説明

コンタクトレンズの保存方法とこの保存方法に使用する抗菌プレート

【課題】保存しているコンタクトレンズの殺菌汚染を効果的に阻止する。
【解決手段】コンタクトレンズを保存する保存ケースの下に、表面又は全体が抗菌性を有する抗菌プレートを敷設し、この抗菌プレートの上にコンタクトレンズを保存している保存ケースを載せて保存しているコンタクトレンズを細菌汚染から防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌汚染を防止しながらコンタクトレンズを保存する方法と、この方法に使用する抗菌シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズは、細菌の汚染を防ぐために、取り外した状態では、保存液を充填している保存ケースに浸漬して保存している。保存状態において、コンタクトレンズが細菌に汚染されて、コンタクトレンズ関連角膜感染症となることがある。原因となる起炎微生物は、緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌である報告が多い。そして、感染症をきたした患者の多くは、終日装用コンタクトレンズの就寝時装用、ワンデイコンタクトレンズの数日ないし数週間使用、保存ケース内液の交換をしない不適切なケア、などをしていることが多い。それらの事実から、コンタクトレンズ関連角膜感染症の発症は、レンズの種類にはさほど大きな影響は受けず、どちらかと言えば、装用者の装用・ケア方法の善し悪しに依存することを示唆していると言える。
【0003】
緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌は、原則として健常者の眼表面に常在していないため、コンタクトレンズ関連角膜感染症においてそれらの細菌が角膜擦過物や眼脂から分離された場合、コンタクトレンズ装用に伴って眼外から眼表面に持ち込まれていることになる。過半数の健常者にもあてはまることだが、コンタクトレンズ関連角膜感染症の患者の保存ケース内液を培養すると、緑膿菌を筆頭に多種類のグラム陰性桿菌が多量に分離される。したがって、コンタクトレンズ関連角膜感染症の起炎菌は保存ケース汚染菌であると推測される。さらに、近年アカントアメーバ角膜炎の報告が増加しているが、アカントアメーバはグラム陰性桿菌や真菌を餌としている。保存ケース汚染菌であるグラム陰性桿菌と、保存ケース内のアカントアメーバの存在には何らかの関係があるとも考えられる。したがって、保存ケースの微生物汚染状況は、コンタクトレンズ関連角膜感染症の発症に大きな影響を与える因子である。
【0004】
保存ケースに保存する状態で、殺菌の汚染を防止するために種々の保存液が開発されている。(特許文献1ないし3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−109953号公報
【特許文献2】特開昭62−153217号公報
【特許文献3】特開昭63−59960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保存ケースに充填する保存液の殺菌力を強くすることで、コンタクトレンズの殺菌汚染を少なくできる。しかしながら、より殺菌効果の高い保存液は、より眼表面への毒性が強いことになり、実際の開発には種々の障害がある。
【0007】
本発明は、さらに以上の欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、保存液による眼表面への毒性を強くすることなく、コンタクトレンズの殺菌汚染を効果的に阻止できるコンタクトレンズの保存方法とこれに使用する抗菌プレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明は、コンタクトレンズを保存する保存ケースの下に、表面又は全体が抗菌性を有する抗菌プレートを敷設し、この抗菌プレートの上にコンタクトレンズを保存している保存ケースを載せることを特徴とする。
【0009】
以上の発明は、保存液による眼表面への毒性を強くすることなく、コンタクトレンズの殺菌汚染を効果的に阻止できる特徴がある。それは、抗菌プレートによって、保存ケースの殺菌汚染を防止できるからである。以上の保存方法と抗菌プレートは、保存ケース汚染菌の根源を突き止めて、その根源を絶つことで、保存ケースに混入する生菌量を減少させることに成功したものである。コンタクトレンズの感染症は、起炎微生物の「病原性」と「生菌量」の2つの要素で修飾されるため、保存ケースに汚染菌の侵入を阻止して、保存ケース内の生菌量を減少することで、コンタクトレンズ関連角膜感染症の発症リスクを効果的に減少するものである。
【0010】
新品の保存ケースは、グラム陰性桿菌で汚染されていることはない。元来ほぼ無菌であったはずの保存ケースは、使用中にどこからか微生物が混入して汚染されてコンタクトレンズが細菌に汚染させることになる。この場合、多くの装用者は、洗面所などの水場でコンタクトレンズケアをしていること、緑膿菌などのグラム陰性桿菌は、湿潤環境から高頻度に分離されることを考慮すると、保存ケース近傍の水場に生息している環境菌が混入していると考えられる。
【0011】
健常なコンタクトレンズ装用者の中で、保存ケースから緑膿菌やSerratia 属を検出した装用者において、その装用者の様々な居住空間からも同種菌の分離を試み、それらをPFGEで精査すると、ケース真下や、ケースから半径1メートル以内(片手で届く範囲)の水場から分離される緑膿菌やSerratia 属と、保存ケースから分離される菌とが同じ遺伝子型であることがわかる。その他、コンタクトレンズケア時に使用する水道の蛇口と、装用者の手指からも分離を試みたが、保存ケースから分離された株と同じ遺伝子型の株は、一部の装用者で保存ケースを触った直後の手指から分離された以外は、検出されていない。このことから、保存ケースを汚染する殺菌は室内の水場、特にケースを置いている真下の環境、あるいはケースから半径1メートル以内の水場に生息するグラム陰性桿菌が感染源となる。
【0012】
本発明者は、コンタクトレンズの保存ケースを抗菌プレートに載せることで、保存ケース汚染菌の混入を阻止できるかどうか、また仮にある程度阻止できても、極微量でも混入した菌が数ヶ月の間にケース内で異常に増殖していないかどうか、を検証するため、保存ケースに106 CFU/ml以上の生菌量が確認された装用者において、数ヶ月にわたって生菌数を検出したところ、数ヶ月前後での保存ケース内生菌量の変化を検討すると、多くの装用者で生菌量は劇的に減少し、保存ケース近傍を抗菌プレートに載せることで、保存ケース汚染菌の混入が阻止できる事が判明した。
【0013】
さらに、本発明は、抗菌プレートに保存ケースを載せることで、コンタクトレンズの殺菌汚染を防止できることから、全ての患者から簡単に実施して効果的に殺菌による汚染を防止できる特徴も実現する。
【0014】
本発明の請求項2の保存方法は、前記抗菌プレートに、プラスチックに抗菌剤を充填して板状に成形してなるプラスチックプレートと、繊維に抗菌剤を充填してなる不織布のいずれかを使用する。この保存方法に使用する、抗菌剤を充填しているプラスチックプレートは、表面を払拭することで繰り返し何回も使用できる特徴がある。また抗菌剤を充填している繊維を含む不織布は、安価に多量生産できるので使い捨てに好都合である。
【0015】
本発明の請求項3の保存方法は、抗菌プレートに、その外形を保存ケースの外形よりも大きいプレートを使用する。この方法は、大きな抗菌プレートでもって保存ケースに生菌が侵入するのをより確実に阻止できる特徴がある。
【0016】
本発明の請求項4の保存方法は、抗菌プレートの抗菌剤に銀担持光触媒を使用する。この方法は、抗菌剤の銀担持光触媒でもって、保存ケースに生菌が侵入するのを確実に防止できる特徴がある。
【0017】
本発明の請求項5の抗菌プレートは、コンタクトレンズを保存する保存ケースを上に載せるプレートであって、表面又は全体が抗菌性を有する。
【0018】
さらに、本発明の請求項5の抗菌プレートは、プラスチックに抗菌剤を充填して板状に成形している。この抗菌プレートは、表面を綺麗に払拭することで、繰り返し何回も使用してランニングコストを安くできる特徴がある。
【0019】
本発明の請求項7の抗菌プレートは、抗菌剤を充填してなる繊維が立体的に方向性なくシート状に集合されてなる不織布又は紙からなる。この抗菌プレートは、安価に多量生産できるので、使い捨てとして便利に使用できる。
【0020】
さらに、本発明の請求項8の抗菌プレートは、抗菌剤が銀担持光触媒である。この抗菌プレートは、抗菌剤として添加している銀担持光触媒でもって、保存ケースに生菌が侵入するのを確実に防止できる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するためのコンタクトレンズの保存方法と抗菌プレートを例示するものであって、本発明は保存方法と抗菌プレートを以下に特定しない。
【0023】
コンタクトレンズを保存ケースに保存するとき、コンタクトレンズが菌に汚染されることがある。菌に汚染されたコンタクトレンズを患者が着用すると、コンタクトレンズの菌が眼表面に付着する。このことは、眼表面から分離される菌と保存ケースから分離される菌は同一株となることから明確となる。臨床的には、コンタクトレンズ関連角膜感染症において角膜擦過物・眼脂・結膜嚢拭い液など眼表面のサンプルから緑膿菌が分離され、同時に保存ケースからも緑膿菌が分離される。コンタクトレンズ関連緑膿菌性角膜潰瘍において、眼表面のサンプルから分離された緑膿菌と、保存ケースから分離された緑膿菌とをPFGEで精査すると、それらの遺伝子型が一致する事が確認できる。このことから、コンタクトレンズ関連角膜感染症の起炎菌は保存ケース汚染菌と同一株であると言える。
【0024】
保存ケース汚染菌が角膜に感染していることから、コンタクトレンズ関連角膜感染症の発症のリスクを減らす方法として、感染制御の観点から次の3点をテーマとして設定することができる。すなわち、
(1) 保存ケース汚染菌をこれまで以上に殺菌・静菌できる多目的溶剤の開発、
(2) 菌がより付着しにくい素材のコンタクトレンズの開発、
(3) 汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法の開発、である。
(1)と(2)は、いわば「保存ケースは汚染される」ことを前提とした発想と言える。しかし、(1)で「より殺菌・静菌できる多目的溶剤」とは、「より眼表面への毒性が強い」ことを意味し、実際の開発には障害が多い。
(2)の方法は、菌の付着を阻止するものであるが、近年のソフトコンタクトレンズではシリコンハイドロジェル製のコンタクトレンズが徐々に普及してきているが、シリコンハイドロジェル製コンタクトレンズでは菌の付着を助長し感染の危険が高いとの報告もある。世界的にみて、より菌が付着しにくいコンタクトレンズ素材の開発へは向かっていない。
本発明は、殺菌剤を使用することなく、「保存ケースをいかに汚染させないか」という発想を元に、保存ケース汚染菌の根源を突き止め、その根源を強力に殺菌・除菌することで、保存ケースに混入する生菌量を減少させるものである。感染症は、起炎微生物の「病原性」と「生菌量」の2つの要素で修飾されるため、保存ケース内の生菌量が減少すれば、コンタクトレンズ関連角膜感染症の発症リスクを減らすことができる可能性がある。
【0025】
本発明者は、(3)の方法を実現することを目的として、保存ケースを載せている近傍をアルコールで清拭してコンタクトレンズ関連角膜感染症を予防できることから、図1に示すように、コンタクトレンズ1を保存している保存ケース2の下に敷き、保存ケース2と載せ台3との間に敷く抗菌プレート4を開発した。
【0026】
抗菌プレートは、保存ケース汚染菌の由来から開発した。「ケース汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法」の開発には、汚染菌の由来を明確にする必要がある。そもそも、店頭に並んだ新品の保存ケースが、既に10 6〜7 個のグラム陰性桿菌で汚染されていることはなく、元来ほぼ無菌であったはずの保存ケースが、使用中にどこからか微生物が混入して汚染される。多くの装用者が居住空間の水場でコンタクトレンズケアをしていること、緑膿菌などのグラム陰性桿菌は、居住空間の湿潤環境から高頻度に分離されることを考慮すると、保存ケース近傍の水場に生息している環境菌が混入していると考えられる。
【0027】
健常なコンタクトレンズ装用者の中で、保存ケースから緑膿菌を検出した装用者において、その装用者の様々な居住空間からも同種菌の分離を試み、それらをPFGEで精査すると、ケース真下や、ケースから半径1メートル以内(片手で届く範囲)の水場から分離される緑膿菌と、保存ケースから分離される菌とが同じ遺伝子型である。一方で、同じ装用者の居住空間において、ベランダなどの苔が生えているような屋外の湿潤環境から分離される緑膿菌とは遺伝子型が違う。その他、コンタクトレンズケア時に使用する水道の蛇口と、装用者の手指からも分離を試みた。保存ケースから分離された株と同じ遺伝子型の株は、一部の装用者で保存ケースを触った直後の手指から分離された以外は、検出されていない。PFGEで精査することで、保存ケース汚染菌の由来は室内の水場、特にケースを置いている真下の環境、あるいはケースから半径1メートル以内の水場に生息するグラム陰性桿菌である。
【0028】
さらに、本発明者は、(3)の「ケース汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法」で保存ケース汚染菌の混入を阻止できるかどうか、また仮にある程度阻止できても、極微量でも混入した菌が数ヶ月の間にケース内で異常に増殖していないかどうか、を検証するため、保存ケースに106 CFU/ml以上の生菌量が確認された装用者において、ケース近傍のアルコール綿での清拭を数ヶ月に渡って施行した。施行前後での保存ケース内生菌量の変化を検討すると、多くの装用者で生菌量は劇的に減少し、保存ケース近傍の清拭で保存ケース汚染菌の混入が阻止できる事が判明した。
【0029】
以上のことから、「保存ケース近傍の清拭」はすぐにでも患者へ指導することができるため、ケア方法の一つとして啓発すべきと思われる。しかし、ソフトコンタクトレンズのケア方法の中心が、煮沸消毒から2段階中和方式のコールド消毒、そして多目的溶剤へと、より簡便な方法に変遷したことを考慮すると、これまでのケアに加えて、わずかでも新たな作業が加わることに順応できない装用者が多い。
【0030】
本発明者は、以上の実験結果から、保存ケースの近傍をアルコールなどで清拭することなく、効果的にコンタクトレンズの汚染を阻止することに成功した。図1は、本発明の実施例を示すもので、コンタクトレンズ1を保存する保存ケース2の下に、抗菌性を有する抗菌プレート4を敷設している。抗菌プレート4の上にコンタクトレンズ1を保存している保存ケース2を載せることで、近傍をアルコールで清拭したのと同じ状態として、保存ケース2の汚染を阻止する。
【0031】
(抗菌プレート)
図1の抗菌プレートは、保存ケースの外形よりも大きいプレートとしている。この抗菌プレートは、保存ケース周囲を抗菌状態として、保存ケースに生菌が侵入するのを阻止する。保存ケースよりも大きい抗菌プレートは、外径を6cmとする円形である。ただし、抗菌プレートは必ずしも保存ケースよりも大きな外形とする必要はない。それは、保存ケースよりも小さい抗菌プレートの上に保存ケースを載せる状態で、保存ケースの底面が抗菌プレートで載せる台の上から抗菌状態に隔離されるからである。したがって、円形である抗菌プレートは、その外径を4cmないし10cmとすることができる。さらに、抗菌プレートは、楕円形や多角形とすることもできる。楕円形の抗菌プレートは、短径を3cmないし8cm、長径を4cmないし10cmとすることができる。また、多角形の抗菌プレートは、一辺を3cmないし10cmとする。
【0032】
抗菌プレートは、繊維に抗菌剤を充填している抗菌性不織布やプラスチックに抗菌剤を充填して板状に成形しているプラスチックプレートとすることができる。抗菌剤には、緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌に対して抗菌性のある薬剤、たとえば、光触媒物質や銀系の殺菌剤が使用できる。光触媒物質は、光が照射されることで抗菌効果を発揮するので、室内の明るい場所に配置されるコンタクトレンズの保存ケースの用途に適している。例えば、光触媒物質として抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維で構成された抗菌性不織布を使用する。
【0033】
抗菌性不織布や、抗菌剤を充填しているプラスチックプレートからなる抗菌プレートは、全体が抗菌性を有する。ただ、本発明の抗菌プレートは、たとえば、プラスチックプレートや不織布からなる基材プレートの表面に、バインダーを介して抗菌剤を塗布したものも使用できる。
【0034】
(抗菌活性金属化合物)
抗菌活性金属化合物としては、銀、銅、亜鉛、チタン、金、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト等、抗菌性を示す金属が利用できる。これらの金属は1種類を単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。特に可視光線で励起して殺菌効果を発揮でき、利用のし易さや安全性等の面からは銀が好ましい。銀担持光触媒は可視光線を受けると銀イオンが光受容体となり、基底電子を電導バンドまで励起し、繊維表面吸着酸素を励起電子が還元して、スーパーオキシドアニオンラジカルを生成する。一方、電子の抜けた正孔は、OHアニオンから電子を引き抜いてヒドロキシラジカルを生成する。このヒドロキシラジカルは非常に強力な酸化力を持ち、細菌等の有機物を分解する。また、ヒドロキシラジカルの寿命は一瞬であるため、周囲への悪影響も生じない。
【0035】
図1の例では、アクリロニトリル系繊維の一部のニトリル基をスルホン酸基に置換し、銀イオンをキレートさせたアクリロニトリル系繊維を30%、ポリオレフィン繊維を70%の割合で混合した銀担持抗菌性不織布を使用した。また光触媒殺菌効果を生じさせるためには、細菌等処理対象の有機物と光触媒物質とを接触させる必要がある。このため抗菌プレートを抗菌性不織布として、培養液中に含まれる細菌等が効率よく光触媒物質と接触させることができる。抗菌性の不織布は、繊維を立体的に方向性なく集合して、繊維の間に空気や水等の液体が通過できる濾過空隙を設けている。繊維は、抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維を、pH1〜6の範囲内で熱処理をしてなる光触媒活性を有する抗菌性アクリロニトリル系繊維とし、抗菌性を持たせる。
(抗菌性不織布)
【0036】
ここで抗菌プレートである抗菌性不織布の詳細について説明する。抗菌性アクリロニトリル系繊維は、抗菌活性金属化合物を好ましくは銀系化合物とし、さらにアクリロニトリル系繊維として好ましくはアニオン性官能基を有する。さらに、抗菌性アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系繊維を、例えば100〜160℃の湿熱又は乾熱で熱処理してなるもので、この抗菌性アクリロニトリル系繊維の含有量は、好ましくは10〜90%とする。抗菌性不織布は、抗菌性アクリロニトリル系繊維にバインダ繊維を添加し、バインダ繊維でもって繊維の交点を連結できる。
【0037】
抗菌性不織布は、繊維を湿式あるいは乾式で立体的に集合して繊維の交点を結合した不織布である。繊維の交点を結合した抗菌性不織布は、強靭で繊維が分離し難い特長がある。ただ抗菌性不織布は、必ずしも繊維の交点を結合する必要はない。それは、抗菌性不織布が、強度の要求されない状態で使用されるからである。繊維の交点を結合する抗菌性不織布は、未硬化で液状のバインダを繊維に塗布してこれを硬化させる方法と、主体繊維とバインダ繊維を混合して両繊維を立体的に集合して不織布とした後、バインダ繊維を溶融する方法とがある。液状のバインダで繊維の交点を結合する方法は、不織布に液状のバインダを噴霧して塗布し、あるいは、不織布を液状のバインダに浸漬した後、余分のバインダを絞りとってバインダを硬化させる。バインダ繊維を使用する方法は、バインダ繊維を熱風で溶融し、あるいは、不織布を熱圧してバインダ繊維を溶融して主体繊維の交点を結合する。また、バインダ繊維として木材パルプや合成パルプを使用することもでき、繊維の絡み合い、水素結合によってシート化することができる。
【0038】
抗菌性不織布は、乾式、湿式等の各種製法で製造される。バインダ繊維を混合して製造される抗菌性不織布は、主体繊維とバインダ繊維とを混合し、両繊維を立体的に集合して製造される。この抗菌性不織布は、バインダ繊維の添加量を、10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%とする。抗菌性不織布は、バインダ繊維を添加しないで製造することもできる。ただ、バインダ繊維を添加して製作した抗菌性不織布を加熱してバインダ繊維で溶着した抗菌性不織布は、強度を向上できる。バインダ繊維が主体繊維の交点を溶着するからである。
【0039】
抗菌性不織布は、光触媒活性を有する抗菌性アクリロニトリル系繊維を含んでいる。抗菌性アクリロニトリル系繊維の混合量は、例えば10〜90重量%とするが、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは20〜50重量%、最適には30〜40重量%とする。
【0040】
抗菌性不織布に含まれる抗菌性アクリロニトリル系繊維は、混合量が少なすぎると抗菌性能が低下する。ただ、抗菌性アクリロニトリル系繊維の添加量を多くすると、原料コストが高くなる。また、バインダ繊維で繊維の交点を結合する抗菌性不織布は、抗菌性アクリロニトリル系繊維の添加量を多くすると、バインダ繊維の添加量が少なくなって強度が低下する。抗菌性不織布に含まれる抗菌性アクリロニトリル系繊維の混合量は、用途に要求される抗菌性能とコストと強度とを考慮して、用途に最適な前述の範囲とする。
【0041】
抗菌性不織布は、抗菌性アクリロニトリル系繊維に加えて、主体繊維又はバインダ繊維として、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の合成繊維を、単独であるいは複数を混合して添加することもできる。ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の熱可塑性繊維は、バインダ繊維として使用することができる。これらのバインダ繊維を含む抗菌性不織布は、熱圧加工して繊維を交点で結合して強靭にできる。また木材パルプや合成パルプも使用することができる。
【0042】
抗菌性不織布は、抗菌性アクリロニトリル系繊維に、ポリオレフィン繊維又はポリエステル繊維を添加したものが、機械的強度、耐薬品性、熱加工適性、コスト等の総合的な見地から最適である。抗菌性アクリロニトリル系繊維に添加するポリオレフィン繊維又はポリエステル繊維は、乾式法で製造する場合は、長さを例えば25〜150mm、好ましくは、35〜70mmとするものが適しており、湿式法で製造する場合は、長さを例えば1〜25mm、好ましくは、3〜15mmとするものが適している。
【0043】
抗菌性不織布は、太さを例えば0.1〜50デシテックス、好ましくは0.3〜20デシテックスとする繊維を、60重量%以上含む不織布で構成する。
【0044】
抗菌性不織布に使用される光触媒活性を有する抗菌性アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体から形成された繊維であって、抗菌活性金属化合物を含有するものである限り特に制約はない。アクリロニトリル系重合体は、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは80%重量以上のアクリロニトリルと公知のモノマーとの共重合体を用いることができる。
【0045】
抗菌活性金属化合物としては、抗菌活性を有する金属化合物である限り特に制約はないが、光触媒活性を有効に付与するために銀系化合物であることが好ましい。ここで、本発明において繊維に含有せしめるべき抗菌活性金属化合物の量は、特に限定はないが、より好ましくは、繊維に対して金属イオンとして1〜200m・mol/kg含有させるのが良い。即ち金属化合物の含有量は要求される抗菌性のレベルにより異なるのであり、係る範囲の下限に満たない場合は生活環境での見るべき光触媒活性やこれに伴う充分な抗菌性能が得られにくく、上限を越える場合は、繊維が乾燥等の熱処理工程で著しく着色する問題が生じ易い。さらに係る範囲内で生活用途或いは工業用途への充分な光触媒活性に伴う抗菌性能が恒久的に得られることから、上述した範囲を越えてまで含有せしめることは、不必要にコストが高くなり工業的に有利でない。
【0046】
抗菌性アクリロニトリル系繊維を使用した抗菌性不織布は、以下の方法で製造できる。まず不織布の製造工程乾式で抗菌性不織布を製造する。抗菌性不織布を構成する繊維として、30重量%の抗菌性アクリロニトリル系繊維と、70重量%のポリオレフィン繊維を用いる。抗菌性アクリロニトリル系繊維の太さは、1.7デシテックスで、平均長さは51mmとする。ポリオレフィン繊維は、繊維の断面に低融点と高融点のものが並列型に存在する複合繊維を用いた。その太さは11デシテックスで、平均長さは51mmとする。
【0047】
乾式法による不織布の製造においては、熱風あるいは熱ロールによってバインダー繊維を融着させるサーマルボンド法を利用する。以上の装置と繊維を使用して、単位面積に対する重量を140g/m2、厚さを1mmとする抗菌性不織布を製造する。
【0048】
このような抗菌性アクリロニトリル系繊維としては、特許第3422376号で開示されるもの、光触媒活性を有する抗菌性不織布としては特開2001−259012で開示されるものが好適に利用できる。抗菌性不織布に使用される抗菌性アクリロニトリル系繊維は、抗菌活性金属化合物を銀系化合物とするのが好ましい。
【0049】
一般に銀を利用した抗菌性物質では、銀イオンが溶出して抗菌効果を発揮するものが多い。しかしながら、銀の溶出量が多すぎると、効果が持続せず、銀イオンが溶出するにつれて殺菌効果が失われ、比較的短寿命で定期的に交換する必要があった。これに対して本実施の形態で使用した銀担持抗菌性不織布の抗菌プレートは、銀イオンをキレートさせた繊維を使用しており、溶解度が低く長期間にわたって光触媒の殺菌力を発揮でき安定して使用できる。また溶出量が少ないためコンタクトレンズへの影響も少なく、長寿命化によって長期間使用できる。
【0050】
このように抗菌性アクリロニトリル系繊維で光触媒活性を有する抗菌性不織布を作製し、これを抗菌プレートに使用し、この上に保存ケースを載せてコンタクトレンズの汚染を防止する。これにより、保存ケースの近傍を殺菌状態として、保存ケースに保存しているコンタクトレンズの細菌汚染を防止できる。それは、抗菌プレートに含まれる抗菌性アクリロニトリル系繊維に結合した銀に細菌が接触することで、銀が細菌の細胞表面に強く吸着し、細胞内部に浸透して細胞膜に保持され、細胞膜内の酵素を阻害して死滅させる殺菌させるからである。
【実施例】
【0051】
この抗菌性のある抗菌プレートを使用してその上に保存ケースを載せてその効果を検証した。抗菌プレートには、抗菌活性金属化合物を銀系化合物とし、アクリロニトリル系繊維の一部のニトリル基をスルホン酸基に置換し、銀イオンをキレートさせた抗菌性アクリロニトリル系繊維を30重量%、バインダ繊維としてポリオレフィンの並列型複合繊維を70重量%使用して、乾式法によって作製した抗菌性不織布を使用した。この抗菌性不織布は、坪量が140g/m2、厚みが1mmである。
【0052】
抗菌プレートは外径6cmの円盤状とした。この抗菌プレートの上に、保存ケースを中央部に載せて明るい室内にセットした。抗菌プレートは、光触媒活性により殺菌力が発生し、同時に抗菌プレートのアクリロニトリル系繊維に結合した銀に菌が接触することによる殺菌する。
【0053】
上記の抗菌プレートの上に保存ケースを載せる状態と、抗菌プレートを使用しない状態とで、細菌の繁殖を検査すると以下のようになった。
対象は、健常コンタクトレンズ装用者でケース内生菌量をコロニーカウント法で測定し、102 CFU/ml以上だった2名について行った。対象者に、抗菌性不織布からなる抗菌プレートを敷いたペトリシャーレの蓋の上に保存ケースを置き、それまでと同様にコンタクトレンズを使用し、またコンタクトレンズケアを続け、2週間後に保存ケースを回収し、再度保存ケース内生菌量を測定した。
【0054】
その結果2名の生菌量は、抗菌プレート使用前に103.47 CFU/mlと107.58 CFU/mlであったが、使用後は双方とも0CFU/mlと減少した。また、抗菌プレート使用開始後にコンタクトレンズ装用感の異常を自覚した装用者はなかった。また、抗菌プレート接着面の環境に異常をきたした装用者はなかった。
【0055】
以上の実施例は、抗菌プレートを抗菌性不織布とするが、抗菌プレートにはプラスチックにポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を使用し、これに抗菌剤を充填して板状に成形するもの、あるいは基材プレートの表面にバインダーを介して抗菌剤を塗布してなる抗菌プレートも、表面の抗菌性によって同等の効果を実現する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、抗菌プレートの上にコンタクトレンズの保存ケースを載せて使用することで、コンタクトレンズの保存中における汚染を有効に防止して、コンタクトレンズ関連角膜感染症を有効に防止する。
【符号の説明】
【0057】
1…コンタクトレンズ
2…保存ケース
3…載せ台
4…抗菌プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズを保存する保存ケースの下に、表面又は全体が抗菌性を有する抗菌プレートを敷設し、この抗菌プレートの上にコンタクトレンズを保存している保存ケースを載せることを特徴とするコンタクトレンズの保存方法。
【請求項2】
前記抗菌プレートに、繊維に抗菌剤を充填してなる抗菌性不織布と、プラスチックに抗菌剤を充填して板状に成形してなるプラスチックプレートのいずれかを使用する請求項1に記載されるコンタクトレンズの保存方法。
【請求項3】
前記抗菌プレートに、その外形を保存ケースの外形よりも大きいプレートを使用する請求項1又は2に記載されるコンタクトレンズの保存方法。
【請求項4】
抗菌プレートの抗菌剤に銀担持光触媒を使用する請求項1ないし3のいずれかに記載されるコンタクトレンズの保存方法。
【請求項5】
コンタクトレンズを保存する保存ケースを上に載せるプレートであって、表面又は全体が抗菌性を有することを特徴とする抗菌プレート。
【請求項6】
プラスチックに抗菌剤を充填して板状に成形してなる請求項5に記載される抗菌プレート。
【請求項7】
抗菌剤を充填してなる繊維が立体的に方向性なくシート状に集合されてなる不織布又は紙からなる請求項5に記載される抗菌プレート。
【請求項8】
抗菌剤が銀担持光触媒である請求項5ないし7のいずれかに記載される抗菌プレート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−143941(P2011−143941A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6316(P2010−6316)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】