説明

コンクリート部材等の接合用重ね継手及びその設計方法

【課題】 閉合形状の応力材料の重ね継手の継手耐力を分析して定式化し、合理的な範囲の継手長として施工性、経済性に優れた重ね継手を実現する。
【解決手段】 継手耐力Pが、応力材料径φ、曲線部曲げ半径r、コンクリート圧縮強度f′C 、継手長H、継手応力材料の断面積AS 、継手応力材料の降伏耐力σS により特定の関数形で与えられ、かつ、重ね継手の曲線部曲げ半径rが2φ〜8φ、重ね継手の曲線部に配置する補強棒径が0.5φ以上、重ね継手の継手長が1φ〜13.4φ、応力材料径φが16〜35mm、コンクリート圧縮強度が16〜40N/mm2 であるコンクリート部材等の接合用重ね継手である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート部材等の接合用重ね継手及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対向するコンクリート部材等(鉄筋コンクリート部材、鉄骨コンクリート部材、鉄骨鉄筋コンクリート部材、鋼穀コンクリート部材、コンクリート部材、鋼部材)の接合部での接合方法のうち、閉合した応力材料(鉄筋や丸鋼など)を対向させ、そこにコンクリートを充填することで一方の応力材料の応力を他方の応力材料に伝達する継手構造(閉合形状の応力材料の重ね継手)が知られている(特許文献1)。
【0003】
例えば、図8に示すように、鉄筋コンクリート部材1と鉄筋コンクリート部材2を接合する場合、その接合部に、鉄筋コンクリート部材1、2から延びて屈曲してそれぞれ戻る形状の鉄筋3、4を対向させ、この接合部にコンクリートを充填することで、一方の鉄筋から他方の鉄筋に応力を伝達する構造である。この場合、鉄筋の曲部を含まない鉄筋の重なり合う長さHが本発明で扱う継手長である。なお、図では対向する継手同士が接触した状態のものを示しているが、対向する継手間は離間していてもよい。
【0004】
このような継手構造は、例えば、地盤を掘削しつつ鋼製エレメントをけん引又は推進により地中に順次挿入して組み合わせ、鋼製エレメントを相互に接合して閉合状のエレメント構造体を地盤内に構成し、エレメント構造体により囲まれた部分の土砂等を掘削し、エレメント構造体を地下構造物の本体構造として利用する場合、エレメント構造体が最後に閉合する部分(閉合部)の接合用等に用いられている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−38607号公報
【特許文献2】特開2002−115497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
閉合形状の応力材料の重ね継手は、従来、継手としての耐力が未解明であったため、継手部の重ね長さ(継手長)を長くして耐力を得るようにしなければならなかった。しかし、コンクリート部材を所定の位置に設置し、接合部に継手を重ね合わせた後に、コンクリートを打設する場合、継手長が長くなると打設するコンクリート量が多くなり施工性と経済性に劣ることになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決しようとするものであり、閉合形状の応力材料の重ね継手の継手耐力を分析して定式化し、合理的な範囲の継手長として施工性、経済性に優れた重ね継手を実現しようとするものである。
本発明は、コンクリート部材等の接合部に直線部と曲線部からなる閉合した一対の応力材料を対向させて配置し、該接合部にコンクリートを打設してコンクリート部材等を接合する重ね継手において、
応力材料径φ、曲線部曲げ半径r、コンクリート圧縮強度f′C 、継手長H、継手応力材料の断面積AS 、継手応力材料の降伏耐力σS と継手耐力Pの関係が次の(1)式、(2)式を満足し、
【0007】
【数5】

【0008】
【数6】

【0009】
かつ、重ね継手の曲線部曲げ半径rが2φ〜8φ、
重ね継手の曲線部に配置する補強棒径が0.5φ以上、
重ね継手の継手長が1φ〜13.4φ、
応力材料径φが16〜35mm、
コンクリート圧縮強度が16〜40N/mm2 であることを特徴とする。
また、本発明は、コンクリート部材等の接合部に閉合した一対の応力材料を対向させて配置し、該接合部にコンクリートを打設してコンクリート部材等を接合する重ね継手の設計方法において、
応力材料径φ、曲線部曲げ半径r、コンクリート圧縮強度f′C 、継手長H、継手応力材料の断面積AS 、継手応力材料の降伏耐力σS と継手耐力Pの関係が次の(1)式、(2)式を満足させ、
【0010】
【数7】

【0011】
【数8】

【0012】
かつ、重ね継手の曲線部曲げ半径rが2φ〜8φ、
重ね継手の曲線部に配置する補強棒径が0.5φ以上、
重ね継手の継手長が1φ〜13.4φ、
応力材料径φが16〜35mm、
コンクリート圧縮強度が16〜40N/mm2 となるように設計することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、閉合形状の応力材料の重ね継手の継手耐力を定式化し、継手に用いる応力材料の降伏耐力より大きく継手耐力を設計するようにしたので、施工性、経済性を格段に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、以下では、応力材料として鉄筋を例にとって説明する。
図1は本発明の重ね継手の鉄筋(応力材料)の配置構成を説明する図である。
コンクリート部材等(鉄筋コンクリート部材、鉄骨コンクリート部材、鉄骨鉄筋コンクリート部材、鋼穀コンクリート部材、コンクリート部材、鋼部材)を接合する重ね継手を構成する閉合形状の一方の継手鉄筋3は、コンクリート部材に作用する引張力方向の直線の鉄筋3a、3eと、これと直交する方向の直線の鉄筋3c、これら直線部をつなぐ曲線部3b、3dの鉄筋からなり、重ね継手を構成する閉合形状の他方の継手鉄筋4は、コンクリート部材に作用する引張力方向の直線の鉄筋4a、4eと、これと直交する方向の直線の鉄筋4c、これら直線部をつなぐ曲線部4b、4dの鉄筋からなっている。各継手鉄筋の曲線部には、継手鉄筋が延びる方向と直交する方向に補強棒(鉄筋、丸鋼等)5が配置され、この補強棒5は重ね継手の鉄筋に接する場合、或いは接しない場合のどちらもあり得る。継手長Hは、鉄筋の曲線部を含まない鉄筋の重なり合う長さ(曲線部同士の離れ)である。なお、継手鉄筋3と継手鉄筋4とは接触状態、或いは離間して対向させてもよく、この場合鉛直方向または垂直方向に離間させてもよい。この重ね継手部にコンクリートを打設することでコンクリート部材等が接合される。重ね継手部に曲げモーメントが作用すると継手鉄筋に図示矢印の方向の引張力が作用し、これに抗する継手耐力が必要となる。
【0015】
一般に、重ね継手の耐力は、曲げ加工された曲線部の定着力(曲線部鉄筋のコンクリート中での固定度合い)と、直線部の定着力(鉄筋とコンクリートの付着力)からなるが、本発明の継手耐力は次の(1)式、(2)式によって算定される。
【0016】
【数9】

【0017】
【数10】

【0018】
すなわち、継手耐力P[N]は、鉄筋(応力材料)径φ[mm]、曲線部曲げ半径r[mm]、コンクリート圧縮強度f′C [N/mm2 ]、継手長H[mm]を変数とする関数形(1)式で求められ、曲線部の定着力と継手長で決まる。継手に用いる鉄筋(応力材料)の断面積AS 、継手に用いる鉄筋(応力材料)の降伏耐力をσS としたとき、(2)式のように単位面積当たりの継手耐力(P/AS )を鉄筋(応力材料)の降伏耐力(σS )より大きくすることで、鉄筋が降伏する前には継手を破壊させないようにする。なお、曲線部の定着力は、曲げ加工半径、継手に用いる鉄筋(応力材料)径、補強棒径、コンクリート圧縮強度で決まるが、後述するように、補強棒径が継手鉄筋径の0.5倍以上であれば概ね同様の補強効果が得られるため、(1)式では補強棒径を因子として入れていない。
【0019】
図2は、(1)式を導く際に用いた梁形状の試験体の例を示す図である。
(1)式は、梁形状の試験体において重ね継手を中央に設置し、継手部に2点で載荷する実験を実施し、その実験の破壊時荷重から導いた継手耐力であり、表1はこの実験に用いた試験体一覧を示している。
【0020】
【表1】

【0021】
図2の例の試験体10は、重ね継手部11を中心Aとして3000mmの間隔の支点12、13で支持し、中心Aから両側にそれぞれ500mm(間隔1000mm)の位置を載荷点14、15とし、重ね継手部に曲げモーメントを作用させて、継手鉄筋に引張力を作用させている。図示の例では継手長を鉄筋径φの1倍(=1φ)としている。
【0022】
表1に示すように、試験体としてはNo1〜No10を用いた。表1のスパンLは支点間の距離、アームは載荷点と支点間の距離、主鉄筋量は継手鉄筋径及び継手鉄筋断面積、補強鉄筋は補強棒の径とその断面積、コンクリート圧縮強度は、20.6〜25.0[N/mm2 ]の範囲、1本あたり継手耐力[kN]は計算値と実験値、継手長は実際の長さと鉄筋径φの整数倍で表した長さ、継手隅角部は、曲げ半径と曲げ部長さをそれぞれ示している。表1において、継手長1φについて式1で計算により求めた1本あたり継手耐力と、実験で求めた1本あたり継手耐力とがほぼ一致していることが分かる。なお、継手長2φの場合については、継手破壊の前に応力材料(鉄筋)が降伏してしまったため、実験により求めた継手耐力よりも式1の計算で求めた耐力の方が上回る結果となっている。
【0023】
図3は曲線部の曲げ加工半径を得るための引張試験の概要図、図4は引張試験結果を示す図である。この試験は、(1)式におけるr/φの影響を定量的に評価するためのものである。
長さL、高さH、幅Wのコンクリート構造物からなる試験体を使用する引張試験においては、1本の継手鉄筋の一端を試験体の面に固定具16で固定し、この固定部から水平部17、曲げ加工部18を経た後、垂直部19はコンクリートとの付着がないようにしてジャッキにより鉄筋を上方へ引張り、そのときの最大引張荷重から曲げ加工部の耐力を測定するものであり、この試験を曲げ加工半径を変えて行う。
【0024】
試験体No1、No2、No3について(曲げ半径r)/(鉄筋径φ)に対する最大引張荷重を求めたところ、図4に示すような結果が得られた。なお、最大引張荷重は、コンクリート圧縮強度で除して24N/mm2 を乗じて正規化した値である。図4より、曲げ加工半径を8φより大きくしても定着力は飽和傾向にあるため、最大曲げ加工半径は8φとするのが望ましい。また、曲げ加工半径を小さくすると曲げ加工による応力材料の強度低下が生じるため、継手鉄筋の曲げ加工半径は2φ以上は必要である。従って、継手鉄筋の曲げ加工半径は2φ〜8φとすることが望ましい。
【0025】
図5は補強鉄筋径/継手鉄筋径に対する1本あたり継手耐力の関係を、試験体No3、No5、No6から求めたものである。
曲げ加工部に配置する補強棒径は、継手鉄筋径の0.5倍(=0.5φ)以上であれば、概ね所定の補強効果が得られることが分かる。0.5φ以下では、補強効果に大きなばらつきがでてしまい、0.5φ以上とすることで概ね同様な補強効果が得られるため、(1)式では補強棒径は因子として入れていない。
【0026】
図6は曲線部の要素試験の試験体概要図、表2は曲線部の要素試験一覧、図7は試験体高さ(継手長)と継手1本あたり最大載荷重との関係を示す図である。この要素試験は、(1)式のH/φの影響を定量的に評価するためのものである。
【0027】
【表2】

【0028】
継手長に応じた継手耐力の影響は、図6に示す曲線部に関する要素試験により確認した。この要素試験では、重ね継手の曲線部の鉄筋を模擬した鉄筋21をコンクリートブロック20の上・下に配置し(この鉄筋中心間の距離Hが継手長に相当)、鉄筋の長さと試験体の長さを同じ(この例では120mm)とし、鉄筋は試験体製作時にコンクリートブロックの面に中心まで半分埋め込むようにして設置・固定してコンクリートを打設した。この鉄筋に均等に荷重を作用させるため、十分な剛性を有する載荷梁を用い、載荷荷重を載荷板に伝え、さらに載荷板と鉄筋の間に硬質ゴムを挟み、局部的な当たりを補正して荷重を加え、最大荷重から継手耐力を評価した。
【0029】
図7においては、横軸は試験体高さ(継手長)H/φ、縦軸は継手鉄筋1本あたり最大載荷重(継手の曲線部耐力)をコンクリート圧縮強度で除した後、24N/mm2 を乗じて正規化し、コンクリート強度による載荷力のバラツキを補正した。試験体No1〜4は補強鉄筋なし、試験体No5〜10は補強鉄筋を配置し、試験体高さ(継手長)H/φに対する1本あたり最大載荷重を求めた。表2に示すように、図のNo5〜7は、鉄筋径D25をコンクリートブロックの上下に2本づつ配置した場合、No8〜10は鉄筋径D25をコンクリートブロックの上下に4本づつ配置した場合、No8〜10は鉄筋径D25をコンクリートブロックの上下に2本づつ配置した場合である。
【0030】
この試験結果から、試験体高さ(継手長)が13.4φ以上になると、補強鉄筋があってもなくても最大載荷重が変わらないことが分かり、試験体高さ4〜13.4φの範囲で補強鉄筋を配置することで継手長が短くなることに伴う最大載荷重の低下傾向が小さい。ここでは4φ以下は示されていないが、図2の試験結果(表1)から1φ、2φの場合にも耐力が確認できている。すなわち、継手長と継手耐力Pの関係は、継手長1φ〜13.4φの範囲で、P=P0 (1ー1/1.4exp(H/φ))にあることが確認された。ここでP0 は継手長を無限に長くした時の収束値である。このように、継手長は1φ〜13.4φとすることが望ましく、継手長が1φ〜13.4φの範囲で、継手長が長くなると継手の耐力が向上し、継手鉄筋同士の間隔は、継手の耐力上の問題がないので、接する場合、離した場合のいずれでもよい。このように継手耐力は継手長(曲線部の離れ)の大きさに対応して大きくなるが、対向する一対の継手間の曲線部の離れ(平行方向、或いは鉛直方向または垂直方向の離れ)が大きくなっても継手耐力は大きくなる。
【0031】
本発明の継手の耐力は、曲線部の定着力により決まり、破壊するときの形態は支圧破壊である。(1)式は、支圧耐力の算定式を基本としており、支圧耐力の算定式が適用できるコンクリート圧縮強度の範囲であれば適用可能であり、従って、本発明で適用可能なコンクリート圧縮強度は、一般的なコンクリート構造物に適用される16〜40N/mm2 である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、閉合形状の応力材料の重ね継手の継手耐力を定式化できるので、施工性、経済性を格段に向上させることが可能となるので産業上の利用価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】重ね継手の鉄筋の配置構成を説明する図である。
【図2】式1を導く際に用いた梁形状の試験体の例を示す図である。
【図3】曲線部の曲げ加工半径を得るための引張試験の概要図である。
【図4】引張試験結果を示す図である。
【図5】補強鉄筋径/継手鉄筋径対1本あたり継手耐力の関係を示す図である。
【図6】曲線部の要素試験の試験体概要図である。
【図7】継手長と継手1本あたり最大載荷重との関係を示す図である。
【図8】従来の重ね継手を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
3,4…継手鉄筋、5…補強棒、H…継手長。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材等の接合部に直線部と曲線部からなる閉合した一対の応力材料を対向させて配置し、該接合部にコンクリートを打設してコンクリート部材等を接合する重ね継手において、
応力材料径φ、曲線部曲げ半径r、コンクリート圧縮強度f′C 、継手長H、継手応力材料の断面積AS 、継手応力材料の降伏耐力σS と継手耐力Pの関係が次の(1)式、(2)式を満足し、
【数1】

【数2】

かつ、重ね継手の曲線部曲げ半径rが2φ〜8φ、
重ね継手の曲線部に配置する補強棒径が0.5φ以上、
重ね継手の継手長が1φ〜13.4φ、
応力材料径φが16〜35mm、
コンクリート圧縮強度が16〜40N/mm2 であることを特徴とするコンクリート部材等の接合用重ね継手。
【請求項2】
コンクリート部材等の接合部に閉合した一対の応力材料を対向させて配置し、該接合部にコンクリートを打設してコンクリート部材等を接合する重ね継手の設計方法において、
応力材料径φ、曲線部曲げ半径r、コンクリート圧縮強度f′C 、継手長H、継手応力材料の断面積AS 、継手応力材料の降伏耐力σS と継手耐力Pの関係が次の(1)式、(2)式を満足させ、
【数3】

【数4】

かつ、重ね継手の曲線部曲げ半径rが2φ〜8φ、
重ね継手の曲線部に配置する補強棒径が0.5φ以上、
重ね継手の継手長が1φ〜13.4φ、
応力材料径φが16〜35mm、
コンクリート圧縮強度が16〜40N/mm2 となるように設計することを特徴とするコンクリート部材等の接合用重ね継手の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−169930(P2007−169930A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365905(P2005−365905)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年6月20日 社団法人土木学会発行の「土木学会論文集No.791/VI−67」に発表
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】