説明

コンクリート強度の推定方法、コンクリート強度の推定システム、及び穿孔装置

【課題】コンクリート構造物のコンクリート強度を容易にかつ高精度で推定する。
【解決手段】既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するコンクリート強度の推定方法であって、コンクリート構造物65を砥石ビット55により一定の推進力で切削しながら砥石ビット55の切削速度を計測し、この計測値に基づいてコンクリート構造物65のコンクリート強度を推定する。この場合、予め、コンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物65を製造し、各コンクリート構造物を砥石ビット55により推進力を変えながら切削することにより、各コンクリート構造物に対する砥石ビット55の押付け力と切削速度との関係を求めておき、この求めておいた押付け力と切削速度との関係に基づいて、既存のコンクリート構造物65のコンクリート強度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するコンクリート強度の推定方法、コンクリート強度の推定システム、及び穿孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を測定する方法として、圧縮強度試験機を用いて圧縮強度を測定する方法、反発硬度法により圧縮強度を測定する方法等の様々な方法があり、コンクリート構造物に応じた適宜の測定方法が使用されている。
【0003】
圧縮強度試験機を用いて測定する方法は、JIS(JIS A1107、JIS A1108)に規定されている方法であって、コンクリート構造物からコア試験体を採取し、このコア試験体に対して試験室内において圧縮強度試験機により圧縮強度試験を行うことにより、コンクリート構造物の圧縮強度を求めることができる方法である。また、反発硬度法は、テストハンマーでコンクリート構造物の表面を打撃することにより、その反発硬度から圧縮強度を推定することができ、非破壊で現場で測定できる汎用性の高い方法である。
【非特許文献1】JIS A 1107、コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法
【非特許文献2】JIS A 1108、コンクリートの圧縮強度試験方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、圧縮強度試験機を用いる方法では、コンクリート構造物からコア試験体を採取する作業、コア試験体を試験室に搬入して圧縮強度試験機にセットして圧縮強度試験を行う作業等に多大な労力と時間を費やす。また、反発硬度法による方法では、コンクリート構造物の表面の強度しか求めることができないため、コンクリート構造物の圧縮強度を高精度で求めることができない。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を高精度で、かつ容易に求めることができるコンクリート強度の推定方法、コンクリート強度の推定システム、及び穿孔装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するために、以下のような手段を採用している。
すなわち、請求項1に係る発明は、既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するコンクリート強度の推定方法であって、前記コンクリート構造物を砥石ビットにより一定の推進力で切削しながら該砥石ビットの切削速度を計測し、この計測値に基づいて前記コンクリート構造物のコンクリート強度を推定することを特徴とする。
【0007】
本発明によるコンクリート強度の推定方法によれば、コンクリート構造物を砥石ビットにより切削し、その際に砥石ビットの切削速度を計測することにより、コンクリート構造物のコンクリート強度を推定することができる。従って、コンクリート構造物のコンクリート強度を容易にかつ高精度で推定することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のコンクリート強度の推定方法であって、予め、コンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物を製造し、各コンクリート構造物を砥石ビットにより推進力を変えながら切削することにより、各コンクリート構造物に対する砥石ビットの押付け力と切削速度との関係を求め、この求めた押付け力と切削速度との関係に基づいて、前記既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することを特徴とする。
【0009】
本発明によるコンクリート強度の推定方法によれば、予め求めておいたコンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物に固有の押付け力と切削速度との関係に、推定対象のコンクリート構造物を切削する際に得られた切削速度を当てはめることにより、その切削速度に対応したコンクリート強度を求めることができ、推定対象のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することができる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のコンクリート強度の推定方法であって、前記コンクリート構造物を砥石ビットにより切削する際に、穿孔面が平面で形成される円柱状の砥石ビットと、該砥石ビットを回転駆動させる駆動手段と、該砥石ビットを推進させる推進手段と、前記駆動手段及び前記推進手段を制御する制御手段とを備えた穿孔装置を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明によるコンクリート強度の推定方法によれば、穿孔装置を用い、穿孔装置の駆動手段と推進手段との協働により、砥石ビットを回転させながら一定の推進力で推進させることにより、コンクリート構造物に所定の孔が形成される。そして、このコンクリート構造物に対する穿孔作業の際に、砥石ビットの切削速度を計測することにより、その切削速度に対応したコンクリート強度が得られ、推定対象のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するコンクリート強度の推定システムであって、穿孔面が平面で形成される円柱状の砥石ビットと、該砥石ビットを回転駆動させる駆動手段と、該砥石ビットを推進させる推進手段と、前記駆動手段及び前記推進手段を制御する制御手段とを備えた穿孔装置を用い、前記制御手段に、予め求めておいたコンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物に対する前記砥石ビットの押付け力と切削速度との関係を情報として記憶しておき、この記憶しておいた情報に基づいて、前記既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することを特徴とする。
【0013】
本発明によるコンクリート強度の推定システムによれば、穿孔装置の砥石ビットによりコンクリート構造物に孔を形成する際に、制御手段に記憶させておいた情報(コンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物に対する前記砥石ビットの押付け力と切削速度との関係)に基づいて、推定対象のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することができる。
【0014】
請求項5に係る発明は、穿孔面が平面で形成される円柱状の砥石ビットと、該砥石ビットを回転駆動させる駆動手段と、該砥石ビットを推進させる推進手段と、前記駆動手段及び前記推進手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段には、予め求めておいたコンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物に対する前記砥石ビットの押付け力と切削速度との関係が情報として記憶され、この情報に基づいて、前記既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するように構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明による穿孔装置によれば、穿孔装置の砥石ビットを駆動手段と推進手段との協働により回転させながら推進させることにより、コンクリート構造物に所定の孔が形成される。そして、このコンクリート構造物に対する穿孔作業の際に、制御手段に予め記憶させておいた情報(コンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物に対する砥石ビットの押付け力と切削速度との関係)に基づいて、推定対象のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように、本発明のコンクリート強度の推定方法穿孔方法、コンクリート強度の推定システム、及び穿孔装置によれば、コンクリート構造物を砥石ビットによって切削しながらその切削速度を計測することにより、その計測値からコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することができる。従って、コンクリート構造物からコア試験体を採取する作業、コア試験体を圧縮強度試験機にかけて圧縮強度試験を行う作業等が不要となるので、推定対象のコンクリート構造物のコンクリート強度を容易に推定することができる。
また、コンクリート構造物を切削することにより、コンクリート構造物のコンクリート強度を推定しているので、反発硬度法のようにコンクリート構造物の表面だけを計測するようなことはなく、高精度でコンクリート強度を推定することができる。
さらに、穿孔装置によってコンクリート構造物を切削すればよいので、各種のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するのに適用することが可能となり、汎用性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に示す本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図6には、本発明の一実施の形態が示されていて、本実施の形態は、既存の各種のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するのに有効なものであって、穿孔装置を使用し、穿孔装置によりコンクリート構造物に対して穿孔することにより、コンクリート構造物のコンクリート強度を求めるように構成したものである。
【0018】
すなわち、本実施の形態で使用する穿孔装置1は、図1に示すように、砥石ビット55と、砥石ビット55を回転駆動させる駆動手段30と、砥石ビット55を推進させる推進手段15と、砥石ビット55に流体(磨ぎ水等の液体、空気等の気体、又は液体と気体との混合物等であり、本実施の形態では磨ぎ水を用いている。)を供給する流体供給手段45と、駆動手段30及び推進手段15を支持するフレーム2と、駆動手段30及び推進手段15を制御する制御手段50とを備えている。
【0019】
フレーム2は、図1〜図3に示すように、コンクリート構造物65の上部に真空吸着により固定される基台3と、基台3の上部に垂直に設けられる支持軸13とから構成され、このフレーム2に推進手段15及び駆動手段30が支持されている。
【0020】
基台3は、板状をなすものであって、図2及び図3に示すように、下面側に連通孔5を介して相互に連通する複数の凹部4が設けられ、これらの複数の凹部4のうちの一つには凹部4の内外を貫通する接続口6が設けられ、この接続口6に配管を介して真空ポンプ(図示せず)が接続されている。
【0021】
基台3の各凹部4の開口周縁部には、各凹部4を囲むように環状のパッキン8がそれぞれ一体に設けられ、基台3をコンクリート構造物65の上部に位置した際に、これらのパッキン8によって基台3とコンクリート構造物65との間がシールされ、基台3の各凹部4に対応する部分にそれぞれ密閉された空所7が形成される。そして、この空所7内を真空ポンプにより真空吸引することにより、基台3がコンクリート構造物65の上部に真空吸着され、穿孔装置1の全体がコンクリート構造物65の上部に固定される。
【0022】
基台3の中心部には、図1及び図2に示すように、基台3を上下方向に貫通する貫通孔9が設けられ、この貫通孔9内を後述する砥石ホルダ34及び砥石ホルダ34に取り付けられる砥石ビット55が上下方向から挿通可能に構成されている。
【0023】
貫通孔9の上端開口部には、図1に示すように、環状のガイド10が嵌合され、このガイド10によって砥石ホルダ34が上下方向に移動可能に案内され、砥石ホルダ34に取り付けられる砥石ビット55が回転振れを起こすのが防止される。
【0024】
貫通孔9の下端開口部には、図1に示すように、環状のブッシュ11が嵌合され、このブッシュ11によって砥石ビット55に供給される磨ぎ水、及びコンクリート構造物65に対する穿孔作業の際に生じる切削のろが基台3とコンクリート構造物65との間を介して穿孔装置1の周囲に漏れ出るのが防止される。
【0025】
基台3の内部には、図1に示すように、一端が貫通孔9の内周側に開口し、他端が基台2の外周側に開口する逃し孔12が設けられ、この逃し孔12によって排水路47が構成され、この排水路47を介して流体供給手段45から砥石ビット55に供給される磨ぎ水、及びコンクリート構造物65に対する穿孔作業の際に生じる切削のろが流体供給手段45に戻される。
【0026】
推進手段15は、図1に示すように、支持軸13の外面に沿って上下方向に移動可能に設けられる板状の移動台16と、支持軸13の内部に設けられるとともに、移動台16を上下方向に進退させるアクチュエータ20と、アクチュエータ20を駆動させる圧力供給源21とから構成されている。
【0027】
アクチュエータ20は、直動可能なロッドを有する空圧シリンダ又は油圧シリンダであって、圧力供給源21から配管22及び切替えバルブ23を介してアクチュエータ20に空気圧又は油圧を供給することにより、ロッドが直動するように構成されている。
【0028】
本実施の形態においては、アクチュエータ20に空圧シリンダを用い、圧力供給源21にコンプレッサーを用い、ロッドが上下方向に直動可能となるように、空圧シリンダを支持軸13の内部に設け、空圧シリンダのロッドに移動台16が一体に連結されている。
【0029】
推進手段15の移動台16には、取付け治具17を介して駆動手段30が取り付けられ、アクチュエータ20の作動により移動台16を上下方向に進退させることにより、移動台16に追従して駆動手段30が上下方向に進退する。
【0030】
アクチュエータ20を作動させて駆動手段30を上下方向に進退させることにより、駆動手段30に取り付けられる砥石ビット55に圧力供給源21からの圧力に応じた推進力が付与される。なお、アクチュエータ20に電気、空圧、又は油圧式の回転機を用い、回転機の回転を変換機構により直動に変換することにより、移動台16を上下方向に移動させるように構成してもよい。
【0031】
移動台16には変位検出手段25が設けられ、この変位検出手段25によって移動台16の上下方向の変位、すなわち、移動台16に駆動手段30を介して取り付けられる砥石ビット55の上下方向の変位が検出される。本実施の形態においては、支持軸13にレーザー変位計26を取り付け、レーザー変位計26に対向する移動台16の部分に反射鏡27を取り付け、これらの組合せによって変位検出手段25を構成している。但し、これらの組合せに限らず、砥石ビット55の上下方向の変位を検出できるものであればよい。
【0032】
駆動手段30は、図1に示すように、推進手段15の移動台16に取付け治具17を介して取り付けられて、移動台16と一体に上下方向に移動可能な駆動モータ31と、駆動モータ31の駆動軸32に着脱自在に取付けられるチャック33と、チャック33に着脱自在に取り付けられると砥石ホルダ34とから構成され、砥石ホルダ34に砥石ビット55が着脱自在に取り付けられている。なお、駆動モータ31の代わりに空気圧又は油圧式の回転機を使用してもよい。
【0033】
砥石ホルダ34は、図4に示すように、丸棒状の取付け軸35と、取付け軸35の先端部に一体に連結される円筒状のホルダ本体40とからなり、取付け軸35をチャック33内に挿入し、チャック33を締め付けることにより、砥石ホルダ34がチャック33に取り付けられる。
【0034】
取付け軸35の内部には、一端が周面に開口し、他端が下端面に開口する連通孔36が設けられ、この連通孔36の下端開口部はホルダ本体40の内部に連通している。取付け軸35の外周面には、上下端が閉塞された円筒状のジョイント37が、その中心部を取付け軸35が貫通するように一体に取り付けられ、このジョイント37の内部に取付け軸35の連通孔36の一端開口部が連通している。
【0035】
ジョイント37の周面の一部には、内外を貫通する流入孔38が設けられ、この流入孔38と、ジョイント37の内部と、取付け軸35の連通孔36と、ホルダ本体40の内部と、ホルダ本体40の下端開口部とによって一連の供給路39が構成され、この供給路39を介して流体供給手段45から砥石ビット55に磨ぎ水が供給される。
【0036】
ホルダ本体40の下端開口部内周面は、他の部分よりも大径の取付け部41に形成され、この取付け部41に後述する砥石ビット55の取付け部58が取り付けられる。砥石ホルダ34は、ホルダ本体40がフレーム2の基台3の貫通孔9を挿通可能に構成されるとともに、貫通孔9の上端開口部に設けられているガイド10によって上下方向に移動可能に案内されている。
【0037】
流体供給手段45は、図1に示すように、磨ぎ水を貯留させておく貯留タンク46と、貯留タンク46から供給路39を介して砥石ビット55に磨ぎ水を供給するとともに、砥石ビット55に供給した磨ぎ水を排水路47を介して貯留タンク46に戻すポンプ48と、貯留タンク45から供給される磨ぎ水の量を調整するバルブ(図示せず)とを備え、貯留タンク45には砥石ビット55から戻される磨ぎ水を濾過するフィルタ(図示せず)が設けられている。磨ぎ水としては、特に制限はなく、ゲル状液、泡状液等を使用することができる。
【0038】
砥石ビット55は、図5及び図6に示すように、穿孔面37が平面に形成される円柱状の砥石本体56と、砥石本体56の一端部に一体に設けられる筒状の取付け部58とから構成され、図4に示すように、取付け部58をホルダ本体40の取付け部41に嵌合又は螺合させることにより、砥石ビット55がホルダ本体40に一体に取り付けられる。
【0039】
砥石本体56は、研磨砥粒を結合材で焼結したものであって、周知の各種の砥石を使用することができる。砥石本体56には、中心軸から偏心した位置にコア孔59が軸線方向に貫通した状態で設けられ、砥石ビット55を砥石ホルダ34に取り付けた際に、このコア孔59が取付け部58の内周側を介して砥石ホルダ34の供給路39に連通する。なお、コア孔59が中心軸上に位置するタイプのものを使用してもよい。
【0040】
砥石本体56には、砥石本体56の内外を貫通する孔60が少なくとも1箇所に設けられ、この孔60を介して磨ぎ水及び切削のろが砥石ビット55のコア孔59の内外間で循環し、砥石ビット55のコア孔59内に磨ぎ水及び切削のろが封入され、砥石ビット55とコンクリート構造物65との間の摩擦熱が上昇するのを防止している。
【0041】
なお、図7に示すように、砥石ビット55の砥石本体56の穿孔面57に、コア孔59の内外を貫通するスリット61を少なくとも1箇所に設け、このスリット61を介して磨ぎ水及び切削のろをコア孔59の内外間で循環させるように構成してもよい。
【0042】
制御手段50は、図1に示すように、推進手段15の圧力供給源21及び駆動手段30の駆動モータ31の電源29を制御するように構成されている。また、制御手段50には、予め求めておいた、砥石ビット55のコンクリート構造物65に対する穿孔作業の情報(一定の推進力(押付け力)における穿孔深さと穿孔時間との関係(図8参照))が記憶されており、この情報に基づいて、砥石ビット55の駆動モータ31及び圧力供給源21が穿孔開始から一定時間経過後に停止するように制御される。
【0043】
そして、上記のように構成したる穿孔装置1をコンクリート構造物65の上部の所定の位置に位置し、真空ポンプを作動させてフレーム2の基台3をコンクリート構造物65の上部に真空吸着させ、穿孔装置1をコンクリート構造物65の上部に固定する。
【0044】
そして、電源29を入れて駆動モータ31を作動させて、砥石ホルダ34を介して砥石ビット55を回転させ、流体供給手段45のポンプ48を作動させて、貯留タンク46と砥石ビット55のコア孔59との間で磨ぎ水を循環させ、アクチュエータ20を作動させて、移動台16、駆動モータ31、及び砥石ホルダ34を介して砥石ビット55を下方に一定の推進速度で推進させることにより、コンクリート構造物65を砥石ビット55によって下方に向かって穿孔され、コンクリート構造物65に所定の径、深さの孔70が形成される。
【0045】
ここで、上記の穿孔装置1によりコンクリート構造物65を穿孔することにより求められた、砥石ビット55の推進力(押込み力)が一定の場合の切削時間と切削深さとの関係を図8に示す。図8において、(a)は押込み力を45.5N、(b)は押込み力を53.8N、(c)は押込み力を61.5N、(d)は押込み力を76.9Nとしている。また、横軸が切削時間、縦軸が切削深さである。
【0046】
この実験結果から、砥石ビット55がコンクリート構造物65に接触し、切削が開始されると、切削時間と共に切削深さは増加し、切削深さは緩やかな曲線をとりながら変化するが、ほぼ比例関係を示す直線的な軌跡をとることが分かる。軌跡が変化しているのは、コンクリート構造物65の内部にある各種の骨材の影響と考えられる。
【0047】
また、切削深さは、時間と共に増加するが、ある点(変曲点)を境界として一定となる。つまり、切削されない状態となる。押込み力が61.5N以下の場合には、時間が経過してもこの状態が続く。これは、砥石ビット55が埋設物(CD管)に接触し、摩擦抵抗が低減することによりすべり状態となり、その結果、それ以上の切削が不可能になっていることを示している。一方、押付け力が76.9Nの場合には、切削深さは変曲点で一定の値をとるが、ある時間がくると、パルス状に変化することが分かる。これは、変曲点で砥石ビット55にすべりは生じるが押込み力が大きいために埋設物(CD管)の表面を切削し、遂には埋設物(CD管)を貫通したことを示している。
【0048】
次に、図8の実験結果から求めた押付け力(推進力)と切削速度(推進速度)との関係を図9に示す。
この結果から、切削速度は押付け力にほぼ比例した値をとり、また、コンクリート強度が高いほど、その勾配が小さくなり、さらに、埋設物(CD管)が貫通されない押付け力は、コンクリート強度に関わらず、ほぼ60N程度であることが分かる。つまり、この値は、埋設物(CD管)の材料強度に依存することと予想されるので、予めその強度を調べておくことにより、埋設物(CD管)毎に切削できない押付け力を求めることができる。
【0049】
次に、図9の結果を基にして書き換えることにより、図10に示すように、切削速度とコンクリート強度との関係が求まる。
押付け力毎にマイナス勾配の直線となり、この結果により、上述した穿孔装置1によりコンクリート構造物65に対して切削を行い、押付け力が既知で、切削速度が分かれば、切削しているコンクリート構造物65のコンクリート強度を推定できることになる。
【0050】
上記のように構成した本実施の形態によるコンクリート強度の推定方法、コンクリート強度の推定システム、及び穿孔装置1にあっては、砥石ビット55によってコンクリート構造物65を切削して孔70を形成する際に、砥石ビット55による切削速度を計測し、その計測した切削速度からコンクリート強度を推定することができる。従って、圧縮強度試験機を用いて圧縮強度を求める場合のように、コンクリート構造物からコア試験体を採取し、その採取したコア試験体を試験室に搬入する必要がなく、現場において容易にコンクリート構造物65のコンクリート強度を推定することができる。
【0051】
また、コンクリート構造物65に孔70を形成することにより、コンクリート構造物65のコンクリート強度を推定しているので、反発硬度法のように、表面だけの強度しか推定できないようなことはなく、高い精度でコンクリート強度を推定することができる。
【0052】
なお、前記の説明においては、偏心した位置にコア孔59を有する砥石ビット55を使用したが、図示はしないが、中心部にコア孔を有する砥石ビットを使用してもよいし、コア孔のないタイプの砥石ビットを使用してもよいし、それらの砥石ビットを使用した場合であっても、コンクリート強度を容易にかつ高精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による穿孔装置の一実施の形態を示した概略図である。
【図2】図1のフレームの基台の下面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図1の砥石ホルダの断面図である。
【図5】図1の砥石ビットの斜視図である。
【図6】図5の砥石ビットの断面図であって、コンクリート構造物に対する穿孔作業の状態を示した説明図である。
【図7】砥石ビットの変形例を示した斜視図である。
【図8】所定の押込み力における砥石ビットのコンクリート構造物に対する切削時間と切削深さとの関係を示した説明図である。
【図9】図8の切削時間と切削深さとの関係から求めた、押付け力と切削速度との関係を示した説明図である。
【図10】図9の押付け力と切削速度との関係から求めた、切削速度とコンクリート強度との関係を示した説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 穿孔装置 2 フレーム
3 基台 4 凹部
5 連通孔 6 接続口
7 空所 8 パッキン
9 貫通孔 10 ガイド
11 ブッシュ 12 逃げ孔
13 支持軸 15 推進手段
16 移動台 17 取付け治具
20 アクチュエータ 21 圧力供給源
22 配管 23 切替えバルブ
25 変位検出手段 26 レーザー変位計
27 反射鏡 29 電源
30 駆動手段 31 駆動モータ
32 駆動軸 33 チャック
34 砥石ホルダ 35 取付け軸
36 連通孔 37 ジョイント
38 流入孔 39 供給路
40 ホルダ本体 41 取付け部
45 流体供給手段 46 貯留タンク
47 排水路 48 ポンプ
50 制御手段 55 砥石ビット
56 砥石本体 57 穿孔面
58 取付け部 59 コア孔
60 孔 61 スリット
65 コンクリート構造物 70 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するコンクリート強度の推定方法であって、
前記コンクリート構造物を砥石ビットにより一定の推進力で切削しながら該砥石ビットの切削速度を計測し、この計測値に基づいて前記コンクリート構造物のコンクリート強度を推定することを特徴とするコンクリート強度の推定方法。
【請求項2】
予め、コンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物を製造し、各コンクリート構造物を砥石ビットにより推進力を変えながら切削することにより、各コンクリート構造物に対する砥石ビットの押付け力と切削速度との関係を求め、この求めた押付け力と切削速度との関係に基づいて、前記既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート強度の推定方法。
【請求項3】
前記コンクリート構造物を砥石ビットにより切削する際に、穿孔面が平面で形成される円柱状の砥石ビットと、該砥石ビットを回転駆動させる駆動手段と、該砥石ビットを推進させる推進手段と、前記駆動手段及び前記推進手段を制御する制御手段とを備えた穿孔装置を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート強度の推定方法。
【請求項4】
既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するコンクリート強度の推定システムであって、
穿孔面が平面で形成される円柱状の砥石ビットと、該砥石ビットを回転駆動させる駆動手段と、該砥石ビットを推進させる推進手段と、前記駆動手段及び前記推進手段を制御する制御手段とを備えた穿孔装置を用い、
前記制御手段に、予め求めておいたコンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物に対する前記砥石ビットの押付け力と切削速度との関係を情報として記憶しておき、この記憶しておいた情報に基づいて、前記既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定することを特徴とするコンクリート強度の推定システム。
【請求項5】
穿孔面が平面で形成される円柱状の砥石ビットと、該砥石ビットを回転駆動させる駆動手段と、該砥石ビットを推進させる推進手段と、前記駆動手段及び前記推進手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段には、予め求めておいたコンクリート強度の異なる複数のコンクリート構造物に対する前記砥石ビットの押付け力と切削速度との関係が情報として記憶され、この情報に基づいて、前記既存のコンクリート構造物のコンクリート強度を推定するように構成されていることを特徴とする穿孔装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−128831(P2008−128831A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314445(P2006−314445)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】