説明

コーン、回転構造体及び流体機械

【課題】簡易な構成で、螺旋渦による脈動を大幅に抑制し、振動及び騒音の発生を抑制する。
【解決手段】回転中心軸Pが延びる軸方向一方側に向かって外径を漸減させる支持部材11に回転翼12が回転中心軸P周りに設けられて作動流体の流路14が構成され、軸方向一方側に向けて流路14の流体出口14bが開放された回転構造体10に用いられ、流体出口14bの径方向中心部において軸方向一方側に向けて延在し、作動流体Wを外周部15aに沿わせて軸方向一方側に案内するコーン15であって、外周部15aには、軸方向一方側から他方側に向けて回転構造体10の回転方向に沿って溝が設けられ、外周部15aのうち軸方向一方側における一端15d側が径方向外方側に向けて張り出し、外周部15aの一端外径Dが流体出口直径Dの0.25倍以上、かつ、軸方向に直交する仮想平面と外周部15aの一端15dとの角度が75°以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーン、回転構造体及び流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水車やポンプ水車、遠心ポンプ等の流体機械においては、主軸に設けられる回転構造体として、回転中心軸が延びる軸方向の一方側に向かって外径を漸減させる支持部材に複数の回転翼が前記回転中心軸周りに設けられて作動流体の流路が構成されたものがある。
【0003】
例えば、下記特許文献1においては、ポンプ水車の回転構造体として、シュラウドと、シュラウドの上方に位置するクラウンと、シュラウドとクラウンとの間に挟まれた複数のランナベーンと、回転軸中心に設けられたコーンとを備えたランナを用いている。この回転構造体は、ランナからの流水がコーンによって下方側にスムーズに整流されることにより、下流側の吸出管上部の内壁面に螺旋渦が衝突することによる騒音の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−21036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のコーンによれば、騒音の発生を抑制することができるが、その抑制レベルは小幅であったため、さらに騒音や振動を抑制する場合は、さらなる改良が必要であった。
【0006】
そこで、本発明は、簡易な構成で、螺旋渦による脈動を大幅に抑制し、振動及び騒音の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係るコーンは、回転中心軸が延びる軸方向の一方側に向かって外径を漸減させる支持部材に複数の回転翼が前記回転中心軸周りに設けられて作動流体の流路が構成され、径方向外方側に向けて前記流路の流体入口が開放されると共に前記軸方向一方側に向けて前記流路の流体出口が開放された回転構造体に用いられ、前記流体出口の径方向中心部において前記軸方向一方側に向けて延在し、前記作動流体を外周部に沿わせて前記軸方向一方側に案内するコーンであって、前記外周部には、前記軸方向一方側から他方側に向けて前記回転構造体の回転方向に沿って形成された溝が設けられ、前記外周部のうち前記軸方向一方側における一端側が前記径方向外方側に向けて張り出して形成されており、前記外周部の一端外径が前記流体出口直径の0.25倍以上、かつ、前記軸方向に直交する仮想平面と前記外周部の一端との角度が75°以上となっていることを特徴とする。
【0008】
また、前記外周部の一端が、前記回転翼の軸方向一方側における一端よりも、前記軸方向他方側に位置するように形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、前記外周部は、前記軸方向に切断した断面において径方向内方側に凹んだ円弧形状をなし、その曲率半径が前記流体出口直径の半分以下であることを特徴とする。
【0010】
また、前記外周部は、前記溝が8〜16本形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、前記溝は、前記外周部の一端側において、前記径方向に見た場合に前記仮想平面に対する角度が30°以上となるように形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る回転構造体は、回転中心軸が延びる軸方向の一方側に向かって外径を漸減させる支持部材に複数の回転翼が前記回転中心軸周りに設けられて作動流体の流路が構成され、径方向外方側に向けて前記流路の流体入口が開放されると共に前記軸方向一方側に向けて前記流路の流体出口が開放された回転構造体であって、前記流体出口の径方向中心部において前記軸方向一方側に向けて延在し、前記作動流体を外周部に沿わせて前記軸方向一方側に案内するコーンとして、上記のうちいずれかに記載のコーンを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る流体機械は、前記回転中心軸上に設けられた主軸と、前記主軸の軸方向一方側の端部に上記の回転構造体とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、コーンの外周部にコーンの回転方向に沿った溝を有するので、コーンの外周部に沿って流れる流体が溝と干渉して剥離渦を発生させることにより、螺旋渦の発達を阻害して渦芯の振れ回りにより生じる脈動を抑制することができ、螺旋渦の発生による振動及び騒音を抑制することができる。
また、コーンの外周部のうち一端側が径方向外方側に向けて張り出して形成されており、D≧0.25D、かつ、角度α≧75°となっているので、コーンの下流側において逆流する流体との干渉を強めて、より強い乱れを生じることにより螺旋渦の発達抑制効果を高めることができる。ここで、Dは、コーン一端外径、Dは、流体出口直径(ランナ出口)、αは、回転中心軸に直交する仮想平面とコーン一端とのなす角度を示す。
【0015】
請求項2のコーンによれば、外周部の一端が、回転翼の一端よりも軸方向他方側に位置することで、渦芯の振れ回りにより生じる脈動を効率よく抑制することができる。
【0016】
請求項3のコーンによれば、外周部が径方向内方側に凹んだ円弧形状をなし、その曲率半径が流体出口直径の半分以下であることで、渦芯の振れ回りにより生じる脈動を効率よく抑制することができる。
【0017】
請求項4のコーンによれば、外周部に溝が8〜16本形成されていることで、渦芯の振れ回りにより生じる脈動を効率よく抑制することができる。
【0018】
請求項5のコーンによれば、溝が外周部の一端側において仮想平面に対する角度が30°以上となるように形成されていることで、渦芯の振れ回りにより生じる脈動を効率よく抑制することができる。
【0019】
請求項6の回転構造体によれば、上記いずれかのコーンを備えることで、螺旋渦の発生による振動及び騒音を抑制することができる。
【0020】
請求項7の流体機械によれば、上記の回転構造体を備えることで、螺旋渦の発生による振動及び騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るフランシス水車1の概略構成を示す概略構成断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフランシス水車1の要部拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係るコーン15の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係るコーン15の側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る模型試験の試験結果を示したものである。
【図6】本発明の実施形態に係るコーン15の実験結果であって、ガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動時間波形を示すグラフである。
【図7】従来コーン65の実験結果であって、ガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動時間波形を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態に係るコーン15の実験結果であって、ガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動周波数分析結果を示すグラフである。
【図9】従来コーン65の実験結果であって、ガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動周波数分析結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施形態に係るコーン15の第一の作用説明図である。
【図11】本発明の実施形態に係るコーン15の第二の作用説明図である。
【図12】本発明の実施形態に係る9つの解析モデルM1〜M9の解析結果を整理したものであって、統計学的評価法である実験計画法を用いて各パラメータの圧力脈動に対する影響度合を評価したものである。
【図13】本発明の実施形態に係るコーン15について流動解析CFDを行った解析結果を示す図であってガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動周波数分析結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施形態に係るコーン25について流動解析CFDを行った解析結果を示す図であってガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動周波数分析結果を示すグラフである。
【図15】本発明の実施形態に係るコーン15の変形例であるコーン15´の概略構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るフランシス水車(流体機械)1の概略構成を示す概略構成断面図である。このフランシス水車1は、所謂中比速度水車(比速度Ns=140m・kW・rpm前後)として構成されたものである。
【0023】
フランシス水車1は、図1に示すように、所謂縦軸機と称されるものであり、回転中心軸Pを重力方向(図1における左右方向、図2における上下方向)に向けた回転シャフト2と、回転シャフト2の下端部(端部)に設けられたランナ(回転構造体)10と、ランナ10の径方向外方側に設けられて作動流体である用水Wをランナ10に送り込むスパイラルケーシング3と、スパイラルケーシング3とランナ10とを接続するスピードリング4と、ランナ10に流入する用水Wの流量を調整するガイドベーン7と、ランナ10の下方に配置されてランナ10から放出された用水Wを放水するドラフトチューブ5とを備えている。
なお、本明細書における説明においては、特に言及しない限り、「物の位置を特定する際の上・下」は「重力方向における上・下」をいうものとする。
【0024】
回転シャフト2は、フランシス水車1の主軸として機能するものである。この回転シャフト2は、図1に示すように、下端部にランナ10が固定されており、上端部に発電機(不図示)が連結されている。
【0025】
スパイラルケーシング3は、平面視で渦巻き状に配設されており、図1に示すように、軸方向に切断した断面において略円管状に形成されている。このスパイラルケーシング3は、その内部が、用水Wが流れる案内流路3aとなっており、周方向下流側へ向かうにつれて案内流路3aの断面積が小さくなるように形成されている。
スパイラルケーシング3には、外部と接続された図示しない用水取込口が設けられていると共に、径方向内方側において環状に開口してスピードリング4と接続された用水送出口3bが設けられている。すなわち、案内流路3aに流入した用水Wは、スパイラルケーシング3内を一周する間に、用水送出口3bからランナ10(スピードリング4)へ向けて送り出される。
【0026】
スピードリング4は、略環状で、内部を案内流路4aとしており、流通する用水Wを整流するためのステーベーン6が設けられている。これら複数のステーベーン6は、放射状に等ピッチで配設され、流入する用水Wの流れ角度に合わせて旋回方向に傾くように配設されている。
【0027】
ガイドベーン7は、スピードリング4と、径方向内方側のランナ10との間において、周方向に沿って複数枚配列されている。各ガイドベーン7は、当該ガイドベーン7に設けられた回転軸7aを中心として開放位置と閉塞位置との間で回動可能に構成されている。すなわち、各ガイドベーン7が回動することで、スパイラルケーシング3の内部から(スピードリング4を介して)ランナ10に流入する用水Wの流量を調整することが可能となっている。
【0028】
ドラフトチューブ5は、流路断面を徐々に大きくすることで用水Wの流速を減少させつつ整流し、用水Wを外部の放水路に放水する。
【0029】
図2は、フランシス水車1の要部拡大図である。
図1及び図2に示すように、ランナ10は、クラウン(支持部材)11と、複数のランナベーン(回転翼)12と、シュラウド13と、コーン15とを備えている。以下の説明においては、ランナ10の概略について説明した後に細部について説明する。
【0030】
クラウン11は、図1に示すように、略円盤状に構成されており、回転シャフト2と同軸に回転シャフト2の下端部に固定されている。このクラウン11は、図2に示すように、軸方向一方に進むに従って外径を漸減させるクラウン外周部11aと、回転中心軸Pと直交する先端部11bとを有している。
【0031】
複数(本実施形態では17枚)のランナベーン12は、クラウン外周部11aにおいて回転中心軸P周りに等ピッチに配設されて、軸方向に見て放射状に配設されている。これら複数のランナベーン12は、ランナ10に流入する用水Wの流れ角度に合わせて径方向外方側で旋回方向に傾くように配設されていると共に、径方向内方側に向かうに従って次第に旋回方向への傾きが強くなるように配設されている。
【0032】
シュラウド13は、略環状に形成されており、クラウン11と対向配置されて複数のランナベーン12と接続されている。
【0033】
コーン15は、円錐台状に形成されており、回転中心軸Pと同軸に且つ下方側が細くなるように、先端部11bにボルト止めされている。すなわち、このコーン15は、流体出口14bの中心部において下方に向けて延在し、用水Wを外周部15aに沿わせて下方に案内する。
【0034】
このような構成により、ランナ10には、クラウン11(およびコーン15)と、隣り合う二つのランナベーン12と、シュラウド13とによって画定された流路14を複数有している。すなわち、各流路14は、径方向外方側に向けて開放された部分が流体入口14aとされ、軸方向一方側(下方側)に向けて開放された部分が流体出口14bとなっており、径方向外方側から径方向内方側に向かうに従って次第に旋回方向に傾くように形成されている。
流路14において、用水Wは流体入口14aに流入すると、径方向内方側かつ上下方向下方側に流れながらランナベーン12に圧力を作用させてランナ10を回転させる。そして、流体出口14bから下方に放出されてドラフトチューブ(図1参照)5へと流入する。
【0035】
ところで、ランナ10に流入する用水Wの流量は、複数のガイドベーン7の開度(以下、「ガイドベーン開度」という。)によって調節可能となっているが、例えば、最適な流量(ガイドベーン開度80%時)よりも少ない流量でフランシス水車1の運転を行った場合、いわゆる、部分負荷運転を行った場合、ランナ10からドラフトチューブ5に用水Wが流入すると、ドラフトチューブ5内に螺旋渦E(図11参照)が発生する。同様に、最適な流量よりも多い流量でフランシス水車1の運転を行った場合、いわゆる、過負荷運転を行った場合も、ドラフトチューブ5内に螺旋渦Eが発生する。
【0036】
具体的には、部分負荷運転を行うと、ドラフトチューブ5内において、死水領域A(図11参照)が形成され、この死水領域Aの周りを螺旋渦Eが振れ回り、これがドラフトチューブ5壁面に接触することで、振動や騒音が発生する。そこで、この問題を解消すべく、本実施形態では、以下の構成を採用している。
【0037】
以下、コーン15の詳細について説明する。図3は、コーン15の斜視図であり、図4は、コーン15の側面図である。
図3及び図4に示すように、コーン15は、筒状かつ円錐台状に形成されており、クラウン11の下方に進むに従って外径を漸減させた外周部15aを備えており、クラウン外周部11aと滑らかに繋がっている。このコーン15は、上方に位置する基端15bが外周部15aに形成されたボルト孔15xを介してクラウン11の先端部11bにボルト止めされており、先端15cが基端15bよりも小径に形成されている。なお、ボルト孔15xは必ずしも外周部15aに形成する必要はない。
【0038】
コーン15の外周部15aには、断面V字状の12本のV溝15vが形成されている。各V溝15vは、コーン15の回転中心軸Pを中心にして、外周部15aの軸方向一方側の一端15dから軸方向他方側の他端15eへかけて、コーン15の回転方向に沿って螺旋状に形成されている。また、12本のV溝15vは、それぞれ等間隔となるように形成されている。なお、各ランナベーン12のクラウン11側における先端の出口側の傾きと、各V溝15vの基端15b側の傾きとは、ほぼ同じ傾きとなっている。一方、各V溝15vの先端15c側の傾きは、図4に示すように、径方向に見た場合に、軸方向に直交すると共に先端15cと同一平面内に延在する仮想平面Sに対する角度βが48°程度となっている。
【0039】
また、各V溝15vの深さは、コーン15の最外径である基端15bの直径に対し、0.005倍以上となっている。例えば、コーン15の最外径が2mであれば、各V溝15vの深さは1cm以上であれば良い。
【0040】
さらに、コーン15の外周部15aに形成されるV溝15vの本数は、ランナベーン12の枚数によって決定されており、最大でランナベーン12の数量の2倍以下となっている。つまり、例えば、ランナベーン12の枚数が17枚のとき、V溝15vの本数は34本以下であれば良いため、場合によっては1本でもよい。
【0041】
図2に示すように、コーン15は、外周部15aのうち一端15d側が径方向外方側に向けて張り出して形成されている(図2中において従来のコーン65の形状を破線で示す)。具体的には、図4に示すように、外周部15aの一端15dの外径Dが、流体出口14bの直径D(図2参照)の0.25倍以上となっている。より具体的には、D≒0.278D(D=250mm、D=900mm)となっている。
また、図4に示すように、軸方向に直交すると共に先端15cと同一平面内に延在する仮想平面Sと外周部15aの一端15dにおける子午面断面形状との角度αが75°以上となっている。具体的には、α=80°に形成されている。
【0042】
さらに、図4に示すように、外周部15aの曲率半径ρは、流路14の流体出口14bの直径D(図2参照)の半分以下となっている。具体的には、ρ≒0.467D(ρ=420mm、D=900mm)となっている。
また、図4に示すように、基端15bから先端15cまでのコーン高さHが130mmとなっており、図2に示すように、外周部15aの一端15dがランナベーン12出口の下端(一端)12aよりも上方に位置している。より具体的には、0.07×Dだけ上方に位置している。
【0043】
続いて、上記コーン15の作用効果について説明する。本実施形態においては、上記コーン15の作用効果について確認をするために、本発明に係るコーン15と比較例とについて模型試験を行った。
比較例となる従来コーン65は、従来の構成と同等のものである(図2参照)。具体的には、軸方向に切断した断面において外周部が直線状(ρ=∞)になっていて一端が径方向外方に張り出しておらず、また、V溝も設けられていない。この従来コーン65は、コーン15の外径D、角度α,コーン高さHに相当する部位が160mm,65°,180mmとなっている。
本模型試験においては、この従来コーン65をフランシス水車1と同様のフランシス水車50に組み込んだものを比較例としている。
【0044】
フランシス水車1及びフランシス水車50の実機仕様条件は、以下の通りである。
有効落差…92.9m、出力…4290kW、回転数…600rpm、比速度(Ns)…136〔m・kW・rpm〕={600・(4290)1/2/(92.95/4}、実機ランナ入口径D…930mm(図2参照)
【0045】
本模型試験においては、フランシス水車1,50に対応する模型試験水車をそれぞれ用意して、同一の基準落差相当の条件において、ガイドベーン開度を変更しながらランナ(10)下流のドラフトチューブ(5)壁面での圧力変動を計測した。
【0046】
図5は、この模型試験の試験結果を示したものであり、横軸がガイドベーン(7)開度(%)、縦軸が圧力脈動振幅となっている。なお、縦軸は、フランシス水車50に組み込まれた従来コーン65における最大振幅を1とした相対表示としている。
また、図6及び図7は、ガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動時間波形を示すグラフであって、図6がコーン15の実験結果であり、図7が従来コーン65の実験結果である。なお、図6及び図7においては、横軸が時間(t/tn)、縦軸が圧力脈動振幅となっている。
また、図8及び図9は、ガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動周波数分析結果を示すグラフであって、図8がコーン15の実験結果であり、図9が従来コーン65の実験結果である。なお、図8及び図9においては、横軸が周波数(f/fn)、縦軸が圧力脈動振幅となっている。ここで、tは時間(s)、tnはランナ1回転に要する時間(s)である。
【0047】
図5に示されるように、従来コーン65において、ガイドベーン開度80%の場合には、最適な運転がなされているため、螺旋渦Eによる圧力脈動が抑制されている。しかしながら、ガイドベーン開度が100%に近づくにつれ、言い換えれば、過負荷運転を行うと螺旋渦Eによる圧力脈動は徐々に上昇していく。同様に、ガイドベーン開度80%から小さくしていくと、螺旋渦Eによる圧力脈動が徐々に上昇していき、ガイドベーン開度40%あたりで螺旋渦Eによる圧力脈動が最大となる。なお、この渦芯の振れ回りは可視化試験で確認することができる。
【0048】
本実施形態のコーン15も、ガイドベーン開度が80%のときにおいて最適な運転が行われるように設計されており、従来コーン65とほぼ同様の圧力脈動となっている。しかしながら、部分負荷運転領域、つまり、ガイドベーン開度が40%〜50%の間において、コーン15を用いた場合の渦芯の振れ回りにより生じる圧力脈動は、従来コーン65を用いた場合の渦芯の振れ回りにより生じる圧力脈動に比して、大幅に抑制している。
図5〜図9に示すように、ガイドベーン開度が40%の時において、コーン15の圧力脈動が従来コーン65に比して約75%程度抑制されている。
【0049】
また、図5に示されるように、過負荷運転時、つまり、ガイドベーン開度が90%のときにおいても、本実施形態のコーン15を用いた場合の渦芯の振れ回りにより生じる圧力脈動は、従来コーン65を用いた場合の圧力脈動に比して抑制している。
【0050】
図5〜図9のコーン15、65を用いた模型試験に相当する非定常の流動解析CFDを実施したが、圧力脈動時間波形や圧力脈動周波数分析結果において模型試験結果と同様の傾向を確認することができた。
【0051】
以上説明したように、コーン15によれば、外周部15aにV溝15vを有するので、渦芯の振れ回りにより生じる圧力脈動を抑制することができ、螺旋渦Eの発生による振動及び騒音を抑制することができる。
すなわち、図10に示すように、一般に圧力脈動は螺旋渦Eがランナ出口で発達し振れまわることにより生じると考えられるが、螺旋渦Eはコーン15の下方の死水領域A周りのせん断層Zで発達し死水領域A周りを振れまわることが流動解析や可視化観察から確認されている。ここで、死水領域Aでは下方から上方にコーン15の先端15cに向かう旋回を伴う逆流Cが生じているが、コーン15によれば、コーン15に衝突する逆流Cと渦芯付け根付近がV溝15vで干渉し、V溝15vからの剥離渦等の小規模な乱れが発生するので、安定した渦芯の発達を抑制すると考えられる。
【0052】
つまり、外周部15aにランナ10の回転方向、すなわち、図10の死水領域A内を下から上に逆流する用水Wの流れ方向に交差する方向に沿ったV溝15vを設けることにより、コーン15の外周部15aに沿って流れる用水Wが、V溝15vと干渉する。このため、コーン15の外周部15aにおいて、剥離渦が発生することにより、螺旋渦Eの発達を阻害することができ、渦芯が振れ回る事によって生じる圧力脈動を抑制することができる。
【0053】
また、外周部15aのうち一端15d側が径方向外方側に向けて張り出して形成されており、D≧0.25D、かつ、角度α≧75°となっているので、逆流Cとの干渉を強めて、より強い乱れを生じることにより螺旋渦Eの発達抑制効果を高めることができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、コーン15の外周部15aの一端15dから他端15eに亘ってV溝15vを形成したが、外周部15aの下端15d側を含む少なくとも一部にV溝15vを形成すればよい。この構成によれば、加エコストを削減することができる。また、本実施形態では、断面V字状のV溝15vを形成したが、U溝等にしてもよい。さらに、本実施形態において、ランナ10及びコーン15は別体としたが、一体に形成しても良い。
【実施例1】
【0055】
続いて、本発明の実施例1について説明する。
本実施例1は、表1に示すように、複数のコーンモデルM1〜M9について流動解析CFDを行って、コーン形状を規定する四つのパラメータ(コーン高さH、溝本数n、溝角度β及び外周部曲率半径ρ)の圧力脈動抑制効果への影響を確認したものである。解析モデルは、コーン高さH、溝本数n、溝角度β及び外周部曲率半径ρを三種類ふって九種類の組み合わせでコーンモデルM1〜M9を規定して、流動解析CFDにより圧力脈動振幅を求めた。コーンモデルM1〜M9の各パラメータは、以下のようになっている。なお、従来コーン65の外周部にV溝15vを形成したコーンモデルM4が、各コーンモデルの基準となっている。
【表1】

【0056】
図12は、9つの解析モデルM1〜M9の解析結果を整理したものであって、統計学的評価法である実験計画法を用いて各パラメータの圧力脈動に対する影響度合を評価したものである。
図12に示すように、コーン高さHは小さくなるにつれて圧力脈動抑制効果が高く、溝本数nは12本から少なくなるにつれて圧力脈動抑制効果が低くなる傾向であることがわかった。
外周部曲率半径ρは小さくなるにつれて圧力脈動抑制効果が高くなるが、外周部曲率半径ρが極端に小さ過ぎると損失が増加して定格時の水車効率が低下してしまう。このため、水車効率に影響を与えず、部分負荷運転時に大きな圧力脈動抑制効果を示す上述したD≧0.25D、かつ、角度α≧75°の条件が最適であることがわかった。
【実施例2】
【0057】
続いて、本発明の実施例2について説明する。本実施例2に係るコーン25は、基本構成はコーン15と同様であるが、V溝15vを16本形成している点でコーン15と相違している。
【0058】
図13及び図14は、コーン15及びコーン25についてそれぞれの同等の流動解析CFDを行った解析結果を示すグラフであって、図13が12本のV溝15vを設けたコーン15の解析結果であり、図14が16本のV溝15vを設けたコーン25の解析結果である。なお、図13及び図14においては、ガイドベーン開度が40%の場合における圧力脈動周波数分析結果を示しており、横軸が周波数(f/fn)、縦軸が圧力脈動振幅となっている。
【0059】
上述した実施例1においては、V溝15vの溝本数が12本から減少するほど圧力脈動抑制効果が低下する傾向にあったが、コーン25のようにV溝15vを16本に増やしても圧力脈動抑制効果が低下している。
すなわち、図13と図14とをそれぞれ比較すると、コーン15の方がコーン25よりも圧力脈動抑制効果が高くなっている。よって、ランナベーン枚数17枚程度の中比速度のフランシス水車においては、溝本数nは12本が最適であることがわかった。
【0060】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した実施の形態においては、フランシス水車1に本発明を適用した場合を説明したが、他のポンプ水車や水車、遠心ポンプなど様々な流体機械に適用可能である。
また、上述した実施の形態においては、シュラウド13を設ける構成にしたが、シュラウド13を省略してもよい。
また、上述した実施の形態においては、コーン15の外周部15aの一端15d側を径方向外方側に張り出すようにしたが、例えば、図15に示すコーン15´のように、一方端15dの張り出しを強くし、仮想平面Sと外周部15aの一端15dにおける子午面断面形状との角度αが90°以上になるように径方向外方側に張り出すようにしてもよい。
また、上述した実施の形態においては、回転中心軸Pを重力方向に向けた縦軸機に本発明を適用したが、回転中心軸Pを水平方向に向けた横軸機に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…フランシス水車(流体機械)
2…回転シャフト(主軸)
10…ランナ(回転構造体)
11…クラウン(支持部材)
12…ランナベーン(回転翼)
12a…ランナベーンの下端(回転翼の一端)
14…流路
14a…流体入口
14b…流体出口
15…コーン
15a…外周部
15d…一端
15e…他端
15v…V溝(溝)
25…コーン
P…回転中心軸
S…仮想平面
W…用水(作動流体)
…一端15dの外径(先端15cの外径)
…流体出口14bの直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心軸が延びる軸方向の一方側に向かって外径を漸減させる支持部材に複数の回転翼が前記回転中心軸周りに設けられて作動流体の流路が構成され、径方向外方側に向けて前記流路の流体入口が開放されると共に前記軸方向一方側に向けて前記流路の流体出口が開放された回転構造体に用いられ、
前記流体出口の径方向中心部において前記軸方向一方側に向けて延在し、前記作動流体を外周部に沿わせて前記軸方向一方側に案内するコーンであって、
前記外周部には、前記軸方向一方側から他方側に向けて前記回転構造体の回転方向に沿って形成された溝が設けられ、
前記外周部のうち前記軸方向一方側における一端側が前記径方向外方側に向けて張り出して形成されており、
前記外周部の一端外径が前記流体出口直径の0.25倍以上、かつ、前記軸方向に直交する仮想平面と前記外周部の一端との角度が75°以上となっていることを特徴とするコーン。
【請求項2】
前記外周部の一端が、前記回転翼の軸方向一方側における一端よりも、前記軸方向他方側に位置するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のコーン。
【請求項3】
前記外周部は、前記軸方向に切断した断面において径方向内方側に凹んだ円弧形状をなし、その曲率半径が前記流体出口直径の半分以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーン。
【請求項4】
前記外周部は、前記溝が8〜16本形成されていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載のコーン。
【請求項5】
前記溝は、前記外周部の一端側において、前記径方向に見た場合に前記仮想平面に対する角度が30°以上となるように形成されていることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載のコーン。
【請求項6】
回転中心軸が延びる軸方向の一方側に向かって外径を漸減させる支持部材に複数の回転翼が前記回転中心軸周りに設けられて作動流体の流路が構成され、径方向外方側に向けて前記流路の流体入口が開放されると共に前記軸方向一方側に向けて前記流路の流体出口が開放された回転構造体であって、
前記流体出口の径方向中心部において前記軸方向一方側に向けて延在し、前記作動流体を外周部に沿わせて前記軸方向一方側に案内するコーンとして、請求項1から5のうちいずれか一項に記載のコーンを備えることを特徴とする回転構造体。
【請求項7】
前記回転中心軸上に設けられた主軸と、
前記主軸の軸方向一方側の端部に請求項6に記載の回転構造体とを備えることを特徴とする流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−247160(P2011−247160A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120650(P2010−120650)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【Fターム(参考)】