説明

コンバインの穀稈刈取装置

【課題】取り外した引起し装置を、取付け状態の他の引起し装置に係止保持することによって、駆動軸に対する泥土などの付着を防止し、駆動軸ドッキングの容易化を図る。
【解決手段】引起装置(8)の上下の部位を各々刈取装置の前側に取付ける係止固定具(13,13)を設け、上部側の係止固定具(13)を取外し、引起装置(8)の上部側を前方に回動させることで、該引起装置(8)へ駆動力を伝達する駆動軸(29)が、引起装置(8)側の引起側駆動軸(29b)と刈取装置側の刈取装置側駆動軸(29a)とに分離される構成とし、引起装置(8)側に設けた係合フック(33)を、刈取装置の上部に設けた係止ステー(34)に係止することで、この取外し後の引起装置(8)が刈取装置に取り付けられた他の引起装置(8)の前側位置に支持される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインの穀稈刈取装置に関し、農業機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に示すように、刈刃装置や掻込搬送装置等を点検したり、穀稈の詰りなどによるトラブル解消の際、着脱可能な穀稈引起装置を取り外し、刈刃装置や掻込搬送装置の前方を開放して上記作業の容易化を図るようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−75031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、引起装置を取り外す形態のものでは、取り外した引起装置の置き場所にもよるが、これを地面に直接置いたりすると、分離した引起し駆動軸のカップリング部に泥が付着したりして、装着時のドッキングに不具合が生じる問題があった。
【0005】
本発明の課題は、取り外した引起装置を取付け状態の他の引起装置に係止保持可能に構成することによって上記問題点を解消せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
即ち、請求項1記載の発明は、穀稈引き起こし用の引起装置(8)に、該引起装置(8)の上下の部位を各々刈取装置の前側に取付ける係止固定具(13,13)を設け、上部側の係止固定具(13)を取外し、引起装置(8)の上部側を前方に回動させることで、該引起装置(8)へ駆動力を伝達する駆動軸(29)が、引起装置(8)側の引起側駆動軸(29b)と刈取装置側の刈取装置側駆動軸(29a)とに分離される構成とし、引起装置(8)側に設けた係合フック(33)を、刈取装置の上部に設けた係止ステー(34)に係止することで、この取外し後の引起装置(8)が刈取装置に取り付けられた他の引起装置(8)の前側位置に支持される構成としたことを特徴とするコンバインの刈取装置とした。
【0007】
引起装置(8)の上部側の係止固定具(13)を外して、この引起装置(8)の上部側を前方に回動させると、引起側駆動軸(29b)と刈取装置側駆動軸(29a)とが分離される。続いて、下部側の係止固定具(13)を外せば、引起装置(8)が取り外される。
【0008】
取り外された引起装置(8)は、隣接する他の引起装置(8)の正面側に重ね合わせるようにして、係合フック(33)と係止ステー(34)とによって係止保持される。
請求項2記載の発明は、前記取外し後の引起装置(8b又は8c)の引起側駆動軸(29b)と、刈取装置側に取付けられた他の引起装置(8a又は8d)の駆動軸(29)とを接続可能な構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの刈取装置とした。
【0009】
整備作業中やその終了後に刈取装置を駆動しても、取外し側の引起装置(8)と取付側の引起装置(8)とが一緒に駆動されるので、取付側の引起装置(8)のラグに対する取外し側の引起装置(8)のラグの位相変化がなく、取付け時の位相ズレによる調整の必要がなくなる。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記引起装置(8)が刈取装置側から取外されたことを検出するセンサ(37)を設け、該センサ(37)によって引起装置(8)が取外された状態を検出した場合に、刈取装置を駆動不能な状態に維持する刈取駆動牽制手段(41)を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコンバインの刈取装置とした。
【0011】
上記構成によると、引起装置(8)を取外した状態においては、刈取装置が駆動不能な状態に維持されるため、トラブル解消時に他の作業者が不用意に刈取装置の駆動操作を行い刈取装置が駆動される事態が回避され、作業が安全に行われる。
【0012】
請求項4記載の発明は、前記引起装置(8)が刈取装置側から取外されたことを検出するセンサ(37)を設け、該センサ(37)によって引起装置(8)が取外された状態を検出した場合に、エンジンの始動を不能にするエンジン始動牽制手段(43)を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコンバインの刈取装置した。
【0013】
上記構成によると、引起装置(8)を取外した状態においては、エンジン始動操作を行なってもエンジンが始動しないため、刈取装置が不用意に駆動されることがなく安全である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、取り外した引起装置(8)は、隣に位置する取付け状態の引起装置(8)の前側に保持できるので、この取外した引起装置(8)を地面に直接置いたりする場合のように引起装置(8)側の引起側駆動軸(29b)部への泥土などの付着が少なく、以後の取付け作業が容易に行える。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明による効果に加えて、取外した引起装置(8)は、取付側の引起装置(8)の駆動軸(29)に接続しておくため、この状態で刈取装置を回しても、両方の引起装置(8,8)の引起しラグの位相変化が起こらず、位相ズレによる調整の必要がなく、着脱作業を効率よく行うことができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、上記請求項1又は請求項2記載の発明による効果に加えて、引起装置の取外し状態においては、刈取装置の駆動を牽制するため、刈取装置のメンテナンス作業の安全性を高めることができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、上記請求項1記載又は請求項2記載の発明による効果に加えて、引起装置(8)の取外し状態においては、エンジンを始動操作してもエンジンがかからないため、刈取装置のメンテナンス作業の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】コンバインの側面図
【図2】コンバインの正面図
【図3】中央側の引起装置を取り外し場合の要部の正面図
【図4】引起装置の取付け状態を示す側面図
【図5】取外し側引起装置と取付け側引起装置の取付状態を示す側面図
【図6】同上ドッキング時の側面図
【図7】引起装置の要部の正面図
【図8】制御ブロック図
【図9】制御ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、コンバインの側面図及び正面図を示すものであり、この走行車体1には、左右一対の走行クローラ2,2を備え、後部に搭載した脱穀装置3の前方部に刈取装置4を設置し,刈取装置4の横側部には運転席5や操作ボックス6等の運転操作部を備え、更に、その運転操作部の後方には脱穀粒を一時的に貯留するグレンタンクGを装備している。
【0020】
刈取装置4は、立毛する穀稈を左右に分草する分草体7,7…、分草後の穀稈を引き起す4条分の穀稈引起装置8…、引起し後の穀稈を切断するバリカン式の刈刃装置9、刈取後の穀稈を掻込搬送する掻込搬送装置10、掻込搬送後の穀稈を引き継いで揚上搬送し後方の脱穀装置3の脱穀フィードチエン12に搬送供給する刈取穀稈搬送装置11等からなり、左右横方向に架設する刈取入力軸を支点として上下に昇降可能で前後方向に沿わせて設けた刈取縦フレーム17及び該刈取縦フレームの先端に左右横方向に沿わせて設けた刈取横フレーム18に装備している。刈取縦フレーム17内には刈取縦伝動軸を内装し、前記刈取横フレーム18内の刈取横伝動軸を駆動すべく連動構成している。
【0021】
引起装置8は、図2に示すように、4条分の引起装置8a,8b,8c,8dが配置されてあり、これらの内、左右の引起装置9a,8dは、上部が刈取横フレーム18から立設する引起し縦伝動パイプ19、各引起装置上部に横架する引起し横伝動ケース20から動力伝達可能に装着支持されている。
【0022】
そして、中央側の引起装置8b,8cは、前記引起し横伝動ケース20の中間部から下方に延出する中伝動パイプ21、これより左右に分岐する分岐伝動パイプ22、分岐伝動パイプの左右側から下方に延出された引起し支持フレーム23等によって動力伝達可能に、且つ着脱自在に装着支持されるようになっている。また、この引起装置8b,8cの下部側は、前記分草体7の分草支持フレーム14から上方に突設する支持ステー15によって左右横方向に横架された支持パイプ16に係合保持されるようになっている。引起装置8b,8cの上下位置には、支持パイプ16及び引起し支持フレーム23に対して簡単に係止固定することができる係止固定具13,13が設けられている。
【0023】
また、引起装置8は、前後の引起しケース24a,24bと、該ケース内に内装軸架される引起しラグ25付き無端チエン26と、該無端チエンを巻回する駆動スプロケット27及び従動輪体28からなり、前記分岐伝動パイプ22から前方に向けて突設する引起し駆動軸29によって回転駆動すべく連動構成している。そして、前記引起し駆動軸29は、駆動側の刈取装置側駆動軸29aと被駆動側の引起側駆動軸29bとに分離して、動力伝達可能で且つ嵌脱自在に構成している。実施例では駆動側の軸を角軸30aとし、被駆動側の軸を角穴(カップリング)30bとし、互いにドッキング可能に構成している。角軸部30aと角穴部30bのドッキング状態では、駆動側の軸受体31と被駆動側の軸受体32との対向面が密に接合されるようになっている。
【0024】
取外し側の引起装置8b,8cの背面側に係合フック33が設けられ、取付け側の引起装置8a,8dの正面側には、前記係合フック33を引っ掛ける係止ステー34が設けられている。そして、取外し側の引起装置8bは、左側の取付け側引起装置8aの正面側に対応位置させて、係合フック33を係止ステー34に引っ掛けて吊下げ状態に係止保持し、取外し側の引起装置8cは、右側の取付け側引起装置8dの正面側に対応位置させて、係合フック33と係止ステー34によって係止保持するようになっている。
【0025】
また、取付け側の引起装置8a,8dには、駆動軸29を前側引起しケース24aよりも前方側に延出させて角軸部30a1を突設した構成とし、取外し側の引起し駆動軸の角穴部30bが嵌合できるようになっている。通常は蓋35によって角軸部30a1を外側から覆うように構成している。取外し側引起装置の駆動軸と取付け側引起装置の駆動軸をドッキングさせる時のみ蓋35を取り外しておくことになる。
【0026】
引起装置取付け時には、引起装置の下部側を支持パイプ16上に係合保持させる。そして、引起装置8b(8c)の下部側を係止固定具13によってロックした後、引起装置の上部側を下部側の支持パイプ16を支点として後方に回動させると、被駆動側軸のカップリング部30bが駆動側軸の角軸部30aにドッキングされることになる。ドッキング後は引起装置の上部側を係止固定具13により係止固定する。
【0027】
引起装置8b(8c)の取外し時には、上部側の係止固定具13を外して、引起装置8b(8c)の上部側を前方に回動させると、引起側駆動軸29bと刈取装置側駆動軸29aとが分離される。そして、下部側の係止固定具13を外せば、引起装置8b(8c)全体を刈取装置4からそっくり取り外すことができる。取外した引起装置は、隣の取付け側引起装置8d(8a)の正面側に持ち運び、係合フック33を係止ステー34に引っ掛けて係止保持する。取外し側引起装置8b(8c)の駆動軸と取付け側引起装置8d(8a)の駆動軸をドッキングさせたい場合には、蓋35を取り除いて両者を連結保持する。
【0028】
図8において、刈取装置4の適所には引起装置8(8a,8b,8c,8d)のうち、中央側の一つ(8b又は8c)が取外されたことを検出するセンサ37がコントローラ38の入力側に設けられ、引起装置の取外し状態においては、刈取クラッチが入らないように刈取クラッチレバー39の操作を牽制する牽制手段41がソレノイド40を介して作動するようにコントローラの出力側に設けられる。
【0029】
また、図9において、引起装置の取外し状態においては、センサ37の検出結果に基づき、エンジン始動用スイッチ入回路42がエンジン始動用スイッチ切回路(エンジン始動牽制手段)43に切り替わり、エンジン始動用スイッチを操作してもエンジンがかからないようになっている。
【0030】
なお、取り外した引起装置を吊り下げ状態に支持する係合フック33や係止ステー34などは、これらを使用しない時には引起し作用に邪魔にならない引起しケース背面位置に収納できるように構成しておくと良い。
【符号の説明】
【0031】
8 穀稈引起装置
29 引起し駆動軸
29a 刈取装置側駆動軸
29b 引起側駆動軸
30a 角軸部
30a1 角軸部
30b 角穴部(カップリング部)
33 係合フック
34 係止ステー
37 検出センサ
41 牽制手段
43 エンジン始動用スイッチ切回路(エンジン始動牽制手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀稈引き起こし用の引起装置(8)に、該引起装置(8)の上下の部位を各々刈取装置の前側に取付ける係止固定具(13,13)を設け、上部側の係止固定具(13)を取外し、引起装置(8)の上部側を前方に回動させることで、該引起装置(8)へ駆動力を伝達する駆動軸(29)が、引起装置(8)側の引起側駆動軸(29b)と刈取装置側の刈取装置側駆動軸(29a)とに分離される構成とし、引起装置(8)側に設けた係合フック(33)を、刈取装置の上部に設けた係止ステー(34)に係止することで、この取外し後の引起装置(8)が刈取装置に取り付けられた他の引起装置(8)の前側位置に支持される構成としたことを特徴とするコンバインの刈取装置。
【請求項2】
前記取外し後の引起装置(8b又は8c)の引起側駆動軸(29b)と、刈取装置側に取付けられた他の引起装置(8a又は8d)の駆動軸(29)とを接続可能な構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの刈取装置。
【請求項3】
前記引起装置(8)が刈取装置側から取外されたことを検出するセンサ(37)を設け、該センサ(37)によって引起装置(8)が取外された状態を検出した場合に、刈取装置を駆動不能な状態に維持する刈取駆動牽制手段(41)を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコンバインの刈取装置。
【請求項4】
前記引起装置(8)が刈取装置側から取外されたことを検出するセンサ(37)を設け、該センサ(37)によって引起装置(8)が取外された状態を検出した場合に、エンジンの始動を不能にするエンジン始動牽制手段(43)を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコンバインの刈取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−175943(P2012−175943A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41462(P2011−41462)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】