説明

ゴムと樹脂との複合材料の評価方法

【課題】 複合材料中の内部ゴム相及び内部樹脂相の応力−ひずみ特性を評価することを可能にしたゴムと樹脂との複合材料の評価方法を提供する。
【解決手段】 ゴム相の応力を表す関数と樹脂相の応力を表す関数とをゴム相及び樹脂相の体積比率に応じて加算することにより、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料の応力を示すモデル関数を構築する一方で、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる任意の試験片について応力に対するひずみの実測データを採取し、これら実測データをモデル関数に回帰させ、その回帰式に基づいて複合材料中の内部ゴム相及び内部樹脂相の応力−ひずみ特性をそれぞれ評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料の評価方法に関し、更に詳しくは、複合材料中の内部ゴム相及び内部樹脂相の応力−ひずみ特性を評価することを可能にしたゴムと樹脂との複合材料の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物に関する破壊特性や疲労特性の指標として、降伏ひずみや降伏応力が利用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。降伏ひずみや降伏応力を把握することは、樹脂組成物からなる成形品の疲労耐久性を予測したり、樹脂組成物からなる成形品を設計する上で有用である。
【0003】
一方、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料についても、その内部樹脂相の降伏挙動が重要であると考えられるが、この種の複合材料について降伏ひずみや降伏応力を求めることが行われていないのが現状である。これは、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料においては、樹脂単体の系ほど明確に降伏点が現れず、仮に降伏点が現れたとしても、それが内部樹脂相の降伏点と対応している保証はないからである。
【特許文献1】特開2000−43209号公報
【特許文献2】特開平11−50024号公報
【特許文献3】特開昭61−293235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、複合材料中の内部ゴム相及び内部樹脂相の応力−ひずみ特性を評価することを可能にしたゴムと樹脂との複合材料の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明のゴムと樹脂との複合材料の評価方法は、ゴム相の応力を表す関数と樹脂相の応力を表す関数とをゴム相及び樹脂相の体積比率に応じて加算することにより、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料の応力を示すモデル関数を構築する一方で、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる任意の試験片について応力に対するひずみの実測データを採取し、これら実測データを前記モデル関数に回帰させ、その回帰式に基づいて複合材料中の内部ゴム相及び内部樹脂相の応力−ひずみ特性をそれぞれ評価することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料の応力を示すモデル関数を力学的要素を用いて構築し、試験片から採取された実測データをモデル関数に回帰させる。これにより得られる回帰式は、複合材料中の内部ゴム相の応力を表す関数と複合材料中の内部樹脂相の応力を表す関数とを含んでいる。そのため、回帰式における内部ゴム相の応力を表す関数と内部樹脂相の応力を表す関数とを分けて考えることにより、複合材料中の内部ゴム相及び内部樹脂相の応力−ひずみ特性をそれぞれ評価することができる。
【0007】
本発明によれば、上記複合材料の評価方法で得られる応力−ひずみ特性を判断要因として、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる成形品の疲労耐久性を予測することを特徴とする成形品の疲労耐久性予測方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記複合材料の評価方法で得られる応力−ひずみ特性を設計要因として、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる成形品を設計することを特徴とする成形品の設計方法が提供される。
【0009】
更に、本発明によれば、上記複合材料の評価方法で得られる応力−ひずみ特性から特定される内部樹脂相の95%降伏ひずみεy95 が5%≦εy95 ≦50%の関係を満足することを特徴とするゴムと樹脂との複合材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
本発明において、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料の応力を示すモデル関数は、ゴム相の応力を表す関数と樹脂相の応力を表す関数とをゴム相及び樹脂相の体積比率に応じて加算することで構築することができる。
【0012】
ゴム相の応力σe を表す関数としては、例えば、下式(1)を用いることができる。この式(1)は、James-Guthの有限鎖の応力式である。
【0013】
【数1】

【0014】
樹脂相の応力σp を表す関数としては、例えば、下式(2)を用いることができる。この式(2)は、樹脂相の応力σp を Maxwell要素で記述したものである。
【0015】
【数2】

【0016】
式(1),(2)より、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料の応力σを表すモデル関数は、下式(3)のようになる。
【0017】
【数3】

【0018】
ここで、
ε:ひずみ(→伸張比λ=1 +ε)
ζ=dε/dt:ひずみ速度
k:Boltzmann 定数
T:絶対温度
ν:ゴム相の有効架橋密度
λm:ゴム相の極限伸張比(→極限伸びεm=λm−1)
-1(x):Langevin関数L(x)=cothx−1/xの逆関数
φ:ゴム相の体積比率(→樹脂相比率1−φ)
E:樹脂相のバネ要素の弾性率
η:樹脂相のダッシュポット要素の粘度
【0019】
一方、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる任意の試験片について応力に対するひずみの実測データを採取する。例えば、n個の実測データ(εi ,σi )(i=1,2,・・・n)が得られたものとする。この場合、n個の実測データ(εi ,σi )をモデル関数に回帰することを考える。つまり、実測データを(3)式のモデル関数に回帰して、これら実測データを最もよく表すように式(3)の各係数を決定することができれば、式(3)の右辺の第一項と第二項からそれぞれ「内部ゴム相の応力」と「内部樹脂相の応力」を求めることができる。
【0020】
式(1),(2)を式(3)の右辺に代入して書き直すと、最小二乗回帰のための式として下式(4)が得られる。但し、式中の計算において、ひずみεは%表示ではなく絶対値表示で用いられるものとする。
【0021】
【数4】

【0022】
ここで、実測データ(εi ,σi )を式(4)に最小二乗回帰させる。この場合、a1 ,a2 ,a3 ,a4 は未定係数パラメーターであり、a1 ,a3 は線形の最小二乗回帰で、a2 ,a4 は非線形の最小二乗回帰(Newton-Raphson法)でそれぞれ決定することができる。このように実測データ(εi ,σi )を最もよく表すように決定されたa1 ,a2 ,a3 ,a4 の値を用いて式(4)の右辺を計算すると、その計算結果は図1の「樹脂相+ゴム相応力」曲線(C)のように実測データ(+)と良く一致する。
【0023】
更に、ここで得られたa1 ,a2 ,a3 ,a4 の値から、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料を伸張した際、内部ゴム相が発現している応力φσe と内部樹脂相が発現している応力(1−φ)σp を計算することができる。つまり、これら応力φσe 及び応力(1−φ)σp はそれぞれ式(4)の第一項及び第二項に相当するため、この式(4)から下式(5),(6)が得られる。
【0024】
【数5】

【0025】
【数6】

【0026】
これらの計算結果が図1の「樹脂相応力」曲線(A)と「ゴム相応力」曲線(B)にそれぞれ対応する。つまり、「樹脂相+ゴム相応力」曲線(C)から派生する「樹脂相応力」曲線(A)及び「ゴム相応力」曲線(B)は、複合材料中の内部ゴム相の応力φσe と内部樹脂相の応力(1−φ)σp を表すものである。更に、内部樹脂相の応力が高ひずみ域の定常値の95%に達したときのひずみεとして、95%降伏ひずみεy95 を定義すると、この95%降伏ひずみεy95 は下式(7)で求めることができる。
【0027】
【数7】

【0028】
図2は図1の低ひずみ域拡大図であるが、内部樹脂相の95%降伏点は「△」にて図示されている。この95%降伏点の横軸ひずみ座標が95%降伏ひずみεy95 である。
【0029】
以上のように、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料に関する実測データ(εi ,σi )から、内部ゴム相が発現する応力φσe と、内部樹脂相が発現する応力(1−φ)σp と、内部樹脂相の95%降伏ひずみεy95 を評価することができる。
【0030】
ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料においては、材料の配合だけでなく、成形時の熱履歴や圧力履歴で内部樹脂相の物性が変化するので、複合材料中の内部樹脂相の応力−歪み特性を評価することは極めて有用である。ここで得られる応力−ひずみ特性を判断要因として、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる成形品の疲労耐久性を予測することが可能である。また、ここで得られる応力−ひずみ特性を設計要因として、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる成形品を設計することが可能である。更に、ここで得られる応力−ひずみ特性から特定される内部樹脂相の95%降伏ひずみεy95 が5%≦εy95 ≦50%の関係を満足する複合材料は疲労耐久性に優れた材料である。
【0031】
上述した実施形態では、ゴム相の応力σe を表す関数としてはJames-Guthの有限鎖の応力式を用い、樹脂相の応力σp を表す関数としては Maxwell要素で記述した式を用いているが、本発明では、樹脂相及びゴム相の挙動を適切に表現するものであれば他の理論式を採用することも可能である。
【実施例】
【0032】
ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料X,Y,Zからなる3種類の試験片について応力に対するひずみの実測データを採取した。この測定はJIS K6251に準じて行い、その測定温度は−20℃とした。そして、上式(1)〜(7)を用いて実測データの解析を行い、内部樹脂相の95%降伏ひずみεy95 (%)を求めた。
【0033】
一方、上記3種類の試験片について低温耐久試験を実施した。この低温耐久試験では、温度−20℃、印加ひずみ40%、周波数5Hzの条件で各試験片にひずみを与え、試験片全体の50%が破壊したときのひずみの印加回数(以下、破壊回数という)を計測した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、複合材料X,Y,Zについて、実測データの解析により得られた内部樹脂相の95%降伏ひずみεy95 と、低温耐久試験による破壊回数との間には相関性が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料のひずみと応力との関係を示すグラフである。
【図2】図1の低ひずみ域拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム相の応力を表す関数と樹脂相の応力を表す関数とをゴム相及び樹脂相の体積比率に応じて加算することにより、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料の応力を示すモデル関数を構築する一方で、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる任意の試験片について応力に対するひずみの実測データを採取し、これら実測データを前記モデル関数に回帰させ、その回帰式に基づいて複合材料中の内部ゴム相及び内部樹脂相の応力−ひずみ特性をそれぞれ評価することを特徴とするゴムと樹脂との複合材料の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料の評価方法で得られる応力−ひずみ特性を判断要因として、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる成形品の疲労耐久性を予測することを特徴とする成形品の疲労耐久性予測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の複合材料の評価方法で得られる応力−ひずみ特性を設計要因として、ゴム相と樹脂相とが混在する複合材料からなる成形品を設計することを特徴とする成形品の設計方法。
【請求項4】
請求項1に記載の複合材料の評価方法で得られる応力−ひずみ特性から特定される内部樹脂相の95%降伏ひずみεy95 が5%≦εy95 ≦50%の関係を満足することを特徴とするゴムと樹脂との複合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−250811(P2006−250811A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69659(P2005−69659)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】