説明

コールドスプレー法による金属材料の補修方法及びコールドスプレー用粉末材料の製造方法、並びに、コールドスプレー皮膜

【課題】 高い付着効率で、基材との接合性が高い緻密な皮膜を形成することができるコールドスプレー法による金属材料の補修方法及びコールドスプレー用粉末材料の製造方法、並びに、コールドスプレー皮膜を提供すること。
【解決手段】 高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の補修を行うために、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して固相状態のまま前記基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめることによりコールドスプレー法で前記金属材料を補修する方法であって、前記コールドスプレー用粉末材料が、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合したものであることを特徴とするコールドスプレー法による金属材料の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドスプレー法による金属材料の補修方法及びコールドスプレー用粉末材料の製造方法、並びに、コールドスプレー皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
コールドスプレー法とは、金属コ―ティング技術の一種であり、金属粉末を作動ガスと共に噴射させ、基材表面に衝突させることにより付着させて皮膜を形成する技術のことである。コールドスプレー法は、従来のプラズマ溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法等に比べ、粉末材料の粒子を加熱・加速する作動ガスの温度が著しく低く、粉末材料をあまり加熱せずに固相状態のまま基材へ高速で衝突させ、そのエネルギーにより基材と粒子に塑性変形を生じさせたり及び/又は機械的結合を生ぜしめて成膜させるため、従来の金属コーティング技術に比べ、高密度で熱伝導性や電気伝導性が高く、酸化や熱変質も少ない皮膜が得られるといった優れた性質を有する。
【0003】
しかしながら、高炭素鋼を含めた炭素鋼等の硬い鉄系材料を粉末材料として用いる場合には、従来、このように硬い材料粉末は塑性変形し難いために基材への付着が困難であり、コールドスプレー法による成膜は困難であると考えられていた。また、基材の補修箇所に対して攻撃することとなるため、基材に磨耗や損耗といった障害を発生せしめたり、皮膜形成部分に加工硬化を生じさせたりするという問題を有していた。
【0004】
そこで、コールドスプレー法により成膜対象部位に高炭素鋼の原料微粉末材を高効率に付着せしめることを目的として、特開2010−111906号公報(特許文献1)には、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末とからなる混合物粉末をコールドスプレー用粉末材料として用いたコールドスプレー法による金属材料の補修方法等が開示されており、高炭素鋼であっても付着効率を高めて皮膜層を形成できることや、皮膜の硬度を制御することができるといった効果が奏されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−111906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のコールドスプレー法による金属材料の補修方法においては、硬い高炭素粉末に比べて軟らかい軟鋼粉末の方が基材に容易に付着してしまうため、作製した皮膜内部における高炭素鋼の含有率が混合粉末における含有率に比べて低下したり、硬い高炭素粉末により軟らかい軟鋼粉末が削り取られたりするといったことが起こるために、金属粉末の付着効率が未だ十分ではないという課題があることを本発明者らは見出した。また、コールドスプレー用粉末材料において、高炭素粉末と軟鋼粉末とを単に混合しただけでは、作製した皮膜の緻密性や皮膜と基材との接合性が低下する場合があるという課題があることも本発明者らは見出した。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い付着効率で、基材との接合性が高い緻密な皮膜を形成することができるコールドスプレー法による金属材料の補修方法及びコールドスプレー用粉末材料の製造方法、並びに、コールドスプレー皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、コールドスプレー法による金属材料の補修方法において、コールドスプレー用粉末材料を製造する際に高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合することで前記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のコールドスプレー法による金属材料の補修方法は、
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の補修を行うために、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して固相状態のまま前記基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめることによりコールドスプレー法で前記金属材料を補修する方法であって、前記コールドスプレー用粉末材料が、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合したものであることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のコールドスプレー用粉末材料の製造方法は、
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の補修を行うために、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して、固相状態のまま前記基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめることによりコールドスプレー法で前記金属材料を補修するために用いるコールドスプレー用粉末材料の製造方法であって、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合する工程を含むことを特徴とするものである。
【0011】
また、前記メカニカルアロイング処理において、処理時間が10〜40時間であり、回転数が400〜600rpmであり、メカニカルアロイング処理に用いるボールの材質がジルコニア、アルミナ,炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記ボールの直径が8〜15mmであり、前記ボールの合計質量と高炭素鋼及び軟鋼の合計質量との質量比が40:60〜60:40であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のコールドスプレー皮膜は、
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の補修を行うために、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して、固相状態のまま前記基材に高速で衝突させて形成された皮膜であって、前記コールドスプレー用粉末材料が、本発明の製造方法により得られたコールドスプレー用粉末材料であることを特徴とするものである。
【0013】
なお、本発明のコールドスプレー法による金属材料の補修方法及び本発明のコールドスプレー用粉末材料の製造方法によって、高い付着効率で、基材との接合性が高い緻密な皮膜を形成することができる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のコールドスプレー法による金属材料の補修方法に用いるコールドスプレー用粉末材料においては、メカニカルアロイング処理によって硬い高炭素鋼の外側に軟らかい軟鋼が覆うように付着するため、硬い高炭素鋼を含んだ粉末であっても基材への付着が容易になると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い付着効率で、基材との接合性が高い緻密な皮膜を形成することができるコールドスプレー法による金属材料の補修方法及びコールドスプレー用粉末材料の製造方法、並びに、コールドスプレー皮膜を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】実施例1で得られたコールドスプレー用粉末材料のSEM写真である。
【図1B】実施例3で得られたコールドスプレー用粉末材料のSEM写真である。
【図1C】比較例1で得られたコールドスプレー用粉末材料のSEM写真である。
【図2A】実施例1で得られたコールドスプレー皮膜の断面のSEM写真である。
【図2B】実施例3で得られたコールドスプレー皮膜の断面のSEM写真である。
【図2C】比較例1で得られたコールドスプレー皮膜の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明は、「コールドスプレー法」技術を利用するものである。コールドスプレー法とは、コールドガスダイナミックスプレー法(cold gas dynamic spraying)とも呼ばれる技術で、粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度のガスを超音速流にして、前記超音速流のガス中に前記粉末材料の粒子を投入し、固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成する技術である。本発明では、当該粉末材料として、炭素鋼、特には高炭素鋼、又は少なくともそれを含有する粉末材料を使用し、また、該作動ガスの温度の上限をその粉末材料の融点以下又は軟化温度以下とするものである。なお、本発明において、粉末材料の軟化温度とは、粉末材料の強度又は硬さが室温での強度又は硬さの半分となる温度のことをいう。
【0018】
本発明のコールドスプレー法による金属材料の補修方法は、
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の表面の一部の補修を行う金属材料の補修方法であって、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめて、コールドスプレー法で基材の一部を補修する方法で、前記コールドスプレー用粉末材料が、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合したものであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のコールドスプレー用粉末材料の製造方法は、
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の表面の一部の補修用のコールドスプレー用粉末材料の製造方法であって、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめて、コールドスプレー法で基材の一部を補修するためのコールドスプレー用粉末材料の製造方法で、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合する工程を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明にかかるコールドスプレー用粉末材料は、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合したものである。このようなコールドスプレー用粉末材料の製造方法としては、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合する工程を含む。高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合することにより、形成される皮膜の硬さを所望の硬さに制御することが可能になると共に、粉末材料の付着効率が優れたものとなり、基材との接合性が高い緻密な皮膜を形成することができる。
【0021】
炭素鋼(carbon steel)とは、鉄と炭素の合金を指し、炭素含有量が、最低で0.021質量%含まれるものを指している。普通、最大炭素含有量は2.14質量%である。炭素鋼は含有されている炭素量が多くなると、引っ張り強さや硬さが増す半面、伸びや絞りが減少し、切削性が悪くなる。また、熱処理を施すことにより、大きく性質を変えることが出来る。鉄以外の含有成分としては、炭素のほか、Si(ケイ素)、Mn(マンガン)、P(リン)、S(硫黄)が含まれるが、これらは製造時に残った物である。炭素鋼のうち、炭素含有量が約0.3質量%を低炭素鋼(又は軟鋼)、約0.3〜0.7質量%を中炭素鋼、約0.7質量%以上を高炭素鋼という。
【0022】
また、炭素含有量が0.6質量%以下で構造用に使われるものは構造用炭素鋼、0.6質量%以上で工具用に使われるものは工具用炭素鋼と呼ばれる。日本工業規格(JIS)において、前記構造用炭素鋼としては一般構造用炭素鋼材(SS材)、機械構造用炭素鋼材(SC材)等の炭素鋼が定められている。前記一般構造用炭素鋼(SS)は、低温脆性の原因となるリン(P)と溶接強さを下げる硫黄(S)に対して成分範囲が規定されているが、機械構造用炭素鋼(SC)では、一層広い範囲で各成分範囲が規定されており、このような元素としては、炭素、Si、Mn、P、Sが挙げられる。
【0023】
また、炭素含有量の比較的大きな炭素鋼や高炭素鋼にニッケル、クロムを添加して焼入れ性をよくした合金鋼は、ニッケルクロム鋼であり、炭素含有量の比較的大きな炭素鋼や高炭素鋼にニッケル、クロム、モリブデンを添加して焼入れ性をよくした合金鋼は、ニッケルクロムモリブデン鋼であり、炭素含有量の比較的大きな炭素鋼や高炭素鋼にクロム、モリブデンを添加して焼入れ性をよくした合金鋼は、クロムモリブデン鋼であり、炭素含有量の比較的大きな炭素鋼や高炭素鋼にクロム、マンガン、ニッケル等を添加して焼入れ性をよくした合金鋼は、それぞれクロム鋼、マンガン鋼、ニッケル鋼等といわれている。合金鋼には、ステンレス鋼等も包含される。
【0024】
本発明に用いる高炭素鋼及び軟鋼としては、当該分野で知られたものを使用でき、所望の目的を達成できる限り特に限定されない。
【0025】
前記高炭素鋼としては、当業者であれば、目的に合わせて適宜選択できるが、例えば、化学成分:炭素(C)0.60〜1.50質量%、ケイ素(Si)0.35質量%以下、マンガン(Mn)0.50質量%以下、リン(P)0.030質量%以下、硫黄(S)0.030質量%以下であるもの;化学成分:炭素(C)0.65〜0.75質量%、ケイ素(Si)0.15〜0.30質量%、マンガン(Mn)0.60〜0.90質量%、リン(P)0.030質量%以下、硫黄(S)0.035質量%以下、銅(Cu)0.030質量%以下、ニッケル(Ni)0.020質量%以下であるもの;化学成分:炭素(C)0.80〜1.00質量%、ケイ素(Si)0.35質量%以下、マンガン(Mn)0.50質量%以下、リン(P)0.030質量%以下、硫黄(S)0.030質量%以下、ニッケル(Ni)0.025質量%以下であるもの;化学成分:炭素(C)0.73〜0.83質量%、ケイ素(Si)0.40質量%以下、マンガン(Mn)0.40質量%以下、リン(P)0.030質量%以下、硫黄(S)0.030質量%以下、タングステン(W)17.00〜19.00質量%、バナジウム(V)0.80〜1.20質量%以下であるもの;化学成分:炭素(C)0.70質量%、ケイ素(Si)0.30質量%、リン(P)0.045質量%以下、硫黄(S)0.045質量%以下、マンガン(Mn)0.80質量%であるもの等が挙げられる。
【0026】
このような高炭素鋼の硬度としては、ビッカース硬さ値で270〜330HVであることが好ましく、290〜320HVであることがより好ましい。硬度が前記下限未満になると得られる皮膜の耐摩耗性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、基材の補修箇所を摩耗させてしまう傾向にある。
【0027】
前記軟鋼としては、当業者であれば、目的に合わせて適宜選択できるが、例えば、化学成分:炭素(C)0.10質量%以下、ケイ素(Si)0.08質量%以下、マンガン(Mn)0.45質量%以下、リン(P)0.014質量%以下、硫黄(S)0.008質量%以下であるもの等が挙げられる。
【0028】
このような軟鋼の硬度としては、ビッカース硬さ値で80〜140HVであることが好ましく、100〜120HVであることがより好ましい。硬度が前記下限未満になると得られる皮膜の硬度が不十分になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる皮膜の付着効率が向上しなくなる場合がある。
【0029】
前記高炭素鋼及び前記軟鋼としては、当該分野で知られた方法で調製でき、市販品を使用することもできる。代表的な場合、前記高炭素鋼及び前記軟鋼の粉末としては、アトマイズ法で得られたものを好適に使用できる。また、このような粉末の粒径は、所望の目的を達成できるように、適宜、適切なものを選択できる。
【0030】
前記高炭素鋼の平均粒径としては、基材上に沈着するに十分な粒径のものであれば特に制限されることなく使用可能であるが、所望の皮膜の厚さを得ることができるもの、及び/又は、所望の強度の皮膜の形成ができるものが好ましく、また、高炭素鋼の種類やメカニカルアロイング処理の条件に応じて、それぞれできるだけ均一な粒子サイズとすることが好ましい。このような平均粒径としては、例えば、メカニカルアロイング処理前において、おおよそ1〜150μm、5〜100μm、10〜80μm、12〜50μmである平均粒径の範囲を挙げることができ、具体的には、15〜40μm、17〜30μmであることが好ましく、19〜27μmであることがより好ましく、21〜25μmであることが特に好ましい。平均粒径が前記下限未満になると,コールドスプレー法において作動ガスへの材料粉末の供給に支障が起きる場合があり、他方、前記上限を超えると、得られる皮膜の付着効率が低下する傾向にある。
【0031】
前記軟鋼粉末の平均粒径としては、基材上に前記高炭素鋼粉末が十分な付着効率で付着することが達成できるに十分な粒径のものであれば特に制限されることなく使用可能であるが、所望の皮膜の厚さを得ることができるもの、及び/又は、所望の強度の皮膜の形成のできるものが好ましく、また、軟鋼の種類やメカニカルアロイング処理の条件に応じて、それぞれできるだけ均一な粒子サイズとすることが好ましい。このような平均粒径としては、例えば、メカニカルアロイング処理前において、おおよそ1〜500μm、15〜200μm、20〜150μm、25〜200μmである平均粒径の範囲を挙げることができ、具体的には、30〜100μm、30〜80μmであることが好ましく、40〜50μmであることがより好ましい。平均粒径が前記下限未満になるとコールドスプレー法において作動ガスへの材料粉末の供給に支障が起きる場合があり、他方、前記上限を超えると、付着効率が低下する傾向にある。
【0032】
本発明にかかるコールドスプレー用粉末材料において、前記高炭素鋼及び前記軟鋼の混合比は、基材上に前記高炭素鋼粉末が十分な付着効率で付着することが達成できる範囲であれば特に制限されることはないが、所望の皮膜の厚さを得ることができる混合比、及び/又は、所望の強度の皮膜の形成ができる混合比であることが好ましく、例えば、質量比(高炭素鋼粉末:軟鋼粉末)で、1:99〜99:1、5:95〜95:5、10:90〜90:10の質量比の範囲を挙げることができ、具体的には、20:80〜80:20であり、50:50〜80:20であることが好ましく、70:30〜80:20であることがより好ましく、75:25〜80:20であることが特に好ましい。高炭素鋼の軟鋼に対する質量比が前記下限未満になると得られる皮膜の耐摩耗性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、付着効率が低下する傾向にある。
【0033】
本発明にかかるコールドスプレー用粉末材料としては、前記高炭素鋼粉末及び前記軟鋼粉末に加えて、合金鋼粉末が包含されていてもよい。また、前記高炭素鋼粉末は一つの種類のものを単独に使用することもできるし、複数の種類のものを混合して、その混合物を使用することもできる。同様に、前記軟鋼粉末は一つの種類のものを単独に使用することもできるし、複数の種類のものを混合して、その混合物を使用することもできる。さらに、軟鋼同士、高炭素鋼同士、あるいは、高炭素鋼に中炭素鋼を配合するなどした混合物を用いることもできる。
【0034】
本発明にかかるコールドスプレー用粉末材料は、メカニカルアロイング処理されてなる。メカニカルアロイング処理とは、粉末を微細に混合する処理である。具体的には、通常、ボールと粉末と対象物とをポット内に入れて、このポットをボールミル架台上で回転させることにより対象物上に粉末をコーティングする。メカニカルアロイング処理は、対象物に粉末を高エネルギーで衝突させるか、対象物に付着した粉末にボールを高エネルギーで衝突させるため、バルク状の粉末を直接対象物上にコーティングできる。
【0035】
本発明のコールドスプレー用粉末材料の製造方法においては、ボールと、前記高炭素鋼と、前記軟鋼とをポット内に入れてメカニカルアロイング処理を行う。メカニカルアロイングの処理条件、すなわち、処理時間、回転数、前記ボールの材質、直径、ボールの合計質量と高炭素鋼及び軟鋼の合計質量との質量比は、前記高炭素鋼粉末及び前記軟鋼粉末が均一混合される範囲であればよく、他の処理条件との組み合わせや、前記高炭素鋼及び前記軟鋼の種類に応じて適宜選択できる。
【0036】
本発明において高炭素鋼粉末及び軟鋼粉末が均一混合された状態とは、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末とが完全に混ざり合って両者を見分けることができない状態をいい、各粉末の粒子の粒径が均一になっていることをいう。より具体的には、メカニカルアロイング処理後において、高炭素鋼粉末及び軟鋼粉末の混合物における粉末の粒子の平均粒径が10〜45μmであることが好ましく、15〜40μmであることがより好ましい。平均粒径が前記下限未満になるとコールドスプレー法において作動ガスへの材料粉末の供給に支障が起きる場合があり、他方、前記上限を超えると、付着効率が低下する傾向にある。
【0037】
このような高炭素鋼粉末と軟鋼粉末とを均一混合するためのメカニカルアロイング処理条件において、材料粉末の付着効率がより向上し、より基材との接合性が高い皮膜が得られるという観点から、前記処理時間としては、10〜40時間であることが好ましく、12〜18時間であることがより好ましい。前記回転数としては、400〜600rpmであることが好ましく、550〜600rpmであることがより好ましい。前記ボールの材質としては、ジルコニア、アルミナ、炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、ジルコニア又は炭化ケイ素であることがより好ましい。前記ボールの直径としては、8〜15mmであることが好ましく、10〜12mmであることがより好ましい。前記ボールの合計質量と高炭素鋼及び軟鋼の合計質量との質量比としては、40:60〜60:40であることが好ましく、50:50であることがより好ましい。
【0038】
これらの条件は他の条件との組み合わせにより適宜選択される。このような処理条件の組み合わせとしては、例えば、処理時間が12時間であり、回転数が600rpmであり、ボールの材質がジルコニアであり、ボールの直径が10mmであり、ボール(20個)の合計質量と高炭素鋼粉末及び前鋼粉末の合計質量の質量比が50:50であること等が好ましい例として挙げられる。
【0039】
本発明のコールドスプレー法による金属材料の補修方法において、前記コールドスプレー用粉末材料の粒子は、コールドスプレー法により、例えば、加圧された作動ガスに供給され、別に加熱された作動ガスと一緒になり、超音速(極超音速を包含する)にまで加速されて、ターゲットである基材に衝突することになる。
【0040】
このようなコールドスプレー法は、市販のコールドスプレー装置(例えば、プラズマ技研工業(株)製PCS−203等)を使用して実施できる。該コールドスプレー装置は、超音速ノズルのノズル入口温度、ノズル入口圧力、ノズル入口ガス速度等の制御が可能となっており、適宜、所定の値を選択できる。超音速ノズルのノズル出口のガス流速は、次式から算出できる。
【0041】
【数1】

【0042】
ここでλは比熱比、Rはガス定数、Tiはノズル入口温度、Piはノズル入口圧力、Peはノズル出口圧力、Ugiはノズル入口ガス速度である。なお、超音速ノズルのノズル出口の圧力は、大気圧下でコーティングを行っている場合には、大気圧である。
【0043】
前記作動ガスは、原料粉末を運搬するキャリアーとして機能するものである。このような作動ガスとしては、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、あるいはそれらの混合ガス等が挙げられ、中でも酸化防止の観点から不活性なキャリアーガスを用いることが好ましい。不活性なキャリアーガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンあるいはそれらの混合ガス等が挙げられ、中でもヘリウムを用いることがより好ましい。
【0044】
前記作動ガスの圧力としては、適宜、目的に応じて最適な値とすることができ、ノズル入口の圧力としては、例えば、0.5〜15.0MPa、1.6〜10.0MPa、1.8〜8.0MPa等の圧力範囲が挙げられ、中でも、1.9〜7.0MPa、2.0〜6.5MPa、2.1〜5.5MPaであることが好ましく、2.3〜5.0MPaであることがより好ましく、2.5〜4.0MPaであることが特に好ましい。
【0045】
前記作動ガスの高圧流の中への前記コールドスプレー用粉末材料の供給は、粉末材ホッパー(あるいはフィーダー)を介して行うことができる。当該ホッパー(あるいはフィーダー)は、当該分野で知られており、市販のコールドスプレー装置では、超音速ノズル等と一体に構成されている。
【0046】
前記作動ガスの温度は、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度であればよく、適宜、コールドスプレー用粉末材料や目的に応じて最適な値とすることができる。当該ガスの温度は、ノズル入口温度としては、例えば、300〜1300℃、450〜1200℃、550〜1100℃等の温度範囲が挙げられ、中でも、575〜1000℃、600〜900℃であることが好ましく、650〜800℃であることがより好ましく、675〜750℃であることがさらに好ましく、500〜600℃であることが特に好ましい。
【0047】
前記コールドスプレー用粉末材料が加速される速度は、極超音速を包含する超音速である。該速度は、適宜、コールドスプレー用粉末材料や目的に応じて最適な値とすることができるが、コールドスプレー用粉末材料を基材表面上に接着するに十分な速度であることが好ましく、このような速度としては、ノズル出口のガス流速として、例えば、300〜5000m/s、500〜4500m/s、700〜4000m/s、1050〜4000m/s、800〜3500m/s等の速度範囲が挙げられ、中でも、1000〜3000m/s、1100〜2900m/s、1200〜2800m/s、1300〜2700m/sであることが好ましく、1400〜2600m/sであることがより好ましい。
【0048】
前記基材としては、様々な構造部材が挙げられ、典型的には、炭素鋼が包含されるが、高炭素鋼及びそれを基礎とした合金鋼であることが好ましい。炭素鋼としては、上記した様に、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼、さらには合金鋼が包含されてよいが、特に、本発明では、高炭素鋼やそれに基づいた合金鋼を好適に基材とすることができる。合金鋼としては、上記したようなものが挙げられ、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロムモリブデン鋼、クロム鋼、マンガン鋼、ニッケル鋼、ステンレス鋼等も包含される。このような基材の表面は、任意の形状のものであってもかまわないが、好ましい場合では、平面が挙げられ、幾分か凹部、凸部となっているか、あるいは、いくらか凹凸があるものであってよい。
【0049】
基材表面への超音速流の照射は、被覆対象箇所に一回以上超音速ノズルを通過させることによるものであることができる。該超音速ノズルを通過させる回数(パス数)は、適用される皮膜の厚さにより決定することができる。このようなパス数は1〜5回であることが好ましい。
【0050】
前記超音速ノズルの基材表面へのパスは、所定の制御された速度で対象面を横断するように動かすことにより実施可能で、ノズルの制御は手動で行うこともできるが、好適にはロボット等を用いたり、コンピューター等で制御されて行うことができる。ノズルの速度、方向、位置、パス数等は、制御され、均一な皮膜となるようにすることもできる。さらに、補修対象箇所の形状に応じて、制御しながら皮膜を形成することもできる。当該制御においては、プログラム可能な論理制御装置、分散制御システム等の制御手段を用いることができる。
【0051】
また、本発明のコールドスプレー法による金属材料の補修方法においては、コールドスプレー法を用いた補修の前工程として、基材の補修対象部の表面の不純物層を除去する工程を設けることができる。不純物層除去工程においては、例えば、旋盤、フライス盤、研磨盤、リューター、研磨紙、ブラスト等を使用した機械的除去法を用いることができる。前記機械的除去法によれば、確実に不純物等を除去することが可能であり、さらに、短時間で除去することができる。また、前記不純物除去工程としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム等の酸又はアルカリ等の水溶液を用いた化学的な除去法を用いることができる。このような化学的な除去法には、エッチング、電解腐食法等も包含されてよい。例えば、基材と溶液との間に電圧を印加して不純物層を溶解せしめることも可能である。前記不純物除去工程としては、レーザー除去法を用いてもよい。前記レーザー除去法としては、例えば、COレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー等を使用することができる。
【0052】
本発明のコールドスプレー法による金属材料の補修方法では、優れた成膜速度で高炭素鋼堆積層の皮膜を形成でき、少なくとも30〜50mm/sで皮膜を作製できるが、製膜条件や粉末性状を最適化すれば、100mm/sの成膜速度を達成できると考えられ、例えば、可能な成膜速度としては、10〜100mm/s、30〜100mm/s、35〜100mm/s、40〜100mm/sであることが可能である。さらには、30〜70mm/s、35〜80mm/s、40〜90mm/sの成膜速度範囲で行うことも可能であり、本発明は、作業効率に優れたコーティング法を提供している。
【0053】
本発明のコールドスプレー皮膜は、
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の補修を行うために、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して、固相状態のまま前記基材に高速で衝突させて形成された皮膜であって、前記コールドスプレー用粉末材料が、本発明の製造方法により得られたコールドスプレー用粉末材料であることを特徴とする。
【0054】
本発明の製造方法により得られたコールドスプレー用粉末材料を用いてコールドスプレー法により皮膜を形成することで、緻密で基材との接合性の高いコールドスプレー皮膜を得ることができる。
【0055】
このようなコールドスプレー皮膜としては、例えば、皮膜部分の気孔率が、8.4%以下、ある場合には6.5%以下、別の場合では3.0%以下であるものを挙げることができ、中でも、緻密で基材との接合性が高いことから、気孔率が2.0%以下であることが好ましく、1.8%以下であることがより好ましい。本発明のコールドスプレー皮膜皮膜の厚さは、適宜、目的に応じて選択できるが、例えば、0.1〜20mmであることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
各実施例及び比較例において、高炭素鋼及び軟鋼として以下のものを用いた。
(高炭素鋼(High carbon steel))
高炭素鋼バルク材からガスアトマイズ法により作製した平均粒径20μm、炭素量0.70%、ビッカース硬さ値300HVの高炭素鋼を用いた。化学成分は、炭素(C)0.70質量%、ケイ素(Si)0.30質量%、リン(P)0.045質量%以下、硫黄(S)0.045質量%以下、マンガン(Mn)0.80質量%であった。
(軟鋼(Mild steel))
市販品(ASC300、Hoganas社製)を用いた。平均粒径は45μm、炭素量は0.003%、ビッカース硬さ値は100HVであった。化学成分としては、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、マンガン(Mn)を含有していない。
【0058】
各実施例及び比較例において、得られたコールドスプレー用粉末材料の観察を行い、得られたコールドスプレー皮膜の膜厚測定、並びに、付着状態及び気孔率を評価するための皮膜の断面組織観察を行った。
(粉末材料の観察)
走査型電子顕微鏡(SEM)(S−4700、(株)日立ハイテクノロジー製)を用いて粉末材料の観察をした。また、粉末の各粒径を測定し、平均粒径を求めた。
(膜厚測定)
皮膜形成前の基材の厚さをマイクロメーターで計測し、皮膜形成後に基材と皮膜との合計厚さをマイクロメーターで計測して、皮膜形成後の膜厚と皮膜形成前の膜厚との差を皮膜の膜厚とした。
(断面組織観察試験)
走査型電子顕微鏡(SEM)(S−4700、(株)日立ハイテクノロジー製)を用いて皮膜断面の微細組織を観察した。また、画像処理ソフト(Image−J)を用いて皮膜断面の気孔率を測定した。
【0059】
(実施例1)
高炭素鋼粉末と軟鋼粉末とを質量比75:25で混合した混合粉末65gと、メカニカルアロイング用ボール(ジルコニア製、粒径10mm、個数:20個、合計質量:65g)をポットに入れ、空気中でメカニカルアロイング処理を施し(機器:P−7 FRITSCH社製、回転数:600rpm、処理時間:12時間、ボールの合計質量:高炭素鋼粉末及び軟鋼粉末の合計質量=50:50)、コールドスプレー用粉末材料を得た。
【0060】
得られたコールドスプレー用粉末材料を用いて、基材(炭素量0.70%の高炭素鋼)に対して、高圧型コールドスプレー装置(PCS−203、プラズマ技研工業(株)製)により、作動ガス:ヘリウム、作動ガス圧力:3MPa、作動ガス温度:500℃、ノズル出口ガス流速:1800〜2000m/s、ノズルのパス数:4パス、の条件でコールドスプレー法を実施し、コールドスプレー皮膜を得た。
【0061】
(実施例2)
コールドスプレー法における作動ガス温度を600℃としたこと以外は実施例1と同様にして、コールドスプレー皮膜を得た。
【0062】
(実施例3)
メカニカルアロイング処理における処理時間を48時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、コールドスプレー皮膜を得た。
【0063】
(実施例4)
コールドスプレー法における作動ガス温度を600℃としたこと以外は実施例3と同様にして、コールドスプレー皮膜を得た。
【0064】
(比較例1)
メカニカルアロイング処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、コールドスプレー皮膜を得た。
【0065】
(比較例2)
コールドスプレー法における作動ガス温度を600℃としたこと以外は比較例1と同様にして、コールドスプレー皮膜を得た。
【0066】
実施例1〜4及び比較例1〜2で得られたコールドスプレー用粉末材料における平均粒径、及び、コールドスプレー皮膜における膜厚、気孔率のそれぞれの測定結果を表1に示す。また、実施例1で得られたコールドスプレー用粉末材料のSEM写真を図1Aに、実施例3で得られたコールドスプレー用粉末材料のSEM写真を図1Bに、比較例1で得られたコールドスプレー用粉末材料のSEM写真を図1Cに示し、実施例1で得られたコールドスプレー皮膜の断面のSEM写真を図2Aに、実施例3で得られたコールドスプレー皮膜の断面のSEM写真を図2Bに、比較例1で得られたコールドスプレー皮膜の断面のSEM写真を図2Cに示す。
【0067】
【表1】

【0068】
コールドスプレー用粉末材料のSEM写真(図1A〜C)及び表1から明らかなように、本発明により得られたコールドスプレー用粉末材料は粒径にばらつきがなく、均一混合されていることが確認された。一方、メカニカルアロイング処理を施していない従来のコールドスプレー用粉末材料(図1C、Before milling)は粉末の粒径にばらつきがあり、コールドスプレー用粉末材料は均一に混合されていないことが確認された。
【0069】
表1に示した結果から明らかなように、本発明により得られたコールドスプレー用粉末材料を用いて、コールドスプレー法により得られた本発明のコールドスプレー皮膜においては、コールドスプレー条件を変えても膜厚が一定で、1.5〜1.8%程度と低い気孔率であり、本発明のコールドスプレー皮膜が緻密で接着効率の高いものであることが確認された。さらに、断面組織観察試験におけるSEM写真において、皮膜と基材との界面がほとんど識別できないことからも明らかなように、基材との接合性においても優れたものであった。
【0070】
一方、メカニカルアロイング処理を施していない従来のコールドスプレー用粉末材料を用いて得られた本発明のコールドスプレー皮膜においては、コールドスプレー法の条件によっては低い気孔率が達成される場合があるものの、特に基材との界面付近において孔径の大きな気孔が確認され、基材との接合性においては劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明によれば、高い付着効率で、基材との接合性が高い緻密な皮膜を形成することができるコールドスプレー法による金属材料の補修方法及びコールドスプレー用粉末材料の製造方法、並びに、コールドスプレー皮膜を提供することが可能となる。
【0072】
本発明のコールドスプレー法による金属材料の補修方法は、基材として炭素鋼、高炭素鋼、さらには合金鋼からなる材料に適用でき、使用中の材料やある程度使用された材料、補修の必要な材料ばかりでなく、初期部材(未使用の部材、あるいは、工場出荷段階の部材であって表面がきれいなもの)も対象にできる。本発明の金属材料の補修方法は、補修する部材や補修部分の大小に関係なく適用することも可能である。本発明の補修方法は、構造材等として広く利用されている炭素鋼材、さらには鉄道車輪等を含めた高炭素鋼材の補修に利用でき、有用である。本発明の技術は、化学プラントや発電プラント等において多く用いられている鋼構造部材の補修において好適に適用でき、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の補修を行うために、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して固相状態のまま前記基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめることによりコールドスプレー法で前記金属材料を補修する方法であって、前記コールドスプレー用粉末材料が、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合したものであることを特徴とするコールドスプレー法による金属材料の補修方法。
【請求項2】
前記メカニカルアロイング処理において、処理時間が10〜40時間であり、回転数が400〜600rpmであり、メカニカルアロイング処理に用いるボールの材質がジルコニア、アルミナ、炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記ボールの直径が8〜15mmであり、前記ボールの合計質量と高炭素鋼及び軟鋼の合計質量との質量比が40:60〜60:40であることを特徴とする請求項1に記載のコールドスプレー法による金属材料の補修方法。
【請求項3】
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の補修を行うために、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して、固相状態のまま前記基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめることによりコールドスプレー法で前記金属材料を補修するために用いるコールドスプレー用粉末材料の製造方法であって、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との混合物をメカニカルアロイング処理により均一混合する工程を含むことを特徴とするコールドスプレー用粉末材料の製造方法。
【請求項4】
前記メカニカルアロイング処理において、処理時間が10〜40時間であり、回転数が400〜600rpmであり、メカニカルアロイング処理に用いるボールの材質がジルコニア、アルミナ、炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記ボールの直径が8〜15mmであり、前記ボールの合計質量と高炭素鋼及び軟鋼の合計質量との質量比が40:60〜60:40であることを特徴とする請求項3に記載のコールドスプレー用粉末材料の製造方法。
【請求項5】
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の補修を行うために、コールドスプレー用粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記コールドスプレー用粉末材料を流して、固相状態のまま前記基材に高速で衝突させて形成された皮膜であって、前記コールドスプレー用粉末材料が、請求項3又は4に記載の製造方法により得られたコールドスプレー用粉末材料であることを特徴とするコールドスプレー皮膜。


【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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