説明

ゴムとコードの複合物

【課題】耐久性を向上する。
【解決手段】合成繊維又は天然繊維を用いた補強コード2を、臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)がゴム成分100重量部中に50重量部以上含有するBIMS系ゴム組成物3にて被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れたゴムとコードの複合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来知られているゴムとコードの複合物では、ゴムとして天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(水素添加NBR)、及びこれらをブレンドしたゴムが用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ゴムとコードの複合物は、工業製品の部材としていろいろなところで使用されている。中には、非常に過酷な環境、例えば温度が150℃を超えるような高温の状況で使用されることもある。しかしながら前記NR、SBR、NBRは前記過酷な高温環境下ではゴムが劣化し、ゴムらしさが全くなくなって、少しの変形で破壊してしまう。一般に、耐熱性に優れているとされる水素添加NBRやEPDMにおいても、過酷度が増せば、短期間で劣化が進み、ゴムの有する強度が初期の数分の一となり、又僅かな伸び(≦100%)でも破壊が起こる。
【0004】
本発明者が実験した結果、汎用ゴムとして一般的なNR、SBRなどのゴムの場合、比較的低温の100℃以下の温度領域においては、そのゴム物性が維持されるものの、100℃を超える熱には弱く、特に160℃の高温度の環境下においては、1日でゴム強度が初期のゴム強度の1/5以下に低下し、又数日間でゴム弾性をなくしてしまうことが判明した。又耐候性や耐熱性に優れるゴムとして知られる、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)においても、160℃の高温度の環境下では、数日間でゴムの破断強度が初期の破断強度の数分の1に低下し、工業製品の部材として機能しなくなる。
【0005】
これに対して、低空気透過性ゴムとして知られる臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)の場合、160℃の高温度の環境下で3ヶ月間劣化させた場合にも、破断強度や破断時の伸びは、初期の破断強度や破断時の伸びの1/2程度まで維持されることが確認できた。しかし、前記BIMSゴムにて有機繊維コードを被覆する場合、コードとの接着力が不足して、使用中にコードが早期に剥離するなどゴム部材の耐久性を充分に向上しえないという新たな問題も生じる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性を確保しながら、ゴムとコードの接着力を高めてコード剥離を抑制し、ゴムとコードの複合物の耐久性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明は、合成繊維又は天然繊維を用いた補強コードを、臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)がゴム成分100重量部中に50重量部以上含まれるBIMS系ゴム組成物にて被覆したことを特徴としている。
【0008】
又請求項2の発明では、前記補強コードは、その周囲に、該補強コードを接着用ディッピング液に浸漬することにより形成される接着層を具えるとともに、前記接着用ディッピング液は、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CPE)から選択される極性ゴムのラテックスを含有することを特徴としている。
【0009】
又請求項3の発明では、前記補強コードは、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ポリスチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、ポリ塩化ビニル繊維から選択される合成繊維、又は麻繊維、綿繊維から選択される天然繊維の一種又は2種以上を用いて形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は叙上の如く、補強コードをゴムで被覆した複合物において、前記ゴムとして、臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)がゴム成分100重量部中に50重量部以上含有するBIMS系ゴム組成物を採用している。この複合物をゴム/繊維コード複合部材として使用する場合、ゴムの熱劣化を効果的に抑制でき、部材の性能を長期に亘って維持しうるとともに、その耐久性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。
図1は本発明のゴムとコードの複合物の一例を示す斜視図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態のゴムとコードの複合物1は、合成繊維又は天然繊維を用いた補強コード2と、これを被覆するBIMS系ゴム組成物3とから形成される。
【0013】
本例では、前記複合物1として、この複合物1の長さ方向に沿って複数本の補強コード2が配列された、即ち長さ方向に対するコード角度を0°としたコード配列体の表裏を、前記BIMS系ゴム組成物3のトッピングゴムで被覆した長尺帯状の複合物1aである場合を例示している。そしてこの複合物1aを厚さ方向に積層し、かつ加硫することで、図2に示す積層体4であるゴム/繊維コード複合部材5を形成している。この場合、各補強コード2が複合物1の長さ方向に沿って配列しているため、ゴム/繊維コード複合部材5の長さ方向の引っ張り強度を高めうる。
【0014】
又前記積層体4として、図3に示すように、前記複合物1aからなる積層部分4aと、複数本の補強コード2を複合物1の長さ方向と直角に配列した複合物1bからなる積層部分4bとを含んで形成することもできる。又前記積層体4としては、図4に示すように、補強コード2が複合物1の長さ方向に対して角度θ1で一方側に傾斜した複合物1c1からなる積層部分4c1と、補強コード2が角度θ2で他方側に傾斜した複合物2c2からなる積層部分4c2とで形成することもできる。この場合には、補強コード2が層間で交差するため各方向の剛性をバランス良く高めることができる。
【0015】
前記補強コード2としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ポリスチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、ポリ塩化ビニル繊維から選択される合成繊維、又は麻繊維、綿繊維から選択される天然繊維を用いたコードが好適に使用できる。なお前述した繊維の2種以上を組み合わせた複合コードを使用することもできる。中でも、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維、とりわけナイロン繊維コードは、耐熱性、耐湿性、破断強度、コストなどの観点から好適である。又特に高い耐熱性、破断強度が要求される場合には、アラミド繊維も好適に使用しうる。
【0016】
ここで前記ゴム/繊維コード複合部材5は、使用状況によっては、150℃を超える160℃近い熱が作用する可能性がある。そこで、ゴム/繊維コード複合部材5では、このような高温状態においても物性の著しい変化を起こさないような耐熱性を有することが重要である。
【0017】
そこで本発明では、前記補強コード2を被覆するゴム組成物として、臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)をゴム成分100重量部中に50重量部以上含有させたBIMS系ゴム組成物3を使用している。前記臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)は、イソブチレンとパラメチルスチレンとの共重合体の臭素化物であって、パラメチルスチレンの比率が5〜10%程度、臭素化のレベルがポリマー全重量に対して1〜2%程度のものが好適である。この臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)は、主鎖に二重結合を含まないため、非常に高い耐熱性を発揮できる。本発明者の実験によると、耐熱性ゴムとして知られる例えばクロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)にあっては、160℃の環境下では、数日間でゴムの破断強度が初期の破断強度の数分の1に低下するのに対して、臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)では、160℃の環境下で3ヶ月間劣化させた場合にも、破断強度や破断時の伸びは、初期の破断強度や破断時の伸びの1/2程度にしか低下せず、充分な耐久性を発揮しうることが確認できた。
【0018】
なお臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)の含有量が50重量部を下回ると、耐熱性か不足し充分な耐久性が確保できない。従って、臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)の含有量は、好ましくは70重量部以上、さらには80重量部以上が望ましい。又前記臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)以外のゴム成分としては、例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ニトリルゴム(NBR)などのジエン系ゴム、又はブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)などの非ジエン系ゴムが単独で或いは組み合わせて使用しうる。
【0019】
しかし前記BIMS系ゴム組成物の場合、従来的なディップ処理(接着剤処理)を施したコードに対して接着力が不充分となり、使用中にコードが早期に剥離してしまうなど、耐熱性による耐久性の向上が活かされないという新たな問題がある。なおディップ処理では、レゾルシンとホルムアルデヒドからなるレゾルシン−ホルムアルデヒド成分に、ゴムラテックスを混合した接着用ディップ液を用い、この接着用ディップ液中にコードを浸漬することにより該コードの周囲に接着層を形成している。そして従来においては、前記ゴムラテックスとして、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン三元共重合体ラテックスとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)系ラテックスとの混合ラテックスが使用されている。
【0020】
しかしこのような従来のディップ液では、そのラテックスのゴムと、前記臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)との化学構造が異なるため、ゴム間の親和性に劣る。従ってディップ処理したコードとBIMS系ゴム組成物とを加硫接着する場合、コード表面の接着層とBIMS系ゴム組成物との親和性が低く充分な接着力が得られない。
【0021】
そこで本例では、接着用ディッピング液として、前記レゾルシン−ホルムアルデヒド成分に、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CPE)から選択される極性ゴムのラテックスを混合させている。このように極性ゴムのラテックスを用いることで、接着層とBIMS系ゴム組成物との接着力が充分に高まり、コードを引き抜こうとした場合、周辺のゴムが破壊するなどゴム強度に勝る接着強度を確保することができる。従って、ゴムの耐熱性、及びゴムとコードとの接着性の双方が大幅に改善され、ゴム/繊維コード複合部材5の性能を長期に亘って維持しうるとともに、その耐久性を大幅に向上することができる。
【0022】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0023】
(実施例A)
ナイロンコード(1400dtex/2;ナイロン66)にディップ処理を施したディップコードを、40本/5cmの配列密度で配列する。そしてこのディップコードの配列体の一端側を、表1に示す実施例1の配合のゴム組成物からなる厚さ3mmの未加硫ゴムシートで挟み込み、しかる後、加圧加硫することで、ゴム中に各ディップコードの一端側が10mm埋入したテストサンプルA1を試作した。なおディップ液には、レゾルシン−ホルムアルデヒド成分にクロロプレンゴムラテックスを混合したものを使用した。
【0024】
(ア)そして、前記テストサンプルA1に対し、引張試験機を用いてコード引抜きテストを行い、ディップコード1本当たりの引抜き抗力(接着力)を測定した。測定の結果、コード10本の平均値は120Nであり、それぞれ周辺のゴムが破壊して引き抜かれているのが確認できた。
【0025】
(イ)次に、前記テストサンプルA1を160℃の環境下で168時間放置して熱劣化させた後、同様のコード引抜きテストを行った。熱劣化後も引抜き抗力は実質的に変化せず、周辺のゴムが破壊して引き抜かれているのが確認できた。
【0026】
(ウ)次に、ディップ液として、レゾルシン−ホルムアルデヒド成分に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン三元共重合体ラテックスとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)系ラテックスとの混合ラテックスを混合した従来のジエン系ゴム用のディップ液を用いた以外は、前記テストサンプルA1と実質的に同一としたテストサンプルA2を試作した。そしてこのテストサンプルA2に対して同様のコード引抜きテストを行った。測定の結果、コード10本の平均値は20Nであり、接着力が不足し、接着層との間でゴムが剥離しているのが確認できた。
【0027】
(実施例B)
(エ)表1に示す実施例2の配合のゴム組成物を用いた以外は前記テストサンプルA1と実質的に同一としたテストサンプルB1を試作するとともに、このテストサンプルB1に同様のコード引抜きテストを行った。測定の結果、コード10本の平均値は110Nであり、それぞれ周辺のゴムが破壊して引き抜かれているのが確認できた。
【0028】
(オ)次に、前記テストサンプルB1を160℃の環境下で168時間放置して熱劣化させた後、同様のコード引抜きテストを行った。熱劣化後も引抜き抗力は実質的に変化せず、周辺のゴムが破壊して引き抜かれているのが確認できた。
【0029】
(比較例C)
(カ)表1に示す比較例1のゴム組成物、及びビニルピリジン−スチレン−ブタジエン三元共重合体ラテックスとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)系ラテックスとの混合ラテックスを混合した従来のジエン系ゴム用のディップ液を用いた以外は、前記テストサンプルA1と実質的に同一としたテストサンプルC1を試作した。そしてこのテストサンプルC1に対して、同様のコード引抜きテストを行った。測定の結果、コード10本の平均値は200Nであり、テストサンプルA1、B1よりも高い接着力を示し、周辺のゴムが破壊して引き抜かれているのが確認できた。
【0030】
(キ)次に、前記テストサンプルC1を160℃の環境下で168時間放置して熱劣化させた後、同様のコード引抜きテストを行った。コード引抜き時、ゴムがぼろぼろに破壊し、引抜き抗力がほとんど測定できなかった。ゴムらしさは完全に失われている。
【0031】
(比較例D)
(ク)表1に示す比較例2の配合のゴム組成物を用いた以外は前記テストサンプルC1と実質的に同一としたテストサンプルD1を試作するとともに、このテストサンプルD1に同様のコード引抜きテストを行った。測定の結果、コード10本の平均値は210Nであり、それぞれ周辺のゴムが破壊して引き抜かれているのが確認できた。
【0032】
(ケ)次に、前記テストサンプルD1を160℃の環境下で168時間放置して熱劣化させた後、同様のコード引抜きテストを行った。コード引抜き時、ゴムがぼろぼろに破壊し、引抜き抗力がほとんど測定できなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
表1には、加硫した後の、初期のゴム物性(引張強さ、破断時伸び、ゴム硬度(デュロメータA硬さ))、及び160℃の環境下で168時間放置した熱劣化後のゴム物性(引張強さ、破断時伸び、ゴム硬度(デュロメータA硬さ))を記載している。なお「引張強さ」、及び「切断時伸び」は、JISK6251「加硫ゴムの引張試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定した値である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のゴムとコードの複合物の一実施例を示す斜視図である。
【図2】複合物を用いて形成した積層体の一例を示す断面図である。
【図3】積層体の他の例を示す断面図である。
【図4】積層体のさらに他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 複合物
2 補強コード
3 IMS系ゴム組成物
4 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維又は天然繊維を用いた補強コードを、臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)がゴム成分100重量部中に50重量部以上含まれるBIMS系ゴム組成物にて被覆したことを特徴とするゴムとコードの複合物。
【請求項2】
前記補強コードは、その周囲に、該補強コードを接着用ディッピング液に浸漬することにより形成される接着層を具えるとともに、前記接着用ディッピング液は、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CPE)から選択される極性ゴムのラテックスを含有することを特徴とする請求項1記載のゴムとコードの複合物。
【請求項3】
前記補強コードは、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ポリスチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、ポリ塩化ビニル繊維から選択される合成繊維、又は麻繊維、綿繊維から選択される天然繊維の一種又は2種以上を用いて形成されることを特徴とする請求項1又は2記載のゴムとコードの複合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−126918(P2009−126918A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301990(P2007−301990)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】