説明

コーティング材料の硬化方法

【課題】 自動車工業に適し、高い硬度と耐擦過性を示し、さらに、作製方法において、補修又は再加工が容易で、特に研摩が容易であるコーティング材料を提供する。
【解決手段】 本方法は、熱開始によりラジカル重合可能なコーティング組成物から被膜を作製する方法であって、少なくとも以下のステップ、
a)基体をコーティング組成物でコーティングするステップ、
b)コーティング組成物を熱開始によって硬化させるステップ、
c)硬化されたコーティング材料における品質欠陥を除去するステップ、
d)コーティング材料を、UV露光によって、完全に硬化させるステップ、
を含む。本方法に適したコーティング組成物は、エチレン性不飽和基を含むモノマーと熱ラジカル開始剤とを含み、実質的にUV開始剤は含まず、熱硬化及びそれに続くUV照射の後のコーティング材料の硬度が、UV照射を行わない熱硬化の後のコーティング材料の硬度よりも少なくとも15%高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱開始によりラジカル重合可能なコーティング組成物から被膜を作製する方法であって、少なくとも以下のステップ、
a)基体をコーティング組成物でコーティングするステップ、
b)コーティング組成物を熱開始によって硬化させるステップ、
c)硬化されたコーティング材料における品質欠陥を除去するステップ、
d)コーティング材料を、UV露光によって、完全に硬化させるステップ、
を含む方法および、本方法に適したコーティング組成物であって、エチレン性不飽和基を含むモノマーと熱ラジカル開始剤とを含み、実質的にUV開始剤は含まず、熱硬化及びそれに続くUV照射の後のコーティング材料の硬度が、UV照射を行わない熱硬化の後のコーティング材料の硬度よりも少なくとも15%高いコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱的に硬化するコーティング組成物及び放射線によって硬化可能なコーティング組成物は、すでに比較的長い間知られており、とりわけ、自動車工業において、種々のコーティングシステムに対して用いられている。この種のコーティング材料には、重要成分として、ラジカル重合によって硬化可能なモノマー又はオリゴマー、特に、バインダーとして働くアクリル酸エステルが含まれる。硬化方法に依存して、場合によっては熱開始剤が用いられ、場合によっては光開始剤が用いられている。
【0003】
自動車工業の場合、さらに最近になって、光誘起によってのみ硬化するシステム、換言すれば、実質的にUVによって硬化可能なコーティングシステムの開発も見られるようになってきている。この種のコーティングシステムの典型的な応用分野は、電子産業、印刷産業、木材加工業、及び製紙業においても見出される。しかしながら、これらのコーティングシステムとは異り、自動車用のコーティング剤は、これらより大幅に高い硬度と耐擦過性とを有していなければならない。これらのコーティング剤は、高い耐候安定性も有していなければならない。
【0004】
車両の多重上塗り膜は、通常、例えば、燐酸塩処理又は陰極析出被覆によって生じる腐食制御被膜、プライマー被膜(着色されることが多い)、着色された下地塗り、及び最終的な透明クリアコートを含む、一連の2つ以上の機能性被膜からなっている。
【0005】
UVコーティング材料は、熱硬化コーティング材料を上回る高い硬度と耐擦過性の利点を有している。例えば、特許文献1は、ラジカル硬化型及び/又はカチオン硬化型の重合性クリアコート材料を用いて、多重上塗り膜を作製する方法を開示している。このコーティング組成物にはUV開始剤が含まれている。本方法は、550nm未満の波長の光が存在しない条件下で液体コーティング材料を塗布し、次いで、紫外線によって硬化を行うことを想定している。UV硬化に加えて、UV照射の前後及びその最中に、熱硬化を行なうことも可能である。この場合、コーティング組成物が光開始剤と共に熱開始剤も有することが好ましい。
【0006】
高い耐擦過性を有する被膜をもたらす他の硬化方法が、特許文献2に記載されている。ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、又はエポキシアクリレートのようなアクリルエステルをベースとするバインダーを有する放射線硬化コーティング材料に、まず、紫外線又は電子線が照射される。これに続いて、赤外線の照射が行なわれ、被膜の表面層の温度が220℃まで上昇する。この手段によるだけで、被膜が焼き付けられ、その最終的な強度に達する。
【0007】
広範なコーティングシステム、例えば、自動車工業におけるボデー構造用のコーティングシステムを作製する過程において、例えば、塗膜の表面欠陥は、通常、不可避である。それらの表面欠陥は、例えば、基体がコーティングされる場合の不純物、コーティング操作中の塵埃又は汚れの沈着、又はスプレー機器からの不純物によって生じ得る。同様に、コーティング材料の不均一な塗布も、エラー源として観察される。従って、通常、被膜の硬化の後、被膜欠陥の修理による品質管理作業が不可欠である。
【0008】
場合によっては、前述のコーティングシステムが、所望の被膜の硬度と強度とをもたらすが、これらの特性は、被膜欠陥を補修するためのその後の被膜の再加工にとっては極めて不利である。例えば、硬質被膜の欠陥部位の除去又はその後の研摩は、実施するのが極めて困難である。
【特許文献1】欧州特許出願公開第540 884 A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第197 54 621 A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的の一つは、自動車工業に適し、高い硬度と耐擦過性とを示し、かつ、その作製方法において、補修又は再加工が容易で、特に研摩が容易であるコーティング材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本目的は、熱開始によりラジカル重合され得るコーティング組成物から被膜を作製する、請求項1の特徴を有する方法、および、熱開始によりラジカル重合され得るコーティング組成物から被膜を作製する方法であって、少なくとも以下のステップ、
a)基体をコーティング組成物でコーティングするステップ、
b)コーティング組成物を熱開始によって硬化させるステップ、
c)硬化されたコーティング材料における品質欠陥を除去するステップ、
d)コーティング材料を、UV露光によって、完全に硬化させるステップ、
を含む方法、ならびに、本方法に適したコーティング組成物であって、エチレン性不飽和基を含むモノマーと熱ラジカル開始剤とを含む、請求項14の特徴を有するコーティング組成物によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
従って、本発明によれば、2つの異なる硬化ステップで本被膜が最終的な強度に達し、最終的な硬度がUV露光ステップにおいて得られる前に品質欠陥が除去されることが想定されている。この2段硬化により、品質欠陥が除去される時点において、被膜が、まだその完全な硬度には達せず、むしろ、容易な修正を可能とする硬度又は耐擦過性に確実に達するようになる。
【0012】
品質欠陥を除去するステップには、欠陥又は欠陥部位の検査、及び欠陥を除去し、欠陥部位を補修するための種々の措置が含まれる。これには、とりわけ、被膜の研摩が含まれる。本発明に係る方法では、特に、熱硬化の後に容易に研摩可能な被膜がもたらされる。さらに他の措置としては、局部的な再コーティングも含まれる。
【0013】
一般的に、後処理を必要とするのは、程度の差はあれ、表面の大きな部分のみであり、どのような修正作業も必要ない場合もある。
【0014】
驚くべきことに、本発明による手順の場合、熱硬化後の被膜は、品質欠陥を除去するステップに極めて適した中間レベルの硬度と耐擦過性とを有しており、この硬度と耐擦過性とは、その後のUV露光のステップによってさらに上昇させることができる。この後硬化においてのみ、用途に適した最終的な硬度が得られる。
【0015】
熱硬化(ステップb)の後、被膜は、更なる処理、特に、品質欠陥の補修に十分な強度を有している。典型的には、この強度は、被膜が少なくとも手触りで乾燥しているときの強度である。この硬度のレベルは、高品位の自動車用被膜に対する通常の硬度よりも低い。
【0016】
第1硬化ステップ(ステップb)は、熱開始剤によって開始されるラジカル重合を含んでいる。この場合の熱エネルギーは、基体の直接加熱、高温ガス、熱照射、又は他の既知の手段によって生じ得る。
【0017】
コーティング組成物中の開始剤の量は、熱重合に通常使用されるレベルである。典型的には、0.5〜5重量%の開始剤が用いられる。
【0018】
本重合が大気中の酸素の影響によって妨げられることは公知である。この大気中の酸素は、特に、薄い被膜の場合に、表面硬化に悪影響を及ぼすことが知られている。従って、本発明の好ましい一実施形態では、熱硬化が、酸素分圧を下げた条件下で行なわれる、好ましくは、被膜が、低酸素又は実質的に酸素を含まない不活性なガス、例えば、CO2又はN2の影響下で硬化される。
【0019】
阻害物質としての酸素の影響の程度は、選択される熱開始剤系にも依存する。アゾ化合物又はペルオキソ化合物、及びC−C切断系が開始剤として用いられる場合、酸素分圧を下げた条件下における硬化が、本方法の好ましい変形形態である。
【0020】
適切な熱ラジカル開始剤としては、有機アゾ化合物、有機ペルオキシド、及びベンズピナコールシリルエーテルのようなC−C切断開始剤が挙げられる。
【0021】
ペルオキソ化合物の適切な代表例としては、ジアシルペルオキシド、ペルオキシカルボン酸エステル、ペルオキシジカーボネート、ペルケタール、ジアルキルペルオキシド、ペルオキソカルボン酸及びそれらのエステル、ケトンペルオキシド及び/又はヒドロペルオキシド、特に、ジ(3,5,5−トリメチルヘキセノイル)ペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカルボネート、ジシクロへキシルペルオキソジカーボネート、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボネート、ジミリスチル・ペルオキシジカルボネート、ジアセチル・ペルオキシジカルボネート、ジ−tert−ブチル・ペルオキシオキサレート、及び、ビバリン酸、ネオデカン酸、又は2−エチルへキサン酸と、tert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−アミルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロペルオキシへキサン、1,3−ジ(2−ヒドロキシ−ペルオキシイソプロピル)ベンゼンとの間の反応生成物からのペルオキシカルボン酸エステルが挙げられる。
【0022】
特に適切な熱ラジカル開始剤としては、アゾ化合物、特に、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチル−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド)及び/又はジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾイソブチレートが挙げられる。さらに適切なラジカル開始剤としては、ベンズピナコールシリルエーテルが挙げられる。
【0023】
本発明に係る方法の著しい利点の一つに、本方法のステップb)及びd)を、時間的に互いの後直ちに行なう必要がないことがある。むしろ、本熱硬化被膜は、UV露光によって後硬化される能力を失わずに、比較的長時間保管でき、及び/又は、作業を行うことができる。
【0024】
従って、例えば、もし品質欠陥が確認された場合、コーティングされかつ熱硬化された部品を製造ラインから取り出し、それを一時的に保管し、続いて、後続の修正のために送り出すことができる。ステップb)とd)との間の期間は、1分から数日、特に10日の継続期間に制限されることが好ましい。
【0025】
本方法の好ましい一変形形態では、熱硬化ステーションを出た直後に、コーティングされた部品の品質欠陥をオンラインで検査し、品質不合格とならなかった部品は、UV露光ステーションに直接送られ、不合格となった部品は取除かれることを想定している。UV露光の段階において、いかなる不合格判定もなかった部品は、優先的に高温のままとされる。
【0026】
本発明によれば、本方法に用いられるコーティング組成物は、熱開始によりラジカル重合され得る。これは、本方法ステップにおけるコーティング材料の硬化に対する更に他の硬化機構の寄与を排除するものでは決してない。
【0027】
しかしながら、本発明に係る方法は、ステップb)の重合が熱ラジカル開始剤によって実質的に開始されることを優先的に想定している。
【0028】
ラジカル的に硬化可能な成分として、コーティング組成物には、エチレン性不飽和基を含むモノマーが含まれる。以下、「モノマー」は、重合に対して同様に適しているプレポリマー又はオリゴマーをも意味する。これらのモノマーは、一般的に、コーティング組成物のバインダーとしても知られている。好ましいエチレン性不飽和基又はモノマーには、それぞれ、特に、(メタ)アクリレート、ビニルエステル、ビニルエーテル、アクリルアミド、塩化ビニル、アクリロニトリル、ブタジエン、不飽和脂肪族、スチレン誘導体、マレイン酸基、又はフマル酸基が含まれる。これらの反応基を含む典型的なオリゴマーの代表例には、ポリエステル、ポリウレタン、アルキド樹脂、エポキシ、ポリエーテル、又はポリオレフィンがある。特に好ましいのは、複数の(メタ)アクリレート置換モノマーとオリゴマーである。好ましくは、エチレン性不飽和基を含むモノマーの10〜99重量%が、アクリレート化合物から形成される。
【0029】
好ましいコーティング組成物の一例では、モノマーが多官能化合物を含む。これらには、特に、式(4)のペンタエリスリトール誘導体と一般式(5)のイソシアヌレート基との反応から得られるアクリレート変性イソシアヌレートが含まれる。2つの反応物質(4)と(5)の付加化合物は、式(4)の化合物の遊離ヒドロキシ基と式(5)の化合物のイソシアネート基との間の縮合反応によって形成される。
【0030】
ペンタエリスリトール誘導体の一般式は、次の通りである。
【0031】
【化1】

【0032】
但し、X=−CO−CH=CH2又は−Cnm又は−CO=Cnmである。ここで、−Cnmは1〜3個の炭素原子を有する脂肪族基であり、0、1、2、または3個の置換基Xが、−Cnm及び/又は−CO−Cnmによって形成される。
【0033】
特に好ましい一実施形態では、置換基Xの全てが、同時に−CO−CH=CH2からなる。この結果形成される化合物は、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとも呼ばれる。
【0034】
イソシアヌレート基の一般式は、次の通りである。
【0035】
【化2】

【0036】
この式において、Yは、3〜8原子の長さを有する有機分子鎖であり、このYの有機分子鎖は、少なくとも3個のC原子(炭素原子)とN、O、及び/又はSによって形成される付加的に存在し得るヘテロ原子を有する。好ましい一実施形態では、分子鎖Yが脂肪族基であり、この分子鎖が6つのメチル基からなることが特に好ましい。
【0037】
さらに他の好ましい多官能モノマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートがある。
【0038】
好ましいモノマー含量は、コーティング組成物の5〜55重量%の範囲であり、さらに好ましくは、20〜40重量%の範囲である。
【0039】
さらに他の成分として、コーティング組成物が、共重合可能な比較的高分子量のもの(プレポリマー)を含んでもよい。好ましいプレポリマーとしては、(ポリ)イソシアネートとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの反応によって合成される、2、3、4、又は6官能ウレタンアクリレートが挙げられる。用いられるイソシアネートの性質によって、脂肪族アクリレートと芳香族アクリレートとの区別がある。芳香族系の場合、用いられるイソシアネートは、大部分、トリレンジイソシアネート(TDI)又はジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)である。適切な脂肪族イソシアネートとしては、特に、イソホロンジイソシアネート(IPDI)又はヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)及びその高次ポリマー(ビウレット、イソシアヌレート等)がある。
【0040】
コーティング組成物には、必要に応じて、固体の充填剤(補助剤)が含まれる。この充填剤は、特に、機械的特性の更なる改良をもたらすことができる。適切な充填剤としては、有機ポリマー又は無機物質が挙げられる。ここで、特に適切なのは、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、又はガラスである。特に好ましい充填剤は、対応するコーティング組成物に用いられるバインダーのモノマーから得られるポリマー生成物である。充填剤は、通常、5μm未満の平均粒子径を有する非常に微細な粉体、または、ナノパウダーである。
【0041】
さらに他の成分として、コーティング組成物がUV安定剤をさらに含んでもよい。このUV安定剤は、強い太陽光又は紫外線によって生じる、ポリマーに悪影響を与えることが知られている損傷を低減させる。コーティング材料は、耐候性を有するべきであり、屋外で使用されることが可能であるべきであるため、このことは、車両用の仕上げとして用いられる場合に、特に重要である。UV安定剤は、通常、硬化されたコーティング材料内において紫外線を吸収し、それをより長い波長で再び放出するUV吸収剤から構成される。その吸収領域は、好ましくは、200〜400nmの範囲である。本発明によれば、特に、ベンゾフェノン、α−ヒドロキシベンゾフェノン、ベンゾトリアゾル、α−ヒドロキシベンゾトリアゾル、ベンゾエート、オキサニリド、又はサリチル酸エステルをベースとする吸収剤が用いられる。この吸収剤の好ましい割合は0.5〜5重量%の範囲である。
【0042】
本コーティング組成物のさらに他の可能な成分として、1〜50重量%の有機溶媒が挙げられる。特に適切な溶媒としては、キシレン及び/又はブチルアセテートが挙げられる。
【0043】
本発明は、この熱的に硬化した被膜が作業を受けた後、UV露光によるコーティング材料の完全な硬化が行なわれることが想定されている。
【0044】
これに関連して、完全な硬化に対し、コーティング組成物がいかなるUV開始剤をも必要としないことが重要な点である。これは、UV開始剤を含む二重硬化コーティング材料に対し、著しい利点を与える。何故なら、これらの二重硬化コーティング材料は、UV露光操作の前には、紫外線を除く特別な照明の下でしか取り扱うことができないからである。そうでないと、UV開始剤が分解を受け、光、特に太陽光があると、被膜が更なる硬化を受けることになるのである。
【0045】
従って、本発明によれば、本方法のステップb)とd)の間のステップを、特別の予防措置なしで行なうことができ、有利である。特に、品質検査及び品質欠陥の除去(ステップc)において、被膜は、通常の照明又は太陽光に容易に曝すことができる。
【0046】
従って、実質的にUV開始剤を含まないコーティング組成物を用いることが好ましい。
【0047】
本発明のUV露光は、UVコーティング材料の硬化に対する通常の技術に従ってなされる。紫外線の照射は、好ましくは、UV放射体によって行なわれ、UV源の照射最大値は、好ましくは、100〜400nmの範囲にある。硬化に用いられる光の波長分布は、220nmよりも十分に高い部分を含むことが好ましく、500nmまでの波長を含むことがさらに好ましい。
【0048】
UV露光は、熱的に硬化されたコーティング材料と比較して、著しく増大した硬度及び/又は耐擦過性が得られるように行なわれる。好ましくは、ステップb)の直後よりも少なくとも15%高い被膜硬度がもたらされるようにステップd)を行う。
【0049】
驚いたことに、本発明によれば、UV露光によるステップd)における硬化に対して、UV開始剤又は熱開始剤のいずれも必要がないことが見出された。これは、ステップd)における後硬化に対して、コーティング組成物中に付加的なUV開始剤を含ませる必要がないことを意味している。同様に、熱及び光による誘起の両方で開始可能なステップb)(熱硬化)用の開始剤は、実質的にすでに反応を受け終えている。後者の開始剤には、とりわけ、ある種のアゾ化合物が含まれる。
【0050】
従って、熱開始剤が実質的に反応し、特に熱ラジカル開始剤の濃度が少なくともその初期レベルの0.1%未満に低下するまで、熱硬化をおこなうことが好ましい。これは、一般的に、ステップb)における熱硬化を、対応する操作温度における添加された熱ラジカル開始剤の半減期の少なくとも10倍の期間にわたって行なうことによって、達成され得る。
【0051】
本発明のさらに他の一態様は、本発明に係る方法に適した、エチレン性不飽和基を含むモノマーと熱ラジカル開始剤とを含むコーティング組成物に関する。
【0052】
本発明では、このコーティング組成物が実質的にUV開始剤を含まず、熱硬化及びそれに続くUV照射の後の被膜の硬度が、UV照射を行なわない熱硬化の後よりも約15%高いことが想定されている。
【0053】
好ましいコーティング組成物では、不可欠な成分として、
−1〜5重量%の熱開始剤と、
−30〜90重量%のエチレン性不飽和基を含むモノマー(バインダー)と、
−0.5〜5重量%のUV吸収剤及びラジカルスカベンジャー(HALS)と、
−5〜50重量%の溶媒と
が含まれる。
【実施例】
【0054】
硬化被膜をコーティング材料から作製した。このコーティング材料の組成は次の通りである。
−熱開始剤:ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレートをベースとする和光化学から市販されているアゾ開始剤V601、
−エチレン性不飽和基を含むバインダー:10重量%のアクリレートモノマー、20重量%の{(ポリ)イソシアネートとヒドロキシアルキルアクリレートの反応によって合成可能な}2及び3官能ウレタンアクリレート、及び20重量%のジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、
−20重量%の{式(4)のペンタエリスリトール誘導体と一般式(5)のイソシアヌレート基の反応(但し、置換基Xは全て同時に−CO−CH=CH2によって形成されている)によって得られる}ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの反応性オリゴマー、
−1重量%のUV吸収剤とラジカルスカベンジャー(HALS)、および
−100重量%に対する残部としてのブチルアセテート溶媒。
【0055】
このコーティング材料を、金属基体を有するいくつかの試料にナイフコーティングによって数(a few)μmの厚みに塗布した。その後、不活性なガス中で130℃の熱硬化を行なった。
【0056】
25分の硬化時間(図1の実験結果を参照)と90分の硬化(図2の実験結果を参照)の2組の実験を行なった。
【0057】
2組の実験によって予硬化した試料を、異なる時間だけ空気中で保管し、次いで、紫外線を照射した。UVの出力は、略3000J/mm2であった。
【0058】
この後、被膜のユニバーサル硬度を測定した。結果は、グラフにプロットされている通りである。
− 図1は、UV後硬化のない130℃で25分間の熱硬化の比較試料(1)と、その直後にUV硬化を行なった比較試料(2)と、24時間の保管の後UV硬化を行なった比較試料(3)と、3日間の保管の後UV硬化を行なった比較試料(4)とについての、測定深さの関数としてのユニバーサル硬度(単位:N/mm2)の経過を示している。
− 図2は、UV後硬化のない130℃で90分間の熱硬化の比較試料(1’)と、その直後にUV硬化を行なった比較試料(2’)と、24時間の保管の後UV硬化を行なった比較試料(3’)と、3日間の保管の後UV硬化を行なった比較試料(4’)とについての、測定深さの関数としてのユニバーサル硬度(単位:N/mm2)の経過を示している。
【0059】
図1から、表面層の硬度は、UV後硬化によって、著しく増大され得ることが明らかである。熱的にのみ硬化された試料(1)は、そのちょうど表面の硬度値が70N/mm2であり、紫外線によって後硬化された3つの試料(2、3、及び4)は、全て2倍よりも大きい170N/mm2を有している。後硬化された試料の被膜の硬度、すなわち、深さに対応する硬度は、異なる保管期間に対して、いかなる顕著な差をも示していない。
【0060】
図2も、基本的には同じ硬度の経過を示している。しかし、この場合、硬度の最初のレベルは約90N/mm2であり、図1の試料の場合よりもいくらか大きい。これは、90分間行なわれた熱硬化が、対応する25分よりも長かったからである。この初期硬度が大きい場合においても、同様に、後硬化によって、硬度を実質的に2倍にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】硬化された被膜の測定されたユニバーサル硬度を示すグラフである。
【図2】別の形態で硬化された被膜の測定されたユニバーサル硬度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱開始によりラジカル重合可能なコーティング組成物から被膜を作製する方法において、少なくとも以下のステップを含むことを特徴とする方法。
a)基体を前記コーティング組成物でコーティングするステップ。
b)前記コーティング組成物を熱開始によって硬化させるステップ。
c)前記硬化されたコーティング材料における品質欠陥を除去するステップ。
d)前記コーティング材料を、UV露光によって、完全に硬化させるステップ。
【請求項2】
前記品質欠陥の除去が、被膜欠陥の補修及び/又は前記被膜の研摩を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記品質の検査が、局所的な再コーティングを含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)の後の前記被膜が、少なくとも手触りで乾燥していることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
ステップb)が、酸素分圧を下げた条件下で行なわれることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)とd)の間で、前記被膜が、1分から10日までの期間にわたって保管されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
エチレン性不飽和基を含むモノマーが、前記コーティング組成物中に、ラジカル的に硬化可能な成分として用いられることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)における前記重合が、実質的に熱ラジカル開始剤によって開始されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ラジカル開始剤が、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド)、及び/又は、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキセノイル)ペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカルボネート、ジシクロヘキシルペルオキソジカルボネート、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボネート、ジミリスチル・ペルオキシジカルボネート、ジアセチル・ペルオキシジカルボネート、ジ−tert−ブチル・ペルオキシオキサレートの群、及び/又は、ベンズピナコールシリルエーテルの群の少なくとも1つの化合物から選択されたものであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
実質的にUV開始剤を含まないコーティング組成物が用いられることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップd)が、ステップb)の直後の被膜硬度よりも少なくとも15%高い被膜硬度をもたらすことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップb)における前記熱硬化が、前記熱ラジカル開始剤の濃度がその初期値の0.1%未満に低下するまで行なわれることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップb)における前記熱硬化が、対応する操作温度における前記添加された熱ラジカル開始剤の半減期の10倍の期間にわたって行なわれることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
エチレン性不飽和基を含むモノマーと熱ラジカル開始剤とを含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法に適したコーティング組成物であって、
前記コーティング組成物が実質的にUV開始剤を含まず、熱硬化及びそれに続くUV照射の後の前記コーティング材料の硬度が、UV照射のない熱硬化の後よりも少なくとも15%高いことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項15】
前記組成物が、少なくとも以下の成分、
−30〜90%の、エチレン性不飽和基を含むモノマーと、
−1〜5重量%の熱開始剤と
を含むことを特徴とする、請求項14に記載のコーティング組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−15343(P2006−15343A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−193840(P2005−193840)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(598051819)ダイムラークライスラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【Fターム(参考)】