説明

コンクリート構造物の非破壊検査方法

【課題】
浮き、剥離の位置又は鉄筋や鉄骨等の金属体の腐食状態等について健全部との差異を明確に検知することができるコンクリート構造物の非破壊検査方法の提供。
【解決手段】
前記金属体を加熱した後、コンクリート構造物表面の温度及び温度分布を一定時間毎に測定し、その表面温度が最大となる時刻の数分前における温度分布画像を抽出し、温度分布画像を走査し、各走査線上の画像強度の最大値を検出するとともに、各走査線上の所定位置における画像強度と最大画像強度との差を検出し、画像強度差に基づいてコンクリート構造物の状態を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にRC鉄筋コンクリート構造物等の内部に鉄筋構造を有するコンクリート構造物の検査を行う為のコンクリート構造物の非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛来塩分の浸透や海砂の使用、中性化の進行等によりコンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体が腐食した場合、その構造物の耐荷・耐久性能の低下を招き、また、鉄筋等に腐食が発生すること等により鉄筋の断面積が膨張し、かぶりコンクリート部分の浮きや剥離等が発生する原因にもなるので、このような鉄筋等の腐食が生じた場合には速やかに対処することが求められる。
【0003】
しかし、このようなコンクリート構造物は、外観からその状態を検知することができない為、コンクリート構造物を検査する方法として、例えば、赤外線サーモグラフィ装置を使用したコンクリート構造物の非破壊検査方法が利用されている。
【0004】
この赤外線サーモグラフィ装置を用いた検査方法は、空洞や浮き等が生じた箇所では熱伝導率が変化し、それによってその部分と他の部分との間に温度差が生じることを利用しており、コンクリート構造物表面の表面温度分布を測定し、それを画像処理することにより、視覚的にコンクリート構造物に生じた空洞や浮き・剥離等の有無及びその位置を検知できるようになっている。
【0005】
尚、この赤外線サーモグラフィ装置を用いた検査方法においては、日射熱を利用するのが一般的であるが、トンネル坑口付近や橋台等の日射熱の影響を受け難い場所では、ヒータやハロゲンランプ等によりコンクリート構造物を人工的に加熱するようにしている。
【0006】
しかし、この赤外線サーモグラフィ装置を用いた検査方法では、コンクリート構造物内に生じた空洞や浮き、剥離等の有無及びその位置を認識することはできるが、コンクリート構造物内の鉄筋の位置やその腐食状態等を検知することはできなかった。
【0007】
また、人工的にコンクリート構造物を加熱する場合、ヒータやハロゲンランプ等による加熱では、コンクリート構造物全体を広範囲に加熱することが困難であるという問題があった。
【0008】
一方、鉄筋等の金属体の腐食に関する検査方法には、鉄筋に電極を設置しその鉄筋の自然電位を測定することにより検査する自然電位法が知られているが、この方法では、鉄筋や鉄骨等の金属体に電極を設置する必要がある為、コンクリート構造体の一部を斫る必要があるという問題があり、また、かぶりコンクリートの塩分含有量や温度などにより測定精度に影響を受け易いという問題があった。
【0009】
そこで、上述の如き問題を解決すべく新しい検査方法が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0010】
この検査方法では、コンクリート構造物内に縦横に配置された複数の鉄筋等の金属体を加熱することによりコンクリート構造物全体を加熱し、そのコンクリート構造体の表面温度分布をサーモグラフィ装置により測定し、それを画像処理することにより鉄筋等の金属体の位置及び腐食の状態等を検知できるようになっている。
【特許文献1】特開2003−139731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述の如き従来技術では、欠陥部と健全部との差が分かり難く、その判別に複雑な熱伝導解析を必要とする等の問題があった。
【0012】
そこで本発明は、上述の従来技術の問題を鑑み、浮き、剥離の位置又は鉄筋や鉄骨等の金属体の腐食状態等について健全部との差異を明確に検知することができるコンクリート構造物の非破壊検査方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を加熱し、然る後、前記コンクリート構造物表面の温度分布を測定し、それをサーモグラフィにより画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知するコンクリート構造物の非破壊検査方法において、前記金属体を加熱した後、コンクリート構造物表面の温度及び温度分布を一定時間毎に測定し、その表面温度が最大となる時刻の数分前における温度分布画像を抽出し、該温度分布画像を走査し、該各走査線上の画像強度の最大値を検出するとともに、各走査線上の所定位置における画像強度と前記最大画像強度との差を検出し、該画像強度差に基づいて前記コンクリート構造物の状態を検知するコンクリート構造物の非破壊検査方法であることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成に加え、前記画像強度差の分布を画像化し、該画像強度差分布画像に基づいて前記コンクリート構造物の欠陥部分の状態を検知することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成に加え、加熱前のコンクリート構造物表面の温度分布画像と加熱後表面温度が最大となる時刻の数分前のおける温度分布画像とで差分処理を行い加熱により増加した温度のみを抽出し、その増加温度分布を画像化し、該増加温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知することを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1、2又は3の構成に加え、前記表面温度最大時刻における前記コンクリート構造物の表面温度分布画像を抽出し、該温度分布画像を縦方向及び横方向に走査し、一定値以上の画像強度を示す縞模様を検出し、該検出された縞模様に基づいて前記金属体の位置、金属体が交差する金属体交差部又は金属体が継ぎ合わされた金属体間継手部を認識した上で、前記コンクリート構造物の状態を検知することを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4の構成に加え、認識した前記金属体交差部又は金属体間継手部におけるコンクリート表面温度より金属体単体で存在する部分のコンクリート表面平均温度に対する増加分を差分処理し、前記金属体交差部又は金属体間継手部の温度データを補正したうえで画像処理し、その処理画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を加熱し、然る後、前記コンクリート構造物表面の温度分布を測定し、それをサーモグラフィにより画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知するコンクリート構造物の非破壊検査方法において、前記金属体を加熱した後、コンクリート構造物表面の温度及び温度分布を一定時間毎に測定し、その表面温度が最大となる時刻の数分前における温度分布画像を抽出し、該温度分布画像を走査し、該各走査線上の画像強度の最大値を検出するとともに、各走査線上の所定位置における画像強度と前記最大画像強度との差を検出し、該画像強度差に基づいて前記コンクリート構造物の状態を検知することにより、金属体の腐食、コンクリートの浮き・剥離等を自動的に判別し、欠陥部を明確に検知することができる。
【0019】
前記画像強度差の分布を画像化し、該画像強度差分布画像に基づいて前記コンクリート構造物の欠陥部分の状態を検知することにより、欠陥部分の範囲を検知することができるとともに、欠陥部分の推定面積を得ることができる。
【0020】
加熱前のコンクリート構造物表面の温度分布画像と加熱後表面温度が最大となる時刻の数分前のおける温度分布画像とで差分処理を行い加熱により増加した温度のみを抽出し、その増加温度分布を画像化し、該増加温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知することにより、太陽光等の加熱機以外による加熱の影響を排除し、より精度の高い検査を行うことができる。
【0021】
前記表面温度最大時刻における前記コンクリート構造物の表面温度分布画像を抽出し、該温度分布画像を縦方向及び横方向に走査し、一定値以上の画像強度を示す縞模様を検出し、該検出された縞模様に基づいて前記金属体の位置、金属体が交差する金属体交差部又は金属体が継ぎ合わされた金属体間継手部を認識した上で、前記コンクリート構造物の状態を検知することにより、設計図等が無く鉄筋等の位置を予測できない場合であっても好適に検査することができる。
【0022】
認識した前記金属体交差部又は金属体間継手部におけるコンクリート表面温度より金属体単体で存在する部分のコンクリート表面平均温度に対する増加分を差分処理し、前記金属体交差部又は金属体間継手部の温度データを補正したうえで画像処理し、その処理画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知することにより、正確に欠陥部を認識することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明方法に使用するコンクリート構造物の非破壊検査装置について説明する。
【0024】
図1は、装置の概略を示し、図中符号10はコンクリート構造物、符号11は非破壊検査装置である。
【0025】
コンクリート構造物10は、RC構造やSRC構造等の構造を有し、複数の鉄筋や鉄骨等の金属体12,12…が縦横に間隔をおいて配置されている。
【0026】
この非破壊検査装置11は、コンクリート内部の金属体12,12…を加熱する加熱機と、サーモグラフィ装置とを備え、金属体12を加熱することによりコンクリート構造物10全体を加熱し、該加熱されたコンクリート構造物10の表面部の温度を測定し、それを画像化することにより視覚的にコンクリート構造物10の状態、即ち、金属体12の腐食状態、かぶりコンクリートの浮き・剥離の状態等を検知できるようになっている。
【0027】
また、この非破壊検査装置は、コンピュータからなる制御演算部13を備え、この制御演算部13により装置全体を制御するようになっている。尚、図中符号14はコンクリート表面温度を測定する温度計、符号15は外気温計である。
【0028】
加熱機は、例えば、誘導加熱コイル16と、インバータ装置17とを有し、インバータ装置17より高周波交流電流を供給して誘導加熱コイル16に通電させることにより、鉄筋等の金属体12に渦電流を生じさせ、それにより金属体12を発熱させるようになっている。
【0029】
誘導加熱コイル16は、銅管等の導電性部材が互いに平行に配置された部分(平行部分)を有するように、導電性部材を一方向に長い矩形状に巻いて形成されている。
【0030】
このように誘導加熱コイル16が平行部分を有することによって、金属体12,12…に対し誘導加熱コイル16を横向きに配置し、複数の金属体12,12…に亘って加熱する場合、円形や楕円形状のように各位置でコイル幅が異なるコイルと異なり、平行部分においてはコイル幅や巻数等がどの位置でも同じであるので、各金属体12,12を均等に加熱することができ、加熱むらを無くすことができる。
【0031】
また、金属体12に対し誘導加熱コイル16を縦向きに配置した場合においても、平行部分に係る部分を均等に加熱することができる。
【0032】
この誘導加熱コイル16は、木材等の絶縁性部材からなる台車18に固定され、台車18を介してコンクリート構造物10の表面部に固定された移動軌道19に移動可能に支持されている。
【0033】
また、台車18には、進行方向前方に配置された移動手段たるウインチ20より繰り出されたワイヤ21の先端が固定され、ウインチ20がワイヤ21を巻き取ることにより誘導加熱コイル16はコンクリート構造物10の表面部を移動するようになっている。
【0034】
移動手段、即ちウインチ20は、制御演算部13によりその巻き取り速度を制御され、コイルの移動速度を制御できるようになっている。
【0035】
インバータ装置17は、商用電源を変換し、誘導加熱コイル16に高周波交流電流を出力する。
【0036】
このインバータ装置17は、制御演算部13により交流電流の周波数及び電流の出力が制御されるとともに、周波数及び電流値を制御演算部13にフィードバックするようになっている。
【0037】
尚、このインバータ装置17を構成する回路に含まれるコンデンサ及び抵抗と、誘導加熱コイル16とによってRLC共振回路が形成されている。
【0038】
サーモグラフィ装置は、赤外線カメラ等の測定器22を備え、制御演算部13が画像処理部として機能し、コンクリート構造物10表面部の温度分布を画像表示するようになっている。
【0039】
測定器22は、コンクリート構造物10の検査対象範囲の温度分布を測定できる位置に固定されている。
【0040】
この測定器22は、コンクリート構造物10表面をX軸方向及びY軸方向に走査する走査手段と、コンクリート構造物10表面より放射された赤外線放射エネルギーを検出する検出器と、検出器で検出した赤外線放射エネルギーを電気信号に変換する変換部とを備え、電気信号は変換部で増幅されて制御演算部13に出力される。
【0041】
制御演算部13は、測定器22より出力された電気信号に各種の信号処理を施し、コンクリート構造物10の表面温度をそれに対応する色で表示し、コンクリート構造物10表面部の温度分布を画像で表示させるようになっている。
【0042】
このように構成された非破壊検査装置11は、誘導加熱コイル16を移動させつつ、インバータ出力、周波数、コイル移動速度等を制御することにより、コンクリート構造物10内の鉄筋等の金属体12を均一に加熱することができる。
【0043】
また、非破壊検査装置11は、コンクリート構造物10の表面温度分布を画像処理により視覚的に表示することができ、その画像を解析することによりコンクリート構造物10の状態、即ち、鉄筋等の金属体12の位置及び腐食状態、かぶりコンクリート部の浮き・剥離の有無及びその位置等を検知できるようになっている。
【0044】
次に上述の非破壊検査装置を使用したコンクリート構造物の非破壊検査方法について説明する。
【0045】
この非破壊検査方法は、コンクリート構造物を加熱した後、健全部と欠陥部との差異が最も明確に現れる時刻(温度ピーク時刻の数分前)の熱分布画像を取り出し、それに基づいてコンクリート構造物の状態、即ち、鉄筋等の金属体12の位置及び腐食状態、かぶりコンクリート部の剥離の有無及びその位置等を検知するものであり、図2に示す手順に従って行う。
【0046】
まず、検査対象であるコンクリート構造物10の表面温度分布を赤外線カメラ等の測定器22により測定し、それを画像化し、金属体を加熱する前の温度分布画像を作成し、メモリ等に記憶させる(図2(1))。
【0047】
次に、検査対象であるコンクリート構造物10全体を加熱機により加熱する(図2(2))。
【0048】
その加熱方法は、検査対象であるコンクリート構造物10の表面部に、その長手方向に沿って移動軌道19を設置し、その移動軌道19上に台車18を介して誘導加熱コイル16を移動可能に支持させ、誘導加熱コイル16を初期位置に配置し、インバータ装置17より誘導加熱コイル16に高周波交流電流を供給させて金属体12を加熱するとともに、移動手段たるウインチ20を作動させ誘導加熱コイル16を移動させることにより行う。
【0049】
このとき、制御演算部13は、瞬時にかぶりコンクリート厚を算出する作業と、算出されたかぶりコンクリート厚に基づいてインバータ装置出力、周波数又はコイル移動速度のいずれか若しくはそれらの組合せを制御して、鉄筋等の金属体12を加熱させる作業とを行い、その一連の作業を繰り返すことにより、金属体12全体を均一に加熱し、金属体を初期の状態より20℃〜30℃上昇させるように加熱する。
【0050】
図3は、その際のコイル出力の状態を示し、インバータ装置17出力を所定値に固定した状態で一瞬、高周波交流電流AC1を通電させ、その際に周波数を加熱に最も適した周波数、即ち共振周波数に同調させ、その共振周波数に基づいてかぶりコンクリート厚を算出した後、周波数を前述した共振周波数に固定し、かぶりコンクリート厚に対応した所定の高周波交流電流AC2が一定時間出力され、その一連の作業がコイルの移動毎に繰り返されている。
【0051】
このようにコンクリート構造物10内部に縦横に間隔をおいて配置された鉄筋等の金属体12を均一に加熱することによって、コンクリート構造物10(表面)全体を加熱することができる。
【0052】
次に、コンクリート構造物10の加熱が終了したら、誘導加熱コイル16及び移動軌道19を撤去し、加熱されたコンクリート構造物10の表面部の温度分布を所定時間毎に赤外線カメラ等の測定器22により測定し、電気信号に変換・増幅して制御演算部13に出力する(図2(3))。
【0053】
制御演算部13は、入力された電気信号に対し、かぶり厚の変動、インバータ装置17出力の変動等を考慮し(図2(4))、信号処理を施して温度分布画像データに変換し、それを画像処理して温度をそれぞれ対応する色で表示させた時間毎の温度分布画像を形成する(図2(5))。
【0054】
また、制御演算部13は、各時間における温度分布画像よりコンクリート表面温度を検出するとともに、フィルタ処理により赤外線サーモグラフィの機器特性によるノイズを除去し(図2(6))、その変化推移を図4に示すようにグラフで表示し、加熱終了後の温度ピーク(最大)時刻を認識する(図2(7))。
【0055】
次に、制御演算部13は、図4の温度ピーク時刻の温度分布画像を抽出し、その画像に基づいて金属体12の位置を認識する(図2(8))。
【0056】
即ち、温度ピーク時刻の温度分布画像を縦向きに走査し、図5に示すように、点線で示す画像強度が一定値以上を示す縦向きの縞模様を検出し、この縦縞を縦向きの鉄筋等の金属体12と認識する。
【0057】
同様に、画像を横向きに走査し、点線で示す画像強度が一定値以上を示す横向きの縞模様を検出し、この横縞を横向きの鉄筋等の金属体12と認識する。
【0058】
更には、上記の縦縞と横縞とが交差する点p,p…を検出することにより、金属体12の交差する部分或いは金属体12間の継手部分を認識する。
【0059】
尚、走査線の数は赤外線カメラの画素数に基づいて設定される(以下、走査線の数について同じとする)。
【0060】
また、制御演算部13は、上述の図2(8)の作業と平行して、図4に示すコンクリート表面温度履歴の温度ピーク時刻より約3〜5分前の温度分布画像(図6)を抽出する(図2(9))。尚、温度ピーク時刻より約3〜5分前としたのは、その位置においてコンクリート構造物10の欠陥がある部分と正常な部分との温度差が最大となるので温度分布が鮮明に表示されるからである。
【0061】
尚、この温度最大時刻の数分前の温度分布画像と加熱前の温度分布画像とを差分処理することよって(図2(10))、加熱機による加熱により上昇した温度のみを抽出し、日陰と日向とで太陽光による温度分布の不均等が生じる等のバックグラウンド(環境)の影響を取り除く。
【0062】
また、この温度最大時刻の数分前の温度分布画像と加熱途中の温度分布画像とを差分処理することによって、誘導加熱装置の移動速度の違いや距離などの違いに起因する加熱温度の違いによる影響を取り除く。
【0063】
そして、その上昇温度分布画像より上述の作業で認識した金属体12部分の画像(図6中白枠部)を抽出する(図2(11))。
【0064】
尚、上述の抽出画像において、鉄筋の交差部分及び継手部分は、金属が重なっている為、重なっていない箇所に比べて発熱が多く、この重複部分を温度ピークとすると、正常な重複していない箇所が空洞とみなされる可能性があるので、検出した金属体12のライン(縞模様)から交差部分及び継手部分の箇所を除いた部分における平均温度を算出し、重複部分温度より前記平均温度に対する温度差分を補正して取り除く(図2(12))。それによって、交差部分又は継手部分の空洞も検出することが可能となる。
【0065】
次に、その抽出画像の長手方向(横方向)に向けた複数の走査線を設定し、各走査線上の画像強度を測定する(図2(13))。
【0066】
そして、測定された画像強度の最大値を検出するとともに、各走査線上の各位置における画像強度と最大画像強度との差を求める(図2(14))。
【0067】
次に、この画像強度差の閾値を設定し、この閾値を基準に「欠陥部」か「健全部」かの判別を行う(図2(15))。
【0068】
尚、上述の閾値は、金属体12の加熱温度やかぶりコンクリート厚、予め試験等により得られた健全部と欠陥部との温度差(熱伝導比)を考慮して決定される。
【0069】
閾値を基準とした判別は、例えば、横軸に鉄筋位置、縦軸に画像強度差の和を取ったグラフを用いて行う。
【0070】
まず、図7(イ)に示すように、鉄筋各位置における各走査線の画像強度差を足し合わせ、それをプロットして温度差集計グラフを作成する。
【0071】
次に、図7(ロ)に示すように、閾値、即ち図7(イ)中のラインLより小さい値をカットし補正温度差集計グラフを作成する。また、図7(イ)中の両側のラインより外側もカットする。
【0072】
そして、図7(ハ)に示すように、この補正温度差集計グラフを抽出した金属体部分温度分布画像とを合成し、この合成画像に基づいて実際の金属体の形状と照らし合わせ、どの位置に欠陥が生じているかを判定する。
【0073】
欠陥部の判定は、金属体とコンクリート表面部との間に欠陥部分が存在すると、健全な部分との間で温度差が生じるので、画像強度差が閾値以上の場合を「欠陥位置」(図2(16))、閾値未満であれば「健全」(図2(17))と自動的に判定する。
【0074】
図7においては、補正温度差集計グラフの膨らみのある部分の値が閾値以上であるので、その部分が欠陥部分(剥離)であると判断される。
【0075】
また、この合成画像より欠陥位置の範囲を特定することができ、また、欠陥部の推定面積も算出できる(図2(18))。
【0076】
以上で検査が完了する。
【0077】
尚、上述の実施例では、コンクリート構造物の表面部移動可能な誘導加熱コイルを用いて誘導加熱により金属体を加熱した例について説明したが、誘導加熱コイルをコンクリート構造体表面部に固定しておいてもよく、誘導加熱の他、直接金属体に電極等を接続させる等、どのような方法で加熱してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る非破壊検査装置を示す概略図である。
【図2】本発明方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】インバータ装置出力と時間との関係を示すグラフである。
【図4】コンクリート構造物の表面温度と時間との関係を示すグラフである。
【図5】温度ピーク時刻における表面温度分布画像中の画像強度が一定値以上を示す縞を示す図である。
【図6】温度ピーク時刻の数分前における表面温度分布画像である。
【図7】(a)は欠陥部を有する金属体の各位置における温度差集計グラフ、(b)は同閾値以下を省略した補正温度差集計グラフグラフ、(c)は補正温度差集計グラフと同温度分布との合成図である。
【符号の説明】
【0079】
10 コンクリート構造物
11 非破壊検査装置
12 金属体
13 制御演算部
14 温度計
15 外気温計
16 誘導加熱コイル
17 インバータ装置
18 台車
19 移動軌道
20 ウインチ
21 ワイヤ
22 測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を加熱し、然る後、前記コンクリート構造物表面の温度分布を測定し、それをサーモグラフィにより画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知するコンクリート構造物の非破壊検査方法において、
前記金属体を加熱した後、コンクリート構造物表面の温度及び温度分布を一定時間毎に測定し、その表面温度が最大となる時刻の数分前における温度分布画像を抽出し、該温度分布画像を走査し、該各走査線上の画像強度の最大値を検出するとともに、各走査線上の所定位置における画像強度と前記最大画像強度との差を検出し、該画像強度差に基づいて前記コンクリート構造物の状態を検知することを特徴としてなるコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項2】
前記画像強度差の分布を画像化し、該画像強度差分布画像に基づいて前記コンクリート構造物の欠陥部分の状態を検知する請求項1に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項3】
加熱前のコンクリート構造物表面の温度分布画像と加熱後表面温度が最大となる時刻の数分前のおける温度分布画像とで差分処理を行い加熱により増加した温度のみを抽出し、その増加温度分布を画像化し、該増加温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知する請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記表面温度最大時刻における前記コンクリート構造物の表面温度分布画像を抽出し、該温度分布画像を縦方向及び横方向に走査し、一定値以上の画像強度を示す縞模様を検出し、該検出された縞模様に基づいて前記金属体の位置、金属体が交差する金属体交差部又は金属体が継ぎ合わされた金属体間継手部を認識した上で、前記コンクリート構造物の状態を検知する請求項1、2又は3に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項5】
認識した前記金属体交差部又は金属体間継手部におけるコンクリート表面温度より金属体単体で存在する部分のコンクリート表面平均温度に対する増加分を差分処理し、前記金属体交差部又は金属体間継手部の温度データを補正したうえで画像処理し、その処理画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知する請求項4に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−337230(P2006−337230A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163612(P2005−163612)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(501424031)
【Fターム(参考)】