説明

コンクリート杭の健全性評価支援装置、健全性評価支援方法及び健全性評価支援プログラム

【課題】コンクリート杭の健全性を高精度で評価することのできるコンクリート杭の健全性評価支援装置、健全性評価支援方法及び健全性評価支援プログラムを得る。
【解決手段】測定装置30の測定ヘッド40により、健全性の評価対象とするコンクリート杭50に対して、当該コンクリート杭50の軸方向に形成された測定孔50Aの表面から弾性波を送波すると共に、送波した弾性波のコンクリート杭50の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波し、パーソナル・コンピュータ20により、受波した反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換して、当該速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報をコンクリート杭50の健全性の評価を支援する情報として表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート杭の健全性評価支援装置、健全性評価支援方法及び健全性評価支援プログラムに係り、より詳しくは、コンクリート杭の健全性の低侵襲での評価を支援する健全性評価支援装置、健全性評価支援方法及び健全性評価支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、杭基礎の建物の建て替え時や、基礎免震改修時、あるいは新築時等において、場所打ちコンクリート杭や地中連続壁杭、あるいは既製コンクリート杭等のコンクリート杭の健全性を低侵襲かつ高精度で評価することのできる技術が要望されている。
【0003】
この要望に応えるために適用できる従来の技術として、コンクリート杭に設けられた調査孔から弾性波、又は音波、又は超音波を用いてパルスエコー法によりコンクリート杭の健全性を検査する技術があった(例えば、特許文献1〜特許文献6参照。)。
【0004】
この技術は、本質的にソナーや超音波探傷と同様の超音波パルスエコー法を用いる探査技術であり、コンクリート杭の既設孔や掘削して設けた調査孔に弾性波、又は音波、又は超音波を送波する送波器と受波器を挿入して、送波器から送波された振動波を受波器により受波することによって得られた反射弾性波、又は反射音波、又は反射超音波の音圧パルスの振幅(エンベロープ)、又は音圧波形から伝搬時間を求めて、音響インピーダンスが変化している境界面までの距離を算出することにより、コンクリート杭の形状や鉄筋、ひびの位置等を調査しようとする技術である。
【特許文献1】特開平11−271284号公報
【特許文献2】特開2000−73389号公報
【特許文献3】特開2001−153638号公報
【特許文献4】特開2003−337015号公報
【特許文献5】特開2004−293213号公報
【特許文献6】特開2005−30802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、コンクリート杭の健全性を、必ずしも高精度で評価することができるとは限らない、という問題点があった。
【0006】
すなわち、コンクリート杭の健全性を高精度で評価できるようにするためには、高空間分解能で反射波を受波する必要があり、このためには、短パルス幅であり、かつ波長の短いパルス波を送波する必要がある。例えば、コンクリート杭の外形形状を捉えるだけでなく、太さが5mm程度の鉄筋を識別するためには、少なくとも波長が2mm以下であり、パルス幅が1波長である超音波(音速が4000m/秒であれば2MHz以上の周波数のもの)を適用する必要がある。
【0007】
これに対し、一例として図10(A)に示されるように、コンクリートは超音波を著しく減衰させる性質があるため、一例として図10(B)に示されるように、弾性波をコンクリート杭の外周面まで到達させて反射波を得るためには当該弾性波の波長を出来るだけ長くする(周波数を低くする)必要があるが、この場合は、コンクリート杭の内部に設けられた鉄筋が検出できなかったり、空間分解能が著しく低くなってしまったりする。
【0008】
また、パルス幅が短いパルス波を発生させることは送波器を作る上で技術的に困難な問題である。
【0009】
このように、高空間分解能を実現するために必要な短パルス幅かつ短波長の条件と、コンクリート杭の外周面や損傷箇所あるいは内部に敷設された鉄筋等からの反射波を得るために必要な長波長の条件とが相反するため、上記従来の技術では、コンクリート杭の健全性を高精度で評価することは著しく困難なのである。
【0010】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、コンクリート杭の健全性を高精度で評価することのできるコンクリート杭の健全性評価支援装置、健全性評価支援方法及び健全性評価支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載のコンクリート杭の健全性評価支援装置は、健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波を送波する送波手段と、前記送波手段により送波された弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波する受波手段と、前記受波手段により受波された反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換する変換手段と、前記変換手段によって得られた前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示する表示手段と、を備えている。
【0012】
請求項1記載の発明によれば、送波手段により、健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波が送波され、受波手段により、前記送波手段によって送波された弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波が、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波される。なお、上記受波手段には、コンデンサ・マイク、圧電型トランスデューサ、加速度センサ、レーザー変位計等の音圧センサが含まれる。
【0013】
ここで、本発明では、変換手段により、前記受波手段によって受波された反射波が速度ポテンシャルのインパルス応答に変換され、表示手段により、前記変換手段によって得られた前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報が前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示される。なお、上記表示手段による表示には、ディスプレイ装置等による可視表示、画像形成装置等による永久可視表示、音声合成装置等による可聴表示が含まれる。
【0014】
すなわち、弾性波の反射波を音圧により検出する場合、音圧は音響インピーダンスの不連続性によって生じるものであるので、反射波は反射体(コンクリート杭の外周面や損傷箇所、コンクリート杭の内部に鉄筋が設けられている場合の当該鉄筋等)の角点からしか得ることができない。このため、一例として図11(A)に示されるように、反射体が連続していても、音圧波形から鮮明に見えるのは音響インピーダンスが不連続となる境界部分すなわち最短経路と最長経路のみである。
【0015】
これに対し、速度ポテンシャルのインパルス応答は、一例として図11(B)に示されるように、反射体の途中部分からの反射も良好に捉えることができる。
【0016】
そこで、本発明では、受波手段により、音圧を時系列に検出することによって受波された反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換し、当該速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を表示するようにしており、これによってコンクリート杭の健全性を高精度で評価することができるようにしている。
【0017】
このように、請求項1に記載のコンクリート杭の健全性評価支援装置によれば、健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波を送波すると共に、送波した弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波し、受波した反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換して、当該速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示しているので、測定可能距離範囲を伸ばすためにコンクリートによる弾性波減衰効果を受け難い波長域の弾性波を用いても、時系列データのサンプリング速度に対応する空間分解能を得ることができ、コンクリート杭の健全性を高精度で評価することができる。
【0018】
ところで、本発明の発明者らによる鋭意検討の結果、音圧波形を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換するためには、時間領域での逆コンボリューション演算による変換が有効であることが判明した。以下、この原理について説明する。なお、上記逆コンボリューション演算は、「デコンボリューション演算」、「逆畳み込み」等とも呼ばれるが、本明細書では、「逆コンボリューション」と統一して表記する。
【0019】
上記空間分解能を向上させるための技術としてインパルス応答を推定する技術があり、当該技術として、逆コンボリューション法、逆フィルタ法、クロススペクトル法等の推定アルゴリズムが提案されている。
【0020】
これらのアルゴリズムで従来から利用されている高速フーリエ変換(「FFT」(Fast Fourier Transform))は、処理波形の連続性を仮定した演算であり、変換によって高周波成分を生じないように処理波形の最初と最後の標本値が略一致するようにゼロクロス補償を行うか、又は窓関数を用いる必要がある。従って、反響が長く尾を引く場合の標本区間の制約や窓関数の影響を顕著に受ける欠点がある。
【0021】
そこで、本発明の発明者らは、時間領域での演算のみで構成され、標本区間の制約がなく、演算負荷が比較的小さな推定アルゴリズムを導出した。
【0022】
すなわち、一例として図12に示されるように、ある線形因果システムに入力した有限長送信波の離散化標本をx(i=0,1,2,・・・,m)とし、推定される系のインパルス応答をg(j=0,1,2,・・・,n)とすれば、推定受信波Oは、x=g=O=0(i<0)の条件を満たすとき、次の(1)式で与えられる。
【0023】
【数1】

時刻jの応答はmだけ尾を引くので、インパルス応答gを推定するための情報は実測受信波S(k=0,1,2,・・・,n+m)の時刻j〜j+mの標本に含まれている。このことから、gの推定誤差Eを次の(2)式で定義する。
【0024】
【数2】

上記(2)式の括弧内をg成分を含まない項(S−O+gk−j)と含む項gk−jに分離して表記し、未知数であるg成分以外を定数と考えて整理すれば、次式及び図13で示されるように、推定誤差Eは常にgを変数とする放物線となることがわかる。
【0025】
【数3】

推定誤差Eはgに関して常に放物線であるので、gを現在の状態から放物線の軸値に変更することにより推定誤差Eは改善され、極小値となる。(3)式より軸値は次の(7)式となる。
【0026】
【数4】

送信波が変化しない限り、(7)式における次の(8)式の部分は変化しないので、最初に1回だけ計算しておけばよい。
【0027】
【数5】

なお、図14と図17には、上記(7)式を用いてインパルス応答(音圧インパルス応答)を推定する場合の各種波形を示すグラフの一例が示されている。図14は送信波とインパルス応答を設定して得られた受信波から推定したもので、図17は送信波のパルス幅が長い場合のものである。
【0028】
図14と図17に示されるように、送波した弾性波パルスの波長よりも空間分解能が高いことがわかる。
【0029】
ところで、弾性波を送波したときの反射波を受波してコンクリート杭の健全性を評価する場合には、インパルス応答g(t)(音圧インパルス応答)を求めるよりも音圧ステップ応答(速度ポテンシャルのインパルス応答)を求める方が3次元的な解析を行う目的にかなっている。
【0030】
速度ポテンシャルφ(t)と音圧P(t)の関係を次の(9)式で示す。ここで、ρは媒質密度である。
【0031】
【数6】

なお、図15には、速度ポテンシャルのインパルス応答の一例が示されている。
【0032】
一方、次の(10)式で示される重要な関係が成立する。なお、(10)式における‘*’は畳み込み積分演算記号を表す。
【0033】
【数7】

すなわち、(7)式においてxに代えてx’(微分値)を使えば、速度ポテンシャルのインパルス応答が推定できる。ここで、速度ポテンシャルのインパルス応答は瞬時音源立体角を意味する。すなわち、ある瞬間において受波点に到来する音波の反射点の受波点から見た立体角を示している。
【0034】
なお、図16には、上記微分値を用いて音圧ステップ応答(速度ポテンシャルのインパルス応答)を推定する場合の各種波形を示すグラフの一例が示されている。
【0035】
同図に示されるように、速度ポテンシャルのインパルス応答はパルス幅やパルス波の波長によらず、高い空間分解能であることがわかる。
【0036】
他方、従来のフーリエ変換を用いてインパルス応答を解析する技術では、送信波x(t)のフーリエ変換をX(jω)、受信波S(t)のフーリエ変換をS(jω)、インパルス応答g(t)のフーリエ変換をG(jω)とすると、次の関係が成立する。
【0037】
【数8】

従って、フーリエ変換をF()、逆フーリエ変換をF−1()と表記すれば、理論的には次の(13)式でインパルス応答g(t)を推定することが可能である。
【0038】
【数9】

しかしながら、フーリエ変換に際しては波形の連続性を仮定できなければならないので、時間波形の最初と最後の標本値は連続的に段差なく繋がる値(0または略同値)でなければならず、窓関数等の補償計算が必要となる。また、高速フーリエ変換(FFT)を使うためには、標本数が2個である必要がある。
【0039】
以上の原理より、本発明は、請求項2に記載の発明のように、前記変換手段が、前記反射波に対して時間領域での逆コンボリューション演算を行うことにより前記速度ポテンシャルのインパルス応答を得るものとすることが好ましい。これにより、測定可能距離範囲を伸ばすためにコンクリートによる弾性波減衰効果を受け難い波長域の弾性波を用いても、時系列データのサンプリング速度に対応する空間分解能が得られ、より簡易かつ高精度で、コンクリート杭の健全性を評価することができる。
【0040】
また、本発明は、請求項3に記載の発明のように、前記弾性波が、超音波の波長域を除く波長域の弾性波であるものとしてもよい。これにより、前記弾性波を超音波とした場合に比較して、コンクリートによる減衰を抑制することができる結果、測定可能距離範囲をより拡大すると共に、より高精度でコンクリート杭の健全性を評価することができる。
【0041】
また、本発明は、請求項4に記載の発明のように、前記受波手段が、前記音圧に代えて、前記反射波による前記測定孔の表面の変位量、加速度又は粒子速度を時系列に検出することにより前記反射波を受波し、前記変換手段が、前記受波手段によって受波された前記変位量、加速度又は粒子速度を音圧に換算し、当該音圧により示される前記反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換するものとしてもよい。これにより、受波手段の構成上の自由度を増加させることができる結果、本発明を簡易に実現することができる。なお、上記加速度を検出するときの受波手段には、圧電型トランスデューサ、静電容量型加速度センサ等の加速度センサが含まれ、上記変位量、粒子速度を検出するときの受波手段には、レーザー変位計等の変位センサ、粒子速度センサが含まれる。
【0042】
ところで、本発明によれば、コンクリートに対して深部まで到達し、反射波が得られるような低い周波数の弾性波を用いても、受信時のサンプリング周波数を上げることにより、空間分解能をいくらでも向上させることができる。このため、一例として図18に示されるように、コンクリート杭の内部に存在する鉄筋からの反射波も受波することができるため、原理的には鉄筋の配置位置、配置角度等の配置状態も把握することができる。
【0043】
そこで、本発明は、請求項5に記載の発明のように、前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報が、前記コンクリート杭の外周面までの距離、損傷状態及び前記コンクリート杭の内部における鉄筋の配置状態の少なくとも一つを示す情報であるものとしてもよい。これにより、コンクリート杭の外周面までの距離、損傷状態及び前記コンクリート杭の内部における鉄筋の配置状態の少なくとも一つを容易に把握することができる。
【0044】
一方、上記目的を達成するために、請求項6記載のコンクリート杭の健全性評価支援方法は、健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波を送波する送波工程と、前記送波工程により送波された弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波する受波工程と、前記受波工程により受波された反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換する変換工程と、前記変換工程によって得られた前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示する表示工程と、を有するものである。
【0045】
従って、請求項6記載のコンクリート杭の健全性評価支援方法によれば、請求項1記載の発明と同様に作用するので、請求項1記載の発明と同様に、測定可能距離範囲を伸ばすためにコンクリートによる弾性波減衰効果を受け難い波長域の弾性波を用いても、時系列データのサンプリング速度に対応する空間分解能を得ることができ、コンクリート杭の健全性を高精度で評価することができる。
【0046】
なお、請求項6記載の発明は、請求項7に記載の発明のように、前記変換工程が、前記反射波に対して時間領域での逆コンボリューション演算を行うことにより前記速度ポテンシャルのインパルス応答を得るものとしてもよい。これにより、より簡易かつ高精度で、コンクリート杭の健全性を評価することができる。
【0047】
また、請求項6又は請求項7に記載の発明は、請求項8に記載の発明のように、前記弾性波が、超音波の波長域を除く波長域の弾性波であるものとしてもよい。これにより、前記弾性波を超音波とした場合に比較して、コンクリートによる減衰を抑制することができる結果、より高精度でコンクリート杭の健全性を評価することができる。
【0048】
一方、上記目的を達成するために、請求項9記載のコンクリート杭の健全性評価支援プログラムは、健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波を送波する送波ステップと、前記送波ステップにより送波された弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波する受波ステップと、前記受波ステップにより受波された反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換する変換ステップと、前記変換ステップによって得られた前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示する表示ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0049】
従って、請求項9記載のコンクリート杭の健全性評価支援プログラムによれば、コンピュータに対して請求項1記載の発明と同様に作用させることができるので、請求項1記載の発明と同様に、測定可能距離範囲を伸ばすためにコンクリートによる弾性波減衰効果を受け難い波長域の弾性波を用いても、時系列データのサンプリング速度に対応する空間分解能を得ることができ、コンクリート杭の健全性を高精度で評価することができる。
【0050】
なお、請求項9記載の発明は、請求項10に記載の発明のように、前記変換ステップが、前記反射波に対して時間領域での逆コンボリューション演算を行うことにより前記速度ポテンシャルのインパルス応答を得るものとしてもよい。これにより、より簡易かつ高精度で、コンクリート杭の健全性を評価することができる。
【0051】
また、請求項9又は請求項10に記載の発明は、請求項11に記載の発明のように、前記弾性波が、超音波の波長域を除く波長域の弾性波であるものとしてもよい。これにより、前記弾性波を超音波とした場合に比較して、コンクリートによる減衰を抑制することができる結果、より高精度でコンクリート杭の健全性を評価することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波を送波すると共に、送波した弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波し、受波した反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換して、当該速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示しているので、測定可能距離範囲を伸ばすためにコンクリートによる弾性波減衰効果を受け難い波長域の弾性波を用いても、時系列データのサンプリング速度に対応する空間分解能を得ることができ、コンクリート杭の健全性を高精度で評価することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0054】
まず、図1〜図6を参照して、本発明が適用されたコンクリート杭の健全性評価支援システム10の構成を説明する。
【0055】
図1に示すように、本実施の形態に係る健全性評価支援システム10は、当該システム10の中核となるパーソナル・コンピュータ(以下、「PC」という。)20と、測定装置30とを含んで構成されている。
【0056】
同図に示されるように、測定装置30は、円筒状で、かつ長尺状とされた支持部32と、当該支持部32の一端部に設けられた測定ヘッド40を有しており、健全性の評価対象とするコンクリート杭50における軸方向に形成された測定孔50Aに対して測定ヘッド40が挿入された状態で、当該測定ヘッド40により、予め定められた波長(本実施の形態では、超音波の波長域を除く波長域の弾性波に含まれる波長)とされた弾性波を送波すると共に、これに応じたコンクリート杭50の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波することによって測定するものである。
【0057】
図2に示すように、本実施の形態に係る測定装置30の測定ヘッド40は、コンクリート杭50に対して上記弾性波を送波する送波器42と、上記反射波を受波する受波器44とを備えている。なお、本実施の形態に係る測定装置30では、同図に示されるように、送波器42が受波器44より測定装置30の先端部(同図下端部)側に設けられている。
【0058】
送波器42は、加振ヘッド42A、保持部42B、スプリング42C、駆動コイル42D、ダンパー42E、及びスプリング42Fを備えている。
【0059】
本実施の形態に係る保持部42Bは、スプリング42C及びスプリング42Fを保持するものであり、送波器42における支持部32の軸線位置に固定配置されている。また、本実施の形態に係る加振ヘッド42Aは円柱状とされており、その軸線方向が支持部32の軸線方向に直交する方向となり、かつ当該直交する方向(同図左右方向)に移動可能に送波器42に設けられている。更に、加振ヘッド42Aの支持部32側の端部は、一端部が保持部42Bに固定されたスプリング42Cの他端部が当接されており、加振ヘッド42Aは、スプリング42Cによってコンクリート杭50の測定孔50Aにおける表面(コンクリート杭50の内面)に向けて付勢されている。なお、本実施の形態では、加振ヘッド42Aとしてフェライト製のものを適用しているが、これに限定されるものではない。
【0060】
また、本実施の形態に係るダンパー42Eもまた円柱状とされており、その軸線方向が支持部32の軸線方向に直交し、かつ加振ヘッド42Aの軸線と一致すると共に、当該軸線の方向(同図左右方向)に移動可能に送波器42に設けられている。また、ダンパー42Eの支持部32側の端部は、一端部が保持部42Bに対して、軸線がスプリング42Cと一致するように固定されたスプリング42Fの他端部が当接されており、ダンパー42Eは、スプリング42Fによってコンクリート杭50の測定孔50Aにおける表面(コンクリート杭50の内面)で、かつ加振ヘッド42Aが当接される面に対向する面に向けて付勢されている。
【0061】
また、駆動コイル42Dは、供給された駆動用の電流の大きさに応じた力で加振ヘッド42Aを、その軸線方向に移動させるものであり、中心部が加振ヘッド42Aの軸線方向中心部より支持部32側に偏倚するように送波器42に対して位置決めされている。従って、加振ヘッド42Aは、駆動コイル42Dに駆動用の電流が供給されていない場合には、スプリング42C及びスプリング42Fによる付勢力により先端部が測定孔50Aの表面に押圧される一方、駆動コイル42Dに駆動用の電流が供給されることによって支持部32側に移動されるものとされており、駆動コイル42Dへの駆動用の電流の供給を周期的に行うことによって弾性波をコンクリート杭50に送波するものとされている。なお、本実施の形態に係る測定装置30では、弾性波の送波時には加振ヘッド42Aの移動は行わず、その先端部を測定孔50Aの表面に接触させたまま、当該表面に対する押圧力(当該表面の応力)を周期的に変えることにより、弾性波を送波するようにしている。
【0062】
一方、受波器44は、一端部に音圧センサ44Aが設けられたセンサ部44B、保持部44C、及びスプリング44Dを備えている。なお、本実施の形態では、音圧センサ44Aとして、コンデンサ・マイクを適用しているが、これに限定されるものではなく、音圧を検出することのできる他のセンサを適用することができることは言うまでもない。
【0063】
本実施の形態に係る保持部44Cは、スプリング44Dを保持するものであり、受波器44における支持部32の軸線位置に固定配置されている。また、本実施の形態に係るセンサ部44Bは円柱状とされており、その軸線方向が加振ヘッド42Aの軸線方向と同一の方向となり、かつ当該方向(同図左右方向)に移動可能に受波器44に設けられている。更に、センサ部44Bの支持部32側(音圧センサ44Aが設けられていない側)の端部は、一端部が保持部44Cに固定されたスプリング44Dの他端部が当接されており、センサ部44Bは、スプリング44Dによってコンクリート杭50の測定孔50Aにおける表面(コンクリート杭50の内面)に向けて付勢されている。
【0064】
ここで、音圧センサ44Aは、センサ部44Bのスプリング44Dが当接されている面の反対側の面に設けられているため、音圧センサ44Aの音圧を検出する面がスプリング44Dによる付勢力により測定孔50Aの表面に押圧される構成とされている。
【0065】
なお、測定ヘッド40における駆動コイル42D及び音圧センサ44Aは不図示の接続ケーブルによりPC20に電気的に接続されており、PC20は、駆動コイル42Dへの駆動用の電流の供給の制御を行うことができると共に、音圧センサ44Aにより検出された音圧波形信号を取得することができる。
【0066】
また、加振ヘッド42A、ダンパー42E、及びセンサ部44Bには、一端部が支持部32の測定ヘッド40が設けられている側とは反対側の端部に露出されたワイヤーの他端部が、当接しているスプリングの軸線方向の内部を貫通させた状態で各々個別に取り付けられており、測定装置30をコンクリート杭50の測定孔50Aに挿入する際には、上記ワイヤーの一端部を把持して引いた状態とすることにより、加振ヘッド42A、ダンパー42E、及びセンサ部44Bを支持部32の軸線側に移動させた状態で、すなわち、測定ヘッド40の全体的な径を小さくした状態で挿入し、所定の測定位置に測定ヘッド40が位置された時点で上記ワイヤーを開放することにより、加振ヘッド42A、ダンパー42E、及びセンサ部44Bを、当接されているスプリングの付勢力によって測定孔50Aの表面に押圧させるものとされている。
【0067】
本実施の形態に係る健全性評価支援システム10は、以上のように構成された測定装置30により、送波器42によって弾性波を送波すると共に、これに応じたコンクリート杭50の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を音圧センサ44Aにより時系列に検出することにより受波し、これによって得られた受信波に基づいてコンクリート杭50の健全性の評価を支援するための情報を表示するものである。
【0068】
なお、図3には、本実施の形態に係る健全性評価支援システム10による測定装置30の使用例が示されている。
【0069】
次に、図4を参照して、本システムにおいて特に重要な役割を有するPC20の電気系の要部構成を説明する。
【0070】
同図に示すように、本実施の形態に係るPC20は、PC20全体の動作を司るCPU(中央処理装置)20Aと、CPU20Aによる各種処理プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM20Bと、各種制御プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM20Cと、各種情報を記憶するための記憶手段として用いられる二次記憶部(ここでは、ハードディスク装置)20Dと、各種情報を入力するために用いられるキーボード20Eと、各種情報を表示するために用いられるディスプレイ20Fと、外部装置との間の各種信号の授受を司る入出力I/F(インタフェース)20Gと、が備えられており、これら各部はシステムバスBUSにより電気的に相互に接続されている。
【0071】
従って、CPU20Aは、RAM20B、ROM20C、及び二次記憶部20Dに対するアクセス、キーボード20Eを介した各種入力情報の取得、ディスプレイ20Fに対する各種情報の表示、及び入出力I/F20Gを介した外部装置との間の各種信号の授受を各々行うことができる。なお、入出力I/F20Gには、測定装置30の駆動コイル42D及び音圧センサ44Aが接続されている。
【0072】
一方、図5には、PC20に備えられた二次記憶部20Dの主な記憶内容が模式的に示されている。同図に示すように、二次記憶部20Dには、各種データベースを記憶するためのデータベース領域DBと、各種処理を行うためのプログラム等を記憶するためのプログラム領域PGとが設けられている。
【0073】
なお、データベース領域DBには、コンクリート杭で用いられるコンクリートの物性を示す情報を記憶するためのコンクリート情報データベースDB1が含まれている。
【0074】
本実施の形態に係るコンクリート情報データベースDB1は、一例として図6に示すように、評価対象とするコンクリート杭で用いられ得るコンクリートの種類を示す種類情報が記憶されると共に、コンクリートの種類毎で、かつ使用が開始されてからの経過年数毎に、弾性波速度及び体積弾性率の各物性情報が予め記憶されたものとして構成されている。
【0075】
なお、上記弾性波速度は、対応する種類のコンクリートの、対応する経過年数における実測された弾性波速度の平均値を示す情報である。
【0076】
また、上記体積弾性率は、対応する種類のコンクリートの、対応する経過年数における実測された体積弾性率の平均値を示す情報である。なお、体積弾性率に代えて、媒質密度を適用する形態とすることもできる。
【0077】
なお、二次記憶部20Dには、測定装置30の送波器42により送波する弾性波を示す情報(以下、「弾性波情報」という。)も予め記憶されている。
【0078】
次に、図7を参照して、本実施の形態に係る健全性評価支援システム10の作用を説明する。なお、図7は、ユーザにより、キーボード20Eを介して実行を指示する指示入力が行われた際にPC20のCPU20Aによって実行される健全性評価支援プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは二次記憶部20Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。また、ここでは、錯綜を回避するため、健全性の評価対象とするコンクリート杭50の測定孔50Aに対して、上述した手順によって測定装置30の測定ヘッド40が測定孔50Aの内部の被測定位置にセットされている場合について説明する。
【0079】
同図のステップ100では、ユーザに対して評価対象とするコンクリート杭の条件を入力させるための初期画面をディスプレイ20Fにより表示し、次のステップ102にて所定情報の入力待ちを行う。
【0080】
図8には、本実施の形態に係る初期画面の表示状態が示されている。同図に示すように、当該初期画面では、評価対象とするコンクリートの種類及び経過年数の入力を促す旨のメッセージと、これらの情報を入力するための矩形枠とが表示される。同図に示されるような初期画面がディスプレイ20Fに表示されると、ユーザは、評価対象とするコンクリートの種類及び経過年数を、対応する矩形枠内にキーボード20Eを介して入力する。これに応じて、上記ステップ102が肯定判定となってステップ104に移行する。
【0081】
ステップ104では、初期画面上でユーザによって入力されたコンクリートの種類及び経過年数に対応する物性量(本実施の形態では、弾性波速度及び体積弾性率)をコンクリート情報データベースDB1から読み出し、次のステップ106では、二次記憶部20Dから上記弾性波情報を読み出した後、測定装置30の送波器42による当該弾性波情報により示される上記弾性波の送波を開始すると共に、受波器44による上記反射波の受波を開始する。この処理により、これ以降、PC20には、測定装置30から反射波を示す音圧波形信号が時系列に順次入力される。
【0082】
そこで、次のステップ108では、測定装置30から入力された反射波を示す音圧波形信号をデジタルデータに変換して二次記憶部20Dの所定領域に記憶し、次のステップ110にて、コンクリート杭50における健全性の評価を行うための期間として予め定められた期間(一例として、10ミリ秒間)が、上記音圧波形信号の記憶の開始時点から経過したか否かを判定して、否定判定となった場合は上記ステップ108に戻る一方、肯定判定となった時点でステップ112に移行し、測定装置30の送波器42による上記弾性波の送波、及び受波器44による上記反射波の受波を停止する。なお、上記ステップ108〜ステップ110の処理を繰り返し実行する際には、上記ステップ108において記憶される音圧波形信号の記憶アドレスを1データ分ずつインクリメントするようにする。
【0083】
次のステップ114では、以上の処理によって二次記憶部20Dの所定領域に記憶された音圧波形信号の時系列データを用いて、前述した(7)式による逆コンボリューション演算(送信波xとして当該送信波xの微分値x’を用いた演算)を行うことにより、当該音圧波形信号を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換する。
【0084】
なお、本実施の形態に係る健全性評価支援プログラムでは、本ステップ114の逆コンボリューション演算として、時刻jから時刻j+mの実測受信波Sを用いて、次の(14)式〜(15)式による演算を収束するまで繰り返し(概ね数千回程度)行う。
【0085】
【数10】

ここで、時刻jから時刻j+mの推定受信波Oを次の(16)式により修正する。
【0086】
【数11】

次のステップ116では、上記ステップ114による逆コンボリューション演算により得られた速度ポテンシャルのインパルス応答と、上記ステップ104の処理によって読み出した物性量とに基づいて、コンクリート杭50の健全性の評価を支援するための情報として予め定められた情報を導出する。
【0087】
なお、本実施の形態に係る健全性評価支援プログラムでは、当該予め定められた情報として、次の(17)式により求められる情報を適用している。ここで、Vpは弾性波速度、tは伝搬時間、dは距離である。
【0088】
【数12】

そして、ステップ116では、導出した情報に基づいて、当該情報をディスプレイ20Fにより表示するための画面情報を構成し、その後に次のステップ118にて、当該画面情報により示される画面(以下、「結果画面」という。)をディスプレイ20Fにより表示し、その後に本健全性評価支援プログラムを終了する。
【0089】
図9には、上記ステップ118の処理によってディスプレイ20Fにより表示される結果画面の表示状態例が示されている。同図に示されるように、当該結果画面では、伝搬距離を横軸とし、縦軸を速度ポテンシャルのインパルス応答値とした図が表示される。ユーザは、このような結果画面を参照することにより、杭外周面までの距離や杭内部の亀裂等の欠陥等を容易に把握することができる結果、コンクリート杭50の健全性を容易かつ高精度に評価することができる。
【0090】
なお、上記健全性評価支援プログラムのステップ106の処理が本発明の送波ステップ及び受波ステップに、ステップ114の処理が本発明の変換手段及び変換ステップに、ステップ116及びステップ118の処理が本発明の表示ステップに、各々相当する。
【0091】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、健全性の評価対象とするコンクリート杭(ここでは、コンクリート杭50)に対して、当該コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔(ここでは、測定孔50A)の表面から弾性波を送波すると共に、送波した弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波し、受波した反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換して、当該速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示しているので、測定可能距離範囲を伸ばすためにコンクリートによる弾性波減衰効果を受け難い波長域の弾性波を用いても、時系列データのサンプリング速度に対応する空間分解能を得ることができるため、コンクリート杭の健全性を高精度で評価することができる。
【0092】
また、本実施の形態では、前記反射波に対して時間領域での逆コンボリューション演算を行うことにより前記速度ポテンシャルのインパルス応答を得ているので、より簡易かつ高精度で、コンクリート杭の健全性を評価することができる。
【0093】
また、本実施の形態では、前記弾性波が、超音波の波長域を除く波長域の弾性波であるものとしているので、前記弾性波を超音波とした場合に比較して、コンクリートによる減衰を抑制することができる結果、測定可能距離範囲を伸ばすためにコンクリートによる弾性波減衰効果を受け難い波長域の弾性波を用いても、時系列データのサンプリング速度に対応する空間分解能を得ることができ、より高精度でコンクリート杭の健全性を評価することができる。
【0094】
更に、本実施の形態では、前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を、前記コンクリート杭の損傷状態を示す情報としているので、コンクリート杭の損傷状態を容易に把握することができる。
【0095】
なお、本実施の形態では、本発明の変換手段がPC20に設けられている場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、測定装置30に設けられている形態や、PC20及び測定装置30とは別体構成とする形態等とすることもできる。この場合、PC20による演算負荷を軽減することができる結果、より高速にコンクリート杭の健全性を評価することができる。
【0096】
また、本実施の形態では、弾性波の送波及び反射波の受波をコンクリート杭に形成された測定孔の表面(コンクリート杭の内面)において行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、コンクリート杭の頂面に対して上記実施の形態と同様の弾性波を送波すると共に、当該頂面から反射波を受波する形態とすることもできる。この場合の形態例としては、本実施の形態に係る測定装置30における送波器42の加振ヘッド42Aと受波器44の音圧センサ44Aとをコンクリート杭の頂面に当接させた状態でダンパー42Eをコンクリート杭の頂面に向けて所定押圧力で押圧し、その状態を維持したまま、PC20にて、前述した健全性評価支援プログラムを実行する形態が例示できる。この場合も、本実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0097】
また、本実施の形態では、反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、上記音圧に代えて、反射波による測定孔の表面の変位量、加速度又は粒子速度を時系列に検出することにより反射波を受波し、受波した変位量、加速度又は粒子速度を音圧に換算して適用する形態とすることもできる。なお、この場合、音圧センサ44Aに代えて加速度センサを用いることによって加速度及び粒子速度を、レーザー変位計を用いることによって変位量を各々検出することができる。この場合は、本発明の受波手段(ここでは、受波器44)の構成上の自由度を増加させることができる結果、本実施の形態に比較して、より簡易に本発明を実現することができる。
【0098】
また、本実施の形態では、コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として、コンクリート杭の損傷状態を示す情報を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、コンクリート杭の内部における鉄筋の配置状態を示す情報を適用する形態とすることもできる。すなわち、本実施の形態に係る健全性評価支援システム10では、一例として図18に示されるように、コンクリート杭の内部に存在する鉄筋からの反射波も受波されるため、原理的には鉄筋の配置位置、配置角度等の配置状態も把握することができるので、その情報を適用するものである。この場合、コンクリート杭の内部における鉄筋の配置状態を容易に把握することができる。
【0099】
また、本実施の形態では、コンクリート杭50の健全性の評価を支援する情報を、ディスプレイ20Fを用いて可視表示する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、プリンタ等を用いて永久可視表示する形態、音声合成装置等を用いて可聴表示する形態等とすることもできる。この場合も、本実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0100】
その他、本実施の形態で説明した健全性評価支援システム10の構成(図1〜図5参照。)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0101】
また、本実施の形態で示した健全性評価支援プログラムの処理の流れ(図7参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において、不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を変更したりすることができることは言うまでもない。
【0102】
また、本実施の形態で示した初期画面及び結果画面の構成(図8及び図9参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0103】
また、本実施の形態で示したコンクリート情報データベースのデータ構造(図6参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0104】
更に、本実施の形態で示した各種演算式((1)式〜(17)式参照。)も一例であり、他の演算式を用いたり、必要に応じて新たなパラメータを追加したり、不要なパラメータを削除したりすることができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施の形態に係る健全性評価支援システムの構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態に係る測定装置の詳細な構成を示す側面断面図である。
【図3】実施の形態に係る健全性評価支援システムによる測定装置の使用例を示す側面断面図である。
【図4】実施の形態に係るパーソナル・コンピュータの電気系の要部構成を示すブロック図である。
【図5】実施の形態に係るパーソナル・コンピュータに備えられた二次記憶部の主な記憶内容を示す模式図である。
【図6】実施の形態に係るコンクリート情報データベースのデータ構造を示す模式図である。
【図7】実施の形態に係る健全性評価支援プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施の形態に係る初期画面の表示状態例を示す概略図である。
【図9】実施の形態に係る結果画面の表示状態例を示す概略図である。
【図10】従来の技術の問題点の説明に供する側面図(一部波形図)である。
【図11】本発明の説明に供する側面図(一部波形図)である。
【図12】本発明の原理の説明に供する波形図である。
【図13】本発明の原理の説明に供するグラフである。
【図14】本発明の原理の説明に供するグラフである。
【図15】本発明の原理の説明に供する波形図(一部模式図)である。
【図16】本発明の原理の説明に供するグラフである。
【図17】本発明の原理の説明に供する図であり、パルス幅の長い音圧波形から音圧インパルス応答を求めることにより空間分解能を高めることができることを示すグラフである。
【図18】本発明の原理の説明及び実施の形態の変形例の説明に供する図であり、速度ポテンシャルのインパルス応答に基づいて鉄筋の配置・距離情報を抽出する過程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0106】
10 健全性評価支援システム
20 パーソナル・コンピュータ
20A CPU(変換手段)
20F ディスプレイ(表示手段)
30 測定装置
40 測定ヘッド
42 送波器(送波手段)
44 受波器(受波手段)
50 コンクリート杭
50A 測定孔
DB1 コンクリート情報データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波を送波する送波手段と、
前記送波手段により送波された弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波する受波手段と、
前記受波手段により受波された反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換する変換手段と、
前記変換手段によって得られた前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示する表示手段と、
を備えたコンクリート杭の健全性評価支援装置。
【請求項2】
前記変換手段は、前記反射波に対して時間領域での逆コンボリューション演算を行うことにより前記速度ポテンシャルのインパルス応答を得る
請求項1記載のコンクリート杭の健全性評価支援装置。
【請求項3】
前記弾性波は、超音波の波長域を除く波長域の弾性波である
請求項1又は請求項2記載のコンクリート杭の健全性評価支援装置。
【請求項4】
前記受波手段は、前記音圧に代えて、前記反射波による前記測定孔の表面の変位量、加速度又は粒子速度を時系列に検出することにより前記反射波を受波し、
前記変換手段は、前記受波手段によって受波された前記変位量、加速度又は粒子速度を音圧に換算し、当該音圧により示される前記反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換する
請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のコンクリート杭の健全性評価支援装置。
【請求項5】
前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報は、前記コンクリート杭の外周面までの距離、損傷状態及び前記コンクリート杭の内部における鉄筋の配置状態の少なくとも一つを示す情報である
請求項1乃至請求項4の何れか1項記載のコンクリート杭の健全性評価支援装置。
【請求項6】
健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波を送波する送波工程と、
前記送波工程により送波された弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波する受波工程と、
前記受波工程により受波された反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換する変換工程と、
前記変換工程によって得られた前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示する表示工程と、
を有するコンクリート杭の健全性評価支援方法。
【請求項7】
前記変換工程は、前記反射波に対して時間領域での逆コンボリューション演算を行うことにより前記速度ポテンシャルのインパルス応答を得る
請求項6記載のコンクリート杭の健全性評価支援方法。
【請求項8】
前記弾性波は、超音波の波長域を除く波長域の弾性波である
請求項6又は請求項7記載のコンクリート杭の健全性評価支援方法。
【請求項9】
健全性の評価対象とするコンクリート杭に対して、前記コンクリート杭の軸方向に形成された測定孔の表面又は前記コンクリート杭の頂面から弾性波を送波する送波ステップと、
前記送波ステップにより送波された弾性波の前記コンクリート杭の外周面及び内部からの反射波を、当該反射波による音圧を時系列に検出することにより受波する受波ステップと、
前記受波ステップにより受波された反射波を速度ポテンシャルのインパルス応答に変換する変換ステップと、
前記変換ステップによって得られた前記速度ポテンシャルのインパルス応答に基づく情報を前記コンクリート杭の健全性の評価を支援する情報として表示する表示ステップと、
をコンピュータに実行させるコンクリート杭の健全性評価支援プログラム。
【請求項10】
前記変換ステップは、前記反射波に対して時間領域での逆コンボリューション演算を行うことにより前記速度ポテンシャルのインパルス応答を得る
請求項9記載のコンクリート杭の健全性評価支援プログラム。
【請求項11】
前記弾性波は、超音波の波長域を除く波長域の弾性波である
請求項9又は請求項10記載のコンクリート杭の健全性評価支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−185426(P2008−185426A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18510(P2007−18510)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】