説明

コンクリート構造体

【課題】コンクリート構造体の材料であるコンクリートに繊維を混合し、コンクリート構造体も引張強度を負担できるようにすることで、断面積の狭いコンクリート構造体を提供することを目的とした。
【解決手段】水によって硬化されたセメント1と、セメントの間に混合された骨材2と、セメントの間に混合された繊維3と、を配合し、コンクリート構造体10が引張応力を負担でき、セメントの間に埋設された鉄筋4を有するコンクリート構造体11とすることで、鉄筋4の量を最小限にしつつコンクリート構造体11の断面積を狭くすることができ、また、中空の柱状12にも成形し得るコンクリート構造体とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断面が狭くとも十分な引張強度を得られるコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造体は、建築や土木の構造体として多く用いられてきた(例えば、非特許文献1を参照。)。しかし、補強されていないコンクリート構造体の圧縮強度は引張強度の10倍程度であるため(例えば、非特許文献2を参照。)、引張応力に抗する補強を必要としていた。
【0003】
例えば、補強に鉄筋を用いることにより、鉄筋がコンクリート構造体に加えられる引張応力を負担し、コンクリート構造体及び鉄筋がコンクリート構造体に加えられる圧縮応力を負担する。なお、コンクリート構造体の材料であるコンクリート中は水酸化カルシウムや、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属イオンによってアルカリ性に保たれているため、鉄筋は不働態と呼ばれる状態となり、極めて腐食しにくく(例えば、非特許文献2を参照。)、さらに、鉄筋は引張応力に抗する補強線材としてコンクリート構造体と組み合わされることで、設計上、複合材料として扱うことができる(例えば、非特許文献3を参照。)。よって、鉄筋は補強線材として、引張強度、耐久性及び設計の容易さに優れているため、従来より補強のために広く用いられてきた。
【0004】
また、近年では断面積が狭いコンクリート構造体で高い強度を得ることが期待されている。日本の国土、特に狭小な面積の都市地域において、コンクリート構造体の断面積を狭くすることで、建造物による占有面積を抑え、狭小な面積を有効に活用するためである。また、コンクリート構造物の材料コストの問題から、コンクリート構造体の断面積を狭くすることが要求される。
【非特許文献1】齋藤博之著、「CORROSION RATE OF STEEL BARS IN CONCRETE IN THE INDOOR AND OUTDOOR CONDITIONS」、電子情報通信学会総合大会講演論文集2003年エレクトロニクス(2)、2003年発行、p5
【非特許文献2】岡田清著、「コンクリートの耐久性」、朝倉書店、1986年発行、pp.133−135
【非特許文献3】日本コンクリート協会ホームページ、2008年9月29日検索
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、コンクリート構造体は、圧縮強度に対する引張強度の割合が小さく、補強をする必要がある。しかし、補強しようとすると、鉄筋を初めとする補強線材は、一定のコンクリートのかぶり厚さを要するため、コンクリート構造体の断面積を一定以上狭くすることができない。
【0006】
そこで本発明では、コンクリート構造体の材料であるコンクリートに繊維を混合し、コンクリート構造体も引張強度を負担できるようにすることで、断面積の狭いコンクリート構造体を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るコンクリート構造体は、セメント、骨材、水と共に繊維を配合し、コンクリート構造体の引張強度を向上させる構成とした。
【0008】
具体的には、本発明に係るコンクリート構造体は、セメントと、前記セメントに混合された水と、前記セメントの間に混合された骨材と、前記セメントの間に混合された繊維と、を配合したコンクリート構造体とした。
【0009】
この構成によれば、コンクリート構造体は、混合された繊維によって引張強度を向上させることができるので、コンクリート構造体の断面積を狭くすることができる。
【0010】
また、本発明に係るコンクリート構造体に混合された前記繊維の長さは、前記コンクリート構造体の長さ以上であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、コンクリート構造体は、材料であるコンクリートに混合された繊維を補強線材として用いることができるため、補強しなくとも引張強度及び圧縮強度を保つことができる。
【0012】
また、本発明に係るコンクリート構造体に混合された前記繊維の長さは、2mm以上であり、かつ、直径の20倍以上であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、コンクリート構造体は、コンクリート構造体の寸法に合わせた繊維の寸法を選択することができるため、コンクリート構造体の寸法に応じた引張強度を得ることができる。
【0014】
また、本発明に係るコンクリート構造体は、前記セメントの間に埋設された鉄筋を有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、コンクリート構造体は、混合された繊維及び埋設された鉄筋を補強のために併用することができるため、高い引張強度及び圧縮強度を得ることができる。
【0016】
また、本発明に係るコンクリート構造体に混合された前記繊維は、金属繊維であることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、金属繊維は、コンクリート構造体の引張強度を高めつつ、材料であるコンクリート中で不働態となり腐食を防ぐことができる。
【0018】
また、本発明に係るコンクリート構造体に混合された前記金属繊維は、炭素鋼繊維であることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、炭素鋼繊維は、コンクリート構造体の引張強度を高めつつ、材料であるコンクリート中で不働態となり腐食を防ぐことができる。
【0020】
また、本発明に係るコンクリート構造体は、中空の柱状に成形されてもよい。
【0021】
この構成によれば、コンクリート構造体は、材料であるコンクリートに混合された繊維によってコンクリート構造体の引張強度及び圧縮強度を高められたことと相まって、コンクリート構造体を中空の柱状に成形することによって軽量化が可能になる。
【0022】
なお、上記構成は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、コンクリート構造体の材料であるコンクリートに繊維を混合し、コンクリート構造体も引張強度を負担できるようにすることで、断面積の狭いコンクリート構造体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0025】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の第一の実施形態に係るコンクリート構造体10の断面概略図である。図1において、1は水によって硬化されたセメント、2はセメントの体積を補充する骨材、3はコンクリート構造体10の引張強度を向上させる繊維である。
【0026】
図1において、本発明に係るコンクリート構造体は、セメント1と、水によって硬化されたセメント1に混合された水と、水によって硬化されたセメント1の間に混合された骨材2と、水によって硬化されたセメント1の間に混合された繊維3と、を配合した。
【0027】
水によって硬化されたセメント1は、水と水によって水和し硬化するセメントとを混合して生成され、コンクリート構造体10の材料であるコンクリートの原料となる。水によって硬化されたセメント1に混合される水の量は、コンクリート構造体10の使用目的に応じて設定される。一般的な土木、建築の用途であれば、水とセメントとの重量比を5〜60%とするが、本発明においては、8〜25%とするのが好ましい。骨材2は、コンクリート構造体10の材料であるコンクリートに混合される砂利や砂であり、水によって硬化されたセメント1の体積を補充する。適当な硬度があり、泥などの有機物を含有、付着せず、吸水量及び塩分が少なく、粒径が均一である等の条件を満たしている必要がある。なお、最大粒度2mm以下のものが好ましい。繊維3は、コンクリート構造体10の材料であるコンクリートに混合され、直線又は曲線形状であり、金属、有機物、無機物であることが好ましい。
【0028】
また、繊維3の直径を1〜20mm、繊維3の長さをコンクリート構造体10の長さ以上とすることで、繊維3を補強線材の代わりに用いることができる。このため、コンクリート構造体10は、引張強度及び圧縮強度を得ることができ、コンクリート構造体10の断面積を狭くすることができる。さらに、繊維3とは別に補強線材を用いないことで軽量化することができる。
【0029】
そして、繊維3の長さは、2mm以上であり、かつ、直径の20倍以上であることが好ましい。コンクリート構造体10の寸法、或いは形状に合わせた繊維3の寸法を選択することができる。例えば、コンクリート構造体10が柱状である場合には、柱の長さと等しい線形状とすることで鉄筋4による補強と同様の効果を得ることができる。
【0030】
ここで、繊維3の材質は金属繊維が好ましく、鉄、ニッケル、クロム、チタン及びそれらを含む合金が適しているが、鉄系の合金、特に炭素鋼繊維であることが好ましい。前述したように、コンクリート構造体10の材料であるコンクリート中で不働態となって腐食を防止できる。
【0031】
次に、コンクリート構造体10の材料であるコンクリートの生成過程を説明する。まず、水によって硬化されたセメント1、骨材2、繊維3を混合する。必要に応じてミキサーによって混合したり、分散剤を添加することで分散効率を向上させることができる。分散剤は、疎水基と親水基を同時に分子内に持つ物質を適宜使用することができる。例えば、ポリオール複合体、オキシカルボン酸塩、リグニンスルホン酸塩、クレオソート、油スルホン三ホルマリン縮合体、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合体が挙げられる。
【0032】
コンクリート構造体10の材料であるコンクリートの生成の際は、充分に硬化するまで、常時一定以上の温度及び規定の水分含有量を保たなければならない。これを養生という。例えば、水分が余分に加わると、コンクリート表面において水分過多となり強度を損ない、見栄えも悪くなる。本発明に係るコンクリート構造体10の材料であるコンクリートにおける養生は、常温の外気中に一週間から二ヶ月程度放置する、又は水中や蒸気中に同程度の期間保管する。また、蒸気として、例えば90℃の水を使うこともできる。
【0033】
以上の過程によって、水によって硬化されたセメント1、骨材2、繊維3からなるコンクリート構造体10の材料であるコンクリートができる。コンクリートを型枠によって成形すれば、目的とする形状のコンクリート構造体10とすることができる。
【0034】
次に、図2においてコンクリート構造体10の無負荷状態と曲げ状態との関係を説明するための概略図を示す。図2(a)は、無負荷状態のコンクリート構造体10の正面概略図、(b)は、コンクリート構造体10が曲げ応力を受けている状態を示す正面概略図であり、A面は引っ張られ、B面は圧縮されている。前述のように、一般的なコンクリート構造体は引張応力に弱く、圧縮応力に強い。このため、図2(b)のような曲げ応力を一般的なコンクリート構造体が受けた場合、引張応力が作用するA面は損壊する。しかし、本発明に係るコンクリート構造体10は、図2(b)のような曲げ応力を受けたとしても、コンクリート構造体10が引張応力を負担できるため、断面積を狭くしても、A面に作用する引張応力を支えることができる。
【0035】
(第二の実施形態)
図3は、本発明の第二の実施形態に係るコンクリート構造体11の断面概略図である。図3において、1は水によって硬化されたセメント、2はセメントの体積を補充する骨材、3はコンクリート構造体11の材料であるコンクリートに混合される直線又は曲線形状の繊維である。4はコンクリート構造体11中に埋設される鉄筋である。
【0036】
図3において、本発明に係るコンクリート構造体11は、第一の実施形態の構成に加え、水によって硬化されたセメント1の間に埋設された鉄筋4を有する。鉄筋4を有するため、繊維3と共にコンクリート構造体11を補強することができ、鉄筋4の量を最小限にしつつ、コンクリート構造体11の断面積を狭くすることができる。それ以外の構成は第一の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0037】
コンクリート構造体は、内側が中実であってもよいが、図4に示すコンクリート構造体12の切断面の断面概略図のように、中空の柱状に成形することもできる。また、中実、中空に関わらず、コンクリート構造体12の先端部、或いは末端部にテーパ加工を施してもよい。図4(a)は、(b)の中空の柱状に成形されたコンクリート構造体12のA−A切断面の断面概略図、(b)は、(a)の中空の柱状に成形されたコンクリート構造体12のB−B切断面の断面概略図である。コンクリート構造体12は断面積が狭くても十分な引張強度があるため、より軽量な中空の柱状に成形できる。成形の過程で前述した要素を適宜組み合わせることもできる。例えば、コンクリートに混合する繊維3を複数の種類とすることで、より高い引張強度及び圧縮強度を持たせることもでき、長さと直径の比が20以上の炭素鋼繊維と組み合わせることもできる。また、鉄筋4による補強も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のコンクリート構造体は、例えば、電柱などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るコンクリート構造体10の断面概略図である。
【図2】コンクリート構造体10の無負荷状態と曲げ状態との関係を説明するための断面概略図である。
【図3】本発明の第二の実施形態に係るコンクリート構造体11の断面概略図である。
【図4】中空の柱状に成形されたコンクリート構造体12の切断面の断面概略図であり、図4(a)は、(b)の中空の柱状に成形されたコンクリート構造体12のA−A切断面の断面概略図、(b)は、(a)の中空の柱状に成形されたコンクリート構造体12のB−B切断面の断面概略図である。
【符号の説明】
【0040】
1:水によって硬化されたセメント
2:骨材
3:繊維
4:鉄筋
10:第一の実施形態に係るコンクリート構造体
11:第二の実施形態に係るコンクリート構造体
12:中空の柱状に形成されたコンクリート構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、
前記セメントに混合された水と、
前記セメントの間に混合された骨材と、
前記セメントの間に混合された繊維と、
を配合したコンクリート構造体。
【請求項2】
前記繊維の長さは、前記コンクリート構造体の長さ以上であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造体。
【請求項3】
前記繊維の長さは、2mm以上であり、かつ、直径の20倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造体。
【請求項4】
前記コンクリート構造体は、前記セメントの間に埋設された鉄筋を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のコンクリート構造体。
【請求項5】
前記繊維は、金属繊維であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のコンクリート構造体。
【請求項6】
前記金属繊維は、炭素鋼繊維であることを特徴とする請求項5に記載のコンクリート構造体。
【請求項7】
中空の柱状に成形された請求項1から6のいずれかに記載されたコンクリート構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−132499(P2010−132499A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310390(P2008−310390)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】