼称することにする。
【0022】
その後、ステップS2にて、ステップS1で検出した仮の劣化因子濃度分布から劣化因子の濃度が高い測定位置をピックアップし、ステップS3にて、ステップS2でピックアップした測定位置にてコンクリート表面をグラインダー(サンダー)で削り、削り粉を回収する。本実施の形態では、劣化因子の濃度が最も高い1箇所の測定位置から、削り粉を回収することとした。
【0023】
分光分析ではコンクリート表面の劣化因子の濃度を検出するので、ステップS3では、コンクリートの表面のみ(例えば深さ1〜2mm程度)を削り取って、その削り粉をサンプルとして回収する。削り取る量は、後述するステップS4で分析が可能な程度の量とすればよく、30〜50g程度とすればよい。例えば、コンクリート表面を削る深さを1mmとする場合、20cm×20cm程度の範囲のコンクリート表面を削り取れば、60g程度の削り粉をサンプルとして回収できる。
【0024】
削り粉を回収する際には、グラインダーで削りながら、その削り粉をサイクロン式の吸引機(掃除機)で吸い込んで回収すると効率良く作業を行うことができる。なお、ここでは、コンクリート表面を削る道具としてグラインダーを用いたが、コンクリート表面を削る道具はこれに限定されるものではない。
【0025】
その後、ステップS4にて、ステップS3で回収した削り粉の分析を行い、劣化因子の濃度を実測する。削り粉の分析方法は、特に限定するものではなく、対象となる劣化因子に応じて適宜選択すればよい。本実施の形態では、JISA1154(硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法)に準拠し、塩化物イオン濃度を実測した。
【0026】
これにより、ステップS2でピックアップした測定位置におけるコンクリート表面での劣化因子の濃度の実測値が得られることになる。なお、本実施の形態では、1箇所の測定位置で劣化因子の濃度の実測を行ったが、2箇所以上の測定位置で劣化因子の濃度の実測を行うようにしてもよい。
【0027】
ステップS5では、ステップS4で得た劣化因子の濃度の実測値に基づき、ステップS1で検出した劣化因子濃度分布(仮の劣化因子濃度分布)を補正する。
【0028】
より具体的には、ステップS4で得た劣化因子の濃度の実測値に基づき、反射光のスペクトルから劣化因子の濃度を求める際に用いる検量線の補正を行い、その補正した検量線を用いて劣化因子濃度分布を演算し直すことで、劣化因子濃度分布全体を補正する。
【0029】
例えば、ステップS1で検出した劣化因子濃度分布(仮の劣化因子濃度分布)が図2に破線で示したものであったとすると、ステップS4で得た測定位置Xでの劣化因子の濃度の実測値がAであった場合、図2に実線で示されるような補正後の劣化因子濃度分布(真の劣化因子濃度分布)が得られることになる。
【0030】
ステップS5で検出した劣化因子濃度分布は、実測値を基にキャリブレーションが為されたものであるから、ステップS1で検出した劣化因子濃度分布を仮の劣化因子濃度分布とすれば、真の劣化因子濃度分布ということができ、劣化因子の濃度の絶対的な値を表すものである。
【0031】
その後、ステップS5で検出した劣化因子濃度分布(真の劣化因子濃度分布)を用いて、補修が必要な箇所等を判断することになる。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態に係るコンクリート劣化因子検出方法では、少なくとも1箇所以上の測定位置で劣化因子の濃度を実測し、その劣化因子の濃度の実測値に基づき、コンクリート表面での劣化因子濃度分布を補正するようにしている。
【0033】
本発明により得られた劣化因子濃度分布は、実測値を基にキャリブレーションが為されたもので、劣化因子の濃度の絶対的な値を表すものであるから、補正を行わない従来技術と比較して、コンクリート表面の劣化因子の濃度を精度よく検出することが可能となる。つまり、本発明によれば、検量線を求める際に用いたコンクリートと測定対象のコンクリートとが異なっていたり、あるいは測定対象のコンクリートがどのようなものか不明である場合であっても、コンクリート表面の劣化因子の濃度を精度よく検出することが可能となる。
【0034】
さらに、本発明によれば、最低1箇所で劣化因子の濃度を実測すれば、測定対象のコンクリート表面の全面にわたって定量的な評価を行うことが可能となり、測定作業に要する時間を短縮できる。
【0035】
また、本実施の形態では、測定位置のコンクリート表面を削り、その削り粉に含まれる劣化因子の濃度を測定することにより、劣化因子の濃度の実測を行っているため、測定対象のコンクリートの損傷を最小限に留めることができる。
【0036】
なお、本実施の形態では言及しなかったが、コンクリートをコア抜きして、測定位置におけるコンクリート表面の劣化因子の濃度を実測することも勿論可能である。ただし、この場合、取得したコンクリートコアの表面1〜2mmの部分のみをスライスして分離し、その分離した部分を微粉砕した後、分析作業を行うことになり、作業工数が増加してしまう。また、分析に必要な量(例えば30〜50g程度)のサンプルを得るためには、取得するコンクリートコアの径を大きくしなければならず、測定対象のコンクリートの損傷が大きくなるという問題もある。
【0037】
すなわち、測定位置のコンクリート表面をグラインダー等で削り、その削り粉をサンプルとして用いて劣化因子の濃度の実測を行うようにすることで、コア抜きの場合と比較して作業工数を減少させ、測定対象のコンクリートの損傷を小さくすることができる。また、コア抜きでは修復材等を用いた復旧作業が必須であるが、コンクリート表面を削る方法では、コンクリート表面のみをサンプリングするので削る深さが1〜2mm程度と浅く、削り粉の採取後の面が平滑となるように作業を行っておけば、基本的に復旧作業は不要となり、必要に応じて塗料(例えばグレー系のペイント)を塗るなどの簡単な作業で十分となる。
【0038】
また、本実施の形態では、劣化因子の濃度が高い測定位置にて劣化因子の濃度の実測を行うようにしている。図2を参照すれば分かるように、劣化因子の濃度が高い測定位置ほど、補正前と補正後の劣化因子の濃度の差が大きくなっており、逆に、劣化因子の濃度が低い測定位置ほど、補正前と補正後の劣化因子の濃度の差が小さくなり、劣化因子の濃度がゼロとなる測定位置では、補正前と補正後の劣化因子の濃度は共にゼロで同じ値になる。よって、補正前と補正後の劣化因子の濃度の差が大きくなる測定位置、すなわち劣化因子の濃度が高い測定位置にて劣化因子の濃度の実測を行い、その実測値に基づいて、コンクリート表面での劣化因子濃度分布を補正することで、より正確な補正が可能となり、コンクリート表面の劣化因子の濃度をより精度よく検出することが可能となる。
【0039】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0040】
例えば、上記実施の形態では、劣化因子濃度分布を図2のような折れ線グラフで表示したが、劣化因子濃度分布の表示形式はこれに限らず、劣化因子の濃度の大きさに応じて色分けしてコンター図で表示することも勿論可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となるコンクリート表面の測定位置に光を照射し、前記コンクリート表面からの反射光を分光器に入射して、前記分光器にて反射光のスペクトルを測定し、測定した反射光のスペクトルを基に、前記測定位置での劣化因子の濃度を検出し、
前記測定位置を移動させながら劣化因子の濃度の検出を繰返して、前記コンクリート表面での劣化因子濃度分布を検出するコンクリート劣化因子検出方法において、
少なくとも1箇所以上の前記測定位置で前記劣化因子の濃度を実測し、その前記劣化因子の濃度の実測値に基づき、前記コンクリート表面での劣化因子濃度分布を補正するようにした
ことを特徴とするコンクリート劣化因子検出方法。
【請求項2】
前記劣化因子の濃度の実測は、
前記測定位置の前記コンクリート表面を削り、その削り粉に含まれる劣化因子の濃度を測定することにより行う
請求項1記載のコンクリート劣化因子検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−185002(P2012−185002A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47541(P2011−47541)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(509338994)株式会社IHIインフラシステム (104)
【Fターム(参考)】