説明

コンバータ装置およびその制御方法

【課題】電力系統の電路解放時に、付属機器に過電圧を与えないコンバータ装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】直流電源部と接続され、電流制御を行なうためのPWM指令演算部と、PWM指令演算部からのPWM指令より直流電力を交流電力に変換する変換器と、前記変換器と外部の電力系統の間に接続されたフィルタを備え、前記PWM指令演算部は、前記フィルタの電力系統側の電圧に基づいて周波数を算出し、算出された周波数が閾値を超えたときブロック信号を発生して、前記ブロック信号発生により前記変換器へのPWM指令の出力を遮断して過電圧発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の線路遮断に際し、機器を過電圧から保護するコンバータ装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PWMコンバータの運転中に電力系統の電圧低下、停電、電源遮断等によって電路が解放されると、安定した電流制御ができなくなる。このため、同一系統に接続される回路に周期異常の電圧が印加される危険性がある。従来から、これを防止する対策が検討されている。例えば、特許文献1には、回生モード運転中に電源が遮断されたとき、入力電圧波形検出回路の出力により電源遮断を検出し、PWMコンバータ運転を停止することにより、PWMコンバータに接続される電源系統に異常電圧の印加を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−322626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、コンバータは電力系統と接続する正弦波フィルタを内蔵しており、電力系統との電力の受け渡しは遮断機(ブレーカ)を介して行われている。コンバータ運転中にブレーカが遮断されて電路が解放されると、連系インバータの制御系が不安定となり、正弦波フィルタ部分に電圧振動が発生する。この時、電圧振動により正弦波フィルタが共振すると過電圧が発生し、正弦波フィルタなどの付属機器に高圧が印加される危険性がある。この電圧振動による周波数は1kHz前後であって、通常の系統の周波数(50/60Hz)よりもかなり高くなる。
【0005】
この様子を図3で説明すると、図3(a)には、正弦波に電圧振動発生と同時に振動成分が重なっているのが示されており、図3(b)には、電圧振動により周波数が上昇していくのが示されている。
【0006】
通常、コンバータにおける出力電圧は、ローパスフィルタを通して取り込まれてから検出されているので、上記電圧振動による高い周波数帯域は、ローパスフィルタでカットされて検出ゲインが小さくなり、過電圧を検出できない恐れがある。
【0007】
上記特許文献1では、停電時にPWMスイッチング周波数成分が検出されることを利用してPWMコンバータの運転を停止している。しかしながら、上記のようなローパスフィルタを含む電圧検出を行っている場合、PWMスイッチングの様な高い周波数を検出することは困難で、停電の発生を検出することができない恐れがある。
【0008】
本発明は、上記従来技術の欠点に鑑み、電力系統の電路解放時に、付属機器に過電圧を与えないコンバータ装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、直流電力を出力する直流電源部と接続され、電流制御を行なうためのPWM指令演算部と、PWM指令演算部からのPWM指令より直流電力を交流電力に変換する変換器と、前記変換器と外部の電力系統の間に接続されたフィルタを備えたコンバータ装置において、
前記PWM指令演算部は、前記フィルタの電力系統側の電圧に基づいて周波数を算出する周波数演算部と、算出された周波数が閾値を超えた場合ブロック信号を発生する比較演算部と、前記ブロック信号発生により前記変換器へのPWM指令の出力を遮断するゲートを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、上記に記載のコンバータ装置において、前記閾値は予め設定された閾値周波数であり、前記比較演算部は前記算出された周波数が閾値周波数より高い周波数のとき、ブロック信号を発生することを特徴とする。
【0011】
また、上記に記載のコンバータ装置において、前記閾値周波数は、前記変換器から出力される交流電力の定常周波数より高い周波数に設定されたことを特徴とする。
【0012】
また、上記に記載のコンバータ装置において、前記PWM指令演算部はさらに、前記周波数演算部から出力された周波数から位相を算出する位相演算部と、電流指令と前記変換器で変換された交流電力の電流と前記フィルタの電力系統側の電圧と前記位相演算部で算出された位相に基づいて電圧指令値を算出する電圧演算部を有することを特徴とする。
【0013】
また、上記に記載のコンバータ装置において、前記PWM指令演算部はさらに、前記フィルタの電力系統側の電圧を受けて高周波成分を除去するローパスフィルタを備え、このローパスフィルタからの出力を前記周波数演算部に入力することを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、直流電力を出力する直流電源部と接続され、電流制御を行なうためのPWM指令演算部と、PWM指令演算部からのPWM指令より直流電力を交流電力に変換する変換器と、前記変換器と外部の電力系統の間に接続されたフィルタを備え、変換された交流電圧に基づいてPWM指令を制御するコンバータ装置の制御方法において、
前記PWM指令演算部は、前記フィルタの電力系統側の電圧に基づいて周波数を算出し、算出された周波数が閾値を超えたときブロック信号を発生し、前記ブロック信号により前記変換器へのPWM指令の出力を遮断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、周波数を監視することにより当該制御系の不安定時においても、速やかにPWM出力を遮断し付属機器を過電圧から保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明実施例のコンバータ装置の構成図である。
【図2】本発明実施例のコンバータ装置のPWM指令演算部分を説明するブロックダイアグラムである。
【図3】本発明実施例のコンバータ装置運転中に、遮断機が遮断された時の電圧波形の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。本実施例では、回生時のコンバータ装置の例を説明する。
【0018】
図1は、モータ(IM)の制御を行なう、インバータ105に接続された回生コンバータ108の例である。100は電力変換装置で、101の変換器、102の平滑コンデンサ、103の電流検出器、104のPWM指令演算部から構成される。103は変換器101の交流出力を電流を検出する電流検出器、107は電流検出器103と外部の電力系統200に介在して接続される正弦波フィルタ、106は正弦波フィルタ107の電力系統側の電圧を検出する電圧検出器である。上記各部によって回生コンバータ108が構成される。
【0019】
201は回生コンバータ108と電力系統200の間に設置される遮断機である。
【0020】
回生運転時にインバータ105は直流電源部となって直流電力を発生し、平滑コンデンサ102で平滑された状態で前記変換器101に供給する。直流電力は、電力変換装置100で交流電力に変換され、正弦波フィルタ107と遮断機201を経由して外部の電力系統200に供給される。
【0021】
電力変換装置100は、電流制御を行なう為に、電流検出器103の電流検出値(電流信号)と電圧検出器107の電圧検出値(電圧信号)からPWM指令演算部104でPWM指令(指令値)を算出する。変換器101は、該PWM指令値に基づいて直流電力を交流電力に変換して出力する。この交流電力は外部に設けられた107の正弦波フィルタ、及び、201の遮断機を介しての電力系統200へ供給される。
【0022】
ここで、遮断機201は、通常運転中は投入状態にあり、回生コンバータ108と電力系統200の電路は接続状態にある。また、107の正弦波フィルタは、L(インダクタンス)とC(コンデンサ)から構成され、共振周波数を持つ。ただし、共振抑制のために抵抗Rを介してLとCを接続しても構わない。この共振周波数は、PWMのリップルを除去のため、通常1kHz程度以上に設定されている。
【0023】
103の電流検出器は、例えばシャント抵抗や、ホールCTで構成され、コンバータの交流出力部に配置されて交流の電流を検出する。106の電圧検出器は、フィルタ107の電力系統側に配置されて交流電圧が検出される。交流電圧はPT等のトランスの出力でもよく、抵抗等により分圧した電圧信号でもよい。また、交流側の電圧信号と電流信号については通常3相の信号であるが、零相電流が流れない場合、2相分の検出でもよく、他の残り1相を演算で決定することが可能である。
【0024】
図2は、電力変換装置100に備えたPWM指令演算部104を説明するブロックダイアグラムの例である。
【0025】
PWM指令演算部104は、マイコンなどのソフトウェアで構築してもよく、一部、または、全てをアナログ回路で構築してもよい。D99は、ローパスフィルタ(LPF)で、電圧検出器106からの電圧信号に含まれる高周波成分を取り除いて出力する。D100は周波数演算部で、上記で高周波成分が除かれた電圧信号に含まれる周波数を演算し出力する。D101は位相演算部で、周波数演算部D100から出力される周波数から、位相を演算する。
【0026】
D102は電圧演算部で、電流指令(電流指令値)と、上記で検出された交流電力の電流信号と、電圧信号、及び位相演算部D101からの位相に基づいて、電圧指令値を演算出力する。D103はPWM信号生成部で、上記で演算された電圧指令値よりPWM指令(PWM指令信号)を生成する。
【0027】
D104は比較演算部で、予め設定記憶された閾値周波数と、周波数演算部D100から出力される演算周波数を比較し、演算周波数が閾値周波数以上のときゲートブロック信号(レベル0)を発生し、演算周波数が閾値周波数未満の場合にゲートブロック信号を発生させない(レベル1)。ここで、回生運転で出力される定常周波数を50Hzとしたとき、閾値周波数は定常周波数(電源周波数)よりも20%上昇した60Hzに設定される。
【0028】
D105は比較演算部D104の出力と、前記PWM信号生成部D103の出力を受けるゲートで、ゲートブロック信号(レベル0)の発生時にゲートが閉じられて、PWM信号生成部D103からのPWM指令信号が遮断される。PWM指令信号が遮断されると、変換器101は、直流電力から交流電力への変換動作を停止し、交流電力の出力が停止される。ブロック信号が発生してない(レベル1)ときは、PWM信号生成部D103からのPWM指令信号が、ゲートD105を通じて出力され、前記変換器104に供給される。
【0029】
次に、上記構成における回生運転中に電路が遮断された時の回生コンバータの動作を説明する。図3は、遮断機201が回生コンバータ運転中に突如遮断された時の電圧波形と周波数の上昇を示す説明図である。
【0030】
回生運転中に201の遮断機が突如遮断されると、電力系統200への電路の電流が遮断されるので、電流検出器103で検出される電流信号が小さくなる。PWM指令演算部104に入力される電流信号が小さくなると、電流指令値(一定に設定)との偏差が大きくなるため、電圧演算部D102が上記偏差を小さくするべく、電圧指令値を大きくするように制御する。電圧指令値が大きくなると、PWM指令により変換器101は交流電流を増加させるように制御がなされる。
【0031】
しかしながら、電力系統200への電路が遮断機201で遮断されて電流が流れないため、交流電流を増加させようとする上記制御が繰返されて発散し、結果的に正弦波フィルタ107の共振周波数に向かって変換器101の出力電圧に振動が発生する。
【0032】
図3(a)には、開始から0.01秒後に電路が遮断されたときの、電力変換装置100の出力電圧が示され、正弦波に共振周波数が重なった波形となっている。図3(b)には、上記電圧振動による周波数の上昇傾向を示している。正常な回生動作では50Hzの周波数で動作しているが、電路の遮断と共に周波数が上昇していく傾向を示している。
【0033】
上記のように、電圧振動により正弦波フィルタで共振すると過電圧が発生し、正弦波フィルタなどの付属機器に高圧が印加される危険性がある。この過電圧は電力系統の周波数である50Hzまたは60Hzに比較して高周波のため、ローパスフィルタD99で濾過されて検出時のゲインが下がってしまう。従って、共振による過電圧を検出できない危険性がある。
【0034】
本発明の実施例では、例えば回生運転で出力される定常周波数を50Hzとしたとき、閾値周波数として、定常周波数(電源周波数)よりも高い、定常周波数から20%上昇した60Hzに設定している。遮断機201が遮断されると、周波数演算部D100で算出された周波数は振動しながら共振周波数へ向かって上昇する。図3(b)に示すt1のタイミングで、周波数演算部D100の出力周波数が60Hzに達すると、比較演算部D104からゲートブロック信号(レベル0)が発生する。このゲートブロック信号はゲートD10を閉じ、PWM信号生成部D103から出力されたPWM指令が遮断される。PWM指令が遮断されると、変換器101は直流電力から交流電力への変換動作を停止し、出力が停止される。従って、変換器101の出力電圧の振動に基づく過電圧の発生前に、出力を停止することができる。
【0035】
このように、本実施例によれば、電力変換装置100から出力される交流電圧の周波数を監視し、この周波数が予め設定した電源周波数よりも高い閾値周波数を超えたとき、ゲートブロック信号を発生させることで、周波数上昇による過電圧発生を事前に防止することができる。したがって、過電圧から電力変換装置100の出力側に接続されている、正弦波フィルタなどの付属機器を過電圧から保護することができる。
【符号の説明】
【0036】
100 電力変換装置
101 変換器
102 平滑コンデンサ
103 電流検出器
104 PWM指令演算部
105 インバータ(直流電源部)
106 電圧検出器
107 正弦波フィルタ
108 回生コンバータ
200 電力系統
201 遮断機
D99 ローパスフィルタ(LPF)
D100 周波数演算部
D101 位相演算部
D102 電圧演算部
D103 PWM信号生成部
D104 比較演算部
D105 ゲート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を出力する直流電源部と接続され、電流制御を行なうためのPWM指令演算部と、PWM指令演算部からのPWM指令より直流電力を交流電力に変換する変換器と、前記変換器と外部の電力系統の間に接続されたフィルタを備えたコンバータ装置において、
前記PWM指令演算部は、前記フィルタの電力系統側の電圧に基づいて周波数を算出する周波数演算部と、算出された周波数が閾値を超えたときブロック信号を発生する比較演算部と、前記ブロック信号発生により前記変換器へのPWM指令の出力を遮断するゲートを備えたことを特徴とするコンバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコンバータ装置において、
前記閾値は予め設定された閾値周波数であり、前記比較演算部は前記算出された周波数が閾値周波数より高い周波数のとき、ブロック信号を発生することを特徴とするコンバータ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のコンバータ装置において、
前記閾値周波数は、前記変換器から出力される交流電力の定常周波数より高い周波数に設定されたことを特徴とするコンバータ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のコンバータ装置において、
前記PWM指令演算部はさらに、前記周波数演算部から出力された周波数から位相を算出する位相演算部と、電流指令と前記変換器で変換された交流電力の電流と前記フィルタの電力系統側の電圧と前記位相演算部で算出された位相に基づいて電圧指令値を算出する電圧演算部を有することを特徴とするコンバータ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のコンバータ装置において、
前記PWM指令演算部はさらに、前記フィルタの電力系統側の電圧を受けて高周波成分を除去するローパスフィルタを備え、このローパスフィルタからの出力を前記周波数演算部に入力することを特徴とするコンバータ装置。
【請求項6】
直流電力を出力する直流電源部と接続され、電流制御を行なうためのPWM指令演算部と、PWM指令演算部からのPWM指令より直流電力を交流電力に変換する変換器と、前記変換器と外部の電力系統の間に接続されたフィルタを備え、変換された交流電圧に基づいてPWM指令を制御するコンバータ装置の制御方法において、
前記PWM指令演算部は、前記フィルタの電力系統側の電圧に基づいて周波数を算出し、算出された周波数が閾値を超えたときブロック信号を発生し、前記ブロック信号により前記変換器へのPWM指令の出力を遮断することを特徴とするコンバータ装置の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載のコンバータ装置の制御方法において、
前記閾値は予め設定された閾値周波数であり、前記算出された周波数が閾値周波数より高い周波数のとき、ブロック信号を発生することを特徴とするコンバータ装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載のコンバータ装置の制御方法において、
前記閾値周波数は、前記変換器から出力される交流電力の定常周波数より高い周波数に設定されたことを特徴とするコンバータ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−165616(P2012−165616A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26038(P2011−26038)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】