説明

コードレス電動工具

【課題】本発明の課題は、リチウム電池を用いたコードレス電動工具において、リチウム電池の過放電を防止すると共に、電池とモータを含む電流経路に挿入したFETの発熱を抑制することである。
【解決手段】リチウム電池セルよりなる電池組から、FETを介して駆動電流が供給される直流モータと、電池組の電圧を検出する電圧検出手段と、電池組の電圧が所定値以下になったときにFETをオフにする制御手段を備えると共に、直流モータに設けられたファンにより電池パックからハンドル部のハウジング内部を通り、ハウジング外に導く空気流路を形成し、該空気流路に上記FETを配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム電池を用いたコードレス電動工具に係り、特にリチウム電池の過放電を防止するための回路手段を備えたコードレス電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ドライバ、電動ドリル、インパクト工具などの電動工具は一般に、回転動力を発生するモータの回転数を減速機構により減速した後、回転動力を先端工具に伝達するように構成されている。モータの電源としては従来、交流の商用電源が用いられてきたが、近年、ニッケル・カドミウム電池(以下ニカド電池)や、ニッケル水素電池などに代表されるアルカリ二次電池を電源として用いたコードレス電動工具が多用されるようになった。
【0003】
このコードレス電動工具においては、工具の所要電圧が大きくなるに従って、当然、電池パック内に収容する電池セル数も多くなる。例えば、ニカド電池セルの公称電圧は1.2Vであるため、電池電圧が14.4Vの電動工具では12個、24Vの場合は20個の電池セルを電池パックに収納して電動工具に装着する必要がある。従って所要電圧が大きくなるに従って、工具全体の重量が重くなるという問題があった。
【0004】
これに対し、リチウム電池、リチウムイオン電池に代表される有機電解液二次電池は、公称電圧が大きいために、必要とするセル数を少なくすることができ、この結果、電動工具を軽量小型にできるという利点がある。
【0005】
ここでリチウム電池とは、バナジウム・リチウム電池、マンガンリチウム電池等を指し、いずれも負極にリチウム・アルミ合金を用い、有機電解液を使用した電池を言う。また、リチウムイオン電池は一般に、正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を使用し、電解液として有機電解液を用いたものである。本願明細書では、便宜上、リチウム電池及びリチウムイオン電池を含む有機電解液二次電池を総称して、単にリチウム電池と称することにする。
【0006】
リチウム電池の公称電圧は、例えば3.6Vと高く、二カド電池の3本分に相当する電圧が得られるから、リチウム電池を電動工具の電源として用いた場合はセル本数を大幅に低減できる利点があるが、その反面、リチウム電池は、過充電、過放電を行ったり、過電流を流すと著しく性能が劣化し、サイクル寿命が短くなってしまうという問題がある。また、リチウム電池を過充電すると、電解液の分解に伴ってガスが発生するという問題もあり、更には過放電を行うと特性が著しく劣化し、その後の充電で電池内部に短絡が生じることもある。
【0007】
このため本出願人は先に、特願2001−356576号(特開2003−164066号)において、電池パックとモータとの間に電界効果トランジスタ(以下FETという)よりなるスイッチング素子を挿入し、過放電に至る前にスイッチング素子を遮断して電池セルを保護する回路及びその制御方式について出願した。
【0008】
【特許文献1】特開2003−164066号公報
【特許文献2】特開平11−55866号公報
【特許文献3】特開2002−223525号公報
【特許文献4】特開2000−12107号公報
【特許文献5】特開平4−75430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、電池セルの過放電防止或いは過電流保護のために、電池組と直流モータを含む電流路にFETを挿入すると、次に示すように新たな問題が生じることが見出された。
【0010】
従来、リチウム電池はパソコンや携帯電話などに主として用いられてきたが、電動工具はこれらの機器に比較してはるかに大きな電流が流れる。例えば、電動ドライバ用のモータには通常30A程度の電流が流れ、その電流経路中に過放電防止用或いは過電流保護用のスイッチング素子としてFETを挿入すると、FETの発熱が問題になることが判明した。特に電動工具に装着した先端工具が被加工物に食い込んだり、噛み付いたりして、モータがロックした時には過大な負荷電流が流れ、この負荷電流がFETにも流れるためFETが過熱する可能性がある。
【0011】
仮にFETの過熱により、そのソース・ドレイン間がショートするような故障が発生すると、FETが機能しなくなり、過放電防止或いは過電流保護の機能がなくなるため、リチウム電池セルを著しく劣化するという問題を招くことになる。
【0012】
本発明は、上記のような従来の問題を解決した電動工具を提供することを目的とする。具体的には、リチウム電池を電源とする電動工具において、リチウム電池の過放電防止或いは過電流保護のために、電池組とモータを含む電流経路にスイッチング素子としてFETを接続すると共に、FETを空気流路に配置することにより、FETの発熱を抑制し、その発熱に伴う事故を防止した電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の目的を達成するために、ファンを有する直流モータを収納する本体胴体部と、該本体胴体部に連結されたハンドル部と、該ハンドル部の端部に装着され、複数個のリチウム電池セルよりなる電池組を収納する電池パックとを備えたコードレス電動工具において、前記電池組から前記直流モータに駆動電流を供給する電流経路にスイッチング素子を接続すると共に、前記ファンの回転により、前記電池パックから前記ハンドル部を介して前記本体胴体部に空気流路を形成し、該空気流路に前記スイッチング素子を配置したことに一つの特徴がある。
【0014】
本発明の他の特徴は、前記電池パックは電池組を収納する電池セル収納部と、前記ハンドル部に装着される装着部とよりなり、前記スイッチング素子を前記装着部の内部空間に配置したことにある。
【0015】
本発明の他の特徴は、前記スイッチング素子をFETより構成し、その上面又は下面にヒートシンクを形成したことにある。
【0016】
本発明の他の特徴は、ファンを有する直流モータを収納する本体胴体部と、該本体胴体部に連結されたハンドル部と、該ハンドル部の端部に装着され、複数個のリチウム電池セルよりなる電池組を収納する電池パックとを備えたコードレス電動工具において、前記電池パックは前記電池組を収納する電池セル収納部と、前記ハンドル部に装着される装着部を有し、前記電池セル収納部と前記装着部にそれぞれ通風口を設けて前記電池パック内に空気流路を形成し、空気流路にFETを配置すると共に、該FETを前記電池組から前記直流モータに駆動電流を供給する電流経路に接続したことにある。
【0017】
本発明の他の特徴は、前記本体胴体部のハウジングに通風口を設け、前記電池セル収納部から前記装着部の通風口及び前記ハンドル部内を通り前記本体胴体部の通風口から外気に通ずる空気流路を形成したことにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば直流モータに設けたファンにより電池パック及びハンドル部内の空間に空気流路を形成し、その空気流路にスイッチング素子であるFETを配置したので、FETの過熱を防止することができる。従ってFETのショート事故等によりリチウム電池を過放電にしたり、或いは過電流を流して劣化させるという問題を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明にかかる電動工具の一実施例について、概略構成、過放電防止回路、過放電防止の制御フロー及びスイッチング素子の配置構成の順に説明する。
【0020】
(1)概略構成
図1は本発明にかかる電動工具を示す。電動ドライバ、電動ドリル、電動レンチ等の電動工具200は、本体胴体部200Aと、該本体胴体部200Aに連結されたハンドル部200Bとから構成され、ハンドル部200Bの端部からリチウム電池セルを収納した電池パック1が装着される。
【0021】
本体胴体部200Aのハウジングの中には、回転動力を発生する直流モータ210、直流モータ210の回転速度を減速する減速機構部300が収納され、その先端にはドリル、ドライバ等の先端工具(図示せず)が装着される。インパクト工具の場合には、減速機構部300と先端工具との間にハンマ等の打撃機構部(図示せず)が設けられる。
【0022】
電池パック1内には、例えば公称電圧3.6Vのリチウム電池セルが複数個収納される。例えば電動工具200が14.4Vで動作する場合は、4個の電池セルを直列接続した電池組が用いられる。電池パック1は、電池組を収納する電池セル収納部1Aと、ハンドル部200Bに装入される円筒状の装着部1Bとからなる。後述のように、本発明では、円筒状装着部1Bの内部から仕切板252の通風口253、及びハンドル部200B内の空間260を通って本体胴体部200Aの内部に通ずる空気流路が形成され、その空気流路に回路基板が配置されている。
【0023】
電池パック1からの直流電圧は、FETよりなるスイッチング素子21(図2)を介し、リード端子201よりスイッチ220を通って直流モータ210に供給される。電池パック1内のリチウム電池電圧が所定電圧以下になると、過放電を防止するためにスイッチング素子21がオフにされる。同様に直流モータに過電流が流れ続けたときもスイッチング素子21はオフ状態となるように制御される。
【0024】
以下、便宜上、リチウム電池セルよりなる電池組の過放電防止を例にとってその具体的な回路及び制御フローについて説明する。
【0025】
(2)過放電防止回路
本発明にかかる電動工具において、リチウム電池よりなる電池組の過放電を防止する回路としては、本出願人が先に出願した特願2001−356576号(特開2003−164066号)に記載された回路と同様の回路を用いることができる。以下この回路について説明する。
【0026】
図2は、電池パック1を電動工具200に接続した状態の回路図である。電池パック1の正極端子2と負極端子3は、電動工具200に設けられている正極端子201と負極端子202にそれぞれ接続されている。電動工具200の正極端子201と負極端子202の間には、直流モータ210とスイッチ220が直列に接続されている。電池パック1には、電池セル11〜14を接続片で直列接続してなる電池組10が収納されている。
【0027】
電池パック1と電動工具200を接続して、電動工具200のスイッチ220をオンにした場合に、電池組10の正極端子から電動工具200を介して電池組10の負極端子に流れる放電電流経路が形成される。この経路には、スイッチ部20,定電圧電源30,電池電圧検出部40,トリガ検出部80が接続されている。これら各部は制御手段たるマイクロコンピュータ60(以下、マイコン60という。)に接続されている。電池パック1には、更に、電池温度検出部50と表示部90が含まれ、これらもマイコン60に接続されている。
【0028】
マイコン60は、中央処理装置(以下CPU)61、ROM62、RAM63、タイマ64、A/Dコンバータ65、出力ポート66、リセット入力ポート67から構成され、これらは内部バスにより相互に接続されている。
【0029】
スイッチ部20は、電池組10の負極側と電池パック1の負極端子3の間に接続されており、マイコン60の制御により、電動工具200に流れる負荷電流をスイッチングするためのものである。スイッチ部20は、FET21、ダイオード22及び抵抗23、24から構成されており、FET21のゲートには抵抗24を介してマイコン60の出力ポート66より制御信号が印加される。FET21のソース・ドレイン間にはダイオード22が接続されており、電池組10の充電時の充電電流経路を構成している。
【0030】
電流検出部70は、電池組10に流れる電流を検出するためのものであり、入力側はダイオード22のカソードとFET21のドレインの接続点に接続されており、出力側はマイコン60のA/Dコンバータ65に接続されている。
【0031】
電流検出部70は、反転増幅回路と非反転増幅回路の両方を備えた構成で、FET21のオン抵抗及びダイオード22のオン電圧に基づき、その流れる電流の方向によって生じる電位を、反転増幅及び非反転増幅する。充電及び放電に対応して反転増幅回路または非反転増幅回路に出力が生じ、この出力に基づきマイコン60のA/Dコンバータ65はA/D変換をする。
【0032】
定電圧電源30は、3端子レギュレータ31、平滑コンデンサ32、33、リセットIC34から構成されており、定電圧電源30から出力される定電圧VCCは、電池温度検出部50、マイコン60及び電流検出部70、表示部90の電源となる。リセットIC34はマイコン60のリセット入力ポート67に接続されており、マイコン60を初期状態にするためにリセット入力ポート67にリセット信号を出力する。
【0033】
電池電圧検出部40は、電池組10の電池電圧を検出するためのもので、抵抗41〜43からなる。電池組10の正極端子とアース間に直列接続された抵抗41,42の接続点は、抵抗43を介してマイコン60のA/Dコンバータ65に接続されている。A/Dコンバータ65からは、検出した電池電圧に対応するデジタル値が出力され、マイコン60のCPU61は、当該デジタル値と後述する第1所定電圧及び第2所定電圧とを比較する。第1所定電圧と第2所定電圧はマイコン60のROM62に記憶されている。
【0034】
電池温度検出部50は、電池組10の近傍に配置して電池組10の温度を検出するものであり、感温素子としてのサーミスタ51、抵抗52〜54から構成されている。サーミスタ51は抵抗53を介してマイコン60のA/Dコンバータ65に接続されている。A/Dコンバータ65からは、検出した電池温度に対応するデジタル値が出力され、マイコン60のCPU61は、当該デジタル値と予め設定した所定値とを比較し、電池温度が異常高温であるかどうかの判断を行う。
【0035】
トリガ検出部80は抵抗81、82からなり、電動工具200のスイッチ220のオン動作を検出する。スイッチ220がオンされれば、直流モータ210の直流抵抗は非常に小さい(数オーム程度)ので、FET21のドレイン・ソース間にはほぼ電池電圧が印加され、この電圧を抵抗81、82で分圧してA/Dコンバータ65へ入力し、スイッチ220のオン動作を検出している。
【0036】
表示部90はLED91、抵抗92からなり、マイコン60の出力ポート66の出力に応じてLED91の点灯、点滅制御を行っている。表示部90は、たとえば、電池温度検出部50で検出した電池温度が所定温度よりも高い場合には、電池温度異常表示を行う。
【0037】
(3)過放電防止制御フロー
次に図3を参照して、本発明電動工具に用いられるリチウム電池組10の過放電を防止するための制御フローの一実施例について説明する。この制御プログラムはマイコン60のROM62に格納されており、CPU61により逐次読み出されて実行される。
【0038】
まずステップS101において、マイコン60は、出力ポート66をイニシャルセットすると共に、電池組10が過放電になったことを示す過放電フラグ、電池組10が過放電間近になったことを示すパルス制御開始フラグを0にイニシャルセットする。
【0039】
次にステップS102において、過放電フラグが1であるか否かを判別する。過放電フラグは電池組10が過放電状態であるかどうかを示すフラグで、1の場合には、電池組10が過放電状態であることを示し、0の場合には過放電状態にないことを示す。
【0040】
ステップS101で過放電フラグは0にイニシャルセットされているので、ステップS102の判定が否定(NO)の場合、つまり過放電フラグが1でないと判別されるとステップS103に進み、スイッチ部20のFET21のドレイン・ソース間電圧VDSを検出する。次いで、ステップS104において、トリガ検出部80の出力に基づいて、電動工具200のスイッチ220がオンされたか否かの判別を行う。スイッチ220がオンされればFET21のドレイン・ソース間にほぼ電池電圧が印加されるので、ステップS103で検出したドレイン・ソース間電圧VDSに基づきスイッチ220のオン動作の検出が可能になる。
【0041】
ステップS104においてスイッチ220がオンされてない場合は、ステップS102の処理に戻る。スイッチ220がオンされた場合は、ステップS105に進み、出力ポート66の出力に従い、スイッチ部20のFET21をオンにする。更にステップS106において、パルス制御開始フラグが1であるか否かを判別する。パルス制御開始フラグが1の場合は、ステップS111の処理へスキップする。
【0042】
ステップS106の判定の結果、パルス制御開始フラグが1でない場合は、ステップS107に進み、電池電圧検出部40の出力に基づいて電池組10の電池電圧が第2所定値以下に達したか否かの判別を行う。電池電圧が第2所定値以下かどうかの判別は、本実施の形態においては、電池組10が過放電間近であるかどうかの判別である。過放電間近であるかどうかは、放電電流の大きさ等によって異なるが、例えば公称電圧が3.6Vのリチウム電池の場合は、2.5〜2.7V程度に達していれば放電間近と言える。
【0043】
同様に、後述するステップS111の第1所定電圧は、電池組10が過放電状態にあるかどうかを判別するための基準電圧であり、よって、第1所定電圧は第2所定電圧より低い値に設定する。電池組10が過放電状態にあるかどうかを判別するための基準電圧は、放電電流の大きさ等によって異なるが、公称電圧が3.6Vのリチウム電池の場合、2.3〜2.5V程度となるので、これらの値を基準に第1所定値を設定すればよい。
【0044】
ステップS107の判定の結果、電池組10の電池電圧が第2所定値以下になっていない場合は、引き続き放電を継続して差し支えない。
【0045】
ステップS107において、電池組10の電池電圧が第2所定値以下に達した場合は、電池組10が過放電間近になったと判別し、ステップS108に進み、出力ポート66の出力に従いスイッチ部20のFET21を所定の周波数でスイッチングするパルス制御を開始する。パルス制御が開始すると、直流モータ210に印加される電圧が低下し、直流モータ210の回転数が低下する。電動工具200の使用者は、直流モータ210の回転数の変動を感知することで、電池組10が過放電間近になったことを知ることができる。
【0046】
ステップS108におけるパルス制御を開始した後、ステップS109でパルス制御開始フラグを1にセットし、更にステップS110において、出力ポート66の出力で表示部90に電池過放電間近表示を行わせる。これにより電動工具200の使用者は、過放電間近になったことを確認することができる。次いで、ステップS111において、電池電圧検出部40の出力に基づいて、電池組10の電池電圧が第1所定値以下に達したか否かの判別を行う。電池組10の電池電圧が第1所定値以下になっていない場合は、先に述べたステップS109の処理に戻る。
【0047】
ステップS111において、電池組10の電池電圧が第1所定値以下に達した場合は、電池組10が過放電状態に入ったと判別し、ステップS112で電池過放電フラグを1にセットする。そして、ステップS113で出力ポート66の出力に従い、表示部90に電池過放電表示をさせ、使用者に電池組10の充電を促す。次いで、ステップS114において出力ポート66の出力に従い、スイッチ部20のFET21をオフさせ、ステップS102の処理に戻る。
【0048】
一方、ステップS102により過放電フラグが1であると判定されると、ステップS115において、電流検出部70の出力に基づいて電池組10が充電されたか否かの判別を行う。過放電フラグが1の状態にあるので、電池組10は通常は、充電しない限り使用することができない。なお、充電は、電池パック1を電動工具200から取り出し、図示しない充電器に接続することにより行う。電池組10が充電されたかどうかの判定は、電池組10に流れる電流の向きを検出することにより行われる。即ち、充電電流はダイオード22を介して電池組10の正極側から負極側に流れるので、電流検出部70が検出した電流の方向に従い、充電がされたかどうかの判別をしている。ステップS115では、充電が一定時間継続して行われた場合に充電が行われたと判別し、ステップS116へ進む。
【0049】
ステップS115で、充電が行われていないと判断されると、ステップS102に戻り充電されるのを待つ。ステップS115において、電池組10の充電が完了したと判定されると、ステップS116において過放電フラグを0にセットし、更にステップS117において表示部90の電池過放電表示をオフしてステップS102に戻る。
【0050】
本発明による電動工具の制御方式は上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、上記実施の形態においては、電動工具200の使用中に電池電圧が第2所定値以下に低下した場合は、スイッチ部20を制御することにより直流モータ210の回転数を強制的に低下させ(第1の制御)、更に、電池電圧が第2所定値よりも更に低い第1所定値以下に低下した場合には、スイッチ部20を制御して直流モータ210への負荷電流を遮断するようにしたが(第2の制御)、第1の制御を割愛し、第2の制御のみを行うようにしてもよいし、逆に第2の制御を割愛し、第1の制御のみを行うようにしてもよい。
【0051】
図2及び図3のような構成及び制御によれば、電池電圧検出手段の出力が第1所定電圧以下となり、電池組の容量が低下したことが検出された場合には、電池組から電動工具に流れる電流を遮断するので、第1の所定電圧を電池組の過放電電圧に相当する電圧に設定すれば、電池組の過放電を確実に防止することができ、飛躍的なサイクル寿命の向上が図れる。
【0052】
(4)回路基板の配置構成
前述のように、図2のFET21を電池電圧に応じてオン・オフ制御することにより電池組10の過放電を防止することが可能であるが、そのためには電池パックの放電中、常時FET21にモータ駆動電流を流しておかなければならない。しかし直流モータ210に流れる電流は、例えば30A程度と大きいから、長時間、大電流がFET21に流れると、その発熱が極めて深刻である。このため本発明にかかる電動工具においては上記FET21を空気流路中に配置している。
【0053】
図4は、本発明電動工具に用いられる電池パック1の一実施例を示す断面図、図5は本発明にかかる電動工具の本体胴体部とハンドル部の一実施例を示す断面図である。電池パック1はリチウム電池セル11,12,…を収納する電池セル収納部1Aと、電動工具のハンドル部200Bに挿入される円筒状の装着部1Bとから構成される。電池セル収納部1Aには、図4では4個のリチウム電池セル11,12,13,14が収納され、互いに接続片100,101により接続されている。14.4Vで駆動される電動工具には、公称電圧3.6Vのリチウム電池セルを4個直列に接続して用いるか、あるいは電流容量を増やすために直列に接続された4個の電池組を2組並列に接続して使用する。
【0054】
電池セル収納部1Aの前方(先端工具の側)側面には、バネ110で支持された操作片102が設けられており、これを押すと係合部103がハンドル部200Bのハウジング240(図5)に係合するように構成されている。電池セル収納部1Aの上面は、図5に示すように装着部1Bの断面より幅広く形成されているので、その上面に通風口を設けて電池セル収納部1Aに空気を取り込み易いようにすることができる。
【0055】
図4の装着部1Bには、その上端部にターミナル保持部108が設けられ、その表面にターミナル104が形成されている。リチウム電池セル11〜14の直流電圧は、ターミナル104から図1のリード端子201、スイッチ220を介して電動工具の本体胴体部200Aに収容された直流モータ210に供給される。
【0056】
装着部1Bの内部には回路基板105が配置され、その上にFET21A及び21Bが搭載される。図2の回路図では、スイッチング素子として1個のFET21が示されているが、電流容量を増やすために2個のFET21A,21Bを並列に接続して用いることがあるので、図4には2個のFET21A,21Bが基板105に搭載される。FET21の上面に、図5に示すようにヒートシンク107を搭載し、FET21の熱をより放熱し易くすることが望ましい。また、図5に示すように装着部1Bの上面には通風口109が設けられている。電池セル収納部1Aに入った空気は、通風口109及び仕切板252に設けられた通風口253を通り、更にハンドル部200Bの空気流路260を通って本体胴体部200Aを形成するハウジング240の内部に導かれる。ハウジング240内には図1に示すように直流モータ210が収容されている。直流モータ210の回転軸には図5に示すようにファン233が設けられ、また直流モータ210のハウジング231には通風口232が設けられている。更に、本体胴体部200Aのハウジング240の一部にも通風口241が設けられている。
【0057】
直流モータ210の回転に伴ってファン233が回転し、この回転により発生する空気流が通風口232及び通風口241を通ってハウジング240の外に流れると、このときの空気流によりハンドル部200Bの空気流路260の空気も吸い込み、ハンドル部200B内に、図5の矢印で示すような空気流を形成する。
【0058】
スイッチング素子であるFET21は、上記のようにして形成される空気流路中に配置されているので放熱が効率よく行われ、異常に過熱することはない。しかもFET21の上面にヒートシンク107を搭載しているので、放熱作用が一層促進される。
【0059】
この結果、FET21が過熱によるショート事故等を起こすことがなくなり、電池組10がFET21の加熱事故により過放電となることを防止することができる。
【0060】
またFET21は、電流検出部70により過電流が検出されたときにオフ状態となるように制御されるので、FET21のショート事故を防止できれば、FET21の加熱事故により電池組10に過電流が流れてしまうという問題も回避することができる。
【0061】
従って本発明の実施例によれば、スイッチング素子として機能するFET21の過放電或いは過電流時の発熱を抑制でき、リチウム電池の劣化を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明にかかる電動工具の概略構成図である。
【図2】本発明にかかる電動工具の電池パックとモータとの接続回路図である。
【図3】本発明にかかる電動工具の電池パックの制御フローの一実施例を示すフローチャートである。
【図4】本発明にかかる電動工具の電池パックの一実施例を示す断面図である。
【図5】本発明にかかる電動工具のハンドル部と本体胴体部の一実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1:電池パック、1A:電池セル収納部、1B:装着部、10:電池組、
11〜14:リチウム電池セル、20:スイッチ部、21:FET、30:定電圧電源、40:電池電圧検出部、50:電池温度検出部、60:マイコン、61:CPU、
62:ROM、63:RAM、64:タイマ、65:A/Dコンバータ、
66:出力ポート、67:リセット入力ポート、70:電流検出部、
80:トリガ検出部、90:表示部、100,101:接続片、102:操作片、
103:係合部、104:ターミナル、105:回路基板、107:ヒートシンク、
108:ターミナル保持部、109:通風口、110:バネ、200:電動工具、200A:本体胴体部、200B:ハンドル部、201:リード端子、210:直流モータ、220:トリガスイッチ、
231:モータハウジング、232:通風口、233:ファン、240:ハウジング、
241:通風口、252:仕切板、253:通風口、260:空気流路、
300:減速機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファンを有する直流モータを収納する本体胴体部と、該本体胴体部に連結されたハンドル部と、該ハンドル部の端部に装着され、複数個のリチウム電池セルよりなる電池組を収納する電池パックとを備えたコードレス電動工具において、前記電池組から前記直流モータに駆動電流を供給する電流経路にスイッチング素子を接続すると共に、前記ファンの回転により、前記電池パックから前記ハンドル部を介して前記本体胴体部に空気流路を形成し、該空気流路に前記スイッチング素子を配置したこと特徴とするコードレス電動工具。
【請求項2】
請求項1において、前記スイッチング素子はFETより構成されていることを特徴とするコードレス電動工具。
【請求項3】
請求項1において、前記電池パックは電池組を収納する電池セル収納部と、前記ハンドル部に装着される装着部とよりなり、前記スイッチング素子は前記装着部の内部空間に配置されていることを特徴とするコードレス電動工具。
【請求項4】
請求項2において、前記FETはその上面又は下面にヒートシンクが形成されていることを特徴とするコードレス電動工具。
【請求項5】
ファンを有する直流モータを収納する本体胴体部と、該本体胴体部に連結されたハンドル部と、該ハンドル部の端部に装着され、複数個のリチウム電池セルよりなる電池組を収納する電池パックとを備えたコードレス電動工具において、前記電池パックは前記電池組を収納する電池セル収納部と、前記ハンドル部に装着される装着部を有し、前記電池セル収納部と前記装着部にそれぞれ通風口を設けて前記電池パック内に空気流路を形成し、空気流路にFETを配置すると共に、該FETを前記電池組から前記直流モータに駆動電流を供給する電流経路に接続したこと特徴とするコードレス電動工具。
【請求項6】
請求項5において、前記FETを通常はオン状態にし、前記電池組に過電流が流れたとき又は前記電池組の電圧が所定値以下になったときにオフ状態とする制御手段を有することを特徴とするコードレス電動工具。
【請求項7】
請求項5において、前記本体胴体部のハウジングに通風口を設け、前記電池セル収納部から前記装着部の通風口及び前記ハンドル部内を通り前記本体胴体部の通風口から外気に通ずる空気流路を形成したことを特徴とするコードレス電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−281401(P2006−281401A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107059(P2005−107059)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】