説明

コンバイン

【課題】フィードチェンの変速装置を安価なものとしてコンバインの製造コストを低減すると共に、フィードチェンを安定した速度に保持して脱穀作業を円滑に行なえるものとする。
【解決手段】フィードチェン(1)を高速と低速との二段階あるいはそれ以上の変速域を備えた有段式変速装置(2)からの伝動によって駆動すべく構成する。そして、車速を無段階に変速することのできる無段式変速装置(3)の高速走行側への変速過程で有段式変速装置(2)を高速変速域に切り換え、無段式変速装置(3)の低速走行側への変速過程で有段式変速装置(2)を低速変速域に切り換えるように、それぞれ予め設定した基準車速に基づいて有段式変速装置(2)を変速制御するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のコンバインは、走行する車体の前部に刈取搬送装置が装備され、その後部に接続して脱穀装置が搭載されて、前部の刈取搬送装置で刈取った穀稈が、穀稈搬送装置の終端部からフィードチェンに受け継がれて脱穀装置に供給される構成としている。通常、コンバインの刈取搬送装置は、走行ミッション装置から取り出した回転動力で伝動する構成をとっており、走行速度にシンクロした回転速度で駆動されて、走行速度に対応した作業能率で刈取り、搬送作用が行われる。
【0003】
そして、従来公知の技術として、穀稈供給量の情報を車速から得て、車速が大なるほど脱穀フィードチェンの搬送速度が、大になるように、無段変速装置の変速制御をする技術が知られている。そして、フィードチェンは、前記刈取搬送装置の終端部から受け継いだ穀稈を搬送しながら、穂部を脱穀装置に供給して脱穀するが、穀稈搬送装置の終端部から搬送穀稈を円滑に受け継ぐために、搬送速度を同調させる技術手段が公開されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、図2、及び図3に示され、明細書にも具体的に記載されているように、刈取部における刈取穀稈の搬送速度が大であるほど脱穀フィードチェンの搬送速度が大になるように変速装置を制御する構成が開示されている。
【0005】
又、特許文献2には、図1に示され、明細書にも具体的に記載されているように、前処理部への伝動系と脱穀用フィードチェンへの伝動系とを単一の変速機(HST)により変速する構成が開示されている。
【特許文献1】特開2001−251941号公報
【特許文献2】特開2002−291323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のコンバインにおけるフィードチェンの変速装置は、上記した特許文献1、及び2に見られるように、変速ギヤを使用した有段式変速装置は、使用されておらず、全て無段変速装置が装備されている。この種の無段変速装置は、価格が高く、コンバインの製造コストを大幅に吊り上げる原因となる課題がある。又、フィードチェンは、無段変速装置によって変速しながら搬送した穀稈を、常時定速で回転駆動されている扱胴に供給すると、脱穀の過程において、無段階に搬送速度が変速されると脱穀作業の精度を損なうおそれがあり、常に脱穀精度を良好に保てない課題がある。
【0007】
そして、従来、フィードチェンの変速は、車速が増速される過程において行われる増速側への変速と、車速が減速される過程における減速側への変速とが、同一車速に設定されているから、コンバイン作業終了時に近い時点の脱穀処理が適確にできない課題があった。すなわち、従来の構成では、高速走行から順次低速走行に移行する過程で、フィードチェンの無段変速を、増速時と同じ車速位置で順次減速すると、高速走行時に高能率の下で刈取られて前処理装置が保持したり、脱穀装置に供給されている多量の穀稈の搬送、脱穀処理が間に合わず、作業終了近くでフィードチェン上に未脱穀の穀稈が停滞して充分に処理出来ない状態になっていた。
【0008】
つぎに、本件出願のコンバインは、枕地の刈取搬送を行う一つの態様として、車体が圃場の端に達して、前処理部(刈取搬送部)が枕地に突入して刈取穀稈を保持した状態のとき、操縦位置の停止作業用ペダルを踏み込むと、左右のサイドクラッチを切り、駐車ブレーキをかけた状態で停車する構成としている。そのとき、コンバインは、その位置に停車状態で枕地穀稈を脱穀処理することになるが、前部の刈取搬送部の処理速度を保持するために走行装置(現時点では、左右サイドクラッチが切り状態にあり、走行の危険性はない)に接続する無段変速装置を増速側に操作しても、作業の安全性を保つために、フィードチェンを低速の変速域に保持する構成として目的を達成している。従来装置には、上記の如き制御機構は公知例がない。
【0009】
更に、フィードチェンは、刈取クラッチを切って刈取装置を停止した状態でも搬送途上に残留する未処理穀稈の脱穀や、又、新たに枕地穀稈の手扱ぎ作業をするために、回転駆動して脱穀作業をする必要がある。そのとき、本件出願は、従来に公知例がない構成として、刈取クラッチを切に操作すると、フィードチェンを高速側に変速できないように、低速の変速域で保持する構成として、手扱ぎ作業の安全性を確保できるものとしている。
【0010】
そして、コンバインは、非作業の状態で圃場内を高速で移動する場合、フィードチェン上に穀稈が残っておれば、脱穀を続けるが、そのときには穀稈量も減っており、フィードチェンは、低速回転が望ましく、騒音の防止にも役立つことができる。従来には公知例のない構成として、副変速を高速に変速すると、フィードチェンを低速変速域に変速してその変速位置を保持する制御を行う構成としている。したがって、本件出願は、フィードチェン上に残留する穀稈の脱穀処理を行うことができるものでありながら、騒音の発生を少なくすることができるものとした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような技術的手段を講じる。
まず、請求項1に記載した発明は、フィードチェン(1)を高速と低速との二段階あるいはそれ以上の変速域を備えた有段式変速装置(2)からの伝動によって駆動すべく構成すると共に、フィードチェン(1)への伝動を遮断する停止位置から各変速域が選択できるように構成し、車速を無段階に変速することのできる無段式変速装置(3)の高速走行側への変速過程で前記有段式変速装置(2)を高速変速域に切り換え、前記無段式変速装置(3)の低速走行側への変速過程で前記有段式変速装置(2)を低速変速域に切り換えるように、それぞれ予め設定した基準車速に基づいて有段式変速装置(2)を変速制御するように構成したことを特徴とするコンバインとする。
【0012】
即ち、フィードチェン1の変速装置として有段式変速装置2を利用した構成を特徴とする。コンバインの製造コストを低減して、需要家に安価なコンバインを提供できるものとしている。
【0013】
そして、フィードチェン1は、有段式変速装置2によって低速変速域、又は高速変速域に自動的に変速されると、その速度を維持しながら常時定速で回転している扱胴に穀稈穂部を供給するから、極端に藁屑の発生が増える搬送速度になったり、脱穀状態の過不足が発生する等のない安定した精度を保ちながら脱穀ができるものとなっている。
【0014】
つぎに、請求項2に記載した発明は、車速が低速から高速に変速される過程において前記有段式変速装置(2)が高速変速域へ変速する時の基準車速よりも、車速が高速から低速走行に変速される過程において有段式変速装置(2)が低速変速域へ変速する時の基準車速の方を低速側に設定して、フィードチェン(1)を高速変速域で長く伝動する変速制御を可能としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインとする。
【0015】
即ち、車速の変速に対応するフィードチェン1の変速を、車速が高速から低速に減速されるときの変速位置を、増速時の車速位置より低速側で変速するようにヒステリシスに設定したから、コンバイン作業終了時に近い時点の脱穀処理を適確に行うことができるものとなった。
【0016】
すなわち、従来の構成では、車速が高速走行から順次低速走行に移行する過程に行われるフィードチェン1の変速を、逆の増速時と同じ車速位置で順次無段階に減速すると、高速走行時に高能率の下に脱穀装置側に供給されている多量の穀稈の搬送、脱穀処理が間に合わず、作業終了近くでフィードチェン上に未脱穀の穀稈が停滞して充分に処理出来ない状態になる。
【0017】
つぎに、請求項3に記載した発明は、左右のサイドクラッチ(4,4)を遮断操作する停車作業用ペダル(5)の踏み込み操作に関連して前記有段式変速装置(2)を低速変速域に変速させる構成とし、停車状態において前記無段式変速装置(3)が高速側に変速されても前記有段式変速装置(2)を低速変速域に保持することができるように構成したことを特徴とする請求項1記載のコンバインとする。
【0018】
即ち、枕地の刈取搬送を行う一つの態様として、車体が圃場の端に達して、前処理部(刈取搬送部)が枕地に突入して刈取穀稈を保持した状態のとき、操縦位置の停止作業用ペダル5を踏み込むと、左右のサイドクラッチ4,4を切り、駐車ブレーキをかけた状態で停車する。そのとき、コンバインは、その位置に停車状態で枕地穀稈を脱穀処理することになるが、前部の刈取搬送部の処理速度を保持するために走行装置(現時点では、左右サイドクラッチ4,4が切り状態にあり、走行の危険性はない。)に接続する無段式変速装置3を増速側に操作しても、作業の安全性を保つように、フィードチェン1を低速の変速域に保持することができるものとした。
【0019】
つぎに、請求項4に記載した発明は、刈取装置(6)への伝動を断続する刈取クラッチ(7)の切り操作に関連して前記有段式変速装置(2)を低速変速域に変速させる構成とし、前記刈取クラッチ(7)を切った状態において前記無段式変速装置(3)が高速側に変速されても、前記有段式変速装置(2)を低速変速域に保持することができるように構成したことを特徴とする請求項1記載のコンバインとする。
【0020】
即ち、フィードチェン1は、刈取クラッチ7を切って刈取装置6を停止した状態で、搬送途上に残留する未処理穀稈の脱穀や、又、新たに枕地穀稈の手扱ぎ作業をするために、回転駆動して脱穀作業をする必要がある。そのとき、刈取クラッチ7を切に操作すると、フィードチェン1を高速側に変速できないように、低速の変速域で保持する構成として、手扱ぎ作業の安全性を確保できるものとしている。
【0021】
つぎに、請求項5に記載した発明は、副変速装置(8)の高速側への変速に関連して前記有段式変速装置(2)を低速変速域に変速させる構成とし、前記副変速装置(8)が高速側に変速された状態において前記無段式変速装置(3)が高速側に変速されても、前記有段式変速装置(2)を低速変速域に保持することができるように構成したことを特徴とする請求項1記載のコンバインとする。
【0022】
即ち、コンバインは、非作業時に圃場内を高速で移動する場合、フィードチェン1上に穀稈が残っておれば、脱穀を続けるが、そのときには穀稈量も減っており、フィードチェン1は、低速回転が望ましく、騒音の防止にも役立てることができる。
【0023】
また、この発明は、副変速を高速に変速して走行するとき、フィードチェン1を低速変速域に変速し、その変速位置を保持する制御を行う構成としている。したがって、フィードチェン1上に残留する穀稈の脱穀処理を行うことができるものであり、騒音の発生を少なくしながら高速移動ができる。
【発明の効果】
【0024】
まず、請求項1に記載の発明は、フィードチェン1の変速装置として有段式変速装置2を利用した構成を特徴とするものであって、静油圧式無段変速装置(略称HST)に対比すると、はるかに安価に入手できるから、コンバインの製造コストを大幅に低減して、需要家に安価なコンバインを提供できる。
【0025】
そして、フィードチェン1は、有段式変速装置2によって低速変速域又は高速変速域に自動的に変速されると、その速度を維持しながら常時定速で回転している扱胴に穀稈穂部を供給する。したがって、この発明のフィードチェン1は、途中で極端に藁屑の発生が増える搬送速度に変化したり、脱穀状態の過不足が発生する搬送速度に変速する等の不安定な搬送速度の状態は起こらず、常に、安定した速度を保持し、一定の精度を保ちながら脱穀ができる。
【0026】
そして、請求項2に記載した発明は、車速の変速に対応するフィードチェン1の変速位置を、車速が高速から低速に減速されるとき、逆の車速が増速される過程の車速位置より低速側に変速位置を寄せてヒステリシスに設定したから、コンバイン作業終了時に近い時点の脱穀処理を適確に行うことができる。
【0027】
すなわち、従来の構成では、車速が高速走行から順次低速走行に移行する過程に行われるフィードチェン1の変速を、逆の増速時と同じ車速位置で順次無段階に減速すると、高速走行時に高能率の下に脱穀装置側に供給されている多量の穀稈の搬送、脱穀処理が間に合わず、作業終了近くでも、まだ、フィードチェン上に未脱穀の穀稈が停滞して充分に処理出来ない状態になっていた。したがって、請求項2の発明は、上述の如き従来型の課題を解消して、作業性を向上させることができるものである。
【0028】
そして、請求項3に記載した発明は、枕地の刈取搬送を行う一つの態様として、車体が圃場の端に達して、前処理部(刈取搬送部)が枕地に突入して刈取穀稈を保持した状態のとき効果が発揮できる。この発明の停車作業用ペダル5は、これを踏み込むと、左右のサイドクラッチ4,4を切り、駐車ブレーキをかけた状態で停車する。したがって、コンバインは、その位置に停車状態のまま枕地穀稈を脱穀処理することが可能となり、前部の刈取搬送部の処理速度を保持するために走行装置に接続する無段式変速装置3を増速側に操作しても、作業の安全性を保つように、フィードチェン1を低速の変速域に保持することができる。
【0029】
そして、請求項4に記載した発明は、刈取クラッチ7を切に操作すると、有段式変速装置2が、関連して低速変速域に変速されて保持し、フィードチェン1を低速で伝動し続けることになる。したがって、フィードチェン1は、刈取装置6が停止した状態でも搬送途上に残留する未処理穀稈の脱穀や、又、新たに枕地穀稈の手扱ぎ作業をすることができ、しかも、フィードチェン1を高速側に変速できないように、低速の変速域で保持する制御が働いているから、手扱ぎ作業の安全性を確保できる。
【0030】
そして、請求項5に記載した発明は、コンバインの非作業時に、副変速装置8を高速に入れて圃場内を高速で移動する場合、フィードチェン1上に穀稈が残っておれば、脱穀を続けるが、そのときには穀稈量も減っており、フィードチェン1は、低速回転が望ましく、しかも、低速回転によって騒音を低減させることができる。通常、コンバインは、非作業時に高速走行するときには、無段式変速装置3も高速位置にあって、フィードチェン1が高速変速域に変速される制御になっているが、副変速を高速に変速して走行するときは、フィードチェン1を低速変速域に変速してその位置で保持するから、上述の通り、フィードチェン1上に残留する穀稈の脱穀処理を行うことができるものでありながら、フィードチェンによる騒音を低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、コンバイン10は、図4、及び図5に示すように、左右一対のクローラ11,11を装備した車体12上に、穀稈供給口13を前側に位置させて脱穀装置14を搭載し、その前部に刈取搬送装置15を設けて構成している。そして、脱穀装置14は、図6、及び図7に示すように、前側板16と後側板17との間に扱室18が形成され、該扱室18と平行させて後ろ側に二番処理室19、及びその後方に排塵処理室20を配置して構成している。そして、扱胴21は、前記扱室18内に、二番処理胴22が上記二番処理室19に、更に、処理胴23が排塵処理室20内にそれぞれ軸架して構成されている。なお、図面から解るように、二番処理胴22と処理胴23とは、一体に構成されている。
【0032】
そして、実施例に係る処理胴23は、図面から解るように、始端部の前記扱室18の排塵口24に臨ませた部分を掻込胴23aとして掻込螺旋を設け、それに引続いて傾斜状に順次後方側の外径を拡大して誘導部23bを形成して扱室18から排塵物の取り込みを促進できる形状に構成している。
【0033】
そして、フィードチェン1は、図6において、扱室18の外側に形成している扱口に沿わせて設け、穀稈の株元を挟持して先端穂部を扱室18に挿入した状態で搬送しながら扱胴21で脱穀し、終端部から脱穀後の排藁を排藁チエン25に受け継がせて機外に搬送する構成としている。なお、フィードチェン1は、搬送始端部の内側に受継ぎチェン27が設けられ、図4に示すように、前側の刈取搬送装置15の終端部分から刈取穀稈を、受け継ぎながら搬送する構成としている。
【0034】
つぎに、選別室28は、図7に示すように、上側に揺動選別棚29が設けられており、その下側に選別方向の上手側から圧風唐箕30、一番移送螺旋31、セカンドファン32、二番移送螺旋33の順にそれぞれ軸装して構成している。そして、二番揚穀装置34は、図面に示すように、下部が前記二番移送螺旋33の終端部に接続され、上部が前記二番処理室19に連通して設けられ、二番物を二番処理室19に還元する構成としている。実施例では、二番処理室19は、還元されたニ番物を前側に向けて移送しながらニ番処理をし、選別室28に落下、供給する構成としている。
【0035】
つぎに、上記コンバイン10の伝動機構について、図8に示す伝動機構図に基づき具体的に説明する。
まず、エンジン35から出力される回転動力は、図8に示すように、前後両方に分岐して伝動する構成がとられ、前方側の動力が静油圧式無段変速装置(本件出願の無段式変速装置3に相当し、以下、明細書においては、略称「HST」と記載する。)3を経由して走行ミッション装置36に伝動され、後方側の動力が脱穀装置14側に出力する構成としている。そして、前記受継ぎチェン27は、走行ミッション装置36から取り出された動力が、一度、刈取搬送装置15の刈取伝動装置15aを経由して、走行速度にシンクロされた回転速度で動力が伝動される構成としている。
【0036】
そして、前記走行ミッション装置36は、図4、及び図8に示すように、左右にホイルシャフト37,37を軸架して外側に延長し、これに駆動スプロケット38,38を軸着して左右の前記クローラ11,11を伝動する構成としている。
【0037】
そして、実施例における上記ホイルシャフト37,37は、従来からのコンバインと同様に、走行ミッション装置36に装備した副変速装置8、サイドブレーキ、サイドクラッチ4,4を経由した走行動力が伝動され出力する構成としている。
【0038】
そして、刈取搬送装置15は、図4、及び図5に示すように、低部の刈取装置6と、刈取穀稈をフィードチェン1の搬送始端部まで搬送する穀稈搬送装置41と、前部の穀稈引起し装置42等から構成し、前記刈取伝動装置15aから伝動される構成としている。そして、刈取クラッチ7は、走行ミッション装置36と刈取伝動装置15aとの間に設け、操縦位置の脱穀クラッチレバー45のグリップ上面に設けた刈取スイッチ46(図2参照)のON・OFF操作で入・切する構成となっている。
【0039】
つぎに、脱穀装置14は、図8に示すように、エンジン35から出力された動力が脱穀クラッチ47を経由して中間ギヤボックス48に入力され、刈取側と脱穀側とに分配して伝動するが、この場合、実施例では脱穀側には扱胴系統(扱胴21側)と選別系統(選別室28側)との2系統に分配して伝動する構成としている。
【0040】
そして、中間ギヤボックス48は、従来から公知の技術であるが、刈取側に伝動する経路には途中にワンウェイクラッチを設けて、前記した走行ミッション装置36側から伝動される速度より高速の場合にのみ、こちら側からの動力を刈取伝動装置15aに伝動する構成とし、例えば、作業開始時(作業初期において、走行速度が一定速度に達するまでの間)の刈取り、搬送が円滑にできるように配慮した構成としている。
【0041】
そして、扱胴系統の伝動径路は、図8の伝動機構図から解るように、扱胴21、処理胴(ニ番処理胴22)23、排藁チェン25を一連の状態で伝動する構成になっている。そして、選別系統の伝動経路は、前記中間ギヤボックス48から出力された動力が、圧風唐箕30、一番移送螺旋(一番揚穀)31、セカンドファン32、ニ番移送螺旋(ニ番揚穀装置34)33、排塵ファン49、揺動選別棚29等に順次伝動する構成としている。
【0042】
そして、フィードチェン1は、図面に示すように、実施例の場合、前記排塵ファン49に入力した以降の伝動経路に有段式変速装置2を装備して、高・低速度に変速された回転動力が伝動される構成としている。
【0043】
そして、フィードチェン1を変速する有段式変速装置2は、図面に示すように、変速ギヤボックス50に内装した構成としている。
以下、具体的に述べると、変速ギヤボックス50は、図9、及び図10に示すように、入力軸51、前記排塵ファン49の駆動軸52、カウンタ軸53、フィードチェン駆動軸54の合計4本の軸を軸架した構成としている。なお、55はフィードチェン1に係合して伝動するスプロケットである。
【0044】
そして、変速機構は、変速ギヤボックス50内において、前記カウンタ軸53上に設けているが、一側に高速側ギヤ56を、他側に低速側ギヤ57をそれぞれ内側にクラッチ爪を設けて遊嵌状態に軸装し、一方、フードチェン駆動軸54には上記高速側ギヤ56に噛合する小径ギヤ58と前記低速側ギヤ57に噛合する大径ギヤ59とをそれぞれ軸着して変速可能に構成している。そして、クラッチ爪60は、図9、及び図10に示すように、カウンタ軸53上において左右摺動自由にして左右両側に係合爪が設けられ、連結したシフターアーム61、シフター軸62に操作されながら高速側ギヤ56と、低速側ギヤ57との一方側に選択的に係合するか、或いは中間のニュートラル位置で停止するかを選択できる構成としている。
【0045】
このように、フィードチェン1の有段式変速装置2は、一本のカウンタ軸53上において、シフター軸62を回動操作してシフターアーム61を介してクラッチ爪60を左右に切替えて、高速、又は低速の有段で変速切り替えと、中間のニュートラル位置で停止の状態を選択することができる構成としているから、従来のベルコン方式や静油圧式無段変速装置(略称「HST」)を使用した変速装置に比較して、きわめてコンパクトな設計となり、低コストで製作できる優れた特徴がある。この場合、フィードチェン1は、高低変速装置の中にニュートラル位置を構成することで別に停止装置の必要がなくなり、構成上大幅にコスト低減を可能にした。
【0046】
つぎに、変速操作機構は、制御モータ65,66による切替制御を可能とし、高・低の変速とニュートラル位置の確保とができる構成を採用しており、まず、図11に示すように、高低変速用モータ65とニュートラル用モータ66との2つの操作用の制御モータで自動変速制御を行う構成としている。そして、高低変速用モータ65は、図11において、減速機構を介して接続して半円軌跡を描いて往復回動する駆動アーム67を、ピン68と長孔69を介して作動杆70に連動可能に接続した構成としている。
【0047】
そして、作動杆70は、上記駆動アーム67の回動に起因してピン68と長孔69とを介して、図11の実線の位置(図12参照)に移動すると、低速位置(図12の低速位置参照)となり、逆に、図11の仮想線の位置(図13参照)に作動すると高速位置(図13の高速位置参照)に切り替わる構成となっている。この場合、シフター軸62は、前記作動杆70から変速トルクスプリング71、作動アーム74、連杆64を介して操作力が伝達される構成をとっている。
【0048】
なお、ニュートラル位置は、図14に作用図で示すように、シフターアーム61、及びクラッチ爪60が両方(高・低両ギヤ56,57)から離れた中間位置となる構成であるが、そのとき、上記作動杆70は、図14に示すように、それぞれの位置、すなわち高速位置、又は低速位置にあるが、変速トルクスプリング71の弾性変位によってそれぞれの位相差が吸収されるため、後述するニュートラル用モータ66、連動ワイヤー72の作動によってニュートラル位置が確保できる。
【0049】
つぎに、ニュートラル用モータ66は、図11に示すように、減速機構を介して円弧軌跡を作動する駆動アーム67を、高低変速用モータ65側の構成と同様にピン68と長孔69とを介して作動杆70に接続している。
【0050】
そして、連動ワイヤー72は、図11に示すように、基部をニュートラルスプリング73を介して前記作動アーム74に連結し、シフター軸62の反対側にまで延長して、先端部のアウター側部72aをシフター付勢アーム左75の先端部75aに連結し、インナー側部72bをシフター付勢アーム右76の先端部76aにそれぞれ連結して構成している。そして、操作板77は、図16に示すシフター軸62の端部の角軸部78に係合する角孔79を基部に開孔し、先端側に作動ピン80を突設して構成している。
【0051】
そして、上記シフター付勢アーム左75とシフター付勢アーム右76とは、基部にシフター軸62の端部丸軸部81に回動自由に嵌合する丸孔82,82を設けて重ね合わせて取付け、先端側にはそれぞれ角穴83,83を開孔して、前記操作板77の作動ピン80が、シフター付勢アーム左75側の角穴83とシフター付勢アーム右76側の角穴83とに入り込む構成としている。そして、位置決め板85は、図15に示すように、略L型形状にして一方側に位置決めピン86を裏側(組み立てた状態では前記操作板77に対向する側)に突設し、中間部位に前記シフター軸62の前記端部丸軸部81に係合する丸孔87を設け、他方側を機体に固定するねじ部88を設けた構成にしている。尚、該位置決め板85における位置決めピン86よりも先端側の位置には、前記作動ピン80の先端部が入り込むことのできる長孔fを形成している。
【0052】
このようにして、一連のニュートラル側の操作装置が、図15、及び図16に基づいて説明した各部材を、図11に示すように、重ね合わせてシフター軸62のニュートラル操作側に取り付けて構成している。
【0053】
以上のように構成されたニュートラル側の操作装置は、ニュートラル位置への操作信号が出力されてニュートラル用モータ71が始動すると、まず、作動杆70は、図11に示すように、回動する駆動アーム67、ピン68、長孔69を介して、同図の仮想線の位置に移動し、作動アーム74によってニュートラルスプリング73を介して連動ワイヤー72を引き操作する。この場合、連動ワイヤー72は、インナーが引かれることに起因して相対的にアウターが押される関係になって、先端部において、アウター側部72aのシフター付勢アーム左75と、インナー側部72bのシフター付勢アーム右76とが相互に接近して重なり合う状態になる。
【0054】
この状態は、既に説明した図14に示すように、変速位置が高速位置でも、又は低速位置でも変速トルクスプリング71の弾性変位で吸収されて位相差が吸収されている。
この場合、シフター付勢アーム左75とシフター付勢アーム右76とは、シフター軸62の端部丸軸部81に係合した丸孔82を回動支点にして相互に接近しながら角穴83にある作動ピン80を、角穴83に挿し通している位置決めピン86側に強制的に近づけて、図17に示すように、同位相の位置に移動操作する。すると、クラッチ爪60は、作動ピン80、操作板77、角孔79、角軸部78を経由する操作力が伝達され、シフター軸62を回動して、シフターアーム61を連動してニュートラル位置に移動する。このように、クラッチ爪60は、図14に示すように、高速位置にあっても、或いは低速位置からでもニュートラル位置に移動してフィードチェン駆動軸54への伝動を絶って、フィードチェン1を停止する。したがって、実施例の特性は、フィードチェン1による搬送詰まりや作業者が危険な状態になったとき等に対応して、すぐに停止することができるから、安全性の高いものとなった。
【0055】
そして、フィードチェン1の有段式変速装置2は、図11に示すように、ニュートラル位置から高速、又は低速に切り替えるときには、コントローラ90が出力する制御信号に基づいて、まず、先に、ニュートラル用モータ66が逆転駆動され、ニュートラル位置にある駆動アーム67、ピン68を逆転して長孔69を介して作動杆70を、図11の実線の位置に戻す。すると、連動ワイヤー72は、緩められ、更に、前記変速トルクスプリング71の弾性作用が働いて、ニュートラル用モータ66側に影響を与えることなく高速・低速の変速ができるものとなっている。
【0056】
なお、図18は、高速側への変速時における作動ピン80と位置決めピン86との位置関係を示しており、図19は、低速側への変速時における両ピン80,86の位置関係を示した作用図である。
【0057】
つぎに、フィードチェン1の制御機構について実施例を説明する。
まず、コントローラ90は、図1に示すように、入力側に、HSTレバー91、停車作業用ペダル5、刈取スイッチ46、副変速レバー93、緊急停止スイッチ94、詰まりセンサ95、変速設定ダイヤル96、穀稈センサ97、脱穀回転センサ98、変速スイッチ99をそれぞれ接続して設け、操作信号や検出信号が入力できる構成としている。なお、各レバーやセンサの機能については、実施例の説明に関連させて述べる。
【0058】
そして、コントローラ90は、出力側に、HST3、制御モータ65,66を経由して有段式変速装置2、左右サイドクラッチ4,4、駐車ブレーキ100、刈取クラッチ7、副変速装置8、エンジン35をそれぞれ接続して設け、出力した制御信号に基づいて制御作動する構成としている。
【0059】
そして、コントローラ90は、コンバインの各作業に関する基準数値を記憶させており、CPUが、これらの基準数値と入力される検出情報等を比較演算しながら制御信号を出力する構成としている。
【0060】
そして、各操作レバー類は、図2、及び図3に示すように、操縦席101の周囲に配置され、これの操作によってコントローラ90に操作信号が入力される構成となっている。そして、HSTレバー91は、これの操作によってHST3の前・後進走行の切替と、走行速度の無段階変速ができる構成としている。
【0061】
そして、コントローラ90は、HSTレバー91の倒し操作量に応じてHST3を変速しながら走行ミッション装置36を経由して走行動力をクローラ11,11に出力して走行速度を無段階に変速する。すると、コントローら90は、上記HSTレバー91の倒し操作量が設定車速に達すると、制御モータ65に制御信号を出力して変速制御をする。この場合、有段式変速装置2は、予め、図1に示す変速設定ダイヤル96によって設定されている車速に達したところで上記変速制御によって高速側に変速される。
【0062】
したがって、フィードチェン1は、車速が増速側に変速されるに伴って、高速回転になり、前部の刈取搬送装置15が高速回転で高能率の下に刈取搬送してくる多量の搬送穀稈を、受継ぎチェン27から円滑に受け継いで挟持し、高速で搬送することができる。そして、搬送穀稈は、株元がフィードチェン1に挟持されて穂先側が扱室18に挿入された状態で搬送されながら回転駆動されている扱胴21によって脱穀作用を受けることになる。
【0063】
このように、フィードチェン1は、車速に応じて自動的に変速制御されて、前部の刈取搬送能率に対応する速度で受け継ぎ搬送しながら脱穀処理ができる特徴がある。
つぎに、コンバイン10は、圃場の端に達して前部の刈取搬送装置15が枕地に達すると、図2に示す操縦席101の前側フロアにある停車作業用ペダル5を踏み込んでその場で停車する。この場合、コントローラ90は、停車作業用ペダル5が踏み込まれて操作信号が入力されると、サイドクラッチ4,4と駐車ブレーキ100にそれぞれ制御信号を出力して、左右両側のサイドクラッチ4,4を切り、併せて駐車ブレーキ100をかけて車体12を停止する構成としている。
【0064】
そして、コントローラ90は、制御モータ65に制御信号を出力して有段式変速装置2を低速段に変速してその変速位置を保持する制御を続ける構成としている。
したがって、フィードチェン1は、上記実施例の構成によって、コンバイン10の前部、刈取搬送装置15が枕地に達して刈取直後の穀稈を前側の穀稈引起し装置42や穀稈搬送装置41で保持した状態にあるとき、それらの穀稈を低速で回動しながら受け継いで挟持搬送して脱穀することができる。そして、コントローラ90は、上記のように、停車作業用ペダル5を踏み込んだ信号が入力されている間、例え、HSTレバー91が高速側に変速操作されても、車体12を確実に停車状態に保ちながら、有段式変速装置2を低速段で保持し続けることができる。このように、実施例に係るコンバイン10は、フィードチェン1を低速に保持したまま安全な状態で枕地における脱穀作業を続けることができる。
【0065】
そして、実施例の構成では、脱穀クラッチレバー45のグリップにある刈取スイッチ46を操作して刈取クラッチ7を切った場合と、副変速レバー93を高速位置に変速して高速走行に移行した場合にも、コントローラ90は、前記停車作業用ペダル5を踏み込んだときと同じ制御を行う構成としている。
【0066】
すなわち、上記2つの場合、コントローラ90は、制御モータ65に制御信号を出力して有段式変速装置2を低速変速域に変速し、しかも、刈取クラッチ7の切状態、又は副変速が高速位置にある間は、前記HST3が高速側に変速されても、フィードチェン1を低速変速域に保持する制御を続ける構成としている。
【0067】
したがって、実施例の場合、フィードチェン1は、刈取装置6が停止した状態でも搬送途上に残留する未処理穀稈の脱穀や、又、新たに枕地穀稈の手扱ぎ作業をすることができ、しかも、フィードチェン1を高速側に変速できないように、低速の変速域で保持する制御が働いているから、手扱ぎ作業の安全性を確保できるものとなっている。
【0068】
そして、コンバインの非作業時に、副変速装置8を高速に入れて圃場内を高速で移動する場合、フィードチェン1上に穀稈が残っておれば、脱穀を続けるが、そのときには穀稈量も減っており、フィードチェン1は、低速回転が望ましく、しかも、低速回転が騒音の防止にも役立つ。通常、コンバイン10は、非作業時に高速走行するときには、HST3も高速位置にあって、本来の制御が働けば、フィードチェン1が高速変速域に変速される制御になるが、上記実施例のように、副変速を高速に変速して走行するときは、フィードチェン1を低速変速域に変速してその位置で保持する制御が働く構成であるから、上述の通り、フィードチェン1は、低速の位置で移動しながら、残留する穀稈の脱穀処理を行うことができるものでありながら、チェン1による騒音を低く抑えることができる優れた特徴を備えている。
【0069】
なお、特殊な場合の別実施例として、副変速装置8を高速にして作業をする場合(HST3は低速位置にある。)、フィードチェン1を高速域に固定できる制御に構成にしている。例えば、麦刈りの如く、稲に比較して脱穀負荷が小さい場合、副変速を高速にして作業を行うと、通常の作業時よりも大量の穀稈が脱穀装置14に供給されるから、フィードチェンを高速にして脱穀入り口の詰まりを解消する必要が生じる。
【0070】
つぎに、コンバイン10の緊急時に対応した実施例を述べる。
まず、緊急停止スイッチ94は、緊急時にすぐ押圧操作ができるように、フィードチェン1の搬送始端部の脱穀カバー表面の押し易い位置(図4参照)に設けられ、コントローラ90に緊急信号を入力できる構成としている。又、詰まりセンサ95は、刈取搬送装置15とフィードチェン1との穀稈引継ぎ部位と、フィードチェン1の終端部と排藁チエン25との排藁の受継位置(図6参照)に設け、搬送穀稈(排藁)の詰まりを監視する構成としており、詰まりが発生するとコントローラ90に詰まり情報が即座に入力される構成としている。
【0071】
そして、コントローラ90は、上記緊急スイッチ94、又は詰まりセンサ95から情報が入力されると、エンジン35に緊急停止の制御信号を出力してエンジン35をストップすると同時に、制御モータ66に制御信号を出力する構成としている。すると、有段式変速装置2は、上記制御モータ66が制御駆動されると、既に説明した図14に示すように、そのときの変速位置が高速位置でも、又は低速位置にあっても、変速トルクスプリング71の弾性変位で吸収されて位相差が吸収され、強制的にニュートラルに戻されて伝動が中断される。
【0072】
このように、コントローラ90は、緊急時には、エンジン35を停止制御すると同時に、有段式変速装置2をニュートラル位置に戻してフィードチェン1への伝動を中断し、搬送穀稈を挟持したまま停止して安全をより確実にすることができる。
【0073】
つぎに、フィードチェン1は、走行速度の変化に対応して変速制御されるが、車速とチエン1の変速タイミングとの関連につき、実施例を述べる。
まず、本件出願の請求項2に記載した発明のように、フィードチェン1は、低速域から高速域への変速時の車速と、逆に、高速域から低速域への変速時の車速とに差を設けて作業実態に合わせた変速制御ができる構成としている。すなわち、有段式変速装置2は、図20に示すように、車速が低速から高速走行に変速される過程における高速側への変速時の車速と、逆に、車速が高速から低速走行に変速される過程における低速側への変速時の車速とを、同一車速を避けて、後者の変速時の車速を低速側に設定した構成とし、フィードチェン1を高速変速域で長く伝動する変速制御を可能としている。そして、実施例では、図1に示すように、変速設定ダイヤル96を設けて、有段式変速装置2の高速域への変速時の車速と低速域への変速時の車速とを、予め、設定できる構成にしている。
【0074】
又、コントローラ90は、有段式変速装置2の変速について、高速域から低速域へ変速を、逆側への変速より時間遅れで変速制御が行われる構成に切り替えることもできるものとした。
【0075】
いずれにしても、実施例は、図20に示すように、車速の変速に対応するフィードチェン1の変速位置を、車速が高速から低速に減速されるとき、逆の車速が増速される過程の車速位置より低速側に変速位置を寄せてヒステリシスに設定したから、コンバイン作業終了時に近い時点の脱穀処理を良好に保つことが可能となった。従来の構成では、車速が高速走行から順次低速走行に移行する過程に行われるフィードチェン1の変速を、逆の増速時と同じ車速位置で減速すると、高速走行時に高能率の下に脱穀装置側に供給されている多量の穀稈の搬送、脱穀処理が間に合わず、作業終了近くでも、まだ、フィードチェン上に未脱穀の穀稈が停滞して充分に処理出来ない状態になっていた。したがって、実施例は、フィードチェン1を高速変速域において長く作用ができるように変速制御を行って、従来装置の不具合を解消したものである。
【0076】
つぎに、コントローラ90は、副変速の変速に伴う走行速度に関し、常に、標準の走行速度を基準として、フィードチェン1の変速制御が行えるように構成している。すなわち、コントローラ90は、副変速装置8を低速に変速したとき、又は高速に変速したときでは、それぞれ標準速の時としきい値を変えて設定しており、要するに、車速の絶対速度に対してフィードチェン1の変速制御ができるように設定するものとしている。
【0077】
そして、副変速装置8は、実施例の場合、各変速位置で独自の値を設定して搬送姿勢が適正に保持できるように配慮し、フィードチェン1の変速時の車速をおおよそ0,7m/s程度に保つように設定している。
【0078】
そして、コントローラ90は、副変速装置8が低速のとき、刈取搬送装置15の搬送径路に設置した穀稈センサ97のON時間が設定時間を越えると、制御モータ65に制御信号を出力して有段式変速装置2を高速域に変速する構成としている。このように、フィードチェン1は、副変速が低速位置で低速走行中には有段式変速装置2も低速域にあり、低速で搬送作用をしているが、上記のように、穀稈の刈取、搬送が連続的に行われていることを検出すると、高速域に変速され、高速作業で能率よく脱穀することになっている。そして、コントローラ90は、脱穀回転センサ98が脱穀負荷を検出したときにも、上述の実施例と同様に、フィードチェン1を高速に変速制御する構成にして負荷の増大を回避するものとしている。
【0079】
以上のように、フィードチェン1は、倒伏した圃場や湿田等の刈取脱穀作業に際し、車体12が低速走行であっても、穀稈センサ97、又は脱穀回転センサ98が連続した刈取搬送状態、又は脱穀負荷を検出して、それらの検出値が基準の数値をオーバーすると、途中から高速搬送に変速制御されて穀稈の搬送を速めて脱穀負荷の軽減を図ることができる。
【0080】
そして、変速スイッチ99は、図1に示すように、コントローラ90に接続し、フィードチェン1の変速制御をON、OFFに切替えるスイッチであって、これをON側に操作すると前述した各変速制御作用が自動的に行われ、OFF側に操作すると、変速制御がOFFとなり、有段式変速装置2を高速域に変速した位置に固定する構成としている。したがって、コンバイン10は、フィードチェン1の変速制御の働かない状態で、従来同様の刈取脱穀作業を行うことができる。
【0081】
従来から、脱穀装置14は、特殊な事情がない限り、フィードチェン1を高速回転にして脱穀作業を行っており、上記変速スイッチ99は、変速制御が働かない状態にすると、従来同様の作業ができるものとしている。
【0082】
つぎに、脱穀装置14の内部構成について、実施例を説明する。
まず、脱穀装置14については、既に、図6、及び図7に基づいて説明したが、処理胴23は、図21に示すように、前側に掻込羽根を有する小径の掻込胴23aを設け、それに接続して、テーパー形状の誘導部23bを連続させて形成している。そして、排塵処理室20は、誘導部23bから後方位置に受網105を張設しており、回転する処理胴23で処理しながら漏下できる排塵物を順次漏下させてながら後方に移送し、後部に設けた排塵口106で、最後の排塵物を排塵ファン49側(図6参照)に排塵する構成としている。そして、前記受網105は、図面から解るように、誘導部23bに対応する部分を,それより後方受網105aに比較して目合の小さい受網105bに形成している。そして、排塵ラック107は、図面に示すように、誘導部23bの下方で、しかも、受網105bの下方位置において揺動選別棚29の上面に取り付けた構成としている。
【0083】
上記構成によって、処理胴23の誘導部23bに達した排塵物は、目合の小さい受網105bから漏下できる処理物が下側の排塵ラック107に達して処理され、前側から送られてくる被処理物とは区別した状態で排塵処理される。
【0084】
そして、上記排塵ラック107は、図21に示すように、既に説明している扱室18の後側板17の下方に位置し、一番棚108の棚先部108aの上方位置に配置した構成となっている。
【0085】
したがって、排塵ラック107は、扱室18の排塵口24から選別室28に落下してきた排塵物を始端部分で受けながら、揺動するラックで拡散処理し、それに選別風が加わり共同作用で藁屑を機体後部に排塵し、穀粒を下方に落下、選別することができる。
【0086】
そして、圧風等箕30は、図22に示すように、吹出口109の上側風案内板110の仮想延長線上に排塵ファン49の駆動軸52を軸架し、更に、前記一番棚の下側にセカンドファン32の吹出口111が開口した構成となっている。このように、圧風等箕30は、上側風案内板110と下側の一番棚108とで仕切られた選別風路112内を排塵ファン49の方向に後方斜め上方に吹き抜ける構成となっている。実施例の場合、下側は、一番粒案内棚115の仕切り機能が大きい。
【0087】
そして、揺動選別棚29のシーブ113とストローラック114とは、上記上側風案内板110と下側の一番棚108、及びその上側の一番粒案内棚115で形成した選別風路112の内側に配置した構成とし、セカンドファン32の吹出口111から噴出してくる選別風が上記選別風路112の下側に沿って吹き抜ける構成としている。
【0088】
したがって、圧風等箕30の吹出口109から吹出す選別風とセカンドファン32の吹出口111から吹出す選別風は、間の一番棚108で仕切られた状態で略平行を保ちながら吹き抜けて両者が干渉することはほとんどなく、乱流が発生しない状態で選別することができる。
【0089】
そして、実施例の場合、上記ストローラック114は、一番棚108の仮想延長線と上側の一番粒案内棚115の仮想延長線との間に配置されており、比較的選別風の少ない位置で藁屑の揺動選別ができる構成になっている。したがって、ストローラック114は、揺動を主体にして長藁を選別できるから、ささり粒の選別回収が比較的容易にできるものとなっている。
【0090】
つぎに、排塵ファン49は、図面から解るように、排塵ファン室117の吸込口118を、前記処理胴23のテーパー形状の誘導部23bの側方位置より後方に寄せて開口させた構成としている。
【0091】
したがって、排塵ファン49は、上記誘導部23bと目合小の受網105bで処理されて選別室28側に漏下してきた排塵物が、一度、選別風を受けて選別された後の塵埃を吸塵して機外に排塵することとなり、混入している穀粒をできる限り回収して藁屑を排塵できる効果がある。
【0092】
つぎに、圧風唐箕30の組立に関する実施例を、図23に基づいて説明する。
まず、圧風唐箕30は、中心の回転軸120に4本の取付アーム121を放射状に取り付けて設け、該取付アーム121に起風羽根122を取り付けて回転翼車30aを構成している。
【0093】
一方、脱穀装置14の選別室28を構成している機枠123は、前記回転翼車30aを収納して取付ける部位の側板124に、前記4本の取付アーム121を組み立て時に通過させ挿入できる四角形状の挿入孔125を開口して取付け可能に構成する。そして、回転翼車30aは、上記側板124の挿入孔125から選別室28の機枠123内に挿し込んで回転軸120を機枠123に軸受け支持して構成する。
【0094】
そして、外側覆い板126は、図23に示すように、中心部分に円形の吸気孔127を形成し、前記四角形状の挿入孔125を側方から塞いだ状態に側板124の外側にねじ締めして固着した構成としている。
【0095】
以上述べたように、実施例は、回転翼車30aを選別室28の機枠123内に収納して圧風唐箕30を組み立てる場合、側板124に四角形状の挿入孔125を形成して開口しているから、これに4本の取付アーム121からなる風車を容易に挿入できる。そして、外側覆い板126は、上記挿入孔125の四隅を塞ぐ状態で取り付けて組み立て、中心部位に吸入孔127を開口して選別風を吸入できるものとなっている。
【0096】
このように、実施例は、挿入孔125の四隅を外側覆い板126で塞いで空気の漏れをなくし、起風効果を高めて充分な量の選別風を起風できる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】制御機構のブロック図
【図2】操縦席の平面図
【図3】操縦席の側面図
【図4】コンバインの左側面図
【図5】コンバインの平面図
【図6】脱穀装置の内部平面図
【図7】脱穀装置の内部側面図
【図8】コンバインの伝動機構図
【図9】変速ギヤボックスの内部側面図
【図10】変速ギヤボックスの切断平面図
【図11】有段式変速装置の操作機構の平面図
【図12】低速位置への変速時の高低変速用モータの作用図
【図13】高速位置への変速時の高低変速用モータの作用図
【図14】ニュートラル位置への切替時の高低変速用モータの作用図
【図15】位置決め板の分解斜面図
【図16】シフタ軸、操作板、シフター付勢アーム(左・右)の分解斜面図
【図17】ニュートラル操作時の作動ピンと位置決めピンとの作用図
【図18】高速時の作動ピンと位置決めピンとの作用図
【図19】低速時の作動ピンと位置決めピンとの作用図
【図20】車速と変速位置との関係を示すグラフ
【図21】脱穀装置の実施例を示す内部側面図
【図22】脱穀装置の実施例を示す内部側面図
【図23】圧風唐箕の側面図
【符号の説明】
【0098】
1 フィードチェン
2 有段式変速装置
3 無段式変速装置
4 サイドクラッチ
5 停車作業用ペダル
6 刈取装置
7 刈取クラッチ
8 副変速装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードチェン(1)を高速と低速との二段階あるいはそれ以上の変速域を備えた有段式変速装置(2)からの伝動によって駆動すべく構成すると共に、フィードチェン(1)への伝動を遮断する停止位置から各変速域が選択できるように構成し、車速を無段階に変速することのできる無段式変速装置(3)の高速走行側への変速過程で前記有段式変速装置(2)を高速変速域に切り換え、前記無段式変速装置(3)の低速走行側への変速過程で前記有段式変速装置(2)を低速変速域に切り換えるように、それぞれ予め設定した基準車速に基づいて有段式変速装置(2)を変速制御するように構成したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
車速が低速から高速に変速される過程において前記有段式変速装置(2)が高速変速域へ変速する時の基準車速よりも、車速が高速から低速走行に変速される過程において有段式変速装置(2)が低速変速域へ変速する時の基準車速の方を低速側に設定して、フィードチェン(1)を高速変速域で長く伝動する変速制御を可能としたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
左右のサイドクラッチ(4,4)を遮断操作する停車作業用ペダル(5)の踏み込み操作に関連して前記有段式変速装置(2)を低速変速域に変速させる構成とし、停車状態において前記無段式変速装置(3)が高速側に変速されても前記有段式変速装置(2)を低速変速域に保持することができるように構成したことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項4】
刈取装置(6)への伝動を断続する刈取クラッチ(7)の切り操作に関連して前記有段式変速装置(2)を低速変速域に変速させる構成とし、前記刈取クラッチ(7)を切った状態において前記無段式変速装置(3)が高速側に変速されても、前記有段式変速装置(2)を低速変速域に保持することができるように構成したことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項5】
副変速装置(8)の高速側への変速に関連して前記有段式変速装置(2)を低速変速域に変速させる構成とし、前記副変速装置(8)が高速側に変速された状態において前記無段式変速装置(3)が高速側に変速されても、前記有段式変速装置(2)を低速変速域に保持することができるように構成したことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2008−86243(P2008−86243A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270071(P2006−270071)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】