説明

コンフォメーション疾患を患うヒトまたは動物の治療、および薬物製造のための変異体タンパク質およびその使用

本発明は、その球状ドメインが、ヒトdoppelタンパク質(hDpl)と同様の位置に築された第2のジスルフィド結合を含む変異プリオンタンパク質(PrP)に関する。一実施形態では、このプリオンタンパク質は、推定上の「X因子」結合エピトープに、構築された追加ジスルフィド結合を有し、厳密に局所化された微妙なコンフォメーション変化を行って、ヒトおよび動物におけるプリオン伝播を阻害する。その球状ドメインが、ヒトdoppelタンパク質と同様の位置に少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合を含む変異プリオンタンパク質、またはそのフラグメントの、コンフォメーション移行後に疾患を引き起こすタンパク質、例えば、ヒトにおける、伝達性海綿状脳症(TSE)、異型のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、致死性家族性不眠症(FFI)、およびゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)の治療上の処置、または治療上の処置のための薬物を製造するための使用(PrP)も開示されている。さらに、ジスルフィド変異体を生体内で生成するためのPrP変異体タンパク質のプリオンタンパク質またはそのフラグメントの使用が、例えば、レンチウイルスベクターによる体細胞遺伝子療法による、動物におけるTSEの意図された治療を可能にするために行われる。ここで、TSEには、ウシ海綿状脳症(BSE)、ヒツジのスクレイピー、ネコ海綿状脳症(FSE)、ならびにエルクおよびシカの慢性免疫消耗病(CWD)が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その球状ドメインがヒトドッペルタンパク質(hDpl)の場合と同様の位置に構築された第2のジスルフィド結合を含む変異体プリオンタンパク質(PrP)に関する。
【背景技術】
【0002】
この特許出願は、参照により、その開示全体が本明細書に組み込まれている、2002年7月11日に出願した米国仮出願第60/395021号の優先権を主張するものである。
【0003】
タンパク質の特有な三次元構造はそのアミノ酸配列によってコードされているという、タンパク質フォールディングのセントラルパラダイム(Anfinsen, C.B. (1973) Principles That Govern Folding of Protein Chains. Science, 181, 223-230)は、確固として確立されているものであるが、その一般性に関しては、最近発展した「プリオン」の概念のため疑問視されている。中枢神経系変性を引き起こす感染性スクレイピー物質の生化学的特徴づけは、(Griffith, J.S. (1967) Self-replication and scrapie. Nature, 215, 1043-1044)で、まず一般的概念として概説された通り、疾患伝播に必要な構成因子がタンパク質性である(Prusiner, S.B. (1982) Novel proteinaceous infectious particles cause scrapie. Science, 216, 136-144)ことを示した。プリオン伝播には、さらに、PrPCと表される細胞性プリオンタンパク質から、毒性スクレイピー形態であるPrPScへの変換が必要であり、この変換は、PrPCが新規のPrPSc分子を形成する際のテンプレートとして、PrPScが作用することよって促進される(Prusiner, S.B. (1987) Prions and neurodegenerative diseases. N Engl J Med, 317, 1571-1581)。「タンパク質単独」仮説は、いかなる翻訳後修飾もなしに、同じポリペプチド配列が2つのかなり異なった安定したタンパク質コンフォメーションを採用できることを意味する。したがって、立証されてはいないが、プリオンの場合には、これらがタンパク質フォールディングのセントラルパラダイムを逸脱することも可能である。αヘリックスからβシートへの2次構造の劇的な変化を含むコンフォメーション転換過程に、「タンパク質X」と仮に命名された別の因子が関与しているかもしれないことを示す間接的な証拠(Prusiner, S.B. (1998) Prions. Proc Natl Acad Sci U S A, 95, 13363-13383)がいくつかある。「タンパク質X」が分子シャペロンとして作用するかもしれないと提案されてはいるが、この「X因子」の化学的性質はまだ特定されていない(Zahn, R. (1999) Prion propagation and molecular chaperones. Q Rev Biophys, 32, 309-370)。
【0004】
PrPScが、それによって細胞性イソ型の変換を促進する分子機序に関する2つの一般モデルが提案されている(図1を参照)。PrPSc形成の「有核ポリメリゼーション」モデル、または「シーディング」モデル(Jarrett, J.T. and Lansbury, P, T., Jr. (1993) Seeding "one-dimensional crystallization" of amyloid: a pathogenic mechanism in Alzheimer's disease and scrapie? Cell, 73, 1055-1058)は、PrPcとPrPScとが急速に到達する平衡にあること、そして、PrPScのコンフォメーションは、結晶様の種子の内部に捕捉された場合にのみ熱力学的に安定することを提案する(図1Aを参照)。提案された過程は、微小管集合、ベン毛形成、および鎌状赤血球ヘモグロビンフィブリル形成を含めた、十分に特徴付けされている他の核形成依存的なタンパク質重合過程と同様のものであるが、これらの過程では、単一分子周辺での核形成によって速度論的な障壁が課される。指数関数的な変換速度を説明するためには、断片化の機構がまだ説明できないが、集合体が継続的に断片化され、それにより、提示される付着面が増大されていると考えなければならない。PrPSC形成の「テンプレート介助」モデル、または「ヘテロ二量体」モデル(Prusiner, S.B., Scott, M., Foster, D., Pan, K.M., Groth, D., Mirenda, C., Torchia, M., Yang, S.L., Serban, D., Carlson, G.A. and et al. (1990) Transgenetic studies implicate interactions between homologous PrP isoforms in scrapie prion replication. Cell, 63, 673-686)は、PrPCがある程度アンフォールディングされて、テンプレートとして機能するPrPSc分子の影響でリフォールディングされると提案する(図1Bを参照)。既存のPrPScによって触媒されない場合に、この変換が起こりそうもないようにするために、高いエネルギー障壁が仮定されている。コンフォメーション変化は、PrPC-PrPScヘテロ二量体が2つのPrPSc分子に解離することによって速度論的に制御され、自己触媒のミカエリス・メンテン速度論に従う誘導適合酵素反応として扱うことができると提案されている。いったん変換が開始されれば、それは、PrPSc二量体が迅速にモノマーに解離する限り、指数関数的な変換カスケードをもたらす。テンプレート介助モデルの難点は、伝播の後で、PrPScが何故タンパク質フィブリルへと集合する必要があるのか説明していないことである。Manfred Eigenは、プリオン病の、提案された2つの機構の比較反応速度分析を示した(Eigen, M. (1996) Prionics or the kinetic basis of prion diseases. Biophysical Chemistry, 63, A1-A18)。彼は、両モデルとも原則的には論理的に可能であるが、それらが有効となる条件が狭過ぎて、かつ非現実的であるらしいことを見いだした。自己触媒のテンプレート介助モデルは、有効であるために協同性を必要とするが、しかしそうすると、これもまた(受動的)な自己触媒の一形態である核形成モデルから現象論的に区別がつかなくなる。2種類の機構は、2つの単量体タンパク質コンフォメーションのうちどちらが支持される平衡状態かという問に関して異なっているかもしれないが、これらは両方とも、平衡において最終的に支持され、そして、おそらくプリオンタンパク質の病原性形態に類似した形状としての集合状態を必要とする。Eigenは、2つのモデルのうちどちらが正しいものであるかを判断するには、さらに多くの実験的証跡が必要であると結論した。原則として、プリオン伝播のモデルのどちらも、「X因子」による補助の可能性を除外するものではない。
【0005】
プリオン病の機構を理解するには、プリオンタンパク質の細胞型および病原型両方の三次元構造に関する詳細な知識が必要である。両方のタンパク質構造が解読された場合にのみ、変換がどのように行われるかを理解することができる。生体内における「健全な」プリオンタンパク質は、グリコシルホスファチジルイノシトールアンカーを介して細胞表面に結合しており、脂質ラフトと名付けられた膜ドメインに分割されている(Vey, M., Pilkuhn, S., Wille, H., Nixon, R., DeArmond, S.J., Smart, E.J., Anderson, R.G., Taraboulos, A. and Prusiner, S.B. (1996) Subcellular colocalization of the cellular and scrapie prion proteins in caveolae-like membranous domains. Proc Natl Acad Sci U S A, 93, 14945-14949)。最近の構造研究は、核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて、多様な種からの可溶性組換プリオンタンパク質に焦点を合わせている。これらの研究は、哺乳類PrPCが2つの明確なドメインから成ることを示している。1つは、柔軟で無秩序なN末端尾部であり、これは残基23〜120を含み、もう1つは、残基121〜230の秩序だった構造を有するC末端球状ドメインであり、これはαヘリックス2次構造に富み、さらに小さな逆平行βシートを含有している(Lopez Garcia, F., Zahn, R., Riek, R. and Wuthrich, K. (2000) NMR structure of the bovine prion protein. Proc Natl Acad Sci U S A, 97, 8334-8339)。PrPCがPrPScに変換する際、哺乳動物および非哺乳動物のプリオンタンパク質で最も保存されている配列エレメントを示す残基90〜120(Wopfner, F., Weidenhofer, G., Schneider, R., von Brunn, A., Gilch, S., Schwarz, T.F., Werner, T. and Schatzl, H.M. (1999) Analysis of 27 mammalian and 9 avian prion proteins reveals high conservation of flexible regions of the prion protein. J Mol Biol, 289, 1163-1178)がプロテナーゼK処理に対して抵抗性をもつようになるが(Prusiner, S.B., Groth, D.F., Bolton, D.C., Kent, S.B. and Hood, L.E. (1984) Purification and structural studies of a major scrapie prion protein. Cell, 38, 127-134)、これは、このポリペプチドセグメントが構造化されたことを意味するものである。PrPCのコンフォメーション転移に、βシート2次構造の実質的増加が伴うことを示す証跡もさらにある(Pan, K.M., Baldwin, M., Nguyen, J., Gasset, M., Serban, A., Groth, D., Mehlhorn, I., Huang, Z., Fletterick, R.J., Cohen, F.E. and et al. (1993) Conversion of alpha-helices into beta-sheets features in the formation of the scrapie prion proteins. Proc Natl Acad Sci U S A, 90, 10962-10966)。
【0006】
先行技術にみられた問題点
mPrP(121〜231)の構造が決定されて以来、タンパク質Xの潜在的エピトープの分子表面は、異なった種の間で相同性が低い2つのポリペプチドセグメントによって形成され、これらが近似した三次元構造をとることが知られている(Billeter, M., Riek, R., Wider, G., Hornemann, S., Glockshuber, R. and Wuthrich, K. (1997) Prion protein NMR structure and species barrier for prion diseases. Proc. Natl. Acad. Sci USA 94, 7281-7285)。ヘリックス3の2つのセグメント、およびループ165〜172(図2を参照)は、異なった哺乳類種の間で、静電表面電位がかなり異なっていることによって特徴付けられる。ヒトPrPは、グルタミン残基168および219がグルタミン酸残基で置換されている点、ならびに位置166、215、および220に保存的置換がある点で、ウシPrPおよびマウスPrPと異なっている。ヒト/マウスキメラPrnpで形質移入されたスクレイピー感染神経芽腫細胞を用いた研究は、組換え型PrPがPrPScに変換される効率に、タンパク質Xエピトープ領域での単一アミノ酸置換が影響を与えることを確認した(Kaneko, K., Zulianello, L., Scott, M., Cooper, C.M., Wallace, A.C., James, T.L., Cohen, F.E. and Prusiner, S.B. (1997). Evidence for protein X binding to a discontinuous epitope on the cellular prion protein during scrapie prion propagation: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 10069-10074)。組換え型コンストラクトにおけるPrPScへの変換は、位置220ではなく、残基168、215または219を、ヒトPrPの対応する残基で置換することによって、減少または阻止される。タンパク質Xに対する変異体タンパク質および野生型タンパク質の相対的親和性が、変異体PrPおよび野生型PrPの同時形質移入研究によって決定され、これにより、168、172、または219の位置にあるグルタミンが塩基性残基で置換されると、変異PrPCによるタンパク質Xの放出が起こらず、そのため変異体PrPおよび野生型PrP両方の変換が抑制されることが示された。逆に、グルタミン168または219がグルタミン酸に交換されると、変異体PrPの変換が阻止されたが、野生型PrPの変換は可能であった。これはおそらく、変異体PrPC-タンパク質X結合が減弱したことによるものである。
【0007】
これらの研究は、細胞培養では、変異プリオンタンパク質の推定X因子エピトープにおける1アミノ酸置換によって、PrPScへの野生型PrPCの変換が抑制できることを示す。したがって、体細胞遺伝子療法は、ヒトおよび動物における伝達性海綿状脳症(TSE)の治療のための有望なストラテジーであると思われる。しかし、このような置換によって、タンパク質Xとの機能的な相互作用に実際に依存しているかもしれない、野生型PrPCの生理学的機能に影響を与えずに、十分な期間にわたってヒトおよび動物におけるプリオン伝播を抑制することができるかどうかは、まだ確立しなければならないことである。
【特許文献1】2002年7月11出願米国仮出願第60/395021号明細書
【非特許文献1】Anfinsen, C.B. (1973) Principles That Govern Folding of Protein Chains. Science, 181, 223-230
【非特許文献2】Griffith, J.S. (1967) Self-replication and scrapie. Nature, 215, 1043-1044
【非特許文献3】Prusiner, S.B. (1982) Novel proteinaceous infectious particles cause scrapie. Science, 216, 136-144
【非特許文献4】Prusiner, S.B. (1987) Prions and neurodegenerative diseases. N Engl J Med, 317, 1571-1581
【非特許文献5】Prusiner, S.B. (1998) Prions. Proc Natl Acad Sci U S A, 95, 13363-13383
【非特許文献6】Zahn, R. (1999) Prion propagation and molecular chaperones. Q Rev Biophys, 32, 309-370
【非特許文献7】Jarrett, J.T. and Lansbury, P, T., Jr. (1993) Seeding "one-dimensional crystallization" of amyloid: a pathogenic mechanism in Alzheimer's disease and scrapie? Cell, 73, 1055-1058
【非特許文献8】Prusiner, S.B., Scott, M., Foster, D., Pan, K.M., Groth, D., Mirenda, C., Torchia, M., Yang, S.L., Serban, D., Carlson, G.A. and et al. (1990) Transgenetic studies implicate interactions between homologous PrP isoforms in scrapie prion replication. Cell, 63, 673-686
【非特許文献9】Eigen, M. (1996) Prionics or the kinetic basis of prion diseases. Biophysical Chemistry, 63, A1-A18
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【非特許文献11】Lopez Garcia, F., Zahn, R., Riek, R. and Wuthrich, K. (2000) NMR structure of the bovine prion protein. Proc Natl Acad Sci U S A, 97, 8334-8339
【非特許文献12】Wopfner, F., Weidenhofer, G., Schneider, R., von Brunn, A., Gilch, S., Schwarz, T.F., Werner, T. and Schatzl, H.M. (1999) Analysis of 27 mammalian and 9 avian prion proteins reveals high conservation of flexible regions of the prion protein. J Mol Biol, 289, 1163-1178
【非特許文献13】Prusiner, S.B., Groth, D.F., Bolton, D.C., Kent, S.B. and Hood, L.E. (1984) Purification and structural studies of a major scrapie prion protein. Cell, 38, 127-134
【非特許文献14】Pan, K.M., Baldwin, M., Nguyen, J., Gasset, M., Serban, A., Groth, D., Mehlhorn, I., Huang, Z., Fletterick, R.J., Cohen, F.E. and et al. (1993) Conversion of alpha-helices into beta-sheets features in the formation of the scrapie prion proteins. Proc Natl Acad Sci U S A, 90, 10962-10966
【非特許文献15】Billeter, M., Riek, R., Wider, G., Hornemann, S., Glockshuber, R. and Wuthrich, K. (1997) Prion protein NMR structure and species barrier for prion diseases. Proc. Natl. Acad. Sci USA 94, 7281-7285
【非特許文献16】Kaneko, K., Zulianello, L., Scott, M., Cooper, C.M., Wallace, A.C., James, T.L., Cohen, F.E. and Prusiner, S.B. (1997). Evidence for protein X binding to a discontinuous epitope on the cellular prion protein during scrapie prion propagation: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 10069-10074
【非特許文献17】Thorsten Luhrs, Roland Riek, Peter Guntert und Kurt Wuthrich, submitted; Zahn et al., 2000
【非特許文献18】Mehlhorn, I., Groth, D., Stockel, J., Moffat, B., Reilly, D., Yansura, D., Willett, W.S., Baldwin, M., Fletterick, R., Cohen, F.E., Vandlen, R., Henner, D. and Prusiner, S.B. (1996) High-level expression and characterization of a purified 142-residue polypeptide of the prion protein. Biochemistry 35, 5528-5537
【非特許文献19】T. Luhrs, R. Riek, P. Guntert and K. Wuthrich, submitted; Zahn, R., Liu, A., Luhrs, T., Riek, R., von Schroetter, C., Lopez Garcia, F., Billeter, M., Calzo-lai, L., Wider, G. and Wuthrich, K. (2000) NMR solution structure of the human prion protein. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 145-150
【非特許文献20】Telling, G.C., Scott, M., Mastrianni, J., Gabizon, R., Torchia, M., CohenF.E., DeArmond, S.J. and Prusiner, S.B. (1995) Prion propagation in mice expressing human and chimeric PrP transgenes implicates the interaction of cellular PrP with another protein. Cell 83, 79-90
【非特許文献21】Moore, R.C., Lee, I.Y., Silverman, G.L., Harrison, P.M., Strome, R., Heinrich, C., Karunaratne, A., Pasternak, S.H., Chishti, M.A., Liang, Y., Mastrangelo, P., Wang, K., Smit, A.F.A., Katamine, S., Carlson, G.A., Cohen, F.E., Prusiner, S.B., Melton, D.W., Tremblay, P., Hood, L.E. and Westaway, D. (1999) Ataxia in prion protein (PrP)-deficient mice is associated with upregulation of the novel PrP-like protein doppel. J. Mol. Biol. 292, 797-817
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【非特許文献57】Korth, C., Stierli, B., Streit, P., Moser, M., Schaller, O., Fischer, R., SchulzSchaeffer, W., Kretzschmar, H., Raeber, A., Braun, U., Ehrensperger, F., Hornemann, S., Glockshuber, R., Riek, R., Billeter, M., Wuthrich, K. and Oesch, B. (1997) Prion (PrPSc)-specific epitope defined by a monoclonal antibody. Nature, 390, 74-77
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【非特許文献70】Santoro, M.M. and Bolen, D.W. (1988) Unfolding free-energy changes determined by the linear extrapolation method. 1. Unfolding of phenylmethanesulfonyl alpha-chymotrypsin using different denaturants. Biochemistry-Us, 27, 8063-8068
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、したがって、ヒトおよび動物におけるプリオン伝播を十分な期間にわたって阻害するPrPタンパク質を提供することである。この目的は、請求項1の構成要件で達成される。
【0009】
本発明の他の目的は、PrPタンパク質またはそのフラグメントの使用を、治療上の処置のため、または、コンフォメーション転移後に疾患を引き起こすタンパク質の治療上の処置のための薬物を含む、薬物の製造のために、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に従った有利な実施形態および別の特性は、従属クレームから生じる。
【0011】
この発明は、ヒトdoppelタンパク質(hDpl)と同様の位置に第2のジスルフィド結合を含有することによって、2つのジスルフィド結合を有する変異体ヒトプリオンタンパク質hPrP(M166C/E221C)の残基121〜230における球状ドメインの核磁気共鳴(NMR)構造を記載する。別の変異体(hPrP(M166C/Y225C))は、発現され、球状構造にフォールディングすることが示されたが、凝集する傾向を有するため、詳細な構造分析ができなかった。hPrP(M166C/E221C)の核磁気共鳴構造は、野生型hPrP(121〜230)と同じ球状フォールドを示し、これは、残基144〜154、173〜194、および200〜228の3つのαヘリックスと、残基128〜131および161〜164の逆平行βシートと、ジスルフィドCys166-Cys221およびCys179-Cys214を含む。推定上の「X因子」結合部位に構築された追加ジスルフィド結合は、厳密に局所化されたかすかなコンフォメーション変化を伴う。X因子エピトープにおける第2のジスルフィド架橋のそう入に対するhPrPの両立性の高さは、さらに別の変種構造を有するモデルの計算によって実証された。第2のジスルフィド結合を、推定X因子結合エピトープ中のさまざまな位置に、hPrP構造が容易に収容できることは、hDplの対応する領域で観測された自然な第2のジスルフィド結合による大規模な摂動の機能的役割を強く示唆するものである。Dplにおいて、また、おそらく変異プリオンタンパク質でも、第2のジスルフィド結合の機能的役割には、ヒトにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)など、伝達性海綿状脳症(TSE)を引き起こす病原性イソフォームへのコンフォメーション転移に抵抗する性向が含まれるかもしれない。
【0012】
下記の図は、先行技術、および本発明を記載するものである。本発明による方法の好ましい実施形態は、図でも説明されるであろうが、これは本発明の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ヒトプリオンタンパク質およびヒトdoppelタンパク質の三次元構造は、同様のフォールディングトポロジーを示し(Thorsten Luhrs, Roland Riek, Peter Guntert und Kurt Wuthrich, submitted; Zahn et al., 2000)、3つのαヘリックスおよび1つの小さい逆平行βシートを含有する100残基の球形C末端側ドメインと、これに結合した、柔軟で秩序をもたないN端「テール」とを有する。これら2つのタンパク質の間の著しい相違は、ジスルフィド結合の数に関係がある。hPrPおよびhDplの両方において、ヘリックスα2およびヘリックスα3を連結するジスルフィド架橋は、疎水性コアの中に埋められており、球状タンパク質構造の総合的な安定性にかなり貢献している。ジチオトレイトールでCys残基179および214を還元すると、PrPのアンフォールディングおよび凝集を生体外で引き起こすことが示されているが(Mehlhorn, I., Groth, D., Stockel, J., Moffat, B., Reilly, D., Yansura, D., Willett, W.S., Baldwin, M., Fletterick, R., Cohen, F.E., Vandlen, R., Henner, D. and Prusiner, S.B. (1996) High-level expression and characterization of a purified 142-residue polypeptide of the prion protein. Biochemistry 35, 5528-5537)、これは、現在のところ未知であるPrPの生理機能が、そしておそらくDplの生理機能も、損なわれていないジスルフィド結合に依存していることを意味するものである。
【0014】
Dplでは、もう1つのジスルフィド結合によって、αストランド2およびヘリックスα2の間のループが、ほぼC末端の配列位置に接続されるが、これには、野生型PrPにおける対応物が存在しない(図2)。
【0015】
図2は、2つのタンパク質の三次元構造および配列についての考察に基づく、ヒトプリオンタンパク質セグメント165〜230、およびヒトdoppelタンパク質セグメント93〜153のアミノ酸配列アラインメントを示す(T. Luhrs, R. Riek, P. Guntert and K. Wuthrich, submitted; Zahn, R., Liu, A., Luhrs, T., Riek, R., von Schroetter, C., Lopez Garcia, F., Billeter, M., Calzo-lai, L., Wider, G. and Wuthrich, K. (2000) NMR solution structure of the human prion protein. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 145-150)。この明細書中で、Cysに交換されたhPrP残基の位置は斜字体である。黒の実線は、自然なジスルフィド架橋を示し、野生型タンパク質における定常αヘリックス2次構造の位置は、ブラックボックスで示されている。破線および点線はそれぞれ、hPrP(M166C/E221C)における追加ジスルフィド結合と、hPrP(M166C/Y225C)における追加ジスルフィド結合とを示すが、hPrP(M166C/E221C)は、その完全な構造が得られており、hPrP(M166C/Y225C)も、発現され、特徴付けされた。
【0016】
PrPの対応する領域にはシステイニル残基がないが、この領域は、様々なPrPコンストラクトを発現するトランスジェニックマウスを用いた接種実験に基づいて(Telling, G.C., Scott, M., Mastrianni, J., Gabizon, R., Torchia, M., Cohen, F.E., DeArmond, S.J. and Prusiner, S.B. (1995) Prion propagation in mice expressing human and chimeric PrP transgenes implicates the interaction of cellular PrP with another protein. Cell 83, 79-90)、生体内で、疾患に関連したPrPのコンフォメーション変換に参加することが推定されているが、未ださらに同定されていない「X因子」が結合するエピトープに相当することが示唆されている(Prusiner、1998年)。
【0017】
ヒトおよびマウスDplタンパク質のNMR構造は、PrPにおける推定上の「X因子」結合エピトープに対応する領域に、第2のジスルフィド結合を導入すると、三次元構造の主要な変化が引き起こされることを示す。この領域の3次元プリオンタンパク質構造に対する、人工的追加ジスルフィド結合の効果を調べるために、ヒトプリオンタンパク質hPrP(121〜230)の球状ドメイン変異体を2つ作製した。hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(M166C/Y225C)は、hDplの第2のジスルフィド結合の位置を模擬し(図2)、同時に、ヒト野生型PrPの三次元構造と両立性があるように設計された(Zahnら、2000年)。このようにしてhPrPにおけるアミノ酸置換用に選択された部位のうち、Glu221は、27の哺乳動物プリオンタンパク質アミノ酸配列と、9のトリプリオンタンパク質アミノ酸配列とで完全に保存されており(Wopfnerら、1999年)、Tyr225は、いくつかの種においてSer、PheまたはAlaで置換されており、そしてVal166は、ヒト、チンパンジー、および有袋類のPrPにおいてのみ、MetまたはIleで置換されている。既知のDpl配列(Moore, R.C., Lee, I.Y., Silverman, G.L., Harrison, P.M., Strome, R., Heinrich, C., Karunaratne, A., Pasternak, S.H., Chishti, M.A., Liang, Y., Mastrangelo, P., Wang, K., Smit, A.F.A., Katamine, S., Carlson, G.A., Cohen, F.E., Prusiner, S.B., Melton, D.W., Tremblay, P., Hood, L.E. and Westaway, D. (1999) Ataxia in prion protein (PrP)-deficient mice is associated with upregulation of the novel PrP-like protein doppel. J. Mol. Biol. 292, 797-817)の間で、第2のジスルフィド結合における残基Cys94およびCys145が完全に保存されている。
【0018】
この発明は、hPrP(M166C/E221C)の高品質なNMR構造、hPrP(M166C/Y225C)の定性的分光特性、およびhPrP(121-230)の2つの追加ジスルフィド変異体のモデル計算を記載する。結果は、PrPにおけるX因子結合エピトープ、およびDplにおける対応する分子領域の可能な機能的役割を顧慮して評価される。
【0019】
この発明はさらに以下の適用を含む。
【0020】
1)伝達性海綿状脳症(TSE)の治療上の処置のための、プリオンタンパク質またはそのフラグメントの「ジスルフィド変異体」、特に、追加ジスルフィド結合がセグメント165〜175およびC末端残基215〜230の間に導入された変異体タンパク質の生成。この追加ジスルフィド結合は、PrPScへの変異体PrPcのコンフォメーション転移を阻止し、それにより、共在する野生型タンパク質におけるPrPcのPrPScへのコンフォメーション転移を、以下の種類のドミナントネガティブ阻害によって抑制するかもしれない。
a)野生型PrPcへの変異体PrPcの結合。これにより、野生型PrPSCオリゴマーへのコンフォメーション転移を抑制する(図1Aを参照)。
b)野生型PrPSCオリゴマーへの変異体PrPcの結合。これにより、野生型PrPSCアミロイドフィブリルの形成を抑制する(図1Aを参照)。
c)野生型PrPSCへの変異体PrPCの結合。これにより、野生型PrPc/PrPScヘテロ二量体の形成を抑制する(図1Bを参照)。
d)野生型PrPSCアミロイドフィブリルへの'変異体PrPCの結合。これにより、アミロイドフィブリルの伸長(図1A、Bを参照)、またはPrPScオリゴマーへのアミロイドフィブリルの解離(図1Aを参照)を抑制する。
【0021】
2)例えば、レンチウイルスベクター、プラスミドまたはリポソームなどのベクターを用いた体細胞遺伝子療法による、TSE治療のための、ヒトまたは細胞培養におけるプリオンタンパク質またはそのフラグメントのジスルフィド変異体の生体内生成。ここで、TSEには、自発性、遺伝性、医原性、および異型のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、致死性家族性不眠症(FFI)、およびゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)が含まれる。
【0022】
3)例えば、組み換えタンパク質の直接投与による、ヒトにおけるTSE治療用のプリオンタンパク質またはそのフラグメントのジスルフィド変異体の組換え生成。ここで、TSEには、自発性、遺伝性、医原性、および異型のCJD、FFI、およびGSSが含まれる。
【0023】
4)例えば、レンチウイルスベクター、プラスミドまたはリポソームなどのベクターを用いた体細胞遺伝子療法による、TSE治療のための、動物または細胞培養におけるプリオンタンパク質またはそのフラグメントのジスルフィド変異体の生体内生成。ここで、TSEには、ウシ海綿状脳症(BSE)、ヒツジのスクレイピー、ネコ海綿状脳症(FSE)、ならびにエルクおよびシカの慢性免疫消耗病(CWD)が含まれる。
【0024】
5)例えば、組み換えタンパク質の直接投与による、動物におけるTSE治療用のプリオンタンパク質またはそのフラグメントのジスルフィド変異体の組換え生成。ここで、TSEには、BSE、スクレイピー、FSE、およびCWDが含まれる。
【0025】
6)TSEテスト用「変換耐性PrPC標準物質」としての、プリオンタンパク質またはそのフラグメントのジスルフィド変異体の組換え生成。ここで、組換え型PrPcは、病原性の組織、または血液および尿などの体液からのPrPSCによって増幅される。TSEテストは、ヒト、ならびに、ウシ、ネコ、ヒツジ、エルク、シカ、ブタ、ウマ、およびトリなどの動物に適用できる。
【0026】
7)TSE抵抗性動物を育種するための、プリオンタンパク質またはそのフラグメントのジスルフィド変異体の生体内生成。ここで、動物には、ウシ、ヒツジ、ネコ、エルク、およびシカが含まれている。
【0027】
8)本発明およびその適用は、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症)に関与する他のタンパク質、またはコンフォメーション転移後に疾患を引き起こすタンパク質(原発性全身性アミロイドーシス、II型糖尿病、心房性アミロイドーシスなどのコンフォメーション疾患)全般に適用できる。
【0028】
本発明はさらに、これら1〜8の指示による野生型タンパク質またはその変種の生成および/または適用を含む。そのような変種には、タンパク質フラグメント、変異体タンパク質、融合タンパク質、およびタンパク質-リガンド複合体が含まれる。
【実施例】
【0029】
1. 2つの変異プリオンタンパク質の生産および分光特性。
2つの変異体タンパク質hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(M166C/Y225C)は、インクルージョンボディーとしてエシェリキアコリ(E.coli)で発現し、高親和性カラムによって精製した。これにより、野生型hPrP(121〜230)と同様の収率が得られた(Zahn, R., von Schroetter, C. and Wuthrich, K. (1997) Human prion proteins expressed in Escherichia coli and purified by high-affinity column refolding. FEBS Lett. 417, 400-404; Zahnら、2000年)。追加ジスルフィド結合の形成を質量分析で確認したところ、その結果では、両方のタンパク質で融解温度が約10℃の増加していた(データは示されていない)。変異体タンパク質は、共鳴帰属および構造決定するために、均一に13C, 15N標識した。1mMのタンパク質と10mMの酢酸ナトリウムを含有する、pH4.5、20℃の溶液をNMR実験に用いた。
【0030】
両方のタンパク質の1H NMRスペクトルは、試料が均質であることを示し、また、化学シフト分散は、球状タンパク質に典型的なものであった。二次元[15N, 1H]相関分光法(COSY)によって観測された化学シフトでは、よく似た構造であることが明らかである(図3)。
【0031】
図3は、(A) hPrP(M166C/E221C)、および(B) hPrP(M166C/Y225C)の二次元[15N, 1H]COSYスペクトルを示す。選択された交差ピーク帰属を、黒字で示す。図3Aにおいて、円およびレタリングは、hPrP(M166C/E221C)では観察されたが、hPrP(M166C/Y225C)または野生型hPrP(121〜230)のスペクトルでは見られなかった交差ピークを示す(Zahnら、2000年)。図3Bにおいて、中抜きの円は、(A)とhPrP(121〜230)との比較から予想される交差ピークの位置を特定し、長方形は、三重共鳴スペクトルで連鎖接続性(sequential connectivities)を失ったため帰属できなかった交差ピークを示す。両スペクトルにおいて、長方形の枠は、アルギニン側鎖におけるHの重ねられた交差ピーク(folded cross peaks)を囲む。スペクトルは、pH4.5、T=20℃、90%H20/10%D20、10mM[d4]酢酸ナトリウムによる1mMタンパク質溶液を用い、600MHzで記録した。
【0032】
しかし、hPrP(M166C/E221C)のスペクトル(図3A)では、予想された108すべてのバックボーンアミド共鳴が観測されたが(トロンビン切断部位は、プリオンタンパク質配列のN末端に先行するGly-Serジペプチドを添加し(Zahnら、1997年)、そのため、Ser120およびVal121の共鳴も[15N, 1H]COSYスペクトルで観測される)、一方、hPrP(M166C/Y225C)では、103のみのバックボーンアミド共鳴しか特定することができなかった(図3B)。全体を通して、hPrP(M166C/Y225C)におけるアミドプロトンの共鳴線はスペクトルAと比較して約6Hz広がっており、これはこの変異体タンパク質が一時的にオリゴマーに凝集していたことを示す。
【0033】
2. hPrP(M166C/E221C)の共鳴帰属および構造決定。
配列特異的なバックボーン帰属は、13C, 15N標識したタンパク質を用いた標準的な三重共鳴実験を行うことで取得し(Bax, A. and Grzesiek, S. (1993) Methodological advances in protein NMR. Acc. Chem. Res. 26, 131-138)、配列特異的な帰属は、連鎖および中位核オーバーハウザー効果(NOE)交差ピークで独立に確認した(Wuthrich, K. (1986) NMR of Proteins and Nucleic Acids, Wiley, New York)。ループ165〜175におけるすべての残基、および野生型タンパク質では検出されなかったPhe175の、アミド窒素およびアミドプロトンを含めたすべてのポリペプチドバックボーン共鳴を帰属させた(図3A)(Zahnら、2000年)。隣接している残基の各対につき、少なくとも1つの異種核連鎖スカラー接続性(heteronuclear sequential scalar connectivity)または連鎖NOEが観測された。側鎖は、野生型hPrP(121〜230)との化学シフトの比較に基づいて帰属させ(Zahnら、2000年)、3次元15N分解(three-dimensional 15N-resolved)[1H, 1H]全相関分光法(TOCSY)スペクトルを用いて確認した(Marion, D., Kay, L.E., Sparks, S.E., Torchia, D.A. and Bax, A. (1989) Three-dimensional heteronuclear NMR of 15N-labelled proteins. J. Am. Chem. Soc. 111, 1515-15)。不安定ではないプロトンの側鎖帰属は、His155およびHis187のεCH、ならびにPhe175およびPhe198のζCHのみを例外として完全である。不安定な側鎖プロトンのうち、7つのAsn残基およびGln残基すべてのアミド基、および8つのアルギニン残基のεプロトン共鳴は残基内NOEによって帰属させた(Wuthrich、1986年)。Ser、Thr、およびTyrの側鎖ヒドロキシルプロトンのうち、Thr183の共鳴のみが観測され、帰属させることができた。
【0034】
hPrP(M166C/E221C)における9つのValおよび2つのLeuのメチル基をステレオ特異的に帰属させ、DYANAパッケージに組み込まれているプログラムFOUND(Guntert, P., Billeter, M., Ohlenschlager, O., Brown, L.R. and Wuthrich, K. (1998) Conformational analysis of protein and nucleic acid fragments with the new grid search algorithm FOUND. J. Biomol. NMR 12, 543-548)を用いることで、さらにステレオ特異的帰属が、2つのαCH2、30のβCH2、17のγCH2、および4つのδCH2で得られた(Guntert, P., Mumenthaler, C. and Wuthrich, K. (1997) Torsion angle dynamics for NMR structure calculation with the new program DYANA. J. Mol. Biol. 273, 283-298)。4つのCys残基の13Cα共鳴はすべて、39.6ppmから41.6ppmの範囲で大きく低磁場シフトされており、これらがすべてジスルフィド結合を形成することが確認された(Wishartら、1995年)。hPrP(M166C/E221C)の1H、13C、および15N化学シフトは、Biological Magnetic Resonance Bankのファイル5378に登録されている。
【0035】
核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)による合計4477の交差ピークを、相互作用的に選定して、H2O中で混合時間を40msとして記録された750 MHz 3次元合同15N/13C分解[1H, 1H]-NOESY(750 MHz three-dimensional combined 15N/13C-resolved [1H, 1H]-NOESY)に統合した。これらのピークリストおよび化学シフトリストを、自動NOE帰属のためのプログラムCANDID(Herrmann, T., Guntert, P. and Wuthrich, K. (2002) Protein NMR structure determination with automated NOE assignment using the new software CANDID and the torsion angle dynamics algorithm DYANA. J. Mol. Biol. 319, 209-227)、および構造計算のためのプログラムDYANA(Guntertら、1997年) (詳細には、材料および方法を参照)の入力データとして用い、1775のNOE上限距離制限を得た。補足的コンフォメーション制限として、13Cα化学シフトがランダムコイル値から1.5ppm以上逸れているすべての残基は、二面ねじれ角に以下の限界の制約、すなわち、逸脱 > 1.5ppmでは、-120°<Φ<-20°かつ-100°<Ψ<0°;逸脱<-1.5ppmでは、-200°<Φ<-80°かつ40°<Ψ<220°が与えられた(Luginbuhl, P., Szyperski, T. and Wuthrich, K. (1995) Statistical basis for the use of 13Cα chemical shifts in protein structure determination. J. Magn. Reson. B 109, 229-233)。残基内NOEおよび連鎖NOE、ならびに13Cα化学シフトからの複合情報を、プログラムFOUNDの入力データとして用い、二面角Φ、Ψ、X1、およびX2に関する458の制限が得られた。3つの距離上限と、3つの距離下限は、2つのジスルフィド結合Cys166-Cys221およびCys179-Cys214のそれぞれを強制するのに用いた(Williamson, M.P., Havel, T.F. and Wuthrich, K. (1985) Solution conformation of proteinase inhibitor IIA from bull seminal plasma by 1H nuclear magnetic resonance and distance geometry. J. Mol. Biol. 182, 295-315)。CANDID標準プロトコール(Herrmannら、2002年)の第7サイクルにおける最終DYANA計算を、100のランダム化された開始構造を用いて行い、20の最良DYANA配座異性体を、プログラムOPALpでさらにエネルギー精密化した。この結果得られた20のエネルギー最小化された配座異性体の集合を、NMR構造を表すのに用いた。表1に、構造計算の結果の概観を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
残基制限違反が小さいことは、この構造が実験上の制限と一致していることを示し、20の配座異性体集合における全体的なRMSD値は、構造決定の質が高かったことを表している(図4)。
【0038】
図4は、hPrP(M166C/E221C)のNMR構造のステレオ図を示す。図4A型では、20のエネルギー精密化したDYANA配座異性体のバックボーンが、残基125〜228のN、C°、および'C'原子に最も適合するように重ねられている。図4Bは、平均座標からの逸脱(A)が最も小さい配座異性体の重原子のみの表示であり、ここでバックボーンは、Cα位置を通ったスプライン関数として示されている。図4Cは、(B)の配座異性体のリボン図である。全ての図において、2つのジスルフィド架橋を白で示す。
【0039】
20の配座異性体集合の原子座標は、タンパク質データバンク、登録コード1HOLに登録されている。
【0040】
3. プログラムDYANAおよびCANDIDによる野生型hPrP(121〜230)のNMR構造の新規計算。
この研究の主な関心は、野生型hPrP(121〜230)との変異体ヒトプリオンタンパク質の比較に主眼を置くものなので、発明者らは、NOE入力データを再評価し、以前に公表されているhPrP(121〜230)構造(Zahnら、2000年)の構造計算を、新規のCANDID/DYANAプロトコールで反復した(Herrmannら、2002年)。これは、データ分析、ならびに変異体タンパク質の新規構造および参照野生型構造の計算に、何らかの異なったプロトコールを用いることで起こるかもしれない系統的な相違によって、この明細書における構造比較が影響されないことを確実にするものである。
【0041】
4. hPrP(M166C/E221C)におけるNMR構造のコンフォメーション平衡に対する追加ジスルフィド結合の影響。
hPrP(M166C/E221C)のNMR構造は、hPrP(121〜230)と全体的に同じのフォールドを有し、 2つのタンパク質の平均構造における残基125〜228のバックボーン重原子間のRMSD値は、1.08Åであった。定常2次構造には、残基128〜131および161〜164の短い2本鎖逆平行βシート、残基144〜154のヘリックスα1、残基173〜194のヘリックスα2、ならびに残基200〜228のヘリックスα3が含まれる。
【0042】
変異体および野生型hPrP(121〜230)の間では、全体構造が保存されているが、そのフレームワーク内で、ループ165〜172の構造決定の精度に違いがある。野生型タンパク質では、ループ165〜172内の3つのアミノ酸におけるバックボーンアミド共鳴が観察できないが、これはおそらく、NMR化学シフトのタイムスケールでの遅いコンフォメーション変換に起因するラインブロードニングのためである(Zahnら、2000年)。これにより、NOEの上限距離制限が不足するので、セグメント165〜172の構造決定の精度が低減される結果となる。対照的にhPrP(M166C/E221C)では、完全なポリペプチドバックボーン帰属が得られ、これにより、ループ165〜172における、追加の中位NOEが可能となり、したがって、このループは野生型タンパク質より、かなり良く決定される(図4A)。Cys166およびCys221の間のジスルフィド結合は、このようにループ165〜172がとりうるコンフォメーションスペースを減少させると考えられ、したがって、以前に観測された、このポリペプチドセグメントにおけるバックボーンアミド共鳴のブロードニングを大きく抑制するものである(Zahnら、2000年)。
【0043】
ヘリックスα3は、hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(121〜230)で、等しく良好に決定されており、2つの構造間の相違は、20の配座異性体集合がまたがるコンフォメーションスペース範囲内にある。計算された構造におけるこれらの観測は、NOE距離制限、特に、定常αヘリックスフォールドに支配的な影響をもつ中位制限dαN(i、i+3)、dαN(i、i+4)、およびdαβ(i、i+3)の密度がほとんど同じであることと相関している(Wuthrich、1986年)。NOE強度は距離dの負の6乗に依存するので、d値が小さいフォールドされた形態のポリペプチドのみが、観測されたNOEに有意に寄与し、このため、アンフォールディングした形態との急速なコンフォメーション平衡の存在下では、通常、フォールドされた構造のみがNOEベースのNMR構造決定で得られるのである。観測された13Cα化学シフトと、ランダムコイルの13Cα化学シフトとの相違であるΔσ(13Cα)には、異なった平均化が適用され、したがってこれは、定常2次構造の集団に定性的に相関させることができる(Luginbuhlら、1995年; Wishart, D.S. and Sykes, B.D. (1994) The 13C Chemical-Shift Index: a simple method for the identification of protein secondary structure using 13C chemical-shift data. J. Biomol. NMR 4, 171-180)。
【0044】
図5は、hPrP(121〜230)アミノ酸配列に対する13Cα化学シフト差Δσ(13Cα)のプロットを示す。(A)および(B)は、それぞれランダムコイル(Wishart, D.S., Bigam, C.G., Holm, A., Hodges, R.S. and Sykes, B.D. (1995) 1H, 13C and 15N random coil NMR chemical shifts of the common amino acids. I. Investigations of nearest-neighbor effects. J. Biomol. NMR 5, 67-81)に対するhPrP(M166C/E221C)およびhPrP(M166C/Y225C)を示し;(C)および(D)は、それぞれ野生型hPrP(121〜230)(Zahnら、2000年)に対するhPrP(M166C/E221C)およびhPrP(M166C/Y225C)を示す。hPrP(121〜230)の2つの変異体のアミノ酸置換の位置を、配列位置で示す。(B)および(D)における長方形は、hPrP(M166C/Y225C)で13Cα化学シフトを帰属させることができなかった残基164-171を示す。(C)および(D)では、残基169および175に関するデータを与えられていないが、これは、hPrP(121〜230)でこれらの13Cα化学シフトを帰属させることができなかったからである。定常二次構造エレメントの位置を、最上部に示す。
【0045】
図5Aは、hPrP(M166C/E221C)のヘリックスα3に位置するすべての13Cα原子の共鳴が、ランダムコイルシフトに比べて、低磁場シフトされているが、C末端の2つのターンにおけるすべての残基のΔσ(13Cα)の値が、さらに小さいことは、C末端に向かうほどαヘリックス構造の集団が減少していることを示す。それがNOEベースの構造に表れていないように見えることを考えると、この平衡は、ポリペプチドのアンフォールディングした形態によるものであると思われる。hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(121〜230)の間のΔσ(13Cα)値を比較すると、変異体タンパク質におけるセグメント222〜228中の化学シフトのうち1つを除くすべてが高磁場シフトされていることがさらに示される(図5 C)。したがって、追加ジスルフィド結合の導入は、α3におけるC末端2つのターン中のヘリックス構造の集団をわずかに減少させると考えられる。
【0046】
13Cα化学シフトで表されたコンフォメーション平衡は、異種核15N{1H}-NOEの測定によって検出できる、分子内速度過程と相関する。hPrP(121〜230)およびhPrP(M166C/E221C)の15N{1H}-NOEは、ほとんどのアミノ酸配列にわたって、均一な分布を示し、hPrP(121〜230)の大きさの球状タンパク質に典型的な値であった(図6)。
【0047】
図6は、hPrP(M166C/E221C)(黒いバー)およびhPrP(121〜230)(中抜き正方形)の定常状態15N{1H}-NOEを示す。hPrP(121〜230)では、ラインブロードニングのため、残基169、170、171、および175のアミドプロトンを観察することができなかった。残基137、158、および165はプロリンである。定常二次構造エレメントの位置を最下部に示す。
【0048】
ヘリックスα3の最終の2ターン以外では、残基121〜126および残基191〜198のみが、15N{1H}-NOEにおいて負の値か、または減少した正の値を示したが、残基121〜126は、損傷していないPrPで、構造化されておらず、球状ドメインを柔軟なテールを接続し、残基191〜198は、いくらか秩序のないヘリックスα2のC末端と後続のループとを形成する(Zahnら、2000年)。したがってヘリックスα3は、両方のタンパク質において、内部可動性が平均よりいくらか高い、唯一の明確な構造領域であり、そして、hPrP(M166C/E221C)に追加ジスルフィド結合を導入することにより、α3ヘリックス構造の集団を低減すること、およびわずかに内部可動性を増強することの両方が引き起こされる。
【0049】
5. hPrP(M166C/Y225C)の分光特性。
hPrP(M166C/Y225C)のNMRスペクトル(図3B)では、線幅が増大されたことで、完全なバックボーン帰属が不可能となった。Arg164、Cys166、Asp167、Glu168、Tyr169、Ser170、Asn17l、およびPhe175のアミドプロトンおよびアミド窒素に関しては、明確な帰属を得ることができなかった。NMRデータの質が限定されていること、および下記のモデル計算の結果の両方を鑑みて、定常2次構造の13Cα化学シフトベースの分析のみを完遂させた。この結果、ランダムコイルと比較した13Cα化学シフト差(図5B)、および野生型hPrP(121〜230)(図5D)と比較した13Cα化学シフト差は、野生型hPrP(121〜230)の二次構造エレメントがこの変異体タンパク質でも保存されていることを示す。
【0050】
6. 2つのジスルフィド結合を有する別のhPrP(121〜230)変異体のモデル計算。
追加ジスルフィド架橋を別の位置に配置した野生型hPrP(121〜230)構造の両立性を調査するために、プログラムDYANAを用いて一連のモデル計算を行った。これらの計算のための入力データとして、前述したhPrP(121〜230)の新規構造決定と同じ距離および二面角制限を用いたが、異なった個々の追加ジスルフィド結合(Williamsonら、1985年)のそれぞれを強制するために、3つの距離上限および3つの離下限が加えられ、システインで置換された残基のβCH2プロトン以外のすべてのNOE制限が排除された点が異なっていた。表2の結果は、残基165または166と、残基221、222または225を連結するジスルフィドによる制限を用いたすべての計算がうまく収束し、hPrP(121〜230)のための計算と比較した際、残基DYANA目的関数値が全く増加しないか、またはわずかに増加しただけであることを示す。その上、これらのジスルフィド結合の導入は、どの場合でも残基上限ジスルフィド制限違反を引き起こさず、変異体タンパク質の「RMSD」は、hPrP(121〜230)の平均座標に比べて、20の配座異性体がまたがるコンフォメーションスペースの範囲内であった。内部のコントロールとして、発明者らは、人工Cys残基1つを野生型Cysの1つと連結させたジスルフィド結合を有するタンパク質も調査した。これらの計算は適切に収束したが、この結果得られた構造は、目的関数値、ジスルフィド結合制限違反、およびRMSD値の劇的な増大を示した。
【0051】
【表2】

【0052】
7. pH7における球形タンパク質構造の安定化。
hPrP(121〜230)の球状タンパク質および変種タンパク質の安定性は、異なった濃度の塩化グアニジニウム(GdmCl)を含有する溶液中で、222nmのモル楕円率をモニターすることで測定した。
【0053】
図7は、(A)20mMリン酸ナトリウムを含有するpH7.0の緩衝液中、および(B)20mM酢酸ナトリウムを含有するpH5.0の緩衝液中における、ヒトプリオンタンパク質のGdmCl依存性平均残基モル楕円率を示す。(A)および(B)のスペクトルは、22℃、30μMタンパク質溶液で記録した。黒塗り正方形はhPrP(121〜230)、中抜き正方形はhPrP(M166C/Y225C)、黒塗り円はhPrP(M166C/E221C)である。
【0054】
hPrP(121〜230)は、pH7.0において、高度に協同的な2状態変化を行い(図7A)、移行中点[D]1/2=2.1M、および変成剤非存在下でのアンフォールディング自由エネルギーΔG0=-19kJ mol-1を有する。これらの熱力学的な値は、hPrP(90〜231)で決定されたものとほぼ同一である(Swietnicki, W., Petersen, R., Gambetti, P. and Surewicz, W.K. (1997) pH-dependent stability and conformation of the recombinant human prion protein PrP(90-231). J Biol Chem, 272, 27517-27520)。単一フォールディング移行も、2つのhPrP(121〜230)変種タンパク質で観測された(図7A)。しかし、hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(M166C/Y225C)は、移行中点[D1/2]の増加を示し、これは全体的な構造が、構築されたジスルフィド結合によって安定化させられていることを示すものである(Fersht, A.R. (1993) The sixth Datta Lecture. Protein folding and stability: the pathway of folding of barnase. Febs Lett, 325, 5-16; Fersht, A.R. (1994) Jubilee Lecture. Pathway and stability of protein folding. Biochem Soc Trans, 22, 267-273)。変種タンパク質のフォールディングにおける協同性がより低いことは、2状態フォールディング機構からの逸脱を示す。
【0055】
8. pH5におけるβシートに対するαヘリックス2次構造の安定化。
hPrP(121〜230)は、pH5.0において、1.3Mおよび2.7MのGdmClを移行中点とする2つの識別可能なフォールディング移行領域を示し、これは、約2MGdmClで、最も多いフォールディング中間体の存在を明確に示すものである(図7B)。GdmCl中で平衡アンフォールディング状態にある間に、安定したフォールディング中間体が存在することは、hPrP(90〜231)でも報告されており、緩衝液溶液のpHが4.0か、またはそれより低いときに観測されている(Swietnickiら、1997年)。しかし、pH5.0では、hPrP(90〜231)のアンフォールディングカーブは、2状態変化のモデルで近似されるものであった。したがって、柔軟で、無秩序化しているペプチドセグメント90〜120は、GdmCl濃度が低く、pHが酸性である際に、おそらく球状ドメインと相互作用することによって蓄積するフォールディング中間体を不安定化させると考えられる(Zahnら、2000年)。
【0056】
変種タンパク質は、溶解性が減少しており、1.2M未満のGdmCl濃度における定量的なCD測定が不可能となったため(図7B)、これらのタンパク質に関しては、フォールディング移行モデルを決定することができなかった。中性pHで得られたデータと同様に、hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(M166C/Y225C)で観測されたフォールディング移行中点は、hPrP(121〜230)の第2の移行中点と比較して、変成剤濃度のより高い方に移行しており、フォールディングの協同性が低減していた(図7B)。
【0057】
hPrP(121〜230)の安定したフォールディング中間体が存在するのに対応する条件下における、ヒトプリオンタンパク質のコンフォメーション特性への洞察を得るために、2MGdmClの存在下および非存在下で、pH5.0における遠紫外線CDスペクトルを測定した。
【0058】
図8は、ヒトプリオンタンパク質、すなわち(A)hPrP(121〜230)、(B)hPrP(M166C/E221C)、および(C)hPrP(M166C/Y225C)の円偏光二色性スペクトルを示す。スペクトルは、2M GdmClの存在下(太線)、または非存在下(細線)で、pH5.0、22℃における20μMタンパク質の20mM酢酸ナトリウム溶液中で記録した。3つのタンパク質のスペクトルは、変成剤の非存在下では本質的に同様のものであり(図8)、208nmおよび222nmに最小値があり、これは、3つのタンパク質すべてが主としてαヘリックス構造を有することを示す。変種タンパク質のスペクトルが野生型のものに比べてわずかに異なっているが、ジスルフィド架橋そう入ポイント周辺での小さな局部的変化を除いて、これらの構造は非常に似たものであるので、この相違はおそらく、第2ジスルフィド結合の遠紫外線領域における追加吸収によるものである(Coleman, D.L. and Blout, E.R. (1968) Optical activity of disulfide bond in L-cystine and some derivatives of L-cystine. J Am Chem Soc, 90, 2405-2416)。さらに、NMR化学シフト測定値から、hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(M166C/Y225C)両方のヘリックスα3内部で、αヘリックス2次構造の集団がわずかに減少していることが知られている(図5)。
【0059】
2M GdmClでは、hPrP(121〜230)のフォールディング中間体が最大限に多くなるが、hPrP(121〜230)のCDスペクトルでは、2箇所あった最小点が、213nmにおける単一最小点で置換されており(図8A)、これはβシート2次構造に富むタンパク質に特有のものである。同様の単量体のフォールディング中間体が、hPrP(90〜231)でもpH4.0において記載されており、これは、1M GdmClで最も多くなり(Swietnickiら、1997年)、またマウスPrP(121〜231)でも4M尿素で同様となる(Hornemann, S. and Glockshuber, R. (1998) A scrapie-like unfolding intermediate of the prion protein domain PrP(121-231) induced by acidic pH. Proc Natl Acad Sci U S A, 95, 6010-6014)。これらの中間代謝物は、PrPScの可溶性前駆体を表すものかもしれないと提案されている。hPrP(90〜231)のコンフォメーション移行の機構に関するより詳細な洞察に基づいて(Swietnicki, W., Morillas, M., Chen, S.G., Gambetti, P. and Surewicz, W.K. (2000) Aggregation and fibrillization of the recombinant human prion protein huPrP(90-231). Biochemistry-Us, 39, 424-431)、βシート中間体がPrPScアミロイドの物理学的特性のいくつかを共有する大分子量凝集体にオリゴマー化されることが判明している。これらの凝集体は、マウスPrP(121〜230)(Hornemannら、1998年)でも、そしてhPrP(121〜231)でも観測されなかったが、これはおそらく、これらのコンストラクトは、脳内においてPrPCからPrPScへと変換する間のαヘリックスからβシート2次構造へのコンフォメーション移行に必要なペプチドセグメント91〜120をもたないためである(Prusiner, S.B., Groth, D.F., Bolton, D.C., Kent, S.B. and Hood, L.E. (1984) Purification and structural studies of a major scrapie prion protein. Cell, 38, 127-137; Panら、1993年)。それにもかかわらず、同様のβシート2次構造に特有なCDスペクトルを有するため、発明者らは、これらのすべての中間体が同様の性質を有し、したがって、病原性タンパク質に至るコンフォメーション移行に関与しているかもしれないと考える。
【0060】
2M GdmCl中におけるこれら2つの変種プリオンタンパク質のCDスペクトルは、αヘリックス構造に富むタンパク質に典型なものであり(図8Bおよび8C)、これはβシート構造の増大を伴うフォールディング中間体の蓄積がないことを示すものである。自然なタンパク質と比較したとき、222nmに対する208nmの振幅が相対的に増加していることは、αヘリックスが部分的にランダムコイルコンフォメーションに移行することで説明できるかもしれないが、野生型タンパク質の場合と同様に、GdmCl存在下におけるαヘリックスからβシートへの移行を示す証拠はない。
【0061】
図9は、ヒトプリオンタンパク質、すなわち(A)hPrP(121〜230)、(B)hPrP(M166C/Y225C)、および(C)hPrP(M166C/E221C)における温度依存的な平均残基分子楕円率を示す。タンパク質濃度は、pH4.5、10mMの酢酸ナトリウム中で24μmであった。
【0062】
酸性条件下における3つのプリオンタンパク質の熱アンフォールディングは、単一移行で起こるが(図9)、野生型対変種タンパク質の質的に異なったォールディング特性は、熱アンフォールディング実験でも明らかにされた。hPrP(121〜230)の2状態熱アンフォールディングは、高度に協同的であり、約60℃の融解温度を有する(図9A)。hPrP(M166C/Y225C)およびhPrP(M166C/E221C)のフォールディング移行は、協同性がかなり低く、10℃以上高温へシフトしており(図9Bおよび9C)、これは再度、安定性がより大きいことを反映するものである。変種タンパク質は、100℃でさえ、アンフォールディング後体勢に達しておらず、222nmにおいて負の楕円率を有するかなりの程度のタンパク質二次構造を含有するため、これらの変種タンパク質では、フォールディング移行の正確な温度が決定できないかもしれない。
【0063】
結果および考察
ヒトDplおよびヒトPrPの球状ドメインの比較は、全体的には高度の類似性と、著しい局部的な相違の両方を明らかにする(T. Luhrs, R. Riek, P. Guntert und K. Wuthrich, unpublished)。同様の観測は、対応するマウスタンパク質でも報告されている(Mo, H., Moore, R.C., Cohen, F.E., Westaway, D., Prusiner, S.B., Wright, P.E. and Dyson, H.J. (2001) Two different neurodegenerative diseases caused by proteins with similar structures. Proc Natl Acad Sci USA, 98, 2352-2357)。hDplの構造において、hPrP中の推定X因子エピトープ(Telling ら、1994年; Prusiner、1998年)に対応する領域では、ヘリックスα3が2ターン以上で短縮されており、また、C末端ペプチドセグメント144〜49は、β2およびα2を連結するループではなく、フォールディングされている。これら2つのタンパク質の間では、PrP配列でX因子エピトープに先行するβシートの平面が、ヘリックス二次構造によって形成された分子骨格に比べて約180°回転しており、hDplにおいて、これはヘリックスα1に、2残基さらに近接している。さらに、hDplでは、PrP配列ではX因子エピトープの後に従うヘリックスα2が、2つのより短いヘリックスα2aおよびα2bで置換されている。ここで、2つのジスルフィド結合を含有する変異体ヒトプリオンタンパク質が構造決定されたことによって、X因子エピトープ領域における、hPrPとhDplとの分子状構造の関係についての新規の洞察が可能となり、また、2つのタンパク質のまだ未知の機能に関する、進行中の探索が補助されるかもしれない。
【0064】
変異体hPrPの全体構造は、野生型hPrPとhDplとの両方に類似したものである。hPrP(M166C/E221C)およびhDplの平均構造の共通αヘリックスに用いられる残基の、バックボーン重原子間のRMSD値は1.69Åである。この骨格での最小RMSDとなる三次元構造を重ね合わせた後には、hPrP(M166C/E221C)中の人工ジスルフィド結合、およびhDpl中の対応する自然なジスルフィド結合の位置および方向は極めて類似したものである。hDplにおいて、ジスルフィド結合Cys94-Cys145が定常2次構造なしに2つのセグメント、すなわち、ループ91〜100および残基142〜153のC末端セグメントを接続するのに対して、変異体hPrPでは、ジスルフィドCys166-Cys221が可動性ループ165〜172をヘリックスα3に対して固定している(図2を参照)ことを考えると、これはかなり驚くべきことである。PrPで観測された推定X因子エピトープの局部構造も、当初はDplに存在し、位置94のシステイニル残基が、C末端にまで伸びているヘリックスα3と両立可能であったであろう位置(例えば、位置147)(図2)にある第2のシステイニルとジスルフィド結合を形成していたかもしれないということも、このデータからはもっともらしく思われる。さらに進化する間に、ヘリックスα3中の欠失によって、このシステイニルが、およそ残基141以降の定常αヘリックス構造と両立できない位置145(図1)に再配置されたのかもしれない。そして自然は、このジスルフィド架橋と、あまり構造化されていないC末端ペプチドセグメントとを選択したように考えられるだろう。このジスルフィド結合は、すべての既知の哺乳動物Dpl配列に共通であるので(Mooreら、1999年)、興味深くも、C末端に最も近いこのCys位置が選択されたことは、Dplの生理的な機能における特有の役割を持つことを明確に示すものである。Dplがこの構造化された領域で、PrPにおけるX因子エピトープとは異なった機能をもつであろうことは、ループ91〜100が、PrPには対応物がない、Asn結合型糖鎖付加部位を位置98に含有している(Mooreら、1999年)という事実によって、独立して示唆されている。X因子の相互作用がプリオン伝播に本当に必須であるなら、Dpl
がこの分子領域で、ジスルフィドの関与する異なったコンフォメーションにあることは、Dplによっても引き起こされうるであろうTSEに関して、今まで証拠が得られていないという観測に、説明を提供するものかもしれない(Behrens, A., Brandner, S., Genoud, N., and Aguzzi, A. (2001) Normal neurogenesis and scrapie pathogenesis in neural grafts lacking the prion protein homologue Doppel. EMBO Rep, 2, 347-352; Tuzi, N.L., Gall, E., Melton, D. and Manson, J.C. (2002) Expression of doppel in the CNS of mice does not modulate transmissible spongiform encephalopathy disease. J Gen Virol, 83, 705-711)。
【0065】
現在、ヒトにも、動物にも、プリオン病の治療に利用可能ないかなる薬物も存在しない。タンパク質単独仮説(Prusiner、1998)のフレームワークでは、TSEを引き起こす毒性タンパク質コンフォメーションの蓄積を防止できるかもしれない機構を少なくとも2つ想定することができる。第1の機構は、プリオンタンパク質の正常形態に特異的に結合する「PrPC結合剤」を基にし、したがって、PrPCがPrPScにフォールディングするのを阻止する。「有核重合」モデル(Jarrett, J.T. and Lansbury, P.T., Jr. (1993) Seeding "one-dimensional crystallization" of amyloid: a pathogenic mechanism in Alzheimer's disease and scrapie? Cell, 73, 1055-1058)のコンテクストでは、PrPCとPrPScが迅速に確立される平衡にあることが提案され、PrPC結合性分子は、このように重合核の濃度を減少させることによって、PrPCの自然のタンパク質コンフォメーションを単純に安定化させ、変換速度を減速させるかもしれない。「テンプレート介助」モデル(Prusiner, S.B., Scott, M., Foster, D., Pan, K.M., Groth, D., Mirenda, C., Torchia, M., Yang, S.L., Serban, D., Carlson, G.A. and et at. (1990) Transgenetic studies implicate interactions between homologous PrP isoforms in scrapie prion replication. Cell, 63, 673-686)のコンテクストでは、PrPC-結合剤は直接PrPScの結合部位を阻止するか、またはタンパク質Xなどのプリオン伝播に必要である別の分子の結合部位を阻止してもよい(Tellingら、1994年; 1995年)。第2の機構は、アミロイドフィブリルへのPrPScの同種親和性会合を阻止するか、または別の方法で病原性の系路であることが含意される他の高分子との異種親和性相互作用を阻止するのに「PrPC結合剤」を用いるだろう。PrPSc結合剤がPrPC結合剤より有利である点は、PrPSc結合剤がこのタンパク質の細胞性形態がもつ、まだ未知の生理学的機能を妨げないことである。
【0066】
いくつかの最近のレポートは、PrPCに対する抗体に、スクレイピー感染細胞からの海綿状脳症伝搬物質を生体外で除去する可能性があることを示している(Enari, M., Flechsig, E. and Weissmann, C. (2001) Scrapie prion protein accumulation by scrapie-infected neuroblastoma cells abrogated by exposure to a prion protein antibody. Proc Natl Acad Sci U S A, 98, 9295-9299;Horiuchi, M. and Caughey, B. (1999) Specific binding of normal prion protein to the scrapie form via a localized domain initiates its conversion to the protease-resistant state. Embo J, 18, 3193-3203)。体液性免疫応答は、生体内でスクレイピー発病機序を防ぐかもしれず、保護的な抗プリオン免疫の誘導が可能と考えられることを示す(Heppner, F.L., Musahl, C., Arrighi, I., Klein, M.A., Rulicke, T., Oesch, B., Zinkernagel, R.M., Kalinke, U. and Aguzzi, A. (2001) Prevention of scrapie pathogenesis by transgenic expression of anti-prion protein antibodies. Science, 294, 178-182)。これらの研究の大部分で、プリオンタンパク質の残基132〜156を包含する領域が抗体結合の標的として同定されている(Heppnerら、2001年)。ScN2a細胞でPrPcに結合して、プリオン伝播を阻害する様々な化合物が記載されているが、動物実験において一時的でも治療効果を示すものは、ごくわずかである(Gilch, S., Winklhofer, K.F., Groschup, M.H., Nunziante, M., Lucassen, R., Spiel-haupter, C., Muranyi, W., Riesner, D., Tatzelt, J. and Schatzl, H.M. (2001) Intracellular re-routing of prion protein prevents propagation of PrPSc and delays onset of prion disease. Embo J, 21, 3957-3966)。最近、抗マラリヤ剤キナクリンが、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)治療の有望なリード化合物として同定された(Doh-Ura, K., Iwaki, T. and Caughey, B. (2000) Lysosomotropic agents and cysteine protease inhibitors inhibit scrapie-associated prion protein accumulation. J Virol, 74, 4894-4897; Korth, C., May, B.C.H., Cohen, F.E. and Prusiner, S.B. (2001) Acridine and phenothiazine derivatives as pharmacotherapeutics for prion disease. Proc Natl Acad Sci U S A, 98, 9836-9841)。組換型ヒトPrPのキナクリン結合部位は、ヘリックスα3の残基Tyr225、Tyr226、およびGln227にマップされたが、これらは、「タンパク質X」エピトープの近くに位置している(Vogtherr, M., Grimme, S., Elshorst, B., Jacobs, D.M., Fiebig, K., Griesinger, C. and Zahn, R. (2003) Antimalarial drug quinacrine binds to C-terminal helix of cellular prion protein. J Med Chem, (in press))。キナクリン-PrPC複合体がミリモルの解離定数をもつことは、この薬が1万倍濃縮されているエンドリソソーム中でプリオン伝播を阻害することを示すものである(O'Neill, P.M., Bray, P.G., Hawley, S.R., Ward, S.A. and Park, B.K. (1998) 4-aminoquinolines - Past, present, and future: A chemical perspective. Pharmacol Ther, 77, 29-58)。キナクリンによって治療された患者の回復は、一時的なものでしかなかったが(Follette, P. (2003) New perspectives for prion therapeutics meeting: Prion disease treatment's early promise unravels. Science, 299, 191-192)、キナクリンおよびその類似体に基づく第二世代薬物はそれについてCJDの治療のより強力な薬物としての見込みをもつ(May, B.C.H., Fafarman, A.T., Hong, S.B., Rogers, M., Deady, L.W., Prusiner, S.B. and Cohen, F.E. (2003) Potent inhibition of scrapie prion replication in cultured cells by bis-acridines. Proc Natl Acad Sci U S A, 100, 3416-3421)。
【0067】
治療的有効性がある化合物のうち、プリオンタンパク質のスクレイピーコンフォメーションに特異的に結合するものは、ほんのいくつかのしか同定されていない。PrPSc結合モノクローナル抗体は、1997年に発見されたが(Korth, C., Stierli, B., Streit, P., Moser, M., Schaller, O., Fischer, R., SchulzSchaeffer, W., Kretzschmar, H., Raeber, A., Braun, U., Ehrensperger, F., Hornemann, S., Glockshuber, R., Riek, R., Billeter, M., Wuthrich, K. and Oesch, B. (1997) Prion (PrPSc)-specific epitope defined by a monoclonal antibody. Nature, 390, 74-77)、生体内での特異的結合活性を確認するどんな最近のレポートもない。Sotoおよびその共同研究者は、生体外でPrPScをPrPC様タンパク質に部分的に逆行させる13残基のβシート破壊ペプチドを構築した(Soto, C., Kascsak, R.J., Saborio, G.P., Aucouturier, P., Wisniewski, T., Prelli, F., Kascsak, R., Mendez, E., Harris, D.A., Ironside, J., Tagliavini, F., Carp, R.I. and Frangione, B. (2000) Reversion of prion protein conformational changes by synthetic f3-sheet breaker peptides. Lancet, 355, 192-197)。このペプチドは、無傷細胞中でも活性であり、マウスで実験的なスクレイピーによる臨床症状の発症を遅らせた。
【0068】
TSE治療用に示された別のストラテジーは、PrPScに結合するが、テンプレートに介助された機構で変換不可能であり、したがって、結合したPrPSc分子を不活性化する、可溶性のPrP誘導体のデザインに基づいている。Burkleおよびその共同研究者は、マウスPrPのアミノ酸類114〜121の存在が、PrPSCへのPrPcの変換に重要な役割を果たしており、これらの残基を欠失した変異体は、細胞培養で、PrPSc蓄積のドミナントネガティブ変異体として振る舞うことを示した(Holscher, C., Delius, H. and Burkle, A. (1998) Overexpression of nonconvertible PrPc D114-121 in scrapie-infected mouse neuroblastoma cells leads to trans-dominant inhibition of wild-type PrPSc accumulation. J Virol, 72, 1153-1159)。したがって、ドミナントネガティブ阻害は、プリオン病の治療または予防の基礎を形成するかもしれない。最近、Aguzziおよびその共同研究者は、生体内で、PrPScに結合し、プリオン病をアンタゴナイズする、可溶性二量体プリオンタンパク質を構築した(Meier, P., Genoud, N., Prinz, M., Maissen, M., Rulicke, T., Zurbriggen, A., Raeber, A.J. and Aguzzi, A. (2003) Soluble dimeric prion protein binds PrPSc in vivo and antagonizes prion disease. Cell, 113, 49-60)。可溶性二量体PrPは、ヒトIgG1のFcγテールに融合した完全長マウスPrPから成った。プリオンによる脳内または腹腔内接種の後、この可溶性タンパク質の準化学量論的な量で、Prnp+/+マウスにおける疾患開始が有意に遅らせられた。これらの研究は、可溶性のPrP融合タンパク質をプリオン病治療学に使用できることの証跡を提供する。
【0069】
hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(M166C/Y225C)に関する、構造的データおよび熱力学的なデータの組合せは、PrPのジスルフィド変種もプリオン病のドミナントネガティブ治療として適切でありうることを示唆する。PrP変種において自然な三次元構造が保存されていることは、野生型のように、これらの変種もPrPScに対して同様の親和性を持っている可能性を大きくするものである。PrPcのPrPSc結合部位は、知られていないが、ヘリックスα1の領域(ヒトPrPの残基144〜154)およびその前のループ領域(ヒトPrPの残基132〜143)がPrPSc結合に関与することの遺伝学実験による証拠がある。この領域は、ヘリックスα3と、ヘリックスα2および第2β-ストランド(図4)を連結するループとの間に追加ジスルフィド結合の導入した後でも、構造が変化しない。プリオン伝播の「テンプレート介助」PrPモデル(Prusiner、1998)のコンテクストでは、変種タンパク質の[D]1/2値(図7)および融解温度(図9)の増大は、PrPScに結合したPrPcを、PrPScにフォールディングできるコンフォメーションに形質転換するのに、より多量の自由エネルギーが必要であることを示す。したがって、変種タンパク質中の追加ジスルフィド結合は、それ自体プリオン伝播の効率を減少させて、したがって、プリオン病の進行を遅らせるものである。4.7と5.8との間のpH値であるエンドソーム中(Lee, R.J., Wang, S. and Low, P.S. (1996) Measurement of endosome pH following folate receptor-mediated endocytosis. Biochim Biophys Acta, 1312, 237-242)では、変種タンパク質のαヘリックス2次構造がβシート2次構造にコンフォメーション移行することに抵抗するのでおそらく、病原性のタンパク質コンフォメーションへの変換に対する防御はさらに効果的である(図8B、および8C)。したがって、エンドソームまたはリソソームの環境中では、PrPSCはおそらくPrPcジスルフィド変種と結合した複合体中に捕捉されるだろう。
【0070】
組換え型ジスルフィド変種プリオンタンパク質を、脳内もしくは腹腔内接種するか、または遺伝子治療法のアプローチを用いて生体内で発現する、細胞培養および動物実験中にそのような機構が確立されるかどうかを調査するのは興味深いことであるだろう。成功すれば、PrPcに安定化ジスルフィド結合を導入することは、さまざまな神経変性疾患の治療に利用されるかもしれない。
【0071】
材料及び方法
1. 試料の調製および特性分析。
無標識形態および13C, 15Nによる均一な標識を伴う、2つのジスルフィドhPrP(121〜230)変異体のクローニング、発現、および精製には、野生型hPrPの調製に用いられたストラテジーに忠実に従い(Zahnら、1997年、2000年)、ここで、二重残基交換は、Quickchange部位指定変異プロトコール(Stratagene社)に従って構築した。NMR分光法用の、pH4.5、10mM[d4]酢酸ナトリウムを含有する90%H20/10%D20による1mMタンパク質溶液は、Ultrafree-15 Centrifugal Filter Biomax Devices(Millipore)を用いて取得した。
【0072】
2. NMR測定および構造計算。
NMR測定は、4つのラジオ周波数チャネルと、遮蔽されたz-勾配コイルをもつ三重共鳴プローブヘッドとを備えた、Bruker DRX500、DRX600、およびDRX750スペクトロメーターで行った。コンフォメーション制限の収集のためには、H2O中における3次元合同15N/13C分解[1H, 1H]-NOESYスペクトル(Boelens, R., Burgering, M., Fogh, R.H. and Kaptein, R. (1994) Time-saving methods for heteronuclear multidimensional NMR of (13C, 15N) doubly labeled proteins. J. Biomol. NMR 4, 201-213)を、混合時間Tmを40ms、T=20℃、256(t1)x50(t2)x1024(t3)コンプレックスポイント、t1, max(1H)=28.4ms、t2, max(15N)=20.6ms、t2, max(13C)=8.3ms、およびt3, max(1H)=97.5msとして記録し、このデータセットは、512x128x2048ポイントまでゼロ埋め込みされた(zero-filled)。スペクトルのプロセシングは、プログラムPROSA(Guntert, P., Dotsch, V., Wider, G. and Wuthrich, K. (1992) Processing of multidimensional NMR data with the new software PROSA. J. Biomol. NMR 2, 619-629)を用いて行った。1H、15N、および13C化学シフトは、2, 2-ジメチル-2-シラペンタン-5-スルホン酸ナトリウム塩と比較して較正した。
【0073】
定常状態15N{1H}-NOEは、20ms間隔の120度パルスカスケードを適用することによる5sのプロトン飽和時間、t1, max(15N)=61.0ms、t2, max(1H)=142.6 ms、タイムドメインデータサイズ152x1024コンプレックスポイントを用い、Farrow, N.A., Zhang, O., Forman-Kay, J.D. and Kay, L.E. (1994) A heteronuclear correlation experiment for simultaneous determination of 15N longitudinal decay and chemical exchange rates of systems in slow equilibrium. J. Biomol. NMR 4, 727-734に従って600MHzで、測定した。
【0074】
NOE帰属は、プログラムCANDID(Herrmannら、2002年)を構造計算プログラムDYANA(Guntertら、1997年)と併用して取得した。CANDIDおよびDYANAは、自動化されたNOE帰属およびNOE強度の距離較正、共有結合によって固定された距離制限の排除、ねじれ角力学による構造計算、ならびに自動NOE距離上限違反分析を行う。CANDIDの入力データとして、前述のNOESYスペクトルのピークリストは、プログラムXEASY(Bartels, C., Xia, T.H., Billeter, M., Guntert, P. and Wuthrich, K. (1995) The program XEASY for computer-supported NMR spectral analysis of biological macromolecules. J. Biomol. NMR 6, 1-10)を用いて相互作用的にピーク選定し、プログラムSPSCAN(Ralf Glaser、私信)を用いてピーク容積を自動統合することによって作成した。CANDIDおよびDYANAを用いた計算のための入力は、これらのピークリスト、前の配列特異的な共鳴帰属からの化学シフトリスト、および13Cαシフトから得られたバックボーン角度ΦおよびΨの二面角制限を含んでいた(Luginbuhlら、1995年)。計算は、7サイクル反復性のNOE帰属および構造計算の標準プロトコールに従った(Herrmannら、2002年)。CANDIDにおける最初の6サイクルの間では、あいまいな距離制限を用いた。最終的な構造計算には、6サイクルの計算後に帰属が明白なNOE交差ピークに対応するNOE距離制限のみを保持させた。ステレオ特異的な帰属は、距離上限を6番目のCANDIDサイクルから得られた構造と比較して同定した。最も低い最終DYANA目的関数値を有する20の配座異性体を、AMBERフォースフィールド(Cornell, W.D., Cieplak, P., Bayly, C.I., Gould, I.R., Merz, K.M., Jr., Ferguson, D.M., Spellmeyer, D.C., Fox, T., Caldwell, J.W. and Kollman, P.A. (1995) A second generation force field for the simulation of proteins, nucleic acids, and organic molecules. J. Am. Chem. Soc. 117, 5179-5197)を用い、プログラムOPALp(Luginbuhl, P., Guntert, P., Billeter, M. and Wuthrich, K. (1996) The new program OPAL for molecular dynamics simulations and energy refinements of biological macromolecules. J. Biomol. NMR 8, 136-146)で、水シェル中におけるエネルギー最小化を行った。プログラムMOLMOL(Koradi, R., Billeter, M. and Wuthrich, K. (1996) MOLMOL: A program for display and analysis of macromolecular structures. J. Molec. Graphics 14, 51-55)は、この結果得られた20のエネルギー最小化された配座異性体(表1および表2)を分析して、構造の図面を作成するのに用いた。
【0075】
3. CD測定および平衡実験。
円偏光二色性スペクトルは、Peltierタイプ温度制御装置とインターフェースで接続されている、JascoJ720分光偏光計で、光路長1mmまたは0.2mmのキュベットを用いて記録した。GdmCl-誘発アンフォールディングをモニターするには、222nmにおける楕円率を用い、アンフォールディングの自由エネルギーΔGが、溶液中に存在する変成剤の濃度[D]に直線的に依存すると仮定し(Bolen, D.W. and Santoro, M.M. (1988) Unfolding free-energy changes determined by the linear extrapolation method. 2. Incorporation of delta G degrees N-U values in a thermodynamic cycle. Biochemistry-Us, 27, 8069-8074; Santoro, M.M. and Bolen, D.W. (1988) Unfolding free-energy changes determined by the linear extrapolation method. 1. Unfolding of phenylmethanesulfonyl alpha-chymotrypsin using different denaturants. Biochemistry-Us, 27, 8063-8068)、すなわちΔG =ΔG0+m[D]であるとして、変性カーブを二状態モデルに適合させた。式中、mはアンフォールディングの協同性であり、ΔG0は変成剤の非存在下におけるΔGである。遷移領域における平衡定数の評価は、遷移前および遷移後のベースラインを遷移領域に外挿することによって得た。データの適合に用いられた二状態モデルは、観測されるシグナルS0bsが、
S0bs=((SN+mN[D])exp(-(ΔG0+m[D])/RT)+SD+mD[D])/(1+exp(-(ΔG0+m[D])/RT))
に示される依存性を有すると仮定する。式中、SNおよびSDは切片、MNおよびMDはそれぞれ移行レジーム前および後の勾配、Tはケルビンの絶対温度、そして、Rは気体定数である。したがって、指数関数における独立変数が消滅しなければならない移行中点[D1/2]では、
[D]1/2=ΔG0/m
である。
【0076】
熱変性実験は、毎時50℃の定速変化で温度を10℃から90℃に変化させながら、222nmの円偏光二色性をモニターすることで行った。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】PrPSCが細胞性イソフォームの変換を促進する分子機序に関する、提案されている2つの一般モデル(Zahn, R、1999年)を示す図である。図1Aは、「有核ポリメリゼーション」モデル、または「シーディング」モデルを示し、 図1Bは「テンプレート介助」モデル、または「ヘテロ二量体」モデルを示す。
【図2】ヒトプリオンタンパク質セグメント165〜230と、ヒトdoppelタンパク質セグメント93〜153のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。
【図3】ヒトプリオンタンパク質の二次元[15N, 1H]相関分光法(COSY)スペクトルを示す図である。(A)はhPrP(M166C/E221C)であり、(B)はhPrP(M166C/Y225C)である。
【図4】hPrP(M166C/E221C)のNMR構造のステレオ図である。図4Aは、残基125〜228のN、Cα、およびC'原子に最良適合するように重ね合わせた20のエネルギー精密化したDYANA配座異性体のバックボーンである。図4Bは、(A)の配座異性体の重原子のみの表示である。図4Cは、(B)の配座異性体のリボン図面である。
【図5】hPrP(121〜230)アミノ酸配列に対する13Cα化学シフト差Δσ(13Cα)のプロットを示す図である。図5Aは、hPrP(M166C/E221C)対ランダムコイルシフト、図5Bは、hPrP(M166C/Y225C)対ランダムコイルシフト、図5Cは、hPrP(M166C/E221C)対野生型hPrP(121〜230)、そして図5Dは、hPrP(M166C/Y225C)対野生型hPrP(121〜230)を示す。
【図6】hPrP(M166C/E221C)およびhPrP(121〜230)の定常状態15N{1H}-NOEを示す図である。
【図7】ヒトプリオンタンパク質のGdmCl依存性した平均残基モル楕円率を示す図である。図7Aは、pH7.0、20mMリン酸ナトリウムを含有する緩衝液中、図7Bは、pH5.0、20mM酢酸ナトリウムを含有する緩衝中のものを示す。
【図8】ヒトプリオンタンパク質の円偏光二色性スペクトルを示す図である。図7Aは、hPrP(121〜230)、図7Bは、hPrP(M166C/E221C)、図7Cは、hPrP(M166C/Y225C)を示す。
【図9】ヒトプリオンタンパク質の温度依存性の平均残基モル楕円率を示す図である。図9Aは、hPrP(121〜230)、図9Bは、hPrP(M166C/Y225C)、図9Cは、hPrP(M166C/E221C)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の変異体であって、前記タンパク質はコンフォメーション転移を行った後に疾患を引き起こし、前記疾患は、
a) 伝達性海綿状脳症(TSE)、アルツハイマー病、多発性硬化症、およびパーキンソン病を含む群の神経変性疾患、および/または
b) 原発性全身性アミロイドーシス、II型糖尿病、および心房性アミロイドーシスを含む群の他のコンフォメーション疾患
を含み、前記変異体タンパク質またはその変種が、ヒトおよび動物におけるそのようなタンパク質のコンフォメーション転移を阻害する、少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合を含む、タンパク質の変異体。
【請求項2】
前記少なくとも1つの追加ジスルフィド結合が、構造的に近縁な非病原性タンパク質中のジスルフィド結合と同様の位置に構築される請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記タンパク質がプリオンタンパク質であり、前記少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合が球状ドメインに位置している請求項1に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合が、ドッペルタンパク質(Dpl)の場合と同様の位置にある請求項3に記載のプリオンタンパク質。
【請求項5】
前記タンパク質が「X因子」結合性エピトープを含み、かつ前記少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合がこの「X因子」結合性エピトープ中に位置する請求項3に記載のプリオンタンパク質。
【請求項6】
ヒトプリオンタンパク質中のアミノ酸残基165〜175を含む第1のセグメントと、C末端アミノ酸残基215〜230を含む第2のセグメントとの間に、または、他の種における構造的に対応するアミノ酸セグメントの間に、少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合が導入されている請求項3に記載のプリオンタンパク質。
【請求項7】
前記少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合が、アミノ酸残基M166CとE221C、またはアミノ酸残基M166CとY225Cを連結する請求項6に記載のプリオンタンパク質。
【請求項8】
変異体タンパク質をコードする核酸配列であって、前記タンパク質はコンフォメーション転移を行った後に疾患を引き起こし、前記疾患は、
a) 伝達性海綿状脳症(TSE)、アルツハイマー病、多発性硬化症、およびパーキンソン病を含む群の神経変性疾患、および/または
b) 原発性全身性アミロイドーシス、II型糖尿病、および心房性アミロイドーシスを含む群の他のコンフォメーション疾患
を含み、前記核酸配列が、ヒトおよび動物におけるそのようなタンパク質のコンフォメーション転移を阻害する、少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合を含む、前記変異体タンパク質またはその変種をコードする、変異体タンパク質をコードする核酸配列。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸配列を含み、かつ/または、前記核酸配列によってコードされる、
プラスミドコンストラクト、ベクター、形質転換細胞、ウシ、ヒツジ、ネコ、エルク、およびシカを含めた遺伝形質転換動物、並びに組み換えタンパク質。
【請求項10】
タンパク質の変異体の使用であって、前記タンパク質はコンフォメーション転移を行った後に疾患を引き起こし、前記疾患は、
a) 伝達性海綿状脳症(TSE)、アルツハイマー病、多発性硬化症、およびパーキンソン病を含む群の神経変性疾患、および/または
b) 原発性全身性アミロイドーシス、II型糖尿病、および心房性アミロイドーシスを含む群の他のコンフォメーション疾患
を含み、前記変異体タンパク質またはその変種が、ヒトおよび/または動物におけるそのようなタンパク質のコンフォメーション転移を阻害する、少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合を含み、前記変異体タンパク質がコンフォメーション疾患の治療上の処置に用いられる、タンパク質の変異体の使用。
【請求項11】
タンパク質の変異体の使用であって、前記タンパク質はコンフォメーション転移を行った後に疾患を引き起こし、前記疾患は、
a) 伝達性海綿状脳症(TSE)、アルツハイマー病、多発性硬化症、およびパーキンソン病を含む群の神経変性疾患、および/または
b) 原発性全身性アミロイドーシス、II型糖尿病、および心房性アミロイドーシスを含む群の他のコンフォメーション疾患
を含み、前記変異体タンパク質またはその変種が、ヒトおよび/または動物におけるそのようなタンパク質のコンフォメーション転移を阻害する、少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合を含み、前記変異体タンパク質がコンフォメーション疾患の治療上の処置のための薬物の製造に用いられる、タンパク質の変異体の使用。
【請求項12】
前記構築された追加ジスルフィド結合が、PrPScへの変異体PrPCのコンフォメーション転移を防止し、さらにこのため、ドミナントネガティブ阻害によって、共在している野生型タンパク質のPrPCがPrPScにコンフォメーション転移するのを抑制する請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
PrPScオリゴマーへの野生型PrPCのコンフォメーション転移が、野生型PrPCへの変異体PrPCの結合によって抑制される請求項10または11に記載の使用。
【請求項14】
PrPScアミロイドフィブリルへの野生型PrPScオリゴマーのコンフォメーション転移が、野生型PrPScへの変異体PrPCの結合によって抑制される請求項10または11に記載の使用。
【請求項15】
PrPC/PrPScヘテロ二量体への野生型PrPCのコンフォメーション転移が、野生型PrPScへの変異体PrPcの結合によって抑制される請求項10または11に記載の使用。
【請求項16】
アミロイドフィブリルの伸長、または、PrPScオリゴマーへのアミロイドフィブリルの解離が、野生型PrPScアミロイドフィブリルへの変異体PrPCの結合によって抑制される請求項10または11に記載の使用。
【請求項17】
プリオンタンパク質またはその変種におけるジスルフィド変異体の生体内産生が、例えば、レンチウイルスベクターによる体細胞遺伝子療法による、ヒトにおける伝達性海綿状脳症(TSE)の意図された治療を可能にするために行われ、TSEに、自発性、遺伝性、医原性、および異型のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、致死性家族性不眠症(FFI)、およびゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)が含まれる請求項8、9、10、または11に記載の使用。
【請求項18】
プリオンタンパク質またはその変種におけるジスルフィド変異体の組換え体生成が、例えば、組み換えタンパク質の直接施用による、ヒトにおけるTSEの意図された治療を可能にするために行われ、TSEに、自発性、遺伝性、医原性、および異型のCJD、FFI、およびGSSが含まれる請求項10または11に記載の使用。
【請求項19】
プリオンタンパク質またはその変種におけるジスルフィド変異体の生体内産生が、例えば、レンチウイルスベクターによる体細胞遺伝子療法による、動物におけるTSEの意図された治療を可能にするために行われ、TSEに、ウシ海綿状脳症(BSE)、ヒツジのスクレイピー、ネコ海綿状脳症(FSE)、ならびにエルクおよびシカの慢性免疫消耗病(CWD)が含まれる請求項8、9、10、または11に記載の使用。
【請求項20】
プリオンタンパク質またはその変種におけるジスルフィド変異体の組換え体生成が、例えば、組み換えタンパク質の直接施用による、動物におけるTSEの意図された治療を可能にするために行われ、TSEに、BSE、スクレイピー、FSE、およびCWDが含まれる請求項10または11に記載の使用。
【請求項21】
プリオンタンパク質またはその変種におけるジスルフィド変異体の組換え体が、ヒトまたは動物に適用されるTSEテストの「変換耐性PrPC標準物質」として生成され、組換え型PrPCが、病原性の組織、または血液および尿などの体液からのPrPScによって増幅される請求項10または11に記載の使用。
【請求項22】
プリオンタンパク質またはその変種におけるジスルフィド変異体の生体内産生が、レンチウイルスベクターを用いた体細胞遺伝子療法によるTSE抵抗性動物の育種を可能にするために行われ、動物に、ウシ、ヒツジ、ネコ、エルク、シカ、ブタ、およびサカナが含まれる請求項10または11に記載の使用。
【請求項23】
ヒトにおける、
a) 伝達性海綿状脳症(TSE)、アルツハイマー病、多発性硬化症、およびパーキンソン病を含む群の神経変性疾患、および/または
b) 原発性全身性アミロイドーシス、II型糖尿病、および心房性アミロイドーシスを含む群の他のコンフォメーション疾患
を治療するための薬物であって、そのようなタンパク質のコンフォメーション転移を阻害する、少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合を含む変異体タンパク質またはその変種を含む、薬物。
【請求項24】
ウシ海綿状脳症(BSE)、ヒツジのスクレイピー、ネコ海綿状脳症(FSE)、ならびにエルクおよびシカの慢性免疫消耗病(CWD)を治療するための薬物であって、そのようなタンパク質のコンフォメーション転移を阻害する、少なくとも1つの構築された追加ジスルフィド結合を含む変異体タンパク質またはその変種を含む、薬物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−514536(P2006−514536A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−520494(P2004−520494)
【出願日】平成15年7月5日(2003.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007224
【国際公開番号】WO2004/007546
【国際公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(505012874)アイトゲノシシュ・テクニシェ・ホッホシューレ・チューリッヒ (2)
【Fターム(参考)】