説明

コンタクトレンズ材料の製造方法およびソフトコンタクトレンズの製造方法

【課題】表面が平滑であってさらに水濡れ性および耐久性に優れたコンタクトレンズ材料を提供すること。
【解決手段】コンタクトレンズ基材と、該基材表面の少なくとも一部に形成された被膜とを有するコンタクトレンズ材料の製造方法。前記被膜を、前記コンタクトレンズ基材を、メタンと湿潤空気との混合ガス雰囲気下でプラズマ重合処理し、次いで、非重合性ガス雰囲気下でプラズマ処理することにより形成する。前記方法により製造されたコンタクトレンズ材料を含水させてソフトコンタクトレンズを得る、ソフトコンタクトレンズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が平滑であってさらに水濡れ性および耐久性に優れたコンタクトレンズ材料の製造方法、および前記方法により得られたコンタクトレンズ材料を用いるソフトコンタクトレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素の供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながることが臨床結果より指摘されている。そこで、より安全性の高いコンタクトレンズを供給するために素材の酸素透過性の改良が試みられている。
【0003】
含水性ソフトコンタクトレンズは、その材料のしなやかさに起因して装用感がよいことが知られているが、その酸素透過性はレンズの含水率に起因するためハードコンタクトレンズと比較して低い。例えば含水性ソフトコンタクトレンズの場合、含水率80%の素材の酸素透過係数は約40×10-11(cm2/sec)・(mLO2/mL×mmHg)程度であり、角膜に十分な酸素量を供給できているとはいえない。このようなことから、ソフトコンタクトレンズにおいては酸素透過性を向上させるためにシリコーン含有モノマーやシロキサンマクロマー、また耐汚染防止を目的としフッ素含有モノマーをレンズ成分としたコンタクトレンズが提案されている。例えば、特開2001−311917号公報(特許文献1)には、側鎖にジメチルシロキサン構造を有するマクロマーを用いた、柔軟性および酸素透過性に優れたソフトコンタクトレンズ基材が開示されている。しかし、一般的にレンズ素材にシリコーン成分やフッ素成分を用いた場合、レンズ表面の水濡れ性が低下する傾向があり、その結果、涙液成分中の汚れが付着しやすくなり、場合によっては装用感が悪化することもある。
【0004】
このような事情から、コンタクトレンズにおいては、表面の水濡れ性をより向上させるために種々の表面処理方法が提案されている。特公昭63−040293号公報(特許文献2)には、シリコーン、またはポリウレタンレンズを本質的に窒素も酸素も含有しない炭化水素雰囲気下でコーティングし、続いてこれらのレンズを酸素に供し、それによりレンズ表面の親水性を増大させる処理方法が開示されている。このようなコーティングの方法においては、シリコーンハイドロゲルレンズが非含水状態でプラズマ処理されるが、レンズを最終製品とするためには、プラズマ処理後のレンズをアルコール等の有機溶剤を用いて、レンズ中に残留する生体にとって好ましくない未重合のモノマーやオリゴマー等を除去した後、生理食塩液やソフトコンタクトレンズ用保存液(充填液)等に置換され、引き続き実施される高圧蒸気滅菌処理を経ることとなる。このようなアルコール等の有機溶剤を用いた抽出、生理食塩液やソフトコンタクトレンズ用保存液を用いた含水工程では、レンズの体積は10%〜50%程度膨潤される。そのため、このコーティング膜が炭化水素雰囲気下で形成される極めて架橋密度が高い剛直な膜であることに起因して、重合膜が剥離したり、レンズ表面にヒビが発生する等の問題点がある。また、このような抽出または膨潤工程で形成された膜の剥離やヒビは、引き続き実施される高圧蒸気滅菌処理により不具合の程度が顕著となり、眼に直接接触するコンタクトレンズとしてはふさわしくないものとなる。
【0005】
また特開昭62−031803号公報(特許文献3)には、飽和炭化水素と酸素の混合ガスによるプラズマ処理方法が開示されている。しかし、飽和炭化水素と酸素との混合ガスによるプラズマ重合においては、プラズマにより製膜される重合膜は酸素プラズマに起因したエッチング効果により、レンズ上に形成される膜よりもエッチングにより削られる速度の割合が大きくなり、所望の膜の厚さに達するまでの処理時間がかかり、商業的に用いるには問題がある。
【0006】
さらに、高分子論文集(vol.42、No.11、P841−847、1985)(非特許文献1)には、「シリコーンゴムコンタクトレンズ表面に対するプラズマ重合の応用とその効果」として、N−ビニル−2−ピロリドン(以下、NVP)モノマーを用いる、水濡れ性および耐久性に優れた重合膜について記載されている。しかしながら、この方法では水濡れ性および耐久性に優れた重合膜を形成することは可能であるが、コーティングに使用するNVPは気化状態では発ガン性を有することが知られており、このようなNVPを始めとする有機モノマーをプラズマ処理のガスとして用いる場合には、作業者および作業場における安全性に細心の注意を払わねばならず、商業的に用いるには問題がある。
【特許文献1】特開2001−311917号公報
【特許文献2】特公昭63−040293号公報
【特許文献3】特開昭62−031803号公報
【非特許文献1】高分子論文集、vol.42、No.11、P841−847、1985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、表面が平滑であってさらに水濡れ性および耐久性に優れたコンタクトレンズ材料、特に、非含水状態でレンズ表面をコーティングした後、アルコール等の有機溶剤を用いた抽出、生理食塩液やソフトコンタクトレンズ用保存液を用いた含水工程、さらには引き続き実施される高圧蒸気滅菌処理工程後においても、レンズ表面に形成された膜はレンズの体積膨潤に耐え、レンズ表面には装用するに問題となるような膜の欠損等がなく、優れた平滑性を有し、しかも装用するに十分な表面水濡れ性および耐久性を有するコンタクトレンズ材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1] コンタクトレンズ基材と、該基材表面の少なくとも一部に形成された被膜とを有するコンタクトレンズ材料の製造方法であって、
前記被膜を、前記コンタクトレンズ基材を、メタンと湿潤空気との混合ガス雰囲気下でプラズマ重合処理し、次いで、非重合性ガス雰囲気下でプラズマ処理することにより形成する、コンタクトレンズ材料の製造方法。
[2] 前記コンタクトレンズ基材は、シリコーンを含有する[1]に記載の製造方法。
[3] 前記湿潤空気は、150ppm以上の水分を含む[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記混合ガス中のメタンと湿潤空気の混合比(メタン:湿潤空気)は、50:50〜70:30である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記非重合性ガスは、酸素、アルゴンおよび空気からなる群から選択される少なくとも一種である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の方法により製造されたコンタクトレンズ材料を含水させてソフトコンタクトレンズを得る、ソフトコンタクトレンズの製造方法。
[7] 前記含水前のコンタクトレンズ材料を有機溶媒による抽出処理に付すことを含む、[6]に記載のソフトコンタクトレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面が平滑であって、水濡れ性および耐久性に優れた表面を有するソフトコンタクトレンズ、特にシリコーンをレンズ成分として含むハイドロゲルからなるソフトコンタクトレンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
[コンタクトレンズ材料の製造方法]
本発明は、コンタクトレンズ基材と、該基材表面の少なくとも一部に形成された被膜とを有するコンタクトレンズ材料の製造方法に関する。本発明のコンタクトレンズ材料の製造方法においては、前記被膜を、前記コンタクトレンズ基材を、メタンと湿潤空気との混合ガス雰囲気下でプラズマ重合処理し、次いで、非重合性ガス雰囲気下でプラズマ処理することにより形成する。
【0011】
前記コンタクトレンズ基材は、コンタクトレンズ形状を有し、ハイドロゲルとなり得る重合体、好ましくは、シリコーンを含有し、ハイドロゲルとなり得る共重合体であることができ、従来からソフトコンタクトレンズ用基材として知られているものを用いることができる。具体的には、そのようなコンタクトレンズ基材としては、少なくとも1種類のシリコーン含有モノマー、またはシリコーン含有マクロモノマーおよび少なくとも1種類の親水性モノマーを含む混合物を重合することにより得られる共重合体からなるコンタクトレンズ基材を挙げることができる。適用可能なシリコーンモノマーとしては、例えば、トリス(トリメチルシロキシ)−γ−メタクリロキシプロピルシランが挙げられ、またシリコーン含有マクロモノマーとしては、下記一般式(I):
【化1】


[式中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立にC1〜C4のアルキル基から選択され、R4はC1〜C6のアルキル基から選択され、R5は脂肪族、脂環式または芳香族ジイソシアネートからNCOを除いた残基であり、R6、R7、R8およびR9はそれぞれ独立にC1〜C3のアルキレンから選択され、nは4〜80の整数であり、mおよびpはそれぞれ独立に3〜40の整数である。]
に示されるような側鎖にポリシロキサン構造を有し、数平均分子量が約1000〜10、000であるシロキサンマクロモノマーが挙げられる。また、親水性モノマーとしては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N、N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドンおよびメタクリル酸などが挙げられる。本発明において使用可能なコンタクトレンズ基材の詳細については、特開2001−311917、特表平10−509763号公報、特開2003−228029号公報、特表平11−502894号公報等を参照することができる。
【0012】
前記コンタクトレンズ基材は、種々の従来の技術(例えば、レースカット製法、スピンキャスト製法、キャストモールド製法等)を使用して製造した後、キャスト製法においてはレンズを型から取り外した後、被膜形成処理(前記混合ガス雰囲気下でのプラズマ重合処理および非重合性ガス雰囲気下でのプラズマ処理)に付すことができる。
【0013】
本発明では、前記コンタクトレンズ基材の表面の少なくとも一部に被膜を形成する。前記被膜は、コンタクトレンズ基材をメタンと湿潤空気との混合ガス雰囲気下でプラズマ重合処理(以下、第一工程という)し、次いで、非重合性ガス雰囲気下でプラズマ処理(以下、第二工程という)することにより形成される。本発明における「プラズマ重合処理」とは、プラズマ重合装置内を適当な真空度で放電によるプラズマ状態を形成させ、基材表面に重合性ガスよりなる薄膜(重合膜)を形成することをいい、「プラズマ処理」とは基材表面の最表層を非重合性ガスを用いて改質することをいう。
【0014】
第一工程
第一工程では、コンタクトレンズ基材をメタンと湿潤空気との混合ガス雰囲気下でプラズマ重合処理する。具体的には、コンタクトレンズ基材をプラズマ重合装置内に入れた後、装置内の到達圧力を一定の範囲以下まで真空引きする。真空装置にコンタクトレンズ基材を搬入し真空引きをする場合、装置表面の吸着ガス、内部の吸蔵ガス、シール材からの放出ガスの他に、処理対象となるコンタクトレンズ基材からも吸着しているガスおよび水分などが放出される。よって、プラズマ重合処理前に装置の到達圧力を一定とすることは、処理ロット間およびロット内における品質のばらつきを低減させることにもつながり、実用的、商業的観点から好ましい。真空引きにおける到達圧力としては、1.35Pa以下が好ましく、より好ましくは1.30Pa以下である。1.35Pa以下であれば、前述したように装置表面の吸着ガスおよびコンタクトレンズ基材に吸着しているガス等の影響による処理ロット間およびロット内における品質のばらつき(コーティング膜厚のばらつき)が低減され好ましい。このように一定の範囲まで装置内を排気するためには、目的の真空度まで到達可能な能力を有する真空ポンプを用いればよく、油回転ポンプやドライポンプなど、一般的に知られているものを用いればよい。また、装置内の真空度を測定する計測器も、所定の範囲の圧力を測定できる真空計で有れば如何なるものを用いても良く、例えば、ダイアフラム真空計やピラニ真空計などが挙げられる。さらに本発明では、処理対象となるコンタクトレンズ基材の表面(フロントカーブ面およびベースカーブ面)を均一かつ効率的に処理するために、コンタクトレンズ基材を、基材を支持するためのトレーに搭載することが好ましい。このときコンタクトレンズ基材を支持するためには、装置内が真空に近い状態であることから、処理時におけるコンタクトレンズ基材の安定性を向上させるために、コンタクトレンズ基材表面の1%以上が接触するような線接触でコンタクトレンズ基材を支持することが好ましい。また、トレーの材質としては、真空装置で一般的に用いられている材質、例えばステンレスなどを用いることができる。
【0015】
装置内の真空度を所定の圧力範囲まで到達させた後、装置内にメタンと湿潤空気との混合ガスを導入し、レンズ表面にレンズの膨潤変化に耐え得る柔軟で、しかも水濡れ性および耐久性に優れる被膜の土台を形成する。第一工程において湿潤空気を用いることにより、レンズ表面のコーティング膜が柔軟性を有する被膜となり、例えばアルコール等の有機溶媒による抽出(以下、アルコール抽出という)や生理食塩液等を用いた含水工程を経た後にでも、レンズ表面のコーティング膜にヒビ等が発生することなく、平滑な表面を形成することが可能となる。本発明における湿潤空気とは、100ppm以上の水分を含む空気をいい、乾燥空気中に水分が150ppm以上含まれているものであることが好ましく、より好ましくは150〜1000ppm、さらに好ましくは150〜400ppmである。このとき、乾燥空気中に含まれる水分が150ppm未満では、レンズ表面に形成された膜の架橋密度が増加し剛直な膜となりやすく、アルコール抽出を始めとする膨潤工程でヒビ等が発生しやすくなるため好ましくない。湿潤空気の調製方法としては、乾燥空気製造時に不純物として水分を混入させる方法、また乾燥空気を装置内に導入する際、蒸留水を通して通過させることにより混入させる方法、さらには蒸留水を、例えば丸底フラスコ等のガラス容器中で沸騰させ、得られた蒸気と乾燥空気とを混合した後、装置内に導入する方法などが挙げられる。
【0016】
第一工程において用いられるメタンと湿潤空気の混合比(メタン:湿潤空気)は、体積基準で、50:50〜70:30であることが好ましい。この比率よりも湿潤空気の割合が多いときにはレンズ表面に形成される膜の形成速度が低下したり(処理時間の増加)、最終製品となる前に実施される高圧蒸気滅菌後に水濡れ性が低下することもあり好ましくない。またこの比率よりもメタンの割合が多いときには、レンズ表面に形成される膜が剛直となりやすく、膨潤によるサイズ変化のため、その剛直な重合膜の剥離、ヒビ等が発生し、柔軟なソフトコンタクトレンズに形成される膜としては好ましくない。上記混合比は、より好ましくは、55:45〜65:35である。
【0017】
第一工程では、メタンと湿潤空気とを混合した混合ガスを装置内に導入してもよく、メタンと湿潤空気を別々に導入し、装置内で混合ガスとしてもよい。第一工程では、装置内にガスを絶えず供給し続け、真空ポンプで装置内の圧力を一定に保ちながらプラズマ重合処理を行うことが好ましい。装置内に導入するメタンと湿潤空気の混合ガスの流量は、例えば装置の内部体積が150〜700L程度の場合には、1.5〜20sccmとすることが好ましく、2〜10sccmとすることが更に好ましい。
【0018】
第一工程におけるプラズマ重合処理は、ガスを装置内に導入し、装置内の圧力が安定化した後に行うことが好ましい。放電時における処理条件は適宜選択されるが、例えば装置内の圧力は4〜10Pa、放電出力は10〜80W、プラズマ発生における電源としては6〜15kHz程度の低周波であることが好ましい。また装置としては、内部電極型、外部電極型などが挙げられるが、いずれの場合においても公知の装置を用いて実施することができる。第一工程におけるプラズマ重合処理時間は、所望の膜厚を考慮して設定すればよく、例えば3〜20分、好ましくは4〜10分とすることができる。
【0019】
第二工程
第二工程は、前記第一工程後のコンタクトレンズ基材に対し、非重合性ガス雰囲気下でプラズマ処理を行う工程である。本発明では、第一工程においてコンタクトレンズ基材表面に被膜の土台を形成させた後、第二工程を行うことにより、被膜の親水性を向上させることができる。第二工程で用いる非重合性ガスは、エッチング効果を有し、第一工程でレンズ基材上に形成された被膜をエッチングして被膜の親水性を向上させる働きを有する。第二工程は、第一工程と同じプラズマ装置において行うこともでき、異なるプラズマ装置において行うこともできる。作業性等の面からは、第二工程は、第一工程に引き続き、同じプラズマ装置内で行うことが好ましい。その場合は、第一工程後、装置内の処理ガスを一旦排気した後、第二工程に用いる非重合性ガスを導入する。第一工程では、シリコーンハイドロゲルの場合、蒸留水を用いた液適法による接触角測定において、例えば、未処理において105°であった接触角が約50〜60°になる程度まで水濡れ性を向上させることが可能となるが、この第二工程により、レンズ表面にさらなる親水性を付与することが可能となり、上記の場合、例えば接触角を40°程度まで向上させることが可能となる。
【0020】
第二工程において使用される非重合性ガスとは、プラズマ処理により表面に堆積する性質を有さないガスをいい、不活性ガスのように化学反応に寄与しないものと、化学反応には寄与し得るが表面に堆積する性質は有さないものに大別される。具体的には、ヘリウム、アルゴン、H2、O2、N2、H2O、NH3、空気等を挙げることができ、中でも、酸素、アルゴン、空気が好ましく、特に好ましくは酸素である。なお、上記空気は、湿潤空気であることもできる。湿潤空気としては、先に第一工程において記載したものを用いることができる。
【0021】
第二工程においても、装置内にガスを絶えず供給し続け、真空ポンプで装置内の圧力を一定に保ちながらプラズマ処理を行うことが好ましい。プラズマ装置内の圧力は4〜10Pa、放電出力は10〜80W、プラズマ発生における電源としては6〜15kHz程度の低周波であることが好ましい。また、プラズマ装置の内部体積が例えば150〜700L程度の場合、非重合性ガスの流量は、1.5〜20sccmとすることが好ましく、2〜10sccmとすることが更に好ましい。第二工程におけるプラズマ処理時間は、第二工程で用いる処理ガスのエッチング速度等を考慮して設定すればよく、例えば30秒〜5分、好ましくは1〜3分とすることができる。
【0022】
以上の工程により、コンタクトレンズ基材表面に被膜を形成することができる。被膜は、基材表面の少なくとも一部に形成すればよいが、基材表面全面に形成することが好ましい。前記被膜の厚さは、レンズ表面の水濡れ性および耐久性に重要である。膜の厚さは自動エリプソメータを用いることで測定することができる。自動エリプソメータを用いてコンタクトレンズ基材上に形成された被膜の厚さを直接測定することに代え、搬送トレー上の任意の場所にレンズおよびシリコンウエハーを搭載し、シリコンウエハー上に形成された膜の厚さを測定し、この膜厚をコンタクトレンズ基材上に形成された被膜の厚さとみなすこともできる。前記被膜の厚さは、90〜250Åであることが好ましく、より好ましくは100〜200Åである。被膜の厚さが90Å以上であれば、被膜の耐熱性が高く、高圧蒸気滅菌後に水濡れ性が低下することがなく好ましい。また被膜の厚さが250Å以下であれば、高い酸素透過性を得ることができる。
【0023】
[ソフトコンタクトレンズの製造方法]
本発明のソフトコンタクトレンズの製造方法は、前記方法により製造されたコンタクトレンズ材料を含水させてソフトコンタクトレンズを得るものである。
含水は、公知の方法で行うことができる。具体的には、前記方法により得られたコンタクトレンズ材料を、生理食塩水またはソフトコンタクトレンズ用保存液等に浸漬することにより、含水させることができる。
【0024】
前記含水処理後のソフトコンタクトレンズに対し、例えば高圧蒸気による滅菌処理を行うことができる。また、前記含水処理前のコンタクトレンズ材料を有機溶媒による抽出処理に付すこともできる。この抽出処理は、公知の方法で行うことができ、この処理により、コンタクトレンズ材料中に残留する生体にとって好ましくない未重合のモノマーやオリゴマー等を除去することができる。本発明の方法により得られるコンタクトレンズ材料は、その表面に高い柔軟性を有する被膜を有するため、上記抽出処理や含水処理における被膜の剥離、ヒビ等の発生を低減、防止することができる。これにより、本発明によれば、高い表面平滑性を有し、さらに水濡れ性および耐久性に優れたソフトコンタクトレンズを得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
1.コンタクトレンズ基材の作製
製造例A:マクロマーの合成
三つ口フラスコにイソホロンジイソシアネートを8.88g、触媒としてジブチルスズジラウレートを0.025gおよび塩化メチレンを45mL入れ、窒素気流下にて撹拌した。次に、α−ブチル−ω−[3−(2,2−(ジヒドロキシメチル)ブトキシ)プロピル]ポリジメチルシロキサンを20g精秤し、フラスコ内へ約3時間かけて滴下し反応させた。室温で48時間反応後、ジブチルスズジラウレートをさらに0.025g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(PE−350)を23.3g精秤し、フラスコ内へ約30分かけて滴下した。混合物をアルミ箔で覆い、IR(赤外線吸収スペクトル)分析においてイソシアネート由来の吸収帯(2260cm-1)が消失するまで撹拌した(室温で約48時間の反応)。この溶液にさらに塩化メチレンを加えた後、大量の水で洗浄し、脱水、濾過後、溶媒を留去することにより、数平均分子量2,000(ポリスチレン換算)のマクロマーが得られた。
【0027】
製造例A−1:コンタクトレンズ基材の製造
製造例Aで得られたシロキサンマクロモノマー約3.9g、トリス(トリメチルシロキシ)−γ−メタクリロキシプロピルシラン約15g、N,N−ジメチルアクリルアミド約11.1g、着色剤として1−アニリノ−4−(4−ビニルベンジル)アミノアントラキノン約0.003g、重合開始剤としてフェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド約0.18gを室温で約20時間混合しモノマー混合液を調製した。次にこのモノマー混合液を、ポリプロピレンからなるコンタクトレンズ形状をしたモールド型に充填、上型と下型とを組み付けた後、約35mW/cm2の紫外線〜可視光線(380〜450nm)を20分照射し重合を完結させた。重合終了後、モールド型より重合物を取り出しコンタクトレンズ基材を得た。
【0028】
製造例A−2:コンタクトレンズの製造
製造例Aで得られたシロキサンマクロモノマー約4.5g、トリス(トリメチルシロキシ)−γ−メタクリロキシプロピルシラン約15g、N,N−ジメチルアクリルアミド約10.5g、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド約0.18gを室温で約20時間混合しモノマー混合液を調製した。次にこのモノマー混合液を、ポリプロピレンからなるコンタクトレンズ形状をしたモールド型に充填、上型と下型とを組み付けた後、約35mW/cm2の紫外線〜可視光線(380〜450nm)を20分照射し重合を完結させた。重合終了後、モールド型より重合物を取り出しコンタクトレンズ基材を得た。
【0029】
実施例1
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.24Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと湿潤空気(水分濃度150ppm)の混合比(メタン:湿潤空気)60:40(ガス流量:メタン=1.8(sccm)、湿潤空気=1.2(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz,放電電力40Wで6分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果、約200Åであった。
【0030】
処理後のレンズはメタノールに約5時間浸漬後、ソフトコンタクトレンズ用充填液に置換し、その後出荷用レンズケースに充填後、121℃,30分の条件で高圧蒸気滅菌処理を行った。得られたレンズは、以下の方法により表面観察、水濡れ性(接触角測定)および表面親水性膜の耐久性(擦り洗い耐久性)の評価を行った。それらの結果を表1に示した。表1に示すように、本実施例で得られたレンズは、表面は平滑でなめらかであり(図1)、水濡れ性および耐久性に優れ、ソフトコンタクトレンズとして十分な物性を有するものであった。
【0031】
(イ)レンズの外観検査
レンズ表面の水分を拭き取った後、KEYENCE社製 デジタルHFマイクロスコープ VH−8000を用いてレンズ表面におけるキズおよびヒビの有無を観察した。
【0032】
(ロ)表面水濡れ性の評価(接触角測定)
レンズ表面の水分を拭き取った後、保持台にレンズを張り付け、蒸留水を用いた液適法により接触角を測定した。
【0033】
(ハ)こすり洗い耐久性試験
レンズを手のひらに載せ、ソフトコンタクトレンズ用洗浄液を用いてレンズの表・裏面を擦り洗いした後、蒸留水で十分にすすいだ。この操作を1回として洗浄操作を繰り返した。洗浄回数、10、20、30回経過後、上記ロ)に示す方法により接触角測定を行い、表面親水性膜の耐久性を評価した。
【0034】
実施例2
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.24Paとなるまで真空引きを行った。次に,メタンと湿潤空気(水分濃度150ppm)の混合比(メタン:湿潤空気)60:40(ガス流量:メタン=1.8(sccm)、湿潤空気=1.2(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで5分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置に内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果、約170Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズ表面は平滑でなめらかであり(図2)、水濡れ性および耐久性に優れソフトコンタクトレンズとして十分な物性を有するものであった。
【0035】
実施例3
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.28Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと湿潤空気(水分濃度150ppm)の混合比(メタン:湿潤空気)60:40(ガス流量:メタン=1.8(sccm)、湿潤空気=1.2(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで4.5分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果、約150Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズ表面は平滑でなめらかであり(図3)、水濡れ性および耐久性に優れソフトコンタクトレンズとして十分な物性を有するものであった。
【0036】
実施例4
製造例A−2で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.25Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと湿潤空気(水分濃度250ppm)の混合比(メタン:湿潤空気)67:33(ガス流量:メタン=2(sccm)、湿潤空気=1(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数15kHz、放電電力44Wで6分間プラズマ重合処理した。次に、一旦メタンおよび湿潤空気混合ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置内に導入し、圧力4Pa、周波数15kHz、放電電力44Wで1分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果,約220Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズ表面は平滑でなめらかであり、水濡れ性および耐久性に優れソフトコンタクトレンズとして十分満足するものであった。
【0037】
実施例5
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.24Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと湿潤空気(水分濃度300ppm)の混合比(メタン:湿潤空気)60:40(ガス流量:メタン=1.8(sccm),湿潤空気=1.2(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで6分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果,約190Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズ表面は平滑でなめらかであり(図4)、水濡れ性および耐久性に優れソフトコンタクトレンズとして十分な物性を有するものであった。
【0038】
実施例6
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.24Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと湿潤空気(水分濃度300ppm)の混合比(メタン:湿潤空気)60:40(ガス流量:メタン=1.8(sccm),湿潤空気=1.2(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで4分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果、約120Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズ表面は平滑でなめらかであり、水濡れ性および耐久性に優れソフトコンタクトレンズとして十分な物性を有するものであった。
【0039】
実施例7
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.24Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと湿潤空気(水分濃度300ppm)の混合比(メタン:湿潤空気)53:47(ガス流量:メタン=1.6(sccm),湿潤空気=1.4(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで4.5分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果,約100Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズ表面は平滑でなめらかであり、水濡れ性および耐久性に優れソフトコンタクトレンズとして十分な物性を有するものであった。
【0040】
比較例1(炭化水素のみを用いた処理)
製造例A−2で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.23Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタン3(sccm)を装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力45Wで6分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置に内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果、約200Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズの表面を観察した結果、レンズ表面にはヒビが入りコンタクトレンズとしてはふさわしくないものであった(図5)。これは、メタンで形成された膜がレンズ上で剛直な被膜として形成され、アルコール抽出や含水工程において、レンズの膨潤の割合に被膜が耐えきれずヒビが入ったと考えられる。
【0041】
比較例2(飽和炭化水素と酸素の混合ガスを用いた処理)
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.27Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタン1(sccm)および酸素2(sccm)の流量で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数15kHz、放電電力35Wで7分間プラズマ重合処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果、約70Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズ表面に形成された膜厚が薄いために、高圧蒸気滅菌後の水濡れ性が悪く、コンタクトレンズとして使用するにふさわしいものではなかった。
【0042】
比較例3(メタンおよび乾燥空気混合ガスを用いた処理)
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.23Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと空気(水分濃度0.53ppm以下)の混合比(メタン:空気)60:40(ガス流量:メタン=1.8(sccm)、空気=1.2(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力35Wで7分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置に内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果,約220Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズの表面を観察した結果、レンズ表面にはヒビが入りコンタクトレンズとしてはふさわしくないものであった(図6)。これは,メタンおよび乾燥空気混合ガスで形成された膜がレンズ上で剛直な被膜として形成され,アルコール抽出および含水処理において、レンズの膨潤の割合に被膜が耐えきれずヒビが入ったと考えられる。実施例1との比較においては、第一工程において用いた処理ガスが湿潤空気であるか乾燥空気であるかの違いであるが、水分の混入の有無により結果には大きな差が生じていることがわかる。
【0043】
比較例4(メタンおよび乾燥空気混合ガスを用いた処理)
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ,到達圧力が 1.25Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと空気(水分濃度0.53ppm以下)の混合比(メタン:空気)67:33(ガス流量:メタン=2(sccm),空気=1(sccm))で混合ガスを装置内に導入し,圧力4Pa,周波数10kHz,放電電力35Wで6分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後,酸素3(sccm)を装置に内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果、約150Åであった。処理後のレンズの処理方法は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表に示す。レンズの表面を観察した結果,レンズ表面にはヒビが入り,コンタクトレンズとしてはふさわしくないものであった(図7)。実施例との比較においては、第一工程において用いた処理ガスが湿潤空気であるか乾燥空気であるかの違いであるが,水分の混入の有無により結果には大きな差が生じていることがわかる。
【0044】
比較例5(メタンおよび湿潤空気(水分濃度50ppm)混合ガスを用いた処理)
製造例A−1で得られたコンタクトレンズをプラズマ重合装置内(内部体積約170L)に入れ、到達圧力が1.23Paとなるまで真空引きを行った。次に、メタンと空気(水分濃度50ppm)の混合比(メタン:空気)60:40(ガス流量:メタン=1.8(sccm)、湿潤空気=1.2(sccm))で混合ガスを装置内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力35Wで7分間プラズマ重合処理した。次に、一旦装置内の処理ガスを排気した後、酸素3(sccm)を装置に内に導入し、圧力4Pa、周波数10kHz、放電電力40Wで2分間プラズマ処理した。レンズと共に処理したシリコンウエハー上に形成された膜厚を自動エリプソメータを用いて測定した結果、約195Åであった。処理後のレンズの処理および評価は実施例1と同様に行った。レンズの評価結果を表1に示す。レンズの表面を観察した結果、レンズ表面にはヒビが入り、コンタクトレンズとしてはふさわしくないものであった(図8)。メタンおよび乾燥空気混合ガスで処理した比較例3および4と比較するとヒビの程度は大幅に改善されているが、濃度50ppmの水分では十分ではないと考えられる。
【0045】
表1および図5〜8に示すように、比較例1、3〜5のように本質的に窒素も酸素も含有しない炭化水素(例えばメタン)で被膜形成処理を行った場合や、メタンおよび乾燥空気混合ガスで被膜形成処理を行った場合、さらにはメタンおよび50ppm程度の水分を含む空気との混合ガスで被膜形成処理を行った場合には、レンズ表面にはヒビが生じ、コンタクトレンズとしてふさわしくないものであった。また,比較例2のように飽和炭化水素と酸素の混合ガスを用いて被膜形成処理を行った場合には、飽和炭化水素により形成された膜が酸素プラズマによるエッチングにより削り取られ、十分な厚さの膜をレンズ表面上に形成することができず、十分な水濡れ性を付与することが出来なかった。
これに対し、実施例に示したように、メタンと湿潤空気との混合ガスを用いてコーティングされたレンズは、表面が平滑であって、さらに表面水濡れ性、および耐久性に優れた表面を有し、コンタクトレンズとして満足するものであった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、表面が平滑であって、水濡れ性および耐久性に優れた表面を有するソフトコンタクトレンズ、特にシリコーンをレンズ成分として含むハイドロゲルからなるソフトコンタクトレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1で得られたレンズ表面の顕微鏡写真(175倍)を示す。
【図2】実施例2で得られたレンズ表面の顕微鏡写真(175倍)を示す。
【図3】実施例3で得られたレンズ表面の顕微鏡写真(175倍)を示す。
【図4】実施例5で得られたレンズ表面の顕微鏡写真(175倍)を示す。
【図5】比較例1で得られたレンズ表面の顕微鏡写真(175倍)を示す。
【図6】比較例3で得られたレンズ表面の顕微鏡写真(175倍)を示す。
【図7】比較例4で得られたレンズ表面の顕微鏡写真(175倍)を示す。
【図8】比較例5で得られたレンズ表面の顕微鏡写真(175倍)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズ基材と、該基材表面の少なくとも一部に形成された被膜とを有するコンタクトレンズ材料の製造方法であって、
前記被膜を、前記コンタクトレンズ基材を、メタンと湿潤空気との混合ガス雰囲気下でプラズマ重合処理し、次いで、非重合性ガス雰囲気下でプラズマ処理することにより形成する、コンタクトレンズ材料の製造方法。
【請求項2】
前記コンタクトレンズ基材は、シリコーンを含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記湿潤空気は、150ppm以上の水分を含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合ガス中のメタンと湿潤空気の混合比(メタン:湿潤空気)は、50:50〜70:30である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記非重合性ガスは、酸素、アルゴンおよび空気からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により製造されたコンタクトレンズ材料を含水させてソフトコンタクトレンズを得る、ソフトコンタクトレンズの製造方法。
【請求項7】
前記含水前のコンタクトレンズ材料を有機溶媒による抽出処理に付すことを含む、請求項6に記載のソフトコンタクトレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−70405(P2007−70405A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256647(P2005−256647)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】