説明

コンクリート柱状体の補強方法

【課題】接着剤の塗布作業の簡素化等を図る。
【解決手段】アラミド繊維シート1の片面1aにシリコン接着剤2を塗布し(図1(a) 参照)、該シート1をロール状に丸めて他面1bに該接着剤2を付着させる(同図(b) 参照)。その後、該シート1を伸ばしながらコンクリート柱状体3に巻き付け(同図(c)
参照)、接着剤の付着漏れ部分4にはシリコン接着剤2を追加塗布する(同図(d) 参照)。シート1を丸めるだけで他面1bに接着剤2が付着するので、該面1bへの接着剤2の塗布作業を軽減することができる。また、該シリコン接着剤2は、耐候性を有しているのでコーティング膜を別に塗布する必要が無く、その点でも作業の簡素化を図ることができる。さらに、該シリコン接着剤2は、エポキシ樹脂と比較して硬化時間が短いので、その点においても作業の簡素化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続繊維シートを巻き付けてコンクリート柱状体を補強する、コンクリート柱状体の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続繊維シートを巻き付けてコンクリート構造物を補強することが行なわれており、接着剤としてはエポキシ樹脂が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、コンクリート構造物の従来の補強方法の一例を示すフローチャート図であり、コンクリート表面の付着物除去や平坦化処理やプライマーの塗布を行なった後、
・ エポキシ樹脂の下塗り(S11)
・ 連続繊維シートのコンクリート表面への貼り付け(S12)
・ エポキシ樹脂の上塗り(S13)
・ 仕上げ工(S14)
が行なわれていた。
【特許文献1】特開2005−48500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような方法では、連続繊維シートの表裏両面に樹脂を含浸させるために2回の塗布作業が必要となり(S11及びS13参照)、その作業が煩雑であった。また、エポキシ樹脂は耐候性に劣るため、コンクリートの補強部分においてはエポキシ樹脂を覆い隠すようにコーティング剤を塗布しなければならず、作業の手間やコストの上昇という問題があった。さらに、エポキシ樹脂は硬化するまでに24時間程度の時間が掛かるので、人が通行するような場所においては人が触れないような対策(仮囲いなど)を取らなくてはならず、作業が煩雑になってしまうという問題もあった。
【0005】
本発明は、上述の問題を解消するコンクリート柱状体の補強方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、図1に例示するものであって、連続繊維シート(1)を巻き付けてコンクリート柱状体(3)を補強する、コンクリート柱状体(3)の補強方法において、
前記連続繊維シート(1)の一の面(1a)にシリコン接着剤(2)を塗布する工程(同図(a) 参照)と、
該一の面(1a)に塗布されたシリコン接着剤(2)の少なくとも一部が反対側の他の面(1b)に付着するように前記連続繊維シート(1)をロール状に丸める工程(同図(b) 参照)と、
該丸めた連続繊維シート(1)を伸ばしながら前記コンクリート柱状体(3)の外周面(3a)に巻き付ける工程(同図(c) 参照)と、
シリコン接着剤(2)が付着せずに連続繊維シート(1)が露出している部分(4)にシリコン接着剤(2)を塗布する工程(同図(d) 参照)と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記連続繊維シート(1)をロール状に丸める工程は、前記一の面(1a)が内側になるようにすることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記連続繊維シート(1)の前記コンクリート柱状体(3)への巻き付けは螺旋状に行なうことを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、前記シリコン接着剤(2)は湿気硬化型であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発明において、前記連続繊維シート(1)はアラミド繊維シートであることを特徴とする。
【0011】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1及び5に係る発明によれば、連続繊維シートをロール状に丸めることにより他の面に接着剤が付着することとなるので、該面への接着剤塗布の手間が軽減される。また、接着剤をコンクリート表面(垂直面や天井面)に塗布しなければならない場合にはその作業自体(姿勢自体)が大変であるが、本発明によれば、接着剤の塗布はコンクリート表面に対してではなくシートに対して下向き姿勢で行なえば良いので、その作業を比較的楽にすることができる。さらに、本発明によれば、連続繊維シートを巻き付けた後で、接着剤が付着していない部分(シートが露出している部分)には接着剤の追加塗布が行なわれ、これにより、連続繊維シートの全体がシリコン層で覆われることとなるが、このシリコンは耐候性に富み、張り紙防止効果や汚れ防止効果もあるので、エポキシ樹脂を用いたときのようにコーティング剤を塗布する必要が無い。したがって、コーティング剤を必要としない分、作業の手間やコストの上昇や工期の長期化を抑えることができる。また、連続繊維シートの全体がシリコン層で覆われることとなるが、その結果、シートの内側のシリコン層と外側のシリコン層とが連続形成されて該シートを表裏から包み込む形となって、該シートの剥離を抑制するという効果を奏する。さらに、本発明に使用するシリコン接着剤はエポキシ樹脂に比べて硬化時間が短いので、作業時間の短縮化を図ることができる。また、本発明によれば、連続繊維シートはロール状に丸めるので、持ち運びに便利であり、コンクリート柱状体への巻き付け作業も簡単になる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、シリコン接着剤の手等への付着を低減することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、連続繊維シートの幅は補強エリアの幅よりもずっと狭くすることができる。その結果、シリコン接着剤の塗布や、該シートのロール巻きや、該シートのコンクリート柱状体への巻き付けを手軽に行なうことができ、作業時間を短くし、シリコン接着剤の硬化前に速やかに作業を完了させることができる。また、シートの幅を狭くすれば、作業車(自動車や高所作業車)や作業台のような狭い場所でも接着剤塗布作業等を行なうことができ、便利である。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、シリコン接着剤を塗布した後、シートをコンクリート柱状体に巻き付けるまでは、シートを丸めた状態にするので、該接着剤と空気中の水分との反応を穏やかにすることができ、接着剤の硬化速度を遅くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1乃至図3に沿って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ここで、図1は、本発明に係るコンクリート柱状体の補強方法の一例を説明するための模式図であり、図2は、本発明に係るコンクリート柱状体の補強方法の一例を示すフローチャート図であり、図3は、連続繊維シート巻き付け部の状態を示す断面図である。
【0017】
本発明に係るコンクリート柱状体の補強方法は、図1(c) に例示するように、連続繊維シート1を巻き付けてコンクリート柱状体3を補強する方法であって、
・ 連続繊維シート1の一の面1aに、好ましくはそのほぼ全面にシリコン接着剤2を塗布する工程(図1(a) 及び図2のS1参照)と、
・ 該一の面1aに塗布されたシリコン接着剤2の少なくとも一部が反対側の面(以下、“他の面”とする)1bに付着するように前記連続繊維シート1をロール状に丸める(巻く)工程(図1(b) 及び図2のS2参照)と、
・ 該丸めた連続繊維シート1を伸ばしながらコンクリート柱状体3の外周面3aに巻き付ける工程(図1(c) 及び図2のS3参照)と、
・ シリコン接着剤2が付着しておらず連続繊維シート1が露出している部分4にシリコン接着剤2を塗布する工程(図1(d) 及び図2のS4参照)と、
からなる。
【0018】
上述の方法によれば、連続繊維シート1をロール状に丸めることにより他の面1bに接着剤2が付着することとなるので、該面1bへの接着剤塗布の手間が軽減される。また、接着剤をコンクリート表面(垂直面や天井面)に塗布しなければならない場合にはその作業自体(姿勢自体)が大変であるが、本発明によれば、図1(a) に示すような接着剤2の塗布はコンクリート表面に対してではなくシート1に対して下向き姿勢で行なえば良いので、その作業を比較的楽にすることができる。
【0019】
本発明によれば、連続繊維シート1を巻き付けた後で、接着剤2が付着していない部分(シート1が露出している部分であって、接着剤2の付着漏れ部分)4には接着剤2の追加塗布が行なわれ(図1(d) 参照)、これにより、連続繊維シート1の全体がシリコン層で覆われることとなるが、このシリコンは耐候性に富み、張り紙防止効果や汚れ防止効果もあるので、エポキシ樹脂を用いたときのようにコーティング剤を塗布する必要が無い。したがって、コーティング剤を必要としない分、作業の手間やコストの上昇や工期の長期化を抑えることができる。また、連続繊維シート1の全体がシリコン層で覆われることとなるが(図3の符号2B,2C,2A参照)、その結果、シートの内側のシリコン層(例えば、符号2D参照)と外側のシリコン層(例えば、符号2B,2C参照)とが連続形成されて該シート(符号1B参照)を表裏から包み込む形となって、該シート1Bの剥離を抑制するという効果を奏する。
【0020】
一方、本発明に使用するシリコン接着剤2はエポキシ樹脂に比べて硬化時間が短いので、作業時間の短縮化を図ることができる。また、硬化時間が短いので、エポキシ樹脂のときのような仮囲いなどを設ける必要が無く、作業の簡素化を図ることができる。
【0021】
また、本発明によれば、連続繊維シート1はロール状に丸めるので、持ち運びに便利であり、コンクリート柱状体3への巻き付け作業も簡単になる。前記一の面1aが外側ではなく内側になるように前記連続繊維シート1を丸めた場合には、シリコン接着剤2の手等への付着を低減することができる。
【0022】
さらに、前記連続繊維シート1のコンクリート柱状体3への巻き付けは、図1(c) に破線の矢印で示すように、螺旋状に行なうと良い。その場合、シート1の幅(図1(c) の符号d参照)は補強エリアの幅(図1(d)
の符号d参照)よりもずっと狭くできる。シート1が、例えば、10cm程度の幅であっても螺旋状に何回も巻き付ければ、50cm〜1m程度の幅を補強することができる。そして、シート1の幅dを狭くすれば、シリコン接着剤2の塗布や、該シート1のロール巻きや、該シート1のコンクリート柱状体3への巻き付けを手軽に行なうことができ、作業時間を短くし、シリコン接着剤の硬化前に速やかに作業を完了させることができる。また、シート1の幅dを狭くすれば、作業車(自動車や高所作業車)や作業台のような狭い場所でも接着剤塗布作業等を行なうことができ、便利である。
【0023】
ところで、シリコン接着剤2としては、湿気硬化型(つまり、空気中の水分と化学反応して硬化するタイプ)の1液室温硬化タイプを用いると良い。なお、タックフリーまでの時間は、シリコン接着剤2を塗布してからシート1の巻き付け作業完了までに掛かる時間を考慮して決定すると良い。本発明者らは、下表の特性のシリコン接着剤を用いてアラミド繊維シートを実際に接着してみたが、良好に作業を行なうことができた。
【表1】

【0024】
シリコン接着剤は、一般に使用されているエポキシ樹脂に比べると、線膨張係数は小さく、引張弾性率も小さい(下表参照)。したがって、連続繊維シートの接着のための接着剤を単にエポキシ樹脂からシリコン接着剤に変更しただけでは、十分な接着強度は得られない。本発明では、連続繊維シート1を上述のように螺旋状に巻き付けると共に、連続繊維シート1の巻き始め部分と巻き終わり部分とを、図3に示すように2重以上に重ねて巻くことにより、接着強度の問題を解消している。すなわち、シート1を重ねて巻くようにすると、内側のシート(図3の符号1A参照)は外側のシート(同図の符号1B参照)で押さえ付けられることとなり、シリコン接着剤と相俟って、十分な接着強度を得ることができる。なお、シリコン接着剤の硬化時間を適正に設定してやると、連続繊維シート1のコンクリート柱状体3への巻き付け作業や接着剤の追加塗布作業を行なっている間に該接着剤が順次硬化するようになり、シート1の剥離は全く生じないようにすることができる。連続繊維シート1を上述のように螺旋状に巻き付ける場合、巻き始め部分及び巻き終わり部分以外の部分は、重ならないように巻き付けると良い。
【表2】

【0025】
ところで、本実施の形態においては、シリコン接着剤2を塗布した後に連続繊維シート1をロール状に丸めるようになっているが、シリコン接着剤2の使用と相俟って特有の効果を奏する。つまり、本実施の形態では、上述のように湿気硬化型のシリコン接着剤2を使用するが、該接着剤2を塗布した後、シート1をコンクリート柱状体3に巻き付けるまでは、シート1を丸めた状態にするので、該接着剤2と空気中の水分との反応を穏やかにすることができ、接着剤2の硬化速度を遅くすることができる。したがって、シート1のコンクリート柱状体3への巻き付けに多少手間取ったとしても、シリコン接着剤2の硬化を回避できるというメリットがある。
【0026】
そして、このようなシリコン接着剤2の使用により、シリコン接着剤本体のメリットを利用することができる。例えば、エポキシ樹脂のように季節に応じて素材を調整する必要が無いので、素材調整の手間や、使用できなくなった樹脂の廃棄が不要となる。
【0027】
なお、連続繊維シート1としてはアラミド繊維シートを挙げることができる。また、シリコン接着剤2の塗布はゴムべら(符号5参照)で行なうと良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明に係るコンクリート柱状体の補強方法の一例を説明するための模式図である。
【図2】図2は、本発明に係るコンクリート柱状体の補強方法の一例を示すフローチャート図である。
【図3】図3は、連続繊維シート巻き付け部の状態を示す断面図である。
【図4】図4は、コンクリート構造物の従来の補強方法の一例を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0029】
1 連続繊維シート(アラミド繊維シート)
1a 一の面
1b 他の面
2 シリコン接着剤
3 コンクリート柱状体
3a 外周面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維シートを巻き付けてコンクリート柱状体を補強する、コンクリート柱状体の補強方法において、
前記連続繊維シートの一の面にシリコン接着剤を塗布する工程と、
該一の面に塗布されたシリコン接着剤の少なくとも一部が反対側の他の面に付着するように前記連続繊維シートをロール状に丸める工程と、
該丸めた連続繊維シートを伸ばしながら前記コンクリート柱状体の外周面に巻き付ける工程と、
シリコン接着剤が付着せずに連続繊維シートが露出している部分にシリコン接着剤を塗布する工程と、
を備えたことを特徴とするコンクリート柱状体の補強方法。
【請求項2】
前記連続繊維シートをロール状に丸める工程は、前記一の面が内側になるようにする、
ことを特徴とする請求項1に記載の、コンクリート柱状体の補強方法。
【請求項3】
前記連続繊維シートの前記コンクリート柱状体への巻き付けは螺旋状に行なう、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の、コンクリート柱状体の補強方法。
【請求項4】
前記シリコン接着剤は湿気硬化型である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の、コンクリート柱状体の補強方法。
【請求項5】
前記連続繊維シートはアラミド繊維シートである、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の、コンクリート柱状体の補強方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate