コンクリート構造物の劣化診断方法
【課題】三次元写真画像と赤外線温度差画像とを合成することにより、劣化部分を判定して、その位置や大きさを正確に表示した正面図と断面図を容易に作成することができるコンクリート構造物の劣化診断方法を提供するものである。
【解決手段】被検査面となるコンクリート構造物の表面をデジタルカメラで撮影し、このデジタル写真画像から三次元写真画像を作成し、同様に赤外線カメラで撮影し、これを異なる時間に複数回繰り返して撮影して複数枚の三次元赤外線画像を作成し、低い温度状態で撮影した画像と、高い温度状態で撮影した画像と比較して赤外線温度差画像を作成し、これと前記三次元写真画像とを合成して合成三次元写真画像を作成し、これから劣化部分を診断し、劣化部分を表示した正面図および断面図を作成することを特徴とするものである。
【解決手段】被検査面となるコンクリート構造物の表面をデジタルカメラで撮影し、このデジタル写真画像から三次元写真画像を作成し、同様に赤外線カメラで撮影し、これを異なる時間に複数回繰り返して撮影して複数枚の三次元赤外線画像を作成し、低い温度状態で撮影した画像と、高い温度状態で撮影した画像と比較して赤外線温度差画像を作成し、これと前記三次元写真画像とを合成して合成三次元写真画像を作成し、これから劣化部分を診断し、劣化部分を表示した正面図および断面図を作成することを特徴とするものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の劣化診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モルタルコンクリート法面の劣化診断は、作業者が急峻なモルタルコンクリート法面に昇って、目視や打撃により劣化箇所や劣化状態を確認し、その位置を特定しながら図面に記入し、欠陥個所を表示した図面を作成していた。しかしながら、道路脇の急峻なモルタルコンクリート法面に昇って作業するため、危険な作業であり、その安全対策を十分に確保する必要がある上、極めて作業性が悪く、その診断コストが高くなり、また作業期間が長期化する問題があった。
【0003】
このため、近年はモルタルコンクリート法面や橋梁地覆、ビルの外壁などを赤外線カメラで撮影し、放射温度データが周辺の温度より高いことや、低温度時に撮影した画像と、高温度時に撮影した画像との差から得られる高温度差の部分に、コンクリート表面やモルタル表面に浮きや剥離が存在し、また背面に空洞があることを推定して劣化診断する方法が行なわれている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
しかしながらモルタル吹き付けの法面や橋梁地覆は、表面に凹凸や隅角部などがある三次元の立体であり、特に凸部は温度上昇が大きく、また凹部は温度上昇が低いため、この表面形状を正しく評価しないと、表面の浮きや剥離、また背面の空洞化の部分を判断できず正確な診断が行なえない問題があった
【特許文献1】特開平05ー045314
【特許文献2】特開平05ー203597
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題を改善し、三次元写真画像と赤外線温度差画像とを合成することにより、劣化部分を判定して、その位置や大きさを正確に表示した正面図と断面図を容易に作成することができるコンクリート構造物の劣化診断方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、(1)少なくとも異なる2地点以上から、被検査面となる基準点を設けたコンクリート構造物の表面をデジタルカメラで撮影し、このデジタル写真画像から三次元写真画像を作成する三次元写真画像作成手段と、(2)前記撮影地点からコンクリート構造物の表面を赤外線カメラで撮影し、これを異なる時間に複数回繰り返して撮影し、この赤外線画像から複数枚の三次元赤外線画像を作成する三次元赤外線画像作成手段と、(3)異なる時間で撮影した複数枚の三次元赤外線画像を、その低い温度状態で撮影した画像と、高い温度状態で撮影した画像と比較して、その温度差に対応する色に表示した赤外線温度差画像を作成する赤外線温度差画像作成手段と、
(4)この赤外線温度差画像と前記三次元写真画像とを合成する合成三次元写真画像作成手段と、(5)この合成三次元写真画像からコンクリート表面の温度差データを用いて劣化部分を表示する劣化診断手段と、(6)補正した合成三次元写真画像から劣化部分を表示した正面図および断面図を作成する設計図作成手段と、からなることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項2記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、被検査面となるコンクリート構造物の表面を縦または横方向に複数に分割し、この分割された境界を基準点として、デジタルカメラまたは赤外線カメラで撮影し、分割された画像を縦または横方向に組み合わせることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項3記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、被検査面となるコンクリート構造物の基準点に標識を設置して、ここから所定の間隔で標識を設置してデジタルカメラと赤外線カメラで撮影することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項4記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、請求項1のコンクリート構造物の劣化診断方法において、更にレーザー距離計で撮影地点から被検査面となるコンクリート構造物の表面までの距離を測定し、この距離データを劣化診断手段の補正データとして使用することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項5記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、被検査面となるコンクリート構造物が、モルタルコンクリート法面、トンネルのコンクリート内壁、コンクリート橋梁またはビルのコンクリート外壁やタイル張り外壁であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る請求項1記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、三次元写真画像と赤外線温度差画像とを合成して、これから劣化部分を判定し、この劣化部分の位置や大きさ、深さなどを正確に表示した正面図と断面図を作成することにより、劣化部分を正確に判定して、補修用の対策を採ることができる。
【0012】
また請求項2記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、被検査面となるコンクリート構造物の表面を縦または横方向に複数に分割し、この分割された境界を基準点として、デジタルカメラまたは赤外線カメラで撮影し、分割された画像を縦または横方向に組み合わせて、劣化部分のより正確な正面図と断面図を作成することができる。
【0013】
また請求項3記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、被検査面となるコンクリート構造物の基準点に標識を設置し、ここから所定の間隔で標識を設置してデジタルカメラと赤外線カメラで撮影することにより正確な画像合成と距離測定を行なうことができる。
【0014】
また請求項4記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、レーザー距離計で撮影地点から被検査面となるコンクリート構造物の表面までの距離を測定し、この距離データを基に、赤外線カメラの最小検知寸法やデジタルカメラの分解能を補正データとして使用することにより精度良く劣化診断を行なうことができる。
【0015】
また請求項5記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、被検査面となるコンクリート構造物が、モルタルコンクリート法面、トンネルのコンクリート内壁、コンクリート橋梁またはビルのコンクリート外壁やタイル張り外壁など種々の劣化診断に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、モルタルコンクリート吹付け法面に適用した場合の、本発明の実施の一形態を図1ないし図11を参照して詳細に説明する。図1は本発明の工程を示すもので、図2は道路脇の斜面にモルタル吹付けしたコンクリート法面1の劣化診断する箇所である。このモルタルコンクリート法面1の道路側に基準点2を決め、ここに標識3を設け、ここから道路4に沿って所定の間隔で複数個の標識3を設置しておく。この標識3は、例えばアルミニウム箔の中央に黒いマークを付したものを用いる。
【0017】
次に、早朝の気温の最も低い時間に図3に示すように被検査面となるモルタルコンクリート法面1の全体が見渡せるA地点に移動し、ここにデジタルカメラ6をセットして、図2に示すようにモルタルコンクリート法面1を撮影する。また同時にレーザー距離計8で、各標識3までの距離を測定しておく。また赤外線カメラ7でモルタルコンクリート法面1を撮影して、この表面からの放射熱による熱分布状態を記録する。
【0018】
次にB地点に移動し、ここにデジタルカメラ6をセットして、モルタルコンクリート法面1を撮影する。またレーザー距離計8で、各標識3までの距離を測定しておく。また赤外線カメラ7でモルタルコンクリート法面1を撮影して、この表面からの放射熱による熱分布状態を記録する。この気温の低い時間に赤外線カメラ7で撮影した赤外線画像は図5に示すようにモルタルコンクリート法面1の全体がクロス斜線で示した青色に表示される。
【0019】
例えば最初に、午前6時にA地点で赤外線カメラ7で撮影したとすると、この後、直ちにB地点に移動し、ここで赤外線カメラ7で撮影する。以下2時間ごとにA地点とB地点で赤外線カメラ7をセットして、モルタルコンクリート法面1を撮影し、午後2時まで5回繰り返して撮影する。
【0020】
この後、A地点とB地点でデジタルカメラ6で撮影したデジタル写真画像をコンピュータの三次元写真画像作成手段で三次元解析して、図4に示すように三次元写真画像10を作成する。また同様に、A地点とB地点で赤外線カメラ7で撮影した赤外線画像をコンピュータの三次元赤外線画像作成手段で画像処理して三次元赤外線画像11を作成する。
【0021】
この後、図5に示すように全体が青い、気温の低い午前6時に撮影した三次元赤外線画像11と、その後、2時間毎に撮影した三次元赤外線画像11とのモルタルコンクリート法面部分の画像データを赤外線温度差画像作成手段で比較し、その温度差が最も大きい場合の、その温度差に対応する色に着色した赤外線温度差画像12を作成する。
【0022】
例えば午前6時が最も気温が低く、午後2時の気温が高かったとすると、午後2時に赤外線カメラ7で撮影した三次元赤外線画像11はモルタルコンクリート法面1の全体が図6に黒丸で示すように赤くなる。赤外線温度差画像作成手段で、この最も気温が低い午前6時の三次元赤外線画像11と、最も気温が高い午後2時の三次元赤外線画像11と、その画像データを比較し、その温度差を求めて、その温度差に対応する色に着色した図7に示す赤外線温度差画像12を作成する。
【0023】
次にこのようにして得られた赤外線温度差画像12と三次元写真画像10とを、基準点2を合わせて合成三次元写真画像作成手段で合成すると、図8に示すような合成三次元写真画像13が形成される。
【0024】
次に劣化診断手段で、この合成三次元写真画像13から、レーザー距離計8で測定した被検査面までの距離データを勘案して、赤外線温度差画像部分からコンクリート表面の温度差データを用いて、モルタルコンクリート法面1の正常な凹凸部、つまり温度の高い凸部の黄色の部分を除去し、剥離や、空洞、クラックなどを判定する。このように正常な部分の温度上昇は温度差データから劣化と判断せず、異常な温度上昇部分は劣化と判断して、その劣化状況に対応した着色部分を残して、図9に示す補正した合成三次元写真画像14を作成する。
【0025】
この場合、レーザー距離計8で測定した被検査面までの距離データは、カメラの最小検知寸法や分解能を考慮して、その範囲の大きさを判定するデーターとなる。つまり画像上で、同じ長さの欠陥でも、距離によりその大きさが異なるので、距離データを勘案することにより正確な欠陥や劣化部分の大きさや範囲を判定することができる。
【0026】
次に補正した合成三次元写真画像14からCADなどの設計図作成手段で、測量計算、面積計算を行ない、劣化個所だけを表示した図10に示す正面図15と、図11に示す断面図16を作成する。このように作成された正面図15と断面図16から、劣化個所の位置と、その内部の状況を確認して、補修対策を採ることができる。例えば図10において、クロス斜線部分はモルタルの表面の浮きや剥離部分18、黒丸部分はモルタルの密着不良で裏面に空洞がある部分19、点部分はモルタルの剥落部分20である。
【0027】
また上記説明では被検査面となるモルタルコンクリート法面1をA地点とB地点の2か所から撮影して、2枚の写真を合成する場合について説明したが、モルタルコンクリート法面1を道路4に沿って複数に分割し、この分割された境界を2地点として、デジタルカメラ6または赤外線カメラ7で撮影し、分割された画像を横方向に組み合わせることにより更に精度を向上させることができる。また縦方向または、縦および横方向に格子状に分割してから組み合わせても良い。また撮影地点は2地点に限らず3地点以上でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
なお上記説明ではモルタルコンクリート法面1の劣化診断に適用した場合について説明したが、トンネルのコンクリート内壁、コンクリート橋梁、ビルのコンクリート外壁やタイル張り外壁などのコンクリート構造物の劣化診断に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のコンクリート構造物の劣化診断方法を示す工程図である。
【図2】被検査面となるモルタルコンクリート法面を撮影した写真画像である。
【図3】被検査面となるモルタルコンクリート法面を撮影する位置を平面的に示す説明図である。
【図4】被検査面となるモルタルコンクリート法面を撮影した写真を合成した三次元写真画像である。
【図5】気温の低い早朝にモルタルコンクリート法面を赤外線カメラで撮影した三次元赤外線画像である。
【図6】気温の高い午後にモルタルコンクリート法面を赤外線カメラで撮影した三次元赤外線画像である。
【図7】モルタルコンクリート法面の赤外線温度差画像である。
【図8】三次元写真画像に赤外線温度差画像を合成した合成三次元写真画像である。
【図9】補正した合成三次元写真画像である。
【図10】劣化箇所を示した正面図である。
【図11】劣化箇所を示した断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 モルタルコンクリート法面
2 基準点
3 標識
4 道路
6 デジタルカメラ
7 赤外線カメラ
8 レーザー距離計
10 三次元写真画像
11 三次元赤外線画像
12 赤外線温度差画像
13 合成三次元写真画像
14 補正した合成三次元写真画像
15 正面図
16 断面図
18 浮きや剥離部分
19 密着不良で裏面に空洞がある部分
20 剥落部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の劣化診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モルタルコンクリート法面の劣化診断は、作業者が急峻なモルタルコンクリート法面に昇って、目視や打撃により劣化箇所や劣化状態を確認し、その位置を特定しながら図面に記入し、欠陥個所を表示した図面を作成していた。しかしながら、道路脇の急峻なモルタルコンクリート法面に昇って作業するため、危険な作業であり、その安全対策を十分に確保する必要がある上、極めて作業性が悪く、その診断コストが高くなり、また作業期間が長期化する問題があった。
【0003】
このため、近年はモルタルコンクリート法面や橋梁地覆、ビルの外壁などを赤外線カメラで撮影し、放射温度データが周辺の温度より高いことや、低温度時に撮影した画像と、高温度時に撮影した画像との差から得られる高温度差の部分に、コンクリート表面やモルタル表面に浮きや剥離が存在し、また背面に空洞があることを推定して劣化診断する方法が行なわれている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
しかしながらモルタル吹き付けの法面や橋梁地覆は、表面に凹凸や隅角部などがある三次元の立体であり、特に凸部は温度上昇が大きく、また凹部は温度上昇が低いため、この表面形状を正しく評価しないと、表面の浮きや剥離、また背面の空洞化の部分を判断できず正確な診断が行なえない問題があった
【特許文献1】特開平05ー045314
【特許文献2】特開平05ー203597
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題を改善し、三次元写真画像と赤外線温度差画像とを合成することにより、劣化部分を判定して、その位置や大きさを正確に表示した正面図と断面図を容易に作成することができるコンクリート構造物の劣化診断方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、(1)少なくとも異なる2地点以上から、被検査面となる基準点を設けたコンクリート構造物の表面をデジタルカメラで撮影し、このデジタル写真画像から三次元写真画像を作成する三次元写真画像作成手段と、(2)前記撮影地点からコンクリート構造物の表面を赤外線カメラで撮影し、これを異なる時間に複数回繰り返して撮影し、この赤外線画像から複数枚の三次元赤外線画像を作成する三次元赤外線画像作成手段と、(3)異なる時間で撮影した複数枚の三次元赤外線画像を、その低い温度状態で撮影した画像と、高い温度状態で撮影した画像と比較して、その温度差に対応する色に表示した赤外線温度差画像を作成する赤外線温度差画像作成手段と、
(4)この赤外線温度差画像と前記三次元写真画像とを合成する合成三次元写真画像作成手段と、(5)この合成三次元写真画像からコンクリート表面の温度差データを用いて劣化部分を表示する劣化診断手段と、(6)補正した合成三次元写真画像から劣化部分を表示した正面図および断面図を作成する設計図作成手段と、からなることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項2記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、被検査面となるコンクリート構造物の表面を縦または横方向に複数に分割し、この分割された境界を基準点として、デジタルカメラまたは赤外線カメラで撮影し、分割された画像を縦または横方向に組み合わせることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項3記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、被検査面となるコンクリート構造物の基準点に標識を設置して、ここから所定の間隔で標識を設置してデジタルカメラと赤外線カメラで撮影することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項4記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、請求項1のコンクリート構造物の劣化診断方法において、更にレーザー距離計で撮影地点から被検査面となるコンクリート構造物の表面までの距離を測定し、この距離データを劣化診断手段の補正データとして使用することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項5記載のコンクリート構造物の劣化診断方法は、被検査面となるコンクリート構造物が、モルタルコンクリート法面、トンネルのコンクリート内壁、コンクリート橋梁またはビルのコンクリート外壁やタイル張り外壁であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る請求項1記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、三次元写真画像と赤外線温度差画像とを合成して、これから劣化部分を判定し、この劣化部分の位置や大きさ、深さなどを正確に表示した正面図と断面図を作成することにより、劣化部分を正確に判定して、補修用の対策を採ることができる。
【0012】
また請求項2記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、被検査面となるコンクリート構造物の表面を縦または横方向に複数に分割し、この分割された境界を基準点として、デジタルカメラまたは赤外線カメラで撮影し、分割された画像を縦または横方向に組み合わせて、劣化部分のより正確な正面図と断面図を作成することができる。
【0013】
また請求項3記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、被検査面となるコンクリート構造物の基準点に標識を設置し、ここから所定の間隔で標識を設置してデジタルカメラと赤外線カメラで撮影することにより正確な画像合成と距離測定を行なうことができる。
【0014】
また請求項4記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、レーザー距離計で撮影地点から被検査面となるコンクリート構造物の表面までの距離を測定し、この距離データを基に、赤外線カメラの最小検知寸法やデジタルカメラの分解能を補正データとして使用することにより精度良く劣化診断を行なうことができる。
【0015】
また請求項5記載のコンクリート構造物の劣化診断方法によれば、被検査面となるコンクリート構造物が、モルタルコンクリート法面、トンネルのコンクリート内壁、コンクリート橋梁またはビルのコンクリート外壁やタイル張り外壁など種々の劣化診断に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、モルタルコンクリート吹付け法面に適用した場合の、本発明の実施の一形態を図1ないし図11を参照して詳細に説明する。図1は本発明の工程を示すもので、図2は道路脇の斜面にモルタル吹付けしたコンクリート法面1の劣化診断する箇所である。このモルタルコンクリート法面1の道路側に基準点2を決め、ここに標識3を設け、ここから道路4に沿って所定の間隔で複数個の標識3を設置しておく。この標識3は、例えばアルミニウム箔の中央に黒いマークを付したものを用いる。
【0017】
次に、早朝の気温の最も低い時間に図3に示すように被検査面となるモルタルコンクリート法面1の全体が見渡せるA地点に移動し、ここにデジタルカメラ6をセットして、図2に示すようにモルタルコンクリート法面1を撮影する。また同時にレーザー距離計8で、各標識3までの距離を測定しておく。また赤外線カメラ7でモルタルコンクリート法面1を撮影して、この表面からの放射熱による熱分布状態を記録する。
【0018】
次にB地点に移動し、ここにデジタルカメラ6をセットして、モルタルコンクリート法面1を撮影する。またレーザー距離計8で、各標識3までの距離を測定しておく。また赤外線カメラ7でモルタルコンクリート法面1を撮影して、この表面からの放射熱による熱分布状態を記録する。この気温の低い時間に赤外線カメラ7で撮影した赤外線画像は図5に示すようにモルタルコンクリート法面1の全体がクロス斜線で示した青色に表示される。
【0019】
例えば最初に、午前6時にA地点で赤外線カメラ7で撮影したとすると、この後、直ちにB地点に移動し、ここで赤外線カメラ7で撮影する。以下2時間ごとにA地点とB地点で赤外線カメラ7をセットして、モルタルコンクリート法面1を撮影し、午後2時まで5回繰り返して撮影する。
【0020】
この後、A地点とB地点でデジタルカメラ6で撮影したデジタル写真画像をコンピュータの三次元写真画像作成手段で三次元解析して、図4に示すように三次元写真画像10を作成する。また同様に、A地点とB地点で赤外線カメラ7で撮影した赤外線画像をコンピュータの三次元赤外線画像作成手段で画像処理して三次元赤外線画像11を作成する。
【0021】
この後、図5に示すように全体が青い、気温の低い午前6時に撮影した三次元赤外線画像11と、その後、2時間毎に撮影した三次元赤外線画像11とのモルタルコンクリート法面部分の画像データを赤外線温度差画像作成手段で比較し、その温度差が最も大きい場合の、その温度差に対応する色に着色した赤外線温度差画像12を作成する。
【0022】
例えば午前6時が最も気温が低く、午後2時の気温が高かったとすると、午後2時に赤外線カメラ7で撮影した三次元赤外線画像11はモルタルコンクリート法面1の全体が図6に黒丸で示すように赤くなる。赤外線温度差画像作成手段で、この最も気温が低い午前6時の三次元赤外線画像11と、最も気温が高い午後2時の三次元赤外線画像11と、その画像データを比較し、その温度差を求めて、その温度差に対応する色に着色した図7に示す赤外線温度差画像12を作成する。
【0023】
次にこのようにして得られた赤外線温度差画像12と三次元写真画像10とを、基準点2を合わせて合成三次元写真画像作成手段で合成すると、図8に示すような合成三次元写真画像13が形成される。
【0024】
次に劣化診断手段で、この合成三次元写真画像13から、レーザー距離計8で測定した被検査面までの距離データを勘案して、赤外線温度差画像部分からコンクリート表面の温度差データを用いて、モルタルコンクリート法面1の正常な凹凸部、つまり温度の高い凸部の黄色の部分を除去し、剥離や、空洞、クラックなどを判定する。このように正常な部分の温度上昇は温度差データから劣化と判断せず、異常な温度上昇部分は劣化と判断して、その劣化状況に対応した着色部分を残して、図9に示す補正した合成三次元写真画像14を作成する。
【0025】
この場合、レーザー距離計8で測定した被検査面までの距離データは、カメラの最小検知寸法や分解能を考慮して、その範囲の大きさを判定するデーターとなる。つまり画像上で、同じ長さの欠陥でも、距離によりその大きさが異なるので、距離データを勘案することにより正確な欠陥や劣化部分の大きさや範囲を判定することができる。
【0026】
次に補正した合成三次元写真画像14からCADなどの設計図作成手段で、測量計算、面積計算を行ない、劣化個所だけを表示した図10に示す正面図15と、図11に示す断面図16を作成する。このように作成された正面図15と断面図16から、劣化個所の位置と、その内部の状況を確認して、補修対策を採ることができる。例えば図10において、クロス斜線部分はモルタルの表面の浮きや剥離部分18、黒丸部分はモルタルの密着不良で裏面に空洞がある部分19、点部分はモルタルの剥落部分20である。
【0027】
また上記説明では被検査面となるモルタルコンクリート法面1をA地点とB地点の2か所から撮影して、2枚の写真を合成する場合について説明したが、モルタルコンクリート法面1を道路4に沿って複数に分割し、この分割された境界を2地点として、デジタルカメラ6または赤外線カメラ7で撮影し、分割された画像を横方向に組み合わせることにより更に精度を向上させることができる。また縦方向または、縦および横方向に格子状に分割してから組み合わせても良い。また撮影地点は2地点に限らず3地点以上でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
なお上記説明ではモルタルコンクリート法面1の劣化診断に適用した場合について説明したが、トンネルのコンクリート内壁、コンクリート橋梁、ビルのコンクリート外壁やタイル張り外壁などのコンクリート構造物の劣化診断に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のコンクリート構造物の劣化診断方法を示す工程図である。
【図2】被検査面となるモルタルコンクリート法面を撮影した写真画像である。
【図3】被検査面となるモルタルコンクリート法面を撮影する位置を平面的に示す説明図である。
【図4】被検査面となるモルタルコンクリート法面を撮影した写真を合成した三次元写真画像である。
【図5】気温の低い早朝にモルタルコンクリート法面を赤外線カメラで撮影した三次元赤外線画像である。
【図6】気温の高い午後にモルタルコンクリート法面を赤外線カメラで撮影した三次元赤外線画像である。
【図7】モルタルコンクリート法面の赤外線温度差画像である。
【図8】三次元写真画像に赤外線温度差画像を合成した合成三次元写真画像である。
【図9】補正した合成三次元写真画像である。
【図10】劣化箇所を示した正面図である。
【図11】劣化箇所を示した断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 モルタルコンクリート法面
2 基準点
3 標識
4 道路
6 デジタルカメラ
7 赤外線カメラ
8 レーザー距離計
10 三次元写真画像
11 三次元赤外線画像
12 赤外線温度差画像
13 合成三次元写真画像
14 補正した合成三次元写真画像
15 正面図
16 断面図
18 浮きや剥離部分
19 密着不良で裏面に空洞がある部分
20 剥落部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)少なくとも異なる2地点以上から、被検査面となる基準点を設けたコンクリート構造物の表面をデジタルカメラで撮影し、このデジタル写真画像から三次元写真画像を作成する三次元写真画像作成手段と、
(2)前記撮影地点からコンクリート構造物の表面を赤外線カメラで撮影し、これを異なる時間に複数回繰り返して撮影し、この赤外線画像から複数枚の三次元赤外線画像を作成する三次元赤外線画像作成手段と、
(3)異なる時間で撮影した複数枚の三次元赤外線画像を、その低い温度状態で撮影した画像と、高い温度状態で撮影した画像と比較して、その温度差に対応する色に表示した赤外線温度差画像を作成する赤外線温度差画像作成手段と、
(4)この赤外線温度差画像と前記三次元写真画像とを合成する合成三次元写真画像作成手段と、
(5)この合成三次元写真画像からコンクリート表面の温度差データを用いて劣化部分を表示する劣化診断手段と、
(6)補正した合成三次元写真画像から劣化部分を表示した正面図および断面図を作成する設計図作成手段と、
からなることを特徴とするコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項2】
被検査面となるコンクリート構造物の表面を縦または横方向に複数に分割し、この分割された境界を基準点として、デジタルカメラまたは赤外線カメラで撮影し、分割された画像を縦または横方向に組み合わせることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項3】
被検査面となるコンクリート構造物の基準点に標識を設置し、ここから所定の間隔で標識を設置してデジタルカメラと赤外線カメラで撮影することを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項4】
請求項1のコンクリート構造物の劣化診断方法において、更にレーザー距離計で撮影地点から被検査面となるコンクリート構造物の表面までの距離を測定し、この距離データを劣化診断手段の補正データとして使用することを特徴とするコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項5】
被検査面となるコンクリート構造物が、モルタルコンクリート法面、トンネルのコンクリート内壁、コンクリート橋梁またはビルのコンクリート外壁やタイル張り外壁であることを特徴とする請求項1または4記載のコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項1】
(1)少なくとも異なる2地点以上から、被検査面となる基準点を設けたコンクリート構造物の表面をデジタルカメラで撮影し、このデジタル写真画像から三次元写真画像を作成する三次元写真画像作成手段と、
(2)前記撮影地点からコンクリート構造物の表面を赤外線カメラで撮影し、これを異なる時間に複数回繰り返して撮影し、この赤外線画像から複数枚の三次元赤外線画像を作成する三次元赤外線画像作成手段と、
(3)異なる時間で撮影した複数枚の三次元赤外線画像を、その低い温度状態で撮影した画像と、高い温度状態で撮影した画像と比較して、その温度差に対応する色に表示した赤外線温度差画像を作成する赤外線温度差画像作成手段と、
(4)この赤外線温度差画像と前記三次元写真画像とを合成する合成三次元写真画像作成手段と、
(5)この合成三次元写真画像からコンクリート表面の温度差データを用いて劣化部分を表示する劣化診断手段と、
(6)補正した合成三次元写真画像から劣化部分を表示した正面図および断面図を作成する設計図作成手段と、
からなることを特徴とするコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項2】
被検査面となるコンクリート構造物の表面を縦または横方向に複数に分割し、この分割された境界を基準点として、デジタルカメラまたは赤外線カメラで撮影し、分割された画像を縦または横方向に組み合わせることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項3】
被検査面となるコンクリート構造物の基準点に標識を設置し、ここから所定の間隔で標識を設置してデジタルカメラと赤外線カメラで撮影することを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項4】
請求項1のコンクリート構造物の劣化診断方法において、更にレーザー距離計で撮影地点から被検査面となるコンクリート構造物の表面までの距離を測定し、この距離データを劣化診断手段の補正データとして使用することを特徴とするコンクリート構造物の劣化診断方法。
【請求項5】
被検査面となるコンクリート構造物が、モルタルコンクリート法面、トンネルのコンクリート内壁、コンクリート橋梁またはビルのコンクリート外壁やタイル張り外壁であることを特徴とする請求項1または4記載のコンクリート構造物の劣化診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−234383(P2006−234383A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44888(P2005−44888)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(305009784)株式会社アーバン設計 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(305009784)株式会社アーバン設計 (1)
【Fターム(参考)】
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