説明

コンクリート用アンカーの固定構造及び、可撓性継手の取付構造

【課題】アンカー部材をコンクリート構造体に埋設固定するためにコンクリート構造体に穿設する削孔の深さを浅くすると共に、アンカー部材のコンクリート構造体との固定強度を十分に大きいものにする。
【解決手段】取付構造32では、コンクリート構造体10に穿設される削孔14の内径をアンカーボルト34のアンカー挿入部35の外径よりも大径としたことにより、接着層44の外周面積をアンカー挿入部35の外周面積よりも広くできるので、アンカーボルト34に引抜力が作用し、接着層44を介してコンクリート構造体10へ引抜力が伝達される際に、引抜力を広い面積を有する接着層44の外周面と削孔14の内周面との界面(接着界面)に分散し、コンクリート構造体10における削孔14周辺に生じる内部応力を効果的に低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッド状のアンカー部材をボックスカルバートやシールドトンネル等のコンクリート構造体に強固に固定するためのコンクリート用アンカーの固定構造及び、可撓性継手を隣接する一対のコンクリート構造体間に取り付けるための可撓性継手の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シードトンネルやボックスカルバート等のコンクリート構造体同士の連結部では、地盤の不等沈下や地震等により発生するコンクリート構造体間の相対変位を許容しつつ、地下水等がコンクリート構造体の内部に侵入し、あるいはコンクリート構造体の内部から流出することを防止するための可撓性継手が使用されている。
【0003】
上記のような可撓性継手としては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1に記載された可撓性継手では、補強繊維がインサートされたゴム材料からなる継手本体の両端部がコンクリート構造体の取付部とされている。
【0004】
一方、コンクリート構造体の端部には、L字状に屈曲した断面形状が略L字状とされた鋼製枠体が固定されている。この鋼製枠体には、可能な限り一定のピッチでL字状に屈曲したアンカーボルトが固定されており、鋼製枠体は、アンカーボルトの一端側がコンクリート構造体内へ埋設されることにより、コンクリート構造体に固定されている。
【0005】
特許文献1記載の可撓性継手では、アンカーボルトの他端側が継手本体の取付部を貫通した状態とされ、この取付部がアンカーボルトを介してコンクリート構造体に連結固定される長尺プレート状の押え金具とコンクリート構造体の表面との間に挟持されることにより、継手本体の取付部が一対のコンクリート構造体に水密状態となるように固定される。このとき、継手本体における一対の取付部間は蛇腹状に撓んだ状態とされる。
【0006】
また特許文献2及び特許文献3には、上記したような可撓性継手をコンクリート構造体に固定するために適用されるアンカーボルトが記載されている。これらの特許文献2、3に記載されたアンカーボルトは、先端側にテーパ状に拡径する拡径部を有するアンカー部材と、このアンカー部材の外周側に装着されるスリット付きのスリーブを備えている。このアンカーボルトでは、アンカー部材をコンクリート構造体の削孔内へ打ち込み、アンカー部材の拡径部によりスリーブのスリットが形成された部分を外周側へ拡張することにより、スリーブが削孔の内面へ食い込み、アンカー部材がスリーブを介して削孔内へ固定される。さらに特許文献2、3には、アンカーボルトのコンクリート構造体への固定力を増大するために、アンカー部材と削孔の内面との間に樹脂系接着剤を充填することが記載されている。
【特許文献1】特開2002−106294号公報
【特許文献2】特開2002−70177号公報
【特許文献3】特開2004−316286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3に記載されたアンカーボルトでは、コンクリート構造体との固定強度を十分に大きいもの(例えば、引抜荷重で50kN以上)にするために、通常、アンカー部材が挿入される削孔の深さをコンクリート構造体のかぶり部の厚さよりも深く(例えば、130mm以上)する必要がある。従って、このような従来のアンカーボルトを用いると、コンクリート構造体内の鉄筋を避けて削孔を穿設する必要があるため、可撓性継手の長手方向に沿った削孔のピッチを一定のものにすることが難しくなる。これにより、可撓性継手の継手本体に穿設される挿通穴のピッチ及び、押え金具における挿通穴に面した部位に形成される貫通穴のピッチも一定化できなくなるため、継手本体及び押え金具に挿通穴及び貫通穴を穿設する作業をそれぞれ手作業で行わなければならず、これらの穿設作業が非常に煩瑣になる。また削孔の深さが深くなると、コンクリート構造体への削孔作業自体も煩瑣なものになる。そして、これらの作業が可撓性継手をコンクリート構造体へ取り付ける際に、作業を省略化して効率的に行えないことの大きな要因となっている。
【0008】
本発明の目的は、上記事実を考慮して、アンカー部材をコンクリート構造体に埋設固定するためにコンクリート構造体に穿設する削孔の深さを浅くしても、アンカー部材のコンクリート構造体との固定強度を十分に大きいものにできるコンクリート用アンカーの固定構造及び可撓性継手の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係るコンクリート用アンカーの固定構造は、ロッド状のアンカー部材をコンクリート構造体に埋設固定するためのコンクリート用アンカーの固定構造であって、コンクリート構造体に穿設された削孔内に一端側が挿入され、該削孔内へ挿入されるアンカー挿入部の外径が削孔の内径よりも小径とされたアンカー部材と、前記アンカー挿入部の外周側に装着され、該アンカー挿入部と共に削孔内へ挿入されると、前記アンカー部材を削孔の中心と略同軸となる位置へ位置決めするスペーサリングと、前記スペーサリングの外周面に形成され、該スペーサリングの軸方向に沿った一端と他端との間を横断する第1の充填溝と、前記アンカー部材及び前記スペーサリングが挿入された削孔内に充填されるコンクリート用接着剤と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記請求項1に係るコンクリート用アンカーの固定構造では、アンカー部材における削孔の内径よりも小径のアンカー挿入部の外周側にスペーサリングが装着され、このスペーサリングがアンカー挿入部と共に削孔内へ挿入されると、アンカー部材を削孔の中心と略同軸的な位置(中心位置)へ位置決めする。これにより、コンクリート構造体に穿設される削孔の内径をアンカー挿入部の外径よりも大径としても、スペーサリングと共にアンカー挿入部を削孔内へ挿入するだけで、スペーサリングによりアンカー部材を削孔の中心位置へ位置決めでき、かつアンカー部材の削孔に対する傾きを制限できるのでので、アンカー挿入部の外周面と削孔内の内周面との間に形成される隙間の幅を周方向に沿った任意の部位で略一定のものにできる。
【0011】
また請求項1に係るコンクリート用アンカーの固定構造では、スペーサリングの外周面における第1の充填溝がスペーサリングの軸方向に沿った一端と他端との間を横断するように形成されていることから、アンカー部材及びスペーサリングが挿入された削孔内に流動性を有するコンクリート用接着材を注入し、これを充填する際に、コンクリート用接着剤を第1の充填溝を通してスペーサリングの先端側の空間へも注入できるので、アンカー挿入部のスペーサリングが装着された部分を除いて、コンクリート用接着剤をアンカー挿入部の外周面と削孔内の内周面との間に隙間なく充填でき、この隙間内に厚さが略一定の接着層を形成できる。
【0012】
ここで、コンクリート構造体に穿設される削孔の内径をアンカー部材のアンカー挿入部の外径よりも大径としたことにより、コンクリート用接着剤により形成された接着層の外周面積をアンカー挿入部の外周面積よりも広くできるので、アンカー部材に引抜力が作用し、接着層を介してコンクリート構造体へ引抜力が伝達される際に、引抜力を広い面積を有する接着層の外周面と削孔の内周面との界面(接着界面)に分散し、コンクリート構造体における削孔周辺に生じる内部応力を効果的に低減できる。
【0013】
この結果、請求項1に係るコンクリート用アンカーの固定構造によれば、アンカー挿入部の外径が略同一であるという条件下で、削孔内径がアンカー挿入部の外径と略同じか、僅かに広いものとされる従来のコンクリート用アンカーの固定構造と比較した場合、削孔の深さを大幅に浅くしても、コンクリート構造体に埋設固定されたアンカー部材の耐引抜力を十分に大きなものにできる。
【0014】
また請求項2に係るコンクリート用アンカーの固定構造は、請求項1記載のコンクリート用アンカーの固定構造において、前記スペーサリングの外周面に、複数本の前記第1の充填溝を形成したことを特徴とする。
【0015】
また請求項3に係るコンクリート用アンカーの固定構造は、請求項1又は2記載のコンクリート用アンカーの固定構造において、前記スペーサリングの外周面に、周方向へ延在して前記第1の充填溝と交差する第2の充填溝を形成したことを特徴とする。
【0016】
また請求項4に係るコンクリート用アンカーの固定構造は、請求項1乃至3の何れか1項記載のコンクリート用アンカーの固定構造において、前記アンカー部材は、外周面にねじ溝が形成されたアンカーボルトであることを特徴とする。
【0017】
また請求項5に係るコンクリート用アンカーの固定構造は、請求項1乃至4の何れか1項記載のコンクリート用アンカーの固定構造において、前記アンカー部材の外周面と削孔の内周面との間に前記コンクリート用接着剤により形成される接着層の厚さを、前記アンカー部材の直径に対して0.6〜0.85倍に設定したことを特徴とする。
【0018】
また本発明の請求項6に係る可撓性継手の取付構造は、可撓性継手の両端部を、隣接する一対のコンクリート構造体にそれぞれ固定するための可撓性継手の取付構造であって、コンクリート構造体に穿設された削孔内に一端側が挿入され、該削孔内へ挿入されるアンカー挿入部の外径が削孔の内径よりも小径とされたアンカー部材と、前記アンカー挿入部の外周側に装着され、該アンカー挿入部と共に削孔内へ挿入されると、前記アンカー部材を削孔の中心と略同軸となる位置へ位置決めするスペーサリングと、前記スペーサリングの外周面に形成され、該スペーサリングの軸方向に沿った一端と他端との間を横断する第1の充填溝と、前記アンカー部材及び前記スペーサリングが挿入された削孔内に充填されるコンクリート用接着剤と、弾性材料により帯状に形成された可撓性継手における長手直角方向に沿った両端部にそれぞれ設けられ、前記アンカー部材が挿通する挿通部と、前記アンカー部材と連結固定される連結部が設けられ、前記アンカー部材と連結固定された状態で、前記可撓性継手の端部をコンクリート構造体との間に挟持固定する押え金具と、を有することを特徴とする。
【0019】
上記請求項6に係る可撓性継手の取付構造によれば、請求項1に係るコンクリート用アンカーの固定構造と同様に、アンカー挿入部の外径が略同一である条件で、削孔内径がアンカー挿入部の外径と略同じか、僅かに広いものとされる従来のコンクリート用アンカーの固定構造と比較した場合、削孔の深さを大幅に浅くしても、コンクリート構造体に埋設固定されたアンカー部材の耐引抜力を十分に大きなものにできるので、コンクリート構造体のかぶり部の厚さに応じて削孔内径を適宜設定するようにすれば、削孔の深さをコンクリート構造体のかぶり部よりも浅くしても、コンクリート構造体に埋設固定されたアンカー部材の耐引抜力を十分に大きなものとし、可撓性継手の両端部をそれぞれ要求される固定強度で隣接する一対のコンクリート構造体に固定できる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明に係るコンクリート用アンカーの固定構造及び可撓性継手の取付構造によれば、アンカー部材をコンクリート構造体に埋設固定するためにコンクリート構造体に穿設する削孔の深さを浅くしても、アンカー部材のコンクリート構造体との固定強度を十分に大きいものにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る可撓性継手の取付構造を図面に基づいて説明する。
【0022】
(可撓性継手の取付構造の構成)
図1及び図2には、本発明の実施形態に係る可撓性継手の取付構造及び、可撓性継手の取付構造が適用されるコンクリート構造体が示されている。図1(A)に示されるように、コンクリート構造体10は略矩形の断面を有する筒状に形成されている。このコンクリート構造体10は、例えば、地中に埋設された状態で複数個が直列的に連結されることにより、その内側に形成される細長い空間が水路となる暗渠、地下通路、道路等の設置スペースとして利用される。
【0023】
複数個のコンクリート構造体10は、内部空間の連通方向(矢印P方向)に沿って配列されており、互いに隣接するコンクリート構造体10の側端面同士が所定の間隔Gを空けて正対するように設置され、この間隔Gにより温度変化等に伴うコンクリート構造体10の膨張や、不等沈下、地震等によるコンクリート構造体10間の相対変位が吸収可能となる。またコンクリート構造体10には、内周壁面の両端部にそれぞれ外周側へ向ってL字状に切り欠かれた窪み部12が形成されている。窪み部12の外周側の底面部には、図2に示されるように、コンクリート構造体10の厚さ方向(矢印T方向)に沿って断面円形の削孔14が形成されている。
【0024】
削孔14は、コンクリート用ドリル等の穿孔工具によりコンクリート構造体10に穿設されており、図3に示されるように、奥側の端部に穿孔工具の先端により円錐状の底面部16が形成されている。削孔14は、その開口端付近から底面部16の上端までの部分の内径が略一定(=R1)とされている。またコンクリート構造体10の窪み部12には、図1(B)に示されるように、その長手方向に沿って一定のピッチPTで複数個の削孔14が穿設されている。
【0025】
図1に示されるように、隣接する一対のコンクリート構造体10間は、可撓性継手18により液密状態となるように連結される。可撓性継手18は細長い帯状に形成されており、隣接する一対のコンクリート構造体10の窪み部12間に跨るように配置されている。可撓性継手18は、図2に示されるように、外側ゴム層20、内側ゴム層22及び、これらのゴム層20、22間に挟まれた繊維補強層24を素材として成形されている。繊維補強層24は、ナイロン繊維又はポリエステル繊維が布状に織られることにより形成されている。
【0026】
可撓性継手18には、長手直角方向に沿った一端部及び他端部にそれぞれ平板状の取付部26が形成されており、これら一対の取付部26は可撓性継手18の全長に亘って延在している。また可撓性継手18には、一対の取付部26間に長手直角方向に沿って蛇腹状に湾曲した撓み変形部28が形成されている。
【0027】
なお、本実施形態の可撓性継手18では、撓み変形部28が断面が2個の樋形状が連続する二山形状のものとされているが、3個の樋形状が連続する波形形状のものでも、あるいは樋形状が1個のみの一山形状のものであっても、可撓性継手18の長手方向、長手直角方向及び厚さ方向へそれぞれ十分な弾性変形量が確保できるならば、撓み変形部28の形状については特に限定されない。
【0028】
図2に示されるように、一対の取付部26には、厚さ方向へ貫通する断面円形の挿通穴30がそれぞれ穿設されている。挿通穴30は一対の取付部26にそれぞれ複数個ずつ設けられており、複数個の挿通穴30は、窪み部12の長手方向に沿って削孔14のピッチPTと実質的に等しいピッチで配置されている。
【0029】
次に、可撓性継手18の両端部を、隣接する一対のコンクリート構造体10における窪み部12にそれぞれ固定するための可撓性継手の取付構造(以下単に「取付構造」という。)32について説明する。
【0030】
図3に示されるように、取付構造32は、コンクリート構造体10に穿設された削孔14内に一端側(基端側)が挿入されるアンカーボルト34を備えている。アンカーボルト34は、外周面における一端から他端までにねじ山が形成されたねじ軸により構成されており、その外径R2が全長に亘って略一定とされている。
【0031】
ここで、アンカーボルト34の外径R2は、削孔14の内径R1よりも小径とされている。具体的には、アンカーボルト34の外径R2は、アンカーボルト34の外周面と削孔14の内周面との間に形成される隙間の幅をW(=(R1−R2)/2)とした場合に、R2=W/(0.6〜0.85)の関係を満たすように設定されている。
【0032】
アンカーボルト34における削孔14内へ挿入されるアンカー挿入部35には、略円筒状に形成されたスペーサリング36が装着されている。スペーサリング36は、図3(B)及び(C)に示されるように、その内周面にアンカーボルト34のねじ山に対応するねじ溝38が形成されており、アンカーボルト34の外周側に捻じ込みにより装着され、アンカーボルト34の外周側で回転させることにより、軸方向に沿った位置が調整可能とされている。またスペーサリング36の外径R3は、削孔14の内径R1と一致したものとされるか、僅かに小径のものとされている。スペーサリング36は、アンカー挿入部35の先端側に装着され、アンカー挿入部35と共に削孔14内へ挿入される。このとき、アンカーボルト34の先端面の外周エッジ部が確実に削孔14の底面部へ当接するように、スペーサリング36の軸方向に沿った位置が予め調整されている。
【0033】
図3に示されるように、スペーサリング36は、アンカーボルト34のアンカー挿入部35と共に削孔14内へ挿入されると、その外周面を削孔14の内周面に接触又は微小間隔を空けて対向させることにより、アンカーボルト34の軸心SBが削孔14の軸心SHと略一致するようにアンカーボルト34を位置決めする。
【0034】
スペーサリング36には、外周面を軸方向に沿って直線的に横断するように複数本(本実施形態では、4本)の第1充填溝40が形成されている。これら4本の第1充填溝40は、それぞれ断面が略矩形状に形成されており、周方向に沿って等間隔(90°間隔)で配置されている。さらにスペーサリング36には、外周面における軸方向中間部に周方向へ延在する第2充填溝42が環状に形成されている。第2充填溝42も断面が略矩形状に形成されており、スペーサリング36の外周面で4本の第1充填溝40と交差している。
【0035】
図4に示されるように、取付構造32には、アンカーボルト34及びスペーサリング36が挿入された削孔14内にコンクリート用接着剤が注入され、隙間なく充填されることにより、アンカーボルト34のアンカー挿入部35と削孔14の内壁面と間に接着層44が形成される。この接着層44の厚さは、アンカーボルト34の外周面と削孔14の内周面との間に形成される隙間の幅をと実質的に等しくなり、アンカーボルト34の外径R2の0.6〜0.85倍の範囲で適宜設定される。
【0036】
接着層44を形成するコンクリート用接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂系、ニトリル系、ウレタン系、アクリル系等の常温硬化型の接着剤を用いることができる。中でも、エポキシ樹脂系の接着剤は、コンクリート用接着剤として入手容易であり、コンクリートと金属製のアンカーボルト34の双方に対して、常温下で堅固に固着するため、好ましく用いられる。具体的には、エポキシ樹脂系接着剤を用いた場合には、その引張り剪断接着強さ(JIS K6850)としては18kN/mm程度を確保できる。
【0037】
なお、2種類の液体成分の混合によって硬化する2液型接着剤を用いる場合には、2種類の液体成分を削孔14内へ注入する直前に混合した後、この混合された液体成分(2液型接着剤)を注入することが好ましい。
【0038】
コンクリート用接着剤を削孔14内へ注入する際には、削孔14の開口端側から注入された接着剤は、アンカー挿入部35と削孔14の内壁面との間を通ってスペーサリング36の上端面に達すると、少なくとも1本の第1充填溝40内へ流入し、第1充填溝40内を通ってスペーサリング36の下端側へ流動する。この接着剤が第2充填溝42との交差部まで流動すると、接着剤の一部が第1充填溝40から第2充填溝42内へ流入する。これにより、第2充填溝42内へ流入した接着剤が4本の第1充填溝40へそれぞれ分流し、接着剤が4本の第1充填溝40を通ってスペーサリング36の下側へ流入する。
【0039】
取付構造32は、図1(B)に示されるように、一対のコンクリート構造体10に窪み部12それぞれ配置される一対の押え金具46を備えている。押え金具46は、窪み部12の長手方向に沿って細長いプレート状に形成されている。一対の押え金具46には、図2に示されるように、それぞれ厚さ方向へ貫通する断面円形の貫通穴48が複数穿設されており、これら複数個の貫通穴48は、窪み部12の長手方向に沿って削孔14のピッチPT(図1(B)参照)と実質的に等しいピッチで配置されている。
【0040】
次に、上記のように構成された取付構造32を用いて可撓性継手18を一対のコンクリート構造体10に取り付ける方法について説明する。
【0041】
可撓性継手18を一対のコンクリート構造体10に取り付ける際には、先ず、可撓性継手18における一対の取付部26をそれぞれ隣接する一対の窪み部12上に載置しつつ、窪み部12の削孔14から突出するアンカーボルト34の他端側(先端側)を取付部26の挿通穴30内へ挿入し、挿通穴30に挿通させる。
【0042】
次いで、一方の押え金具46を、可撓性継手18における一方の取付部26を介して一方の窪み部12の底面上に載置しつつ、取付部26の挿通穴30から突出するアンカーボルト34の先端側を押え金具46の貫通穴48内へ挿入し、貫通穴48に挿通させる。他方の押え金具46も、コンクリート構造体10における他方の取付部26を介して他方の窪み部12の底面上に載置しつつ、取付部26の挿通穴30から突出するアンカーボルト34の先端側を押え金具46の貫通穴48内へ挿入し、貫通穴48に挿通させる。
【0043】
押え金具46の貫通穴48から突出したアンカーボルト34の先端部には、図2に示されるように、外周側にスプリングワッシャ50及び平ワッシャ52が嵌め込まれた後、ナット54が所定の締結トルクが発生するまで捻じ込まれる。これにより、可撓性継手18における一対の取付部26がそれぞれ押え金具46と窪み部12との間に加圧状態となるよう挟持され、一対の窪み部12上にそれぞれ固定される。このとき、弾性材料からなる取付部26の外周面が窪み部12の底面部分に十分に高い接触圧で均一に圧接することから、取付部26と窪み部12との間には高い液密性(止水性)が確保される。
【0044】
(可撓性継手の取付構造の作用)
上記のように構成された本実施形態に係る取付構造32では、アンカーボルト34のアンカー挿入部35の外周側にスペーサリング36が捻じ込みにより装着され、このスペーサリング36がアンカー挿入部35と共に削孔14内へ挿入されると、アンカーボルト34を削孔14と略同軸的な位置(中心位置)へ位置決めする。これにより、コンクリート構造体10に穿設される削孔14の内径R1をアンカー挿入部35の外径R2よりも大径としても、スペーサリング36と共にアンカー挿入部35を削孔14内へ挿入するだけで、スペーサリング36によりアンカーボルト34を削孔14の中心位置へ位置決めでき、かつアンカーボルト34の削孔14の傾きを十分に小さくできるので、アンカー挿入部35の外周面と削孔14内の内周面との間に形成される隙間の幅Wを周方向に沿って任意の部位で略一定のものにできる。
【0045】
また取付構造32では、スペーサリング36の外周面における複数本の第1充填溝40がそれぞれスペーサリング36の軸方向に沿った一端と他端との間を横断するように形成されていることから、アンカー挿入部35及びスペーサリング36が挿入された削孔14内に流動性を有する接着材を注入し、これを充填する際に、第1充填溝40内を通して接着剤をスペーサリング36の先端側の空間へも確実に注入できるので、アンカー挿入部35のスペーサリング36が装着された部分を除いて、接着剤をアンカー挿入部の外周面と削孔内の内周面との間に隙間なく充填でき、この隙間内に厚さが略一定(=W)の接着層44を形成できる。
【0046】
ここで、コンクリート構造体10に穿設される削孔14の内径R1をアンカーボルト34のアンカー挿入部35の外径R2よりも大径としたことにより、接着層44の外周面積をアンカー挿入部35の外周面積よりも広くできるので、アンカーボルト34に引抜力が作用し、接着層44を介してコンクリート構造体10へ引抜力が伝達される際に、引抜力を広い面積を有する接着層44の外周面と削孔14の内周面との界面(接着界面)に分散し、コンクリート構造体10における削孔14周辺に生じる内部応力を効果的に低減できる。
【0047】
この結果、本実施形態に係る取付構造32によれば、アンカー挿入部の外径が略同一であるという条件下で、削孔の内径がアンカー挿入部の外径と略同じか、僅かに広いものとされる従来の可撓性継手の取付構造と比較した場合、削孔14の深さを大幅に浅くしても、アンカー挿入部35がコンクリート構造体10に埋設固定されたアンカーボルト34の耐引抜力を十分に大きなものにできるので、コンクリート構造体10のかぶり部の厚さに応じて削孔14の内径R1を適宜設定するようにすれば、削孔14の深さをコンクリート構造体10のかぶり部よりも浅くしても、コンクリート構造体10に埋設固定されたアンカーボルト34の耐引抜力を十分に大きなものとし、可撓性継手18の両端部をそれぞれ要求される固定強度で隣接する一対のコンクリート構造体10に固定できる。
【0048】
具体的には、削孔14の深さを、コンクリート構造体10のかぶり部の厚さと略同じか、かぶり部の厚さよりも短い50mmとしても、アンカーボルト34としてM16のものを用い、削孔14の内径R1を26.5〜29.5mmに設定することにより、アンカーボルト34の引抜強度として50kN以上を確保でき、可撓性継手18を要求される強度よりも高い固定強度でコンクリート構造体10へ固定することができる。
【0049】
従って、本実施形態に係る可撓性継手の取付構造32を採用すれば、コンクリート構造体10内の鉄筋を避けて削孔14を穿設する必要がなくなるため、可撓性継手18の長手方向に沿った削孔14のピッチPTを一定のものにすることができる。これにより、可撓性継手18に穿設される挿通穴30のピッチ及び、押え金具46における貫通穴48のピッチもそれぞれ一定のものにできるため、可撓性継手18及び押え金具46に挿通穴30及び貫通穴48をそれぞれ穿設する作業の自動化が可能になり、また削孔14の深さも従来よりも浅くなるので、コンクリート構造体10への削孔作業も簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る可撓性継手の取付構造及び、可撓性継手の取付構造が適用されるコンクリート構造体の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示される可撓性継手の取付構造及びコンクリート構造体の連通方向に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る可撓性継手の取付構造におけるスペーサリングが装着されたアンカーボルト及び削孔を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る可撓性継手の取付構造におけるスペーサリングが装着されたアンカーボルト、接着層及び削孔を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
10 コンクリート構造体
14 削孔
18 可撓性継手
26 取付部(可撓性継手)
28 撓み変形部(可撓性継手)
30 挿通穴(可撓性継手)
32 取付構造
34 アンカーボルト(アンカー部材)
35 アンカー挿入部(アンカーボルト)
36 スペーサリング
40 第1充填溝
42 第2充填溝
44 接着層
46 押え金具
48 貫通穴(押え金具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド状のアンカー部材をコンクリート構造体に埋設固定するためのコンクリート用アンカーの固定構造であって、
コンクリート構造体に穿設された削孔内に一端側が挿入され、該削孔内へ挿入されるアンカー挿入部の外径が削孔の内径よりも小径とされたアンカー部材と、
前記アンカー挿入部の外周側に装着され、該アンカー挿入部と共に削孔内へ挿入されると、前記アンカー部材を削孔の中心と略同軸となる位置へ位置決めするスペーサリングと、
前記スペーサリングの外周面に形成され、該スペーサリングの軸方向に沿った一端と他端との間を横断する第1の充填溝と、
前記アンカー部材及び前記スペーサリングが挿入された削孔内に充填されるコンクリート用接着剤と、
を有することを特徴とするコンクリート用アンカーの固定構造。
【請求項2】
前記スペーサリングの外周面に、複数本の前記第1の充填溝を形成したことを特徴とする請求項1記載のコンクリート用アンカーの固定構造。
【請求項3】
前記スペーサリングの外周面に、周方向へ延在して前記第1の充填溝と交差する第2の充填溝を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート用アンカーの固定構造。
【請求項4】
前記アンカー部材は、外周面にねじ溝が形成されたアンカーボルトであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のコンクリート用アンカーの固定構造。
【請求項5】
前記アンカー部材の外周面と削孔の内周面との間に前記コンクリート用接着剤により形成される接着層の厚さを、前記アンカー部材の直径に対して0.6〜0.85倍に設定したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のコンクリート用アンカーの固定構造。
【請求項6】
可撓性継手の両端部を、隣接する一対のコンクリート構造体にそれぞれ固定するための可撓性継手の取付構造であって、
コンクリート構造体に穿設された削孔内に一端側が挿入され、該削孔内へ挿入されるアンカー挿入部の外径が削孔の内径よりも小径とされたアンカー部材と、
前記アンカー挿入部の外周側に装着され、該アンカー挿入部と共に削孔内へ挿入されると、前記アンカー部材を削孔の中心と略同軸となる位置へ位置決めするスペーサリングと、
前記スペーサリングの外周面に形成され、該スペーサリングの軸方向に沿った一端と他端との間を横断する第1の充填溝と、
前記アンカー部材及び前記スペーサリングが挿入された削孔内に充填されるコンクリート用接着剤と、
弾性材料により帯状に形成された可撓性継手における長手直角方向に沿った両端部にそれぞれ設けられ、前記アンカー部材が挿通する挿通部と、
前記アンカー部材と連結固定される連結部が設けられ、前記アンカー部材と連結固定された状態で、前記可撓性継手の端部をコンクリート構造体との間に挟持固定する押え金具と、
を有することを特徴とする可撓性継手の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−7959(P2008−7959A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176702(P2006−176702)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】